異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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諸般の事情があり、投稿時間を二時間前倒しにいたします。


138.自爆玉

 ヘルミーネ達のアキシマ迷宮討伐に刺激を受けた訳ではないが、迷宮組の戦い方に変化をつけることにした。

 

 68階層のボス戦を終えても、レベルキャップの壁を超えられず、Lv97のまま停滞している。もういっそ、クーラタルの69階層以降の探索を進めてみることにした。

 現在の迷宮組に配備されている豪華なスキル融合装備品と、大半のメンバーのジョブレベルがLv97になっている現状を考えれば、それほど危険はないと思っている。

 

 具体的には69階層から74階層まで、午後の時間を使って、1階層ずつ試しに戦ってみる。問題なければ午後の半日で終わらせ、翌日は次の階層で戦うという進め方。

 そして、75階層に入ったら階層ボス戦を目標に、日数をかけて探索していく。75階層を特別扱いするのは、ボスモンスターのドロップ品が自爆玉だからだ。

 

 タケダ家でも、自爆玉をいくつか保有している。バラダム家との決闘で入手したり、セ二号作戦で殲滅した敵から戦利品として得たものがあり、倉庫に保管してある。

 

 今のところ、自爆玉を使いそうなのは、レドリックとポーラの間に生まれるであろう子供ぐらいだろうか。二人に自爆玉の利用の意向を確認したことはないけれど。

 まだ生まれてもいないし、生まれて直ぐに自爆玉を使える訳ではないから、両親の意向は確認していない。今はへたに刺激しないで安全に子供を産んでほしいから。

 

 自爆玉は、エリクサーと並んで、いや、エリクサー以上に他国への持ち出しが禁じられているのだとヘルミーネから教えてもらった。特に王国へは輸出が厳禁なのだと。

 なにせ、魔法使いのジョブを生み出す唯一のアイテムとして認識されており、迷宮や戦争における強力な戦力である魔法使いを生み出せることが理由らしい。

 

 輸出云々の話はともかく、75階層の戦いに向けて、迷宮組は動き出した。新しい階層での探索と強度を増したモンスターとの戦闘なので、前衛組は大歓迎のようだ。

 

 グラ爺と午前中は剣技を磨くための訓練に勤しんでいるのだが、ゲーム脳(サイドエフェクト)が『レベル上げは重要だ』と俺に囁くのだ。69階層以降の探索が、レベルの停滞に効果があるのかは未知数だが、仮にレベルが上がらなくても自爆玉を入手する手段の確保には意味があるだろうと考えての選択だ。

 

 ゲーマーとして、新しい階層、強いモンスターとの戦いに心が躍るというのも理由の一つ。結局、俺も前衛組の連中と思考回路が変わらないってことなのだろうな。

 もし、75階層のボス戦をクリアして、レベルが上がらなかったとしても、76階層を目指すかもしれない。それはクリアしてから考えることだと割り切っている。

 

・・・・・・

 

 まずはクーラタルの69階層の探索から開始した。

 69階層で一番多く出現するのは、スパイクスパイダー。

 既に33階層下のボス戦で戦った相手だ。

 

 だが、レベルが33も上がり、69階層の出現数は最大七匹だ。33階層下では、ボス戦でも二匹までだったのに対して、パワーアップしてわらわらと出てくる。毒化させてくるし、鋭い前足での攻撃にも注意が必要な相手だ。

 67階層からはワンランク上の強さなので、前衛陣も歯ごたえのある相手に緊張感を持って戦えることだろう。

 

 

 ・・・・・・と思っていた頃が私にもありました。

 前衛陣(お前ら)、おかしくないか?

 

 カーラへの攻撃が当たらず、オリビアが槍二刀流で封殺する・・・・・・ここまでは想定内だ。でも、ヴィルマも二匹同時に攻撃されても回避するし、イレーネもカウンターでビシバシ石像を作っていく。ここまで圧倒するか?

