申し訳ないですが、今日は閑話だけの投稿となります。
イレーネ視点のお話です。
別の村の猟の縄張りに越境して、捕まる頃あたりから始まります。
(はあぁ、はあぁ・・・・・・)
糞っ、息が上がってきた。
これは逃げ切れないかも。
後ろから正確に追ってきやがる。
恐らく、同族の獣人の狼野郎だ。
奴らは鼻が利くからな。
川にぶつかったところで川下に向かって浅い水辺を走るしかない。
少しでも匂いを辿られないようにしないと。
靴が濡れて走るのが遅くなるが捕まるよりはマシだ。
浅瀬に入れたので、とにかく走る。
水を吸った靴が足を重くするが構ってられない。
あいつらの猟の縄張りに入って獲物を狩っていたからな。
もし人族に捕まってしまったらヒドイ目に遭わされる。
捕まるなら、せめて同族にしとけって里の婆様がそう言っていた。
同族なら群れの中に入れさえすれば、初めの扱いは底辺からだけど人族ほどヒドイ扱いはされないはずだと。
後ろを振り向いたが追手の姿は見えない。
撒けたか?いや、油断は禁物だ。
あいつらは逃げ切れただろうか。
こいつらの目を欺くために、わざわざ一人だけ別方向に走ったのだから。
ドジを踏まないで里に戻れていると良いが。
いつも余分に肉をもらえる分だけは、ちゃんと働かないとな。
何とか追手を振り切って里に戻らなければ。
進む先に人影が見えた。
チッ、先回りされたか。
ここいらは奴らの縄張りだから、待ち伏せもお手の物か。
右手側からも別の奴が現れた。
完全に囲まれてるのか。これはダメか。
左手側の方の奴に向かって、ゆっくりと歩く。
徐々に姿が見えてきたが、やっぱり狼野郎だ。
しかも雰囲気からして、こっちより格上だ。
逃げ切るのは難しそうだ。
「逃げたって無駄だ。こっちは10人以上で追ってるからな」
余裕の表情で、こちらを値踏みするように薄ら笑いを浮かべてやがる。
笑いながらも全く油断をしていない。隙が全く見えない。
抵抗しても勝ち目はないな。
諦めて右手に持っていたシミターを届かない所に放り捨てた。
こんな所で殺されてもつまらない。
人族じゃないだけマシかもしれない。
「そうそう。逃げようたって無駄だからな」
ニヤニヤしながら近づいてくる。
両手を挙げて武器を持たない無抵抗の姿を見せた。
正面から狼野郎、右前からも別の一人が近づいてきた。
多分、後ろからもう一人やってくる。
水面をたたくような音が後ろから聞こえてきた。
きっと離れた所にも何人か隠れてるいるのだろう。
10人はハッタリかもしれないが3人ってことはないだろう。
「手間をかけさせやがって」
正面の狼野郎は憎々し気な顔でこちらを見据えてくる。
かなりの距離まで近づいてきて、右手の剣をこちらに突きつけてきた。
でも殺気は感じない。殺されることは無さそうだ。
「あんたは強そうな奴だな。どうだい、あんたの子をいっぱい産んでやってもいいんだよ」
里の婆様に教わった捕まった時に同族に言う言葉を口にしてみた。
里では捕まった時にどうしたら良いとか、婆様が常に煩く言っていた。
生き延びなければならないので大切なことだと言っていたのを思い出す。
その言葉通りのことを自分がする羽目になるとは思わなかった。
「そいつは、楽しい話だな」
狼野郎がさらに近づいてきた。
狼野郎の左手を掴んで右の胸を揉ませる。
「どうだい。あたしをあんたの女に・・・・・・」
後ろから近づいてきた奴に急に尻を撫でられた。
「抜け駆けはよくないな」
後ろの奴が尻を撫でまわしてくる。
右側からも一人やってきた。こいつも狼野郎だ。
こっちに手を伸ばそうとしたところで、正面の奴がぶん殴った。
「止めろ。こいつは奴隷にして売っ払うから、これ以上はダメだ」
チッ、揉まれ損かよ。
(直後に後頭部に衝撃を受けて、昏倒させられた)
・・・・・・
この奴隷商館に来てから10日以上経った。
