異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

35 / 265
005.二人の受入と我が家の作法

 朝起きると、既にベッドには俺一人の状態。まあ、それはもういいか。

 

 アミルは立ち直りが早いな。きっと、今日の受験も大丈夫だろう。

 

 食事に行く前に、一緒に洗濯しようとしたら、既にアミルが済ませていた。

 空いた部屋で暖房を動かして乾燥までさせている。受験の日なのに凄いな。

 

 俺が16歳の時に、ここまでしっかりしていただろうか?うーん。

 

 朝早くから働くのは、この世界の人が日の出・日の入の制約を受けているのが原因だろうか。

 我が家は謎のスキルで照明を設置したから、アミルが生活のリズムを崩さないと良いのだが。

 

 二人でベイルの旅亭へ朝食を食べに出かける。

 アミルの方は特に緊張した感じにも見えない。良い感じだ。

 

 いつも通り、ボイルにオリーブオイルを渡して、木札をもらう。

 朝食を取りながら、今日の予定について確認。

 

 食事を終えたら、昼食の弁当を4人分確保して、自宅に戻る。

 アミルの外出準備を終えたら、鍛冶師ギルドに行き、受験。

 試験はどのくらいかかるか分からないが、長くても午前中いっぱいには終わるはずだ。

 

 合格したら、その場で定本の購入や入会金を支払ってもらう。

 金額はどちらも銀貨50枚だったはずで、昨日の預託金をそのまま使って良いと伝えた。

 

俺はその間に、クーラタルのルークの所に行って取引。

その後はドブローに行って、ダマスカス鋼の工房を軽く探す予定。

見つからなくても、昼までにはベイルの鍛冶師ギルドに戻ってくるので、そこで合流する。

 

 合流した後は、一度アランの商館に行って、治療が終わっているか確認。

 終わってなければ、また出直し、終わってたら、二人を引き取って、ベイルの市で買い物。

 

 都合の良いことに今日は5日周期の市の日だ。

 服とか日用品とか、この前アミルが購入したものを参考に、二人に教えて、買物の助言。

 服も一般的な奴隷のものでなく、俺がアミルに要求したものを参考に説得してもらう。

 

「お任せください」

 アミルから頼もしい返事。

 

 食事を終えて、4人分の弁当をアイテムと交換して受取り、新居に戻った。

 

 俺の方は、それほど大した準備はないので、すぐに階下に降りて、アミルを待つ。

 まもなくして、アミルが降りてきたので、二人で外出。

 俺もギルドまでは同行することにした。受験の日に同行するお父さんのようだ。

 

 ギルドに着いて、受付で確認すると、試験は問題なく始められるとのことだった

 

「アミル、結果のことは気にせず、気楽に受けてくれば良いからな」

「はい、頑張ってみます」

 緊張はしてないみたいだな。受付の人にアミルを任せて、俺は退散。

 後は吉報を待つだけだ。

 

 近くの木の幹からクーラタルの冒険者ギルドにワープした。

 

 冒険者ギルドを出て、商人ギルドに行き、受付でルークを呼び出した。

 待合室で待つこと5分くらい。ルークが慇懃な礼をしながら、入ってきた。

 

 席に着き、ルークの提示したカードは、鑑定で確認すると芋虫、ウサギ、コボルトが各1枚。

 メモも付属されていて、俺の異世界言語で読む限り、特に間違いの記載もなかった。

 これで融合出来るのは詠唱中断か。ヤギも欲しかったのだが、まあ次回に期待だ。

 詠唱中断を付与するなら、ダマスカス鋼の槍が欲しいところだ。

 

「どうせすぐに成功しないから、次も頼む」

「左様ですか」

 入手した3枚のカードを更に追加で1枚ずつ入手することを依頼した。

 3枚分の手数料に3割引で、1050ナールを支払った。

 用件を終え、ルークに礼を言い、商人ギルドを後にした。

 

 適当な木陰から、ドブローの冒険者ギルドにワープ。

 前にも一度来たけど、まずは防具屋の方から掘り出し物のチェック。

 前回来訪時も感じたが、ダマスカス鋼製装備のラインアップがすごい。

 というか、前回並んでいたダマスカス鋼の防具とか、ほとんどが入れ替わってる気がする。

 

 前回、既に購入したのに、またダマスカス鋼の額金(空4)がある。

 そして、ダマスカス鋼の盾(空2)もある。これは前回来た時には無かったはず。

 

