朝起きて、一人寂しくストレッチ。
健全な精神は健全な肉体に宿る。
本来の意味と違って誤用されてると聞いたが、鬼人族の体にも健全な精神が宿るのだろうか?
体の方はいたって健全だと思うのだが、精神の方は...最近かき乱されているような。
邪念を振り払うように四本腕立て伏せをしていると、ドアをノックする音。
アミルが朝食の誘いに来たので、一階に降りることに。
俺が食卓に着くと朝食が始まる。
今日の朝食も美味い。毎回、ちょっとずつ味の変化をつけてくれているのが俺でも分かる。
元の世界では割と同じ味の食事を自分で用意していたから、こういう気配りが地味に嬉しい。
食事が終わり、二階に上がろうとしたら、昨日の魔物部屋で回収した装備品を洗浄するので風呂場に出しておいてほしいとエネドラに言われた。
忘れていた...助かる。
取得装備品を置いて、二階で準備を終えて降りると、既にアミルも準備完了状態。
アミルと二人だけで探索するのも、これで最後かもな。
二人に見送られて、ザビルの迷宮にワープ。
ザビルの12階層の新規モンスターはケトルマーメイド。
ボスはボトルマーメイド。両方とも土魔法が弱点だ。サンドストームを利用する。
モンスターのドロップ品は雑魚、ボスともに不明。
アミルに任せるのは11階層までの既出で、コボルトとニードルウッドあたり。
ケトルマーメイド、ミノ、グリーンキャタピラーは俺が優先的に倒す。
ケトルマーメイドは直線的な動きをあまりしてこないので、ミノやグリーンキャタピラーと違ってやりにくい。
近接戦闘は、魔法攻撃も絡めたオーバーホエルミングを中心とした組み立て。
前衛モンスターはアミルの分担を除き、オーバーホエルミングとデュランダルで俺が力押し。
クーラタルの12階層の攻略と同じだ。
ケトルマーメイドは多少やりにくくはあるが、土魔法が有効で、苦戦することはなかった。
ドロップは黄銅だった。ヤカンだから黄銅?
いや、ケトルとヤカンは別物か...よく分からんが。
アミルによると装備品の鍛冶素材ではなく、一般的な鍛冶素材らしい。
これは...ボスドロップも期待できなさそうな予感。
俺とアミルの連携も、かなり良くなってきたので、問題なく倒していける。
索敵で警戒はしつつも、歩いている時は昨日の皮の靴の話やダガーの話題で盛り上がる。
エネドラもチクルスも武器の装備が目立たないのが好みのようだ。そりゃそうか。
商人や薬草採取士がダガー持っていると、何事かと思う人もいるか。
別にダガーで薬草を採取する訳でもないしな。
ただ、俺としてはベイルや他の街でも盗賊をちょくちょく見かけるのが気になっている。
二人とも盗賊に襲われた経験がある以上、やっぱり武装は必須にしたい。
こんな心配しないように、迷宮メンバとは別に護衛メンバを確保した方が良いのかな。
護衛メンバを迷宮で鍛えたり、装備品を用意する必要も出てくるが必要な投資と割り切るか。
適度な緊張感とリラックスを織り交ぜながら、エリアをクリアにしていく。
極端に苦手なモンスターに当たってないせいなのか、非常に快調だ。
途中、魔物部屋を殲滅したが全滅していたパーティは特になし。
最後のボス部屋も小荷駄隊外しを使って、短時間でボスとお供の雑魚モンスターを倒した。
ドロップ品は丹銅・・・・・・何に使うのだろうか。
黄銅と丹銅なら、装飾品か調理器具とかだろうか。
13階層に抜けて、今日はこれで探索は終了。
昼食にはまだ少し早いが、今日はイベントが立て込んでいるので。
12階層の魔物部屋、ボス部屋含めた戦果は大量の黄銅と皮、コボルトソルト。ブランチと糸が少々。丹銅とジャックナイフが各一個。モンスターカードはなし。
自宅の玄関にワープして、厨房の二人に帰宅の挨拶。俺達は着替えのため二階に上がった。
身支度を整えて一階に降りたが、まだ昼食には時間がある。
俺は風呂場に行って、湯張り用のウォーターウォールをドンドン出していく。
アミルはまだ自分の部屋に居るみたいだから装備品でも作ってるのだろうか。
水が湯舟に適量溜まったあたりで、チクルスが昼食の準備が出来たと呼びに来てくれた。
先にアミルに声をかけていたようで、アミルも二階から降りてきた。
食堂の席について、みなで昼食を頂く。いつも通りの雑談と情報共有。
午前中は、迷宮組はザビル12階層攻略完了、自宅組は家事と装備品の洗浄済と特に目立ったイベントはなく...と思っていたらルークからカード落札の伝言があったようだ。
