三人とも食堂に集まってきたので、会議を始めることにした。
「会議の目的は、明日の予定確認や問題点を共有したり、相談事を解決したりすることだ」
「明日の予定だが、朝食は今日の夜と同じく、ベイルの旅亭で四人で食べに行くことにして、
昼食、夕食は試しに二人で作ってもらうということで良いのかな?」
「はい。私とチクルスで昼食を作ってみます。
軽いものということですので、パンとお肉を焼いたものと簡単なサラダを作ろうと思います」
「うん、何か厨房の使い方の問題点や足りないものがあれば、昼食の時に教えてくれ。
もし、それで夕食を作るのが難しそうなら、夕食を旅亭に変更しても問題ないぞ。
無理のない範囲でやってくれればよい」
「はい。承知しました」
うーん、まだ命令形式っぽいが...しばらくは少し我慢か。
「俺とアミルは朝食後にザビルの迷宮の6階層の攻略から再開する。
午前中で探索を切り上げて、昼食のために自宅に戻るつもりだ」
「はい」
俺とアミルの迷宮組の方は分かりやすいよな。
「昼食が終わったら、俺たち迷宮組はザビルの迷宮攻略の続きだ。
午前も午後の迷宮探索時もエネドラとチクルスの二人はパーティに加えたままだ」
「夕食の時間までには、迷宮から戻るが、探索の区切りの良いところで戻るので、
帰宅の時間は毎日、ちょっとずつ前後すると思う。そこは頭に入れておいてほしい」
「はい。承知しました」
返事はエネドラだけか。チクルスの方は明日の結果で問題ないか確認しよう。
「エネドラとチクルスは暫くは家事に慣れてほしいので、午前中は洗濯と昼食の準備。
問題なければ、午後は昼食の片づけと夕食の準備、余力があれば、掃除をやってみてくれ」
「明日は、もし掃除するとしても、目的は綺麗にすることじゃなくて、
掃除をすることが問題なく出来そうか確認する程度で良いぞ」
「掃除も使ってない部屋を一生懸命掃除する必要はない。
ホコリが溜まりすぎない程度に、たまにやればよいのだから」
「何か困ったことがあれば、昼食の時間や、夕方に迷宮から戻った時や、
明日の夜のこの会議の場でもよいので、教えてほしい」
「そして、これは重要なことなのだが、率直に言うと、家事は最低限やってくれれば良いので、
余った時間は家事をするよりも、今後やりたいことを真剣に考える時間にあててほしい」
「ジョブの育成や金銭面は、俺の方で全面的に支援するので、遠慮なく相談してほしい」
エネドラが発言の許可を求めてきた。
「旦那様は、迷宮のドロップ品を売却していないと、おっしゃっていましたが、
迷宮の探索以外に何か商売などをしてお金を得ているのでしょうか?」
あれっ、呼び名がご主人様から旦那様になった...まあ、それは良いか。
「商売は少しだけしているかな。俺がこの国に来たのは、確か...12日前か。
その時は無一文だった。
今は100万ナール以上の資金があって、それとは別に大量の装備品やドロップ品があるな」
三人が何とも言えない顔になった。でも、全て事実なのです。
「資金の大半は盗賊の懸賞金だな。
商売という意味では、故郷から鏡を持ってきたので、それをルークに少し売却したくらいだ」
「稼ぐ手段はあるので、これからも資金は増やすし、高額な装備を購入したり、
パーティメンバとして奴隷の購入や、クーラタルにもっと大きな家の賃貸契約をする予定だ」
よほどのことがない限り、三人のやりたい事が資金面で困ることはないと思っている。
これで、エネドラの質問の答えになっているだろうか?」
「懸賞金で100万ナールということは、よほど、名の売れた盗賊を討伐したのでしょうか?」
「ん?どうだろう。名が売れていたかどうかは騎士団の詰所で確認してはいないな。
この国に来て、50人くらい討伐して100万ナールだから、一人平均で2万ナールくらい?
