感想、誤字脱字指摘、ココスキの記載を多くいただき、いつも励みなっております。
前話(閑話)の続きです。戦乱パートに向けた実験的な投稿の扱いとなっております。その三話目となっています。
今回から、徐々に多人数の視点が混在してきます(最終話は多分もっと増える予定)。
原作の記載表現とかなり異なるため、違和感を持たれる読者様が多いと思われますが、お付き合いいただければと思います。
(再掲)主な変更点は以下の通りです。
・多人数の視点を混在させた記載の導入(全ての話に導入される訳ではありません)
・文章の始まりの字下げを廃止
・会話文の句点、読点の改行位置の変更
多少、スマホでも読みやすくするための工夫と、pixiv側との共通書式にするためだったりします。
今回、読後のアンケートを用意しましたので、お時間のある方はご協力をお願いします。
(登場人物紹介)※必要と感じた際に記載することにしています
・レーガン :セルマー伯の爵位簒奪を目論む元子爵。エルフ族侯爵家の傍流の血筋
・ハウザー :レーガンの片腕となる狼人族の探索者。今回の作戦の幹部の一人
・セドリク :レーガンの部下でエルフ族のベテラン騎士。今回の作戦の幹部の一人
・カスパル :レーガンの部下でエルフ族のベテラン冒険者。今回の作戦の幹部の一人
・ヒルデ :侯爵家暗部のベテラン暗殺者。一時的にレーガンの部下(幹部)に
・グスタフ :侯爵家の家宰。侯爵家暗部の総指揮者
・グランフェルト:セルマー伯の寄子貴族で子爵位を持つエストグリュン家の統主
・カーラ :エストグリュン家嫡子。『
・シーナ :カーラの妹。未成年だが剣士ジョブを持つ
・ノエル :シーナの弟。未成年だが剣士ジョブを持つ
・リオン :エストグリュン家の若手騎士で、シーナの護衛
・ルイ :リオンの弟。未成年だが剣士ジョブを持つ
・グラジオラス:『
・グラシア :カーラと同様、グラジオラスから剣の教えを受けた愛弟子
レーガンはセルマー伯に提案したものの、簡単には承諾しないと思っていた。だが予想に反し、伯爵は憑き物が落ちたように、従順に受け入れようとしている。ただし、一つだけ意外な条件をつけてきた。
「グランフェルト子爵とカーラ嬢と私で、三人だけで話をする機会が欲しい」
「三人だけですか?逃亡の相談でもするつもりですかな?」
「会話をしようとは思っていない。こちらが一方的に話をするだけでも構わない」
「となると、二人には手枷、足枷、口枷をつけたままになりますが・・・・・・」
「ああ、それでも構わないと言ってるのだ」
伯爵が何を考えているのか分からない。諦めたように見えたが、今の表情には何かを決意した様子も窺える。
「もし、認めてもらえるのなら、そなたが望んでいる件をそのままカーラ嬢に行おうではないか」
「それをこちらが信じるとでも思われてるのでしょうか?」
「もし、私が裏切ったと思うなら、後ほど、自爆玉を飲もうではないか」
今の伯爵に現状を覆す力はない。二人が無力なら、許可しても構わないだろう。ルティナの逃亡後、伯爵は覚悟を決めたのかもしれない。自爆玉で自害すれば、カッサンドラの下にいるルティナに伯爵位が移る。それを承知で、何かを決意したようだ。
「では、例の件を進めていただけることを条件に、三人だけで会うことを認めましょう。その前に武器やアイテム等が持ち込まれないか、確認させていただきますが」
「ああ。それで構わない」
ルティナを失ったのは痛手だった。だが、エストグリュン家の嫡子であるカーラを利用できれば、まだセルマー伯の爵位を手に入れる道は残されているのだから。