 剣聖のレベルが90台に達したカーラのパーティー効果によるものなのか?それとも、グラ爺の訓練の成果?前衛陣も皆、グラ爺の薫陶を受けてるんだよなぁ。俺が剣の訓練を重ねても、彼女達の背中はさらに遠ざかっていくのか。

 

 ごくまれに巨大グモが七匹勢揃いしていても、前衛に布陣した彼女達四人だけで、敵をシャットアウトしている。後方にいる俺とアミルの所まで、巨大グモは来やしない。二人で顔を見合わせて、苦笑するしかないぞ。

 69階層まで来ると通路が広く、前衛陣が四人並ぶこともできる。さらに、両翼が突出して鶴翼の陣のように戦ったり、中央の二人が前に出て魚鱗の陣のようになったりと、戦いやすいように陣形を調整している。

 

 前衛陣の四人が、そんな陣形を知っているわけはないから、天性のセンスによる振る舞いなのだろうか。俺やアミルは特に指示してないのに、見事な陣形で効率良く戦っている。巨大でキモくて凶暴な蜘蛛を相手に感心してしまう。

 俺達二人の出番は、たまに天井に張り付いているスパイクスパイダーを槍で地面に叩き落とし、ヴィルマやイレーネが戦いやすいようにすることくらいだろうか。それすらもオリビアがやることもあり、出番がなかったりする。

 

 スパイクスパイダーが密集して迫ってきても、カーラは怯まずに前進し、次々に繰り出される多数の鋭い脚の攻撃を回避しまくる、超絶避けタンクぶりを披露する。オリビアも相変わらずの移動要塞で、中央に鎮座して戦線を堅持してくれるので、後ろで見ていて安心できた。

 盤石の竜将軍オリビアと遊撃で相手を攪乱する剣聖カーラ。そして、攻守にバランスが取れた百獣王のヴィルマと石像生産機のくのいちのイレーネが両翼を固める。

 

 両翼のメンバーと、たまに俺かアミルが交代して戦うこともある。じゃないと暇で仕方なくなるからね。アミルは鍛冶師でダマスカス鋼の槍を振るい、俺は四本の腕で武器を扱う。と言っても、使うのは主に二本だけだ。

 上腕にデュランダルと硬直のエストック、下腕には聖槍とダマスカス鋼の槍を持つ。訓練で身に付けた剣技を実戦で試すので、主に上腕を近接戦闘で使い、下腕の武器は、天井から敵を叩き落とすために使うほか、魔法武器としても利用する。

 

 とはいえ、いつもスパイクスパイダーが七匹出現する訳ではない。下の階層でも出現したコボルトイェーガーやカナリアカメリアも相手するので、そうなると楽ちんだ。その半分程度はスパイクスパイダーなのだけど。

 そこそこ歯ごたえのある相手と戦えて、モチベーションも維持しながら問題なく、殲滅を重ねていく。夕方頃になり、探索を切り上げる時には、明日の午後は次の70階層に上がっても問題ないという結論に達していた。

 

・・・・・・

 

 翌日の午後、クーラタルの70階層での探索を開始。

 

 70階層で多いのはスリープシープ。スパイクスパイダーほど巨大には感じないし、キモくもないのだが、突進してくるのが鬱陶しい。とはいえ、中央のオリビアが簡単にスッ転ばすし、俺やアミルの槍も活躍できる相手。

 槍で突進を防ぐと、俺やアミルは下がって、ヴィルマやイレーネとスイッチする。突進してきた羊が地面に転がる中、スパイクスパイダーが迫ってくると乱戦状態。そんな中を躊躇なく前に出て、ひょいひょい避けまくりながら、剣戟を放つ避けタンクの方もいらっしゃいますが。

 

 パワーとスピードを織り交ぜながら、70階層の探索も順調に進んでいく。とはいえ、たまにはスパイクスパイダーやスリープシープの攻撃が当たることはある。

 そんなにバンバン被弾する訳じゃないけど、無傷とはいかないものの、すぐにHP吸収のスキルが付与された武器を使って回復している。一方で、スパイクスパイダーやスリープシープの攻撃によって状態異常になることは一度もなかった。