 店主に防具の品ぞろえの回転の速さについて尋ねると、遠方から買い付けに来る商人が結構いるので、品物の入れ替えが激しいと教えてくれた。

 つまり、今ここで購入しないと、次に来た時には売れてしまってる可能性が高いのか。

 なんか、店主の口車に乗せられてる気もするが、欲しい防具だから購入するしかないな。

 

 ダマスカス鋼の額金(空4)、ダマスカス鋼のプレートメイル(空3)、ダマスカス鋼の盾(空2)、ダマスカス鋼のデミグリーヴ(空)を購入した。

 いくら数が多くても、さすがに空きスロットの数が3つ以上のものは少ない。

 空きスロットの数が1個か2個のものを購入するのは売却用の投資だ。

 

 加えて、竜革の鎧(空)も購入した。

 竜革の装備品を持ってないので購入したが、こちらは最終的には売却用だな。

 アミルが鍛冶師になるのが目前なので、なんか物欲が急上昇中な気がする。

 

 店主にダマスカス鋼の工房の件を質問してみたが、確かにドブローにはダマスカス鋼の装備を専門に作る腕の良い鍛冶師がいるようだ。

 そのため、ダマスカス鋼のドロップ品を持ち込む者が集まり、好循環を生んでいるらしい。

 

 それなりの金額購入したので、ダマスカス鋼の工房への紹介状を書いてもらった。

 だが、気難しい親方のようなので、多分、相手にしてもらえないだろうと言われた。

 店主に礼を言って、もらった道順メモを見ながら、紹介された工房を来訪。

 だが、あいにく留守だった。残念。

 武器は工房で直接購入してやろうと思ったのに。

 

 仕方なく、武器屋の方でも掘り出し物チェック。こちらも品ぞろえが一変していた。

 

 空きスロット付きの良さげなものとして、ダマスカス鋼の槍(空2)、ダマスカス鋼の剣(空)、エストック(空4)があったので購入。

 空きスロットが4つが手に入ったのは幸運だが、数が多ければ、アタリも出るのだと実感。

 そりゃ、同じ種類の装備品が30も40も置いてあれば、空きスロットが3つ、4つのものに当たる確率は高い。

 

 やはり、このドブローには定期的にチェックしに来るか、もしくは工房と直接、交渉するのが良いだろう。

 そこそこの枚数の金貨が飛んでいったが、かなり良い買い物だ。

 

 次は、是非、ダメ元で工房の方にも訪れてみたいものだ。

 アミルに昨晩、俺の好みの武器をヒアリングされた手前、装備品をたくさん購入してると後ろめたく感じなくもないが、まあ、それはそれ、これはこれだ。

 アミルがダマスカス鋼の装備品を作れるようになるのは、まだ少し先だろう。

 

 ホクホク顔で、ベイルの冒険者ギルドにワープした。

 

 ギルドを出て、鍛冶師ギルドに向かうと、すぐに笑顔のアミルが出迎えてくれた。

 もう結果は聞くまでもない。

 

「鍛冶師になれました」

 元気な声で教えてくれた。

 

 アミルの頭を撫でながら、今日の出来事を聞いていく。

 予想していた探索者のレベル確認はなかったそうだ。

 すぐにギルド神殿のある場所に連れていかれ、鍛冶師のジョブを取得したそうだ。

 それだと、試験というよりはただの検査登録みたいなものじゃない?すぐ終わるだろう。

 まあ、合格した訳だからアミルを労ったけど。

 

 レベルが高かろうが、鍛冶師になれる奴はなれる、なれない奴はなれないので、まどろっこしい確認はしてないそうだ。

 金さえもらえれば受験できると言ってたのは、正にこの事なのかもしれない。

 

 合格と決まった後に、装備をどの素材から作り出すのかを記載した文献一式(定本)をもらったが、それらは試験費用に含まれていたらしい。

 特に追加で購入するものはなかったそうだ。会費の銀貨50枚は払ってきたとのこと。

 鍛冶師として、これから何か必要かもしれないので、余りのお金はアミルがそのまま持つことにした。

 

 アミルの年齢が16才だということが分かって、その若さで探索者Lv10になれる程の逸材が奴隷身分であることを惜しまれたそうだ。

 何か相談があったら乗るので主人に内緒に相談しに来いと言われたことをぶっちゃけられた。

 むしろ受験よりも、その後の話の方が長かったらしい。

 