翌日、三人で会う場が設けられた。もっとも、グランフェルト子爵とカーラは手足を拘束され、口枷を嵌められたまま、椅子に縛り付けられている。
カーラの左腕は露出している。伯爵が騎士のスキルでインテリジェンスカードを操作すれば、爵位を譲れるはず。口枷をつけていても、意思表示だけなら問題ない。
あとは、本当にこちらの指示通りに伯爵が動くのかどうかが読めないが、やらせてもこちらに損はないだろう。
自由を奪われた二人の待つ部屋に、所持品検査を受けた伯爵が入っていった。
・・・・・・
ドアが閉まると伯爵は二人に向き直り、深々と頭を下げた。
「まずは、我が娘ルティナと二人の子供たちを救ってくれたことに感謝いたす。長年、ギクシャクした関係であったにもかかわらず、三人を救出してくれたことには、感謝してもしきれぬ」
「・・・・・・」
「其方らの献身を受けながら、このような事態を招いたのは、我が不徳の致すところ。時間を戻せるものなら、一年前に戻りたい。あの時、其方らの提案を受け入れていれば、ルティナもカーラ殿も、これほど苦しまずに済んだのだろう」
「・・・・・・」
「やはり、私は伯爵位に値しなかった男のようだ」
グランフェルトは無言で首を横に振った。
この男は、本当に忠義の男だ。このような者を配下に抱えながら、私は伯爵である義務を怠っていたのだな。
「否定してくれるのか。だが、私はもう、自分を慰めるために他人の言葉を借りるつもりはない」
大きく息を吐き、話を続けた。
「別にもういいのだ。このまま放っておいても、この領地にはハルツ公が攻め入ってくるらしいぞ。彼奴は全エルフ最高代表者会議で、そのような決議を採択したらしいからな」
「・・・・・・」
グランフェルトは目を大きく開けて、驚愕の表情となった。カーラは首を横に振っている。
「故に、いずれにせよ、私が伯爵位に留まるのは難しいであろう。その上で、二人に頼みがある。もっとも、主にカーラ殿への頼みだが・・・・・・」
「・・・・・・?」
「カーラ殿。そなたに許してもらおうとは思っていない。今さら許しを求めても、失ったものが戻るわけではないからな」
拘束された彼女の目をまっすぐに見つめる。
「だから、そなたには自分とエストグリュン家にとって最善の道を選んでほしい。ルティナたちは、恐らくもう大丈夫であろう。私のことは考えなくてよい・・・・・・」
これからの話にカーラ嬢は驚くであろう。この娘には可哀想なことをした。剣を振るい、エストグリュン家で武威を示すのが彼女の本懐だと聞いている。それなのに、今回の騒動に巻き込んでしまった。
「まず、伝えておきたいことがある。私は、そなたに伯爵位を継いでほしいと考えている」
カーラは目を見開いた。
彼女に提案の真意を一つ一つ丁寧に説明していこう。
だが、あくまで提案であって、決めるのは彼女だ。
・・・・・・
セルマー伯が二人との会談を終えると、入れ替わりにレーガンが部屋に入り、カーラのインテリジェンスカードを確認した。確かに彼女への伯爵位の継承が完了している。これで、作戦の大きな節目を超えた。
カーラはエストグリュン家の嫡子であり、グランフェルト子爵もセルマー伯の傍系血族であるため、伯爵位を継承できることは知っていた。ただし、本人の承諾が必要だ。
どのように説得したのかは分からないが、第一段階はクリアした。本来はルティナに行う予定だったが、カーラに替わっただけだ。
ルティナとの婚姻に固執せず、カーラを伯爵にして実権を握ろうと考え、二人を城に呼び寄せた。それが、こうも上手くいくとは。
後はカーラとの婚姻手続きだ。書類は既に作成してあるので、全エルフ最高代表者会議に届け出る必要がある。高位貴族の婚姻には手続きが必要だが、許可は不要だ。カーラには姉弟を人質に署名を迫ればよい。時間の問題だろう。
