異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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031.説明困難

 一階に降りると、既に俺以外の迷宮組は勢揃いして待っていた。待たせて悪かったよ。

 エネドラはいつも通りの何事もなかったような表情。

 でも、俺は目を合わせることが出来ない。

 ヴィルマとイレーネに念のため手当をかけ、エネドラ達に見送られて迷宮にワープした。

 

 午後の探索はザビルの16階層からだ。

 

 

 ザビルの16階層の新規モンスターはフライトラップだ。

 既にクーラタルでも戦ってるので、お馴染みの相手。

 フライトラップ、ラブシュラブ、ピッグホッグが多いが、2種類のモンスターの弱点属性が火魔法なので比較的やりやすいか。

 

 ピッグホッグ等はアミル達三人に任せて、フライトラップやラブシュラブは俺がとる。

 戦ったことのないモンスターはいないので危険は全く感じない。

 

 ヴィルマとイレーネはさっきまで訓練していたのに疲れていないのだろうか。

 生き生きとし過ぎていて、コッチがドン引きなのだけど。

 なんで、この二人こんなに元気なの?

 

 モンスターとの会敵の合間にアミルと今日のルークとの取引の話をした。

 

「今日の商人との取引のお話、私は後半ほとんど理解できませんでした」

「まあ、ほとんどは俺とエネドラで相談して決めた内容だったからな」

 アミルは同席していて理解出来なかったのが悔しかったらしい。

 

「理解出来るに越したことはないが、アミルに求められている役割は違うのだから

 気にしなくても良いと思うぞ」

「求められている役割ですか?」

 

「ああ、今回は俺がいたから不要だったが、俺がいない時はアミルはエネドラの護衛だ。

 護衛の場合に一番気にしなければならないのは、護衛対象を確実に守ることだ。

 そのためにはルークがどのような装備品をその場に身に着けているかとか、

 今回は一人で来ていたが、同席している相手の護衛の強さを確認することだ」

「そうですね。確かにその観点は欠けていたかもしれません」

 そこまでハッキリと俺もお願いしなかったからな。アミルの責任ではない。

 

「今後も護衛として同席することもあるだろうから、慣れていけば良いだろう。

 あとは護衛以外の役割だと鍛冶師としての知見かな。

 今日、話題に出てきた素材で自分が装備品を生成できるか等かな。

 お金の計算とか、細かいところまでアミルが把握する必要はないぞ。

 そちらは俺とエネドラの役割だからな」

「そうですね。商談に同席していたので必要以上に全てを理解しようとしてしまいました。

 それでは自分の役割を見失うことになってしまいますね。気を付けるようにします」

 まあ、ボチボチいこう。今回は俺の指示出しも悪かった気がする。

 エネドラとばかり議論して、アミルとのコミュニケーションを欠いていたな。

 いつぞやと同じミスを犯した気がする。反省。

 

 雑談を交えながらも、索敵で警戒を怠らずにモンスターを倒していく。

 ヴィルマとイレーネの調子が良いこともあって、ザビルの16階層もドンドンとクリアにしていける。

 こいつらはアミルのような悩みとは無縁で、迷宮で戦ってさえいれば良いと考えていないか?

 現時点では間違っていないのだが、この二人の将来に不安を感じる。

 父親のような目線になってしまう。毎晩、父親の下を訪れる娘は居ないはずだが。

 

 途中の魔物部屋を俺が殲滅したが、全滅したパーティは居なかったようだ。

 

 ボス部屋のみ残してクリアした。

 

 ボス部屋も午前同様、アニマルトラップは俺、お供のラブシュラブは3人で倒してもらった。

 火魔法が弱点属性のペアが出てくると楽で良いな。

 

 そして、この階層では待望のはさみ式食虫植物のモンスターカードがドロップした。

 ハッキリ言って、メッチャ嬉しい。ドロップ率が悪いとゲットした時の喜びもひとしおだ。

 さっそく、今晩の会議で武器を強化する相談をしよう。

 

