感想、誤字脱字指摘、ココスキの記載を多くいただき、いつも励みなっております。
前話(閑話)の続きです。戦乱パートに向けた実験的な投稿の扱いとなっております。その二話目となっています。
セ二号作戦を迎え撃つ側からの視点で記載していますので、既に投稿済のセ二号作戦の話と読み比べると、楽しめるかもしれません。
原作の記載表現とかなり異なるため、違和感を持たれる読者様が多いと思われますが、お付き合いいただければと思います。
(再掲)主な変更点は以下の通りです。
・多人数の視点を混在させた記載の導入(全ての話に導入される訳ではありません)
・文章の始まりの字下げを廃止
・会話文の句点、読点の改行位置の変更
多少、スマホでも読みやすくするための工夫と、pixiv側との共通書式にするためだったりします。
(登場人物紹介)※必要と感じた際に記載することにしています
・レーガン :セルマー伯の爵位簒奪を目論む元子爵。エルフ族侯爵家の傍流の血筋
・ハウザー :レーガンの片腕となる狼人族の探索者。今回の作戦の幹部の一人
・セドリク :レーガンの部下でエルフ族のベテラン騎士。今回の作戦の幹部の一人
・カスパル :レーガンの部下でエルフ族のベテラン冒険者。今回の作戦の幹部の一人
・ヒルデ :侯爵家暗部のベテラン暗殺者。一時的にレーガンの部下(幹部)に
・グスタフ :侯爵家の家宰。侯爵家暗部の総指揮者
・グランフェルト:セルマー伯の寄子貴族で子爵位を持つエストグリュン家の統主
・カーラ :エストグリュン家嫡子。『
・シーナ :カーラの妹。未成年だが剣士ジョブを持つ
・ノエル :シーナの弟。未成年だが剣士ジョブを持つ
・リオン :エストグリュン家の若手騎士で、シーナの護衛
・ルイ :リオンの弟。未成年だが剣士ジョブを持つ
・グラジオラス:『
・グラシア :カーラと同様、グラジオラスから剣の教えを受けた愛弟子
エストグリュン家領の隠れ家を引き払い、セルマー伯の隠れ家へと早々に移動した。
今頃は、エストグリュン家では大騒動になっているだろう。
だが、我々の足取りを追うことは、ほぼ不可能なはず。
エストグリュン家領で利用していた隠れ家や宿の場所は突き止められるかもしれないが、その後、我々が移動した場所がどこになるのかなど、分かるはずないからな。
セルマー伯の嫡子ルティナと、将来エストグリュン家の継承権を得るはずのシーナ、ノエル。作戦を成功させる上で重要な目標としていた三人を手に入れた。
ルティナだけでなく、その弟と妹も手中に収めた。伯爵家の直系の子供三人を手に入れたのは、かなり大きい。
これでセルマー伯との交渉ができる。交渉は難航するだろうが、人質を取っているので優位に進められるはず。腑抜けた伯爵が、噂通りに娘達を溺愛しているのなら。
交渉に先駆け、改めてルティナと話をすることにした。
薄暗い小部屋で、ルティナと向き合う。
セドリクは不在だが、ハウザーとカスパルも同席している。
前は怯えていて会話どころではなかったからな。
今も周囲を屈強な部下達に取り囲まれ、後ろ手を縛られながら、俺の前で椅子に座らされた状態だ。弟と妹からも引き離されて、不安な表情でこちらを見つめている。
こんな小娘をセルマー伯は溺愛しているのか。
「ルティナ、お前には俺の伴侶となってもらう」
「えっ?」
「頭の悪い奴だな。お前が伯爵位を継ぎ、俺の傀儡になってもらうということだ」
「そんなことできるわけないでしょう・・・・・・」
「お前の父親は、お前と二人の子供の命と引き換えに、伯爵位をお前に譲位しても構わないと言っていたぞ」
「そのようなことを父が申すわけがありません」
確かに、まだ何も交渉してないから、譲位など作り話だ。
怯えが消え去り、こちらを睨みつけているが、この娘には何もできまい。
「だから、お前は俺の伴侶となるしかないわけだ」
「私達を騙して・・・・・・ここまでしておいて、たわ言を」
意外に抵抗するのだな。
「お前が死ぬと、弟妹二人も後を追うことになるぞ」
