昨晩、さんざん身悶えさせたのにエネドラの姿は既にない。
平常心をすっかり取り戻した俺は朝のストレッチに励む。
そういえば、エネドラとは夜の課外活動で2対1の変則マッチを行なっていることがあるのだが、エネドラの方に種族固有ジョブが生えた形跡はない。
やはり男女比(?)を変えないと人族の固有ジョブ取得は出来ないのだろうか?
今のところ、男性人数を増やす予定はないのだが。
まさかジョブ取得方法をエネドラに尋ねる訳にもいかない。知っていそうな気もするけど。
エネドラに「旦那様はそれを知ってどうしようというのでしょうか?」と真顔で訊かれた時に返す言葉が見つからない。
俺が人間族の種族固有ジョブが得られる訳でもないし。
ただ、女性版の種族固有ジョブが何なのかは興味があったりする。
色魔は基本的には男性に使う言葉のような気もするし、女性の場合は...これ以上は止めておこう。
何か触れてはいけない深淵の闇な気がしてきた。
アホな考察を止めたタイミングでドアをノックする音が。
呼びに来てくれたヴィルマと共に食堂に降りた。
俺とヴィルマが食卓に着くと朝食が始まった。
今日は至って平穏な食卓の風景。誰も挙動不審な者はいない。
普段の日常でもそんな人は居ないはずなのだが、最近は何かカオスな感じだった。
ようやく我が家にも平和が訪れた気がする。原因を作ったのが誰かということは置くとして。
エネドラ達の作ってくれた美味しい朝食を頂きながら、今日の予定を確認。
迷宮組は午前はザビルの17階層、午後はクーラタルの18階層の攻略だ。
時間が余れば俺は奴隷商館巡り、他のメンバは自由行動だ。
エネドラとチクルスはいつも通りで、家事作業と生薬生成・石鹸の開発だ。
エネドラはギルドに出向いて、商人の顔つなぎをしてもらった方が良いのかもしれない。
ただ昨日のこともあるので、ちょっと様子見してからにした方が良いか。
商人ではなく別の仕事やジョブに...という可能性もゼロではないので。
それとは別に奴隷メンバの拡充は俺の方で模索しよう。
人材の追加はどうせ必要なのだから。
食事を終えて、迷宮組は攻略を開始した。
ザビルの17階層の新規モンスターはハットバットだ。
既にクーラタルでも戦っている相手だ。
ハットバット、フライトラップ、ラブシュラブが多い。
2種類のモンスターの弱点属性が共通の火魔法を主体に使う。
ハットバットが多い時には風魔法を使っていこう。
ハットバットは槍持ちのアミルがいるので三人に任せて、足が遅めの奴は俺が相手をする。
ハットバットのドロップ品はうま味がないが、それ以外は生薬素材、鍛冶素材として有用だ。
オーバホエルミングをかけて魔法2連発を放って、後衛のモンスターに向けて俺は一人旅。
デュランダルを中心にした近接攻撃で倒して、取って返す。
あとは三人の攻撃を見学するといったいつものパターン。
アミルと二人の連携にも綻びが生じる気配もない。
このまま連携の熟成をしていけば良いのだが、もう一工夫してみたい。
「攻め方のバリエーションに番号を付けて、その番号を合図に攻撃を始めてみないか?」
「番号ですか?ご主人様、それは一体?」
俺のアイディアに三人とも困惑気味だ。
そりゃそうだよな。原作の話でも、こんなの出てこなかったから一般的ではないのだろう。
俺がやりたいのは、バレーやバスケといった球技で言うところのサインプレーだ。
1番は全員で待ち受ける、2番は俺だけ突出する、3番は全員で突撃する...といった感じで初めの戦闘のフォーメーションだけを決めておく。
魔法の使い方などは、その時々で変わるので特に番号には反映しない。
アメフトみたいな複雑で多岐に渡るサインを決めても、こっちの人間は対応できないだろう。
時間の経過と共に乱戦になったり、対応するモンスターが煙となって消える場合があるので決めるのは最初だけだ。
シンプルに片手で数えられるくらいのサインを決めておいて、開始前に番号を宣言して最初はそれに従って行動するだけだ。
