次は今日の重要テーマであるスキルつきの装備品についてだ。上手く説明しないとな。
まずはモンスターカード融合についての俺と三人の持ってる知識のすり合わせからだ。
「武器や防具の装備品に迷宮でドロップするモンスターカードを鍛冶師が融合する場合、
成功確率はおよそ10回に1回程度だと思っている。ここまでの認識は問題ないだろうか?」
「10回に1回と言っても、10回目に必ず成功するという訳でなく、
1回目で成功、5回目で成功、20回目でやっと成功...など、
平均すると10回に1回程度で成功するという意味で良いかな?」
三人とも頷いた。
「では、何故10回に1回程度の成功なのか、理由を知っている者は?」
三人の顔が困惑気味になる。だが、アミルは兄が鍛冶師だったこともあり、口を開いて、
「何故というか、完全に運任せだから...ではないでしょうか?
迷宮で長い期間探索している鍛冶師だから成功する頻度が高い訳でもなく、
経験の浅い鍛冶師だから失敗が多いという訳でもないと聞いています」
「完全に運任せでしかないのですが、
その成功する頻度が10回に1回程度だというだけなのだと思います。
ダイスを転がして1が出る頻度は6回に1回程度ですが、
1回目に1が出るか10回目に1が出るのかは、その時々の運任せ。
それと同じことなのではないかと思います」
おおぉ...原作のドワーフ娘を彷彿させるような論理的な口ぶりだ。
そして、この世界にもサイコロがあるのか。博徒のジョブもあるし、不思議ではないか。
「うまいことを言うな。
だが、俺の師匠に教えてもらったのだが、運任せは運任せだが、
その結果を左右する原因はモンスターカード融合する際に決まるのではなく、
装備品が作成された時点で決まっているらしい」
「モンスターカード融合の時ではなく、装備品の作成の時ですか?」
「ああ、そうだ。これから、それを証明してみたいと思う」
アミルに、今まで作成したミサンガ20個をアイテムボックスから取り出すように頼んだ。
その後、怪訝そうな顔をする三人を連れて、納戸に設置した倉庫2の所までやってきた。
「ここは前に説明した通り、迷宮のドロップ品を収納しておくための倉庫だ。
俺の拠点構築というスキルで作ったもので、アイテムボックス操作と同じことが出来るが、
アイテムボックス操作では出来ない特別な事も出来るので、それを確認してほしい」
「まずは、アミルの方で、20個のミサンガを収納してくれ。
収納が終わったら、今度はそのミサンガを1個ずつ、取り出してみてくれ」
アミルは何とも言えない表情で、俺に言われた通り、20個のミサンガを収納し始めた。
終わったら、今度は一つずつ取り出していく。二人は不思議そうな顔でそれを見守る。
四つ目のミサンガを取り出そうとした際に、
「えっ、これは何ですか?」
アミルが、取り出したミサンガを俺に差しだしてきた。
「ミサンガの所に「空き」って見えるのだろう?」
「はい。見えました。先に取り出した三つには特に何も表示されていませんでした。これは?」
「それは装備品の空きスロットと言われているもので、
この「空き」というものがないと、モンスターカード融合が成功しないらしい。
つまり、先に取り出した三つのミサンガでは、モンスターカード融合は絶対に成功しない。
逆に、この四つ目のミサンガは絶対に成功することになる」
「え、えぇ?」
驚愕するアミルを横に置き、「空き」のあるミサンガとないミサンガをエネドラとチクルスにも取り出させて確認させた。
この倉庫から取り出す人が、取り出す瞬間しか、見えないのだよね。
エネドラは直ぐに冷静になったようだ。
「なるほど、装備を作成した際に、空きスロットが出来る頻度が10回に1回程度ですが、
空きスロットの確認が出来れば、モンスターカード融合は必ず成功させることが出来ると。
これは恐ろしい程、素晴らしい発見ですね」
「ああ、装備品に空きスロットができるのかは、完全に運任せで仕方ないのだが、
ある程度の数を作成すれば、必ず空きスロットが出来るので、
スキルつきの装備を作成する難易度は従来よりも激減する」
「そして、俺の特殊なスキルの中に『鑑定』というものがあって、この『倉庫』がなくても、
目で見ただけで、空きスロットを確認することが出来る、かなり便利なスキルだ」
「『鑑定』があれば、武器屋や防具屋で装備を買ってきて、この倉庫に入れて確認しなくても、
置いてある装備品を見ただけで、空きスロットの有無を確認することができる。
だから融合で失敗しない装備品を入手することが出来るのだ」
「なるほど。
それで、ご主人様は武器屋で、ほとんど手に取ることもなく、取捨選択をしていたのですね。
武器を選ぶ際に、かなり変わった選び方をするのだなと思いました」
おかしな挙動だったのかい?まあ、良いけど。次に、俺はアミルに「糸」を20個渡した。
セブンスジョブをMPモリモリ編成にセット。
「アミル、すまないが、これでもう一度ミサンガを20個作ってもらえるか?
