異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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051.タケダ家 vs 士爵家

 朝起きる前にエネドラの朝駆けに遭遇。

 早朝よりも全然早い時間の今、正座の状態でエネドラに説教をされている。

 

「旦那様、加減するように昨日お伝えしましたよね?

 この状況はどういうことでしょうか?」

「返す言葉もない・・・・・・」

 本当に返す言葉がない状況。

 

 チクルスを昇天させた後、そのまま二人でマットの上で寝てしまった。

 乱れに乱れたチクルスはスイミングキャップを飛ばしてしまい、髪の毛がドロドロの状況。

 正座の出来ないチクルスは虚ろな目で裸のまま体育座りをしている。

 俺はマットの上で正座して怒られているが、肌はオイル塗れの状況。

 床の上で正座するのは痛いし、オイル塗れの状態で歩き回れないからマットから出られない。

 

 スイミングキャップを被って正座で怒られているので、水泳のインストラクターに指導されている錯覚に陥りそうだ。

 

 

 加減か・・・・・・いや、俺自身は限界まで楽しんでいないのだから加減したと言えるのでは?

 

「旦那様、私の言葉を聞いていらっしゃいますか?」

「聞いてる、聞いてるってば」

 今、エネドラの言葉を吟味しているところだったのだよ。

 

「これからベイルに行って、士爵様とお会いするのですよね?

 早く、お風呂に入ってらっしゃいませ」

「わ、分かった」

 丁度良いから、このままエスケープさせて頂こう。

 

 マットの近くの壁にワープゲートを開いて、風呂場につなげた。

 昨日の朝も似たようなことをやっていた気がするな。

 体育座りのチクルスを抱え上げて、風呂場に移動した。

 

 イロイロと使用してヌルヌルになったマットもゲートから引っ張って、風呂場に移動させた。

 あのまま置きっぱなしには出来ないので、軽くでもオイルを落としておかないと。

 

 チクルスと俺は無言で、髪や体のオイルを石鹸とお湯で洗い落とす。

 俺の方はスイミングキャップのおかげで、髪の毛はそれほど酷い状況ではない。

 チクルスの髪の毛はオイル塗れになっているので、洗い落とすのが大変そうだ。

 

「ユキムラ様、私の悪戯が酷すぎたから怒ってあんな事をしました?」

「えっ、うーん。別にそれほど凄く怒ってはいないつもりだけど」

 この質問はどういう意味だろう?

 

「凄く怒ってないのに、あそこまでの事をするのですか?」

「えーと、悪戯されたら、その何倍もの悪戯で返す感じ?」

 俺は素直にマットプレイに至った経緯を説明する。

 

「プッ、ククク・・・・・・そんな事を考えて、あそこまでの準備をしたのですか?」

「お前だって、アミルの下着をあそこまで可愛く一生懸命に縫っていたのだろう?

 それと同じじゃないか」

 チクルスの顔はもう虚ろな感じではなく、生気が戻ってきたか。

 

 お湯で温まって上気しているだけかもしれないが。

 

「はあ・・・・・・じゃあ、これからもイロイロすると思いますけど、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ、イロイロと仕返しするかもしれないけど覚悟しろよ」

 二人でまた笑い合いながら、もう一度石鹸で体の汚れを落とす。

 

 そもそも汚れというかオイルなので、なんか艶々している感じだ。

 

 マットの方の滑ったオイルもいったん全て洗い流した。

 この流したオイルとお湯は下水道に入って、キラキラと流れていくのだろうか。

 誰かが見たら、何事かと思ったりはしないか?

 

 概ねオイルが取れたマットをアイテムボックスに収納した。

 こういう時は装備品は便利だよな。もう少し乾かしていたいが時間も場所もない。

 

 それにしてもエネドラにマットを見られてしまったから、今後はこのマットの使い処はどうしたものか?

 この家でヤルと、どうしても風呂場とか使って洗浄しないといけないから使い勝手が悪くなる。

 アイテムボックスに仕舞えるのは便利だが、ドロドロの状態で仕舞っても次に使う時に困るし。

 ボーナス装備じゃないから、取り出した時に綺麗になっている訳でもない。

 

 いっそのこと、ベイルの旧宅の風呂場をマットプレイ専用室にするか?

 ああぁ、そもそも旧宅の拠点は規模値が低いから給湯設備が使えないか。ダメじゃん。

 

 それに夜中にクーラタルの家から行方を眩ましたら、パーティ効果で筒抜けなんだよな。

 なんか、パーティ効果って浮気性の彼氏を追跡するスマホのGPS機能のような?