モンスター相手では、別にサインプレーをしなくても問題など起きるとは思えない。
気にしているのは対人戦だ。
盗賊や別パーティとの戦闘では、モンスターとの戦闘でのセオリーは通じないと思っている。
パーティ同士の戦い、6対6や5対5ってのが丁度、バレーやバスケでのチーム対戦と連携に似ている気がするのでサインプレーを導入してみたかっただけだ。
基本的にはパーティ戦も1回戦えば次に同じ相手と戦うことはまずないだろう。
だから、サインプレーの番号を高らかに宣言しても問題ない気がする。
野球やバスケのように試合の途中でサインを変えたり、サインを盗まれないように複雑なサインにする必要もないだろう。
狭い場所に6人が2列で並ぶと、背中の後ろに指でサインを伝えるとか、ちょっと現実的な気もしないので番号の宣言で十分だ。
それよりも、初動で速やかに連携して動けることのアドバンテージの方が大きいと思う。
短い言葉で全員が即座に動き出すというのが理想だ。
初動で最も有利な形で戦闘を開始して、最大限の攻撃力を叩きつけて相手を無力化したい。
最初はきっと戸惑うだろうが、試してみよう。
ただ、モンスター相手で使うのはほとんどが「2番(俺だけ中央突破)」なのだよなぁ。
他に使えそうなのはモンスターを相手にする時の盾役の受け渡しだ。
ゲームで言うところのタゲの切替なのだが、この世界のモンスターには今一つタゲという概念が存在しないようだ。
初めに攻撃を開始した相手をひたすら攻撃する傾向が強く、稀に背面や側面に向かって攻撃することがある程度。
ダメージの量をたくさん与えると攻撃の矛先(タゲ)が変わるなどもなさそうだ。
それでも分の悪い...苦手な相手と対戦する場合、時間の経過と共に相手を変更したい場合は出てくる。
その時に戦闘に割り込んで相手の矛先を受けて、変更するというのはあっても良いと思う。
負傷したメンバを後ろに下げたい場合も出てくるだろう。
交代を言葉でいちいち説明するよりは、短い言葉で切り替えられた方が良いと思っている。
「前にハットバット2、フライトラップ1、後ろにハットバット1だ。2番だ」
「了解」
「了解」
「了解」
俺の説明に一応は形から入って、戦闘を行なってみる。
始まれば、今までの戦闘と大して変わらない。
俺はオーバホエルミングをかけて魔法を連射して、後ろのフライトラップに向かう。
途中1匹のハットバットを切り捨て、2匹を三人の方に流す。
「ヴィルマ、スイッチだ」
後衛のフライトラップを片づけて戻った後、ヴィルマの近くに駆けつけて切り替えを促す。
ヴィルマが対応していたハットバットを俺が割り込んで対応する合図だ。
実際にはデュランダルで斬りつけると終わってしまうので、ヴィルマの前に割り込んでエストックを振り回してハットバットを牽制する。
「スイッチ」は拠点構築の照明のレバーが「スイッチ」で翻訳されたので、概念としては存在するようだ。
切り替えるという言葉とは微妙に違う気もするけど、俺にとって分かり易いので使わせてもらっている。
ヴィルマは残りのハットバットを対応している二人の方に向かった。
矛先はすでに俺に切り替わったので、ヴィルマから俺の方にハットバットが向かってくる。
まあ、デュランダルで一閃して終わりだ。煙になって消えた。
「イレーネ、スイッチ」
えっ、マジ?
イレーネが対応していたハットバットとの間にヴィルマが割り込んで矛先を変えた。
ヴィルマが引き付けて、イレーネがハットバットの後ろに回り込んで、硬直のエストックで滅多刺しにして石化させた。
ヴィルマ、何故そんなに簡単にやってのけるの?
実は捕虜になる前に騎士団か戦士団で何か訓練受けていたとか?いやいや、ないか。
俺の真似をしてみただけ?それにしては絶妙なタイミングで切り替えたよな。
こいつは時々、謎のセンスを発揮するのだよな。実は天然物の天才なのかな。
なんとかと天才は紙一重というやつ?