今は店の当主から説教されている。
長々と文句を言われて邪魔くさい。
「あまり反抗的な態度が目立つと日々の食事を減らしますよ」
「はい」
とりあえず目立って逆らわなければ良いのだろう。
食事を減らされるのは困る。
粗末だが1日の中で唯一の楽しみなのだから。
「これから、あなたの主人となるかもしれない方とお話しするのですから
訊かれたことには素直に答えるように」
「はい」
早く終わんないかな。面倒臭い。
・・・・・・
(主人公との最初の面談のシーンです)
目の前に体が大きくて、顔の浅黒い人族の男がいる。
ゆったりと喋っているが隙が全然なさそうだ。
ひょっとしたら強い奴なのかもしれない。
「いくつか質問があるので、教えてほしい」
「俺の戦闘奴隷になる気はあるか?俺は迷宮探索をしているのでメンバを探している」
「腹いっぱい肉を食わせてくれて、戦わせてくれるなら構わない」
ブラヒム語で話しかけてくるので分かりにくい。
でも答える内容は今までと同じでよいはずだ。
「迷宮に潜っていたことはあるか?あるなら、何階層くらいで戦っていたのか?」
「出稼ぎで迷宮の探索者について回ったことがある。13階層までは戦ったことがある」
里に居るだけじゃ、食い物が足りなかったから迷宮に行って時々稼いでいた。
街の食い物の方が美味かったのだけは覚えている。
「元居た村に帰りたいか?」
「貧しい村なので、帰っても食い扶持がない。帰ってこられても邪魔になるだけさ」
このバカは何を言ってるんだ。
捕まって奴隷にされたのだから帰れる訳がないだろう。
それに帰ってもねぐらは他の奴がもう使ってるはずだ。
「戦う時の得物は何だ?何のジョブをやりたいとか希望はあるか?」
「片手剣が得意だけど、剣が振り回せるなら何でも良いよ」
森で動き回る時は小さな剣の方が使い易い。剣さえあれば何とかなる。
他のジョブをやりたいってどういう意味だ。別にどうでも良いけど。
「分かった。店主と相談して、明日には決める。もし来ることになったら、よろしく頼む」
「はいよ」
人族の所には行きたくない。
行くなら同族の方が良いんだよ。
・・・・・・
(ヴィルマと共に身請けされ、クーラタルの自宅でエネドラ達と対面してからの話です)
「・・・・・・という訳で、夜に旦那様の寝所に行ってもらいます。
行く順番は私が指示しますので従うように」
目の前のエネドラという女が、この家を仕切っているようだ。
早口でよく分からなかったが、この家の当主は人族と魔物のハーフだってことらしい。
腕が4本あるとか言っていた。
理由は分からないが普通じゃない。
迷宮の蜘蛛やアリの魔物は足がたくさんあるから、そういうことなのだろうか。
それにしても、この家では女が男の所に夜這いに行くらしい。
里では男の方が夜這いに来ると婆様が言ってたから逆みたいだ。
魔物野郎の所に夜這いに行くのは憂鬱だが、こいつに逆らうと肉を減らされてしまう。
大人しく従うのが良いのだろう。
さっきから横にいる虎女は、このエネドラって女に逆らっている。
喧しくて邪魔くさい。
だいたい喧しい奴はバカな奴が多い。
黙って言われた通りにしておけば良いのに。
森の獣でも賢い奴は大人しく隠れている。
喧しい奴から狩られていくからな。
婆様からは、とにかく捕まったら大人しく従っておけ、誰が一番偉そうなのかを見極めろと言われた。
初めのうちは大人しくしていて、ゆっくりと序列を上げていけば良いのだと。
「旦那様は、あなた方が自分で決めた呼び名で呼ぶことを好まれます。
あなた方自身が旦那様の呼び名を決めて呼びなさい」
「呼び名、自由?」
虎女が思っていた疑問と同じことを口にした。
呼び名を決めさせるってどういうことだ。
「ええ、自由です。ただし、旦那様の名前を呼び捨てにしてはダメですからね」