「ひ、卑怯な」
やはり、身内を手札として出すと、この娘も脆いな。
セルマー伯と同じなのかもしれん。
「私があなたの言いなりになれば、弟と妹は助かるのですか?」
「話が分かってきたようだな」
「答えてください。私があなたの要求を受け入れれば、二人には手を出さないのですね?」
「お前が従順である限り、二人を生かしておく。だが、それ以上の保証はどうかな」
ルティナは唇を噛みしめた。
俺を信用できないことくらい、彼女にも分かっているのだろう。だが、弟妹の命が懸かっている以上、無視することもできないはず。
「お前が首を縦に振ればいいだけのことだ。それしか生き残る道はないのだぞ」
ルティナは俯いたまま、しばらく何も答えなかった。
頬を伝った涙が、膝の上に落ちた。
「私はどうなっても構いません。でも、弟と妹だけは助けてください」
「ほう。自分の命を差し出すというのか?」
「あの子達には、まだ未来があるのです」
その声は震えていた。彼女は俺を睨みつけるようにしばらく見据え、再び俯いた。
これなら、作戦を次の段階に進められるだろうか。
しばらくして彼女が顔を上げたとき、その目からは涙が消えていた。
「やはりできません。もういいでしょう。殺しなさい」
先ほどまでの恐怖は、まだ消えていない。それでも、彼女は再び俺を睨みつけた。なるほど。思ったよりも芯の強い娘らしい。そして、当たり前だが、俺の言うことなど全く信じていないのだな。
「また、話をすることになるだろう。いいか。それまでに覚悟を決めておけよ」
俯いたルティナを部下に命じて下がらせた。
まあ、すぐに承諾するとは思っていない。
徐々に追い詰めればいいだけのことだ。
・・・・・・
次はハウザーの隠れ家に行き、幽閉してあるシーナとノエルへの尋問だ。リオンという名の護衛と、その弟ルイは捕縛して以降、シーナ達とは別室に閉じ込めたままにしてある。護衛と一緒にすると逃亡の危険性があるからな。
エストグリュン家の当主の子供、シーナとノエルが後ろ手に縛られて椅子に座らされた。
弟の方はかなり怯えている。そして、姉のシーナも怯えてはいるが、こちらに敵意を向けるだけの気力はあるようだ。
さて、用意していた話で、こいつらから情報を探り出すか。
俺が口を開く前に、シーナがいきなり叫び出した。
「あなたは、同じエルフ族でありながら、このような無体な真似を・・・・・・恥を知りなさい!」
このような状況で、よく啖呵を切れるものだな。
「あなた方は、エストグリュン家を敵に回したことになるのですよ。父上と姉上、そして剣聖のグラジオラスが必ずや、あなた達を成敗するでしょう・・・・・・」
「うるせえ、クソガキ!」
ハウザーが怒鳴り声をあげ、テーブルに拳を叩きつけた。シーナの声が止まり、ノエルが怯えて俯いた。シーナはノエルを庇うように椅子を寄せて、ハウザーを睨みつける。あのハウザー相手によくやるもんだ。
「剣聖殿は領地を離れ、遊び惚けていると伺ったのだが違ったかな?」
「・・・・・・」
シーナの表情を見る限り、やはりグラジオラスが不在なのは事実のようだ。
「まあ、それはいい。お前達には、当主や剣姫、剣聖を抑えるための人質だ。だから、大人しくしていれば危害は加えない。だが、逃げようとしたり、反抗したりすれば、お前たちの誰かが痛い目をみることになる」
「父上や姉上は、そのようなことに屈したりはしません。あなた方のやってることは無駄なことです!」
「それなら試してみればいいことだ」
口を真一文字に結んだ彼女は再び、こちらを睨みつけた。
このまま、子供と遊んでいるわけにはいかない。
「それよりも、お前に訊きたいことがある。お前の姉、カーラだったか?そいつが惚れた男はセルマー伯領内にいるそうだな?」
「はあ?姉上がですか?どこから、そのような話が?」
シーナだけでなく、先ほどまで怯えていたノエルまで、訝しげな顔をしている。
「姉上が懸想するような剛の者がいるのでしたら、是非会ってみたいですね」