戦闘が終わった後に、俺以外の三人で何か話をしている。
俺は遊撃でフラフラと行ってしまうので、連携が必要な三人で合図を決めるようだ。
なんとなく疎外感を覚える...まあ、決まったら教えてくれよ。俺にも。
俺だけサインを教えてくれないとか、逆パワハラだからね。ちゃんと教えてよ。
サインを合図に戦闘を始めて、その後はサインを増やしたり、減らしたりと工夫しながら殲滅を重ねていく。
あまり複雑な連携をサインに組み込むのは、やはり難しそうだ。
モンスターの受け渡し、空中を浮遊するモンスターの対応等、分かり易い部分だけがサインに組み込まれていく。
アミルが率先してサインを構築するリーダ役を務めている。
弱気に見えることもあるのだけど、こういう一面が見えてくると司令塔をやってもらおうと思ったのが正解に思えてくる。
魔物部屋を途中で殲滅したが、全滅したパーティは今回はいなかったようだ。
順調に探索が進み、ボス部屋以外のすべてのエリアをクリアに出来た。
ボス部屋の攻略も小荷駄隊外しを行なって対応。
ボスのパットバットは俺が受け持ち、お供に出てきたハットバットは三人に任せた。
基本的な攻略方法は、雑魚戦と変わらずオーバホエルミングをかけてからの魔法連発とデュランダルの連撃でボスを煙に変える。
あとは三人の戦いを見守るだけ。
ボス部屋は広いので空中を浮遊するモンスターは動き回られると少しだけ厄介だ。
だが、こちらを攻撃するにはモンスターも近づいてこなければならないので、そこが狙い目。
アミルがうまく叩き落として、二人が仕留めるパターン。
ヴィルマとイレーネの連携も二人でよく訓練しているせいなのか、息が合ってきている。
ヴィルマとアミルがうまく牽制して隙を作り、イレーネが硬直のエストックを連打して石に変えた。
今日から始めたサインプレーは表面的にはうまくいってるが、モンスター相手ではその本当の効果は分からない。
対人戦で使ってみて、初めてその効果が分かるはずだ。
まだ今日始めたばかりだから、まだまだ工夫を積み上げていく必要がある。
対人戦で試すのは、まだかなり先の話だ。
階層突破したので、そのまま18階層に抜けた。
モンスターカードのドロップはなくザビルの17階層攻略が終わった。
3つの迷宮で17階層を突破したが次の階層に進んでも全く問題なさそうだ。
18階層に抜けたところで午前中の探索は終了とした。
・・・・・・・
昼食を頂いた後、午後からの探索を再開。
クーラタルの18階層の新規モンスターはピッグホッグだ。
既にザビルでも戦っている相手だ。
ピッグホッグ、マーブリーム、ビッチバタフライが多い。
モンスター側の耐性のある魔法がバラバラなので、耐性に影響しない風魔法を主体に使う。
ただ、組み合わせ次第のところもあるので、その辺りは臨機応変に。というか面倒くさい。
食材が多めに確保できる階層で、イレーネの目がいつも以上に鋭い気もする。
足の遅いマーブリームや浮遊してる奴を風魔法で揺らして俺が相手をし、他を3人に任せる。
とはいえ、組み合わせや数によっては適度にバランスを取りながら複数種類の相手をさせて経験を積んでもらう。
サインプレーを入れるようになってから、少しだけだが連携が良くなってきた気がする。
短い言葉で指示を出し、受け取る側も即座に反応するから迷いのない動きに繋がっている。
失敗した時は感想戦のように反省会をして、次の戦いに繋げるようにしてくれている。
急激に実力が上がることはないが、ロスが減ると殲滅効率が上がるので安定性が増していく。
うまくハマると、三人にも笑顔が見られる。横で見ている俺も嬉しくなる。
イレーネは相変わらず、薄っすらとした笑顔だが。
何か女子バレーの中継を見ているようだ。
俺は監督かコーチのポジションだろうか。一人離れた所にいる感じ。
