翌朝は朝食も食べずに出発だった。
お弁当替わりにパンを2つと水筒替わりの水袋をもらった。
もらえるだけ感謝だな(金貨の謝礼はなかったが)。
ペットボトルに水を移し替えたかったが、衆目にさらせないのでリュックに結わえ付けた。
村長の丁寧な挨拶と村長の家族の見送りを受けて、アンナさんとともにベイルに向けて出発。
同行者には檻に入れられた奴隷となる盗賊の身内もいる。檻の中で無言で俯いている。
この男は奴隷商館で売却されるんだよな。
売却された額の半分は俺に、残り半分は男の家族に支払われるらしい。
原作でもそんな感じだった気がする。
アンナさんの話では奴隷商館、騎士団詰所、商館、武器・防具屋の順番で回るらしい。
商館ではアンナさんが懇意にしている商人との顔合わせをセッティングしてくれるとのこと。
3時間ほど馬車に揺られてベイルの街を目指す。
彼女と雑談しながら、弁当のパンをパクついて周囲の警戒を索敵スキルで行う。
ただ、パンが固いので水袋につけながら齧っている。結構、ワビシイ食事だ。
水に浸したからって、パンが美味くなる訳でもないし。
シックスジョブにしても、アゴの力が劇的に強くなる訳ではなさそうだ。
いや、アゴだけ強くても歯が強くないと折れるか。僧侶の手当で治せるだろうか?
ペットボトルに水を移し替えなくて正解だったようだ。水袋の方がパンを浸しやすかった。
水袋の中の水にパンくずが浮かんでるけど、気にしてはいけない。腹に入ればどうせ同じ。
道からかなり離れた所には、たまにモンスターの赤い点が見える。
鑑定もできないほどの距離だから、何のモンスターかは分からない。
距離があるからだろうけど、こちらに近づいて襲ってくることはなかった。
原作だとグミスライムが出現したのだっけ?
今回はグミスライム自体にまだ遭遇していない。運が良いのか悪いのか。
恐らく楽勝だけど、彼女の見ている前での戦闘は避けたい。
村周辺の治安や盗賊、戦争の話をそれとなく聞いてみた。
どの村でも最近では盗賊の襲撃を警戒して、村の自警団も割と訓練を欠かさないそうだ。
ただ、先日のような二十人を超える盗賊団の襲撃は聞いたことがないらしい。
普通は十人前後で、街道の荷馬車を略奪して逃走するのが常らしい。
二十人以上というのは村そのものを占拠する規模の集団だったのではないかと。
村を占拠しても、すぐに騎士団が出てくるのではないだろうか?
その疑問を彼女にぶつけてみると、騎士団が派遣されるのはその通りだそうで、それを考えると盗賊の目的がよくわからないと不思議がっている。
盗賊はチマチマと街道で略奪をしながら身を潜めて、騎士団から逃げ回るのが普通らしい。
あとは迷宮にもぐって探索者を襲うとか、とにかく世間から嫌われていて、見つかれば即処刑か奴隷送りが基本とのこと。
3時間ほど経っただろうか。無事にベイルの城壁が見えてきた。
「これは、なかなか凄いですね」
俺はベイルの街の城壁の巨大さに素直に驚いていた。
「この辺りでは一番大きな町ですから」
アンナさんが得意げに説明してくれた。
初めに降り立った村の防壁は木製ではあったが、それはそれでなかなかのものだった。
だが、このベイルの街の城壁は圧巻だ。
もちろん現代の巨大なビル等とは比較できないが、この世界の建築物をナメていた。
原作ではクーラタルに五階建ての建物とかあったのだっけか。
ベイルの街はそれほど発展した街ではないと思っていたのだが、認識を改めよう。
うーん、さすがナーロッパ仕様か?
インテリジェンスカードのチェックもなく、街の中に入っていった。
冒険者のスキルで街の中で入り放題だから、チェックを行なっていないのだっけか?
まあ、なんにしろ自分にとっては僥倖だ。どうせ騎士団の詰め所で見せるのだけど。
でも、なんでこんなに城壁がデカいのだろうか?この街には城はないから街壁か。
盗賊は入り放題だから意味ないし、ここは隣国に近い訳でもない。
モンスターの襲撃に備えてここまでやるのか?スタンピードでもあるのだろうか?分からん。
奴隷商館に向かう道すがら、ベイルの街や市の説明を彼女がしてくれたが、正直言って野菜とか商品の説明をされても、名前からはイメージが全くわかない。
街の説明をしてもらっているうちに奴隷商館に到着。
門から中心街までの距離は思っていたよりは短かい気がした。中心ではないのか?
売却については、アンナさんではなく、俺の方で行うことで事前に話がついている。
彼女が商会の守衛に用向きを伝え、俺たちは応接室で少し待たされた。
やがて入室してきた相手の奴隷商人は・・・・・・
アラン(人間族 男 63才)
奴隷商人Lv44
お馴染みのキャラクターだ。ここも原作通りだ。
原作の狼人族の彼女の登場は2度目の訪問時だったか?
