・シーナ :元子爵令嬢。現在、魔法使いと巫女のジョブで活躍中
・カーラ :シーナの姉。迷宮組に所属し、剣聖のジョブを持つ
・ノエル :シーナの弟。未成年だが、剣匠、神官、魔法使いのジョブを所有
・リオン :元エストグリュン家の騎士で、探索者のジョブを持つ年長者
・ルイ :リオンの弟。博徒のジョブを持つ
・グラジオラス:『
・グラシア :カーラ同様、グラ爺から剣の教えを受けた愛弟子で剣匠
・シェル :エルフ族の元男爵令嬢。ユキムラに救出された
・メリル :シェルの妹。姉と同じくユキムラに救出された
・ヴェロニカ:シェルとメリルに忠誠を誓う元騎士で二人の護衛役
迷宮組が次にどうするか、メンバー内で話し合った。
結果として、クーラタルの76階層へ進むことを選択。
『ハイゴート』のモンスターカードは、76階層の通常モンスターと戦ってもドロップせず、76階層のボスモンスターからのみドロップする仕様だからだ。
アミルが調べてきた話では、隻眼が『ハイゴート』と『ハイコボルト』をスキル融合することで、知力5倍のスキルを付与できるらしい。彼女が隻眼ジョブを得ることも視野に入れ、ボス部屋への道を確保しておきたい。
というのも、『ハイゴート』のモンスターカードは76階層で戦えばドロップするのではなく、76階層の
ボスモンスター限定はハードルが高いが、こちらにはワープでボス周回という裏技がある。エリクサーや自爆玉同様、ボス部屋まで手軽に行ける道を確保するのが目標。
76階層のボスは三匹出現するので、数百周もすればゲットできるはず・・・・・・数百周?何周目で取得したか記録せねば。迷宮組メンバーが飽きてしまいそうだから、ラファ達などを入れて、適宜メンバー交代しながらやるか。
ああ、『ハイゴート』だけでなく、『ハイコボルト』も必要なのか。原作と違って、『ハイコボルト』のモンスターカードは持っていない。これもボス周回を数百周か。
俺の気の重さをよそに、76階層の戦闘は進んでいく。
76階層は突進型のヤギ型モンスターであるアルパインを中心に、ソルジャーアントが混じっての戦いとなる。相手の布陣に迷宮組もそこそこ満足しているようだ。
フラッシュラビットの出現はめっきりと減ってしまうが、大型のアルパインには巨大な角があるので緊張感はそれなりにある。前衛組四人が大活躍できる階層だ。
ボス部屋までは一日で到着できないので、数日かけて探索する。探索の途中では、63階層で『威霊仙』、75階層で『女王への忠誠』を得るため、ボス周回をそれぞれ1時間ほど行う。その分、76階層の探索は少し遅れがちになる。
3つの階層を行き来する探索となるので変化があり、迷宮組のメンバーには良い刺激になっているかもしれない。
エリクサーはともかく、自爆玉はそれほど数は必要ないだろう。何人もの貴族との付き合いはあるが、婚礼のお祝いに自爆玉を贈るほどの仲ではないような気もする。
76階層での戦闘を楽しみながら、自爆玉の使い方を正確に知らなかったことに気付いた。本当に今更だよな。
原作の記憶とヘルミーネに過去にチラッと聞いた話では、三才ぐらいまでに飲ませれば、確実に失敗するのだったか。飲ませて迷宮に入り、モンスターと対峙すればいいのか。迷宮に入るには、パーティーに加えるのか?
パーティー加入って、三才児相手にそれは無理か。別に対象は人でもいいのかな。どうせ失敗するのだから、人に向けても大丈夫?なんだかよく分からなくなってきた。
試しにアミルに訊いてみたけど、『自爆玉は使ったことがないので』って。いや、物心つく頃に使っていたら死んでるか。貴族や大商家でなければ噂レベルでしか聞かないから、ヘルミーネあたりにちゃんと確認するか。
・・・・・・
次にエステルの家に遊びに行ったついでに、自爆玉について確認することにした。結局、エステルの所には、かなりの頻度で行っているのだよなぁ。今日で三回目だし。
広場ではオリビアがエスピナに高い高いをし、皆が訓練に勤しむ中、エステルに神妙な面持ちで切り出した。
「自爆玉のことで確認したいことがあるのだけど・・・・・・」
「そうか、我についてこい」
二人で訓練の場を離れ、館の別室に連れていかれた。俺達の行動に気づいたヘンドリクスが、後から付いてきた。護衛のつもりなのだろうか。そんなに秘密にしなければならないことなのか?