 

 元々、毒・麻痺・石化・睡眠の四つの状態異常に対する耐性防具を装備していた。だが、高階層で一度、麻痺になったため、ハーブのモンスターカードを使って『状態異常対応』のスキルを付与して耐性強化を図った。

 それ以来、一度も状態異常にはかかっていないのだが、70階層前後のモンスターでも、それが有効ということなのだろうか。これより上の階層でも、効果が維持されると良いのだが、今後も経過観察だな。

 

 突進してくるスリープシープと、攻撃力も高く天井を歩いてくることもあるスパイクスパイダーの組み合わせは適度な緊張感を生みだしている。70階層での戦闘も、前衛陣はそれなりに楽しめたようだ。

 とはいえ、危なく感じることはなかったため、翌日は71階層へと進むことになった。

 

 

 翌日の午後、71階層で増えるのはコーラスコーラル。

 

 サンゴのモンスターカードをドロップしてくれることもある嬉しいモンスターなのだが、戦闘での人気は低い。動きもそれ程速くはなく、スパイクスパイダーのような天井からの攻撃もないので前衛陣には不評だ。

 昨日と比べて、明らかに前衛陣の元気がない。一時間も戦うと『もう次の階層に行かない?』と言わんばかりの表情だ。実際、サンゴのモンスターカードがドロップしても、俺とアミル以外の反応は非常に乏しい状況。

 

 それでも、なんとか前衛陣をなだめすかしながら、その日の探索を終えた。そして、相変わらず、カーラ以外の迷宮組メンバーのジョブレベルは上がらないままだ。

 

 

 次の日の72階層からは、突進してくる牛型モンスターのセンマイが加わった。これでなんとか持ち直せるか。センマイは同じ突進型のスリープシープよりも体が大きく、突進力も強いため、厄介な相手だから。

 動きの遅いコーラスコーラルを置き去りにして、センマイとスリープシープが突進してくる。カーラは回避するだけでなく、二刀流でダブルスラッシュを繰り出し、すれ違いざまに脚を斬り払って転倒させている。

 

 全て転ばせると、他のメンバーの不興を買うので、適度に転ばせる余裕があるほどだ。ヴィルマやイレーネもカーラに倣い、楽しそうにセンマイを転ばせている。

 一方で、オリビア、アミル、俺の三人は槍を突きだして、豪快にパワーでねじ伏せた。巨大なセンマイを避けずに突き刺したり、叩き伏せたりするのは緊張感もあって楽しい。

 

 センマイやスリープシープがドロップする肉系の食材アイテムも多く積み上がったことで、なかなか盛り上がる階層になっていった。

 

・・・・・・

 

 その翌日は73階層で、フラッシュラビットの階層。

 

 ただでさえ移動速度が高く、俊敏に動き回るフラッシュラビットが高レベルになり、一層手強くなった。昨日のパワー型で大型のセンマイに加え、スピード型で小型のフラッシュラビットも現れ、難易度が大幅にアップした。

 敵の難易度上昇に比例して、前衛陣のテンションも最高潮に達した。高速で移動するフラッシュラビットを、スキル攻撃で撃墜するのが一大ムーブメントになった。

 

 ヴィルマは百獣王のビーストスラッシュで倒し、イレーネはくのいちの一閃で斬り捨てる。カーラに至っては剣聖のダブルスラッシュで二匹同時の斬撃を放って、フラッシュラビットを次々に打ちのめして楽しんでいる。

 オリビアだけは、巨大なセンマイを相手に竜将軍のドラゴンファングでド派手にブッ飛ばして悦に入っている。

 

 我が家の前衛陣が凶悪過ぎる件について・・・・・・楽しんでるから、まあいいか。俺とアミルの二人は苦笑するだけ。そしてセンマイに続き、フラッシュラビットも肉系の食材アイテムを落とすので、テンション爆上がり状態。

