異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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 いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

 今回の閑話もザビルの女士爵であるユリア視点となります。
 前話の続きです。

(登場人物紹介)※必要と感じた際に記載することにしています
ユリア  :後に士爵位を得て、ザビル騎士団では姉御と呼ばれるようになる
ブルーノ :グラフ家の嫡男でユリアの兄。迷宮討伐に失敗して死亡
ワグナー :商隊の護衛任務でユリアを雇用した店主
ノルマン :ワグナーの商隊のお抱え護衛。手練れの剣技を持つ


閑話018 ユリア(その2)

 翌日からザビルの街と伐採場を往復する日々が始まった。

 

 模擬戦をやったノルマンという男の他に、三人の護衛が加わるようだ。

 一人はジェラルドという男で寡黙なノルマンと比べて、おしゃべりで軽薄そうな男だった。

 他にも探索者のダニエルという男、僧侶のヘレンという女性が探索者ギルドの紹介で加わった。

 

 ジェラルドは暇があれば、ヘレンに話しかけて煙たがられている。

 ヘレンは私を見て何か言いたそうな雰囲気だったが、私が眉根を寄せた表情をすると、特に何も言ってくることはなかった。

 

 彼女には、私が女であることはバレているのだろう。

 他の者は特に他人に興味がないのか、何も言ってこなかった。

 ジェラルドが私にちょっかいをかけてこなかったのは意外だったが。

 

 ともかく、探索者のダニエルにパーティーを組んでもらい、五人で荷馬車の護衛をしながら、伐採場と街までの往復を淡々とこなしていった。

 

 護衛する五人の配置はいつも同じだ。

 荷馬車にはダニエルとヘレンが付き添って歩き、少し離れて先頭をジェラルド、後方にノルマンが歩き、私は山側に近い馬車の側面を歩く。

 

 歩きながら、今回の依頼には腑に落ちない点があることに気付いた。

 

 まず、運んでいる商品だ。

 荷馬車三台に木材を積んでいるが、こんな重いものを盗賊が欲しがって襲うものだろうか。

 

 仮に満載している木材を得たとして、売り先はザビルの街になる。

 奪った木材を、その商家の拠点のある街までわざわざ運んで売るだろうか。

 ここから木材の売れそうな他の街までの距離は遠過ぎて、そんなものを運搬して売っても大した儲けにはならないはずだから、ザビルで売るしかない。

 

 私は兄様に付いて、よく伐採場にも足を運んでいたから知っているが、木材を取り扱う業者達はお互い顔見知りで、そんな中に余所者が木材を売りに来たら、直ぐに怪しい者だとバレてしまう。

 

 盗賊が木材を奪うために襲撃なんてするものだろうか。

 

 二つ目のおかしい点は、護衛の多さだ。

 三台の馬車を護衛するのに、護衛が五人というのはそれほどおかしくはないかもしれない。

 だが、運搬する距離を考えれば、五人をずっと雇うのは多過ぎるのではないだろうか。

 

 しかも、そのうちの一人、ノルマンはかなりの手練れだ。

 私は兄様の他に、これほどの剣の使い手を見たことがない。

 店主であるワグナー氏が信頼を置いているようだから、商家お抱えの護衛なのだろうけど、ここまでの実力者が必要な護衛任務には思えない。

 

「そろそろ山道に入るから、よろしくなぁ~」

「はい。今、そちらに行きます」

 先頭を行くジェラルドが私に声をかけてきた。

 

 山道に入ると視界が悪くなるので、先導する人間を二人に増やす。

 彼の他に、山に慣れている私が加わることになっている。

 もっとも、私が山に慣れているといっても、この辺りの伐採場に行ったことがあったり、山歩きに少しだけ慣れているという程度だ。

 

 一方で探索者ギルド経由で来ている二人は山に全く慣れていない。私が選ばれたのは、そのためだけだと思う。

 周囲を警戒しながら、少しジェラルドと距離を置いて、山道を上がっていく。

 

 この山道で襲撃されることなんてあるのだろうか。

 初日こそ緊張して歩いていたが、今は鳥の声に和みながら歩いている。

 先頭を歩くジェラルドものんびりとしてるように見えた。

 