シーナだけでなく、弟の方まで頷いている。
ということは、剣以外には興味がない女という噂通りか。
やはり子供だけあって、少し捻った質問をすれば、すぐにこちらの知りたいことを聞き出せるな。
その後も、二人と何度かやり取りをして、必要な情報を聞き出した。だが、子供だけあって、それほど重要な情報は知らされてないようだ。後で、リオンという女騎士にも尋問をしておくか。
適当なところで切り上げて、二人を退出させた。
・・・・・・
ハウザーとカスパルの方に視線を向ける。
「レーガン、いつから、そんなに子守が上手くなったんだ?ガキ共相手に、かなりしゃべっていたじゃないか?」
「ハウザー、レーガン様になんだ、その口の利き方は?」
「うるせえんだよ、カスパル。てめえこそ、俺に対する口の利き方に気を付けろ」
「二人とも、いい加減にしろ」
まったく、二人は顔を合わせるといつもこれだ。
「明日から、セルマー伯との交渉に入る。まずは暗部を通じて、伯爵位を譲らせる交渉からだ」
「レーガン様、簡単に譲位なんてするものでしょうか?」
「するかもしれんし、しないかもしれない。しなければ、直接乗り込んで、伯爵の身柄を拘束する。三人の人質を取ったのは、その隙を作るためだ」
「まあ、伯爵の騎士団全員と直接戦うよりはマシかもな。戦っても負けるとは思えんが、さすがにこちらにも死ぬ奴が多く出るだろうから」
ハウザーはニヤニヤしながら、『死ぬ奴』という言葉のところで、カスパルを見つめて挑発しているようだ。
カスパルはセルマー伯の騎士団について慎重に対応したいようだが、ハウザーは力で黙らせることを望んでいるな。
伯爵位を得れば、その後は侯爵家からの援軍を期待できる。逆に伯爵位を得ないうちは、公式な援軍は送られない。それまではセルマー伯の騎士団との戦闘は避けたい。
父上は、もう一人の侯爵に何らかの謀略を仕掛けるようだ。
公爵家を除く3つを押さえれば、全エルフ最高代表者会議を掌握できるからな。
とにかく、今は伯爵位を簒奪しなければならない。全てはそれからだ。
それにしても、ここまでは少し時間がかかったが、予想以上に順調に進んでいる。
もし、この計画を脅かすものがあるとしたら、ハルツ公の侵攻が予想以上に速いことだろうか。その前に計画を進めなければならない。
・・・・・・
セルマー伯に対し、ルティナへの譲位を求める交渉が始まったが、さすがに伯爵は簡単には首を縦に振らなかった。
暗部の者とカスパルを派遣して交渉に臨んだが、数日間は平行線をたどり、膠着状態になった。
だが、こちらから期限を切り、応諾しなければ年少の子供から順に、その首を送り届けると伝えると、伯爵はあっけなく要求を呑んだ。どうやら子供を溺愛しているという情報は真実のようだ。
騎士団を動かして、こちらの動静を探れば、同様に首を送り届けると伝えたので、セルマー伯の騎士団も目立った行動は見られない。こちらの凶行を恐れて、伯爵は騎士団長にも今回の誘拐事件を伝えていないようだ。
ルティナ達が不在である理由は、別の口実をでっち上げて説明したらしい。騎士団長をはじめ、幹部クラスは伯爵位の簒奪を成し遂げた時点で、侯爵家の部隊を引き入れて粛清する予定だ。事前の調査では、こちらに引き入れるような人材はいないと報告を受けているから。
セルマー伯とカスパル達による交渉は、普段は使われていない謁見室で行われた。ハルツ公のエンブレムが描かれた垂れ幕が掛けられている部屋だった。想定外の迂闊さだ。
冒険者のカスパルを交渉役として城内に出入りさせられれば、こちらの部隊を容易に城内へ侵入させられる。
セルマー伯との四度目の交渉の際、ハルツ公のエンブレムが描かれた垂れ幕を利用して、ハウザーとその配下達を引き連れ、俺はセルマー伯と直接交渉することにした。
突然現れた俺達を見て、セルマー伯は驚愕の表情を浮かべたが、俺の顔に見覚えがあり、混乱が増したようだ。
「其方は、どこかで・・・・・・」