 あのおっさんはアミルのため、本当に親身になってくれてるのだから、俺も悪い気はしない。

 うちのアミルはやらんがな。

 

 これで晴れてアミルも鍛冶師となったので、遠慮なく迷宮でレベル上げだ。

 エネドラとチクルスも迎え入れたら、全員まとめて、パワーレベリングだ。気合が入る。

 

 鍛冶師取得の件が片付いたので、次はアランの商館に向かった。

 商館の門番に用向きを伝えて、俺達はいつも通り、応接室で待つことに。

 ほどなくして、アランが現れ、二人を連れてきた。

 

 既に治療は終えており、奴隷契約の手続きは完了しているので、本当に引き渡しと挨拶だけだ...と思っていたら、アランの方が何か手紙っぽい束を渡してきた。

 

 先日、戦闘奴隷を求められて、アランの方から提案できなかったので、帝都、クーラタル、ドブローの奴隷商館への紹介状を書いてくれたようだ。

 非常に助かるフォローだ。ちなみに、帝都は2つの商館の紹介状をもらった。

 

 俺は感謝の言葉を述べ、アランの丁寧な挨拶に送られ、4人で商館を後にした。

 皮の靴は商館を出る前に渡して履いてもらっていたので、取り急ぎ、マントを二人に渡して羽織ってもらった。

 まず、服を購入するためにベイルの市で、服屋(古着屋)に行くことにした。

 

 アミルと同様に、普通の平民が着るようなカジュアルな服装と下着類を上下3セットずつ購入するように伝えた。

 後のフォローはアミルにお任せだ。

 俺は、他の店を回って、何かおもしろい日用品か、食材がないかをチェックだ。

 

 果物も名前を聞いてもどんな味か分からず、直接尋ねたりしながら、想像を膨らませた。

 小麦粉は当然、普通にあるけど、米や醤油はない。

 魚醬はクーラタルに行けばあるのだったっけか?

 とりあえず食糧庫に収納すれば、ある程度の保存が利くので、お試しでいくつか買ってみた。

 

 古着屋に戻ると、選定は終わってたみたいだったので、俺の方で会計を済ませた。

 アミルが気を利かせて、二人のリュックも選ぶようにしてくれたみたいだ。助かる。

 

「奴隷にこのようなものを買い与え頂き、ありがとうございます」

 二人は俺に深々とお礼をしてくれたが...あまり目立ちたくないのでやめてほしい。

 アミルも少し苦笑い。二人を止めてくれよ。

 

 四人で新居に向かったが、二人は雑談には乗ってこず、静かに付いてくる。

 まあ、まだ距離感が掴めていないというか、奴隷として遠慮しているのだろう。

 ひょっとして、アミルが一番奴隷だと誤解してるかも。

 

 新居に着くと、二人は、俺の家の大きさにかなり驚いていたが、説明は家に入ってからだ。

 玄関で、上履き-外履きルールをアミルに説明してもらう。

 その間に、俺は食堂に行き、購入した食材を食糧庫に収納。

 

 二人がアミルと共に食堂に入ってきたので、食堂と厨房を軽く見せた。

 

「あまり使ってなくて、これから必要なものを揃えたいので、助言してほしい」

 エネドラが少し怪訝そうな顔をしている。

 主人が奴隷に命令せず助言を求めてるので違和感があるのだろうか?

 助言くらいは普通に求める気もするが、命令口調でないとダメ?

 

 次に、食堂と廊下を挟んで向かいの部屋が二人の部屋だということで、二人に見せた。

 シングルベッド2つ(マット、布団付)、タンス、テーブル、椅子二脚つきの部屋だ。

 

 二人が驚いて、

 

「これは奴隷に与えられる部屋ではございませんが...」

「そうかもしれないが、我が家ではこれが普通なので、慣れてくれ。

 アミルの部屋も似たようなものだから」

 と伝えて、無理やり納得させる...そして、アミルは何故、どや顔なのか?

 自分が通った道だからか?

 

 二人には、さっき購入した服に着替えるとともに、予備の服などをタンスに仕舞う等、使い勝手を確認してほしいと伝えた。

 当然、俺は退室して、食堂に逃げ込んだ。

 いや、それよりも自室に戻って、筆記用具を持ってこよう。

 この後、いろいろ相談したいことがあるしな。

 

 食堂に戻ると、既に3人が待ち構えていた。

 えっ、もう確認終わったの?早過ぎじゃないかい。ちゃんと確認した?

