今回の話もゴッゼル士爵観点の閑話となります。
話は魔物部屋から救出され、タケダ家からの支援策を受け始めた頃に遡ります。
「・・・・・・ラッシュ!」
ジークのスキル攻撃が決まり、ピッグホッグが煙に変わった。
対峙した三匹のモンスターを殲滅したので、あとはドロップアイテムを拾うのみ。
16階層の魔物部屋での悪夢のような体験から、数十日が経った。
どん底だった、あの日の状態から、私のパーティーは急速に立ち直りつつある。
3名の同僚を失い、代わりにジーク、ロータス、セレナがパーティーに加わった。
ジークとセレナは迷宮での経験が浅いので、まだまだ危なっかしいところがある。
だが、迷宮で命を落とした戦士のレオ、僧侶のマチスには申し訳ないが、二人は予想以上に活躍してくれている。
それは仕方ない。
レオとマチスが平民の出身だったのに対して、士爵家の子弟であるジークとセレナは貴族教育をしっかりと受けている。
貴族というのは、迷宮討伐を目標に置いているため、迷宮に挑む心構えが違う。
モンスターとの戦いで厳しい状況になっても、怯むことなく戦うように訓練を受けてきた。
これから迷宮での経験を積めば、更に頼りになる存在へと成長していくだろう。
亡くなったヤニクに代わり、同じ探索者ジョブのロータスが加わったが、槍の技量は少しだけロータスの方が上だろうか。
年齢も探索者のレベルも、二人は同じぐらいだったが、大きな違いは使っている武器にある。
タケダ家の支援を受け、ロータスは強権の鋼鉄槍を入手したようだ。
パーティーに詠唱中断のスキルを付与された武器を持つ者がいると、安全性が格段に高まる。
彼は落ち着いた槍捌きで幾度もスキルをキャンセルさせ、被害を未然に防いでくれている。
巫女のセレナには吸収の鋼鉄槍を持たせることができた。
我が家で収集したモンスターカードと交換にタケダ家から入手したものだ。
おかげで、妹はMP不足に陥ることなく、全体手当のスキルを頻繁に使うことができる。
迷宮での探索経験の浅い巫女は、普通は頻繁に全体手当のスキルを使えないが、今のセレナは立派にパーティーの戦力として活躍している。
あの愛らしく幼かった妹が、誇らしげに活躍する姿を見るのは、姉としても感無量の思いだ。
ジークの迷宮での経験はレオと大して変わらないが、前に出て積極的に攻撃に参加している。
盾で上手くモンスターの攻撃を防御し、右手に持ったエストックで攻撃する。
ダマスカス鋼製の片手剣の攻撃力は素晴らしく、攻撃スキルのラッシュを使うことで、爺ぃやドーガといったベテラン勢に並んで立派に前衛の役目を果たしている。
前衛の強化とスキル融合された二つの武器を所有するパーティーとなり、前よりも確実に迷宮探索が楽になったと実感した。
22階層の探索に着手したが、経験の浅い二人がいるにも関わらず順調に探索が進んでいる。
負傷も減り、回復も容易にできるようになったので、一日の迷宮探索での戦闘回数も増えた。
生活の糧となるドロップアイテムも増えたので、経済的に苦しい我が家としても助かっている。
他にも新しい住居に引っ越し、前よりも快適な生活を送れることになった。
セレナの付き人だったイネスが我が家に加わったことで、家のことは彼女に全て任せられる。
騎士団の仕事と迷宮探索に集中できる環境が整った。
ベイルに迷宮が出現して、まだ半年も経っていない。
なんとか二年以内を目安に迷宮討伐を成し遂げたい。
だが、油断は禁物だ。
あの16階層での惨劇を二度と繰り返したくないから。
次の相手は、ハットバット二匹に、ラブシュラブとピッグホッグが一匹ずつ。
「仕えし
爺ぃが『防御』のスキルを詠唱し始めた。
