エステル男爵の城で、エーギルの別れの宴に参加した後、何事もなく日々が流れていった。
各地の迷宮に派遣しているパーティーも順調に迷宮探索を進めている。
次の迷宮討伐に近づいてるヘルミーネ率いるアキシマ迷宮探索組は、淡々と階層を上げている。
前衛を剣聖のモニカ、百獣王のマリー、刺客のミラが務める。
後衛は魔道士のトカラと斎王のラファ、探索者でリーダーのヘルミーネが固める。
ラファは、既にボーデの迷宮討伐を魔道士ジョブで達成している経験者だ。
今まで通り、迷宮討伐見学会で俺も出張するが、恐らく問題なく討伐できると思っている。
その次に迷宮討伐の可能性があるのは、フリュウ村の迷宮か新しくザビルのファビオ士爵から引き受ける迷宮のどちからになるだろう。
迷宮討伐の前に、ファビオ士爵とはギルド神殿とモンスターカード500枚との取引がある。
本当に20日程度で500枚ものカードを集められのものなのか?お手並み拝見させてもらう。
ギルド神殿の取引が無事に終わったら、次はファビオ士爵が指定する迷宮を討伐するかの判断を迫られる。
大量のモンスターカードを得られたり、タケダ家に利のある取引なら、引き受けても構わないと思っている。
その時は、新しく迷宮討伐パーティーのメンバーを選定することになる。迷宮討伐経験がなく、実力がある程度備わった者達をふるいにかけることになるはずだ。
それはそれで、どんなパーティーになるか楽しみなのだが、諸々の取引を片づけてからだよな。
フリュウ村にできた迷宮の方は、シーナを中心にエルフ組が頑張っているようだ。
一般木材と高級木材であるタルエムを、ザビル拠点に運搬しながら、迷宮探索も並行して進めてくれている。
ちょっと頑張り過ぎな気もするのだが、エルフ組が一丸となってるので、止めにくい状況だ。
未成年者も半分ぐらいいるので、どこかでブレーキをかけたほうが良いのかもしれない。
リオンとヴェロニカが上手く、セーブしてくれるのに期待したい。
その他のパーティーも討伐こそは目標を掲げてないものの、ザビル第一、クーラタル迷宮の高階層を定期的に巡回して、修練を積んでいる。
メインパーティーである俺の迷宮組もクーラタルの64階層をひたすら周回して、ダマスカス鋼を収集しているのだが、ヴィルマやイレーネ達、前衛組が少し飽きを感じてるようだった。
そんなこともあって、今日から迷宮組は68階層の攻略に着手することにする。
・・・・・・
迷宮組は、クーラタル迷宮の68階層のボス部屋に一番近い小部屋に集合した。
91階層まで探索が進んでいるクーラタル迷宮では、貴族から委任された者は迷宮入口の騎士団員に依頼すると、ボス部屋に一番近い小部屋にダンジョンウォークで案内してもらえる。
今回も、その特典を生かし、最短での階層走破をしたいと思っている。
とはいえ、俺達のパーティーはまるまる一日を探索には費やせない。
午前中は俺がグラ爺に剣技の訓練を受けてることもあり、午後限定でしか探索できないからだ。
それでも、久々の新しい階層で戦えるとあって、前衛組の機嫌はすこぶる良さそうだ。
久々の新規の階層なので、まずはブリーフィングから。
「クーラタル68階層の新規モンスターはカナリアカメリアだ。カメリアオイルをドロップする。
アミルの調査によると、ボスモンスターはアルガンノキという植物型のモンスターだ。
ドロップ品はアルガンオイルらしい。
この階層はカナリアカメリア、コボルトイェーガー、ランドドラゴン、ファイヤーバード
の順に多く出現する。
移動速度がバラバラなので、各個撃破ができるだろう。
カナリアカメリアが一段階強いモンスターだから、初めは慎重に戦ってくれ。
アミルの方から何か補足はあるか?」
「いえ、大丈夫です」
アルガンオイルって、カメリアオイルよりも高級なオイルなのかね。
秘密基地での活動が捗りそうな予感が・・・・・・アミルがジト目で見ているから、止めておこうか。
「じゃあ、出発するぞ」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