多少の紆余曲折はあったが、ここまでは出来過ぎと言っていいくらいの首尾だ。カーラとの婚姻が成立してしまえば、侯爵領から援軍も見込めるはずだ。監禁してある姉弟を脅迫材料にし、カーラを傀儡にすればいい。
当主と嫡子を捕縛したから、エストグリュン家の戦力も無力化できるはずだ。さすがにエストグリュン家を戦力に計算することは無理だろうがな。今は不在の剣聖の動きだけが気掛かりだ。
「レーガン様、少し気になっていることがあるのですが」
「なんだ、カスパル?」
慎重なカスパルが気になるのなら、確認する必要がある。
「グランフェルト子爵の話だと、ルティナ嬢はカッサンドラ様の所に向かったのではないかと思いましたが」
「そうだな。私も同感だ」
「その、カッサンドラ様経由で今回の我々の計画が露見することはないのでしょうか?」
さすがにその点は気になるか。だが、問題ないはず。
「全くないとは言えぬ。だが、あの女怪は基本的に中立を貫くそうだ。迎え入れたルティナ嬢が何を言おうと、こちらに介入することもしないし、ハルツ公の肩を持つこともあるまい」
「そういう方なのですね。あまり接点がない方でしたから」
「まあ、男で接点を持ちたい者はおらぬからな」
あの女怪は、代々中立を保ち、男の政治に介入しない代わりに女たちを守ることで、確固たる地位を築いたと父上から聞いている。今は中立を信じるしかない。それより、早く伯爵位を固める方が重要だ。
伯爵位を得られれば、父上・・・・・・侯爵家の助力も期待できる。父上を信用しているわけではない。だが、伯爵位を得た後なら、侯爵家にとっても俺を支援する利益が生まれる。利用できるものは利用する。それだけだ。
突然、血相を変えたセドリクが、ノックもそこそこに入室してきた。
「レーガン様、たった今『赤の侍女』の死亡を確認しました!死んだのはつい先ほどのことです」
突然の凶報に手が震えた。
「もう一度言え」
「『赤の侍女』の死亡を確認しました。私自身が確認しましたので、間違いありません」
手元の書類に目を落とした。
『黄色』の死を合図に、伯爵位の簒奪を進めるか、ハルツ公を迎え撃つか判断するはずだった。『赤』は決行日を知らせる合図だ。それが想定していた流れだった。だが、『赤』が先に死んだ。
「なぜだ・・・・・・」
予定していた順序が崩れた。何が起きているのか分からない。だが、一つだけ確かなことがある。
こちらに残された時間は、想定していたよりも短い。
「レーガン様、いかがいたしましょう?」
「やむを得ぬ。伯爵位の簒奪は諦めるしかない。その代わりにハルツ公には、その代償を払ってもらおうか。至急、ハウザーとセドリク、及びその副官たちを招集せよ。例の書類も急いで持ってくるのだ」
「はっ、分かりました」
「急ぐのだぞ。恐らく時間はほとんど無いはずだ」
セドリクは急ぎ足で退室していった。
なんということだ。なぜ急にハルツ公が攻め込んでくるのだ。伯爵領に正攻法で侵攻するなら、相応の兵力と準備が必要で、数日前には察知できるはずだ。今となっては、カーラを傀儡にする時間は残されていない。
待てよ・・・・・・正面ではなく、我々と同じように内部から侵入してくるのか?断定はできぬが、どちらにも備えれば主力が不足する。
くそっ。時間が足りぬ。
・・・・・・
それからは、ハルツ公を迎え撃つ準備を急ピッチで進めた。
まず、元伯爵を通じて、セルマー伯領の騎士団に城門の防備強化と城内の巡回増加を命じさせた。既にカーラが伯爵位を継承しているが、現騎士団に命令を出すのは無理がある。そもそも、騎士団長にすら譲位を伝えていないのだから。