飛行型のハットバット、突進型のピッグホッグ、遠距離攻撃のラブシュラブとダメージを受け易い相手だ。
「ジーク、後ろに下がれ。私が前に出る」
「ラディア様、お気を付けて」
飛行型二匹なら、槍を持つ私の方が適任だ。
中央に爺ぃが立ち、右翼に私と同じ槍持ちのドーガ、左翼に私が配置についた。
急速に迫って来るハットバットに二人で槍を突き出して牽制する。
爺ぃは少し遅れて接近してきたピッグホッグの相手だ。
私の目の前で空中に浮かぶハットバットへ、槍の穂先で斬りつけた。
俊敏に舞うハットバットには二回に一回ぐらいしかダメージを与えられない。
だけど、今はそれで十分だと思っている。
戦線を維持させるのが目的だから。
渾身の突きがハットバットに当たり、大きく後ろへ後退させられた。
だが、前に進み過ぎると戦線が崩れるので、ここは我慢だ。
「ロータス、後ろに流すぞ。相手を頼む」
「了解」
ロータスとドーガの間で連携の事前確認が行なわれる。
ドーガは空中に浮かんだハットバットを器用に弾き飛ばして、後ろに受け渡した。
ロータスが飛んできたハットバットの相手をし始め、セレナが援護に入る。
地面まで落下させられればジークも参戦できるが、ロータスとセレナ次第だ。
再び接近してきたハットバットの相手に忙殺される。
槍を懸命に突き出し、辛抱強くハットバットにダメージを蓄積させる。
横では、爺ぃとドーガがピッグホッグの突進を防ごうと二対一で戦っている。
ドーガのラッシュが何度か繰り出せれば、そこが突破口になるはずだが。
(ヒュッーーーー)
「グッ・・・・・・」
「姫!」
肩口に突然痛みが走り、爺ぃから確認の声がかかった。
「ラブシュラブの枝を受けただけだ。大丈夫」
痛みを確認する前に、目の前のハットバットの対応に追われる。
後衛のセレナが全体手当の詠唱を始めたようだ。
このぐらいは平気なのに。
必死にハットバットを槍を突いていると、右肩の痛みが消えていった。
妹の治癒魔法が効果を表したのだろう。
「ドーガ、ラブシュラブの相手だ」
「了解。ジーク、俺の代りに入ってくれ」
「承知!」
爺ぃからドーガ、ドーガからジークに指示が飛んだ。
後方にいたラブシュラブが、ここまで辿り着いたのだろう。
ドーガは前に出て、ラブシュラブの相手をするようだ。
ピッグホッグなら爺ぃが攻撃を食い止めてる間にジークのスキルが使える。
ラブシュラブなら、ドーガも一対一で対応可能だ。
ドーガの抜けた後にジークが入り、爺ぃが対峙しているピッグホッグの側面からジークが攻撃を開始した。
そして、こちらも持久戦だ。
ハットバットが、なかなか討ち果たせない。
やがて爺ぃの前のピッグホッグが煙に変わった。
「姫、加勢しますぞ」
「私はこのままでいいから、ドーガの所へ!」
爺ぃは過保護だ。
セレナが頻繁に全体手当をかけてくれるから大丈夫なのに。
爺ぃとジークはドーガの支援のため、前方へと走っていった。
やがて、後方のハットバットを片づけたロータスとセレナが駆けつけ、三人の槍持ちで取り囲み、ハットバットをようやく煙に変えた。
前方を見ると、爺ぃ、ドーガ、ジークの三人もラブシュラブをちょうど倒したところだった。
なかなか面倒な相手だったが、なんとか殲滅できたな。
ドロップアイテムの板や豚バラ肉を拾い、ロータスに渡した。
「みんな、小休止だ」
「姫、お怪我は?」
心配性の爺ぃに手をヒラヒラと振って、大丈夫だと意思表示する。
爺ぃは、あの魔物部屋での惨劇以降、迷宮内で私のことをずっと『姫』と呼ぶようになってしまった。
それまでは、二人きりの時や取り乱した時だけだったのに。
新しいメンバーを加えた、我々の迷宮探索する際のパーティーメンバーの呼び名は基本的に呼び捨てにすると決めてある。