 上り坂を懸命に上がる馬を労りながら、山道をゆっくりと歩いていく。

 それなりに時間をかけながらも、無事に伐採した木材の集積場に辿り着いた。

 

 現地の作業員が荷馬車に木材を載せるので、少し時間がかかる。

 そして、ここから二人が別行動になる。

 

 周囲を警戒すると言って、ノルマンとジェラルドの二人は馬車から離れていく。

 残った私達三人は、荷馬車の警戒・・・・・・というよりは留守番に近い。

 伐採場には腕っぷしの強い木こりもいるし、森林組合から雇われている護衛達も複数人常駐している。

 

 ここを盗賊が襲撃するというのは考えにくいと思う。

 同じぐらい、我々の馬車が襲撃される可能性も低いと思うのだが。

 

 だが、護衛として雇われている以上は責務を果たすのみ。

 馬車から離れすぎない程度に森に入り込んで、周囲の警戒を行う。

 

 ここ数日、ここに来る度にやっていることだが、ほぼ徒労に終わると思っている。

 どちらかと言うと、護衛任務のためというより、子供の頃に来た兄様との山歩きを思い出すためだ。

 

 こうして、ザビルの山々を歩いていると、私がこれから何をすべきなのかを見つけるキッカケになるかもしれないと思っていた。

 だが、そんなに簡単にやりたいこと、やるべきことが見つかる訳がない。

 

 鳥の鳴く声に誘われて、木々を吹き抜けていく風が揺らす枝を見ながら、ゆっくりと緑に埋もれた地面を足音を立てないように歩いていく。

 

 ノルマンとジェラルドの二人も私と同じように、周囲を警戒しているのだろうか。

 二人の気配が感じられないか、立ち止まって耳を澄ましていると、動物の気配が感じられた。

 

 ゆっくりと視線を向けると、遠目に木々の梢の間から動くものが見えた。

 

 あれは・・・・・・獣ではなく、人間?

 呼吸を浅くして、音を立てずにゆっくりと、動く気配のする方向へと足を向けた。

 

 視線の先には、男が歩いている姿が見えた。

 やはり、人間にしか見えない。

 

 しかも、木こりの持つ斧などではなく、剣を佩いているように見えた。

 こんな所を独りで歩いているだけでも、かなり怪しい。

 

 谷を隔てて、かなり遠い所を歩いているので、簡単には近づけない。

 どこに向かっているのか、じっと見つめているだけだ。

 よく見ると、私が見つけた男の前に、もう二、三人の集団が歩いているようだ。

 

 あんな所に伐採場はないはずだ。

 谷には川が流れているが、川の向こう側では木を伐採するのには向かないと樵達から聞いたことがある。

 

 やはり、おかしい。

 だが、勝手な行動を取る訳にもいかない。

 あの怪しい集団がどこに向かっているのか、確認するだけに留めるしかないだろう。

 

 やがて、怪しい集団は森の木々に隠れ、完全に私の視界から消えた。

 とにかく馬車まで戻って、ノルマンに報告しよう。

 

 伐採場までの帰りは、急ぎ足で戻ることにした。

 

 馬車まで戻り、ダニエルとヘレンに確認したが、ノルマンもジェラルドも帰ってきてなかった。

 ジリジリとした気持ちで二人の帰りを待つことに。

 

 やがて、獣道すらない林の中をかき分けて二人が戻ってきた。

 

「ノルマン、報告がある。私は先ほど、谷の向こうを歩いている数人の男たちを見たんだ。

 先ほど、樵達に確認したが、谷の向こうに木を伐採しに行った者はいないそうだ」

「その者達がどのような格好をしていたか分かるか?」

 ノルマンは少し険しい表情だ。

 

 今まで冷静な表情しか見たことがなかったので、意外に感じる。

 

「全員が見えた訳ではないが、一人は斧ではなく剣を持っていたのは間違いない」

「剣だと?この山の中で?」

 私は無言で頷いた。

 

「そうだ。剣を腰に下げていた」

「どちらに向かっていたか分かるか?」

「ああ、姿が見えなくなるまでは見ていたから、およその歩いていた方向は分かる」

 彼は少し、思案しているようだ。

 