それから、部下たちにセルマー伯領の防衛に関する元伯爵との契約書へ署名させた。ハルツ公の騎士団相手に戦うことになるため、契約を結ばせないと盗賊落ちになってしまう可能性がある。書類はハルツ公と戦う前提で準備してあった。ただ、展開が想像以上に急だっただけだ。
伯爵領に打撃を与えるため、ギルド神殿を接収して侯爵領へ運び出すようカスパルに命じた。引き渡し先は侯爵家のグスタフの手の者だ。
あとは、ハルツ公が緊急退避用のエンブレムを使って奇襲してくることに備え、謁見室を監視する見張りを置いた。エンブレムを使い、フィールドウォークで移動して攻めてくるようなら、ここで検知できるはず。
矢継ぎ早に指示を出し、最後の指示を考えていると、カスパルが移動用の絨毯から戻ってきた。
「レーガン様、ギルド神殿は確かにグスタフ様の手の者に渡しました。合わせて、ハルツ公がセルマー伯に攻め入ろうとしていることも伝えました」
「そうか。ご苦労であった。こちらもほぼ準備が整った」
フィールドウォークを連続して使ったのだろう。
カスパルには少し疲労の色が窺える。
「カスパルはヒルデからの連絡に備えて、冒険者部隊を編成し、指示を徹底させろ。それと、今のうちに強壮剤を飲んで、体調を整えておけ」
「はっ、承知しました」
「セドリク、例のものの準備はできたか?あと、魔法使いの方も」
「はい。水差しの準備は既に終えました。二人への差し入れ役には、例のルイという子供と侍女をあてがうよう指示しております。それで、カーラ嬢の方は、よろしいので?」
「ああ、カーラ嬢は放置する。あの女を伯爵として残しておけば、火種の一つくらいにはなるだろう。どのみち、ルティナが逃亡したことで、我々の存在は露見するだろう。まあ、今はそれでよい。対象は
「はっ、では今から首尾を確認して参ります」
その後、ヒルデからの連絡がないまま、時間がジリジリと過ぎていった。
やがてセドリクが入室し、報告を始めた。
「レーガン様、グランフェルト子爵と元伯爵の死亡を確認しました。毒殺に利用した子供と侍女は、現場にそのまま閉じ込めてあります」
ルイと侍女は普段から二人の食事を用意している。毒入りの水差しを運ばせても疑われないだろう。ヒルデが用意した遅効性の猛毒は、生薬がなければ助からない。二人には貴族殺しの汚名を被ってもらう。
元伯爵とグランフェルト子爵はもう少し生かしておく予定だったが、ハルツ公の侵攻が早過ぎた。
「そうか。では、魔法使いの奴隷の準備は万端か?」
「はい。そちらも一室に閉じ込めてあります。その部屋には近づかないように、騎士団にも命じました。あとはハルツ公の騎士団が来るのを待つだけです」
「わかった。では、セドリク・・・・・・」
(ガタンッ・・・・・・)
セドリクの報告が終わり、部隊編成の指示を出そうとした瞬間、部屋の片隅にいた侍女が倒れた。
「『黒』か・・・・・・」
倒れ伏した侍女をジッと見つめた。
『黒』の死は、ハルツ公が動き出した合図だ。
「ハルツ公が攻めてくるぞ。セドリク、移動の準備をさせろ。ハウザーもだぞ!」
「はっ、私は部下たちの所に移動します」
「ようやく、出番かよ。待ちくたびれたぜ」
「ハウザー、向こうでまず、ヒルデと合流するのを忘れるなよ」
「任せておけ。ひ弱な騎士団員どもに、目にもの見せてくれるわ」
侵攻のタイミングは分かったが、互いの戦力や配置は不明だ。それを把握するのが俺の役目だ。
皆、倒れた侍女には一瞥もくれず、各々の準備に取り掛かっている。
カスパルだけが彼女に近づき、左腕を切断し始めた。