前衛陣の気合が、いつもの3割増しぐらいだ。
迷宮組にはヴィルマ、イレーネ、オリビア、カーラと前衛陣が四人もいる。
俺も一応は前衛なのだが、最近は中衛もしくは後衛で待機していることも多い。
一番後から加入したカーラはすっかり、前衛組に馴染んでいる。
剣聖のジョブのレベルも80台に達し、動きがキレキレになり、手の付けられない避けタンクと化した。
彼女は才能があって、努力を怠らない怪物だからなぁ。
もう、オーバーホエルミング無しでは、剣を掠らせることもできなくなった。
前から掠らせてもくれなかったけど、今はなんというか絶望的な差を感じるんだよなぁ。
それでも、午前中の努力は怠らないけどさ。
今も、この階層では滅多に出現しないファイヤーバードの攻撃をひたすら回避して、相手を翻弄&幻惑させている。
いや、ファイヤーバードの表情なんて、俺にも分からないのだけどね。
カナリアカメリアやコボルトイェーガーは他の三人がひたすら攻撃を加え、俺とアミルの出番は全くない状況。
67階層以降はワンランク強くなるとはいえ、コボルトイェーガーは左程強くはないので、この階層ではタフさが増したカナリアカメリアが前衛陣には人気なのだ。
ただ、カナリアカメリアはタフだけど動きは遅いので、バチバチ戦えずに少し不満を感じてるのが見て取れる。
最大で7匹のモンスターが出現しても、7割がたはカナリアカメリアとコボルトイェーガーだからなぁ。
たまに出現するランドドランゴンとファイヤーバードがスパイスになっているぐらいだろうか。
これは、68階層も、暫くすると飽きてきてしまうかもしれない。
69階層はクモ系のモンスターだから、そちらに早々に移動した方が良いかも。
だけど、この階層のボスドロップであるアルガンオイルが気になるのだよなぁ。
「ご主人様、難しい顔をしてますが、何か懸念点でも?」
「いや。アミル、大丈夫だ」
懸念点などは特にない。ボスのドロップアイテムが気になっているだけだ。
・・・・・・
68階層の探索を開始して4日目、今までにない異変を感じることになった。
いや、厳密には昨日の午後にも感じていたことなのだが、今日になってハッキリとしただけ。
レベルが上がらない・・・・・・何故?
俺のジョブは67階層で軒並みレベルキャップに引っ掛かって、Lv97でしばらく停滞していた。
68階層になって、階層+30のレベルキャップルールなら、Lv98まで上がるはずだ。
一日のうちの午後半日しか探索してないとはいえ、四日目の終わりになってもLv97のままだ。
もちろん、俺だけでなく、ヴィルマ、イレーネ、オリビア、アミルのレベルもLv97のまま。
戦闘で経験値が入ってない訳ではない。
その証拠にカーラの剣聖はレベルが、しっかりと上がってるのだから。
小荷駄隊や輜重隊に入れている後方支援メンバーのジョブのレベルも上がってる。
Lv98とLv97にどれほどの差があるのかという話は置いておくが。
今まで、レベルが上がってたのに、この階層に来てから上がらないというのは非常に不気味だ。
「ご主人様、難しい顔をしてますが、何か懸念点でも?」
「そうだな。少しだけ気になることがある」
68階層のボスドロップが気になってる訳ではない。
「この階層に来てからレベルが上がらないんだ。
例えば俺やアミルの探索者のレベルがLv97のままなのだ。
この階層に来たら、Lv98に上がると思っていたのだけど」
「探索者のLv97なんて、他で聞いた事もないですよ。
Lv98と97でそれほど違うものなのでしょうか?」
「・・・・・・」
いや、アミル、それはそうなのだけど、そうじゃないのだよ。
確かにLv98とLv97では、アイテムボックスの差は195個しか差はないのだけど。
今まで上がっていたレベルが上がらないのが気持ち悪いんだ。うーん、もう少し様子を見るか。
今、何か解決策がある訳じゃないし、特別困っている訳でもない。
ボスモンスターを倒すと、レベルキャップが解放されるなんてあるだろうか?