 やがて、ジェラルドの方に視線を向けると、二人は頷き合った。

 どういうことだ。

 

 ノルマンは私ではなく、ダニエルとヘレンに向かって話しかけた。

 

「悪いがダニエルとヘレンは、

 この後、木材を馬車に積みこんだら、いつも通り、ザビルに戻ってくれ。

 ユリウスとジェラルドは私と共に別行動を取る。

 私達が戻るまで、パーティーは解散しないでくれ」

「それは構いませんけど、護衛は私達二人だけですか?」

「そうだ。今まで通りなら、二人だけでも大丈夫だろう?

 二人は馬車に付き添って、ザビルに戻ってくれ」

 馬車の護衛から離れて、私達三人だけで別行動なのか?

 

 やはり、この護衛任務には別の目的があるようだな。

 

 ダニエルとヘレンは不安そうな表情を浮かべているが、ノルマンは話はこれで終わりとばかりに馬車から離れて歩き出した。

 

 ジェラルドが後に続いたので、私も慌てて追いかける。

 

「それで、この先の谷のどの辺りでそいつらを見かけたんだ?」

「ちょっと待って。私が先行するので」

 ノルマンは随分と焦っているようだ。

 

 彼を追い越し、不審な集団を見つけた場所まで急ぎ足で向かった。

 

「あの大きな石のある傍の林の先に消えていった」

「ふむ・・・・・・」

 

 ノルマンの背後に立ち、後ろから腕を伸ばして指先で彼の視線を誘導した。

 

「あの先に伐採場なんてないのは、作業員に確認してある。

 だから不審に思ったんだ」

「なるほど。しかも一人ではなく数人の集団だったのだな?」

「そうだ。剣を身に着けていた者も確かにいた」

 ノルマンは何か思案中だが、ジェラルドはニヤリと笑ったように見えた。

 

 この二人は目的があって、ここに来ていたのだな。

 

「あそこに行くまでの案内ができるか?」

「ああ。そこまでなら、近くまで行ったことが何回かある」

 兄様と山歩きしていた経験が、こんなところで生きるとは。

 

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 谷へ降り、川の浅瀬を渡って、不審な集団が消えた林の傍まで辿り着いた。

 

「この辺りには、人が踏み分けた跡がある」

「そうなのか、私にはよく分からないが」

 別に山育ちではないけど、これぐらいなら私でも分かる。

 

 ノルマンはともかく、ジェラルドも山にはそれほど慣れていないのか。

 

「連中の足取りを追えるか?」

「やってみないと分からない。だけど、数人が歩いてるからなんとか」

 跡が無くても、歩ける所は限られてるから、それを追えるはず。

 

 二人が頷いたので、私が先頭になり、歩き始めた。

 

「なるべく足音を立てないように注意して」

「むっ。分かった。ジェラルド、お前も気を付けろ」

「へい、へい」

 本当は声も抑えてほしいのだけど。

 

 追跡してみて分かったのだが、不審な集団は山歩きに慣れてないようだ。

 歩きやすい所を選んで、歩いているので非常に追跡しやすい。

 しかも何度も、この辺りを往復しているようで、草や土を踏みしめた跡がある。

 

 彼等が行きそうな所を想像しながら追跡していけば、それほど苦労せずに痕跡を探し出せた。

 

 こんな所で、こんな事を私がしているなんてな。

 ちょっと前までは想像がつかなかった。

 それが何だか楽しく感じる。

 

 この二人の目的はよく分からないが、街の商人に雇われてるのだから、悪事に加担している訳でないだろう。

 

 それに先ほどチラッとしか見えなかったが、悪事に加担しそうなのは追跡している集団のようにも感じられる。

 あまり小奇麗な格好をしてなかったから。

 あれは盗賊団か何かなのだろうか。

 

 それなりに歩き回ったが、根気よく追跡していると、目当てのものが見えてきたようだ。

 後ろの二人へ振り返り、目配せしながら、無言で目的のものを指差した。

 