「お久しぶりでございます。侯爵家のパーティーで一度、お会いしたことがありましたかな。先日までシュルツ子爵位を賜っておりました、レーガンでございます」
「そうだ。確かパーティーで。シュルツ子爵ではないか。今回のルティナ達の件は、其方の仕業だったのか?」
こんなにも慌てふためくようでは、やはり愚物だな。
「閣下、今は子爵位は弟に譲り、私は、ただのレーガンということになっておりますので、お間違えなく」
「今回の謀略は侯爵家も噛んでおるということだな?」
「さて、ご想像にお任せします。ただ、元侯爵家の派閥の者として、今回は閣下にお伝えしたいことがございます」
部下に命じて、セルマー伯へ書類の束を渡した。
「この書類がどうしたというのだ?」
「それは、先般、全エルフ最高代表者会議で取り決められた決議に関する内容です。もっとも、その場には閣下はおられなかったようですが、閣下に関する重要な取り決めですので、御覧になられた方が賢明かと存じます」
訝しげな顔をした伯爵が書類に目を通し始めると、その表情はみるみるうちに苦悶と怒りに染まっていった。
「その書類が偽物でないことは、全エルフ最高代表者会議の正規メンバーである閣下が一番ご存じだと思いますが」
「そう・・・・・・だな・・・・・・確かに、これは本物のようだ。私の署名はないようだが」
セルマー伯を討伐する決議書に伯爵が署名するわけがないし、本人不在での決議なのだから、署名する機会もない。
「つまり、近々、この城にハルツ公の騎士団が攻め込んでくるということです」
「そのようだな」
伯爵は椅子の背もたれに寄りかかり、口を真一文字に結んだ。天井を見上げ、怒りに身体を震わせていた。
「レーガン殿、其方は・・・・・・いや、侯爵家は、これを私に見せてどうしたいのだ?」
「先日から申しあげている通りです。伯爵位を速やかにルティナ嬢に譲って下さいませ。その上で、私はルティナ嬢と婚姻を結びます。そうすれば、侯爵家の騎士団が伯爵領に進駐して、ハルツ公を迎え討ちます。伯爵領と侯爵領の騎士団が手を結べば、公爵家の騎士団に対抗可能となりますので」
伯爵は顎に手を当て、考え込んでいた。
「ルティナと婚姻を結んで、其方は伯爵領を牛耳るつもりであろうが?そのようなことには加担できぬぞ」
「では、このまま全エルフ最高代表者会議の決議に基づき、強制的に退位させられるのを望みますか?その場合は、伯爵位を得るのは、ハルツ公の下に送られているカシア様の従弟となりますが、それでもよいと?
その実現のために、ハルツ公が閣下とルティナ嬢へ死を賜ることも、十分考えられると私は思いますが」
「それは・・・・・・承服できん」
伯爵はそう言いながらも、すぐには顔を上げなかった。
ハルツ公の決議に従えば、伯爵位を失うだけでは済まないかもしれない。かといって、こちらの要求を呑めば、娘を人質に取った男へ自ら家の権限を渡すことになる。
どちらを選んでも、伯爵にとっては苦渋の決断だろう。
「あの子は私には過ぎた、聡い子だ。その娘を、其方のような男の妻にするために、私は伯爵位を譲らねばならぬのか」
「閣下。私が善人であるなどと申し上げるつもりはございません」
俺は淡々と答えた。
「ですが、閣下が何も決断されなければ、ルティナ嬢だけでなく、閣下ご自身の命も危うくなります。今は、理想の相手を選んでいる場合ではないのです」
「そのぐらいのことは分かっておる・・・・・・」
その言葉には、怒りだけでなく、父親としての無念さも滲んでいた。
「本来ならば、あの子が自分で選んだ相手と結ばれ、幸せな家庭を築く姿を見届けたかった。それが父親としての願いだったのだ」
彼はゆっくりと目を開け、俺を見据えた。
「その娘が、今はどれほど心細い思いをしているのか・・・・・・それを考えると、私は・・・・・・」
彼はそこで言葉を詰まらせた。
「其方は、私から娘だけでなく、父親としての誇りまで奪おうというのだな」
「閣下。私は、閣下の願いを叶えるためにここへ来たのではございません」
「分かっておる。だからこそ、悔しいのだ・・・・・・」
