異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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 空きスロットを初めて見た日のアミル視点のお話です。


閑話001 世界の真理

 今日は、いろいろと失敗続きの日だった。

 迷宮での戦闘でも、うまく立ちまわれなかったし、ご主人様にも心配をかけてしまった。

 

 私が、ご主人様に相談せず、焦ってミサンガをたくさん作ろうとしたのがマズかったようだ。

 

・・・・・・・

 

「私も、ミサンガを作るとき、ご主人様に確認を取れば良かったのです」

「つまりは、それが、俺達二人には会話が足りないということだな」

 ご主人様は私を励まそうと、お道化た感じで言葉をかけてくれた。

 

「そうですね。会話が足りない...のかもしれません。

 私は急に鍛冶師になったことで、舞い上がっていたのかもしれません」

「俺も、アミルが鍛冶師になったので、嬉しくてミサンガを頼んでしまったのだろうな」

 奴隷になり、鍛冶師になることを諦めていたので、鍛冶師になれた時は本当に嬉しかった。

 子供の頃に考えていた、いろいろなことを試したくて、早く一人前になろうと焦り過ぎた。

 

「だが、迷宮は命のやり取りをする所なので、笑ってばかりという訳にもいかない。

 この反省をちゃんと次に生かさないとな」

「次に...ですか?」

 

「ああ、ダメなのが分かったなら、どうするのが良いのか、ちゃんと考えて改善しないとな」

「そうですね」

 

「この話は、エネドラ達も交えて相談しようか。

 チクルスが今後、薬草採取士を目指すかは分からないが、二人にも関係する話だし」

「二人にもですか...?はい、分かりました」

 ご主人様は私達奴隷のことを、時々、すごく気にかけてくれる。

 

 でも、内密の事も多いので、なかなか全てを語ってはくれないようだ。

 気になっていても、気軽に確認できないこともあり、もどかしさを感じる。

 会話が足りないと言われた今なら大丈夫だろうか?

 

「あの、会話が足りない...ということであれば、私も気になっていることが」

「うん?何?」

 チクルスさんに教えてもらった方法も試してみよう。

 

「前に、モンスターカード融合の有効なやり方があると、ご主人様はおっしゃってましたが、

 それが気になって、気になって...」

 上目遣いで、ご主人様を見上げて、話しかけてみた。

 

「ああ、その話も会議の場で話をしようか」

 ご主人様は私の要望に応えてくれそうだ。

 昼間だと、このやり方でも大丈夫のようだ。

 夜にご主人様の部屋を訪れた時に使ったら逆効果だったような気がする。

 

 ご主人様は昼と夜では、時々、別人のような振る舞いをすることがある。

 私の奴隷としての自覚が足りないからなのだろうか?

 これも会話が足りないということなのだろうか。

 

 

・・・・・・・

 

(同じ日の夜の定例会議)

 

「ここは前に説明した通り、迷宮のドロップ品を収納しておくための倉庫だ。

 俺の拠点構築というスキルで作ったもので、アイテムボックス操作と同じことが出来るが、

 アイテムボックス操作では出来ない特別な事も出来るので、それを確認してほしい」

 

「まずは、アミルの方で、20個のミサンガを収納してくれ。

 収納が終わったら、今度はそのミサンガを1個ずつ、取り出してみてくれ」

 

 これが、モンスターカード融合と何か関係があるのだろうか。

 分からないけど、今はご主人様の指示に従うことにした。

 

 左手に持ったミサンガの束を一つずつ、倉庫というアイテムボックスみたいな箱に入れていく。

 20個目を入れるときに少し緊張してしまったが、特に何も起きなかった。

 

 ご主人様の方を見ると、次の私の作業を待っているようだ。

 仕方なく、収納したミサンガを取り出す。

 

 少し単調な作業だ。これに何か意味があるのだろうか?

 私の作業をみんなが待っている。早く終わらせてしまおう。

 

 私が右手にミサンガを持った時に、ミサンガの上に「ミサンガ(空き)」という文字が表示された。

 今まで取り出したものには「ミサンガ」としか表示されていなかったのに。

 

「えっ、これは何ですか?」

 私はご主人様の方へ振り返り、右手に持ったミサンガを突き出した。

 もう、「ミサンガ(空き)」という文字は消えてしまっている。

 

「ミサンガの所に「空き」って見えるのだろう?」

「はい。見えました。先に取り出した三つには特に何も表示されていませんでした。これは?」

 これが、私にやらせたかったことなのだろうか。

 