 ノルマンは頷き、ジェラルドは笑みを浮かべている。

 やはり、これが彼等の目標だったのか。

 

 私の指し示した先には、少し開けた場所に粗末な建物が存在している。

 そして、建物の前には二人の男が暇そうに雑談に興じているようだ。

 あの二人は見張りか何かなのだろうか。

 

 二人とも粗末な身なりだが、皮製らしき鎧を着こみ、剣を帯びているのが見えた。

 見張りっぽい二人から見つからない林に身を隠し、ノルマンに話しかける。

 

「あの者達は盗賊か?ノルマン達はこれを探していたのか?」

「あれが、盗賊かどうか分からない。あの場に行って、本人に確認してみるしかないだろうな」

「確認?どうやって?」

「言葉の通り、本人に訊くだけだが?」

 彼は淡々と話しているが、目が非常に鋭くなっていた。

 

 今まで、沈着冷静だと思っていた男は、豪胆というか力ずくで物事を進める者だったのか。

 ジェラルドを見ると、特に慌てたような様子もなく、ノルマンの言葉に頷いていた。

 この二人、正気か?

 相手の戦力も分からないのに。

 

「ジェラルドは裏に回ってくれ。私は正面から行く。

 ユリウスはここに待機して、逃げる奴がいれば斬ってくれ」

「待て、ノルマン。本当に正面から行くのか?もう少し様子を見てから・・・・・・」

「陽が落ちれば、逃げられる可能性が増える。様子を見る暇などないよ。

 相手が盗賊なら即処断して問題なかろう。

 怖いなら何もしなくても構わないが、我々の邪魔だけはしないでくれ」

 そんな言い方って・・・・・・。

 

 私は今まで騎士になることを目指していた。

 騎士になれば、盗賊の討伐など日常茶飯事だ。

 だから、目の前にいる奴等が盗賊なら、彼の言うことが正しいのは理解できる。

 だけど、私は盗賊を・・・・・・人を殺したことがない。

 

 この護衛任務を引き受けた時でさえ、盗賊から護衛する本当の意味を理解していなかったのか。

 

「ジェラルド、行け。今から100を数える間に準備を整えろ。

 時間が経ったら、私はあの二人に話し掛ける」

「うぃっす」

 ジェラルドは短く声を発すると、林の中に消えていった。

 

「ユリウス、お前も覚悟を決めろ。

 これは護衛任務の範囲外の仕事とも言えるから、無理に参加しなくても構わない。

 だが、邪魔されては困るので、嫌ならここでジッとしていろ。

 ・・・・・・それで、お前はどうするのだ?」

「私も参加します・・・・・・」

 まだ躊躇う気持ちはあるが、盗賊なら討伐するしかない。

 

「そうか。では、見張りを頼むぞ。そろそろ時間だ。私は行ってくる」

 彼はこちらを振り向きもせず、静かに歩き始めた。

 

 暫くすると、ノルマンが見張りの二人と話をしているのが遠目に見えた。

 男の一人が怒声を上げ、いきなり剣で斬りかかってきた。

 

 後ろ姿でよく見えなかったが、ノルマンは一人を切り捨てたようだ。

 男は地面に倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった。

 

 もう一人の男は小屋のドアを開け、何かを叫んでいる。

 仲間が室内にいるのかも・・・・・・あっ、ジェラルドっぽい男が、その二人目に斬りかかり・・・・・・倒したようだ。

 

 見張りとはいえ、私はここにいるだけでいいのだろうか?

 ジェラルドとノルマンは小屋の中に踏み込んでいった。

 

 私は・・・・・・あっ、小屋の外に、もう一人、剣を持った者が小屋の方を見ている。

 見張りはもう一人いたのか?それとも遅れて小屋に戻ってきたのかもしれない。

 男は小屋から離れ、こちらの方に近づいてくる。

 逃走する気か。

 

 山に逃げても、山に慣れてなければ遭難するだけだ。

 ザビルの街に向かうのなら、こちらの方角に来るしかないのだろう。

 

 逃げ道は限られている。林に潜んで奇襲するか。

 急いで、獣道の傍の木々に身を隠す。

 あとは近づいてくるのを待つだけだ。

 