 17階層に抜けて、本日の探索は終了。

 ヴィルマもイレーネも午前と午後と迷宮2階層分を戦えて、充実感を漂わせている。

 俺たちが取引している間も二人で訓練していたのだよなぁ。

 この二人はやりたいこととやってることが完全に一致している感じだ。

 ある意味、素晴らしいのだが。なんだろう、この胸の不安は。

 

 ワープで自宅の玄関に戻り、二人に帰宅の挨拶。二階に上がって、汗を拭った。

 水差しでコップに水を注いでのどを潤して、一階に降りた。

 

 イレーネの視線にも慣れてきたぞ...席について夕食が始まる。

 迷宮素材をふんだんに使った料理だ。

 食材アイテムも大量にあるし、クーラタルだと買物がとにかく便利でエネドラ達にも好評。

 何よりも、二人が美味しい料理を作ろうとする努力に尊敬と感謝だ。

 その甲斐もあってか、イレーネは俺よりもエネドラ達の言うことをよくきいてる気も。

 餌付けが進んでいる...まあ、良いけど。

 

 今日は俺も含めて全員の機嫌が良い。迷宮攻略も取引も順調だったからな。

 エネドラだけが、ちょっと気になるのだが表面上はいつも通りだ。読めないな。

 午後の迷宮探索でモンスターカードがドロップしたことも伝えた。

 午前と午後で1階層ずつ攻略すれば、3日で1枚くらいのペースでドロップしているか。

 狙ったカードが必ずしも取得出来てはいないが、悪くはないペースだ。

 

 16階層からモンスターの最大出現数が5匹になったが、問題なく対応出来た。

 これがキープできるのなら、22階層までは無理なく攻略可能かもしれない。

 22階層にたどり着く頃にはLv50に達していくつかの上位ジョブが取得出来るだろう。

 そこで更なるパーティの強化も期待できる。

 

 装備品もまだまだ強化可能だ。

 商人...というか、商家としての取引はまだ始まったばかりだが。

 カードや素材の取得サイクルが上がれば、攻撃力や継戦能力の底上げも可能だ。

 多分、次のボトルネックは人材かもしれない。

 

 迷宮メンバもまだ四人だし、後方支援や護衛のメンバを増やす必要がある。

 家の広さに合わせる必要はないが、商家を構えて全体人数が6人は少な過ぎるだろう。

 こればっかりは直ぐには無理だろうが、まめに奴隷商館を回るしかないか。

 

 食事を終えて、足し湯のために風呂場に向かった。

 武器の強化ポイントを再考しながら、湯量と湯温の調整。

 だいたいの方針を決めているので、後はヴィルマ達使う側の納得感次第だろうか。

 

 今後の方針の説明論理もシンプルに考えているし、エネドラとアミルにも説明してみよう。

 こういう話って、ヴィルマやイレーネはあまり関心を示さないのだよなぁ。

 まあ、初めてのスキルつきの武器だろうから、使ってみて何かそのうち思うことがあれば言ってもらえればよいか。

 焦らず、気長に成長を待つか。

 成長するのだろうか...センスで押し切りそうな気もするのだが。

 

 足し湯が終わり、そのまま風呂に。こざっぱりしたところで女性陣と交代。

 やはり、この気楽に風呂に入れるのは素晴らしい。

 魔道士を得て、三馬力で頑張る必要もなくなった。

 迷宮で魔道士のジョブには頑張ってもらおう。本来、そのためのジョブだし。

 

 食堂ではなく、今日は2階の談話室でハーブティーを飲みながら、この後の会議内容の検討。

 談話室はみんなの部屋からも近くて、1階と2階を上がったり下りたりしなくて済む。

 今日は試しに談話室でやってみようと提案してみた。

 

 初っ端にスキルつきの武器の相談をして、通常の定時報告が終わったら、エネドラと生活向上のための個別課題の相談。

 正直、最後の件が気が重い...しかしなぁ、避けては通れない話だし。止む無しか。

 

 

 皆が食堂に集まってきたので、会議開始。

 今日はスキルつきの武器の話をすると事前に伝えていたので、参加メンバが少しうわついている感じがしなくもない。

 

「今日は初めに俺以外の三人のメンバが使う武器についての相談をしたい」

 顔を見ると、三人とも期待に満ちた目をしているような。気のせいか?