「それは装備品の空きスロットと言われているもので、

 この「空き」というものがないと、モンスターカード融合が成功しないらしい。

 つまり、先に取り出した三つのミサンガでは、モンスターカード融合は絶対に成功しない。

 逆に、この四つ目のミサンガは絶対に成功することになる」

「え、えぇ?」

 そういえば、ご主人様はモンスターカード融合が成功するかどうかは、詠唱する時ではなく、装備品が作成された時点で決まっているとおっしゃっていた。

 これがそういうことだったのか。でも、なんだか訳が分からなくなってきた。

 

 倉庫から取り出した私にしか、表示されている文字が見えなかったので、エネドラさんとチクルスさんにも、ご主人様は同じことをやらせている。

 

「なるほど、装備を作成した際に、空きスロットが出来る頻度が10回に1回程度ですが、

 空きスロットの確認が出来れば、モンスターカード融合は必ず成功させることが出来ると。

 これは恐ろしい程、素晴らしい発見ですね」

 

 エネドラさんは、私よりも理解が早い。

 直ぐに、ご主人様のおっしゃっていたことを理解したようだ。

 

「ああ、装備品に空きスロットができるのかは、完全に運任せで仕方ないのだが、

 ある程度の数を作成すれば、必ず空きスロットが出来るので、

 スキルつきの装備を作成する難易度は従来よりも激減する」

 

 10回に1回程度しか成功しないと言われているものが絶対に成功する。

 これは凄いことに違いない。

 今までも、私が驚くような事をご主人様は度々教えてくれたが、今日が一番衝撃的だった。

 

「そして、俺の特殊なスキルの中に『鑑定』というものがあって、この『倉庫』がなくても、

 目で見ただけで、空きスロットを確認することが出来る、かなり便利なスキルだ」

「『鑑定』があれば、武器屋や防具屋で装備を買ってきて、この倉庫に入れて確認しなくても、

 置いてある装備品を見ただけで、空きスロットの有無を確認することができる。

 だから融合で失敗しない装備品を入手することが出来るのだ」

 

 そういえば、まだ、この家に来る前、ベイルの市の日にご主人様に連れ出されて武器屋に行ったときのご主人様は変だった気がした。

 

「なるほど。

 それで、ご主人様は武器屋で、ほとんど手に取ることもなく、取捨選択をしていたのですね。

 武器を選ぶ際に、かなり変わった選び方をするのだなと思いました」

 

「アミル、すまないが、これでもう一度ミサンガを20個作ってもらえるか?

 気分が悪くならないように、強壮丸を用意した。2個作る毎に一錠飲んでからやってくれ」

 

 ご主人様が、またおかしな事を言い出した。

 既にミサンガが20個あるのに、また作れということらしいが、その理由は教えてくれない。

 さっきは、会話が足りないと言っていたのに、これで良いのだろうか。

 

 私は、強壮丸を飲みながら、ミサンガを20個、防具生成した。

 ご主人様は、時々、詳細な説明を省いて、指示だけ出してくる。

 でも、奴隷と主人なんて、そんなものなのかもしれない。

 そういえば、アラン様の所でも、奴隷は主人の指示に従えばよいと教わったのだった。

 

 でも、会話が足りないと言われたのだから、訊いてみた方が良いかもしれない。

 

「こ、今度は何をしようとしているのですか?」

 

「さっきと同じように、このミサンガを20個収納して、また20個取り出してもらえるかな?

 空きスロットがあるミサンガだけ、俺に渡してくれないか?」

「え?ご主人様は空きスロットが見えているのですよね?

 私にやらせる意味って...?いえ、まあ、やりますよ。はい」

 理由は教えてもらえなかった。仕方がないので、やるだけやってみよう。

 

 先程と同じ作業の繰り返しだ。

 取り出したミサンガで「空き」の表示があるものだけをご主人様に渡し、「空き」の表示のないものは左手に持った。

 3つ目をご主人様に渡してから、手が震えてきた。

 「空き」の表示のあるものが多い気がする。何故?

 そして、何故、ご主人様は理由を説明してから、私に指示してくれないのだろうか?

 

「な、何故、こんなに空きスロット付きのミサンガが生成されているのでしょうか?

 だいたい10個に1個しか空きスロット付きが出来ないはずなのでは?

