(登場人物紹介)※必要と感じた際に記載しています
・ラファ :未成年で魔道士と斎王のジョブを持つ有望株
・ヘルミーネ:ラファの補佐役。タケダ家幹部で高Lv探索者
・モニカ :お姉さん肌の剣聖。レイモンドに好意を持つ
・マリー :ケリーとは双子。15才で百獣王という逸材
・ミラ :タケダ家次席鍛冶師。鍛冶師と刺客の二刀流
・トカラ :竜人族でありながら魔道士のジョブを所有
・フラウス :迷宮で仲間を失った経験有。ラファが大好き
今日も今日とて、午前中はグラ爺にしごかれている。
マヤやシェル、レベッカ等のタケダ家の護衛組の若手に混じり、木刀を二本持って素振りをし、グラ爺に打ちかかっては打ちのめされ、そして、また素振りを繰り返す。他の者を若手扱いしているが、俺だってこちらの世界では17才の若輩者。元の世界での年齢は置くとして。
訓練中は複数ジョブ設定はせず、シングルジョブ。それでもジョブが高レベルという事もあり、若手集団内での模擬戦の戦績は頭一つ抜きんでているが、所詮は頭一つ程度。たまに良い動きをされると、一本取られたり、こちらも負けずに取り返したりなんてことを続けている。
それが結構、楽しかったりするんだよなぁ。油断して口元を緩めると、グラ爺の叱責が容赦なく飛んでくるけど。
最近は、ヴィルマやイレーネ、レドリックといった経験豊富な者達との模擬戦を禁じられているので、自分の強さや技術がどこまで成長したのか分からない。多分、ゆっくりとではあるけど、強くなっているはず・・・・・・といったあやふやな感覚の下、ひたすら剣を振るう毎日。
「ほれっ、その左の剣先の使い方はなんじゃ!
いつから、剣を遊ばせておく余裕なぞ覚えたのじゃ。十年早いわ」
「うぃっす」
十年経ったら、俺は27才か。その時はグラ爺は103才だ。十年後、俺はまだグラ爺と、このだだっ広い修練場で木刀を振るう訓練を続けているのだろうか。
気合を入れ直して、左右の木刀を強く握りしめ、斬撃をグラ爺に次々と繰り出す。そして、その全てを軽々と躱されてカウンターを数発もらう、いつもの光景。
少し離れた隣では、マヤとシェルが気合の入った模擬戦を行なっている。時々、マヤが自分自身を鼓舞するかのような高い声で、雄叫びを上げているのが聞こえる。
マヤは獣戦士のジョブを得てから、自信を付けたような気がする。雰囲気というか、動きにハリが出てきたように感じるんだよなぁ。大柄な彼女の動きは狼人族特有の軽快なフットワークではなく、相変わらずのベタ足だ。
剣士ジョブのシェルもマヤの剣を器用に躱しながら、隙をついたカウンターを入れようとして、ことごとく弾かれている。マヤの堅い防御はなかなか崩せないようだ。
(ビシッ・・・・・・)
「集中せんか。周りを気にしてる余裕なぞなかろうが!」
「うぃっす・・・・・・」
左右の木刀を滑るように走らせたり、高さに変化をつけて同時に振り抜いたりして、基本の型をいくつか素早く繰り出してはみるものの、ことごとく躱されてしまう。
逆に防御を固めて、カウンターを狙おうとしても、グラ爺にこちらの意図というか呼吸を読まれてしまい、剣を出す機先を制され、良い一撃を何度も喰らうことに。
いつしか、周囲の雑音も全て消え去り、無心でひたすら木刀を振り続けている。
「そろそろ時間じゃ。体を冷やし過ぎないように終えよ」
「はい!」
今日もグラ爺に一撃も与えることはできずか。木刀を下して、クールダウンへ。マヤ達も模擬戦を止め、体をゆっくりと伸ばしたりしながら柔軟運動を始めた。
先ほどまで畑の雑草を抜いていたゼノとゼナもマヤ達の所に寄ってきて、僧侶の『手当て』の詠唱をし始めた。大柄な竜人族の二人が僧侶で、小柄なエルフ族のシェルが剣士ジョブだなんて我が家ぐらいなのだろうな。
でも、今では見慣れたタケダ家のワンシーンだ。
