異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

304 / 304
 いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
 後書きに今後の投稿予定を記載いたしましたので、御覧いただきたく。

(登場人物紹介)※必要と感じた際に記載することにしています

・シーナ  :貴族身分を外れ、奴隷となったが貴族に返り咲きたいと考えている
・カーラ  :シーナの姉。元エストグリュン子爵家令嬢。迷宮組で夜伽メンバー
・ノエル  :シーナの弟。未成年だが、剣匠と魔法使いのジョブを所有
・リオン  :元エストグリュン家の騎士で、カーラ、シーナの良き理解者
・ルイ   :リオンの弟。セ二号作戦の際にグランフェルト毒殺に加担させられた
・グラジオラス:『東杜(あづまもり)の剣聖』の称号を持つ元エストグリュン家の剣術指南役。通称『グラ爺』
・グラシア :カーラと同様、グラジオラスから剣の教えを受けた愛弟子

シェル  :エルフ族の元男爵令嬢。ユキムラに救出された
メリル  :シェルの妹。シェルと同じくユキムラに救出された
ヴェロニカ:シェルとメリルに忠誠を誓う元騎士で二人の護衛役

・ローザ  :盗賊、モンスター、迷宮の場所を感知する能力を持つ
・ロベルト :ローザの弟。姉からは『ロビー』と呼ばれている
・マテウス :ザビル拠点の護衛部隊責任者

・ザビル子爵(ガルシア):ザビル領の領主。ユキムラに迷宮討伐を依頼
・リカルド :男爵位を持つザビル騎士団長で、模擬戦好き(強い者限定)
・エミリオ :士爵位を持つザビル騎士団の事務方。苦労人枠?
・ファビオ :士爵位を持つ貴族。豪商ジョブを所有。体型がマトリョーシカ人形



136.化学反応

 レドリックの話では、フリュウ村の迷宮探索を行なっているエルフ組で重傷者が出たとの報告。

 

 重傷者というと、直ぐにエネドラやフラウスのような状態を思い浮かべてしまう。

 だが、我が家の探索パーティーには複数のエリクサーを常備させるのをルール化している。

 直ぐに服用して、大事に至らなかったのは不幸中の幸いだ。

 

「フリュウ迷宮の探索階層は、40階層をずっと前に突破していたよな?」

「はい。事故が発生したのは45階層です。

 ロートルトロールが新規に出現する階層で、

 ボス戦でボスモンスターのロールトロール二匹のローリング攻撃を抑えきれなかったようです」

「ロールトロールか。確かに難敵の部類だが・・・・・・」

 

 グラシアやノエル等、剣技に長けた連中もいたはずだと思うのだが、それでも事故が発生してしまうのか。

 

「ご主人様、グラジオラスが・・・・・・」

「あっ、俺を呼んでいるのか。ちょっと行ってくる」

 グラ爺が立ち上がって、俺に手招きをしていた。

 

 グラ爺とエルフ組のいるテーブルの方へ、急ぎ足で向かった。

 テーブルに着いている面々を見渡すと、何人かは、しゅんとした表情で、俯いている者もいる。

 

「なにやら、迷宮探索で重傷者が出たと聞いたのだが、

 エリクサーのおかげで大事には至らなかったと報告を受けたが、本当に大丈夫だったのか?」

「はい。大事なエリクサーを一本使ってしまいました。申し訳ありません」

 シーナが立ち上がって、頭を下げた。

 

「使うべき時に使うために、どのパーティーにも持たせているのだから気にしなくてよい。

 エリクサーを惜しんで、死者が出たら悔やんでも悔やみきれないからな。

 これからも、躊躇せず、ちゃんと使ってくれよ」

「はい。ありがとうございます」

 こんな時の説明もシーナがやるのだな。

 

 今回のフリュウ村の迷宮探索のリーダー役を買ってでているからか。

 それはともかく、グラ爺の方に目を向けると、少しムスッとした顔をしている。

 