 

「まず、俺の使っている硬直のエストックをイレーネに使ってもらおうかと思ってる。

 イレーネは今、暗殺者で状態異常にさせる確率が上がるジョブだ。

 攻撃のスタイルも攻撃の手数を多くする傾向があるので、

 ジョブとスキルつきの武器と戦闘スタイルの親和性が高いと思っている」

 イレーネの目が輝いている?お古だけど良いのかな?

 

「あと、ヴィルマの剣にはサイクロプスとコボルトのカードを融合して攻撃力を強化したい。

 融合する対象を今使ってる片手剣のエストックにするか、

 両手剣に新しく融合するかはヴィルマや他の者の意見を聞いてから決めたいと思っている」

 ヴィルマも満面の笑みを浮かべてるけど、どっちにするかちゃんと考えてるか?ダメか?

 

「そして、アミルの使うダマスカス鋼の槍に

 ウサギとコボルトを融合して詠唱中断のスキルを融合しようと思っている。

 アミルは前衛陣のフォローをする役割なので、モンスターのスキル攻撃を止めるためだな」

 アミルは頷いている。

 役割とモンスターカード融合の内容の整合性をちゃんと理解しているようだ。

 さすがに鍛冶師な訳だし、そこはね。他の者への助言が欲しいところだ。

 

「三人のスキルつきの武器が決まったら、俺の武器に融合するカードを決めようと思ってる」

「あの、旦那様の武器から融合するカードを決めないのでしょうか?」

 エネドラが俺に質問してきた。そうそう、ちゃんと疑問をぶつけてくれると助かる。

 

「今回の強化したい対象は三人なので俺は後回しだ。

 三人には役割に見合うスキルつきの武器を渡せてないので、そこを強化したい。

 対して、俺の戦闘スタイルは決まっていて、それに見合う武器を使っていると思っている。

 あえて言うなら、硬直のエストックがあまり活躍していないので、

 イレーネに渡して役立ててもらおうと思うのだ」

「なるほど、分かりました。アミルさんのご意見はどうでしょうか?」

 アミルに発言を促すようにしてくれている。

 俺以外でその役割を果たそうとしてくれるのは助かるな。

 

「ご主人様が与えようとしているスキルつきの武器は、求められる役割に対して、

 私たちに足りない部分を補完してくれている気がします。

 ご主人様は魔法と高速な近接攻撃を併用されていて、

 今の戦闘は非常に安定していると感じています。

 ただ、ご主人様に将来どのような強化が必要なのか、私には想像出来ていません」

「そうだな。俺の強化方針は後でまた説明しよう。まずは、三人の武器からだ。

 ヴィルマとイレーネの方は意見はないだろうか?」

 俺は二人の意見を求めて、視線を向けた。

 

「スキルが融合された武器を使うのは初めてだから、とっても楽しみだ」

「御館様から下げ渡された武器を使うのは、この上ない誉れ」

 いや、それは意見ではない...ただの感想だ。しかも、珍妙な感想。

 イレーネ、ちょっとブラヒム語は大丈夫か?何故、そのような変な武家言葉に?

 チクルス、変な事を教えていないか?多分、言葉の意味分からずに使っている気がするぞ。

 なんとなくだが、武器のところの言葉を他の言葉にして、おかしな知識を吹き込んでないか?