気分が悪くならないように、強壮丸を用意した。2個作る毎に一錠飲んでからやってくれ」
アミルは再び、怪訝そうな顔をしながら、ミサンガをなんとか20個作り上げた。
心配だったので、表情を見ながら体調を確認したのだが、大丈夫そうだった。
「こ、今度は何をしようとしているのですか?」
「さっきと同じように、このミサンガを20個収納して、また20個取り出してもらえるかな?
空きスロットがあるミサンガだけ、俺に渡してくれないか?」
「え?ご主人様は空きスロットが見えているのですよね?
私にやらせる意味って...?いえ、まあ、やりますよ。はい」
不承不承、アミルはミサンガを20個、収納して、次々と取り出して、俺に渡して行く。
20個のうち5個が空きスロット付きだ。
「な、何故、こんなに空きスロット付きのミサンガが生成されているのでしょうか?
だいたい10個に1個しか空きスロット付きが出来ないはずなのでは?
5個は多すぎる気がするのですが」
「拠点構築スキルでアミルを拠点リーダにすると、生成される装備品の品質が向上するらしい。
品質向上というのは空きスロットの数がある装備品の作成確率が増えることのようだな」
試したかった拠点構築スキルの【特産品】の効果の検証結果が得られて満足だ。
リーダを替えながら、生産すると、いろいろなメリットがありそうだ。
「チクルスも同様に、生薬生成でメリットがありそうだから、後で試してみようか」
「え?は、はい。ユキムラ様のお役に立てるようなら頑張ります」
あまり分かっていなさそうだけど、まあやってもらえれば分かるか。
それにしても、ミサンガがいきなり大量に出来たな。
空きスロット無のものは、フロスの代わりに使えないだろうか?
グリーンキャタピラーの糸やホワイトキャタピラーの白糸を試しに使ってみたのだけど、すぐに切れてしまって使い勝手が悪かったのだよなぁ。
ミサンガの両端を切って、糸の部分を取り出したら使えないか、後で試してみよう。
最弱の装備品とはいえ、防具だから、元の世界から持ってきたハサミで切るのは無謀か?
デュランダルを使ってスパッと切断してみるか。
フロスとして使えるのなら、空きスロット無のものでも有効利用できる。エコだエコ。
空きスロット付きは4、5回に一個出来る感じなのかな。
拠点規模が今よりも大きい家を借りて、空きスロットの発生確率が増えるのなら、さらにアドバンテージが増えるだろうか。
クーラタルで家を借りる楽しみが増えたな。まあ、確率が固定の可能性もあるが。
ミサンガだけでなく、他の装備品も空きスロットの発生確率が増えるのなら、店売りの掘り出し物を求めなくてもアミルに生成してもらうのが良いかもしれない。
ボトルネックになるとしたら、鍛冶素材か。
迷宮のドロップ品を収集する以外の道も模索しよう。なるべく低コストで入手したい。
「じゃあ、ちょっと食堂に戻って、話の続きをしようか」
まだ会議の途中でもあったので、俺たちは食堂に戻ることにした。
みなが席に着いたところで、アミルに空きスロット付きのミサンガと芋虫のカードを渡した。
「これで、モンスターカード融合をやってみてくれ。先程の理屈から絶対に成功するから」
アミルは少し躊躇しながらも、詠唱を確認した後、モンスターカード融合を行なった。
一瞬、光った後に、身代わりのミサンガが出来た。
「防具鑑定がないと、身代わりのミサンガになったことの確認が出来ないだろうが、
俺の鑑定では間違いなく身代わりのミサンガになった事が確認できている」
「はい。成功したのは間違いないでしょう。糸にならずに、ミサンガのままですから」
アミルも賛同してくれた。これで、モンスターカード融合の懸念点は払拭できただろうか。
「じゃあ、次はこれね」
