異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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042.初めては塩苦い

 昨日は刺客のジョブを取り損ねたので、今日も3迷宮の低階層を巡って追試を続行中。

 ベイルの5、6、7、8、9階層とザビルの7、8、9階層の魔物部屋を殲滅したが刺客のジョブは取得出来ず。

 昨日よりは階層が上がり、モンスターのレベルが上がったおかげでオーバーキルはかなり減ったが、石化させたモンスターの数を重ねても肝心のジョブが取得できない。

 

 ひらすらドロップ品を拾い、モンスターカードもドロップすることなく午前中が終了した。

 単純作業は苦ではないのだが、求める成果が出ないことはなかなかに苦行だ。

 午後も同じことを繰り返すと思うと厳しいな。

 午後一は、奴隷商館巡りでもして気分転換しよう。

 

・・・・・・・

 

 昼食を取った後、アイエナ、サボージャとまだ行ったことのない街の奴隷商館を巡った。

 アイエナはパッとしなかったが、サボージャで少し気になる奴隷を発見。

 

レイモンド(人間族 男 19才 奴隷)

探索者Lv9

 

 探索者のレベルは別に高くもないが、戦士団に所属していたことがあったそうだ。

 仲間内のパーティで迷宮探索をしたり、商会の護衛任務をしていたようだが、運悪く盗賊集団の襲撃を受けて護衛任務は失敗。

 商会と結んでいた契約の違約金が払えずに奴隷に落ちてしまったらしい。

 見た目は少し真面目で大人しそうなイケメン・・・・・・ではなく、弟ポジション(?)的な若者。

 金髪で中肉中背。レドリックのような見るからに前衛職という風貌ではない。

 レドリックの少し年の離れた弟みたいなイメージ。甘やかされた末っ子っぽい感じか?

 

 模擬戦を軽くさせてもらった感じでは、可もなく不可もなく。

 レドリックほどの技量は感じないし、ヴィルマやイレーネのようなセンスもないが普通はそんなものだろう。

 対人戦の経験が全くない訳でもない・・・・・・というレベル。

 話をした限りでは性格も特に問題もなさそうだ。

 元のパーティではまとめ役というか苦労をしょい込むタイプだったようだ。

 甘やかされた末っ子っぽい感じとか思って、悪かったよ。

 

「我が家に来たら商人をやっている者の護衛や

 腕が鈍らない程度に定期的に迷宮に入ってもらおうかと思っている」

「今までも迷宮に入っていましたし、商会の護衛で野営もしていました。

 自分達の力を大幅に上回る盗賊の襲撃でもなければこなせると思います」

 奴隷落ちしたのは運が悪かったのかな。運も実力のうちという話もあるけど。

 

「ジョブは探索者ではなく他のジョブに就いてもらうことも可能だが、

 そういった希望はあるだろうか?」

「特別剣を上手く使える訳でもなく、探索者が自分の性格に合っているような気もしますので、

 このまま探索者として成長したいと思っています」

 うん、ん?前向きなのか、保守的なのか?

 我が家に来てからでも別のジョブに変更しても良いけどね。

 

「雇われるにあたって、何か希望や心配事などはあるだろうか?」

「心配事ですか・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 ・・・・・・この間は何?

 

「実は同じ奴隷商館に居る者のことなのですが・・・・・・」

「ん?」

 まさか、レドリックと同じパターン?人族はこれだから、もう。

 

「同じ奴隷商館の人族の女との間に赤ちゃんがいるって話ではないよな?」

「と、とんでもない。彼女とはまだ手を繋いだのも最近なのに・・・・・・」

 顔を赤くしながら、モゴモゴ言っているが何かムカついてきたぞ。

 

「要は・・・・・・その気になる女と一緒に雇ってもらいたいということか?

 その女の気持ちは確かめたのか?」

「彼女のことは全て理解しているつもりなので大丈夫です!」

 ・・・・・・奴隷落ちしたのは女と乳繰り合ってる隙を盗賊に突かれたのが原因じゃないだろうな?

 手をつないだのが最近と言ってたから、それは無いか。心の底からどうでも良いけど。

 

 「全て」という言葉を簡単に使う奴はイマイチ信用出来ないのだよなぁ。

 女で身を滅ぼすタイプの男ではないだろうか?