 

「ま、まあ、二人に異論がないのなら、俺の当初方針通りに融合しようか。

 ヴィルマは片手剣と両手剣のどちらを融合して使いたいかの希望はあるか?」

「攻撃力が不足している気がするので、両手剣を使ってみたいけどダメかな?」

 迷宮が関わると、ちゃんと自分の希望を口にするのだな。

 

「じゃあ、両手剣を使ってみるか。もしダメなら俺の方で使うようにしよう。

 ヴィルマの使い勝手が分かるまでは俺の武器にモンスターカード融合するのは保留にしよう。

 俺の方は、今すぐに融合しないと困る訳ではないからな」

「分かった。主に任せる」

 本当に分かっているのだろうか?不安だ。とりあえず両手剣で様子見だ。

 

「次に、俺の武器の将来の強化方針だが、

 一つ目の方針は、硬直のエストックに類する武器を複数使うことにしたいと思ってる。

 二つ目は、今使ってるフラガラッハかデュランダルの劣化版を作成したい。

 三つ目は、魔法が強化される武器だ。聖槍あたりを狙いたいと思ってる」

「硬直のエストックはイレーネさんの役割をご主人様もこなすつもりですよね。

 今使われてる固定の武器の劣化版を作るのは何故でしょうか?

 あと、魔法使い用の杖ではなく、槍を使って魔法強化するのは何故なのでしょうか?」

 アミルが真っ当な質問をしてきた。しっかりと答えないとダメだろうな。

 

「硬直のエストックについてはアミルの理解の通りだ。

 劣化版を作るのは、今使ってる固定の武器はスキルで生み出しているので、

 スキルを使わずに同等は無理でも、少し落ちる程度の武器を使えるようになりたいからだ」

 ボーナスポイントの話をするのは難しいので、スキルという曖昧な言葉に置き換えた。

 

「魔法については、杖でも良いのだけど聖槍でも魔法強化はできる。

 あとは、聖槍に詠唱中断をつけたり、MP吸収やHP吸収をつけるのが良いと考えている。

 スキル抑止と魔法強化と継戦能力の強化が出来る武器にした方が良いと考えたのだ。

 詠唱中断をつけるなら槍が適しているだろう。

 槍なら空中に浮かんだモンスターへの対応も出来るしな。

 あとは必要に応じて攻撃力2倍を付与して、HP吸収やMP吸収の効率を高めるかだな。

 魔法専用武器というよりは、複数の機能を持たせた臨機応変の武器という感じだ」

「なるほど、分かりました」

 こっちは誰かさんと違って、ちゃんと理解しているようだ。非常に助かる。

 

「じゃあ、会議の合間に融合しておいて」

「...融合は合間にやるようなものではないのですが」

 アミルが遠い目をしている。

 

 そのあとは定例の報告と共有だ...と思ったら、アミルから提案が。

 

「あの、ご主人様が使われている剣、フラガラッハとデュランダルというのでしたっけ?

 その剣を倉庫を使って鑑定させてもらえないでしょうか?」

「えっ?」

 ボーナス武器を倉庫に入れて出せば、アミル達でもスキルの内容が確認出来るのか。

 ただ、ボーナス武器ってアイテムボックスに入るのだっけ?

 原作では、結納品の決意の指輪が固定で出た防具でアイテムボックスに入れてたのだったか。

 装備品である以上は収納可能だろうか。試しに原作に倣って決意の指輪でやってみるか。

 ボーナスポイントがなくなることはないだろうが、試すのならダメージが小さいものからだ。

 

「分かった。今から隣の作業部屋に行って確認してみるか」

「はい。ありがとうございます」

 アミルは嬉しそうだが、スキルてんこ盛りのボーナス武器を見せても本当に良いのだろうか。

 ただ、断る口実が思いつかないのだよな。何か深みにはまっている気もする。

 出来ないみたいだと言って誤魔化すことも出来るのだろうが。

 劣化版と作ると言った手前、豪華版(?)の方を見せないと劣化具合も分からないか。

 

 隣の部屋の倉庫の前に移動した。

 俺はボーナス装備品の決意の指輪を取り出して、倉庫に入れて出してみる。

 うん、ちゃんと鑑定出来るな。これならアミル達に見せても大丈夫だ。

 決意の指輪を仕舞って、まずはデュランダルを取り出す。

 

「アミル、デュランダルだ」

「はい。ありがとうございます」

 アミルはデュランダルを受取り、倉庫の前に立ち、一度収納してから取り出した。

 