ドーガは、アイリス士爵家のジークやロータスを呼び捨てでちゃんと呼んでいる。
だが、爺ぃが私を『姫』や『姫様』と呼ぶため、ジークやロータスは私のことを『ラディア様』と呼ぶようになってしまった。
爺ぃにも困ったものだ。
ここ最近は豚バラ肉が頻繁に手に入るので、食卓が豊かになった。
イネスが美味しく調理してくれるので、とても助かっている。
食材系のアイテムはジーク達にも分けてるから、キャロルも調理してくれてるだろう。
板が手に入ったので、タケダ家に納品できるな。
モンスターカードがドロップしなかったのは残念だが、戦闘の数をこなせば、そのうち入手できるだろう。
しかし、22階層まで来たが、23階層に行くのはまだ先になりそうだ。
23階層からモンスターの強さがワンランク上がるが、23階層から増えるモンスターはハーフハーブだ。
無理して戦うメリットは薄い。
薬草採取士のジョブを持つイネスだが、経験が少ないせいか、ハーフハーブのドロップアイテムの麻黄を入手しても、生薬生成ができないから。
それでも、イネスが薬草採取士のジョブであることは意味がある。
14階層ではサラセニア、17階層ではフライトラップが多く出現する。
附子と遠志をドロップしてくれるので、イネスの生薬生成に使えるからだ。
巫女のセレナと吸精の鋼鉄槍のおかげで、滋養丸や強壮丸の利用頻度は減ったが、万が一に備えて常備しておきたい。
そして、2つ上の24階層からドライブドラゴンが出現する。
こちらはドロップアイテムやモンスターカードを考えると戦いたい相手だが、このパーティーで挑むのは時期尚早だ。
ジークやセレナに経験を積ませる意味でも、装備品の質を向上させる意味でも、今しばらく22階層での探索を継続させるしかないだろう。
モンスターカードをもっと納品して、次のスキル融合装備品を入手したい。
規定の枚数のモンスターカードを早く納めて、超過分のカードとの交換での入手となる。
まだまだ道程が遠いが、目標が明確なので計画は立てやすい。
次は攻撃力を高める武器が欲しいと思っている。
今、我が家のパーティーが抱える問題点は攻撃力不足だ。
魔法使いがいないので、物理攻撃での威力を高めるしかない。
そのためには攻撃スキルを使うか武器の威力を上げるの二つの選択肢しかないだろう。
我が家のパーティーは探索者と巫女を除けば、戦士と騎士のジョブを持つ者が二人ずつだ。
騎士のジョブを持つ爺ぃは、前衛の守りの要。
一方で攻撃の要となるのは、戦士のジョブを持つドーガだ。
騎士の防御のスキルで防御力を向上し、ラッシュのスキルでダメージを加え、モンスターを殲滅するのが我が家の基本的な戦術。
戦士はスキル攻撃で安定的なダメージを与えられるから、ドーガに強力な武器を持たせたい。
私とドーガが二人とも槍を使っているのも都合が良い。
ドーガにダマスカス鋼の槍を持たせて、いずれ攻撃力2倍のスキルを付与した激情の鋼鉄槍を入手したい。
そうすれば、私とドーガで使いまわしができるので攻撃力を向上させられるだろう。
ダマスカス鋼の槍なら、貯蓄すれば半年もかけずに調達可能なはず。
ジークは今、エストックを使っているので暫くは強化しなくても大丈夫だろう。
そもそもモラード家は別の家だし、キャロルがジークとロータスの強化策を講じている。
二人の防具は竜革製で揃えてあり、我が家の装備品より、ワンランク上だ。
きっとキャロルがタケダ家に支援を依頼したのだろう。
今のアイリス士爵の方が、ゴッゼル士爵よりも裕福な証拠だ。
我々も早く、あちらに追いつきたい。
それでも、今は同じパーティーで共闘しているのだから悪い事ではない。
ジークが成長して攻撃の軸の一つとなれば、23階層以降へ進む道が見えてくるはずだ。