今日か明日、適当に時間を見つけてクーラタル商人ギルドに顔を出そう。
手持ちのカードが丁度なくなっていたところだし。
食事が終わり、全員でハーブティーを飲みながらくつろいでいるとドアがノックされた。
家具屋が来たらしい。
玄関に向かい、家具屋の作業者が荷車のロープを解いているところだった。
俺とアミルはいつも通り、家具を荷車から直接運び出して廊下に次々と運び込む。
もう作業者達も見慣れた光景なので、特に何も言わずに淡々と荷下ろしの補助をするだけ。
なんか、阿吽の呼吸だ。
すぐに荷下ろしは完了し、俺は作業者達に礼を言ってアミルと家に戻った。
さて、これを二階に運ばないとね。
今回、二人分(2セット)の家具を購入したので、二階の空き部屋2つにそれぞれワープゲートを繋いでアミルと一緒に家具をどんどん運び入れる。
ヴィルマの部屋にはエネドラとチクルスが待ち受けていて、俺たちに家具の配置の微調整の助言をしながら、家具をテキパキと拭いてくれる。
こっちも阿吽の呼吸。
もう一つの部屋にも同じように運び入れて拭いてもらって、新しい家具の準備は完了か。
これで、一応、全ての部屋が埋まった感じか?
まあ、住人の居ない一階の作業部屋もあるけど。
パーティメンバはもう二人増やせるから、やっぱりちょっと手狭かもしれない。
贅沢なのか?原作主人公の家よりはこのベイルの家は大きな家だと思うんだよな。
エネドラ達以外に各自に個室を与えるから、手狭に感じるのだろうか?
パーティメンバが更に増える頃には、クーラタルにもっと大きな家を借りているだろう。
二人がクーラタルでギルド加入するなら、拠点はクーラタルの方が良いだろうし。
この家も1カ月更新だったので、25日経過前に契約更新するかどうか考えないとな。
収入的には安定しているからキープするため更新しても良いのだけど、どうしようか。
戦闘奴隷とは違う、ジョブを特に育てない生産系の奴隷を購入して、ここで作業してもらうってのもアリだと思うのだけど、まだ、その生産物が思いつかないんだよなぁ。
石鹸はクーラタルの家でエネドラ中心に作ってもらった方が良い気もするし。
今考えても仕方ないか。ヴィルマを迎えに行こう。
ヴィルマやイレーネを迎えに行くのは俺だけなので、三人に留守番を頼んで、俺はまず帝都の冒険者ギルドにワープした。
ギルドを出て商館に向かい、用向きを護衛の者に伝える。
応接室に案内され、待つこと数分。店主がヴィルマを連れてやってきた。
既に手続きは完了しているのでヴィルマに皮の靴を履いてもらい、店主に礼を言って商館を後にした。
ああ、そういえばワープの事をどう伝えたものか?
とりあえず、パーティ編成でヴィルマにパーティに入ってもらう。
周りに人がいないことを確認して、木陰の木の所からワープゲートを自宅に繋いだ。
騒がれると面倒なので、ヴィルマの手を無理やり掴んで、ワープゲートに引き込んだ。
「あれっ、主は探索者?冒険者?..」
何か言ってたようだがスルーして、玄関に連れ込んだ。
「ここ、どこ?」
「ここは、ベイルの街の俺の自宅だ」
「あ、あぁ、何か立派な家?」
混乱しているから、このまま、こっちのペースで進めてしまおう。
「この家では外で履く靴と、中で履く靴を分けている。この玄関でこの靴に履き替えてくれ」
「は、はい」
無理やり我が家のルールを押し付け、靴を履き替えさせていると三人が廊下に出てきた。
「この三人も俺の奴隷で、左からエネドラ、チクルス、アミルだ。
この三人から、この家で住む上でのルールを聞いてくれ。エネドラ、よろしくな。
まずは、昼飯を食わせてやってくれ。
もう一人連れてくるから説明の方はそれからでも良いけど、まあ、任せた」
「お任せください」
エネドラに言ったのだが、チクルスとアミルも三人で力こぶのポーズを。まあ、任せたよ。
「はい。では、ヴィルマさん、こちらへ...」
何故かアミルが、ヴィルマの手を引いていく。
「あ、主、ちょっと...この小さい子、力が強い...」
ヴィルマがアミルに食堂に引っ張られていく。諦めて、三人の言うとおりにしてくれ。
あと、アミルを小さい子呼ばわりはダメだぞ。その瞬間、アミルの表情が消えた気もするし。
もう、俺に出来ることは何もないので、ドブローの冒険者ギルドにワープした。
ギルドを出て、商館に向かい、ドアをノック。
今日は直接、店主が出てきて応接室に案内してくれた。人手不足なのかな?