「ひぃっ?」

 デュランダルにはスキルが6つ付与されている。

 HP吸収、MP吸収、詠唱中断は一応、探せば見つかる程度の融合スキルだ。

 3つまとめて付与されていることには目をつむっておくとして。

 攻撃力五倍、レベル補正無視、防御力無視はかなりレアな部類だろう。

 そもそもモンスターカード融合することが出来るのかすら原作では語られていない。

 

 6つもスキルが付与されていて、しかもそのうちの3つはレアスキルとか...伝世品とかで済まされるものではないよな。

 そのあたりの説明はできないのでスルーしてしまおう。

 

 アミルが恨めし気な目で俺を見ている気がする。アミルが見たいと言ったから見せたのだが。

 

「アミル、難しいことを考えてはいけない。まずは劣化版のイメージを作るところからだ」

「ソウデスネ」

 あれっ、ちゃんとコミュニケーションが取れた会話になっているのだろうか?

 アミルの表情が消えているような。

 

「詠唱中断は槍などのリーチの長い武器に付与させた方が良いので、選択肢から外しても良い。

 レベル補正無視も相手とのレベル次第ではあまり意味のないスキルになるかもしれない。

 HP吸収とMP吸収はどちらかを付与するか、どちらも付与するかの選択肢があるだろう。

 魔法の継戦能力を重視したいからMP吸収はなるべく多くの武器に付与したい。

 HP吸収は僧侶や巫女などの治療魔法で代替することも出来るので、1つか2つあれば良い」

 俺は、自分の考えていたことをアミルに伝え、アミルは一応メモを取っている。

 

「HP吸収もMP吸収も効果を高めるためには武器の攻撃力を上げる必要がある。

 そのためには、攻撃力を増やす事と可能であれば防御無視を付与したい。

 攻撃力2倍を付与するのならサイクロプスとコボルトで可能だ。

 攻撃力5倍を付与するには、どのモンスターカードが必要なのかは分からない。

 防御力無視も同様に不明だ。これらは今後調査が必要だ」

「はい。図書館で調べて分かるものなのかは疑問ですが、調査はしてみます」

 図書館では厳しいかもしれないな。

 帝国解放会の資料室あたりなら情報があるかもしれない。

 

 アミルはようやく再起動したのか、メモを取った後は皆と一緒に談話室に戻ることにした。

 フラガラッハを倉庫で鑑定はしなかった。まあ、デュランダルでお腹一杯になったのだろう。

 劣化版を考えるのなら、フラガラッハではなくデュランダルで考えた方が適切だろうしな。

 

 そのあとは定例の報告と共有だ。

 

 明日は、迷宮組はクーラタルの迷宮17階層の攻略から。午後からはベイルの迷宮だ。

 ベイルの17階層の攻略が早く終われば、今まで回ってない奴隷商館を回ってみる予定。

 奴隷商館巡りは俺一人なので、迷宮組の残り三人は自由行動。

 

 アミルからは硬革製の防具を一通り作成し終わったことが報告された。

 硬革製の装備品には接着剤が必要だった。

 接着剤が手元にほとんど無かったので、ギルドで25個ほど購入した。

 合計で2000ナール、やっぱりギルドで購入すると高いけど仕方ない。

 アミルの鍛冶師としての経験を積むためだ。

 

 チクルスは前回報告通り、強壮丸の作成を実施。淡々と数を積み上げている模様。

 エネドラからは石鹸の試作に着手したと報告があり、今の時点では品質は良さそうだが、固まって使用感を確認してから報告したいとのこと。

 そりゃそうだな。鑑定でも分からないし。

 

「じゃあ、これで会議は終わりにする。明日もよろしくな」

 

 皆におやすみの挨拶をして、各自、自室に戻っていくが俺はエネドラだけを呼び止めた。

 

「ちょっと、この家の設備について相談があるのだけど」

「設備ですか?何でしょうか、旦那様」

 ちょっと考えて...やはり実地で説明するしかないと腹を括った。

 

「ここでは説明しにくいので、場所を変えても良いだろうか?」

「はい、構いません」

 俺はエネドラを連れて談話室を出て、一階に降り、廊下の前で立ち止まった。

 トイレと納戸に挟まれた裏口に続く、廊下の真ん中だ。

 