「休憩は終了だ。先へ進もう」
「了解しました」
私の号令でジークが率先して歩き始めた。
先ほどは私が前に出たから、今度はジークが前衛を務める。
私と彼は交互に前衛をこなしている。
もちろん、飛行型モンスターが多い時は私で、陸上型の時は彼が戦う事も多い。
ジークの戦士としての経験年数では、まだ22階層は荷が重いこともあるから。
負担をかけ過ぎないように、徐々に慣らしていかなければならない。
「ラブシュラブが二匹とビッチバタフライが一匹。
ビッチバタフライと接敵したら、わしは前に出る。
ドーガ、ビッチバタフライは任せるぞ。
麻痺に気を付けよ。
ジーク、わしに付いてこい!」
「承知!」
ジークの元気な返事とは対照的に、右翼のドーガは無言で少し前に進み出た。
先にビッチバタフライの攻撃を受けるつもりだ。
ドーガが引き付けたら、爺ぃとジークが後方のラブシュラブまで詰めるのだろう。
爺ぃとドーガはなんだかんだ言っても、連携が上手くできている。
この二人が防御と攻撃の要だから、そうでなければ困る。
「爺ぃ、私も二人に続く。
防御のスキルは私が詠唱する。
ロータスはドーガを支援してくれ。
セレナは麻痺攻撃を受けないように、距離を取るように」
「分かりました」
後衛の二人が頷くのを確認して、私は左側に位置を変える。
ロータスも中央に入り、爺ぃとジークが前に出たら、ドーガの支援に入る構えだ。
「仕えし
これで多少なりとも、ダメージは軽減できるはず。
やがてビッチバタフライが近づいてきたので、ドーガがラッシュの攻撃スキルを放った。
鋭い槍の突きがビッチバタフライに突き刺さる。
二人が小走りで前に進みだしたので、私も後に続く。
ロータスも前に出て、ビッチバタフライに横槍を入れた。
爺ぃとジークは鋼鉄の盾を構え、枝の遠距離攻撃に備えながら慎重に走っている。
二人の陰に隠れながら、私も追随した。
ジークの対峙しているラブシュラブの側面に回り、槍で攻撃するタイミングを窺う。
彼は盾を高く掲げて、隙を窺いながらエストックを突き出した。
攻撃を受けながらもラブシュラブは枝の攻撃を振り回してきた。
ここだ・・・・・・枝が彼の盾を弾いた瞬間を槍に力を込めて突き出す。
二度、三度と続けざまに短く突いた。
ベイルの迷宮に入り始めた頃と比べれば、ジークは剣の扱いが上手くなったな。
レイピアからエストックに変更した当初は武器の重さの違いに戸惑っていた。
だが、エストックも盾も爺ぃが厳しく指導した甲斐があり、今は使いこなせている。
ラブシュラブぐらいなら、防御主体であれば十分任せられる。
前任のレオと比べて崩れる心配が少なく、安心してこちらは攻撃に専念できるため、彼の活躍を頼もしく感じる。
「ラディア様、遅くなりました。支援に入ります!」
後ろからロータスとドーガが追いついてきた。
ビッチバタフライは無事倒したようだな。
二人で挟撃したから、こちらよりも早く倒せたのだろう。
やはり、私の鋼鉄の槍は攻撃力不足だな。
ラブシュラブ一匹を三人ずつで取り囲んだ。
爺ぃとジークがモンスターの攻撃を受け、他の槍持ち二人が二組に分かれて攻撃を加える。
これで、後は時間の問題だ。
セレナは最後尾から、こちらに合流した。
この陣形だと、吸精の鋼鉄槍を使ってMP回復できて一石二鳥だ。
大して時間をかけることなく、二匹のラブシュラブを殲滅できた。
ドロップ品を拾いながら、ジークに声を掛けた。
「先ほどの盾の使い方は良かったぞ。
ダメージを上手く逃がせていたじゃないか」
「ありがとうございます。
セレナが回復魔法を使ってくれるので、安心して防御に専念できます」
回復魔法が無ければ、防御だけしていても、いずれはジリ貧になる。