 

 いったん面談は終了して、店主に値段を確認。

 レイモンドの値段は15万ナール。格安でもなく、割高でもないか。

 

 店主に依頼して、レイモンドが指定してきた女剣士との面談を依頼した。

 

 

モニカ(人間族 女 20才 奴隷)

剣士Lv7

 

 レイモンドと同じパーティを組んでいたらしい。年上か。

 見ての通りの前衛職。前衛らしく性格は少し勝気だが脳筋っぽくはない。

 レイモンドよりやや背が高く見えるのは背筋がちゃんと伸びているからか。

 赤毛っぽいショートヘアに人を真っすぐに見据えた視線で、大人びている感じだ。

 

「レイモンドが君と一緒に奴隷として雇ってほしいと言ってきたのだが、

 君はレイモンドのことをどう思っているのだ?」

 途端、モニカの顔が真っ赤になった。もう何だか、本当にどうでもよくなってきたぞ。

 全然、大人びてなかったわ。

 

「レイモンドのことは弟のように思っていて・・・・・・」

 最後の方がゴニョゴニョ言ってて、よく聞こえない。似た者同士か?

 弟相手に顔を真っ赤にしていたら、元の世界でもちょっとヤバい姉ポジなのですけど。

 

 こいつら同じパーティにして護衛やら迷宮探索させたらダメじゃないだろうか?

 何がダメかって、他のパーティの士気がダダ下がりになったりしないか。

 

 モニカとも模擬戦を軽くさせてもらったが、レイモンドより剣はかなり上手い。

 剣士で食っていこうというぐらいだから当然か。

 レドリック程の技術も経験も無さそうだし、ヴィルマやイレーネ程の手練れという感じではないが、剣の基本はしっかり出来ている。

 俺のパーティに入れてパワーレベリングすれば、かなりマシになるだろうな。

 

「君だけ我が家に来てもらうことは出来るだろうか?」

「えっ?ちょっとそれは困るというか・・・・・・」

 ああ、もう面倒だな。

 レドリックとエネドラ達に明日、ここに来てもらって決めてもらうか。

 

 モニカに礼を言って、面談は終了して店主に値段を確認。

 モニカの値段は18万ナール。

 レイモンドよりは少しお高めだが妥当な値段という気もする。

 

 自宅に戻って、エネドラ達と相談しよう。

 

・・・・・・・

 

「おくるみの色は何色にしましょうか?」

 チクルス君・・・・・・君は何を言っているのかな?

 

 さすがに人間族の弟ポジでも、手を握っただけで相手を妊娠させる特殊スキルは持っていないと思うのだが・・・・・・

 

「旦那様、今後もメンバが増えることを前提に

 ベッド等の家具は4、5セット用意しておいた方が良いかもしれません」

「えっ?」

 何か前にも見た光景が展開されている気がする。

 

 確かに俺は彼女達に相談したのだから、回答する権利は君達にあるのだけど決断早くない?

 まだ君達は会ってもいないよね?

 俺の決断力がないのだろうか?

 見ずに決めてしまうのが、この世界のスタンダード?

 

 Web版原作の原作者の感想返信に『奴隷の購入はコンバイン感覚』という言葉があったけど、見ずにコンバインを購入する感覚?

 カタログぐらいは見ようよ・・・・・・と思うのは俺が元の世界に毒されているからなのか。

 

「えーと、家具の選定とか部屋割りや掃除は任せても良い?」

「お任せください」

 何故か、ポーラも一緒に力こぶのポーズをしている。派閥の形成が進んでいるようだ。

 

「これから俺が奴隷商館に行って金を払ってくるから身請けは明日の午後でも良いかな?」

「はい。問題ありません」

 もう、こうなれば早い方が良いや。

 あいつらが直ぐに売れるとも思えないけど、万が一があるからな。

 

「明日、午後一で俺とエネドラでサボージャの奴隷商館に行って

 死後相続の契約をしてもらって、そのまま身請けしてこよう」

「はい。それでよろしいかと、旦那様」

 こうなると後方支援メンバの方ももう少し増やさないとな。

 バランスが悪くなってきた気がする。

 

 俺はこの後、直ぐにサボージャの奴隷商館に行くことにした。

 

 エネドラはヴィルマとイレーネを掃除部隊に任命。

 エネドラはレドリックを連れて、家具屋に直行。

 チクルスとポーラは食事の準備を。

 急な計画変更なのにエネドラの統率の下、次々と仕事が割り振られていく。

 

・・・・・・・

 