「俺を呼んた理由は他にもあるんだよな?」

「そうじゃ。わしは暫く、この者達の迷宮探索を中止させるべきじゃと思っておる。

 だが、当主である、おぬしの方針もあるじゃろうから、それを確認してからじゃ」

 グラ爺が、そう言うぐらいなら、中止させるべきだろうな。

 

 だが、理由の確認が必要だ。それとセットで探索再開の条件も確認すべきだろう。

 

「中止・・・・・・中断するのは構わない。だが、フリュウ村とは迷宮討伐の約束を契約で結んでいる。

 だから、場合によっては、別のパーティーを派遣することも選択肢として考える必要があるぞ。

 それと、中止させる理由、再開させる条件も確認しておきたい」

「お主の言うとおりじゃ。それに関しては説明できる者はおるか?」

 グラ爺は、エルフ組を見渡して、今回の件の説明を求めている。

 

 グラ爺が語るのではなく、エルフ組の連中に自分自身の問題点を説明させるのは良い方法な気がするな。

 

 あれっ、誰も説明しようとしないのだが・・・・・・これは大丈夫か?

 ここでも、シーナが立ち上がった。

 まだ未成年なのに、ちょっと重荷を背負い過ぎではなかろうか。

 

「我々の剣技が未熟なのが原因なので、暫く修練に励みたいと考えます」

「グラ爺、また鍛え直してくれ!」

 ん?・・・・・・これって、本当に大丈夫か?

 

 シーナの言葉にグラシアが続いたが、エルフ組の剣技はかなりの水準だと思っている。

 これで足りなくて、さらに磨きをかけるなんて、数日やそこらでは無理だろう。

 それに、他のパーティーでも、剣技がそれほどでなくても、迷宮討伐を達成した者達がいるぞ。

 

「おぬしらは、何が足りないのか、丸で分かっておらぬ。

 じゃから、探索を中止せよと言っておるのじゃ」

「グラジオラス様・・・・・・」

 グラ爺の言葉に、シーナが俯いてしまった。

 

 なんだ、当人達は分かっていないのか。

 

「なあ、こんな状態だと中断ではなく、交代ではないか?

 必要なら、他のパーティーの派遣も考えるぞ」

「ユキムラ様、それはお許し下さい・・・・・・」

 シーナ、そんなことを言っても、駄目なものは駄目だ。

 

 エストグリュンのためにタケダ家はあるのでない。

 エルフ組の成長の機会は別途考えるけど、契約で引き受けた迷宮討伐は切り離して考えるべきだからな。

 

「それについては、おぬしと別の相談がある。この後、よいかの?」

「ああ、構わない。俺だけじゃなく、レドリックも同席させてもいいか?」

「それは全く、構わん」

 グラ爺にはエルフ組の問題点が見えてるのだけど、直接教えたくない何かがあるのだろうか。

 

 エルフ組の連中は元気がなく俯き加減の者も多そうだ。

 このままの状態で迷宮に送り出すのは、確かにリスクが高いかもしれない。

 それに、元々、エルフ組は未成年者の割合が非常に多い。

 剣技に長けてるとはいえ、不測の事態が起きると今回のように脆さが露呈するのかもしれない。

 

 グラ爺とエルフ組のテーブルを離れ、レドリックと共に、今回の問題点を確認。

 

 :

 :

 :

 

「なるほど、今回の件は、そんなことがあったのか」

「それで、今の話を聞いて、おぬしの部下に適任の者がおるじゃろう?」

「そうだな。俺が思い浮かぶのかはアミルかな。レドリックは誰がいいと思う?」

「そうですね。アミルさんはいいかと思います。あとはヘルミーネあたりでしょうか」

 なるほど、ヘルミーネも適任かもしれない。

 

「夜の会議で、ヘルミーネやマテウスの意見も訊いてみたいな」

「確かにその方が良いと思います」

 こんなことを話すために、幹部連中を会議に呼んでる訳だからな。

 