俯いた彼に俺は畳みかけるように続けた。
「私とルティナ嬢が婚姻すれば、少なくとも閣下も彼女も命を失うことはございません。閣下に決断を迫るため、多少手荒でしたが、三人に当方へお越し願ったわけです」
「むう・・・・・・そのようなことを信じろと?」
「信じる信じないは閣下次第です」
「全エルフ最高代表者会議の一員、もう一人の侯爵は父が押さえに入り、静観するように内諾を得ております。2侯爵、1伯爵が手を結べば、ハルツ公の暴挙も防げます。
ただ、そのためには、父上率いる侯爵家にも多少の利益がなければ動けませぬ。私とルティナ嬢の婚姻は、その対価とお考え下さい」
伯爵は俯いたまま、肩を震わせていた。
あと一押しか。
・・・・・・
セルマー伯と直接交渉した結果、伯爵はこちらの意図どおりにルティナとの婚姻を認める方向に傾きつつある。もう少しで、伯爵を陥落させられるところまで追い詰めた。
今は、隠れ家から離れ、伯爵の城の一角を占拠している。ただし、ルティナ達やエストグリュン家の子供達は、引き続き隠れ家に幽閉されている。切り札の隠し場所には細心の注意を払っておかなければならないから。
今日も、セルマー伯との会談を終え、婚姻に向けた細部の調整をした。セルマー伯領の騎士団長は参加させず、伯爵と文官を相手に、最後の詰めを行う段階まできた。
あともう少しで、伯爵家を掌握できる・・・・・・その最中、最大の凶報がもたらされた。
負傷したカスパルが俺の前で跪き、青い顔で説明し始めた。
「ルティナを逃がしただと?」
「レーガン様、申し訳ありません。隠れ家をエストグリュン家に嗅ぎつけられたようで、グランフェルトに急襲されました。ルティナとその弟妹を奪われました」
なんということだ。あと一歩のところだったのに。
どうやって、あそこを嗅ぎつけたのだ。
偶然で片づけるには、出来すぎている。
怒りで肩を震わせていると、ハウザーがノックもせずに入室してきた。
「おい、こっちの隠れ家にエルフ共が押し寄せてきたぞ」
「なんだと!」
ハウザーの方もか。彼の隠れ家にはエストグリュン家の子供達を捕らえておいた。
「そちらも奪還されたのか?」
「レーガン、そちらもとはどういう意味だ?カスパルの方でも何かあったのか?」
凶報が次々とやってきたのか。
「カスパルの隠れ家はグランフェルト達の奇襲を受け、ルティナ達を奪われた」
「なんだと。こっちは剣姫を見た奴がいるらしいが、襲撃を事前に察知できたため、別の場所に移動させておいた。だから人質の方は、こちらの手中にある。だが、仲間を半分失ったぞ。剣姫は噂以上の手練れのようだな」
剣姫は自分の弟妹を攫われて、怒り心頭だったのだろうな。
「そうか、人質は確保したままなのだな。部下を失ったのは痛いが、まだマシか」
「ガキ共を移動するため、足止めに使った奴等は、全員死んじまったがな」
半数を失ったか。となると、三、四名といったところか。
「ハウザー、失った部下というのは・・・・・・」
「心配するな。死んだのは金で雇った、盗賊や兇賊のジョブを持つ奴らだ。捨て駒にしても惜しくないからな。こちらの子飼いの部下達は人質と共に退避させたぞ」
こういう冷酷な振る舞いをしながらも、冷静な判断を下せるからこそ、ハウザーには荒事を任せられるのだ。
セルマー伯家の嫡子であるルティナを失い、エストグリュン家の人質四人が残ったか。最悪ではないが、エストグリュン家の子供達では切り札にはならない。せめて確保できたのが逆であったのなら良かったのだが。
「仕方がないので、ガキ共はこの城まで連れてきた。もう俺達が隠れられる場所がないからな。今は部下に命じて縛って閉じ込めてあるぞ。シーナとノエル、それにルイとリオンも一緒だ」
「そうか、分かった」
ルティナ無しでは、伯爵と交渉も進められない。
今はまだ、伯爵にルティナ達がグランフェルトによって救出されたことは伝わっていないが、いずれはエストグリュン家から伝えられるだろう。そうなれば、ルティナとの件が破談になるのは時間の問題だ。