 二日前のコーラスコーラル出現階層で、テンションが低かった状況と比べると雲泥の差だ。俺とアミルも時々、代わってもらって楽しんだ。アミルもフラッシュラビットの動きに苦しめられながらも笑顔で対応していた。

 

 やっぱり、迷宮組はこれじゃないとね。

 

 笑顔の絶えない階層だったけど、明日以降もずっと73階層で戦い続ける訳にはいかない。十分戦えることを確認したので、74階層に上がる決断をした。

 

 

 次の日の74階層はオークウッドが出現する階層。

 

「鈍臭い木・・・・・・」

 

 イレーネの言葉が示す通り、鈍重で大きな木の形をしたモンスターである。当然、テンションは下降気味。だが、オークウッドは魔法使い御用達のスタッフの武器生成に必要な鍛冶素材をドロップしてくれる。

 アミル達鍛冶師グループでスタッフを量産するうえでは、ありがたい階層だったりする。半日だけの探索での戦闘だが、鍛冶素材をそれなりに持ち帰りたいところだ。

 

 迷宮に初めて入った頃にはニードルウッドに、よく世話になっていたが、それよりも二回り以上大きく、枝も太くて長い。高レベルとあって、攻撃力もそこそこのはずなのだが、我が家の前衛陣の前では脅威とならない。

 リーチの長い枝を、風切り音を立てながらぶん回すが、カーラはもとより、ヴィルマもイレーネも軽々と回避する。

 

 フラッシュラビットがいる時は先に接敵してくるので、前の階層同様にすれ違いざまに斬り捨てて各個撃破する。その後は、前衛陣がオークウッドの料理にかかる。

 オリビアの槍二刀流がオークウッドを激しく揺さぶり、三人の斬撃が小気味よく決まり、次々とドロップアイテムの鍛冶素材を積み上げていく。センマイほどではないが、巨大な分だけ、少しは楽しめているのだろうか。

 

 74階層も問題なく戦えている。次は自爆玉狙いの75階層だ。

 

 暫く前に立てた目標の『70階層ぐらいで戦えること』を、今は達成できていると考えて良いかもしれない。強力な前衛陣と地道なレベリングの成果なのだろうか。

 

・・・・・・

 

 翌日から75階層に移り、ボス部屋を目指す探索となった。

 

 75階層からはソルジャーアントが出現する。毒化攻撃をしてくる巨大なアリだ。33階層下ではボスモンスターだったし、高レベルになったから攻撃力も高いはずだ。

 フラッシュラビットほどではないが、体格の割には俊敏だった印象があるので、油断ならない相手だ。

 

 だが、凶悪な蟻型モンスターのソルジャーアント云々よりも、75階層では別の関門が俺達を待ち受けている。

 

 

「インテリジェンスカードのチェックをします・・・・・・」

 

 

 75階層は、ボスモンスターが自爆玉をレアドロップする。自爆玉は外国への輸出に規制がかかっており、ボス部屋に一番近い小部屋には騎士団が常駐し、探索者のインテリジェンスカードをチェックしている。

 63階層でも、エリクサーの生薬素材である威霊仙を狙う探索者達を騎士団がチェックしていた。それと同様のことを、75階層でもやっているということだ。

 

 特に悪いことをしようとしている訳でもないし、先日は63階層でも同様のチェックをしてパスした訳なので、堂々と左腕を差し出した。俺の後ろに五人も続いている。

 

「自由民・・・・・・ユキムラ タケダ・・・・・・特に問題ないか」

「奴隷身分・・・・・・?」

「この者も、奴隷身分・・・・・・?」

「この者も、奴隷・・・・・・?」

「また、奴隷・・・・・・?」

「奴隷・・・・・・?」

 

 奴隷が五人いてはいけませんか?別にいいじゃん。

 

「複数パーティーではなく、単独で挑むのか?」

「そうですね。まあ、様子見がてら」

「少々、尋ねたいことがあるので、こちらに来てもらえるだろうか?」

 