万が一に備えて、証拠を消すためだ。
これで、我が家で用意した侍女で生きているのは『黄色』だけか。それも先ほど、ハウザーに始末を命じた。今ごろは配下の凶賊あたりに殺されてるかもしれないが。
「カスパル、見張り役の者との連絡を密にせよ。謁見室での異常を絶対に見逃すなと伝えよ」
「承知しました」
しばらくすると、城内が騒がしくなってきた。ハルツ公の騎士団が攻め入ってきたのだろう。だが、やつらはセルマー伯を探し出すのにてこずるだろう。
そして、こちらが仕掛けた罠にはまり、捜索が停滞するはずだ。その時に何人もの騎士が命を落とすことになる。
元伯爵が死んだことは、騎士団長にも伝えていない。その代わり、ハルツ公が領内に攻め込んできたので迎え撃てと命じてある。死ぬ前に元伯爵が命じたのだから、騎士団長も疑わないだろう。もっとも、ここの騎士団は大した強さではないらしいから、足止め程度の役にしか立たないであろうが。
「レーガン様、見張りによると、ハルツ公が謁見室に現れたそうです。ゴスラー騎士団長も同行しており、彼はセルマー伯を探して奥の方に進んだようです。ハルツ公は謁見室に護衛の騎士と共に留まっているとのことです」
「そうか、自ら陣頭に立つのか。ならば、ハルツ公の居城は恐らく手薄になっているはずだな」
既に4つのパーティーをハルツ公の城へと送り出した。
ハウザーを中心に今ごろ暴れまくっているだろう。
ギルド神殿の奪取と要人の暗殺が目的だが、城に標的となる人物はいないかもしれない。自分もハウザーたちの方へ加わるか、それともここに残り、ハルツ公の首を狙うか。
城内に爆発音が響き渡った。罠の方は順調に発動しているようだな。これで、ハルツ公の侵攻も遅れるだろう。こちらの戦力は、まだほぼ温存できている。死者が発生していたとしても、ハルツ公かセルマー伯領の騎士団のどちらかだ。
その後も、ハルツ公の傍にいた妃のカシアがボーデの城に戻ったという報告や、ハルツ公の所に次々と騎士が状況を伝えに訪れているという連絡が入ってきた。
ドアがノックされ、カスパルの部隊の副官が入ってきた。
「レーガン様、ハルツ公の周囲の騎士たちが、その傍を離れました。今残っているのは、女の冒険者を中心とする一団のみのようです」
「女の冒険者だと?」
どういうことだ。そういえば、ヒルデから入ったハルツ公に関する情報で、最近、カシアが石鹸の取引を増やしているというのがあったな。その関連なのか?
「女の冒険者ばかりなのか?」
「いえ、一人だけ男のようですが、他の四名は女だと見張りの者が申しております」
ハルツ公は騎士団の戦力を集中するため、護衛に冒険者を雇ったのか?それほど奇襲に自信があるのだろうか。
「そうか。その五名とハルツ公だけなのだな?」
「はい。男一人と女四人だけです。見張りによると、彼らにはあまり緊張感がないようです」
「緊張感がない・・・・・・?」
ハルツ公が攻め込んできたというのに、護衛の冒険者たちに緊張感がないとはどういうことだ。こちらが襲撃を仕掛けることを知らないとしても、周囲では騎士たちが戦っているのだぞ。
それなのに、なぜ平然としていられる?
「・・・・・・いや、考えている時間はない」
騎士たちが戻ってくれば、この機会は失われる。
「カスパル、我々も出るぞ。だが、移動先はボーデの城ではなく、謁見室の方だ」
「ハルツ公を狙うのですね」
「そうだ。今ならこちらは相手の二倍の人数だからな。2パーティーで同時に攻め、一気にハルツ公の首を取るぞ」
カスパルは頷いた。
移動の準備を整えながら、一つの疑問が拭いきれない。なぜハルツ公は、これほど少ない護衛しか残していないのだ?