数分程待つと、イレーネを連れて店主がやってきた。
イレーネは無表情。感情の起伏が少ないのかね。
手続きは終わってるので、皮の靴を履かせて商館を後にした。
パーティに入れて木陰にワープゲートを出すと少しだけ表情が揺らいだようだが、特に何も言うこともなく、俺に従ってゲートをくぐってくれた。
空気をちゃんと読んでくれるキャラになった?...この短い時間でそれはないか。
ヴィルマ同様に、玄関で靴を履き替えるルールを教えていると四人が廊下に出てきた。
ヴィルマの目が若干、死んでるような。何かO・HA・NA・SHIがあったのだろうか?
突っ込みは特にせず、イレーネにも昼食と我が家のルールを教えてやるように依頼した。
昼食に肉が出ると聞いた時、イレーネの目が輝いたのは見逃さなかったぞ。尻尾の動きも。
もっと感情を出してもらっても構わないのだが。まあ、徐々に変わっていくのかもしれない。
俺は風呂場に直行して、ファイヤーウォールでお湯づくりに精を出す。
何度かファイヤーウォールを二重掛けして温度をあげていく。
サウナモードで...ストレッチ。迷宮にはすぐには行けないけど...ストレッチ。
俺は、風呂にはすぐには入れないけど...ストレッチ。
ストレッチを頑張っているうちに適温になったので、木の板のフタをして俺は風呂場から退散。
エネドラに風呂の準備完了を告げて、この後、俺はドブローの工房に行くことを伝えた。
気を利かせて、チクルスがハーブティーを2杯入れてくれたので一気に飲み干した。
チクルスに感謝を伝えて、二階に上がった。早く魔道士を取得して氷を作りたい。
汗を拭き、身なりを整えながら今日の工房での交渉をシミュレーション。
まあ、事前に考えていた内容の最終チェック程度だけど。
一階に降りると、既に女性陣はお風呂モードだ。
俺はこれから、むさくるしいドワーフ鍛冶職人との取引だと思うと切ない気分。
玄関からドブローの冒険者ギルドにワープした。
ギルドを出て、前回不在だった工房に向かった。今回は居るようだ。
スキルつきの武器を持って訪れないと、フラグが立たずに店にいないのだろう。
なんとなく、俺のゲーム脳がそう言ってる。
あの親方の工房は結構でかくて、頑丈そうな建物だ。正に鍛冶師の店 って感じだ。
一方で街中にある武器屋や防具屋は鍛冶師の店というより、普通の家に店の看板付けただけって感じだ。
外から声をかけると、不機嫌そうな顔で出てきたけど俺を見つけて、たちまち機嫌を直して近づいてきた。
スキルつきの武器を持ってきたと思ったのだろう。
「激情のダマスカス鋼剣だ」
俺はアイテムボックスから武器を取り出して、親方に渡した。
「うおぃ。これは俺が作った剣じゃないか?本当にこれで融合が出来たのか?」
声がデカいよ!...そういえば、空きスロット付きダマスカス鋼の剣をドブローの武器屋で購入した気がするけど、ここで作られたものだったのか。
そりゃ、専門で大量に作ってるのなら流通している量的にありえる話なのか?
「ああ。そうだ。あんたが作ったものだとは今知ったのだが」
俺の回答に、力強い握手とでかい声で感謝の言葉を次々に投げかけてくる。
だが、鑑定して確認してもらわないといけないので、例の武器屋に二人で行くことにした。
武器屋の店主に武器鑑定してもらったが、まあ、当然ながら問題はない。
親方は上機嫌である。別にいかつい男の笑顔など見たくはないが。
「役に立って良かったよ」
感謝されてこちらも悪い気分ではない。あとは、そちらもそれなりの誠意を示してくれれば。
工房に戻り、ここにある装備を好きなだけ見て、好きなのを20個持っていけと言われた。
元々10個って言ってたのだけど、俺が素早く対応したのと使った武器がおっちゃん作だったので、サービスだと言ってる。
すごいどんぶり勘定だけど、この工房大丈夫か?