「なら、その者が合流するまでは、あやつ等は、しばらくは訓練のみで良いかの?」

「今のままの彼女達を迷宮に派遣するのは危険だと思うから、フリュウ村の探索は中断にしよう。

 他のパーティーと交代させるかの判断は保留だ。

 迷宮への派遣は中断だが、木材の運搬などの差配は今まで通り続けてもらう。

 こちらの人選が終わったら、そのメンバーは朝の訓練で伝えることにしようか。

 レドリックも、それで問題ないか?」

「はい。大丈夫だと思います。彼女達への説明は、後で私の方からしておきます」

「ああ、それで頼めるか」

 これで、エルフ組の行動方針は決まったかな。

 

「それにしても、剣技はそこそことはいえ、やっぱりまだ未熟な未成年なのだな」

「ふん、子供だからといって、降りかかる火の粉が減るとも限らぬ。

 成長できる時に、成長しておかなければ生き残れぬかもしれんからの」

 グラ爺、厳しいな。

 

 セニ号作戦で、エストグリュン家に降りかかった災厄は、未成年であることに付け込まれた策略もあったな。

 剣技に限らず、強くならなければ生き残れないという指摘は、確かに、このハードモードの世の中では正鵠を得ているのかもしれない。

 

・・・・・・

 

 その後の夜の会議で、マテウスが推薦してきたのはローザだった。

 アミルとヘルミーネもローザを適任者として賛同していたのは少し意外だな。

 彼女達二人も、エルフ組への支援を約束してくれた。

 そして、ローザのサポートにロベルトも随行することをマテウスが強く勧めた。

 

 翌日の朝練で、グラ爺とエルフ組にアミル、ヘルミーネ、ローザ、ロベルトを紹介した。

 二人を推薦したマテウスも今朝は特別に、クーラタルの修練場に出張している。

 アミルとヘルミーネは既にグラ爺もエルフ組にも、ある程度は馴染みがある。

 朝練で結構、顔を合わせているからな。

 

 ただ、ローザやロベルトは、普段はザビル拠点にいるので、あまり馴染みが無い。

 エルフ組の方は、怪訝そうな表情と好奇心に満ちた視線を彼等に向ける者が半々ぐらいか。

 グラ爺も似たような感じかもしれない。

 

 一通り、紹介も終わったが、お互いの理解のため、模擬戦をこなすことになった。

 主にローザとロベルトを知るためだ。

 二人は槍持ちの探索者と神官だ。

 

 ローザは巫女のジョブも持ってるし、ロベルトも探索者のジョブは持っている。

 今回はローザが探索者ジョブで、ロベルトは神官のジョブで参加する予定だ。

 

 槍持ちの彼等に、元エストグリュンのメンバーやシェル達も加わって挑んでいく。

 結果はローザとロベルトの惨敗。

 槍持ちのリーチをものともせず、剣技に長けたグラシアやノエル、シーナ達が懐に入り込んで、散々に二人を木刀で打ち据えていた。

 

 アミルやヘルミーネは、エルフ組とは互角以上の戦いを繰り広げていたのとは好対照だった。

 だが、ローザもロベルトも全く、落ち込んだ様子はない。

 

「想定通りか?」

「はい。ご主人様」

 

 二人を推薦したマテウスに話し掛けると、大きく頷いた。

 

 一方で、二人と模擬戦を終えたエルフ組の中には、ローザ達の力を懐疑的に思う者もいる。

 

『あのお二方と組むのは何故なのか?』そんな声が漏れ聞こえてくる。

 

 一通り、エルフ組との手合わせが終わった後に、グラ爺が切り出した。

 

「わしが直接見極めてやろう」

 

 修練場の中央で、ローザとグラ爺が対峙した。

 訓練に参加していた者は、二人の模擬戦を見るために剣を振るうのを止め、注目し始めた。

 

「いつでも、かかってくるがよいぞ」

「はい。そちらこそどうぞ」

 