「ここで、お話しされるのでしょうか?」

「ああ、ここでないと...ちょっと説明がしにくいのだ」

 俺は、少し悩んだあげくドアを開けた。

 

「トイレの話なのですか?」

「そうだ。トイレの話なのだ」

 俺は真面目に頷いた。

 

「下水が詰まったりしているのでしょうか?掃除が行き届いてなかったでしょうか?」

「いや、違うのだ。下水の問題でも、掃除の問題でもない」

 俺は少し焦って説明したが、エネドラの不安はいったん打ち消した。

 俺の不安は増大するばかりなのだが。

 

 その後、俺はこの異世界に来て最も緊張した説明を行なった。

 はっきり言って、昼間の取引の話なぞ、目ではない程の緊張だ。心臓バクバク状態だ。

 

 説明というのは...元の世界で言うところのウォシュレットの話。

 この家に引っ越してきてから、温水・給水設備の設置が可能となった。

 設備を設置する際には、場所も比較的自由に設置できるのだが、所謂、蛇口の向きとかも自由に設置できる。

 つまり、公園の水飲み場のように水が出る向きを上にして設置も可能。

 

 ということで、トイレの座る近くに温水・給水設備を上に向けて設置すれば、なんちゃってウォシュレットが出来なくもない。

 温水は温度がかなり高いので、給水と同時使用で、温度調節が必要だが。

 まあ、夏は給水だけ利用する手もある。冬は併用が良いと思うのだけど。

 

 昨晩は、二階のトイレでいろいろと試行錯誤しながら、何とか使えるように出来た(はず)。

 

 で、その説明なのだが、こちらの世界の者への説明は困難を極める。

 ウォシュレットの一言では伝わらないからなぁ。

 Youtubeの映像もないので使えない。誰か助けてくれ...

 

 俺はトイレに昨晩検討した形態で設置した後、実際に座りながら、実演(当然、着衣のまま...脱衣じゃない)してみせるのだが...かなり屈辱的な構図。

 一方で、エネドラはいつものクールさが吹き飛び、若干俯き加減で、顔を赤くしながら、俺の話を辛抱強く聞いている。

 

 す、すまん...これは完全にセクハラ?

 だが、言葉だけで伝わる気もしない。言葉で言っだだけでもセクハラな気もするが。

 

 なんとか説明を終わり、一応、エネドラは頷いてくれた。

 しかし、ちゃんと伝わったのだろうか?不安だ。

 だが、これ以上の説明は無理だ。俺たちのメンタル的にこれ以上は無理。

 

「という訳で、俺の故国では、トイレで便利な洗浄装置として使っていたのだ。

 全員に伝えるのはちょっとアレなので、まずはエネドラに使ってもらってだな、

 みんなに説明して広めてほしい。何度も言うようだが非常に便利なのだ」

「は、はい。分かりました。努力してみます」

 もう、俺たち二人のMPはゼロの状態な気もする。

 

 本当はビデの説明も考えてきたのだが、その前にMPが尽きてしまった。

 これ以上の説明は無理だ。きっと言わなくても、気づいて使ってくれるだろう。ホントか?

 これ以上の説明は無理なのだから仕方がないのだ。

 気まずい雰囲気のまま、二人とも自室に戻ることにした。

 

 おかしい...ホワイト企業を目指してきたはずなのに。どうしてこうなった?

 元の世界で、従業員にこんな説明を実演してみせたら、即刻、通報ものだろう。

 顔が熱い。とっても熱い。クールダウンが必要だ。

 目を瞑っても、エネドラの赤い顔が思い浮かんでしまう。

 ちょっと可愛い...違う、発想の転換が必要だ。これは社員の福利厚生の向上なのだ。

 多分...大丈夫だよね?明日の朝食、俺だけ肉串の串が毒針で出されたりしないよね?