ジークの言葉に、セレナも嬉しそうな表情だ。
「あとは防御しながら詠唱できるようになれば、もっとお役に立てると思うのですけど」
「訓練でできていないことを、実戦では使えない。焦らずやっていけ」
「はい。朝の訓練をもっと頑張るようにします」
防御をしながら、ラッシュの詠唱ができれば確かに戦力アップになるだろう。
爺に鍛えてもらいながら練習しているが、鍛錬をもう少し積む必要があると爺は言っていた。
まだ経験が浅いので、訓練でできるようになってから、実戦で使うべきだ。
無理に実戦で試すほど、戦闘で苦慮している訳ではないのだから。
真面目なジークなら、そのうちきっと習得できるだろう。
爺ぃが甘やかしてはダメだと言うので、本人には直接伝えないけど。
ジークは毒耐性のスキル付与した防具を装備している。
これもタケダ家から調達したようだ。
16階層の魔物部屋でグラスビーの毒攻撃を受けたことを考えると、ちょっと羨ましい装備だ。
少し前の下の階層では、グラスビー相手に防御に徹して活躍していた。
毒耐性のおかげで、毒を付与してくるグラスビーに怯むことなく、攻撃も防御もこなせる。
このような戦いはレオの時には無かったことだ。
彼は十分、戦力になっている。
「次に行こうか」
「ラディア様、次も僕に前衛をやらせて下さい」
ジークの言葉に頷いた。
爺ぃもジークの背後で無言で頷いている。
爺ぃはジークを自分の後継者にするつもりなのだろうか。
訓練時のジークへの厳しさに、ついそのような事を想像してしまう。
もちろん、妹のセレナの婚約者であることも、厳しく鍛えてる理由の一つだろう。
爺ぃは、もう五十半ばだ。
本当なら、もうとっくに迷宮探索から引退していてもおかしくない年齢。
セレナが成長して、一線で戦えるまで現役でいるのは難しいと思っている。
ジークとセレナ、二人の成長を待ちたいが、我が家にはそこまでの余裕はないだろう。
爺ぃが現役のうちに、なんとか迷宮討伐を達成して、ギルド神殿を得たい。
そうすれば、セレナを士爵にすることができる。
一代限りの士爵だが、士爵位を確保している間に、セレナとジークの世代でなんとか男爵位に昇爵したい。
未来の目標を考える度に、先日の魔物部屋での失態が思い浮かぶ。
迷宮で焦りは禁物・・・・・・それは分かっているのだが。
先日、爺ぃから言われた言葉が思い浮かんだ。
『姫様、タケダ家の当主との婚姻を考えられたらいかがでしょうか?』
正直、最初、何を言われているのか分からなかった。
やがて意味を理解して、頭に血が上ってしまった。
少し前に貴族の令息との婚姻の話が持ち掛けられたが断った。
爺ぃが男爵家の継承者の一人でありながら、ゴッゼル家に仕えてくれているのは感謝している。
それでも、爺ぃが持ってきた縁談は全く気が進まなかったのでキッパリと断ったのだ。
それから直ぐに、あの男との縁談など考えられぬ。
そもそも、あの男は私の好みのタイプではない。
私はもう少し華奢で貴公子のような男が好きなのだ。
ジークがもう少し先に生まれていれば、セレナではなく私の方が婚約したかったぐらいだし。
それはともかく、あの男は私の好みの対極にある。
種族も違うため、子を成すこともできない。
政略結婚とはいえ、あからさま過ぎだ。
いくら年齢的に適齢期を過ぎつつある私でも、我慢の限界を超えている。
タケダ家の財力の凄さや、武芸に秀でた部下を複数抱えていることに、爺ぃは魅力を感じているのだろう。
そして、タケダ家という家の力だけでなく、本人の武力も抜きんでている。
初めて、あの男に会ったのはベイルに盗賊のインテリジェンスカードを持ち込んできた時だ。