 ローザの返答に、エルフ組の面々がざわついた。

 『東杜(あずまもり)の剣聖になんてことを・・・・・・』一部のメンバーからは糾弾する声も上がっている。

 

 実際に戦いが始まると、一方的な展開になった。

 グラ爺の剣戟をローザは全く躱せず、ことごとく一撃を食らっている。

 そして、ローザの槍はグラ爺にはかすりもしない。

 エルフ組のメンバーも『それ見たことか』と満足げな表情を浮かべてる者がいる。

 

 そんなエルフ組の連中に混じり、カーラだけは、無言で睨みつけるような視線で二人の戦いを見つめている。

 

 やがて、彼女は俺に近づき、独りごとのように呟いた。

 

「ユキムラ殿、あの槍持ちの女性の動きは面白い・・・・・・」

「カーラ、どこが面白いんだ?」

「上手く言えないのだけど、師匠への反応が・・・・・・?」

 カーラは説明が下手だった!

 

 でも、カーラはマテウスがローザを推薦した理由に近いことを言いたいのだろう。

 言葉で説明するのは難しいのかもしれないけど。

 

 その後も、グラ爺の攻撃はことごとくローザに当たり続け、ローザの槍の攻撃は一度もグラ爺を捉えることなく、模擬戦は終了。

 戦い終わったグラ爺とローザがこちらに戻ってきた。

 

 俺の近くに来ると、グラ爺は模擬戦の感想を伝えてきた。

 

「おぬしのやりたいことは分かった。この娘と小童達を組ませるのが良かろう。

 この家には、なかなか多彩な人材がおるようじゃな」

「・・・・・・」

 グラ爺の指摘に、隣にいたローザは意外そうな顔をした。

 

 だが、さすがは剣聖。

 マテウスの目論見を早々に看破したようだ。

 確かにローザは一芸に秀でている者なんだ。

 しかも、その才能は結構、初見では分かりにくい。

 

 そして、グラ爺の言葉にエルフ組の面々がざわついた。

 グラ爺に見えてるものが、彼女達には見えていないからだろうな。

 

「それで、今後のことはどうしようか?

 今日はまずは、一日中、ローザとロベルトを交えてエルフ組とずっと模擬戦をしてもらうか。

 一日の終わり具合を見て、明日からフリュウ迷宮の探索を再開するというのはどうだろう?」

「ああ、それで構わんじゃろう。今日は一日、わしが見ておこう」

 監督役は、グラ爺に任せておけば大丈夫だな。

 

「再開するのは事故のあった、45階層のボス部屋に一番近い小部屋あたりからでどうかな。

 45階層のボス戦を問題なくこなせれば、そのまま46階層以降の探索を続けるってことで」

「それでよかろう」

 

「ローザとロベルトは必須参加で、3日ほど探索をすればいいのじゃないかな?」

「構わぬぞ。それで」

 俺とグラ爺の間で、次々と今後の計画が決められていく。

 

「ローザとロベルトも、それで問題ないか?」

「はい。大丈夫です」

 ロベルトも姉の言葉に頷いている。

 

「では、あとは二人に任せたからな。無理しないようにな」

「はい。分かりました」

 まあ、3日もあればきっと、大丈夫だろう。

 

 アミルとヘルミーネ、マテウスと共に、場所を移そうとすると、シーナが追ってきた。

 

「あの、ユキムラ様、少しお時間をよろしいでしょうか?」

「ん?なんだ。シーナ。別に構わないぞ」

 彼女は少しキョロキョロしながら、俺を見つめている。

 

 近くにグラ爺がいないか気になってるのかな。

 

「私には、ローザさんとロベルトさんを私達と組ませる理由がよく分かりません。

 グラジオラス様もユキムラ様も、詳細を説明していらっしゃらないので」

「そうだな。グラ爺は、昨日の事故のことも、あまり詳細には説明してくれないのだろう?