みんなと同じで何が悪いのかよく分からないが勝手に呼べば良いらしい。
と言われても、ブラヒム語の呼び名なんてほとんど知らない。
里にいた時と同じでよいか。
新しく里長になった奴は家のデカさが自慢だったので「御館様」と呼べと言っていた。
しかも、「御館様」だけブラヒム語だ。訳の分からん奴だった。
別にそいつは親が死んだ時にデカい家をもらっただけなのに、妙に偉そうな奴だった。
この家もデカいから、きっと家のデカさに拘りがあるのだろう。
呼び名は「御館様」で良いか。
ブラヒム語だし丁度良いや。
・・・・・・
(主人公に初めて夜伽に行く時の話)
エネドラに言われたので、今日は魔物野郎の寝床に行かなければならない。
憂鬱だが、強い奴には逆らえない。
ここではエネドラも魔物野郎も序列が上だ。今はとても敵わない。
特にエネドラの奴は底冷えのするような冷たい目で時々こちらを見ている。
戦う力はほとんど感じないが、里の婆様よりも鋭い眼光でこちらを見透かしている気がする。
しばらくは大人しく従っていた方が良いだろう。
ああ、面倒くさい。早く序列をあげて好きにやりたい。
ただ、魔物野郎の強さは本物だ。
迷宮でも一人で先に突撃していく。
偉い奴はそんなことをしない。
手下に戦わせて、自分は見てるだけなのが普通だ。変な奴だ。
物凄い速さでいなくなったと思ったら、モンスターを全て倒してあっという間に戻ってくる。
こんな奴、出稼ぎの迷宮でも見かけなかった。
とんでもない強さだ。しかも、多分全力を出していない。
四本ある腕の全てを使っていないようだし。
戻ってくると三人で戦ってるところを見てやがる。
直ぐに倒さずに手心を加えているようだ。ムカつく。
だけど、ハッキリ言って実力差があり過ぎて全く敵わないと思う。
虎女とチビッ娘と三人がかりで襲い掛かっても敵わない気がする。
常に先の方を警戒していて、モンスターから奇襲を受けることもない。
油断しない奴ってのは恐ろしい奴ってことだ。
虎女は、すっかり魔物野郎の手下になってしまった。
魔物野郎にべたべたしていて序列が上の者に腹を見せる獣のようだ。
変な奴同士、気が合うのかもしれない。
だけど剣の腕は確かだし、回避も上手い。
今戦えば互角くらいかもしれない。
いずれ蹴落とさなければならない奴だ。
だけど頭は悪そうだから、そのうちなんとかなるだろう。
チビッ娘の方は大したことはなさそうだ。
こいつは腕力はあるが鈍臭いし、戦いの経験は少なさそうだ。
戦えば簡単に勝てそうな気がする。
序列で言えば一番下だ。
常に周りの者の機嫌を窺っているようだ。
序列の一番下の者にはよくいる奴だ。
だけど、魔物野郎の一番のお気に入りのようでもある。
虎女よりも、このチビッ娘と話す時の方が魔物野郎は機嫌が良さそうだ。
エネドラの手下のチクルスとかいう奴は別の意味で要注意だ。
常にどこかに潜んで、こちらを観察している。
森でも隠れてこちらを窺ってる奴は注意が必要だ。
戦う力は無くても、群れではかなり重要な役回りだ。
エネドラの娘だと言っていたが、どうもそんな気がしない。
おかしなことをしてるのが見つかると、エネドラに告げ口されるかもしれない。
油断しない方が良いだろう。
ああぁ。これから夜這いに行かなければいけないのか。
そもそも男への夜這いのやり方なんて知らない。
婆様からもそんなの教えてもらわなかった。
里では男の方が女の寝床に夜這いに行く。
男が来たら、女はじっと我慢して終わるのを待てば良いと婆様は言っていた。
直ぐに終わるので、終わったら男は自分の寝床にとっとと戻っていくらしい。
それをただ我慢してひたすら待てば良いのだと。
とにかく魔物野郎の寝床に行かなければ。
魔物野郎の部屋のドアを叩くと、見下ろすように男が出てきた。
目がギラついてるようで、ちょっと怖い。
目を合わせないようにして、魔物野郎の寝床に向かう。