とにかく、68階層を突破して、アルガンオイルをゲット・・・・・・じゃない、事実確認をするか。
気になる点はいったん横に置き、目の前のモンスター達へと対峙する。
と言っても、出番は少なくて見てることが多いのだけど。
その日の探索は問題なく、午後の探索は終了となった。
自宅に戻ると、エネドラが近づいてきて、俺に手紙が来てることを伝えてきた。
手渡された分厚い目録・・・・・・もとい手紙を見ると、明らかに貴族からのものだ。
最近、このパターンが多いな。
彼女に礼を言い、自室へと戻った。
着替えて、一息つき、手紙を恐る恐る開封した・・・・・・ファビオ士爵からか。
それにしても、モンスターカード500枚の引き渡しは、20日必要だと連絡があったはずだ。
まだ、連絡があってから10日ぐらいしか経ってないぞ。
まさか、10日で500枚を確保できたのか?
それだと1日平均で50枚。さすがに無理だと思うが。
手紙の中身を確認すると『取引のことで相談したいので、至急会いたい』としか記載がなく、詳細は不明。
うーん、なんだろう。やっぱりに無理だから、泣きを入れてきたってあるのか?
でもエミリオ士爵は、ファビオ士爵の実力を高く評価していたよなぁ。うーん、分からん。
まあ、行って確認するしかないのか。
・・・・・・
翌日、午前中の訓練の時間を一部削ることにして、指定されたザビル士爵の館へと赴いた。
騎士団詰所で用件を伝え、待合室で暫く待たされた後、案内された先の会議室にはファビオ士爵とエミリオ士爵の姿があった。
この二人、案外仲が良いのかね。
席を勧められ、挨拶が済むと、ファビオ士爵が本題を切り出してきた。
「タケダ殿、忙しいところ申し訳ありません。本日は例のギルド神殿の取引での相談となります。
手元のカードがそれなりに集まったので、契約書の大筋を決めておきたいのです」
「なるほど。大筋と言いますと、具体的には?」
集まったって、本当に500枚集めたのか?だとしたら、とんでもない力だ。
「今、手元に200枚を超えるカードがあり、残りの300枚も順調に集まりつつある状況です。
200枚を手付として、ギルド神殿を譲っていただき、残りの300枚を後日納品します。
300枚分が納品できなかった際の担保は別に用意する予定です」
「担保ですか。具体的には?」
何を担保にするのかによるよな。
ファビオ士爵はニヤリとした気がする。なんだ?
「具体的な担保の話をする前に、タケダ殿に確認したいことがあります」
「何を確認したいのでしょうか?」
いったい、どういう流れなのだ。そして、エミリオ士爵も笑いを噛み殺している気がする。
「タケダ殿はモンスターカード500枚の価値を、どのように考えておりますでしょうか?」
「おっしゃってる意味が分かりませんが・・・・・・」
500枚のモンスターカードはタケダ家の力をもってしても集めるのは大変だ。
だが、そういう回答を望んでいるのではないだろうな。
「商人として感じるままに、答えていただいて構わないのですが」
「そうですね。では、感じるままにお答えさせていただきます。
ご存じかと思いますが、モンスターカードというのは、
それ単独では何の意味もありません。
スキル融合して、武器や防具にスキルが付与されて初めて意味を成します。
仮に500枚のカードがあり、その半分がコボルトだとして250枚。
スキル融合はご存じの通り、成功確率は低いので、
500枚のモンスターカードがあっても、実際は25回ぐらいしか成功しません。
つまり、スキル融合装備品25個の一部の価値ということになります。
一部というのは、鍛冶素材のコストが含まれていないからです」
ファビオ士爵もエミリオ士爵も笑みを消して、聞き入っている。
「通常は武器なり、防具なりに融合するにしても、その武器に必要な鍛冶素材が必要となります。
どの程度価値のある素材を使うかに依りますが、
実際のところ、モンスターカード500枚というのは、
スキル融合装備品10個から15個ぐらいの価値ではないでしょうか?」
俺には鑑定スキルがあるから、実際には、その10倍の価値のものを手に入れられるけどね。
「ふふふ。やはりタケダ殿はおもしろい。