 それは自分達でちゃんと考えてくれということではないのか?

 だとすると、俺の方から詳細を説明する訳にもいかないだろう。

 一応、グラ爺の方から昨日の件は説明を受けてるのだがな」

 シーナからは、不安と不満が半々のような表情が見て取れる。

 

「その上で、先ほどの二人を一緒に組ませるとグラ爺も二人の実力を見て判断した。

 だから、俺はその判断に特に異論を差し挟む気はないぞ」

「そうですか。でも、アミルさんやヘルミーネさんも候補だったはずです。

 その二人を差し置いて、ローザさんとロベルトさんが先なのでしょうか?」

 シーナはアミルとヘルミーネの二人にも問いかけてるように見える。

 

「シーナさん、ローザさんとロベルトさんがいれば、私の出番はきっとないと思いますよ」

「本当にそうなのでしょうか?アミルさん」

 シーナの問いかけに、アミルはニッコリと頷いた。

 

 確かに、迷宮組のアミルと、迷宮討伐間近のパーティーを率いるヘルミーネを差し置いて、戦闘技能に劣る二人と組まされることに、シーナとしては不満と疑念があるのだろうな。

 その気持ちはシーナだけでなく、エルフ組の大半の連中が想い抱いてることかもしれない。

 

「まあ、こればっかりは言葉ではなく、実際に組んでみないと分からないと思う」

「そうですか。分かりました。皆さんの指示に従いたいと思います」

 

 グラ爺が答えをシーナ達に教えていたら、俺も補足していただろうけど、自分達で考えろってことなのだから、俺としてはこれ以上、何も言えない。

 

「俺から言えるのは、迷宮は命のやりとりをする所だから、十分に気を付けろってことぐらいだ」

「・・・・・・分かりました。御忠告、感謝いたします」

 言葉とは裏腹に、とても納得してるように見えないがな。

 

 人を育てるって、本当に難しい。

 グラ爺は多くの弟子を育ててきたのだから、今はそのやり方を尊重したいと思うだけだ。

 俺はどちらかというと、直ぐに答えを言ってしまうタイプなのだけど。

 

・・・・・・

 

 朝練を終えて、朝食のために食堂に行くと、エネドラが近づいてきた。

 

「旦那様、お手紙が届いております」

「・・・・・・」

 彼女が差し出してきたのは、ゴッツイ手紙。

 

 昨日の今日で、もう来たのかよ!

 ファビオ士爵、対応が早過ぎじゃないかい。

 

 結局、昨日同様、午前中の一部の時間を割いて、ザビル子爵の館に赴くことに。

 そのため、アミルと急遽、要求するモンスターカードの精査をすることになった。

 まさか、昨日の今日でファビオ士爵と会うことになるとは思わなかったので、準備ができてなかったのだ。

 

 士爵からもらった、モンスターカードの受け渡し可能リストと倉庫に眠る在庫を突き合わせをして、150万ナール分の候補を淡々と決めていく。

 なんとか、小一時間ぐらい奮闘して要求リストをまとめた。

 

「アミル、急に申し訳なかった。まさか、一日で士爵から呼び出しがくるとは思いもしなかった」

「これくらい大丈夫ですよ、ご主人様」

 要求リストだけでなく、カードを入手したら、融合も行なわなければならない。

 

 別に我が家にあるカードを全て、直ぐにスキル融合しなければならない訳ではないのだけど。

 融合するには、空きスロットが多い装備品が必要だから。

 だが、それだって、我が家の鍛冶師三人衆が装備品を大量に量産してくれてるからこそ、調達できてる訳で。

 

 彼女達には、まだまだ苦労をかけることになりそうだ。

 

 モンスターカードの要求リストを持って、ザビルの領主館へ。

 大して待たされることなく、ファビオ士爵の待つ会議室へ通されると、昨日同様にエミリオ士爵もいるし、四人の竜人族の者達も待ち受けていた。

 竜人族の者四人を鑑定すると、村人と竜騎士のジョブの者が2名ずつだった。

 魔法使いは用意できなかったらしく『魔法使いは、また今度・・・・・・』と言われた。

 