 サボージャの奴隷商館に行き、店主と商談。

 気持ち一人1万5000ナールずつ値切らせてもらった。それくらいはしないとな。

 明日、二人の死後相続の手続きをすることにして総額30万1000ナール。

 それに3割引が効いて21万700ナールに。元の値段から10万ナール以上下げさせた。

 

 いつも通り食事を豪華にしてもらうことにして21万800ナール。

 別に支払う銅貨はないのだけど、この二人だけ何もしないのは可哀そうに思っただけだ。

 

 会うのは面倒なので、契約したことを二人に伝えてもらうことを頼み、そのまま退散した。

 

・・・・・・・

 

 自宅に戻ると、アミルが待ち受けていた。

 

「ご主人様にスキル融合の武器について相談があります。

 ヴィルマさんとご主人様の武器に融合するスキルについてなのですが・・・・・・」

「ああ、構わない。今日の午前中は何をしていたのだ?」

 

 午前中は三人分のダマスカス鋼の額金にひたすら四属性のモンスターカードをスキル融合。

 午後は時間間隔を空けながら身代わりのミサンガを大量生産しようとしていたようだ。

 

「じゃあ、迷宮の低階層に行ってモンスターを狩りながら話をするのでも良いか?」

「えっ、あっ、はい」

 アミルと二人で迷宮デートだ。

 

 二人でベイルの3階層に行くことに。

 グリーンキャタピラーは俺が仕留め、コボルトやニードルウッドはアミルが受け持つ。

 アミルは身代わりのミサンガを作りながら、デュランダルでMP回復を図るという流れ。

 

 デートの雰囲気ではないが、モノづくりの話なのでアミルとの会話ははずむ。

 

 ヴィルマの戦闘スタイルと最近の傾向から、以下のどちらかにしたら良いのではないかと話がまとまっていく。

 

パターン1

①攻撃力2倍(サイクロプス+コボルト)

②HP吸収(つぼ式食虫植物+コボルト)

③MP吸収(はさみ式食虫植物+コボルト)

④クリティカル二倍(鯉+コボルト)

 

パターン2

①攻撃力2倍(サイクロプス+コボルト)

②HP吸収(つぼ式食虫植物+コボルト)

③MP吸収(はさみ式食虫植物+コボルト)

④麻痺(灌木+コボルト)

 

 パターン1はダメージ重視、パターン2は麻痺を発生させてアクティブスキルに繋げるものだ。

 パターン1はアミルやイレーネの支援でタイミングを見計らってからのスキル利用。

 パターン2はヴィルマ単独でもスキル発動が起こりやすい。

 

「ヴィルマはまだ百獣王になってから、ほとんど戦っていないから

 百獣王になってからの戦いも実際にアミルが見て、

 ヴィルマ本人の意見を確認してから決めても良いのではないか?」

「そうですね。確かに焦って決めても良くないですね」

 まだ、必要なカードも全然集まってないからね。

 

 その後も俺の武器についての話をしながら、アミルは身代わりのミサンガ8個を作り終えた。

 

「ご主人様のスキル融合は、ご主人様の攻撃スタイルが多彩なので決めるのが難しいですね」

「そうかもしれないな」

 確かに俺はオールラウンダーの位置づけだから、俺の考えに追随するだけでも大変だよな。

 

「もう少し考えてみます」

「そうだな。どっちにしても今の手持ちのカードでは全然足りないからな」

 一度の検討で全てを決める必要はないから、じっくりと考えよう。

 

 

「ご主人様は、この後は魔物部屋を回るのですか?」

「そうだな。まだ刺客のジョブが取得出来てないからな。

 低階層だどオーバーキルもあって、なかなか数がこなせなかったし」

 今は階層も少し上げたので、マシになったけどね。

 

「いっそのこと、10階層の後半の魔物部屋にした方が効率的なのですかね?」

「そっか・・・・・・」

 まあ、オーバーキルの心配はなくなるから、状態異常発生の回数は増えるかな。

 

「じゃあアミルの助言通り、少し階層を上げて挑戦してみようかな」

「私も付いていって良いですか?」

 えっ、魔物部屋に一緒に入りたいということ?それはちょっと・・・・・・

 

「もちろん、魔物部屋の外でご主人様を待っています」

「そ、そうだよな」

 さすがにヴィルマもイレーネも居ない状態で、アミルと二人で魔物部屋デートはないよな。

 