ルティナを失ったのは痛い。だが、それ以上に注意が必要なのは、こちらの計画を相手がどこまで把握しているのか分からないことだ。こちらの計画を揺るがしている原因が分からなければ、計画の立て直しにも支障をきたすかもしれない。
しかも、エストグリュン家がすでにこちらの隠れ家を襲撃できるのであれば、今いるこの場所も安全とは限らない。
このまま後手後手に回るのが一番拙い。何か策を早急に考えて、手を打たなければならない。
・・・・・・
ルティナの逃亡が伝えられた二日後、ドアがノックされ、部下の一人が入室してきた。
「レーガン様、伯爵が面会を求めておられます」
「分かった。すぐにお会いすると伝えよ」
こちらが打っておいた布石が、さっそく効いてきたようだ。
カスパルを伴い、伯爵の待つ謁見室へと向かった。
伯爵との会談には、伯爵本人と護衛の騎士一人だけが出席していた。護衛騎士は、こちらの部下を貸し出してあるが、もちろん、伯爵がおかしなことをしないようにするための見張り役だ。
こちらはカスパル一人だけを同行させている。
セルマー伯を見ると、慌てふためいた様子だった。
きっと奴が来たのだろう。
「それで、急な用件とはなにごとでしょうか?」
「つい先ほど、エストグリュン家のグランフェルト子爵がこの城に参って、私に面会を求めてきた。其方から、領外の貴族との接触を禁じられておる。なので、相談したいということだ」
やはり来たか。こちらの準備は万全だ。
「カーラ嬢も一緒のようだ。どうしたらいい?健康を理由に会わぬことも可能だが・・・・・・」
「いえ、せっかくなので、お会いしましょう。ただし、謁見の場はこちらで準備しますので、しばらく待たせて下さい。もちろん、私も同席いたしますので」
訝しげな顔をする伯爵を横目に会談を打ち切り、カスパルに指示を出した。この手の話は、粗暴なハウザーよりも、慎重なカスパルに任せるに限る。それに、先日の失地を挽回したいと考えているはずだからな。
やがて準備が整い、俺はセルマー伯、カスパル、ハウザー、数名のエルフ族の部下達と共に、グランフェルトとカーラとの会談に臨んだ。伯爵との謁見ということで、グランフェルトとカーラには武装解除を命じ、剣を持ち込ませないようにしてある。
二人には既に俺達の動きは伝わっているし、なにより、城に出頭しろと命じたのはセルマー伯ではなく俺達だ。
子供達の姿を確認できたわけでもない。それでも、二人は子供達を救うためにここへ来た。丸腰で謁見に臨むというのは、噂通りの豪胆な当主のようだ。
いずれにしても、こちらは搦め手を使う。相手がどれほどの覚悟を持っていようと関係ない。
・・・・・・
グランフェルトは白々しくも、伯爵に型通りの挨拶を述べ、本題に入った。
「伯爵様は最近、護衛の騎士団員の顔ぶれを変えたのでしょうか?」
「いや、まあ・・・・・・」
グランフェルトの我々に対する痛烈な嫌味に、伯爵は返答に窮し、こちらに助けを求めるような視線を向けてきた。
隣にいるカーラ嬢も、我々を呪い殺さんばかりに睨みつけている。それにしても、初めて会ったが、噂通り眼帯をしているのだな。綺麗な顔をしているのに、もったいない。
まあ、この娘は、この後、置物になってもらうだけなのだから、容姿の美醜など問題ではないが。
グランフェルトは伯爵に向かって、おもむろに話し始めた。
「ところで、ルティナ様とその弟君、妹君はこちらで保護しました。何やら賊に捕まっていたので救出した次第です。伯爵様はその賊に心当たりはありませぬか?」
「なんだと!」
グランフェルトの言葉に、伯爵は大声を上げて立ち上がり、こちらに視線を向けた。
「どうやら、閣下の御指摘の通りの状況のようです。その代わりに別の趣向を用意させていただきましたが」
「レーガン殿、其方の目論見は潰えたのだぞ・・・・・・」
伯爵の言葉を無視して、カスパルの方に視線を向けると、彼は頷き、隣室から拘束した二人を連れてきた。
今度はグランフェルト子爵達が狼狽える番だ。