セクハラやパワハラで訴えられないように注意しよう。ポジション的にはありそうな話。
魔物部屋は途中で殲滅したが、全滅したパーティがはいなかったようだ。
ただ、モンスターはそこそこの数が居るんだよなぁ。
地図のおかげなのか?でも地図に記載されていないケースもあるんだよなぁ。よく分からん。
順調に探索を進め、ボス部屋以外のすべてのエリアをクリアに出来た。
ボス部屋の攻略も小荷駄隊外しを行なったいつもの対応。
ボスのピックホッグは俺が受け持ち、お供に出てきたマーブリームは三人に任せた。
オーバホエルミングをかけてからの風魔法連発とデュランダルの連撃でボスを煙に変える。
安定したボス対応だ。
三人の戦いもマーブリームの動きの遅さもあって、問題なく対応している。
途中、アミルが魔法攻撃を受けたので、戦闘終了後に手当を行なったが問題なく終了した。
階層突破したので、そのまま19階層に抜けた。
18階層の魔物も特に問題なく対応出来たのでホッとした。
モンスターカードがドロップしないのもいつも通り。
これで今日の探索は終了だ。
ユキムラ タケダ(鬼人族 ♂ 17才 自由民)
探索者Lv48 英雄Lv48 鬼武者Lv48 遊び人Lv48 剣匠Lv48 魔法使いLv48
装備 デュランダル エストック ダマスカス鋼の剣 ひもろぎのスタッフ
アルフレイル ダマスカス鋼の額金 竜革のグローブ 竜革の靴 身代わりのミサンガ
102万2700ナール
アミル(ドワーフ族 ♀ 16才 奴隷)
探索者Lv35
装備 強権のダマスカス鋼槍 ダマスカス鋼のプレートメイル ダマスカス鋼の額金 硬革のグローブ 硬革の靴 身代わりのミサンガ
ヴィルマ(虎人族 ♀ 17才 奴隷)
獣戦士Lv46
装備 激情のダマスカス鋼剣 竜革のジャケット 硬革の帽子 革のグローブ 竜革の靴 身代わりのミサンガ
イレーネ(豹人族 ♀ 17才 奴隷)
暗殺者Lv40
装備 硬直のエストック 鋼鉄の盾 竜革のジャケット 硬革の帽子 革のグローブ 硬革の靴 身代わりのミサンガ
エネドラ(人間族 女 27才 奴隷)
武器商人Lv29
装備 ダガー 皮のグローブ 皮の靴
チクルス(人間族 女 18才 奴隷)
薬草採取士Lv45
装備 ダガー 皮のグローブ 革の靴
ゲートを開けて、皆で新居の玄関にワープした。
まだ時間はあるので、俺は奴隷商館巡りだ。
ワープが出来て、あまり馴染みのない街...シュポワールあたりにするか。
ドブローよりは近いしな。
原作でも、ほぼ全く語られてなかった気がするが新規開拓だ。
シュポワールの冒険者ギルドにワープで飛んで、ギルドで奴隷商館の場所を尋ねた。
ギルドを出て教えてもらった道順で進む。
シュポワールの街はベイルと比べると若干寂れているというか、こじんまりとした感じだ。
道行く人を索敵と鑑定で確認すると、別に盗賊が闊歩しているといった感じではない。
単に街の発展度合いの問題なのか。
教えてもらった場所に着くと...うん、ボロいな。これ、本当に商館か?
今までの奴隷商館で一二を争うくらいボロい気がする。
せっかく来た以上は訪問しない訳にはいかないか。別に義理はないのだが。
ドアをノックすると老人に近い者が出てきて、店主本人だと言われた。
奴隷商人Lv41。レベルはかなり高い。扱ってる奴隷の質が良いかは別だろうが。
「対人戦闘の経験がある護衛向きの奴隷と家事が出来る奴隷を探している。
一人で二役をこなす者でも、別々の奴隷でも構わない。
種族は問わない。性別は女性が好ましいが、男性でも検討の対象としても良い」
「左様ですか」
老人は俺を値踏みするような視線で、ゆっくりと頷いた。
「当店には今、護衛向きの女性は居りません。
三人ほど対人戦闘の経験のある男性の奴隷ならいます。
家事奴隷向きであれば三人ほど女性の候補がいます」
護衛も家事奴隷も三人ずつ?