「もう少し、ご主人様とお話がしていたいので・・・・・・」

 くっ、こんな言葉をどこで覚えてくるのだろうか・・・・・・チクルスの黒い影を感じるが言われた俺はマンザラでもなかったりする。

 

「じゃあ、移動しようか」

 

・・・・・・・

 

 ベイルの16階層にアミルと移動した。

 

 中間部屋から索敵スキルで確認すると、魔物部屋にはかなりの数のモンスターがいる。

 普通に40匹以上いるな。

 そして、俺が使わない魔物部屋の入口の近くには6人パーティらしき集団がいる。

 5匹のモンスターと戦闘中だ。

 

 別に待つ必要もないのだが、アミルと少し雑談を楽しむ。

 新しく迎え入れるレイモンドとモニカの話だ。

 

「何か男女の組・・・・・・というかカップルが増えたよな」

「そうですね。護衛って、そういうものなのでしょうか?」

 そういうものって、どういうもの?俺もよく分からないけど。

 

 言葉に窮したので索敵で確認すると、6人パーティの戦闘は終わったようだ。

 ドロップ品でも拾っているのかね。

 

 よく考えると、ちょっと前に高い階層での魔物部屋は安全を考えて、魔法中心で殲滅しようって決めたばかりじゃなかったか?

 また気が緩んで安全を疎かにしようとしているかも。ジョブ取得のためとはいえ慢心か。

 

 少し、落ち着いて考えよう。

 索敵で再び、魔物部屋の中を確認した。モンスターはウジャウジャいるな。危ないか。

 さっきのパーティはまだ魔物部屋の入口の近くにいる。

 

 あれっ、6人のうち3人が魔物部屋に突入していった。

 手練れなのかな?残りの3人は外で留守番・・・・・・ってことはないか。魔物部屋だし。

 

 残りの3人はワチャワチャ動いてる。

 別に何してるのかは分からないけど、チョロチョロとグレーの点が動いているので。

 

「あの、ご主人様・・・・・・」

 

(!)

 

 あ、ヤバい。魔物部屋のグレーの点が1つ消えた。

 ああ、もう面倒だな。

 モンスターがいないグレーの2つの点から離れた所から入ってサクッと助けるか。

 

「アミル、ちょっと移動するぞ」

「えっ、はい。魔物部屋に行くのですね」

 そうだけど、そうじゃない。

 

 俺は魔物部屋の入口そばの死角の壁にワープゲートを開いて、アミルと二人で移動した。

 ゲートを出て、入口そばの3人に向かった。

 

「おい、何しているんだ?」

 

 俺を見るなり、一人の男が背を向けて走り出した。何が起きてるの?

 残りの二人に俺が視線を向けると、焦ったように魔物部屋に突入していった。

 

 頭防具で分かりにくかったけど、一人はどこかで見た記憶が・・・・・・

 

「アミル、ここで待っていてくれ。俺は魔物部屋に入って殲滅してくる」

「はっ、はい。分かりました」

 索敵でこの辺りにはモンスターが居ないのは確認済だ。

 

 ワープゲートを開いて、入口から遠い壁にゲートの出口を開いた。

 

(オーバードライブ、ブリーズストーム、ブリーズストーム・・・・・・)

 

 魔法を2連発してから、背を向けているモンスターにデュランダルでひたすら切りかかる。

 

 索敵で確認する限りは先に突入した2つのグレーの点はまだ存在している。

 存在してはいるが、モンスターに取り囲まれている状態だ。

 後から突入したグレーの2つの点も同様に取り囲まれている。

 

 オーバードライブが切れたところで、再びブリーズストームを2発かます。

 包囲されている初めに突入した二人の所まであと少しだ。

 俺は焦りを覚えながら、デュランダルでひたすら切り刻む。

 

 ようやく二人の姿が見えてきた。

 一人がもう一人をかばって俺に背中を向けている状態だ。

 だが、まだグレーの点は消えていないので命に別状はないようだ。

 

「爺ぃ、爺ぃ、しっかりしろ・・・・・・」

 女性っぽい声が聞こえたが、俺はそのまま僧侶の魔法で二人に治療をかける。

 後から突入した二人のグレーの点も消えてはいない。

 モンスターは残っているが、2匹程度なので後は二人でなんとかなるだろう。

 

「おい、大丈夫か?この辺りのモンスターはあらかた倒したぞ」

 意識のある方の女性らしき探索者に声をかけた。

 

 女性が驚いたように振り返ると・・・・・・あれっ・・・・・・この泣いてる女、ゴッゼル士爵?