 

 無理に頭を切り替えて、日々の進捗をアップデート。今日も新しい取引とかいろいろあった。

 

①新規ジョブ取得とレベリング :レベルキャップになったら、冒険者目指して探索者を育成

 ⇒取得可能なジョブはほぼ取得済。俺自身のレベリングはほぼレベルキャップまで実施

 ⇒鍛冶師、獣戦士、暗殺者は通常部隊で優先的にレベリング

 ⇒エネドラは武器商人、チクルスは薬草採取士を小荷駄隊でレベリング

 

②資金集め :元の世界から持ち込んだ物品の値付け

 ⇒ビー玉は2個で13000ナール(残り44個)

  ⇒次回から4個単位で売却。次回は21日後、ビッカーに納品

 ⇒ルークと鏡は1枚15万ナール、2枚で39万ナールで取引実施(残り8枚)

  ⇒次回以降も2枚単位を希望(2枚の予約注文有)

 

③資金集め :魔結晶の結晶化促進(資金に使うか拠点に使うかは要検討)

 ⇒1日1300ナールほどの魔結晶は可能(レベリングを犠牲にしたボス周回で改善可能)

 ⇒ルークと妨害の剣6本セットで新しい形態の取引を打診。回答待ち

 

④メンバの拡充 :迷宮探索メンバは保留中(最後の二人は竜騎士と魔法使いか?)

 ⇒ヴィルマとイレーネを身請け完了。22階層までは恐らく問題ない。それ以降は拡充要?

  ⇒竜騎士と魔法使いなら、白金貨2枚程度の予算か?資金集めが必要

 ⇒エネドラ達の護衛用にメンバ拡充を検討する(奴隷商館巡りをしよう)

 

⑤拠点の確保 :クーラタルの新居に移転。ベイルの賃貸は購入済

 ⇒アミル、チクルス、エネドラでリーダをローテーションしながら、各種作成を行う

 ⇒クーラタルへの引っ越し完了。鏡2枚が売れて、資金が貯まったら購入する

 

⑥モンスターカードの購入の窓口確保 :ルークに依頼中

 ⇒コボルトハンター経由で依頼中(3日後に来訪予定)。ルークにも大量依頼中

 

⑦鍛冶師による装備の作成 :順調だがモンスターカードがボトルネック

 ⇒詠唱中断(アミル)、石化付与(イレーネ)、攻撃力2倍(ヴィルマ)で三人の強化実施済

 ⇒デュランダルの劣化版を目指す。MP吸収(俺)の武器は保留中

 

⑧ベイル以外の街の確認及びワープ地点の拡大  :次はペルマスクに行ってみる

 ⇒ザビルまでは到達済。ペルマスクは未。ボーデ方面も未

 

⑨装備品の充実 :クーラタル移転後はダマスカス鋼、竜革装備の充実を

 ⇒掘り出し物チェックの街巡り。ドブローのダマスカス鋼の工房を中心に回ろう

 

⑩石鹸の作成  :試作中

 ⇒エネドラ中心に石鹸を試作して、普段使いや販売に。チクルスも補助に入る

 

⑪ダマスカス鋼の工房の依頼  :定期的に巡回しよう

 ⇒激情のダマスカス鋼剣を納品済。定期的な掘り出し物チェックをする

 ⇒何かスキルつきの武器を融通して、鍛冶素材を入手するか?

 

ユキムラ タケダ(鬼人族 ♂ 17才 自由民)

探索者Lv46 英雄Lv46 鬼武者Lv46 遊び人Lv46 剣匠Lv46 魔法使いLv46

装備 デュランダル エストック ダマスカス鋼の剣 ひもろぎのスタッフ

    アルフレイル ダマスカス鋼の額金 硬革のグローブ 竜革の靴 身代わりのミサンガ

 

アミル(ドワーフ族 ♀ 16才 奴隷)

探索者Lv29

装備 強権のダマスカス鋼槍 ダマスカス鋼のプレートメイル ダマスカス鋼の額金 革のグローブ 硬革の靴 身代わりのミサンガ

 

ヴィルマ(虎人族 ♀ 17才 奴隷)

獣戦士Lv42

装備 激情のダマスカス鋼剣 竜革のジャケット 硬革の帽子 革のグローブ 硬革の靴 身代わりのミサンガ

 