 あ、あれっ、予想が外れたかな。前回の63階層のときより奴隷が一人増えたから駄目?いや、これは違うな。少し前にあったエステル男爵襲撃事件での影響かもしれない。

 あの襲撃者達は奴隷六人だったから、今回の俺達も疑われてるのかも。仕方がないので、騎士団員の後ろを歩きながら、リュックの奥にあるものをゴソゴソと探る。

 

 そういえば、ヘルミーネから自爆玉の生薬素材の収集は、複数パーティーで挑むのが一般的だと聞いた気もする。ボス部屋に一番近い小部屋からでも一日では辿り着けないので、複数パーティーで休みながら進むのだとか。

 それはともかく・・・・・・。

 

「ああ、一応、こういう者なのだが・・・・・・」

「えっ?これは公爵様の・・・・・・!」

 

 ハルツ公のエンブレムを取り出して、騎士団員に提示。

 悪用するなとは言われたけど、関係を示すだけだからね。

 

「失礼しました。通ってもらっても大丈夫です」

「そうか。手間をかけさせて悪かったな」

 

 別にこちらは悪いことをしていないのだが、騎士団員を労っておくことにした。

 

 改めて、小部屋を出て75階層の通路へと踏み出した。

 

・・・・・・

 

 

 三匹のソルジャーアントの隙間を縫うように、フラッシュラビットが疾走してくるのをイレーネが『一閃』のスキルで叩きつけ、オリビアとヴィルマが止めを刺した。

 その向こうでは遅れて駆けつけたソルジャーアントの攻撃を、カーラが踊るように躱して駆け抜けていった。奥にいるオークウッドの所へと向かっていったのだろう。

 

 三匹のソルジャーアントの相手は残りの前衛陣が務めることに。中央にオリビア、左右にヴィルマとイレーネが展開して、ソルジャーアントとの戦いの火蓋が切られた。

 ギチギチと音を立てながら、巨大なアリの顎で攻撃をしてくるが、イレーネもヴィルマも臆することなく躱して、目玉や首に容赦なく強い斬撃をお見舞いしている。

 

 オリビアは二本の槍を交互に強烈に突き出して、近づけることなく地面に縫い付けるように叩きのめしている。ダマスカス鋼の槍のリーチを最大限に生かした攻撃だ。

 遠目にはカーラがオークウッド二匹の間で、華麗に舞うように太い枝の攻撃を躱し続けているのが見えた。ただ踊っているだけでなく、カウンターで斬撃も入れている。

 

 この階層でも問題なく戦えそうだな。このまま数日かけて、ボス部屋を目指し、自爆玉の生薬素材収集をしよう。

 

 

 でも・・・・・・その前にやることを済ませるか。

 

 一時間ほどバトルを堪能し、インテリジェンスカードのチェックを受けた小部屋へと戻った。先ほど会話した騎士団員に会釈をしながら、小部屋からダンジョンウォークで移動。その後、ワープで75階層の通路へと戻る。

 この階層でボス部屋へと向かったパーティーを騎士団員が記録していた場合に、面倒なことが起きるのを防ぐための偽装工作だ。エステル男爵の襲撃事件があったので、騎士団がいつも以上に緻密にチェックしていた場合に備えての対応。

 

 『あの奴隷の多かったパーティーが75階層に入ったまま戻ってこない。76階層に抜けた形跡もない・・・・・・』などと変に勘ぐられても困る。なので『いったん、我々は小部屋に戻りましたよ』というポーズを作るためだ。

 実際には、これから数日はワープを使って迷宮の通路に直接移動して探索をするのだが。ダンジョンウォークではできないことなので、コソコソと行動せざるを得ない。

 

 気を取り直して夕方になるまで、六人でひたすらバトルを楽しんだ。アミルだけは苦笑していた気もするけど。

 

・・・・・・

 