 息を潜めて、男が来るのをじりじりと待ち受ける。

 本当に私は盗賊を殺せるのだろうか。

 いや、それ以前に本当に盗賊なのだろうか。

 もし違っていたら・・・・・・ノルマンのように誰何した上で戦うべきなのか。

 

 考えがまとまらないまま、足音が近づいてきた。

 音から判断する限り、一人だけだ。

 

 そして、なるべく足音を立てないように急いで歩いているのが分かる。

 いったんやり過ごして、後ろからにするか。

 しゃがんで隠れた林の前を人が通り過ぎるのが分かった。

 

(ガザザッ・・・・・・)

 

 立ち上がろうとした拍子に、槍の石突がどこかの木に当たってしまった。

 驚いて振り返った男と目が合う。

 

「止まれ!こちらは騎士団の者だ。

 盗賊団を捜索中なので、あちらに行き、インテリジェンスカードのチェックを受けてもらうぞ」

「騎士団だと?」

 こちらの出まかせに、男は少し慌てたように見える。

 

「聞こえなかったのか?こちらは・・・・・・」

「うるせぇ、小僧が!」

 男は右手に持った剣で斬りかかってきた。

 

 素人臭い剣の扱いに、足下も覚束ない体の使い方だ。

 剣を弾き飛ばして拘束するか。

 

 男の左手を槍の穂先で打ち据え、右手の剣を弾き飛ばそうと、突きを入れた。

 その時、男がバランスを崩して体を捻るのが見えたが・・・・・・槍先が、そのまま、男の喉に吸い込まれて・・・・・・突き刺さった。肉を抉る嫌な感触がした。

 

「グウゥ・・・・・・」

 

 くぐもった声を出した男が目を見開いて、私を凄い形相で睨みつけ・・・・・・横倒しになった。

 

「抵抗するな!こちらは・・・・・・」

 

 駆け寄って男を拘束しようとしたが、男は暫く痙攣した後、事切れた。

 なんとあっけない。盗賊の死とは、こんなものなのか。

 だが、先ほど盗賊の喉を抉った槍の感触が、手に残っていて気持ち悪い。

 右手を見ても、震えているのが自分でも分かる。

 

 これが人を殺すということなのか。

 動かぬ躯となった男が仰向けで倒れ、虚空を見上げているのが目に映った。

 既に命はなく、生気はないはずなのに、目が何かを睨みつけてるように思える。

 それは私なのだろうか。

 そして、喉を染めている大量の鮮血と、地面にできた血溜まり。

 

 背筋が寒くなってきた。

 だが、殺さなければ私が殺される可能性だってあったのだ。

 そもそも騎士団に入れば・・・・・・。

 

「おい、ユリウス。そっちはどうだ?」

「ジェラルド・・・・・・」

 飄々としたジェラルドと、その背後にノルマンもいた。

 

 いつの間にか、二人が私の傍まで来ていた。

 小屋の方は終わったのだろうか。

 

「一人逃げてきた。そこで死んでいるけど・・・・・・」

「そうか、一人仕留めたのか。ご苦労さん。こっちも全て片付いたぜ」

 ジェラルドはいつになく軽い口調で、陽気ですらある。

 

 多分、何人も盗賊を殺した直後なのに、何故、こんなに能天気なのだろうか。

 ノルマンは静かに私に剣を差し出してきた・・・・・・これはいったい?

 

「槍だと斬りにくいだろう?これを使え」

「・・・・・・」

 そうか、インテリジェンスカードの回収か。

 

 兄様から盗賊を討伐した後には、左手を切り離して回収するのだと聞いた気がする。

 直ぐにインテリジェンスカードが出てこないので、腕を切り離して持ち帰ることがあるのだと。

 

 彼の剣を受け取り、盗賊の死体に近づいた。

 本当に盗賊だったのだろうか。いや、今更考えても仕方ない。

 

 倒れた男の横に立ち、左手に剣先を据えて、一気に地面に突き刺した。

 左手を抉る感触と地面にめり込む剣先の感覚が気持ち悪い。

 