売りたい本命が居て、そのプロモーションのために松竹梅と並べているのではないだろうか。
まあ、見てから判断するしかないのだが。
レドリック(人間族 男 25才 奴隷)
戦士Lv15
デイル(虎人族 ♂ 23才 奴隷)
剣士Lv12
グレッグ(狼人族 ♂ 26才 奴隷)
探索者Lv20
スペックだけで見るとなかなか。実物を見ると...これはないなという印象。
こいつら、歌舞伎町のホストとヤクザの手下二人に見えるのだけど。
レドリック...名前だけなら、俺よりも主人公っぽい。
そして、金髪の爽やかなイケメン。女性向けラノベに出てきそうな雰囲気。
今まで奴隷商館で真剣に男性奴隷を見てこなかったけど、こんな奴がいるの?..という感じ。
残りの二人の獣人族は、
「今から敵対する組の親分の命(たま)取ってきます」
って言いそうな雰囲気。いかつ過ぎる。
この三人がエネドラやチクルスの護衛をしている姿が俺には思い浮かばない。
エネドラがレドリックを連れてると、ホストに入れ上げた仕事の出来るOLと感じてしまう。
俺の目が曇っているのだろうか?
訊いてもいないのに、値段を店主が言ってきた。
順番に、10万、20万、20万らしい。
何故、ホストの奴は値段が安い?やっぱり地雷か。
何かレドリックが発言しようとしたら、店主が遮って面談は終了となった。
まあ、こいつらを採用する可能性は低いから別に良いのだけど。
次は女性候補の三人。
リリ(人間族 女 18才 奴隷)
薬草採取士Lv9
ピジェ(ドワーフ族 ♀ 20才 奴隷)
探索者Lv11
ポーラ(人間族 女 24才 奴隷)
僧侶Lv11
迷宮探索をメインでさせる訳ではないと見れば、どのジョブでもそれなりに使い道はあるか。
薬草採取士はチクルスのサブに。
探索者から鍛冶師にして、アミルのサブにすることも可能か。
僧侶は回復役が家に居れば、俺達が迷宮に出ている場合にも何かと便利なことがあるかも。
あとは、家事や料理で何か秀でている者がいれば採用する...という流れか。
全員、処女ではないらしい。別にそういうことを俺は求めていないので何の問題もない。
いやいや、焦って決める必要はないな。とはいえ、一人ずつ面談はすべきだろう。
店主は中座してくれて、一人ずつ順番に面談することになった。
リリ...声が聞こえない。こちらの質問に対する回答が全く聞こえない。不採用。
ピジェ...声はよく聞こえる。そして、デカい声でガサツな言葉。
お前、本当に女性か?鍛冶バカの工房店主を思い出したぞ。不採用
ポーラ...「私のお腹には赤ちゃんがいます」 ちょっと待てい!
「貴方と私の赤ちゃんです。認知してください」とは言われなかったからセーフ?
何なのだ、この商館は。
ポーラの話によると隣国の戦士団に属していて、こちらの帝国との小競り合いの際に付き合っていた男とともに捕虜となり、奴隷に落とされてここに来た。
奴隷になってから妊娠していたことが発覚したらしい。
ちなみに付き合っていた男というのは戦士でここで奴隷になっているとのこと。
ポーラの方はその男とセットで店主に売ってほしいと希望している。
もう何か話が読めてきたぞ。その男とやらも。
男の方は戦士団のリーダをやっていたくらいだから、面倒見も良くて頼りになるとポーラがアピールしている。
だが、ひいき目を差し引いて考える必要があるよな。
妊娠しているということは、一定期間は戦力外になるのだから、2人セットで契約しても最初の1年で見れば実質は一人か。
考えようによっては、あのホスト野郎がうちの女性陣に手を出すことはない?