 それから数日は、午後の時間を使って75階層でソルジャーアントを中心とした戦いを続けた。そして、ようやくボス部屋へと辿り着くことができた。周囲に俺達以外のパーティーがいないのは索敵スキルで確認済。

 

 そして、75階層のボス部屋に辿り着いたことで、うっすらと違和感があることに気付いた。それは、67階層以降の探索エリアが、66階層までの探索エリアと比べて広くなっていないのではないか、ということだ。

 まずは、66階層と67階層では、通路の幅は同じだった。これは元の世界から持ってきたメジャーで測ったので間違いない。そして、ボス部屋に一番近い小部屋から、ボス部屋までの距離も極端に遠くなっていない気がした。

 

 あくまで気がするという曖昧な感覚なのだけど。46階層以降になると、全ての探索エリアをクリアにするようなことはしていないので、66階層と67階層以降で厳密にどこまで面積が違うのかの比較は正直なところ難しい。

 ただ、67階層はボス戦を戦ったので、ボス部屋に一番近い小部屋からボス部屋までの距離はだいたい分かる。今回の75階層も同じだ。もちろん、小部屋の位置は各階層毎にバラバラなので、これも感覚論に過ぎない。

 

 だけど、67階層以降は、56~66階層までのエリアの面積と同じだと思うのだよなぁ。今後も78階層以降を探索することがあるかもしれないので、上に行くほど、探索範囲が広大になってないことを祈るばかりだ。

 今までの経験だと66階層までは、11階層毎に通路の幅も階層のフロア面積も徐々に広がる傾向があったので、頭打ちになってくれていると助かる。

 

 

 気を取り直して、ボス戦に意識を向けよう。

 まずはブリーフィングから。

 

「75階層のボス戦では、ボスモンスター三匹との戦いになる。初期状態ではお供はいない。

 この階層のボスはクイーンアント。ソルジャーアントよりも更にデカいアリ型のモンスターだ。

 だが、この階層のボスであるクイーンアントは、お供のモンスターを召喚するらしい」

「ご主人様、下の階層にいたマザーリザードと同じなのですね?

 となると、召喚はスキルではないので、詠唱中断で防げないのでしょうね」

 

 アミルの指摘に頷いた。

 

「アミルの言う通りだな。戦闘が長期化して、お供が増えてくると厄介だ。

 なので、速やかに相手を石化や麻痺にするか討伐してしまうことが望ましい。

 では、この後の指示はアミルに任せるぞ」

「はい。では、相手はボスモンスターが三匹です。

 なので、一匹につき二人ずつで戦いたいと思います。

 中央をオリビアさんとカーラさん、右翼をヴィルマさんと私で受け持ちます。

 左翼はご主人様とイレーネさんでお願いします。槍を使う人と剣を使う人で二人組にしました。

 ご主人様は雷魔法もお願いします」

「了解!!」

「了解!!」

「了解!!」

「了解!!」

「了解」

 

 気合入ってるなぁ。多分、ソルジャーアントよりは、歯ごたえがある敵だからなのだろうけど。

 

「初回は小荷駄隊外しを使う。陣形が組めたら始めるぞ」

 

 全員が頷くのを確認して、ボス部屋に侵入。陣形が整ったので、エネドラを小荷駄隊に戻して戦闘開始した。

 

(サンダーストーム、サンダーストーム)

 

(状態異常耐性ダウン)

 

 俺とイレーネの前にいるクイーンアントに博徒のスキルをかけた。そのまま、両手に持ったダマスカス鋼の槍と聖槍を交互に突き出して、クイーンアントを揺さぶる。

 イレーネは左側面に回って、猛烈な勢いで硬直のエストックの刺突を繰り出し始めた。俺が正面で攻撃して牽制をしているから、今なら攻撃し放題になるからな。

 

 他の二組も同様の戦略を取ってるはずだ・・・・・・いや、カーラのいる組は囮と攻撃役が剣と槍で逆かもしれない。

 

 二本の槍で女王アリの足を狙って態勢を崩し、イレーネに負けじとデュランダルと激情のダマスカス鋼剣で攻撃した。

 