イレーネ(豹人族 ♀ 17才 奴隷)

暗殺者Lv33

装備 硬直のエストック 鋼鉄の盾 竜革のジャケット 硬革の帽子 革のグローブ 硬革の靴 身代わりのミサンガ

 

エネドラ(人間族 女 27才 奴隷)

武器商人Lv24

装備 ダガー 皮のグローブ 皮の靴

 

チクルス(人間族 女 18才 奴隷)

薬草採取士Lv41

装備 ダガー 皮のグローブ 革の靴

 

明日の予定

(午前)

・俺    :クーラタルの迷宮(17階層)

・アミル  :クーラタルの迷宮(17階層)、(朝:装備品作成)

・ヴィルマ:クーラタルの迷宮(17階層)

・イレーネ:クーラタルの迷宮(17階層)

・エネドラ :朝食、昼食の準備、洗濯、時間あれば石鹸試作

・チクルス:朝食、昼食の準備、洗濯、生薬生成

(午後)

・俺    :ベイルの迷宮(17階層)、時間あれば奴隷商館新規開拓

・アミル  :ベイルの迷宮(17階層)、時間あれば訓練 or 装備品作成

・ヴィルマ:ベイルの迷宮(17階層)、時間あれば訓練

・イレーネ:ベイルの迷宮(17階層)、時間あれば訓練、(ブラヒム語勉強)

・エネドラ :夕食・朝食の準備、(掃除)、石鹸試作

・チクルス:夕食・朝食の準備、(掃除)、生薬生成

※夜は定例会議

 

 エネドラにした説明を思い出す度に頬が熱くなる...さっきからヘビーローテーションだ。

 ...と、ノックの音が。

 

 ドアを開けると、そこにはヴィルマが佇んでいた。

 

 ヴィルマをベッドに誘い...ストレッチの施術。

 ヴィルマはイレーネと違い、体の柔軟性がかなりあるな。というか俺より柔らかいのでは?

 

 股割りとまでは言わないけど、一時期、結構頑張って俺も柔らかくしたのだよな。

 ストレッチという概念とかなさそうな、この世界でヴィルマの体がこれほどに柔らかいのは何故なのだろう?

 

 少し痛いくらい...痛気持ち良い程度に解しながらマッサージを入念に続ける。

 まあまあ、リラックス出来たのではないだろうか。

 

 ヴィルマの臀部を見ていると、エネドラに説明した記憶が蘇ってきた。

 仕草には出さないけど、心の中では身もだえてしまう。

 

 あの後、エネドラは2階のトイレの近くでみなに説明していたようだ。

 俺は索敵スキルで皆の動きが分かってしまうので。

 

 一つ、深呼吸をしながら、心を落ち着かせる。リラックスだ、リラックスだ。

 

 

 もう済んでしまったことは仕方がない。これからのことを考えよう。

 

 

 

 

 仕方がないので、八つ当たりでヴィルマを身もだえさせることにした。

 ヴィルマの先程のリラックスは消し飛んだ気がしないでもない。

 スマン、ただの八つ当たりだ。ホワイト企業への道程は遠いな。




お読みいただき、ありがとうございました。

本話では、読者様(ハーマイ様)から感想で頂いたボーナス武器を倉庫で鑑定させてみるというアイディアを入れてみました。
原作ではハインツ一味からセルマー伯の結納品(決意の指輪)を回収していたので、きっとアイテムボックスに入れたのだろうから、倉庫にもきっと入るはずということにしました。
デュランダルをどうやって作るのかとか、伝世品でもこんなものできるの?...という説明は普通に考えると厳しいでしょうね。
普段使いしている高性能武器はどのレベルなのかを見せておくのは決して無駄ではないはず?


もう一つの説明困難な件は、異世界にないものを説明するのはきっと難しいのだろうねという話をやってみたかっただけです。
アミルを混沌の底に突き落としてしまったので、次はエネドラも...と。主人公も落ちたけど。

生活の質の方は多分上がるはずと思うのですが、さて。
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