いや、待機ジョブに人族の種族固有ジョブを持っている疑惑もあるか。
だけど対人戦闘が出来る戦士Lv15は、こちらの要望と合っている気もする。
剣の腕も見なければならないが、護衛と考えれば合格ラインに達している可能性も?
予期せぬ妊娠(?)とか脇が甘い気がするな。予期してなかったのかは分からないが。
捕虜になると最後に子孫を残そうとする動物の本能が働いたのだろうか?知らんけど。
人間族に対する偏見が過ぎるか。
あとは妊娠して3か月ぐらいとか言ってるけど、根拠もよく分からないんだよなぁ。
正確なことが俺に分かる訳もないのだが。
ポーラには検討はしてみるが、あまり期待しないでくれとだけ伝えた。
その後、店主を呼んだら、やはり頼みもしないのに二人セットで15万ナールと言われた。
と言うか、残りの四人を売る気が無かっただろう?女性二人については値段を言いもしない。
松・竹・梅というよりは、梅・梅・非常に酸っぱい梅だった。
レドリックはともかく、ポーラは真摯な口調でアピールしてきた。
後がないからだとも言えるが。
ポーラの妊娠が発覚して、奴隷としての売買が難航していたところに今回の話があって、藁にも縋る感じだ。
ちょっとエネドラとチクルスを採用した時のことを思い出してしまった。
冷静に考えてみると、これって真面目に採用/不採用を考えることなのだろうか?
家に帰って頭を冷やそう。
店主には家族と相談してから判断するので、採用する場合には再度来訪するが、来なかったら不採用だったと考えてほしいと伝えて立ち去った。
適当な木陰から、自宅の玄関にワープした。
エネドラ達に声をかけて二階に上がった。
何か時間を無駄に費やしてしまった気もする。
せっかくだし、ネタ話としてエネドラ達に披露するか。
階下に降りて、俺が席に着くと夕食が始まった。
食事をとりながら、雑談に話を咲かせる。
迷宮の話は適当に端折って、俺は奴隷商館での面談の話を面白おかしく伝えた。
エネドラの顔にも笑顔が見られた。
良かった、昨日の不安はある程度解消されたのだろうか。
エネドラの今後の話はこちらからは確認せず、自分から話をしてくれるのを待ってみよう。
あとは今日は不調に終わったが、まだ行ったことの奴隷商館のある街を引き続き巡回だ。
食事を終えて、感謝の言葉を伝えて俺は風呂場へ直行。
風呂のリラックスタイムを終えて、女性陣へバトンタッチ。
今日はあまり大した進展がなかったが、会議メモを作成しながらハーブティーを頂く。
やがて皆が会議のために二階の談話室に集まってきた。
明日は迷宮組はベイルの迷宮18階層とザビルの迷宮18階層の攻略。
空いた時間で、俺は今日と同様に奴隷商館巡り。
アミルからはダマスカス鋼の装備品を作成中と報告がなされた。
まずは素材数が少なくて済む腕・頭・脚の防具を集中的に行うようだ。
ダマスカス鋼の装備品の作成は長期間に渡るだろうか。
それ以上の素材は持ち合わせていないからなぁ。隻眼の取得もまだだし。
またドブローのダマスカス鋼の工房に顔を出してみるか。
さすがに、空きスロットの数が多い装備品が出てくるほど作ってはいないだろう。
また、何かおもしろい話が聞けるかもしれない。
チクルスも昨日同様、強壮丸の作成を実施中とのこと。
エネドラも石鹸作りを模索中で、大きな進展はないとのこと。
「旦那様、そろそろ私の方も商人ギルドの方に顔を出してみたいと考えます」
「それは、この前の迷いは消えたと理解して良いのだろうか?」
一応、確認せざるを得ないので、念押しだ。
「はい。問題ありません。
護衛メンバも雇っていただけるようなので、折を見て訪れたいと思います」
「ああ。うん? 護衛メンバ?」
ちょっと、よく分からない話になっている?