あまり名の売れた奴はいなかったんじゃないかな?」
「この国に来て10日ちょっとで、50人?毎日4、5人討伐していることに...」
エネドラとチクルスの目が見開いてて、ちょっと可愛い。
ヤベぇ、ちょっと、ぶっちゃけ過ぎた。でも嘘は言ってないし、撤回しにくいな。
「何故か、盗賊とよく巡り合わせるので、その都度倒している。
無理に賞金稼ぎをしている訳ではないので、心配しなくてよいぞ」
「私はご主人様と一緒に迷宮探索していますが、一度も盗賊には遭遇していませんが...」
あ、あれっ、アミルの言葉はフォローになってるのだろうか?まあ、いいや。
「話が少し逸れたが、家事の仕事は最低限で良いし、
何度も言うが、食事の用意はベイルの旅亭で代替しても構わないので、
将来、自分達がやりたいことについて、真剣に考えてほしいと思っているということだ」
ちゃんと伝わったかな?三人とも頷いてくれてるから、きっと大丈夫のはず。
「今後の方針についてだけど...」
明日以降の中期的な方針もざっと説明。
「迷宮の方は、ザビルの11階層までの攻略をした後は、
クーラタルの迷宮に移って12階層から攻略をしようと思う。
その後は、ザビルやベイルの迷宮も12階層から並行して攻略していく予定だ」
「ご主人様、クーラタルの迷宮を12階層から攻略するのは何故でしょうか?」
「ああ、クーラタルの迷宮の低階層は混んでるからだな。
管理されてないザビルの迷宮の方が空いていて戦い易いから1階層から攻略したが、
3つの迷宮を12階層から足並みを揃えて攻略していこうと思ってる」
「なるほど、3つの迷宮を並行して攻略するのは、私が戦闘に慣れるためでしょうか?」
「アミルだけでなく、俺もだけどな」
「16階層からは、モンスターの最大出現数が増えるから、
遅くともそれまでにはパーティの前衛メンバを一人は増やしたいと思っている。
アラン殿に紹介状をもらったし、各街の商館を巡って、良いメンバがいるなら加えたいな」
「アミルがある程度、鍛冶師としての経験を積んだら、
装備品の作成やモンスターカード融合に挑戦する。
モンスターカード融合については、俺のアイディアを伝えるので、
その時、また相談させてほしい」
「はい、ちょっと怖い気もしますが、よろしくお願いいたします」
まあ、そんなに時間かからないと思うけどね。
「故郷から鏡を持ってきたので、鏡をルーク経由で取引きすることがあるかもしれない。
ただ、鏡の数は限られてるので、せいぜい300万ナールくらいまでしか稼げないと思う」
「白金貨で3枚も稼げれば十分な気もしますが...」
もっと、稼がないとダメだと思うのだけどね。
「モンスターカードやスキルつきの武器については、
現時点ではルークを経由の取引が多くなるだろうが、他のルートも開拓したいと考えている」
「クーラタルのオークション以外のルートですか、難しいかもしれませんね」
エネドラが少し、考え込むような感じだ。まあ、でも、これもアイディアがある。
「鏡以外で販売可能な商品の候補はあるが、どのように生産していくかはまだ決めていない」
「何か、旦那様は迷宮探索者というよりは、商人のような考えをお持ちなのですね」
まあ、金を稼ごうと思ったら、商人の考え方でやらないと無理だと思ってるな。
「何か、質問や疑問点はないだろうか?」
「旦那様が考えている鏡以外の商品とは、どのようなものでしょうか?」
「一番目の候補は、石鹸かな」
「今日、風呂で使った石鹸は故郷から持ってきた商品で、同じものを作るのは正直、難しい。
だが、この国の原料で試作品は作り出せた。それの品質改良をして、売り出したいと思う。
改良の余地が多いので、品質は上がるはず。富裕層や貴族向けに販売出来たらと思っている」
「貴族向けは伝手がないと難しいですが、富裕商人相手なら商品次第で可能かもしれませんね」
「ご主人様の次に必要としている装備品は何でしょうか?」
「ダマスカス鋼の武器、防具を充実させたい。モンスターカード融合は詠唱中断と知力2倍だ」
アミルがパピルスにメモっていく。
ダマスカス鋼の武器はアミルが生成するのは少し先だろうな。暫くは店売りの物を調達だ。
「あの、ユキムラ様が今、生活する上で困ってることはないのでしょうか?」
珍しく、チクルスからの発言が。
そして、呼び名が変わった?何かお風呂で女性陣だけで話し合いがあったのだろうか?
俺は立ち上がって、服の中に入れていた二本の腕を出して、
「これが少し困っている」
二人は初めて、俺の腕が四本であることに気づいたようだ。
本当に今、気づいたのだろうか?実は知っていて、知らないフリをしてくれていたとか。
「旦那様は人間族ではなく鬼人族だったのですね?」
エネドラは...ドワーフじゃなくても知ってるのか?
「商人をやっていた頃、亡くなった主人と取引があったドワーフの方が、
お酒の席で鬼人族にまつわる昔話をしてました。
本人は、昔話というか作り話...と言ってましたが、本当のことだったのですね」
意外に、みんな知ってる話なのかな?俺だけが、無駄に隠そうとしていたのか?