体を左右にゆっくりと捻りながら、近くにいるグラ爺に話しかけた。
「その後、シーナ達の迷宮探索は・・・・・・」
「さて、知らんの。自分達のダメな点は分かったはず。
あとは自らの力でなんとでもするであろう」
そのためにローザを数日、派遣したのだからな。痛い目に遭いながらも、自分達で成長しろってことなのかね。
「とはいえ、これ以上、若輩者に先立たれるのを見とうない。
エリクサーを常に持たせる指示をした、おぬしには感謝しておる」
「・・・・・・」
セ二号作戦で亡くなったカーラの父を、グラ爺は思い浮かべているのだろうか。
俺は会ったこともない人なのだけど。
次に体を捻じった時には、既にグラ爺は俺の傍にはおらず、マヤ達の方へと静かに歩いていってしまった。
グラ爺はグラ爺なりに、元エストグリュン家の若者達を気にかけているのだろう。優しさと厳しさ、成長とブレーキのバランスをどこかで取っているのだろうか。
あるいは、齢93才になっても、まだ迷いがあるのかもしれない。迷宮での戦いは命のやり取りだ。上の階層に行けば行くほど、命を失う危険性は高まっていく。
自分の人生ではなく、他人の人生にどこまで影響を及ぼすのか。奴隷を多く抱え、迷宮に派遣している俺の方が、今はグラ爺よりも多くの責任を抱えてるのだよなぁ。
当主の責任も振る舞いも、なかなか重たい。それでも、自分自身で剣を振るうことを止めるつもりはないけど。
・・・・・・
その後、ファビオ士爵との取引は順調に進んだ。彼のモンスターカード収集能力はホンモノなのだろう。帝都とクーラタルの貴族や大商家とのパイプというのは侮れないってことか。俺はルークぐらいしかないからなぁ。
貴族最高位のハルツ公とはモンスターカードの取引はしていないが、相談してみるべきか。でも、セ二号作戦以来、ハルツ公の力は結構、削がれてるかもしれない。
そうでなくても、石鹸やら化粧品やらの取引をしていて、公爵の資金力を微妙に我が家が減殺してる気もするし。
ともかく、ファビオ士爵との取引でモンスターカードも鍛冶素材も格段に集めやすくなった。竜人族の者達を担保にしてるのがアレだが、次の契約も締結された。
彼から指定された迷宮討伐の依頼も引き受け、メンバーを選定中だ。その傍ら、ザビルの街の武器屋への武器の納品も始まり、ザビルに関する案件は順調と言える。
順調でないのは、カーラを除いた迷宮組のレベリングだろうか。結局、クーラタル迷宮の68階層のボス戦もクリアしたが、Lv98にはならなかった。階層ボス討伐がレベルキャップ解放条件ではないということなのだろう。
ボスドロップのアルガンオイルを得たのだけが救いか。カメリアオイルよりも高品質っぽいので、秘密基地での任務が捗ることだろう。レベリングは捗らないのに。
貴族案件ということでは、エステルからタケダ家への二度目のお誘いが豪勢な手紙によって届けられた。だが、誘われているのは、どうも俺では無さそうなのだよな。
手紙の中に『オリビア姉ちゃんは絶対来て!』と、エステルの娘エスピナからのお願いが同封されていた。意外にオリビアは子供の扱いが上手いのだろうか。
とはいえ、俺も行くのでカルーアミルクに気を付けながら、結局は泊まりになった。なにしろオリビアがエスピナに引き留められてしまい、泊まらざるを得なかったから。
このパターンだと、定期的にエステルの所に通うことになりそうだ。エステルやヘンドリクスとは妙に気が合うので、頻繁に訪問して交友を深めるのは問題ないけど。
彼等との模擬戦は迷宮組の刺激にもなるし、貴族に関する情報を得るチャンスでもある。クーラタル迷宮の63階層でエステル達を襲撃した奴らの情報については、あれから全く進展がないのが気がかりではあるのだが。
・・・・・・