俺は続いて、空きスロット付きのミサンガと芋虫のカードを強壮丸2錠とともに渡した。
お替わりだ。これで、空きスロットの効果が実感できるだろう。
アミルは先ほどと同様にモンスターカード融合を行い、身代わりのミサンガの作成に成功。
表情を見る限りは、まだ大丈夫そうだ。薬の加減って、分かりにくいのだよな。
この前、迷宮でやらかしてしまったから、注意しないとな。
「これで、我が家ではスキルつきの装備が比較的、容易に作り出せて、
迷宮探索に役立てることが理解できただろう。
さらに、迷宮探索で使わないものであっても、オークションにかけるなり、
他の商人と取引して商売に役立てることも出来るはずだ」
「確かに、スキルつきの装備がこれだけ簡単に作成できるのなら、
旦那様のおっしゃる通り、商売の幅が広がるかもしれませんね」
エネドラの目が何か真剣になった気がする。商売人の血が騒ぐのだろうか?ないか、それは。
「ああ、スキルつきの装備は価値があるし、影響力が大きいから、やり過ぎには注意が必要だ。
有力者に変に目をつけられて圧力をかけられたり、
我が家が襲撃されるようなことは避けなければならないので気を付けないと」
「はい。
ご主人様のスキルだから出来ているので、それは秘密にしないと危険かもしれません。
また、内密なことが増えてしまいましたね」
アミルが、また...って言った。まあ、我が家には秘密が多いから仕方ないのだけど。
「じゃあ、次は、チクルスにこれで生薬生成をしてほしい」
俺は、毒消丸の素材であるリーフを一つ取って、チクルスに渡した。
チクルスは生薬生成自体は初めてではないらしく、あっさりリーフを使って、毒消し丸を10個作り上げた。
「はい。じゃあ、これでもう一回お願いね」
今度も、リーフを一つ渡した。チクルスは再び詠唱して、毒消し丸を作成した。
生成された毒消丸の数は12個だ。
「あ、あれっ、出来上がった毒消し丸の数が多いです。
普通は10個生成されるはずですが、2個多くなりました。
これもユキムラ様のスキルの効果ですか?」
「ああ、拠点構築スキルでチクルスをリーダにすると2割くらい多く生薬が作られるみたいだ。
これで、普通の薬草採取士よりも2割多く、収入が確保できることになるな」
驚きとともに、チクルスの顔に笑顔が。
自分が薬草採取士として貢献できそうな未来が想像できたのかもしれない。
「あの、私も商人としてご主人様のスキルによって恩恵を受けることがあるのでしょうか?」
「商人は鍛冶師や薬草採取士のような生産職ではないから、そういった効果は多分ないな」
エネドラはあからさまにがっかりした表情。
「商人というジョブとは関係ないが、石鹸を作成する技術を身に着けたら、
生産する石鹸の生産量が上がったりする効果はあるようだぞ。
だから、さきほども言ったが、石鹸を扱う商人になるというのはアリかもしれない」
「なるほど...それでは、石鹸の作成に真剣に取り組んでみたいと思います」
「うん。ただ、石鹸の作成は結構、面倒な手順があるので、
明日以降で時間がある時に、俺の方から説明するよ。
今日はもう遅いし、大して時間が取れそうにないので」
「分かりました。よろしくお願いいたします」
これで、三人とも自分のジョブに目標を見出してくれると良いのだが。
今しばらく、生産を続けて、様子見しながら微調整していこう。
「前々から疑問に思っていたことをお聞きしても良いでしょうか?」
「良いぞ、エネドラ。何を疑問に思っていたのかな?」
「旦那様は奴隷を購入する際に、迷宮探索を進めることを目標に掲げていましたが、
鍛冶師にするつもりだったアミルさんはともかく、私やチクルスのような迷宮探索には
直接の戦力にならない奴隷と契約したのは何故でしょうか?