 5個は多すぎる気がするのですが」

「拠点構築スキルでアミルを拠点リーダにすると、生成される装備品の品質が向上するらしい。

 品質向上というのは空きスロットの数がある装備品の作成確率が増えることのようだな」

 

 初めから、そう言ってほしかった。会議の場で言った方が良いのだろうか。

 

「チクルスも同様に、生薬生成でメリットがありそうだから、後で試してみようか」

「え?は、はい。ユキムラ様のお役に立てるようなら頑張ります」

 

 チクルスさんには理由を説明しているのに、何故、私には理由を説明せずに指示を出すのだろうか。

 ちょっと、酷くないだろうか。

 でも、そんなことより、ご主人様のおっしゃっていた「空きスロット」というのは、エネドラさんの言う通り、すごい発見だ。

 

 鍛冶師は誰でも、モンスターカード融合した装備品を作りたいと思うが、お金持ちの支援や大きな商会からの依頼がなければ出来ないと聞いていた。

 この私でも、空きスロットが見えるのだから、モンスターカード融合に絶対成功するのだと、ご主人様はおっしゃっていた。

 正直、怖くて、手が震える。

 

 モンスターカード融合するのは、エネドラさんでもチクルスさんでもなく、私なのだから。

 

 ご主人様は黙って、自分の考えに没頭しているようだ。

 次はどんな発言が出てくるのか怖くなる。

 もう少し、理由や背景を教えてくれれば良いのに。

 

「じゃあ、ちょっと食堂に戻って、話の続きをしようか」

 

 良かった。特に何も話はないようだ。

 

 食堂に戻って、会議が再開されるようだ。次の議題は何だろうか?

 

 席に座ると、ご主人様がミサンガと芋虫のモンスターカードだというカードを出してきた。

 

「これで、モンスターカード融合をやってみてくれ。先程の理屈から絶対に成功するから」

 

 今日、モンスターカード融合をするなんて夢にも思っていなかった。

 でも、これは私が教えてほしいとご主人様にお願いしたのだから、仕方がない。

 

 鍛冶師に憧れていたから、子供の頃からブラヒム語の詠唱も遊びで何度も唱えていた。

 詠唱を間違えるはずがない。

 

「今ぞ来ませる御心の、言祝ぐ蔭の天地の、モンスターカード融合」

 

 一瞬光った後に、手元にミサンガが残った。

 糸ではなく、ミサンガが残ったのだから、私の手元にあるのは、身代わりのミサンガのはず。

 でも、融合に成功した実感が全然ない。

 

「防具鑑定がないと、身代わりのミサンガになったことの確認が出来ないだろうが、

 俺の鑑定では間違いなく身代わりのミサンガになった事が確認できている」

「はい。成功したのは間違いないでしょう。糸にならずに、ミサンガのままですから」

 人生初のモンスターカード融合が、こんなにアッサリと成功で終わってしまった。

 緊張する暇もなかった気がする。これはご主人様の私への配慮なのだろうか。

 

「じゃあ、次はこれね」

 

 ご主人様が今度は、生薬と一緒にミサンガと芋虫のモンスターカードを出してきた。

 今日は、ミサンガを30個以上作って、モンスターカード融合は2回目だ。

 ご主人様は、私に鍛冶師としての経験を積ませようとしているのだろうか。

 

「今ぞ来ませる御心の、言祝ぐ蔭の天地の、モンスターカード融合」

 

 一瞬光った後に、先程と同様に手元にミサンガが残った。

 モンスターカード融合が2回連続で成功した。

 

 普通は10回に1回くらいしか成功しないものが、2回連続で成功した。

 空きスロットが見えるということは、本当に凄いことだ。膝が震えてきた。

 

「これで、我が家ではスキルつきの装備が比較的容易に作り出せて、

 迷宮探索に役立てることが理解できただろう。

 さらに、迷宮探索で使わないものであっても、オークションにかけるなり、

 他の商人と取引して商売に役立てることも出来るはずだ」

「確かに、スキルつきの装備がこれだけ簡単に作成できるのなら、

 旦那様のおっしゃる通り、商売の幅が広がるかもしれませんね」

 

 これからも、頻繁にモンスターカード融合をするのだろうか。

 大商会のお抱え鍛冶師でも、10回に9回程度は失敗するらしい。

 私なら9回も失敗したら、気が滅入ってしまうかもしれない。

 いくら、絶対成功すると分かっていても、気軽にやり過ぎではないだろうか。

 

「ああ、スキルつきの装備は価値があるし、影響力が大きいから、やり過ぎには注意が必要だ。

 有力者に変に目をつけられて圧力をかけられたり、

 我が家が襲撃されるようなことは避けなければならないので気を付けないと」

「はい。

 ご主人様のスキルだから出来ているので、それは秘密にしないと危険かもしれません。

 また、内密なことが増えてしまいましたね」

 今日の空きスロットの件は、絶対に漏らしてはいけないことのはず。

 そして、今晩の融合はやり過ぎではないらしい。

 

(中略)

 

 

「先程、見せたけど、俺の鑑定スキルでは、武器や防具の空きスロットの個数が見えるので、

 モンスターカードの融合は間違ったカードを選択しない限りは失敗しない。

 さらに言えば、複数のスキル付与も可能だ」

「複数のスキルをですか?