ベイルの街のそばに迷宮が出現した話を聞き、盗賊の奴隷販売価格は3万ナールで俺の1万5000ナール分だけ3割アップが効いて1万9500ナールだった。
原作通りと言えば、原作通りだが、村からのお礼の金貨がない分だけ手持ちが少ない。
でも、これで俺の所持金は2万ナールちょうどになった。
そしてやはりというか奴隷の購入を薦められたが、現時点での所持金では不可能なので『まあ、機会があれば・・・・・・』とお茶を濁して早々に退散することにした。
次に騎士団の詰所へと向かった。懸賞金の確認と受領のためだ。
念のためファーストジョブが戦士になってることを確認と。
ただ、守衛をしていた男は騎士ではなく、戦士のようだ。
男が奥に一度引っ込んで、騎士(女性)を連れてきた。
あれ、これは原作本ではなく、Web側でしか出てこなかったキャラか?
あれ?どうだったっけ?レベルこんなに低かったっけ?
このマジカルアーマーというのは、固定で出た装備品だろうか?
魔法耐性のある防具は俺も欲しい。
レベルは後で原作本を確認しておこう。やっぱり気になる。
ラディア・マキシナント・ゴッゼル(人間族 女 28才 士爵)
騎士Lv6
装備 マジカルアーマー 加速のブーツ
型どおりに俺とアンナさんのインテリジェンスカードの確認が行われ、インテリジェンスカード24枚(うち2枚は村所有)を持って女騎士様は去っていった。
騎士のギルド神殿で確認と換金をするのだろう。
インテリジェンスカードでは種族名は表示されないので、俺の種族については相手には伝わらないだろう。奇異な目で見られている感じもなかった。
このベイルの街ではこまめに鑑定しまくったが、俺と同じ種族の者は見当たらなかった。
そして、この左手から生えているインテリジェンスカードは材質が謎だ。
プラスチックでもないし、木製とも鉄製とも違う。俺の骨(カルシウム)で出てきている?
田舎者のように物珍し気にあちこち触ってるうちに引っ込んでしまった。残念。
いろいろ考え事をしているうちに女騎士様が戻ってきた。
村人の倒した2人には懸賞金はかかっておらず、俺の倒した3人に懸賞金がかけられていた。
きっとウーゴと幹部2人に違いない。レベルの低い者にはかかっていないのか。
ここでは3割アップも使えないし、原作通りに美人騎士のお姉さんが懸賞金の入った小袋を俺に放り投げて、さっさと立ち去っていった。
原作主人公と同じく塩対応だ。そこは原作に忠実でなくて良かったのに。
デレのサプライズが欲しかったのだが残念。
なんとも言えない雰囲気で詰め所を後にして、次は商館に向かった。
馬車に揺られながら、袋の中身を確認したところ20万1000ナールだった。
ちょっと中途半端な金額だが、銀貨が少なくてよかった。
ただ、金貨は早急にアイテムボックスに入れたくなる金額だ。
探索者のジョブ取得とレベリングを早くしたい。
原作では盗賊2人だけの懸賞金で確か15万ナールだったか?
それより幹部一人分多いのなら、まあ妥当なのだろう。
妥当でなくても条件闘争はできないので、受け入れるしかないのだが。
これで所持金は20万ナールを軽く超えた。盗賊討伐は儲かるということか。
ただ奴隷を購入するには、心もとない金額だ。
次に彼女に連れられて、馴染みの商人を紹介してもらう。
うん、普通にただの商人だ。奴隷商人でも武器商人、防具商人でもない。
ビッカー(人間族 男 31才)
商人Lv6
ここでビッカーが登場するのか。
アンナさん(商人Lv4)よりは年上なだけあって、レベルはちょっぴり高い。
だがLv6では大した商いはやってないのではないだろうか?
迷宮も最近までベイルの近くになかったから、経験も積めなかったのかもしれないが。
とりあえずビー玉を1つぐらい出して、様子見するか?
今は伝手を得たと思うぐらいにして、今晩ゆっくり考えよう。
ビー玉も鏡も補充のきかないものだし焦ることはない。
今は顔合わせだけに留めることにしよう。
互いに丁寧なあいさつを交わして、ビッカーの商館を後にした。次は装備品の売却だ。
俺の所有する装備品が沢山あるので、いったん全てを馬車から降ろしてもらい、嵩張る防具の方から交渉をすることにした。
ここでは俺とアンナさんは別々に交渉だ。
村の所有装備を俺が交渉すると彼女の経験値を奪うことになるのでね。
たしか、ジョブの実務でもちょっぴり経験値が入るはずだ。
迷宮に入らないのなら、フィールドのモンスター狩り以外では実務の経験値も重要だろう。
この世界の人たちが実務の経験蓄積をどの程度理解しているのかは知らないが。
俺の装備品の方が数が多いので、先に村の所有分(盗賊2人分)の防具の買取交渉を行なった。
いったん、残りの俺の所有する防具については、店主に査定を進めてもらいながら、彼女と武器屋の方に出向いた。
防具同様、村の所有武器のみ店主と先に交渉してもらった。
俺の所有装備は多くて時間がかかるため、ここでアンナさんとはお別れとなった。
丁寧な挨拶を交わし、改めて盗賊討伐のお礼を言われて、俺は一人となった。
ちょっと年上だが綺麗なお姉さん系の女性と別れるのは寂しい気分だ。
好み的にも断然ストライクゾーンだったし!