 この四人って、ファビオ士爵が受け取るギルド神殿の取引の残債(担保)扱いなのだよなぁ。

 今まで、散々、奴隷契約をしてきたとはいえ、人をモノのように担保扱いにするって、なんだか気が引ける。

 とはいえ、こちらも担保無しでは取引には応じられないので、面談を行うことに。

 

 模擬戦をして確かめてみたかったのだが、必要以上にこちらの手の内も見せたくないので、一対一の面談のみ実施させてもらった。

 結果は可もなく不可もなしといったところ。

 我が家に是非とも来てほしいという程ではなかったが、拒む程の酷い人材でも無さそうだった。

 

 担保の人材に問題が無さそうだったので、契約書の詳細を詰めることに。

 残りの大量のモンスターカードの引き渡し時期などを決め、不履行時の担保とした奴隷達の引き渡しも明記。

 署名を行い、淡々と取引が締結された。

 

 四人の奴隷達の目の前で、契約の締結をするのかよ。

 正直、気が重く、四人の方に顔を向けられなかった。

 この程度でプレッシャーを感じるようでは、駄目なのかな。

 

 平静を装いながら、取引は完了した。

 ギルド神殿を渡し、こちらが要求したモンスターカードのリストを渡して、淡々と150万ナール分のカードを受領していく。

 

「商人ギルドを予約しているから、ギルド神殿を使った確認を・・・・・・」

 と言われたが、

 

「士爵様を信じておりますので、無用です」

 と言い放ち、相手を凍らせた。

 

 俺の数え切れないぐらいの奇行の中で、ベスト5(ワースト5?)に入るぐらいの奇異な行動に映ったことだろう。

 だが、150万ナール分のモンスターカードをギルド神殿で確認する程、こちらも暇ではない。

 もちろん、受領時に鑑定スキルを数えきれないほど使って、間違いのないことは確認したからこその奇行だが。

 

 もう一度、残りの150万ナール分のカードを受け取りに、ここに来るのだよな。

 その時には、また奇行を披露するのか。

 今更だし、仕方あるまい。

 

「では、またカードの受領時、お願いしますね」

「はい。こちらこそお願いいたします」

「次回は迷宮討伐の契約を締結したいと思いますので、よろしくお願いします」

「承知しました」

 そうだった。まだ迷宮討伐の取引もあったのだな。

 

 また、モンスターカードを数百枚単位で取引するのか。いや、次は鍛冶素材という選択肢もあるのかな。

 いずれにしても、アミル達と相談だな。

 

 ファビオ士爵とエミリオ士爵に暇乞いをして、ザビルの領主館を後にした。

 

・・・・・・

 

 なにやら、ドッと疲れた気もするが、残りの貴重な時間を剣技の訓練にあて、午後からも淡々とクーラタルの68階層の探索に勤しむ。

 

 それから3日間ほどは、午前は剣の訓練、午後は68階層の探索と淡々と時間が過ぎていった。

 その期間では、カーラを除く迷宮組のレベル上昇はなく、膠着状態のままだった。

 

 

 一方で、フリュウ迷宮の探索を行うパーティーでは、着実に変化が訪れていた。

 

 グラ爺の前で、まる一日模擬戦三昧を行なったエルフ組とローザ、ロベルトの二人は、翌日からフリュウ迷宮の45階層の探索へ赴いた。

 マテウスがローザとロベルトから受けた報告によると、多少の紆余曲折は発生したらしい。

 

 初日の探索では、ギクシャクしながらも45階層を突破し、リベンジとなったロールトロール戦もなんとかクリアしたそうだ。

 もちろん、重傷者などは発生せず。

 

 二日目の46階層の探索では、初日よりはパーティーメンバー間の連携が円滑にできたそうだ。

 そう、この『パーティーメンバー間の連携』が今回の肝だったりする。

 