普通は、剣士や獣戦士など、迷宮で戦力となる奴隷を購入するのが一般的だと思うのですが」
「ああ。確かに普通はエネドラの言う通りだな。
それは俺の性格というか物事に臨む時の姿勢によるものかもしれないな」
「性格ですか?」
「ああ。失敗したり、時間が足りない時もあるのだけど、
戦いであっても、商売であっても、俺は基本的に準備を万端にしてから臨む人間なんだ」
「準備ですか?」
「そうだな。
例えば、装備品を効率よく作成するために、カードを揃えたり、鍛冶師を用意したりとかね。
商人や薬草採取士を望んだのは、カードや素材の効率的な入手方法を得るための準備だ。
薬草採取士も生薬を効率的に得るためであったり、将来を見据えた準備のためだな」
「迷宮の探索も進めながら、準備も並行して進めているということでしょうか?」
「そうだな。迷宮探索もまだ本格的に進めていない。
本格的に進めるための準備のために、迷宮探索をしている感じかな。
だから、探索も低い階層で、かなり安全な戦闘しかしてない」
俺はアミルの方を見ながら、現状を説明した。
「確かに、ご主人様と今は10階層前後の攻略をしていますが、
本来のご主人様の実力ですと、もう5、6階層上でも全く問題なさそうに感じます。
基本的にはモンスターを一撃で倒していますから」
「一撃ですか?それはまた...」
アミルがまたブッこんできた。
事実なのだが、こっちの世界の常識と違うので、説明が難しいのに。
「迷宮メンバも明日から探すので、メンバを増やすことを疎かにするつもりではないが
安全を考えれば、スキルつきの装備品を早期に集めることが重要だと思っている」
「なるほど、私も昔の伝手をたどって、旦那様のお役に立てるように頑張ります」
「ああ、ギルドの加入も計画したいので、また相談させてほしい」
時間が空いたので、アミルに鉄の剣とウサギのカードをモンスターカード融合してもらって、妨害の鉄剣を作成してもらった。
アミルの表情は...まだ、大丈夫か。もう、そろそろ止めておいた方が良いかもしれない。
「旦那様はモンスターカードを複数所有されているのですね。
それにしても、鉄の剣にウサギを融合するのは?」
「実は妨害の銅剣を5本持っている。
もう1本、妨害のスキルを付与した武器を作る必要があったので、融合してもらった。
銅の剣で作っても良いのだけど、
鋼鉄だとちょっと単独の武器としての価値が出るのでセットで売るのはどうかと思って、
鉄の剣でモンスターカード融合してもらった」
「銅の剣でも鉄の剣でも、それほど差が出る訳ではないだろうけど、
鉄の剣の方が少しだけ6本セットの価値が上がるかなと思ってな」
「6本の妨害の剣のセットですか。
騎士団に伝手があれば、高く購入してもらえるかもしれませんね」
武器商人の亡くなった旦那がいたエネドラは、スキルつきの装備品が次々と生産されていくことに驚きを隠せないようだ。
「騎士団の伝手は俺もないから、ルーク経由となるが、
何か良い取引方法がないか考えようと思っている。エネドラも何かあれば、助言してほしい」
「承知しました。考えてみます」
「あと、アミルから既に説明されているかもしれないが、俺の拠点構築スキルでは、
天井にあるカンテラみたいな明かりを設置したり、空き部屋で使っていたと思うが、
暖かい風を出す暖房装置や、冷たい風を出す冷房装置も設置できる」
「今はまだ寒い季節だから、寝る前や起きた直後等に、遠慮なく暖房装置を使って、
体を暖めてほしい。多分、暖炉よりは、直ぐに部屋を暖かくすることが出来るはずだ。
ただ、暖房装置にしろ、冷房装置にしろ、動かしっぱなしで寝たりすると、体調を崩すので、
寝る前に十分快適な温度にしたら、止めてから寝た方が良いぞ」
「この天井の明かりや冷房装置、暖房装置を使用する燃料は、魔結晶を使っていて、
これは俺の方で補充するから遠慮なく使ってほしい」
一応、三人とも頷いてくれているが、どこまで理解してもらえているか。
とりあえず、仕組みはどうでも良いが、使い方だけは覚えてほしい。
「既に利用していると思うが、厨房にある食糧庫も、拠点構築スキルで設置したものだ。
こちらは、出来上がった料理や、熱いお湯で入れたハーブティーのポット等も、
そのまま収納できるので、使い易いように使ってみてほしい」
「はい。既に便利に使わせて頂いております」
エネドラがニコニコしながら、返事をしてくれた。よほど、使い易かったのだろうか?
俺は、もうあまり使ってないのだが、二人の料理に役立ててもらえれば嬉しい。
モンスターカード融合と拠点構築の説明もしたし、運営方針もザックリとは説明できたか。
俺の他の秘密事項も説明しない訳にはいかないよなぁ。
情報過多になって三人が混乱しないと良いのだが。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回、異世界転生者以外に、空きスロットを見せてしまうという暴挙をやってしまいました。
当初は、見せる予定ではなかったのですが、この後の話の展開を考えると、
避けては通れないかもしれないという事があり、やるなら早めにやってしまえということで。
これで、アミルは異世界転生者以外で、この世界で初めて空きスロットを見た歴史上の人物に。
拠点メンバ以外は見えないし、本作主人公が死ねば、見えなくなってしまう儚いものですが。
本作では拠点情報の描写の際、装備品の空きスロットの数を表記しています。
それ以外では、鑑定時や初期購入時等に空きスロットの数を表記するようにしています。
度々、記載している主人公パーティのジョブや装備品の描写では空きスロットの表示無し。
(空きスロット記載していたら、誤記ですね)
私は情報量を増やしがちな記載をしてしまうので、なるべく減らして、読みやすくしようかと。
拠点情報は、大量の装備品とアイテムが倉庫にあり、情報過多になるため、
毎回記載するのではなく、なるべく表記する話を絞るようにしています
戦乱モードになったら、それなりに重要な情報もあるので、表記する頻度を上げると思います。