モンスターカード分の価値の上乗せもあるが、装備品10個分の価値はないよな。
工房の中に入ると、結構広い...で、完成品が別のでかい部屋に山ほど並んである。
どんだけ、作りゃ気が済むんだよ。地震が起きて、倒れてきたら死人が出るぞ。
素材だって、大量にないと流石にここまでは作れないだろう?これは探し甲斐があるな。
見て回るだけでも大変だろうが、空きスロット4つの装備品がどれほどあるか。
鑑定をしながら、自分達に必要な装備品の取捨選択をしていく。
空きスロットのないものが圧倒的に多いが、これだけあれば空きスロットの多いものもある。
片っ端から鑑定して、10個を選んだ。
ダマスカス鋼の剣(空4)2、エストック(空4)2、ダマスカス鋼の槍(空4)、ダマスカス鋼のプレートメイル(空4)、ダマスカス鋼の額金(空4)2、ダマスカス鋼の大楯(空2)
大楯は需要が少ないのか、数が少なく、一番空きスロットが多いもので2つまでだった。
「欲しいのは、この10個だが、
残りの10個分は装備品ではなく、ダマスカス鋼の素材を融通してもらえないだろうか?」
「そういや、そっちもお抱えの鍛冶師がいるんだっけか。
別に構わんぞ。いくつ欲しいんだ?100個か?200個か?」
親方は少し怪訝そうな顔をしたものの、こっちの事情を考慮してくれたようだ。
それより、装備品10個相当でダマスカス鋼素材200個って、計算おかしくない?
カルクのないジョブはこれだからもう。
「ダマスカス鋼を200個もくれるのか?」
「別に構わないが、革はあるのか?」
「なんで、革の話が出てくるんだ?」
「鎧作るのに必要だからに決まってるだろう?
ダマスカス鋼の鎧っつっても、ダマスカス鋼だけで作られてる訳じゃないぞ。
装備品によって、必要な素材が他にあるからな。普通は板と革があればなんとかなるがな」
「板?」
「盾や槍とか作るのに必要だろう?鍛冶師を抱えてるのに、そんなことも知らないのか?」
はい。知りませんでした。
アミルも連れてきていたら、急な指摘でもっとボロが出たかもしれないし、仕方ないよね?
なんか、あまりに俺が素人っぽいパトロンで、憐れに思われたのか、ダマスカス鋼150個と革100個、板50個、竜革50個、鋼鉄50個、鉄50個をくれた。
竜革、鋼鉄、鉄は在庫として置いてあるけど、全く最近使ってないので邪魔だから持っていけと言われた。
いや、涙が出るほど感謝しても良いのだけど、この工房大丈夫か?
余りに素人な俺の所にいる鍛冶師に同情したのかもしれないのだが。
アミルすまん、アホな主人で。ただ、そのおかげで素材を大量ゲットだ。
「こんな大量の素材、うちの鍛冶師が大喜びだ。ありがとうな」
「おお、こっちこそ俺の剣にモンスターカード融合してくれて、すげぇ嬉しかったぜ」
親方は、心底嬉しそうな顔で俺の言葉に応じた。
「今度は、金を払って買いに来るよ」
「ああ、たくさん金持ってきな。モンスターカード融合をまた頼むかもな。
カードはこっちに渡せないだろう?」
「まあ、そうだな。カードはなかなか集めるのが大変だからな」
「だろうな。まあ、次は鎧か盾かな。このマークを覚えておけよ」
なるほどね。このマークが付いてるのが、この工房産ってことか。
真似が簡単に出来そうだけど、別に真似されても意味ないのかな?
皇帝御用達とかの印でもないだろうし。
これからも掘り出し物を探しに来ることがあるだろうし、握手をして別れた。
適当な木陰から、ベイルの迷宮入口から少し離れた木陰にワープ。
道に出て迷宮の入口に近づく。
自宅に戻っても、まだ二人の受入対応とかしてるだろうし、邪魔しちゃ悪いからね♪
久々の独身生活を楽しむお父さんのような感覚で、迷宮入口の周りを遠くから索敵。
...で、やっぱりいるか。盗賊グループが。
前は2、3グループだったけど、今日は1グループだけだから減ったか?
我が家の家族や知人の安全のためにも、見つけたら狩るしかないな。