先ほどまで周囲にいた騎士たちは、何かの報告を受けて離れたという。まさか、こちらの襲撃を察知して誘い込もうとしているのか。
いや、考えても無駄だ・・・・・・堂々巡りの思考を打ち切った。
相手が罠を仕掛けているのなら、こちらにも罠がある。人数で上回り、移動場所と撤退経路も確保している。ここで好機を逃せば、二度とハルツ公の首を狙えないだろう。
「行くぞ」
レーガンは、部下たちを先導して歩き出した。
・・・・・・
「どうした、カスパル?」
「移動先に見張りの護衛騎士がいたので始末しました」
カスパルとその部下の近くの通路に、倒れている者がいた。これがハルツ公の護衛か。謁見室だけでなく、外の通路にも見張りを配置していたのか。始末したのなら、問題ないが。
臆病なセルマー伯の城は、ふんだんに遮蔽セメントが使われており、フィールドウォークを遮断する場所ばかりだった。だが、ハルツ公の襲撃に備え、遮蔽セメントを削り、城内にいくつかの移動場所を確保しておいた。
今回は用意していた移動場所のうち、謁見室の近くにあるものを使ったが、騎士が見張っていたか。謁見室内の見張り場所からは見えなかったので、やむを得まい。見張りが一人だけだったのは僥倖だ。まだ、こちらに運があるな。
こちらの襲撃部隊は2パーティーで合計12名。全員が兜か布で顔を隠している。この襲撃が成功すれば、その必要もなくなるが。
「よし、一気に謁見室に入るぞ。ハルツ公を壁にかかったエンブレムの方に行かせぬよう、包囲するのを忘れるな。フィールドウォークで逃がすわけにはいかない。ここで仕留めるからな」
カスパルと部下たちが頷くのを確認し、謁見室のドアを開けて中になだれ込んだ。
12名で謁見室にいた6名を取り囲んだ。鎧を着けたエルフ族は一人だけだから、あれがハルツ公だ。見たことがある顔だから間違いない。
中央でやや前に出ているのが男の冒険者。その左右に一人ずつ、後方に二人いるが、確かに四人とも女だ。後方にいる二人が金属鎧を着けているのは、飾りだけなのか。男の左右にいる女冒険者たちは革製っぽい鎧を着けて、剣を構えている。
状況を概ね確認し終わったところでハルツ公が口を開いた。
「貴様ら、何者じゃ?」
「公爵・・・・・・お命頂戴する・・・・・・」
伯爵位を簒奪する目論見が崩れた以上、ハルツ公の首を取って、王国に亡命する。ハルツ公の命を奪えば、侯爵領へも顔が立つし、王国でも優遇されるだろう。
「閣下、お下がり下さい。彼奴らの狙いは閣下の命です」
「むっ・・・・・・」
この冒険者の男は、ハルツ公を守るつもりでいるのか。こちらは倍の人数だぞ。冒険者風情がそこまでやるのか?
そして、何やら仲間たちと会話をしている。あまり緊張感が伝わってこないのは何故なのだ?
このままでは、埒が明かない。脅すか。
「その格好は・・・・・・貴様ら、冒険者共か。公爵を引き渡せば、お前たちの命までは奪わぬと約束しよう。逆らえば、全員、死ぬものと覚悟しろ」
リーダー格らしき男からは返事がなかった。
だが、やがて口を開いた。
「降伏すれば、命は助けてくれるのだな?」
「むっ、まずは武器を捨てろ。話はそれからだ」
こいつらには、公爵ともども死んでもらう。ハルツ公を殺害したら、公爵の左腕のみ切り離して、そのままハルツ公のエンブレムから脱出を図るだけだ。
目の前の男は手にした剣を一度掲げると、床に突き刺して手を離した。
「これでどうだ?」
男は両手を上げた。降伏するつもりか。
だが、この男だけでは駄目だ。
「お前だけでなく、他の者も武器を捨てろ。そうすれば、命だけは助けてやる」
その時、妙なことが起きた。
後方に控えていた小柄な女冒険者がハルツ公を抱えて後退した。そちらには、エンブレムの入った垂れ幕がないのに、こやつらは何をやっているのだ?