商人のジョブを持たない者が、そこまでハッキリと数値で語るのは稀有なことだと思います」
あっ、しまった。カルクのスキルを持たない人間が、すらすらと机上計算した数値をペラペラしゃべるのって違和感があるのか。
向こうの世界だと、義務教育で子供の頃から四則演算や暗算なんて普通にできて当たり前だったから、忘れていたわ。
でも、このぐらいの計算って、商売をそれなりにやった者ならスラスラ出てきても、おかしくない気がするけど。
「リカルドは騎士団長にもかかわらず、
そのような高所に立った観点での考え方ができないのですよ。
タケダ殿の方が騎士団長に向いてるのではないでしょうか?」
「お戯れを」
こんな取引の場で、自分達の騎士団長をディスるのは止めて下さいよ。返事に窮するからさ。
「まあ、ザビルでは、過去に迷宮討伐に失敗して、
手痛い目に遭ったことがあるので、それが今も響いているのだと思いますけど」
「左様ですか」
どこの貴族であっても、迷宮討伐に失敗するのなんてザラなのかね。
原作では、セルマー伯が降爵の危機に瀕していた訳だからな。
そんなことよりも、同じ境遇に近いファビオ士爵が全然余裕に見えるのは何故なのだろうか。
士爵は所詮、一代限りだから、簡単に割り切れるのかな。
領地持ちの伯爵なんかだと、簡単に地位を捨てる訳にもいかないのかもしれない。
せっかくだから、この話の流れで、こちらも情報を引っ張りだすか。
「逆に、こちらから、お伺いしても、よろしいでしょうか?
先ほどスキル融合装備品10個から15個ぐらいと申し上げました。
それは、どの程度の爵位の貴族様が所有する戦力に適用されるものでしょうか?」
「タケダ殿は面白いです。
モンスターカード500枚から、騎士団の戦力を割りだそうということでしょうか?
ですが、残念ながら、それには回答できません。
教えないのではなく、私には分からないのです。
その観点で回答できるのは、ガルシアやエミリオの得意とするところですね。
エミリオはどう思う?」
「そうですね。なかなか一概には言えないとは思います。
10から15個のスキル融合装備品の内訳にも依りますからね。
一人に武器一つ、防具数個を配布するとしたら、主力の2、3パーティー分になるでしょうか。
子爵レベルの騎士団なら、それ相当の戦力アップにはなるでしょう」
うっ、そのままザビル子爵に流せと言ってる訳じゃないよね?
対価がなければ無理だから。
それはともかく、エミリオ士爵の回答は、予想通りだったな。精鋭のパーティー2つか3つのメンバー分か。
ただ、タケダ家だと一つの装備品に複数のスキルを融合するし、4つのスキルを融合した装備品なんて標準装備品扱いなのだよなぁ。
250回のスキル融合だと、4つの複数スキルを融合した60個強の装備品分くらいだから、10人ぐらいの装備品にスキル融合ができることに、計算上はなる。
空きスロット4つの装備品を用意するのは、かなり面倒なのだけど。
ダマスカス鋼製なら、空きスロット4つの装備品を見つけるのは、約100分の1の確率になるのだから。
100本の剣に対して、1つしかない。見つけるのは、結構大変だ。
原作だって、空きスロットが4つや5つの武器は、そんなにひょいひょい出てきてないしな。
こちらは、規模値の高い拠点を用意した上で拠点構築のスキルで、アミルを拠点リーダーにしてバフをかけてから、大量に装備品を生成して、なんとか用意してるんだ。
カード集めも大変だけど、鍛冶師三人衆の努力も並大抵ではない。
「タケダ殿?そろそろ話を戻しましょうか」
「あ、はい。そうですね」
今日の目的を果たさなければ。
「では、本題に入りましょう。
例えば、竜人族や魔法使いの奴隷を担保とするのはどうでしょうか?」
「奴隷ですか?」
どうなのだろうな。
モンスターカード300枚の平均落札額を5000ナールとしたら、150万ナールか。
竜騎士と魔法使いの奴隷を合わせて二人くらいなら、妥当な金額だろうか。
だけど、今までトカラ以外に、そんなに高額な奴隷を購入してない気もするけど。
オリビアはスキル融合装備品との交換だったし、魔法使いなんかは、様々なイベント関連で我が家に流れ着いた者がほとんどなのだよなぁ。