いや、そんなことないか。
渋谷のスクランブル交差点で、桃太郎の格好して練り歩いたら、警察官が飛んでくるよな。
知ってることと、受け入れられることは別物だ。これからもヒッソリと生きていこう。
「アミルからも似たようなことを言われたな。
ただ、俺は自分以外の鬼人族に会ったことがないんだ。
アミルには話していたので、俺の生まれの話を言っておくとだな...」
「俺は、平民で、しかも孤児だったのだけど、剣を教えてくれた師匠の下で育てられたんだ。
俺の故郷は、結構平和で、盗賊とかはいなかったし、近くに迷宮もなかったので、
盗賊やモンスターを討伐したのは、この国に来て初めてだったんだ。
まあ、10日ほど前のことなのだけどね」
「俺の師匠は変わり者で、平和な村に居た割には、剣の修行は厳しかったし、
迷宮の攻略法や鍛冶師の知識とかジョブについて等、かなり詳しく俺に教えてくれたんだ。
当時は迷宮が近くにないのに、なんでこんなことをやらされてるのか分からなかったけど、
今ではかなり役に立ってるから感謝しているよ」
息を吐くように、嘘の話が出てくる自分にドン引きだ。
「で、話を戻すと。装備品は腕が四本でも、うまく体に合わせてちゃんと調整されるのだけど、
普通の服は腕が二本のものしか売ってないので、俺には合わないんだよね」
「とはいえ、俺が鬼人族だって事をあまり広めたくもないので、
オーダで服を作るのも躊躇われて、俺に合う服がなくて困ってるって感じかな?」
「では、私がユキムラ様のお洋服をお直ししますね。
専門の洋服屋には敵いませんが、針仕事は得意ですから」
チクルスが、積極的な提案をしてくれるのは嬉しいな。
「そうか、やってくれるのなら、助かる。
予備の服とか、洗濯が終わった服から適当に見繕って、試しにやってもらえるかな?」
「はい。お任せください」
何故かチクルスまで、力こぶを出して、アミルと同じようなポーズを。
力仕事ではないし、この国の様式美なのか?
「質問に全て、詳細に答えられてはいない気もするが、みんなが困ってることはないのか?」
「困っている...というか内密のことが多くて、
あと内密なことがどれくらいあるのか、心配なことでしょうか?」
アミルから鋭い突っ込みが。だけど、全てを網羅するのは難しいな。
「ああ、内密なことは、まだまだたくさんあるな。
そして、やっぱり内密にしてもらわなければならないので、諦めてもらうしかないかも」
自分で言っておいてアレだが、何とも情けない説明だ。
三人とも苦笑しながら頷いてくれた。納得してくれたと思って良いのだろうか?
「じゃあ、これで今日の会議は終わりにしよう。今日はお疲れ様。
いろいろあって、驚き疲れたかもしれないけど、ゆっくり寝て休んでくれ。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさいませ」
三人に就寝の挨拶をして、俺は二階の自室に戻った。
パーティは朝編成して、夜解散することにした。今、パーティを解散した。
ちゃんと時間を決めたいのだけど、時計とかみんな持ってないし、アバウトなんだよな。
自室に戻って、詳細な計画を再考。社長さんのお仕事だ。
まずは当面の計画目標の進捗だが、
①新規ジョブ取得とレベリング :アミル、エネドラ、チクルスをレベリング
⇒取得可能なジョブはほぼ取得済。俺自身のレベリングはほぼレベルキャップまで実施
⇒鍛冶師は優先的にレベリング
⇒エネドラ達のジョブ希望は要確認。決まるまでは、既存ジョブを小荷駄隊でレベリング
②資金集め :元の世界から持ち込んだ物品の値付け
⇒ビー玉は2個で13000ナール(残り48個)
⇒次回から4個単位で売却。次回は2日後くらい
⇒ルークと1枚15万ナール、2枚で39万ナールで取引実施。次回以降も2枚単位を希望
③資金集め :魔結晶の結晶化促進(資金に使うか拠点に使うかは要検討)
⇒1日1300ナールほどの魔結晶は可能(レベリングを犠牲にしたボス周回で改善可能)
④パーティメンバの拡充(1人~2人) :避けタンクか、暗殺者候補、竜騎士候補か?
⇒次のメンバも前衛で検討。紹介状をもらったので、それを利用する
⑤拠点の確保 :ベイルの賃借した家で試行(一カ月契約)
⇒アミルを鍛冶師にしたら、拠点メンバがどの程度のことが出来るのか要検証
⑥モンスターカードの購入の窓口確保 :ルークに依頼中
⇒コボルトハンターとの伝手は入手済。商人ギルドに出向き、ルークに大量依頼中
⑦鍛冶師による装備の作成 :未進捗
⇒アミルが鍛冶師のジョブを正式に取得
⇒魔法使い用の装備強化や詠唱中断のスキル付与を考える
⑧ベイル以外の街の確認及びワープ地点の拡大 :次はペルマスクに行ってみる
⇒ザビルまでは到達済。ペルマスクは未。ボーデ方面も未
⑨装備品の充実 :攻撃力、防御力の強化。空きスロット付き装備品の充実
⇒掘り出し物チェックの街巡り。ドブローのダマスカス鋼の工房を探そう(紹介状アリ)
⑩石鹸の作成 :中断中
⇒石鹸を試作して、普段使いや販売に。エネドラが興味があれば任せたいところだ
アミルが鍛冶師になったので、明日からが迷宮探索の本格始動と言っても良いかもしれない。
迷宮でアミルを鍛えつつ、エネドラ達のジョブ方針を固めたら、レベリングに注力しよう。
迷宮メンバの追加や、スキルつきの武器の獲得、商売の拡充等、検討することも多い。
だけど、これはこれで楽しいな。
まあ、迷宮で剣をぶん回している方がもっと楽しいのだけど。
ボーっと考えを巡らしていると、ドアがノックされた。
ドアを開けると、そこにはエネドラの姿が...そして、その後ろにチクルスもいる。
早くもジョブの希望が固まったのか?
「...に参りました」
えっ?
・・・・・・・