 45階層のボス戦で発生した事故について、グラ爺の分析では、パーティーメンバー間の連携の拙さが原因の主たるものなのだとか。

 エルフ組の前衛陣はとりわけ年齢が低く、未成年の者がほとんどなので、剣技に長けていても、迷宮探索の経験は浅いらしい。

 

 なので、ついモンスターとの戦闘においては、各人が目の前のモンスターとの戦闘にかかりきりになったり、仲間が戦ってるのを邪魔しない、場合によっては見ているだけのことも多いのだと。

 個人戦は得意でも、団体戦での戦いでは、なかなか力を発揮できないとの見立て。

 

 パーティー内にはリオンやヴェロニカといった年長者もいるのだが、リーダー格がシーナであったり、グラシアになりがちで、パーティー内での所謂、司令塔の役割が存在しない。

 

 そこで、アミル、ヘルミーネ、ローザのような各パーティーで司令塔の役割を十全にこなしているメンバーを、エルフ組に派遣することになった。

 マテウスの話では、過去にローザも苦しみながら、乗り越えた件らしく、今回のエルフ組への派遣にはうってつけの人材として推薦された。

 

 何故か、アミルとヘルミーネも強く彼女を推しているので、初めにエルフ組に派遣するのはローザということが満場一致で決まったらしい。

 

 グラ爺は、ローザとの模擬戦で斬撃を受けながら観察を行う彼女の態度に興味を感じたと。

 多くのバリエーションでグラ爺に攻撃させるため、工夫しながらわざと隙を作っていたようだ。

 そして、受ける回数が増える度に、徐々にグラ爺の動きから剣の動きを的確に読み始めたと指摘していた。

 もっとも、剣技は拙く、身体能力も平凡なため、剣を避けることも、剣を当てることもできないのだが、それでも才能の片鱗を感じたらしい。

 

 カーラも似たような事を感じたようだが、彼女は説明がちょっとね。感覚派だし。

 彼女はローザとも模擬戦を数回を行い、もちろん圧勝するのだが、ローザの才能を買っていた。

 最後には『あの者は、順応が早い。剣の技量はまだまだだが、師匠や私の動きにあれだけ反応できる者はそうはいないはずだ』と言っていた。

 ローザの能力を知らないと、カーラの言ってる意味もよく分からないよな。

 

 

 迷宮探索の初日は半分ぐらいを観察に徹したらしく、翌日から彼女は司令塔として本領を発揮し始めたのだと。

 マテウスの分析では、初日の夜にローザとロベルトはエルフ組のメンバーの動きのシミュレーションを、ひたすらやり込んだようで、二日目からのメンバーへの指示はかなり正確だったようだ。

 

 そして、ローザは司令塔としての役割をリオンやヴェロニカだけでなく、シーナやノエル、シェル達にも丁寧に教えていったらしい。

 剣技では敵わなくても、観察と試行錯誤の繰り返しによって、パーティー内の総合力が上げられることを実地で学ばせたとのこと。

 探索を始めて3日目からは、エルフ組のメンバーで二人を軽んじる者はいなくなったってさ。

 

 これによって、シーナの頭の中にも『エルフ組だけで、まとまり過ぎることのリスク』が共有できたようだ。

 それは、ローザ達がエルフ組から離れるタイミングで、アミルとヘルミーネが、懇々と教え諭したらしい。

 

 

 以前から、エルフ組だけで固まり過ぎて、ガラパゴス化しないようにしたいと思っていた。

 元エストグリュン家や、シェル達の家で発生した貴族絡みの事件に関して、お互いの境遇が似てることもあり、エルフ組だけで固まり易いことが前々からタケダ家の幹部連中も危惧していたことだ。

 