テーブルを挟んで、ソファに腰をかけた。エステルは俺の前に座り、ヘンドリクスはその後ろに立っている。
「それで、自爆玉の話とは?」
「ああ。自爆玉を入手したので、使い方を確認したくてな。
三才までに飲ませると確実に失敗して、魔法使いのジョブが取得できるって聞いたのだけど、
子供に飲ませるのは、どこでもいいのか?
たとえば、今のこんなソファの上で子供に飲ませて、
エステルに子供を驚かせて失敗させてもらうとか?」
俺の質問にエステルは大きくため息を吐き、後ろにいるヘンドリクスが肩を震わせている。えっ?駄目なの?
「なんだ。そんなことか。てっきり、この前の襲撃犯の報告なのかと思ったぞ。
まあ、なんだ。ユキムラにぴったりの役目だ」
「俺にぴったりって?」
「子供に飲ませた後に、顔を近づければ怖くて泣くだろう?それで終わりだ」
ヘンドリクスは噛み殺していた笑いを堪えきれず、笑い出した。俺は『なまはげ』じゃないぞ!それに、そんなこと、セントバーナード顔の強面の奴に言われたくはない。
「貴重な生薬を飲ませるのだから、
誤嚥の危険性が低くなる年齢になってから飲ませ、あとは怖がらせればいいのだ。
基本的に自爆攻撃は失敗するものなので、
相手がモンスターでも人間でも構わないが、わざわざ迷宮に行く奴は聞いたことがないな」
「ちなみに、三才までって検証した奴がいるのか?」
何故、三才までなのかは気になるところだ。
HP値が関係あるのだろうか。
「過去に大人になっても魔法使いになりたい奴がいて、挑戦した馬鹿者がいたらしい。
もちろん本人は死んだがな。相手がモンスターだったのか、人だったのかまでは伝わってない。
何才になったら失敗するかまで、実験したかも知らんがな」
「普通は死ぬかもしれない実験に挑戦する者や、挑戦させる親はいないよな」
いくら偉い学者さんでも、検証させることはできないか。
「まじめな話、相手を殺すための自爆玉の使い方は、
飲んだ後に対象へ敵意を向けることだ。
敵意のない相手に視線を向けても発動しないらしい。
相手を殺すことを念じながら、視線を向けるのが一番だと聞いた。
もちろん試したことはない」
「・・・・・・」
試していたら、ここにいないもんな。この前の襲撃のことがあるから、ちょっと嫌な気分になった。俺が真面目に訊いたから、真面目に回答してくれたのだろうけど。
間違って自爆玉を飲んでしまった場合、発動する前に吐かせれば生き残れるのだろうか。もちろん試してみる勇気は俺にはない。
「その後、襲撃事件について何か新しい情報は入ったのか?」
「セバスチャンの方でも、各方面に情報収集しているようだが、特に有力な情報はないようだ」
それくらい用意周到な相手なのだろうな。
微妙な雰囲気が漂い、三人で広場に戻ることになった。
・・・・・・
76階層の探索も順調に進み、ついにボス部屋を発見した。
階層ボスのカシミア三匹に対して、二人一組になって立ち向かった。一階層下のボスであるクイーンアントのようにモンスターを召喚してこないため、ある意味では楽な相手だ。
面倒なのは、体が柔らかい毛で覆われていて、物理耐性が高いことだ。だから、顔面をとにかく攻撃するのが有効。
ヤギの顔した動物型モンスターを虐待する酷い構図。もっとも、甘く見ていると大きな角を振りかざして、突進してくるから要注意だ。情けをかけられる相手ではない。
二、三回戦うと前衛組は飽きてしまい、お開きにした。ボスドロップも『カシミア』で高級な服飾素材らしいが、迷宮組には興味を持つ者が誰もいなかったからだ。
三回戦った程度では、『ハイゴート』のカードがドロップすることはなかった。ボス周回は別の機会にしよう。
63階層と75階層でボス周回を1時間ずつ行ない、威霊仙と女王への忠誠を二個ずつゲットして帰宅した。
クーラタルの自宅に戻ると、なんだか家の中が慌ただしい雰囲気だった。エネドラを探して尋ねると、ポーラの体調が悪いとのこと。今は自室で休ませているらしい。
出産が近づいてきたのかもしれないので、チクルスが産婆さんを呼びにいってきた。産婆さんによると、すぐに出産するわけではないが、無理をしないようにとのことだった。