ヘルミーネがリーダーを務めるアキシマ迷宮の探索組は、順調に階層の攻略を進めている。そして、50階層の階層ボス戦に到達し、迷宮討伐が視界に入ってきた。
アキシマ迷宮の討伐は、過去のタケダ家の迷宮討伐戦とは様相がかなり異なる。
今まで迷宮討伐を達成したターレ、ボーデ、ザビル第二の迷宮・・・・・・これらは50階層での迷宮討伐戦ということで、予め心の準備がしっかりとできたものだった。
それに対して、アキシマ迷宮は迷宮ボスのいる階層が不明の状況。50や51階層ではないだろうが、54階層なのか56階層なのかは手探りで・・・・・・戦って確認していくしかない。可能性が低いからといって、50階層で迷宮ボスと戦う準備をしないで臨むわけにはいかない。
原作によると、迷宮が討伐されると、その周囲の迷宮の最高階層が下がることがあると記載があったからだ。
アキシマの迷宮は、誰も探索してない未踏の迷宮という話だったが、それは案内してくれた冒険者の男がそう言っていただけで、こちらで確かめる術のない情報だ。実は他の誰かがコッソリと探索していたり、近くの迷宮がその一派によって討伐されていたりするかもしれない。
50階層は通常の階層ボス戦のはずと思って戦ってみたら、実は迷宮ボスでしたとなったら大惨事の可能性がある。結局、50階層以上のボス戦は、1階層毎に常に迷宮討伐戦だと思いながら、事前にクーラタル迷宮でボス戦の予行演習をしてから臨むしかないということだ。
それは、そもそもの迷宮討伐での普通のことなのかもしれない。少なくとも若くない迷宮の討伐を行う際には。
ただ、そうなると、今までのように迷宮討伐見学会を行う訳にはいかない。50階層近辺では迷宮ボス戦ではない可能性が高く、見学者を集めても空振りに終わるから。
俺だけは万が一のヘルプに入るために、50階層以降のボス戦には付き添うけどね。加えて、ヘルミーネとラファの迷宮討伐の瞬間に立ち会うため、フラウスも同行を申し出ているので許可した。この三人は結束が強い。
そして50、51、52、53、54階層と空振りが続き、55階層のボス戦の当日。今度こそは迷宮討伐戦ではないか・・・・・・と思いながら階層ボス戦に臨むことに。
この55階層が迷宮ボス戦ではないとなったら、56階層以降の迷宮討伐戦となる。それはワンランク上の迷宮討伐戦となるので、リスクがかなり上昇するだろう。そうなると、ヘルミーネ達に任せるのか、それとも最高戦力である迷宮組の出番とするのか判断が悩ましい。
これまでのヘルミーネ達の積み上げてきた努力を考えると、56階層でも迷宮討伐戦に挑戦させてやりたいが、事故を防ぐ観点から迷宮組の出番を考えざるを得ない。
是非、55階層に迷宮ボスがいてほしいと願ってしまう。
55階層のボス部屋の待機部屋に、ヘルミーネ達のパーティーメンバーと俺とフラウスの8人が集まった。既にクーラタル迷宮での予行演習を問題なく済ませ、準備万端の状況。戦いに臨む6人は、誰もが程よい緊張感に包まれた表情をしている。何しろ、これで6回目だからな。
俺とフラウスは6人から離れ、邪魔にならないように遠くから静かに彼女達を眺めている。今度こそは迷宮ボスであってくれと祈りながら。
やがて、パーティーの仲間達から離れて、ヘルミーネがこちらに近づいてきた。
「ユキムラ様、最後の準備が終わりました。これから、我々は戦いに赴きます」
「そうか。こちらで万が一のフォローをするから、遠慮なく、全力で戦ってくれ」
彼女は笑顔で頷くと踵を返し、仲間達の所へと戻っていった。自信に満ち溢れていて頼もしい。
彼女は仲間達の所に戻ると指示を出し、やがて前衛を務めるモニカ、マリー、ミラと、魔道士のトカラがボス部屋へと入っていく。ヘルミーネとラファは待機部屋に残ったまま。ボス部屋への最終入室者はラファが務める。