「おい、後ろで何をしている。早く、公爵を引き渡せ!」
無駄な抵抗をして時間稼ぎをする気か?
その時、剣を手放した目の前の男が、よく響く声で叫んだ。
「戦闘開始だ!」
馬鹿者めが。公爵に雇われ、金に目が眩んだのだな。冒険者ごときでは、彼我の戦力差も分からぬものなのか。
「取り囲んで、討ち取れ!」
周囲に指示を出すと、全員が剣を構えて、前に進みだした。
だが――
正面の男が武器を複数本握って突進してきた。先ほど床に突き刺した剣だけではない。いつの間にか、複数の剣を握っている。
たった一人で、こちらの包囲を突破するつもりか。最前列には、既に三人が剣を構えて進路を塞いでいるのだ。
その瞬間、男の姿がぶれ、視界から消えた。
いや、違う。男は消えたのではない。こちらが目で追うよりも速く、間合いを詰めたのだ。
(ガキンッ!)
金属音が響いた瞬間、最前列の中央にいた凶賊の男が、剣を構えたまま硬直した。
その首が宙を舞う。
「なっ・・・・・・」
声を上げる暇すらなかった。
男はすでに右へ踏み込んでいた。二本の剣が交差するように閃き、右側にいた海賊の男の首を刎ね飛ばす。二人とも、グスタフが手配した猛者揃いだったはずなのに。
さらに左へ。
残る二本の剣が、迎え撃とうとした騎士の剣を弾き、その胴体を斬り裂いた。
一連の動作が、あまりにも速い。剣を振ったのは一瞬見えた。だが、いつ振り抜いたのかが分からない。
男は立ち止まらない。
まるで、そこに立つ者たちは戦う相手ではなく、ただの障害物でしかないかのように、次の標的へ向かって進んでいく。
「止めろ!そいつを止めろ!」
叫んだつもりだった。
だが、声が届くより先に男は次の獲物へと迫っていた。
中衛にいたカスパルの副官が剣を振り上げる。
隣の神官が呪文を唱えようと口を開いた。
間に合わない。
男の剣が横薙ぎに走り、神官を斬り裂く。そのまま副官の防御をものともせず、剣を突き立てた。副官はその場で硬直した。何かされたのか?
目の前に男が迫っていた。何故、先ほどまで部下五人を挟んで、その先にいた男が、もう目の前にいるのだ!
剣を振り上げる。
間に合え!
だが、男はものすごい速度で数回の刺突を繰り出した。
胸に強烈な衝撃が走る。
剣を振り上げたはずだった。
迎え撃つつもりだった。
なのに、自分の剣は届いていない。
何故だ・・・・・・。
追撃が来る。首を刎ねられてしまう・・・・・・と思ったが、目の前の男は、もうこちらを見てもいなかった。男は踵を返し、先ほど剣を突き立てた副官を真っ二つにした。
自分を敵とすら認識していないかのように、男は次の獲物へと視線を移している。
その事実が、何よりも恐ろしかった。
伯爵位を簒奪するため、策を練り、味方を集め、幾日も準備してきた。爵位は諦めたが、ハルツ公の首を取れば道は残されていると思っていた。人数は上回り、退路も確保していた。勝算はあったはずなのに、目の前の男は、こちらの戦力をまるで相手にしていない。
違う。
自分は、目の前の男が何者なのかすら知らなかったのだ。
伯爵位を手に入れるために費やした時間も、集めた部下も、練り上げた策も、すべてが無意味だった。たった一人の男を前にして、何一つ通用しなかったのだから。
体が思うように動かない・・・・・・麻痺させられたのか?いや、迷宮でモンスターに麻痺させられた時は、こんな感じではなかった。これは『硬直』のスキルを受けたのか?