 

「爺ぃが毒を受けて、意識がない・・・・・・」

 士爵は取り乱して泣きながら俺に訴えかけてくる。

 色はグレーのままで死んではいない。死んではいないのだが・・・・・・はあぁ・・・・・・

 

「どけっ」

 俺は士爵を倒れている男から引き剥がすと、覚悟を決めて口に毒消し丸を含んだ。

 

 そのまま倒れている男の口に口移しで毒消し丸を流し込んだ。俺の舌を使って。

 

(グゲゲッ・・・・・・この男の口、砂に塩を振ったような味がするぞ・・・・・・気持ち悪い)

 

 かつてない不快感と戦いながら、毒消し丸を飲ませて、追加で僧侶の手当を無詠唱で数回唱えておいた。

 これで、命を失うことはないだろう。

 

 俺は入口の後から突入した二人の所に向かった。モンスターは既に残っていない。

 向かったのだが・・・・・・グレーの点は1つしかなかった。一人は死んだということだ。

 

「おい、大丈夫か?」

 俺は残った一人に話しかけた。

 

「俺は生き残ったが相棒は死んだ。グラスビーの毒にやられたんだ」

 話をしている男に目を向けると・・・・・・男はいつも俺に話しかけてくれていた門番の男だった。

 門番の男は助かったが、彼の相棒は死んだのか。

 

 俺の手際が悪かったからか・・・・・・

 だが、状況が見えない中、あれ以上のやり方があったのかどうか。

 迷宮で起きることは自己責任だ。

 自分のメンタルを保つためにも自分にそう言い聞かせた。

 

 生き残った門番の男は相棒の男の左腕を切り離しているところだった。

 インテリジェンスカードだけでも持ち帰るのか。

 

 俺はアミルを入口から呼び寄せて、安全になった魔物部屋に招き入れた。

 

「終わったのですね」

「ああ・・・・・・終わったのだが、二人亡くなったようだ」

 

 俺が突入する前にグレーの点が1つ消えて、俺の知り合いの門番の相棒が死んだのだから2名の命がこの魔物部屋で消えたことになる。

 

「一人、通路を駆けていった奴がいたが、応援を呼びにいったのか?」

「いや、魔物部屋に入るのに怖気づいて逃げちまった」

 まあ、それも仕方ないことなのか。

 騎士団員だとそれは許されないのだろうが、それも含めて自己責任だ。

 

 逃げた一人が、この階層で生きて帰れるのかは知らんが。

 この門番の男は戦士だ。

 ゴッゼル士爵と倒れている爺さんは騎士だ。

 この後、三人はどうやって迷宮から帰還するのだろうか?

 

「なんで、魔物部屋にバラバラで突入する羽目になったのだ?」

「駆け出しの野郎が、壁に背を預けた時に転びそうになって士爵様の腕を掴んだんだ。

 そのまま二人とも引きずり込まれて、爺さんはそれを追って入っていった。

 その後、三人に何が起きたかは俺には分からない。

 分かってることは、駆け出しの奴が死んだってことくらいだ」

 そうか、不慣れな者が引き起こした事故だったってことか?

 

 爺さんは手練れっぽい感じだが、転倒して入った二人を助けようとして踏ん張り切れずにグラスビーの毒を受けたのか。

 

 俺とアミル、門番の男で騎士二人の所に歩いていく。

 

 爺さんは意識を取り戻したようだ。

 おかげで俺は口の中の砂と塩の混じった味がぶり返してきた。

 

 お、俺のファーストキス・・・・・・じゃない初めての口移しが、こんな爺さんとだなんて。

 

 原作主人公とはヒドイ格差だ。

 

 やり直し・・・・・・は無理でも、口直しを断固要求したい。

 

 俺の視線に、ゴッゼル士爵の涙に濡れた顔が目に映った。

 あの怜悧な美貌の塩対応の女騎士様が俺を見上げている表情はグッとくるものがある。

 

 だが、俺は普段からアミル砲の高角攻撃で鍛えられているから耐性があるのだ。

 アミルの方に視線を向けると、アミルが心配そうな顔で俺を見上げている。

 

 そうそう、これだよ。やっぱり俺のオアシスは。

 

 二人のどちらかに口直しを・・・・・・いや、ダメだ。

 それだと爺さんとの間接キスをさせてしまうことになる。

 うちのアミルにそんなことはさせられない。

 