 それができるのは、資金力のある大商人か、偶然の事故でしか起きないと伺っていますが」

 

 複数のスキルを付与する装備品が作れるのは図書館の本で読んだので私でも知っている。

 既にスキルが付与されている装備品に誤って融合をしてしまい、装備品が残ったのにモンスターカードだけが無くなったので大騒ぎになったらしい。

 初めは、その鍛冶師がモンスターカードを盗んだと疑われたのだけど、盗賊にもなっていないことから、勘違いだと思われたのだとか。

 

 ある時、事故を起こした鍛冶師の言葉を信じたお金持ちが試したら、二度目の融合が成功してしまい、モンスターカード融合が複数回、成功することがあるのが発見されたらしい。

 

「ああ、先程の倉庫でも見せることが出来るが、

 複数の空きスロットがある装備品を既に所有している。後で見せることも可能だ」

「それは、とてつもないことですね」

 

 エネドラさんの言う通りだ。本当に驚きの連続だ。

 私もまさか本で書いてあることが、ご主人様から実際に見せてもらえるとは思わなかった。

 

 その後、モンスターカード融合を2回して、妨害の鉄剣と硬直のエストックも作成した。

 1日で4回モンスターカード融合を行なって、4回とも成功した。

 でも、やり過ぎではないらしい。やり過ぎって、どういう意味なのだろうか?

 

 

 

(中略)

 

 ご主人様の部屋にみんなで集まった。

 複数の空きスロットがある装備品を見せてくれるとおっしゃっていたからだ。

 装備品の収納されている倉庫はご主人様の部屋の納戸に設置されているらしい。

 

「これが空きスロットが4つあるダマスカス鋼の剣だ。

 さきほどのミサンガと同様に一度、倉庫に入れて、取り出してみてくれ」

 

 ご主人様が私に両手剣を渡してきた。

 恐る恐る、私は受け取った両手剣を納戸にある倉庫に収納して、取り出してみた。

 

 確かに、取り出す時に『ダマスカス鋼の剣(空き 空き 空き 空き)』と表示された。

 空きスロットが4つあるというのは、こういうことなのか。

 ご主人様は何でもないことのようにおっしゃったが、何だか感動した。

 

 私は、エネドラさんにダマスカス鋼の剣を渡した。

 エネドラさんも納戸に行き、私と同じように確認を始めた。

 

 今日は空きスロットを教えてもらったことで、モンスターカード融合のことが何か霧が晴れるように理解できた気がする。

 図書館の本にも書かれていないことを自分の目で見て確認できた。本当にすごい一日だった。

 やっぱり、勇気を出して質問して良かったと思う。

 

・・・・・・・

(会議が終わり、解散した後の夜)

 

 エネドラさんとチクルスさんと相談して、夜、ご主人様の部屋に行く順番を決めている。

 今日は私の番だ。

 

 いつものように、ドアをノックしたのだが、ご主人様が出てこない。

 今日はもう寝てしまったのだろうか。

 

 ご主人様も疲れて寝てしまうことはあるのだろう。

 朝は私たちの方が早起きで、ご主人様はなかなか起きてこないし。

 

 それにしても、今日は大変な一日だった。

 失敗して落ち込んで、空きスロットを教えてもらって興奮して、なんだか可笑しくなってきた。

 笑いを嚙み殺して、口を押さえて下を向いてると、ドアが急に開かれた。

 

 見上げると、ご主人様がそこにいた。

 

(あっ、しまった。失敗した...)




お読みいただき、ありがとうございました。

感想欄で、読者様(白ピンク様)から頂いた言葉から閑話を書いてみようと思い立ちました。

「世界の真理」に触れたアミルを書いていたはずなのですが、気づけば、二人のズレ(主に主人公)ばかり記載してしまったような。
ジョハリの窓の盲点の窓を思い出してしまいました。


なお、説明が遅くなりましたが、本作での空きスロットの表記は以下の通りとしております。
文字数を減らすためですね。

例)空きスロット4つのエストック、空きスロット1つのエストック
エストック(空4)、エストック(空)

例)空きスロット4つのものに石化添加を付与したエストック
硬直のエストック(石化添加、空3)
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