大柄な男で、二十数枚の盗賊のインテリジェンスカードを提出してきた。
その枚数も驚くことだが、その年齢が17才だった事に驚愕した。
こんな17才の人間など見たことがない。
鬼人族という稀少な種族だが、その底知れぬ力に背筋が寒くなる気持ちになった。
平静を装うのに苦労したことを今でもハッキリと覚えている。
強面の顔に反して、部下であるパーティーメンバーには優しい一面もありそうだが、それに騙されてはいけないと感じている。
そして、あの男には大きな野心がありそうだ。
きっと我が家のことよりも、タケダ家のことを優先するのは想像に難くない。
というか、それが力のある家の当主の本分であろう。
我が家への支援を申し出てはくれたが、タケダ家に利があっての取引だ。
タケダ家の利益が得られなくなったら、彼は容赦なく我が家を切り捨てるだろう。
それぐらいは、政治や交渉に疎い私でも容易に想像がつく。
正直、爺ぃが何故、あの男を薦めてくるのか私には分からない。
爺ぃは焦っているのだろうか。
マキシナント家は祖父の代で興隆を極めて男爵位を得たが、そこからは没落路線を辿っている。
父上が迷宮討伐や領地経営の才覚が無かったため、別の者に領地を譲り、士爵位に降爵した。
祖父の代に得たギルド神殿が私に託され、かろうじて私は士爵位を得た。
男爵位を私が得るのは、恐らく難しいだろう。
爺ぃが引退すれば、私の後ろ盾は無くなってしまう。
私ではなく、セレナに男爵位を得てほしいと思っている。
まずセレナと共に迷宮討伐を成し遂げ、ギルド神殿を得るのが目標だ。
アイリス士爵とキャロルも、ゴッゼル士爵の私より、ジークの婚約者であるセレナやその子供であれば、もっと支援する気になるだろう。
祖父の時代から父上の時代へ移り、寄子であったアイリス士爵家は我が家の配下から離脱した。
父の下では、迷宮討伐が難しいと判断したからだろう。
それから暫くして、父は降爵した。
私の父とジークの父であるアイリス士爵は関係を修復しないまま、アイリス士爵が病となった。
ジークを我が家に誘うため、一度お会いしたアイリス士爵は相当病状が悪そうだった。
今は、ジークの活躍に一族の命運を賭けているのだろう。
私もセレナの活躍に期待したいと思っているから、気持ちは分かる。
一代で男爵位を得た祖父は私の憧れだが、私に祖父ほどの才覚がないのは自覚している。
迷宮を討伐してセレナが士爵位を得た後、ジークと結婚すれば、きっと上手くいくはずだ。
父上はセレナに自爆玉を用意できかったが、セレナの子供には用意してやりたい。
そうすれば、セレナが引退するまでに魔法使いが加わり、複数の迷宮討伐を成し遂げて男爵位に返り咲けるかもしれない。
私はセレナが得た所領で、領地経営を手伝うくらいのことができれば本望だ。
僅かな望みかもしれぬが、今はそれだけが心の支え。
「次はハットバットが三匹、後方にラブシュラブらしきモンスターが見えます」
「分かった。私が前に出よう。ジークは下がってくれ」
今は迷宮に集中せねば。
我が家の再興のために、まずは一つずつ目の前のことを片づけなければならない。
お読みいただき、ありがとうございました。
今更ですが祖父を尊敬しているという点で、ゴッゼル士爵はエネドラと共通してますね。
しかも、既に二人とも故人。
私のストーリー作成の癖なのでしょうか。
ちなみに、ゴッゼル士爵よりもエネドラの方が一つだけ年下という衝撃の事実が。
ユキムラのハーレムメンバーに、自分と同じくらいの年齢の人間族の女性がいることを彼女は知る由もありませんが。
次は別キャラの閑話になると思いますが、編集に失敗したらメインストーリーの方を投稿するかもしれません。
次回投稿日は2026/9/16(水)の予定です。