 迷宮での事故をキッカケに、朝練での模擬戦だけでなく、エルフ外のメンバーとの真の交流を始めてほしい。

 他のパーティーでは、頻繁にメンバー交代を行なって、新陳代謝を促している。

 いずれエルフ組も、種族に依存しないパーティー編成を適用させていくつもりだ。




お読みいただき、ありがとうございました。

私事で恐縮ですが、病院に行ったら、急遽、手術して入院する予定を言い渡されてしまい、暫く投稿ができなくなりました(ノートPCの持ち込みも(家族から)却下され・・・・・・草)。
感想返信や誤字訂正等は、スマホでできるので、息抜きにコッソリやると思います。

という訳で、次回の投稿予定日は仮で、2026/10/10(土)となります。

多分、その時までには退院していると思いますが、変更になる場合には、この話の後書き(この場)に訂正を追記させていただきます。

誠に申し訳ありませんが今しばらく、お待ちいただければと思います。
こんな私が言うのもアレですが、皆様も、どうぞお体にはお気をつけてお過ごしいただきたく。

そして、引き続き、拙作にお付き合いいただければと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

異世界迷宮と斉奏を(作者:或香)(原作:異世界迷宮で奴隷ハーレムを)

突然目の前に現れたのは、読んでいた小説と同じ文面だった。▼冗談でも行けるものなら、記憶を頼りに "彼" のいた世界と近い場所へと向かいたい。▼気がつくと自分がいたのは、小説とは似ているようでどこか違う、聞き覚えのない場所。▼───違っていたのは風景だけでなく、自分自身もだった。▼--- ▼本小説は原作「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」様、「異…


総合評価:3246/評価:8.53/連載:206話/更新日時:2026年09月28日(月) 12:00 小説情報

異世界迷宮へ行ったなら(作者:三星織苑)(原作:異世界迷宮でハーレムを)

十数年あこがれ続けた世界への入り口を見つけてしまった。▼死ぬ可能性がある?▼そうだろうな。▼現代文明の恩恵を受けられず不便な生活を強いられる?▼そうだろうとも。▼食文化が発展していなくて好物は二度と食えないだろう?▼そりゃそうだ。▼でも、そこには彼女がいるかもしれない。▼それだけでも行く価値がある!


総合評価:11535/評価:8.95/連載:323話/更新日時:2026年09月24日(木) 20:00 小説情報

異世界迷宮でロマンスを【完】(作者:ノイラーテム)(原作:異世界迷宮でハーレムを)

 本作品は『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』と『異世界迷宮でハーレムを』を元にした二次作品です。何か問題が生じた場合は消去いたしますね。▼


総合評価:1063/評価:7.26/完結:101話/更新日時:2026年04月01日(水) 21:21 小説情報

俺だって異世界迷宮でハーレムしたい!(作者:おるどばれい)(原作:異世界迷宮でハーレムを)

初めての二次創作になります。▼原作をリスペクトして執筆していますが権利等で問題があるようでしたらすぐに削除しますのでご指摘ください。▼世界設定をほぼそのままに、似て非なる世界に転移します。▼原作の世界観を参考にした超常な存在のナニカがこの世界を作ったのでは?▼という設定ですので、追加の設定や原作との差異はその影響だと思ってください。▼ーあらすじー▼主人公 長…


総合評価:2080/評価:8.35/連載:52話/更新日時:2025年10月06日(月) 00:00 小説情報

加賀道夫さんじゅうななさい(作者:ビーバップ八戒)(原作:異世界迷宮でハーレムを)

異世界に行ったのが加賀道夫君(17)ではなく加賀道夫さん(37)だったら、というお話。▼道夫君より社会経験を積んでいる道夫さんは、相応の社会性、ビジネススキル、対人スキルなどを獲得しています。▼代償として、体面を気にする小市民気質も備わってしまっているので、道夫君のように欲望に素直になれなかったりします。▼焦れったいかと思いますが、中年の無駄な抵抗と自己欺瞞…


総合評価:4903/評価:8.87/連載:103話/更新日時:2026年01月02日(金) 00:52 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>