 何度も突き刺して、断面がボロボロになりながらも、なんとか左腕を切り離した。

 ジェラルドが布袋を出してきたので、その中に放り込む。

 

 ノルマンに剣を返そうとしたが・・・・・・もう限界だった。

 急いで林の中に入り込んで、胃の中のモノを全て吐き出した。最悪だ。最悪の気分。

 

 這う這うの体で戻り、その後、更に盗賊達の塒(ねぐら)になっていた小屋に案内された。

 小屋の外に二人、小屋の中には三人の殺された盗賊の死体があった。

 

 一人はかなり抵抗したのか、体に幾つもの裂傷があり、凄まじい形相で死んでいた。

 殺された盗賊達の顔を全て確認したのだが、私が一番初めに盗賊達を発見した際にいた男が、死体に含まれていないことに気付いた。

 確か、髭面で剣を帯びていた大柄な男がいたはずだが、ここにはいない。

 

「私が目撃した盗賊の一人はここにいないようだ」

「何?それは先ほど、お前が槍で仕留めた男とも別人なのか?」

「別人だと思う。

 遠くから見たので、絶対に違うとまでは言えないが、

 先ほどの男でも、ここで死んでる盗賊達の中にもいないと思う」

 私の言葉にノルマンは目を閉じて、何かを考え始めた。

 

 私は、また気持ち悪くなり、林に駆け込むことに。

 この二人は、これだけ死体が転がってる場所に、なんで平気でいられるのだろうか。

 手練れの護衛ともなると、もう感覚が麻痺しているのではないのか。

 

 何とか気力を振り絞って、よろよろしながら小屋に戻ると、ノルマンに今からザビルに真っすぐ帰るのだと告げられた。

 確かに、ここにずっと居続けても仕方ないかもしれない。

 もうすぐ、陽が落ちて暗くなるから、その前にザビルの街に戻りたい。

 

 本当なら、この盗賊達がなんなのか聞き出したいところだが、こちらも気持ち悪くて、そんな余裕は微塵もなかった。

 来た時とは逆に、足早に戻ろうとする二人に付いていくのがやっとだ。

 

 :

 :

 :

 

 その後の事は、あまりハッキリと覚えていない。

 

 ふらふらになりながらザビルの街に戻り、雇い主の所に顔を出すのは明日の午後で構わない、とノルマンに言われたことだけは覚えている。

 街門に入ると、二人と別れて自宅へと戻った。

 

 戻って暫くすると、パーティー効果が消えたのが分かった。

 ノルマン達がワグナー氏の商店でダニエルとヘレン達と合流したのだろう。

 そこでパーティーは解散したはずだ。

 

 夕食を食べる気力が湧かず、自室に戻ってベッドに横になった。

 殺した盗賊の感触がまだ手に残っている。

 そして、あの死に顔、左手を切り離した感触や地面を染めた血の色。

 脳裏に焼き付いた今日の出来事が、悪夢のように何度も甦ってくる。

 

 こんなことを騎士団では何度も繰り返すのか?

 兄様は盗賊を討伐しながら、迷宮にも挑み・・・・・・そして帰ってこなかった。

 

『覚悟の決まらぬまま迷宮に挑めば、命を失うことだってあり得るのだぞ』

 

 父様の言葉が不意に浮かんできた。

 

 覚悟・・・・・・そう、覚悟だ。私は今日、覚悟のないまま盗賊を殺した。

 初めは捕えようとしたのだが、偶然が重なって、盗賊を討伐しただけだ。

 今回は実力でも討伐できたかもしれない。でも、それはたまたまだ。

 私があの場で生き残ったのは、偶然に他ならない。

 

 相手がノルマンのような手練れの盗賊だったら、地面に血だまりを作っていたのは私だったのかもしれない。

 兄様ですら命を落とす騎士団に入るなど、私には無理なのではないだろうか。

 

 能力、覚悟、そして運・・・・・・全てを兼ね備えていなければ、騎士団で生きていくことなどできないのでは・・・・・・。




お読みいただき、ありがとうございました。
二話構成にするつもりが、三話構成になりました。

次もユリアの閑話になります。
次回投稿日は2026/9/23(水)の予定です。
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