ぶっちゃ、それよりはモンスターカードの方が欲しい。
「竜人族や魔法使いの奴隷ですが、当たり外れがありますからどうでしょうか」
「ふむ。では、三、四人であれば、外れが一人、二人いても問題ないでしょうか?」
四人なら、半分外れでも大丈夫か。
まあ、外れと言うが、戦闘がダメでも他に才能があるケースもあるだろう。ゼノやゼナ達のケースもある。
「四人ぐらいであれば・・・・・・あとは事前に面談が可能かどうかも気になります」
「さすがにタケダ殿は人材面では、厳しく査定するのでしょうね?」
俺には鑑定スキルがあるからね。
ただ、鑑定では、ジョブとレベル、名前、性別、年齢ぐらいしか分からない。
協調性や剣技などは自己申告に加えて、面談で把握するしかないからなぁ。
面談で分かることだって、限界があるから、模擬戦をやったりもするし。
「では、日を改めて、その候補となる奴隷との面談日を設けましょうか。
その日までに契約書を用意しておきます。
こちらは、現在集めたモンスターカードの一覧となります。
タケダ殿の方で問題ないか確認していただけますでしょうか?」
「拝見させていただきます」
ファビオ士爵が差し出してきた書類を受け取った。
確認すると・・・・・・それほど、おかしなモンスターカードはないな。
さすがに竜のカードは少ないが、コボルトは100枚以上あるし、外れカードはほとんどない。
「この一覧から、自由に選んで良いのでしょうか?」
「さすがに自由にとはいきません。
そちらに記載されているカードの種類毎の査定額に枚数を乗算して、
合計金額が200万ナールになる分だけまでで、お願いします」
そりゃ、そうだよな。相手は豪商ジョブの商人だから一筋縄ではいかないな。
「分かりました。
次回の契約までに精査して、合計200万ナールになるように選択して、お持ちいたします」
「では、よろしくお願いいたします」
我が家のモンスターカードの在庫と突き合わせよう。
アミルとも相談して、今後のスキル融合の計画に沿って、選択すればいいや。
「それと、もう一つの相談があります。
前にも、お話ししましたが、私の指定する迷宮討伐をお願いする件です」
「はい。お伺いします」
ギルド神殿の取引の後に、取り決めるのではなかったのだろうか。
「ギルド神殿の取引が終わった後、モンスターカードと交換に、
タケダ殿に迷宮討伐を依頼したいのです」
「500枚の取引後に、さらにモンスターカードを集められるということですか?」
ファビオ士爵は無言で頷いた。隣のエミリオ士爵は笑みを浮かべている。
なんか、この二人の交渉はやりにくいな。
それにしても、この短期間に500枚集めた後に、更に数百枚集めると言ってるのか?
とんでもない、カード収集力だ。
どうやって実現しているのか、ちょっと気になるな。
「私がそれほどの数のモンスターカードを集められるのか、お疑いですか?」
「疑うという訳ではありませんが、
途方もない枚数を集めることになりますから、率直に驚いております」
カードをそれなりの枚数集めるのは、結構大変だ。
オークションではなかなか集められないから、こちらだってイロイロと工夫しているんだぜ。
「私の集め方は、タケダ殿の模倣ですよ。
タケダ殿がドブローやクーラタルでやられている物々交換のやり方を
帝都や、他の貴族に対してやっているだけです」
「それで、このような枚数を集められるものなのですね」
ファビオ士爵は頷いた。
そうか、帝都の商人ギルドや貴族相手に等価交換の取引をやるのか。
そちらには、タケダ家は取引のチャネルがないのだよな。
石鹸の委託販売のルートを最近、構築した程度だ。
貴族になるメリットって、こんなところにもあるものなのだろうか。
でも、そのために貴族になるってのは悪手だよな。
実際、ファビオ士爵は迷宮討伐に苦しんでいるようだし。
タケダ家なら、実現可能な気も・・・・・・いやいや、そんなことのために貴族にはならないぞ。
その後は、迷宮討伐のみ実施する場合と、ギルド神殿も納品する場合で細かく条件を詰めた。
そして、エミリオ士爵から、ザビルの武器屋にダマスカス鋼製の武器を卸せないかと相談されることに。
「それは、ファビオ士爵にお願いした方が良いのではないのでしょうか?