「はい。今日、シュポワールの商館で奴隷メンバを選んできたと理解しております」
「えっ?そんな話をしたっけ?」
俺の説明が悪かったのだろうか。
「はい。何でも子供が生まれそうな若い夫婦を雇うことに決めたとお話がありましたよね?」
いやいや。そんな説明はしていないだろう?
「お母さま、私は赤ちゃん用にたくさん肌着や服を用意します」
「チクルス、それは良い考えですね。私もいろいろ選んでみたいと思います」
ちょっと待て。もはや雇うのは決定で、その先の話になってないか?
エネドラって、ひょっとして赤ちゃん大好き?
じゃあ、俺がその役目を...いやいや、俺は赤ちゃんプレイは守備範囲外だ。
「えーと、二人が我が家に来ることは決定事項?」
「はい。旦那様、それが何か?」
俺に選択権はないらしい。
何か、原作で狼人娘の迷宮の上階層突撃を止められない主人公のようになってしまった。
イレーネもヴィルマもコクコクと頷いているが、お前らは既に懐柔されているな?
アミルだけが苦笑いをしている。
ポーラの出産に不安があるが、レドリックが護衛をこなせるなら我が家にとってはプラスか?
趣味的なところでエネドラもリラックスできるかもしれないし...本当にそうだろうか?
二人は死後解放ではなく、エネドラへの死後相続にしておけば我が家の秘密事項も守られるだろうか?
その辺りもエネドラに一任してしまうか。
何かとても流されているような気がしてならないのだが。
ただ、それに抗える気もしないのがなんとも。
「では、明日は午後一でシュポワールの商館に行って、契約を済ませてくる。
受け入れるのは明後日で良いだろうか?家具の搬入などもあるので」
「はい。後の事はお任せください。旦那様」
何だろう。エネドラが元気になったのだから、これでヨシということにするか。
「では、これで会議は終了にする。明日もよろしくな」
皆におやすみの挨拶をして、各自、自室に戻っていく。
明日の予定
(午前)
・俺 :ベイルの迷宮(18階層)
・アミル :ベイルの迷宮(18階層)、(朝:装備品作成)
・ヴィルマ:ベイルの迷宮(18階層)
・イレーネ:ベイルの迷宮(18階層)
・エネドラ :朝食、昼食の準備、洗濯、石鹸試作
・チクルス:朝食、昼食の準備、洗濯、生薬生成
(午後)
・俺 :シュポワールの奴隷商館訪問、ザビルの迷宮(18階層)
・アミル :訓練 or 装備品作成、ザビルの迷宮(18階層)
・ヴィルマ:訓練、ザビルの迷宮(18階層)
・イレーネ:訓練、ザビルの迷宮(18階層)、(ブラヒム語勉強)
・エネドラ :夕食・朝食の準備、(掃除)、石鹸試作、買物(家具等)
・チクルス:夕食・朝食の準備、(掃除)、生薬生成、買物(家具等)
※夜は定例会議
自室にベッドに転がって、今日の出来事を振り返る。
結局、エネドラの勢いに負けてレドリックとポーラの二人を身請けすることになった。
ポーラの出産はチクルスが薬師ギルドの伝手を使って何か考えてみるようだ。
この世界には、医師のような者は存在しない。
僧侶や巫女のような治療職がいて、生薬があるせいで医療が発達してこなかったのだろうか。
産婆は存在するようで、薬師ギルドのパイプで紹介してもらえるとチクルスが言っていた。
まさか、この異世界に来て身近で出産のイベントを迎えるとは思わなかった。
俺の方でも助力は惜しまないが、具体的なプランは浮かんでこない。
しばらくは女性陣に任せるしかないか。
ノックの音が聞こえ、ドアを開けるとチクルスがいた。
異世界の年齢で言えば、この娘は俺よりも一歳年上なのだよな。
二人でこうしていると、むしろ年下にしか感じないのだが。
異世界転移する前の年齢で言えば、半分以下...犯罪だ。
まあ人間族相手に倫理観もへったくれもないか。やはり偏見が過ぎるか?