男はカスパルたちの部隊へ向かっていく。カスパルたちに危険を知らせなければ・・・・・・だが、声が出ない。男が次々に部下たちの首を刎ねていくのが見えた。
視界が傾いた。
床が迫ってくる。
自分は、倒れようとしているのか・・・・・・。
顔に軽い衝撃を感じ、体が硬直していく。頭が痺れ、全身に寒気が走る。何も見えない。何も聞こえない・・・・・・。
レーガンの意識は、ゆっくりと闇に沈んでいった。
お読みいただき、ありがとうございました。
本話に関する感想、ココスキ等、お待ちしております。
否定的な意見、改善要望等、忌憚のない意見をよろしくお願いいたします。
■爵位継承に関するインテリジェンスカード操作について
原作の一部情報を基に、以下のように解釈しました。
領内では、領の首長(領地持ち貴族の当主)が、領民のインテリジェンスカードを本人の承諾なしに変更できる。一方、領民でなくても、本人の承諾があれば変更できる(原作のルティナのケース)。
原作では、村長が村民を奴隷落ちさせたり、サボーが家長の権限で家人(ドーリットル)を殺しても罪に問われなかったりと、家長や首長の権限がかなり強く描かれていました。これらの描写から、領民に対する強制的な変更も可能と判断しています。
また、継承順位の変更や廃嫡も、領民であれば、首長が本人の承諾なしに自分のインテリジェンスカードを操作して変更できると解釈しました。本人がカードの提示を拒んで逃亡した場合などにも対応できる必要があるためです。
今回のカーラはセルマー伯の領民ではないため、変更には本人の承諾が必要です。ただし、セルマー伯の傍系という血筋であるため、直接の譲位も可能という設定にしています。
伯爵位の継承について、セルマー伯がカーラにどう説明し、カーラがなぜ受け入れたのかは、カーラ視点の閑話を作ることがあれば、そこで描くかもしれません。今回の閑話シリーズは、素稿の時点で五万字を超えていたため、二人のやり取りは削りました。
■この閑話シリーズ(全5話予定)を作成した背景
今回の目的は、セ二号作戦の裏側を描くことだけではなく、複数勢力の主要人物の視点を切り替えながら、物語を進める手法のテストでもあります。
設定を物語として具体化するのは大変でしたが、作り手としては楽しめました。ただ、読者様にとって理解しやすい話になったかというと・・・・・・(苦笑。
今回の閑話シリーズは、前に投稿したセ二号作戦の流れを把握していないと、ハルツ公の動きやカシア様の移動タイミングが分かりにくいかもしれません。合わせて読んでいただくと、作戦の裏側で進行していた出来事も楽しめると思います。
また、拙作の主人公はセルマー伯などを、コミカルで小太りなエルフのおっさんという小説のキャラクターのように扱っていますが、実際にはそう単純な人物ではないかもしれない、という面も描きたかったところです。5つ目の閑話で描くキャラクターも同様です。
もう一つ、盗賊狩りでユキムラは、デュランダルで相手を切り刻んだり、硬直のエストックで石にしたりと好き放題していますが、やられる側はどんな気分なのか、という点も描いてみたかったところです。
引き続き拙作にお付き合いいただければと思います。
次回投稿日は2026/11/11(水)の予定です。
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アンケートで評価していただきたいのは、以下の変更点についてとなります。
・多人数の視点を混在させた記載の導入(全ての話に導入される訳ではありません)
・文章の始まりの字下げを廃止
・会話文の句点、読点の改行位置の変更
※アンケートで『読みにくくなった』と感じられた方で、具体的に何が読みにくいと感じたか、本話での感想でいただけると助かります。上記3つ以外の指摘でも構いません。
今回の閑話シリーズの文章について、今までの拙作の表現方法と比べて、読みやすくなったと感じたかどうかの評価をお願いします。話が面白かったかどうかではなく、あくまで文章(お話)として読みやすくなったかどうかの評価をお願いします。
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読みやすくなった
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読みにくくなった
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変わらない
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分からない