私よりも、よほど適任な気がしますが」
「ファビオを入れると、彼は利益を乗せてくるので、武器屋の利益が減ってしまうのですよ」
えー!こちらも利益をちゃんと乗せないとやってられないのだけど。
「ギルドの販売価格の8割で卸してもらえないでしょうか?」
「8割ですか?」
通常は持ち込み価格の4倍がギルドの販売価格だ。
だが、それはBtoC取引の場合であって、BtoBの場合は状況が異なる。
商家同士でのせめぎ合いになるから、ギルド価格の縛りはない。
8割なら、うちで大量に余っている空きスロットのない武器を少しはさばけるか。
空きスロットの多いものを狙うとどうしても、倉庫に貯まっていくのだよなぁ。
「分かりました。個別の取引として、検討しましょう。まずは1、2回取引をさせて下さい」
「そうですか。是非、お願いいたします」
カラダンとエネドラに相談しよう。
「では、奴隷の面談日など、決まりましたら、また伝言いたします」
「はい。よろしくお願いいたします」
また、あのゴッツイ手紙が来るのか。
あれって、ちょっと心臓に悪いんだよなぁ。
二人に暇乞いをして、ザビルの領主館を後にした。
すっかり、午前中の時間を食いつぶしてしまった。
グラ爺との訓練の時間がもう、ほとんどないな。
クーラタルの自宅へワープで戻ると、グラ爺に謝るため、まずは修練場に出むくことにした。
修練場に行くと、いつもより人数が少ない・・・・・・というか、グラ爺がいないな。珍しい。
とりあえず、訓練しているマヤに訊いてみるか。
「マヤ、グラ爺はどこにいるか分かるか?」
「あ。ご主人様。グラジオラス様は多分、食堂だと思います。
さきほど、エルフの人達が血相を変えて、グラジオラス様を呼びにきてたので。
レドリックさんも付いていきましたよ」
ん?なんかあったのか?
「分かった。ありがとう。食堂に行ってみるよ」
「はい。どういたしまして」
マヤに礼を言って、急いで食堂へと向かった。
なんだろう。まさか、また迷宮が出現した訳じゃないだろうな。
でも、グラ爺は迷宮探索や討伐にはノータッチだから、相談相手としては違うよな。
まあ、武芸全般だから、可能性はゼロではないか。
食堂に向かうと、エルフ組がほとんど全員、集合していた。
遠目にだが、なんだか深刻そうな雰囲気に見えるし、グラ爺も同席している。
そして、エネドラとレドリックの二人が俺の方に近づいてきた。
「レドリック、何かあったのか?エルフ組の連中が集まってるようだが」
「フリュウの迷宮で、探索中に重傷者が出たようです。
幸い、エリクサーを使ったので、直ぐに治療はできました。
今は、グラジオラス様が探索をしていたメンバー達と話をしているようです」
はあ?フリュウ迷宮の探索パーティーで重傷者?
今まで、他のパーティーでは、そんなことは無かったのに何故?
迷宮組のレベル停滞といい、探索中の重傷者といい・・・・・・今までが順調過ぎたのだろうか。
お読みいただき、ありがとうございました。
ちょっと、体調が急に悪くなり、次の次の投稿を一度スキップさせてもらうかもしれません。
その際には、次回投稿の後書きで連絡させていただきます。
皆様も、どうぞお体にはお気をつけてお過ごしください。
次回投稿日は2026/9/30(土)の予定です。