しばらくは彼女に無理をさせられないが、今は後方支援メンバーも多くいるので、影響は少ない。奴隷商人専用のオークションで奴隷を補充したばかりだし。しばらくはザビルで研修だが、そのうちクーラタルでも増員されるはず。
「チクルス、何かあればエリクサーは躊躇なく使ってくれ」
「はい。心得てます。
産婆さんからも、昼夜を問わず訪ねてきてもらって構わないと言われてますから」
確かに、ポーラのお腹は俺が見ても分かるぐらい膨らんではいる。彼女がなるべくお腹に負担をかけないように動いているのも見ていた。だからって、あとどのくらいで生まれそうかなんて、俺には全く分からないけど。
こんな時、俺は全くの役立たずだ。元の世界では出産に立ち会ったこともない。結婚すらしてなかったから、経験を積む機会もなかったし。チクルスやエネドラを頼るしかないので、せめて二人の負担が減るように配慮しよう。
ポーラは出産休暇扱いだ。ただ、この世界にはその概念がないので、安静にして穏やかに過ごしてくれと伝えるだけだが。
その後は幸いなことに、ポーラの体調は大きく悪化することもなく、月日が流れていった。
・・・・・・
「弟子達の戦いぶりは見ないのか?」
「くどい。迷宮に行くことはないぞ」
「俺は参加するのだけど、一緒に行かない?」
「おぬしはおぬしで、好きにするがよかろう」
今日はフリュウ迷宮の討伐予定日だ。
午前中にクーラタル迷宮で予行演習をして、問題なければ迷宮討伐に臨む。今回の迷宮討伐戦にはカーラも加わるので、事前確認で不合格になることはないと思うが。
フリュウ村の迷宮は最近出現したばかりなので、最高到達階層は50階層のはずだ。今回も、いつも通りに見学会を実施する。ここ数日の朝練で、グラ爺に見学会参加のお誘いをしているのだが、けんもほろろに断られているのだ。
グラ爺も、気にならないはずはないと思っているのだが。
攻め口を変えるか。
「迷宮討伐前に、あいつらに何か声を掛けたりとか・・・・・・」
「特に何もありはせん。いつもの迷宮探索と同じじゃ。
どんなにみっともなくとも、全員生きて帰ってこい。
それのみ」
うーん、頑なだねぇ。
「他人のことより、自分のことに精を出さぬか。
おぬしの剣技はそれほどまでの高みに辿り着いたのか?」
「ほーい」
こころなしか、いつもよりグラ爺はそわそわしている気がするのだけど、気のせいだろうか?でも、これ以上説得しても、きっとグラ爺は見学会に参加しないな。
仕方ない。万が一にもないとは思うけど、油断せず全力でサポートに徹しよう。グラ爺の言葉ではないが、全員を大怪我させることなく、必ず帰宅させるのが俺の役目だ。
その後、事前の予想通りクーラタル迷宮での予行演習も無事合格して、エルフ組は討伐戦に臨むことになった。待機部屋に多くの見学者達が集まり、討伐に向かうメンバー達は最後のブリーフィングを行なっている。
今回のエルフ組は、元エストグリュン家のメンバーで固められている。迷宮組からカーラが加わり、残る五人はシーナ、グラシア、リオン、ノエル、ルイとなった。
シェル、メリル、ヴェロニカの三人は遠慮したようだ。彼女達は別の機会に是非、挑戦したいと言っていた。
今回挑戦しないエルフ三人は、そのまま見学会の参加者だ。他にはクーラタル組でまだ迷宮討伐の経験がないマヤとサンドラ。マヤは百獣王、サンドラは刺客のジョブを保持しているが、それでも迷宮討伐の機会は巡ってこない。タケダ家では、競争が厳しいと言えるかもしれない。
他は、やはり次の迷宮討伐を狙うマテウスをリーダーとしたザビルの主力パーティー。ニケとローザの姿も見える。今回は、ザビルから10人以上の見学者が来ている。ザビルの戦力も徐々に増強されたと言えるだろう。
幹部クラスとしてレドリックとヘルミーネも参加。先日、エルフ組がこの迷宮で事故に遭ったので、二人はその後のエルフ組の成長を確認したいのだと言っていた。是非、今回の迷宮討伐戦で期待を裏切らないでほしい。
そろそろ始まりそうなので、ワープでピストン輸送するためのパーティー編成の最終確認を実施。討伐戦が始まると、最初だけ俺は忙しくなる。序盤戦が見られないのが非常に残念だが、俺しかできないのだから仕方ない。クーラタルの予行演習での戦いを散々見たとはいえ。