 士爵も無理だろうな。

 今迫ったら彼女の加速のブーツでナニを踏み抜かれてしまうかもしれない。

 

 仕方ないので、皆に背を向けてコッソリとリュックに入ったペットボトルの水で口を漱いだ。

 不快感は多少収まったが、後味の悪さは消えなかった。チクショウ。

 

 ずっとこのままでいる訳にもいかないな。

 

「この後はどうするんだ?逃げちまったメンバを探すのか?」

「俺の死んだ相棒は探索者だったので、パーティが組めていない。

 逃げた奴を探すのは不可能だ」

 そうか、よほど運が良くない限りは逃げた奴は助からないかもな。

 魔物部屋に入るのと逃げるのと、どちらが生き残る確率が高かったのだろうな?

 

「その娘は探索者なのか?もし可能なら俺達をパーティに入れてほしい」

 むっ、どう答えたものか。

 

 このまま、三人で頑張って迷宮から戻ってくれ・・・・・・は流石にないか。

 助けた命をまた危険に晒すことになるしな。

 仕方ないな。

 

「俺が冒険者だから、俺のパーティに入ってくれ」

「はぁ?お前は戦士だったのではないのか?」

 まあ、インテリジェンスカードを見せたからな。

 

「戦士だったのは一時的な措置だ。

 本当は冒険者だったのだが、( しがらみ)があって戦士になっていただけだ」

「そうだったのか。パーティに入れてもらえるのなら助かる」

 本当は百鬼夜行なのだが、それは言えない。

 どうせ、この後は冒険者を名乗ってペルマスクやらいろいろな所に行くし、冒険者ギルドにも顔を出しているのだから、もう冒険者で通そう。

 

 ヴィルマとイレーネをパーティから外した。

 

「装備品やドロップアイテムはどうする?」

「アイテムはそっちでもらってくれ。

 死んだ者の装備品は悪いがアイテムボックスに入れさせてもらえないだろうか?」

 別に構わないか。アミルは既にドロップアイテムを一か所に集めてくれていた。

 

 

「お前が決めてしまって良かったのか?」

「士爵様はショックから立ち直れていない。俺が決めても問題なかろう」

 意外に決断力があるのだな。チャラチャラした男だと思っていたのだが。

 

 ドロップアイテムと亡くなった者の装備品をアイテムボックスに回収した。

 モンスターカードもなく、刺客のジョブも取れていなかった。

 デュランダルでひたすら切り刻んだのだから、状態異常にはしてなかったしな。

 

 二人の騎士に近づく・・・・・・前に、索敵で確認すると衝撃の事実が!

 爺さん、青色になっているのだが・・・・・・士爵も門番の男もグレーなのに。

 

 命を助けたから、恩に感じているだけだよね?

 塩対応の女騎士様と仲良くなるのは吝かではないが、塩爺はノーサンキューだ。

 

 三人をパーティに入れて、魔物部屋を出て、なんとかベイルの迷宮の出口にたどり着いた。

 

 そこから、騎士団の詰所まで5人で歩いて向かう。

 騎士団の三人の会話は非常に少ない。

 特にゴッゼル士爵は表情も暗く、覇気がない。

 塩爺は無表情だ。それはそれで怖いぞ。明るく俺に話しかけれられても怖いが。

 というか、俺にもう関わらないでいてくれても結構だ。

 

 騎士団の詰所で亡くなった者の装備品を出して門番の男に渡した。

 騎士二人は早々に引っ込んでしまった。この後の報告とかイロイロあるのだろう。

 

「今日は、本当に助かった。俺達三人の命があるのもお前のおかげだ」

「たまたまだ。

 今度、俺達が迷宮で危機に陥ってたら、余裕がある時は助けてくれ。それで十分だ」

 次からは懸賞金の受取がやりにくくなった気がする。

 

「いろいろと大変だと思うが、まあ程々に頑張れよ」

「ああ、じゃあな。また」

 また・・・・・・があるのだろうか。

 

 俺はアミルと二人で自宅に戻った。

 何か食って早く口直しがしたい。もう別にコボルトソルトでも良いくらいだ。




お読みいただき、ありがとうございました。

ちょっとふざけた描写もありましたが、一応、戦乱に向けたフラグ設定の話だったりします。
変なフラグではないですよ。

なお、タイトルの読み仮名は『塩苦い(しおにがい)』です。
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