 

 6人が座れるテーブルと椅子があるので、俺とアミルが隣同士、その向かいにエネドラとチクルスが座るように伝えた。

 無論、床に座るのではなく、椅子に座ってもらう。

 

 その後は、我が家のルールの説明。

「我が家には、他の家ではあまり見られない独特のルールがあるので、理解してほしい。

 疑問があれば、どんどん訊いてくれ」

 

「まず、食事の際には、奴隷であっても同じテーブルで椅子に座って、

 全員で同じものを食べるのが我が家のルールだ」

 なんか、二人の戸惑いの表情が...面倒臭がらずにちゃんと説明をしよう。

 

「外で食事をする際にも同じなので、服は普通の平民と同じものを着るようにしてほしい。

 そのため、普通の服も食事時に限らず、普段から着るようにしてほしい」

 

「むろん、奴隷に関する責任は俺が持つので、

 相手が何か言ってくるようなら、俺が交渉するので心配しないで良いから」

「あの、何故、奴隷と一緒にご主人様は食事をするのでしょうか?」

 エネドラから質問が来た。ちゃんと疑問な点を質問してくれるのはありがたい。

 

「ああ、独りで食事を食べると美味しく感じられないから。

 あと、食事を食べながらの方が、いろいろと話がしやすいからかな」

「承知しました」

 えーと、仕事として食事をするのでなければ良いのだが、大丈夫だろうか?

 

 ベイル亭の昼食を出して、ハーブティーをアミルに淹れてもらって、4人で昼食を取った。

「この国では、朝晩の二食が基本のようだけど、

 俺の居た国...外国なのだけど、一日三食だったので、

 我が家では一日三食を基本とするのが俺の希望だ。ただ、昼は軽めの食事で問題ない」

 

 二人は戸惑いながらも、俺と同じ食事をとりながら、頷いてくれた。

 ただ、本当に納得してくれているのかは分からない。ちょっと流れを変えないとマズイな。

 

「今後の方針についての相談をしたいのだけど...

 その前に、二人には俺のパーティに入ってもらうか」

 パーティ編成で、二人に俺のパーティに入ってもらった。

 ただ、二人はアミルのパーティに入れてもらったと勘違いしている気がする。

 パーティに入るときにアミルの方に視線を向けたからね。

 

 今、アミルは探索者ではなく、鍛冶師だし、無詠唱でパーティ編成の申請が来たのには気づいてないようだ。

 ついでに、神官で全体手当を複数回かけておいた。

 治療魔法の効果は気休めだが、俺の複数ジョブ効果が二人に及ぶと良いのだが。

 

 食事を続けながら、二人の控えジョブのチェック。

 エネドラは商人一本なのだな。そして探索者のレベルは高くない。

 

 一方で、チクルスの方は商人を全く目指さなかったのか、薬草採取士がメインか。

 探索者も迷宮に入って、薬草採取士になるためだけって感じか。

 まあ、別にそれが悪い訳ではないが。

 

エネドラ(人間族 女 27才 奴隷)

商人Lv26

(控えのジョブ)村人Lv12 薬草採取士Lv1 探索者Lv3

 

チクルス(人間族 女 18才 奴隷)

薬草採取士Lv3

(控えのジョブ)村人Lv6 探索者Lv1

 

 再び、エネドラから発言の許可が...

 

「ご主人様の呼び名はいかがいたしましょうか?呼び方にこだわる方もいらっしゃいますが」

「えっ?別に呼びやすいような呼び方で良いよ。みんなで合わせる必要もないから」

 呼び方にこだわりは、全くない。

 

「承知いたしました」

 どちらかと言えば、バカ丁寧な敬語の方が気になるくらいだ。

 ただ、それも任せよう。俺の常識の方がズレてることもありそうだし。




お読みいただき、ありがとうございます。

Web版では、探索者Lv10しか受け付けてないと記載がありましたので、何かふるい落としの条件とか描こうかと思って止めました。
受験料さえ払えば受験可能で、合否は受験者次第。
レベルも自己申告で良いでしょ(実際、嘘言っても、特に不正が出来る訳でもないし)。
鍛冶師の条件を満たすためには、迷宮に入らなければならず、国としても助かるから、好きなだけ挑戦すれば?...みたいな感じです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。