やがて、ブリーフィングを終えたシーナとカーラが、俺の下へとやってきた。
「ユキムラ様、準備が整いましたので、迷宮討伐戦を始めさせていただきます」
「そうか、落ち着いてやれば実力で勝てるはずだ」
「ユキムラ殿、我々の力を、しっかりと見ていてくれ!」
この大一番を迎えても、シーナは冷静に見えるな。カーラ、独りで頑張り過ぎるんじゃないぞ。全員の力で成し遂げるのだからな。頑張るなとは言わないけどさ。
シーナは一度、俺にお辞儀をすると仲間達の所へと戻っていった。カーラも後に続いてスキップでもしそうな足取りだ。全く、どちらが姉で、どちらが妹なのやら。
二人が戻ると、シーナを残して五人はボス部屋へと入っていった。迷宮討伐戦での最終入室者はシーナが務める。
準備が整ったのか、彼女はこちらを一瞥した後、軽く手をあげた。そして、軽快な助走をした後、小走りでボス部屋へと入っていった。
さて、こちらもピストン輸送に勤しもう。
・・・・・・
全員がゲートに入るのを見届け、最後にボス部屋に入った俺は、急いで現状確認。既に戦闘は始まっている。
中央に迷宮ボスモンスターであるブービートラップが二匹見えた。お供は左にアニマルトラップ、右はキラービーか。飛行型モンスターなのはイマイチだが仕方ない。
カーラの姿は、俺の位置からはよく見えない。というのも彼女は中央のやや後方から二匹に攻撃を仕掛け、双方からの攻撃を避けまくる役目。今回、彼女は迷宮ボス二匹を相手取って、避けタンクをやる蛮勇を振るう。
彼女は、長巻型の硬直のエストック二刀流で戦う。リーチの長い武器を二本使いながら迷宮ボス二匹を相手するなんて、超絶避けタンクというより、もはや変態の域に達していないか?嬉々として引き受けてるし。
だが、それは今回の戦略の一つの柱でもある。剣聖Lv94である彼女は、万が一、迷宮ボスの攻撃を受けても装備品が破壊される可能性は低い。レベル差が大きいからだ。
レベル差が40以上あるので、一発や二発受けても、破壊されることはないので許容される作戦。『一撃も喰らうつもりはないぞ』と彼女は平然と言ってたけどね。
もう一方の柱はグラシアとルイが担う。博徒Lv64のルイが『状態異常性ダウン』のスキルを迷宮ボスにかけ、カーラに引きつけられたボスに対して、剣匠Lv64のグラシアが二刀流で滅多打ちにして、状態異常を引き起こす。
グラシアはスキル攻撃など仕掛けず、ひたすら手数を増やして、状態異常の発生確率を増やす戦法。彼女の硬直のエストックには石化だけでなく、麻痺添加もスキル融合されている。麻痺から石化へと移行させていく流れだ。
とにかくボスの一方を速やかに無力化して、もう一体も同様の状態に追い込むというのが基本戦略。高レベルの博徒と、同じく高レベルの剣聖&避けタンクがいるからこそ成り立つ作戦だ。
攻撃力2倍と麻痺添加のスキルが付与された激情の鋼鉄槍を使って、ルイは左側のアニマルトラップの相手をしている。さすがに『状態異常性ダウン』のスキルだけを使って後方に待機してる訳にはいかないので、お供のモンスター一匹くらいは相手にせざるを得ない。
右側のキラービーは、ルイと同じスキルが付与された激情の鋼鉄槍を持ったノエルが対応している。ノエルは神官Lv63で、ひたすら全体手当を使いながら、キラービーとの戦闘を膠着状態に保つのが役目となった。
ノエルだけでは心もとないので、探索者Lv67のリオンが強権のダマスカス鋼槍を使って援護している。彼女は戦闘開始前に、装備品が破壊された場合に備えて、予備の装備一式をシーナに託し、前衛で戦っている。
そのシーナは今回、万が一の装備品破壊に備えたサポート役を務める。装備品の受け渡しがない時は、魔法使いLv62の彼女がひたすらファイヤーストームを撃ち続ける。
今回の迷宮ボスとアニマルトラップは火魔法が弱点なので、火属性の全体攻撃魔法を使うことが既定路線だ。彼女は最近、魔道士のジョブも得たが、レベリングが間に合わず魔法使いのジョブで戦うことを選択した。