 おっと石化したな。さすがにイレーネがいると早い。

 

「俺はアミル達の方に回る。イレーネはカーラ達の方に合流してくれ」

「了解」

 

 イレーネは石像になったクイーンアントの背後を回り、隣の獲物に向かって走っていった。

 

 

 多分俺達が、ボスを無力化した一番乗りだろう。

 

(サンダーストーム、サンダーストーム)

 

(状態異常耐性ダウン)

 

 オリビアの後ろに回りながら、雷魔法2セットと博徒のスキルをかけた。二人に合流しようとするイレーネの援護だ。

 

 そのまま、アミルとヴィルマ達の方へと合流した。

 

「アミル、スイッチ!」

 

 アミルが対峙しているクイーンアントに攻撃を仕掛け、彼女を後退させた後、側面へと回るように指示した。そして、先ほどと同様に槍二本で激しく突きまくる。

 この隙にヴィルマの連続した剣戟で麻痺させてもらえると助かる。

 

 

「ヴィルマさん、後ろ!危ない!」

 

 クイーンアントの側面を槍で攻撃していたアミルが、突然叫び声をあげた。ヴィルマはちょうどクイーンアントの反対側にいて、俺からは見えないんだよ。

 

「アミル、どうした?」

「ヴィルマさんの後ろに、急にソルジャーアントが召喚されて。今はイレーネさんが対応してるから大丈夫です」

 

 見えなかったけど、モンスターが召喚されたのか。

 これは急がないとな。

 

 結局、残る二匹のクイーンアントを力技で削り倒し、イレーネがソルジャーアントを石像にして、戦闘は終了した。

 

「これがボスドロップか」

「そうですね。ハズレでしたけど」

 

 目の前には、ソルジャーアントがドロップした『即死毒針』が1つ、クイーンアントがドロップした『グロウエッグ』が3つあった。

 

「アミル、『グロウエッグ』って・・・・・・」

「確かドープ薬の生薬素材だったと思います。

 自爆玉の生薬素材は『女王への忠誠』だったはずです」

 

 自爆玉の素材はレアドロップだったから、3つ同じアイテムがドロップした時点でハズレだとは思ったけどさ。それにしても、ドーピング用とはいえ、成長を促進する素材と自爆用の素材が通常ドロップとレアドロップってのもねぇ。

 

「じゃあ、一応『女王への忠誠』とやらがドロップするまで、ボス戦を繰り返すぞ」

「了解!!」

「了解!!」

「了解!!」

「了解!!」

「了解」

 

 アミルは苦笑いしているが、他の四人は元気だね。クイーンアントは確かにタフで、通常モンスターを召喚するから、討伐レースをしてる感じになるんだよなぁ。

 この階層は通常戦闘もそうだけど、ボス戦も前衛陣に気に入ってもらえたようだ。

 

 結局、6回ほどボス戦を繰り返した。クイーンアントと戦うペアを変更しながら、戦闘を満喫。たまに召喚されるモンスターが良いアクセントになる程度に余裕だった。

 合計で『グロウエッグ』が19個、『女王への忠誠』が2個ドロップしたので、俺は薬師にジョブを変更した。

 

「天地万物思ひ解く(おもひとく) 木叢(こむら)の祈り身に宿せ 上級生薬生成!」

 

(鑑定)

 

 確かに『自爆玉』と鑑定されたから間違いないな。

 これで、今回の最低限の目的は果たしたか。

 直ぐに使い道はないけど、何かの交渉に使えるだろう。

 

 結局、75階層のボスを倒してもLv97のままで変わらずだ。

 レベルキャップの解放は、期待してなかったけどね。

 

 今日の探索はこれで終了だな。

 76階層には進まず、ワープで戻るか。

 

 微妙な気分になったが、前衛陣の満足そうな表情を見て、ほっこりしながら、ワープゲートを開いて帰宅した。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/10/28(水)の予定です。
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