ヘルミーネはラファに言葉をかけ、ボス部屋へと入っていった。それから暫くすると、最後に残っていたラファが我々二人に向けて手を振った。いよいよ始まるのか。
ラファはダマスカス鋼の槍を持つと、足早に歩きだし、徐々に加速してボス部屋へと入っていった。扉が閉まるのを確認して、ワープゲートを開く。まずはフラウスがゲートをくぐり、続いて俺もボス部屋へと侵入した。
ちょうど、モンスター出現のエフェクトが終わろうとしていた・・・・・・お供はブラックダイヤツナが二匹か。厄介だな。ネペンテスかオイスターシェルを望んでたのだが。
お供のブラックダイヤツナLv55は、ボスモンスターのノドグロLv55と同様、空中浮遊型モンスター。今回はボスだけでなく、お供も空中移動するので、厄介なボス戦となるな。リーチの短い武器だと非常に戦いにくい。
その厄介なボス二匹に対応するのは、剣聖Lv71のモニカ、百獣王Lv71のマリー、刺客Lv64のミラの三人。三人とも、ミラが考案したリーチのある長巻型のエストックを使い、浮遊するボスモンスターと対峙する戦略だ。
マリーとミラは鋼鉄の盾を持ち、装備品破壊を覚悟してボスと戦う。二人の戦うボスの隙を突き、モニカが長巻型エストック二刀流で攻撃の手数を増やす。三人の持つ長巻型エストックは麻痺添加と石化添加のスキルが付与されているので、早期に状態異常にする方針だ。
破壊されるのは鋼鉄の盾か長巻型エストックの2つの可能性が高く、探索者のヘルミーネが予めアイテムボックスから大量に予備を取り出して、地面に置いてある。
地面に置かれた盾とエストックを受け渡すのは、魔道士Lv71のトカラの役目だ。彼はサンダーストームを放ちながら、万が一装備品が破壊された際には、竜人族の膂力を生かして、とにかく早く手渡す。装備品破壊時の対応も、クーラタル迷宮の階層ボス戦で何度も練習を重ねた。
両翼のお供は、ダマスカス鋼の槍を持った探索者Lv74のヘルミーネと斎王Lv71のラファが受け持つ。二人の役目はとにかく、お供のモンスターをボスのノドグロに合流させないことだ。ラファは、全体治癒魔法を使い、全メンバーのHPを維持し続ける役割を担うことになる。
トカラに槍を持たせて、お供のモンスターと戦い、ヘルミーネが全体統率と装備品の受け渡しを行いたかったが、彼の槍の技量では難しいと判断し、今回はこのような布陣となった。両翼の二人が左右半分ずつ統率する。
二匹のノドグロとブラックダイヤツナは空中を浮遊しながら、時折攻撃を加えてきた。その動きにやきもきしながら、俺は戦況を見つめている。横にいるフラウスも、祈るような表情で6人の戦いを凝視していた。彼女も万が一に備え、ダマスカス鋼の槍をギュッと握っている。
まだ始まったばかりだが、6人とも焦った動きは見えない。これで、ボスモンスターのどちらかが麻痺か石化に早くなってくれると、一気に戦況が傾くはずなのだが。
空中を自在に浮遊する魚類型モンスターに対して、長巻型のエストックは有効に機能しているようだ。槍ほどのリーチは無いが、少し腕を伸ばせば、浮遊しているモンスターへも刺突が加えられ、曲線的で不規則な動きをするモンスターにも長い刃の斬撃を加えられる。
迷宮討伐戦に合わせ、鍛冶師グループが大量のダマスカス鋼を消費して量産した。多数の武器生成で空きスロットが3つ、4つのものを作り出し、状態異常や攻撃力2倍、MP吸収やHP吸収のスキルも複数付与した。ファビオ士爵から入手したカードと素材のおかげだ。
今はダマスカス鋼製の片手剣であるエストックのみ長巻型のものを量産している。あくまで、空中浮遊型の迷宮ボス戦用の専用武器と、装備品破壊に備えた予備としての扱いで、通常の迷宮探索ではあまり利用していない。