先日、迷宮で失敗し、ローザから指摘を受け、お互いにカバーすることを学んだエルフ組。未成年が半数以上を占める彼女達の成長が、迷宮討伐戦で見られるだろうか。
しかし、カーラは二匹のブービートラップの攻撃を躱す、躱す・・・・・・あらかじめ迷宮ボスモンスターと示し合わせているのではないかと疑いたくなるぐらい見事な回避だ。
これが、いかに長く続けられるかが、今回の作戦のキモなのだが、遠目には彼女は楽しそうに見えるのだよな。
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最初に均衡を崩したのは、グラシアが背後から攻撃している迷宮ボスだ。麻痺したのか、動きが鈍くなり、彼女の攻撃頻度が急激に増した。カーラは麻痺していない迷宮ボスの攻撃を躱しながら、背後にいるブービートラップに向けて硬直のエストックで刺突を繰り出している。
やがて石化したのか、グラシアはもう一匹の迷宮ボスに対して、カーラと連携して攻撃を開始。ルイは、アニマルトラップとなんとか膠着状態を続けながら、残った迷宮ボスに博徒のスキルを発動したようだ。
今回、ルイといい、ノエルといい、よく頑張っているな。戦いながらの詠唱は難易度が高い。仲間が攻撃して隙を多く作ってもらったりと工夫しながら詠唱している。
ローザ達のアドバイスが効いたのだと思いたい。もちろん、本人達がたくさん努力したのは言うまでもないが。
戦う相手が一匹だけとなったカーラは、避けるだけでなく攻撃の手数も増やし始めた。剣聖と剣匠である彼女達の攻撃は、まるで演武を見ているかのような、華麗な舞だった。
シーナもファイヤーストームを詠唱し続け、前に出たいのをジッと堪えているようだ。まだ勝利は確定しておらず、己の役割を果たすことを理解しているのだろう。
もう一匹のブービートラップが沈黙したようだ。カーラとグラシアは左右に散って、両翼のモンスターへの加勢に入った。これで、ほぼ勝利は確定になったかな。
カーラはリーチのある長巻型エストックで、キラービーを叩き落とし、そのまま浮遊させることなく斬撃を叩き込み始めた。リオンとノエルもそれに続いている。
グラシアもアニマルトラップに苛烈な二刀流の攻撃を加えて後退させた。ルイも負けじと槍を強く突き始める。
やがて、両翼のモンスターは煙へと変わった。最後に残ったブービートラップの石像を、カーラとグラシアの二人が、笑顔を見せながら二刀流でひたすら刻んでいる。
シーナとリオンも楽しそうに、その輪に加わった。だが、両翼にいたルイとノエルは疲労と緊張が限界を超えたのか、へたりこんでしまった。まあ、二人はよくやった。
最後の石像が煙に変わると、リオンは弟のルイを、シーナは同じく弟であるノエルの腕を引っ張り上げ、中央に連れていった。きっとギルド神殿を見せているのだろう。
喜びを爆発させている彼女達の方へ、見学者達もゆっくりと歩き始めた。まずはパーティー内で健闘を称え合った後、祝福した方が良いとレイモンドは言ってたな。ヘルミーネはいきなりフラウスに抱きつかれていたけど。
それはともかく、レドリックとヘルミーネへと歩み寄る。
「この前の事故の反省は生きただろうか?」
「そうですね。連携はかなり良くなったと思います。
まだ危なっかしいところもありますけど」
レドリックの言葉にヘルミーネも頷いている。
成長したのは間違いない。でも今の俺には、カーラ抜きで彼女達を迷宮討伐に送り出す勇気はないな。まだまだ伸びしろはあるし、成長してもらわなければ怖いよ。
三人で近づいていくと、こちらに気付いたシーナとカーラが寄ってきた。
「ユキムラ様、これがギルド神殿です!」
「そうだな・・・・・・」
最近、見慣れてきたけど、なんでこんなに平凡なボールの形をしてるのだろうか。ファビオ士爵によれば、白金貨2、3枚程度の価値?そんな高価なものに見えないぞ。
まあ、神々しい彫像のようなものでも、扱いに困るけど。アイテムボックスに入るとはいえ、持ちにくいし。
「それ持って、報告に行くぞ」
「ああ、ユキムラ殿、師匠に早く報告したい!」
「カーラ、まず報告するのはフリュウ村の方だ。