寝床に体を預けて天井を見上げた。
あとはジッと我慢していれば良いはずだ。
他にやり方も知らないし、今は婆様の言う通りにするしかない。
ジッとしていたら、魔物野郎が近づいてきて不意に両足首を掴んだ。
何をされるのか分からないが我慢していたら、俯せにひっくり返させられた。
その後は肩を揉んだり、腰を揉んだりと体をベタベタとさわってきた。
これが魔物野郎の夜這いなのだろうか。
別に痛くはなくて、少し気持ち良いくらいだ。
四本の腕で背中のあばら骨と腰の間の部分をさすったり、伸ばしたりしてくる。
妙な気分だが、意外に気持ち良い。
時々、痛みを感じるが、その後にゆっくりと揉んでくれて痛みはすぐに消えた。
森の獣の群れでもボスが時々、序列が下の者の毛づくろいをしてやるのを見かける。
これもそうしたことなのだろうか。
こいつは、序列の下の者を優しく扱う良いボスなのかもしれない。
こんなのが夜這いだったら、毎晩やってきても良いくらいだ。
「体が硬い」とか「もっと野菜を食え」とかブツブツ言っている。
しゃべりながら、体を揉むのが魔物野郎の夜這いなのだろうか。
野菜よりも肉の方が美味いのだから、肉をたくさん食べるのは当たり前だろう。
このバカは何を言ってるのだろうか。
だけど、この体中を揉んでくれるのは気持ち良いから黙っておこう。
気持ちよくなって、ウトウトしかけていたら不意にズボンを脱がされた。
上着も脱がされて、寝床の上のほうにずり上げられた。
魔物野郎の目がギラついている。
残念。夜這いの本番はこれからだったようだ。
あとはジッと我慢しているだけだ。
目をつぶって耐えよう。婆様の顔が浮かんできた。
・・・・・・
薄暗い中で、魔物野郎の寝息が聞こえる。
婆様から聞いていていた夜這いの話と全然違った。
我慢していればすぐ終わると言われていたのに、魔物野郎の夜這いはそうではなかった。
何度も気絶させられ、起きるたびに激しく責め立てられた。
長くて、しつこくって、ネチッこかった。
四本の腕を使っていろいろと訳の分からないことをしてくる。
抵抗しようとしても、腕力と四本の腕で組み伏せられて何もできなかった。
小さく叫び声をあげようとしても口を塞がれ、抵抗の意思はなくなってしまった。
昼間の戦闘では腕は二本くらいしか使ってないクセに。
たくさんある腕は昼間の戦いの方で使えっての。
お読みいただき、ありがとうございました。
ずっと書こうと思っていたのですが時間がなかなか取れず、今回ようやく投稿出来ました。
イレーネの出身地である里は未開の地という訳ではないのですが、近くの領主の手が回らない地域という設定で、彼らは税を納めていません。
国や領主からも保護されていないので、里の周辺の森などである意味勝手に狩猟などをしているのですが、法的に保護されている村などの猟区で猟(密漁?)しても盗賊落ちはしないことにしました。
保護されている村同士などで猟区を越境して獲物を捕ったら盗賊落ちですが、そうではないという設定です。
1章13話では、「禁猟を犯したので、犯罪奴隷に落とされ...」と記載していますが、これは猟区(縄張り)を越境された村から見た視点で、イレーネのいた里側からすれば相手の縄張りに入ったからちょっと悪いことした(でも捕まれば奴隷)くらいの感覚です。
本話にあたった狼人族の村の者に捕まれば、犯罪奴隷扱いにされてしまうので、大した違いはないのか。
アミルのように覚悟があまり出来ていないうちに奴隷になった者と違い、捕まれば奴隷確定と思って普段から捕まることを予想しながら里で生きてきた者達の振る舞いを書いてみたかった感じです。
獣人系の人の方が性にアッサリしているというのは私の偏見です。
エステルの帝国解放会入会時のイニシエーション話でも原作小説続巻で出してほしいです。
原作の続巻が待ち遠しい。