今後は、通常の迷宮探索でも利用するために、更に長巻型エストックを量産するか、それともダマスカス鋼製の両手剣も長巻型の適用を行うのかを検討したいと思っている。アミル達、鍛冶師グループと相談だな。
それはともかく、今はタケダ家の総力を結集した成果が、アキシマの55階層で花開くと信じたいところだ。
四匹のモンスターと6人の戦いをじりじりとしながら見る時間が過ぎていく。博徒のジョブを持つ者もいないので、刺客のミラであっても、なかなか石化までは持ち込めないようだ。彼女は辛抱強く、盾でガードしながら、長巻型のエストックを突き出し、ボスと対峙している。
唐突にミラは、鋼鉄の盾を後方に投げ捨てた。装備品破壊が起こったということだな。相手を麻痺や石化の状態異常にする前に、先手を取られたか。モニカがミラの対峙しているノドグロにエストック二刀流で牽制を仕掛けた。ミラへの装備品の受け渡しを援護するためだろう。
トカラが急いで、鋼鉄の盾をミラに渡して、戦線の修復を図る。ミラは前衛に復帰して、なんとか持ち直した。少しヒヤリとしたが、装備品破壊が起きたということは、55階層が迷宮ボスであることが確定した訳だ。
このまま何も事故が起きることなく、迷宮討伐を成し遂げてくれと心の中でひたすら祈る。
戦っている仲間を見てることしかできないのは、なかなかもどかしい気持ちだ。タケダ家で初の迷宮討伐を成し遂げたターレ迷宮の討伐以降、俺はずっと仲間達の迷宮討伐を見てる側なのだよな。仲間の頑張りを誇らしく思う反面、そろそろ俺も参加したくなってしまう。
目の前のノドグロが迷宮ボスであることが皆に伝わったせいなのかもしれない。一段と気合が入ったのか、マリーとモニカの斬撃の手数が増えたように感じた。ミラは淡々とノドグロの攻撃を受け流し、両翼のヘルミーネとラファも崩れる気配は無さそうだ。皆、集中している。
トカラは油断なく、目の前のボス二匹と戦う仲間を見守りながら、サンダーストームの詠唱をしている。
しばらく膠着状態が続いたが、ヘルミーネの前のブラックダイヤツナが突然、落下した。彼女の武器には状態異常付与のスキルが融合されてないから、トカラのサンダーストームで麻痺になったのだろう。惜しかったな。ノドグロが麻痺したら良かったのにと思ってしまう。
それでも、戦況を考えると悪くない。ヘルミーネは地上に落下したブラックダイヤツナに攻撃を加えながら、余裕を見て、隣にいるノドグロにちょっかいを出し、マリーの援護にも回り始めた。焦るなよ、ヘルミーネ。
二つ目の鋼鉄の盾を交換したミラの前で、空中を舞っていたノドグロがついに地上に落下した。麻痺か?石化か?猛然とモニカがエストック二刀流で攻撃し始めたから麻痺のようだ。地上でピクピクしながら攻撃のできないノドグロを、モニカとミラが滅多打ちにしている。
やがて、二人の攻撃の矛先が、マリーの対峙しているノドグロへと移った。地面に落ちたボスを石化させられたということか。Lv55のノドグロとはいえ、三対一なら、もう大丈夫だろうか。このまま押し切ってほしい。
自分の受け持っていたブラックダイヤツナを倒し、ヘルミーネもボスの囲みへ加わった。ああ、これでもう時間の問題になったかも。ラファは独りで淡々とブラックダイヤツナをいなしながら引き付け、トカラも強壮剤を飲みながら、サンダーストームを次々に放ち続けている。
トカラは、この前のザビル第二迷宮での迷宮討伐戦を戦った魔道士のドロテアに倣っているのかもしれない。彼は油断なく、前衛陣の動きを見つめながら、何かあれば装備品を渡す姿勢を崩していない。頼もしく感じるぞ。
やがて、もう一匹のノドグロも墜落した。モニカ達が直ぐにラファの援護に向かったところを見ると、麻痺ではなく石化したようだ。これで本当に安全圏に抜けたな。