俺達は依頼を受けて、迷宮討伐したのだろう?」
カーラを見ながら、妹のシーナが苦笑いしているのだが。
・・・・・・
見学者達をクーラタルへと送り返し、エルフ組とフリュウ村へと向かうことに。今日は迷宮討伐を行うと村の者には伝えていたので、迷宮に入ってる者はいないはず。
ゲートをフリュウ村のそばにある木の幹へと繋げると、さっそく彼女達は笑顔でゲートをくぐっていった。シーナが責任者だが、俺も報告を見届けるつもり。
ゲートを抜けると、村の門を守る見張りが、こちらに気付いたようだ。一人は手を振り、もう一人は村の中へと駆けていった。村長にでも伝えにいったのだろうな。
やがて血相を変えて駆けつけたのは、村長ではなくエルフ族の三人の若者だった。
この村に初めて訪れる前に、ニートアントに襲われていたのを助けた子達だった。確か、ヒルダとテルモと・・・・・・アベルだったか。鑑定スキルを使って思い出した。
三人はシーナ達に駆け寄り、抱きつかんばかりの歓迎ぶり。特にヒルダという娘の喜びようが凄いぞ。差し詰め、シーナ達は村を救った英雄といったところだろうか。
やがて村長がやってきて、ヒルダ達をシーナ達から引き離し、丁寧にお辞儀した。今日はグラ爺がいなくても、大丈夫みたいだな。いや、今まで村から迷宮に通っていたのだから、既に信頼されているのかもしれない。
ひとしきりシーナの説明が終わった頃を見計らって、村長や村人達のところへ近づいた。村人のどの顔にも笑顔が見られる。よく見ると、いつの間にか長老の姿もある。
「こちらがギルド神殿になります」
「ふむ・・・・・・?」
村長は小首を傾げているが、ギルド神殿なんて見たことないから、ピンとこないのかもしれない。俺だって初見なら『このチンケな珠が?』と思っただろう。7つ集めると竜が出てきて、願い事を叶えてくれるわけでもないし。
「確かにギルド神殿じゃな」
さすがに長く生きてきた長老は見たことがあるのか。
シーナは、これからのことを少し話して報告を終えた。迷宮を討伐したものの、対価となる木材やタルエムはまだ必要量を受け取っていない。しばらくは村との付き合いは続くからな。
笑顔の村人達に見送られ、フリュウ村での報告を終えることに。
とはいえ、村から出るわけではなく、村の中に借りている家から、クーラタルの自宅の玄関へと移動しただけだ。
玄関に戻ると、エルフ組はドアを開けて駆け出していった。
グラ爺に報告に行くのだろうな。俺も急いで後を追った。
修練場に行くと、グラ爺を囲んでエルフ組の連中が盛り上がっているが、グラ爺は訓練を邪魔されてご機嫌斜めのようだ。でも、心なしか真剣に怒っている気がしない。
それでも、グラシアがグラ爺の前に立ち、熱弁を振るっている。
「グラ爺、みんなで迷宮討伐を成し遂げたんだよ!」
「ふん。全員、無事に戻ってきたようじゃな。まあ、それで十分じゃ」
「えっ、それだけなの?もっと他にないの、グラ爺?」
グラシアをはじめ、他のエルフ組の面々のテンションの高さに比べて、グラ爺は不機嫌そうな表情だ。
エルフ組の騒ぎをジッと見ていると、不意に肩を叩かれた。レドリックか?
「あんなことを言ってますけど、午前中に訓練で剣を合わせた時は、心なしかいつもより集中力が無かった気もしますけど」
「えっ、レドリックって、爺さんのそんな些細な心の動きが剣から伝わるの?」
「まあ、なんとなくですけど。違ってるかもしれませんが」
おいおい、ちょっとレドリックって凄くない?
確かに、グラ爺が来るまでは、我が家では最も剣を教えるのが上手かったし、今でも剣技は我が家で五本の指に入るほどだと思っているけど。
それはともかく、やっぱりグラ爺も愛弟子たちが無事に帰ってくるのか気になっていたのだな。この前、迷宮で事故を起こしかけたから、無事に戻ってくるのが一番うれしいのだろうけど。そして照れ隠しで不機嫌を装っているのか。
まあ、ツンデレってやつ?93才の爺さんのツンデレって誰得なの?・・・・・・って思うけどさ。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/10/31(土)の予定です。