「その者達はシーナとノエルか?シーナ、どうした?何故そのような格好をしているのだ?」
「閣下、落ち着いて下さい。妙な真似をすると、二人の命がなくなりますよ。それに、その二人は目隠しをし、耳も塞がせましたので、閣下の声は二人に届きません」
「くっ・・・・・・」
グランフェルトは二人の姿を見つめたまま、動かなかった。
カーラ嬢も、二人の姿を見て息を呑んでいる。
「それと、その二人の後ろにいる部下には、自爆玉を持たせてあります。いつでも二人の口に自爆玉を放り込めるよう、準備させております。もし、おかしな真似をされるようなら、容赦なく実行しますよ」
「き、貴様・・・・・・何もできぬ子供に、そのような卑劣なことをするなど。同じエルフ族ながら、見下げ果てた性根の持ち主・・・・・・」
グランフェルトの拳が震えていた。
だが、彼は一歩も動こうとはしない。
いや、動けないのだ。
目の前にいるのは、守るべき子供達。自分が剣を抜けば、その命が失われる。豪勇で知られる男が、たった二人の子供を前にして、何もできずに立ち尽くしている。
「それだけ、閣下の力を評価してると思ってください。音に聞こえたエストグリュン家の当主に、剣で挑むほど私は馬鹿ではありませんので」
10才を超えたシーナとノエルの口に自爆玉を放り込めば、起爆した瞬間に確実に死に至る。いくら手練れの剣士であっても、一瞬で二人の所までは辿り着けまい。たとえ一時的に解放できたとしても、起爆を防ぐ手段はないから、いずれは死んでしまうしな。
カーラ嬢は、俺を睨みつけていた。その目には怒りが満ちている。だが、彼女も動けない。
剣姫と呼ばれるほどの腕前があろうと、武器を奪われ、弟妹を人質に取られていては何もできないということだ。
「閣下。余計なことはなさらない方がよろしいかと。あなたが動けば、二人の命はそこで終わります。助けようと手を伸ばしたところで、失われた命は戻りません」
「わかっておる・・・・・・」
人質がこちらの手にある限り、交渉の主導権は俺にある。
連れてきた部下達に二人の拘束をさせた。手枷と足枷をはめたから、これで一安心だ。だが、念のため詠唱もできないように、後で口枷もつけさせるつもりだ。
「さて、では、ルティナ様の居場所を教えていただきましょうか?あなたの部下に命じて、この場に連れてきていただきます」
「ふっ、残念だが、既に私の手の届かない所に向かっていただいた。そこに行けば、公爵様であろうが、伯爵様であろうが、手出しできない所だがな」
「何だと?」
貴族最高位の公爵でも手出しできない所だと・・・・・・くそっ、まさかカッサンドラの所か?確かに、あそこに送られてしまったら、誰も手出しできない。
「その二人に口枷をつけ、例の場所に連れていけ」
部下達に命じて、用意しておいた口枷を嵌めさせた。二人は抵抗することなく従っている。さすがに自爆玉の前では剣技など無意味であろう。その後、二人は多くの護衛に連れられて謁見室を出ていった。あの二人は、今は閉じ込めておくだけでいい。
エストグリュン家領で捕縛したシーナ、ノエル、ルイ、リオンの四人に、今回新たにグランフェルトとカーラが加わった。合計六人となったが、後から加わった二人は、今までの四人以上に厳重な監視が必要だ。
俺はセルマー伯の方へ振り返った。
「さて、では閣下、今後の話を相談させて下さい・・・・・・」
俺の言葉に伯爵は俯くことしかできなかった。
お読みいただき、ありがとうございました。
本話に関する感想、ココスキ等、お待ちしております。
否定的な意見、改善要望等、忌憚のない意見をお待ちしております。
あと、拙作では原作主人公及びヒロインは未登場の予定だったのですが、本話でルティナを登場させてしまったので、小説概要を一部訂正しました。扱いもちょっと酷い(?)感じにしてしまったので、タグにアンチヘイトも追加しました。
引き続き拙作にお付き合いいただければと思います。
次回投稿日は2026/11/7(土)の予定です。