最後に残ったブラックダイヤツナを煙に変え、石像になったノドグロをみんなで囲んで刻み始めた。遠目にだが、6人の表情は笑顔に見える。鋼鉄の盾を2つほど失ったが、想定通りの完勝と言って間違いないだろう。
横を見ると、フラウスは今にもラファとヘルミーネの所に駆け出していきたいのを我慢しているように見えた。俺の視線に気付いた彼女は少し照れている。ラファを信奉する真面目な彼女でも、こんな表情を見せるのか。いや、ラファ親衛隊だから、この表情なのかもしれない。
やがて、全てを討伐し終えたようで、二匹のノドグロが消えた位置に6人が集まっている。こちらを向いた6人の表情は皆、歓びに満ち溢れていた。そして、マリーとミラは、こちらに向けて大きく手を振っている。
もう、聞かなくても結果は分かっているさ。俺の横にいたフラウスは槍を投げ捨て、6人の所へと駆け出していく。いつもの冷静な彼女の姿は、そこにはなかった。
出遅れた俺は、ゆっくりと皆のいる方へと歩いていく。
初めに目に映ったのは、満面の笑みを浮かべたマリーとミラの顔。小柄な狼人族のマリーとドワーフなのに大柄なミラが並んで、こちらを見る姿にほっこりとする。
竜人族の魔道士トカラと、我が家では古参に入るモニカも笑顔で話し込んでいた。前衛と後衛の違いはあるけど、パーティーで戦っている間に仲良くなったのだろうか。
そして、ヘルミーネには、フラウスが泣きながら抱きついていた。横で見ているラファの眼差しがなんだか優しげに見える。俺はてっきり、フラウスはラファの所に走っていったのだと思ったのだけど、違ったようだ。
フラウスは過去に迷宮で仲間を失った経験があるから、これだけ喜んでいるのだろうか。抱きつかれているヘルミーネの目にも薄っすらと涙が浮かんでいるようだ。元貴族の彼女には、迷宮討伐は感慨深いのかもしれない。
ヘルミーネの方を見ていると、こちらの視線に気付いたのか、彼女は少し照れた表情になり、こちらにペコリと頭を下げ、右手に持ったギルド神殿を掲げてみせた。
横にいるラファも嬉しそうな表情で、左手でギルド神殿を指差している。彼女にとっては二度目の迷宮討伐だ。初回と比べるとギルド神殿を見るのも慣れたのだろうか。
前回の迷宮討伐と比べれば、見学者も少なく、こじんまりとした討伐戦だったが、やっぱり迷宮討伐は終わった直後が最高の雰囲気だと思う。我が家ではリスクは低いとはいえ、命懸けの戦いを乗り越えたからだろう。
アキシマの迷宮討伐は公式には誰に褒められる訳でもない。ターレ、ボーデ、ザビル第二迷宮は、貴族からの依頼があって討伐を成し遂げ、依頼元のハルツ公やザビル子爵に報告を行い、労いの言葉もかけてもらった。
それに対して、アキシマ迷宮は非公式に討伐し、その事実を知るのはタケダ家の身内のみ。案内してくれた冒険者には、討伐したことを黙っておくつもりだ。カッサンドラおばば様に報告するのも、今のところ考えてない。
だが、彼女達の成し遂げた迷宮討伐を誇らしく思う。我が家の迷宮討伐実績だからというのではなく、彼女達の今の表情が困難を乗り越えた事を物語っているのだから。
見学者はフラウスだけだったが、討伐の報告会は希望者を集めて実施することになっている。そこで、迷宮討伐の詳細や装備品破壊などが発生したことも伝え、次の迷宮討伐を目指す者達への意欲に繋がると信じている。
ファビオ士爵から迷宮討伐を依頼されたし、公式、非公式を問わず、タケダ家として迷宮討伐は進めていく。
そして、今回のヘルミーネ達には、心から『よく頑張った』と賛辞を贈りたい。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回の投稿まで間が空いてしまい、申し訳なかったです。
次回投稿日は2026/10/24(土)の予定です。