 『●●市のラブホ街にいる!』みたいな位置特定までは出来ないから違うか。

 

 何も悪いことはしていないのに、何故こんなに罪悪感を覚えるのか謎だ。

 

「あの・・・・・・ユキムラ様、そろそろお風呂から上がらないと、お母さまの機嫌が・・・・・・」

「そ、そうだな。この後、ベイルに行かなければならないし、もう上がるか。

 えーと、ここからチクルスの部屋にゲートを繋げようか?」

 なんだか、ワープの使い方がいせはれの世界観と違うような。

 でも、便利だから使ってしまうのだけど。

 

 ワープゲートをチクルスの部屋に繋げて、チクルスは自室に戻っていった。

 

 俺も自分の部屋にゲートを繋げて戻ることにした。

 

 戻った先にはエネドラが仁王立ちで待ち受けていた。

 いや、実際に仁王立ちしていた訳ではないのだが、気迫にあてられた感じだ。

 

 部屋の床に飛び散っていたオイルはエネドラが清掃してくれたようだ。

 誠に申し訳ありませんでした。

 

「ただいま、戻りました」

「オイルは落ちたようですね」

 はい。ちゃんと落としてきました。

 

「士爵様とお会いする日くらいは、もう少し自重して頂いて・・・・・・」

 

 俺はエネドラの口を塞いて、舌で蹂躙する。

 

「まだオイルの匂いがします・・・・・・」

「そうか。まあ、模擬戦で汗を流しているうちに消えるだろう」

 適当なことを言って誤魔化すことにした。

 

「今度、エネドラも試してみる?

 チクルスも気絶するくらい気持ち良かったみたいだから・・・・・・」

「知りません!」

 ああ、これは絶対試してみよう。今、心に決めたぞ。

 

 

「そろそろ、ベイルに行く準備をするよ。皆も起き始めたみたいだし」

「そうですね。くれぐれも気を緩めないようにお願いします。

 相手は貴族様なのですから」

 確かにそうだ。

 

 落ち目とはいえ士爵家だし、塩爺は青いけど必ずしも好意的ではなさそうだからな。

 油断するつもりはない。昨晩のアレは模擬戦の前にリラックスするためのものだ。

 

 

 エネドラは退出して、俺は本格的な準備に入る。

 

 作戦当日のジョブ構成を意識してジョブセットとボーナスポイントの設定を行う。

 

 インテリジェンスカードのチェックを受けても良いように、1stジョブは冒険者。

 百鬼夜行、英雄、勇者は外せない。

 魔法は使えないから、魔法使い系のジョブと遊び人は外そう。

 硬直のエストックを使うことを想定して、刺客と博徒もセット。

 あとは万が一の回復のため、神官をセット。

 ジョブ構成はこんなところか。

 

 ボーナスポイントは俺の経験値系は外して、獲得経験値十倍をセット。

 対人戦闘での経験値はほとんど入らないって話だった気がするが気休めだ。

 セブンスジョブで、武器はフラガラッハではなくデュランダルでMP回復を図ろう。

 スキルでもMPは消費するのだから回復できた方が良いだろう。

 今日の模擬戦で使うのは木刀だけど、ジョブとボーナスポイント編成は同じにしておきたい。

 

 索敵と異世界言語は必要だから・・・・・・残りは敏捷上昇に振ってしまうか。

 

ユキムラ タケダ(鬼人族 ♂ 17才 自由民)

冒険者Lv41 百鬼夜行Lv52 英雄Lv52 勇者Lv51 刺客Lv52 博徒Lv50 神官Lv50

装備 デュランダル 硬直のエストック 激情のダマスカス鋼剣 アルフレイル

    ダマスカス鋼の額金 ダマスカス鋼のガントレット 竜革の靴 身代わりのミサンガ

 

 

ボーナスポイント(238(初期値198+40(Lv上昇分))

・キャラクタ再設定(1)

・武器6(デュランダル)(63)

・防具5(アルフレイル)(31)(防御力2倍、魔法ダメージ削減、状態異常無効、レベル補正無視)

・鑑定(1)

・パーティジョブ設定(3)

・パーティ項目解除(1)

・異世界言語(10)

・索敵(5)

・拠点構築(5)

・獲得経験値十倍(31)

・敏捷上昇(19)

・セブンスジョブ(63)

・詠唱省略(3)

・パーティライゼイション(1)

・ワープ(1)

余剰ポイント(0)

 

 

 防具はいつも通りだし、これで準備完了か。

 普段、我が家の訓練で使っている木刀等はアミルに持っていってもらうか。

 

 一階に降りて玄関に向かうと、既に全員集合していた。

 

「アミル、普段訓練で使っている装備品は・・・・・・」

「エネドラさんに言われて、既にアイテムボックスに全て収納してあります」

 全てはエネドラの掌の上か。助かっているから文句も言えない。

 

「では、行くか」

「いってらっしゃいませ」

 エネドラ達に見送られて、ベイルの自宅の玄関にワープした。

 

 玄関から出て騎士団の詰所に向かう。

 

 門をくぐると既にドーガの奴が待ち受けていた。

 これは門番としての通常任務なのだろうか。

 

「おっ、来た来た。そこの脇道から練習場に回ってくれ。

 俺は士爵様達を呼んでくるから」

「ああ、分かった」

 指示された道を通り抜けて練習場に向かった。

 

 初めて来たけど結構広いのだな。

 だけど、誰一人居ないのでガランとしている。

 普段誰も使っていない?いや士爵様達だけが使っているのか?

 

 

 ドーガが詰所の建物のドアから出てきた。

 

「暫くしたら二人とも来るので、もう少し待っていてくれ」

「了解」

 

 特に何も言ってないのだが、ヴィルマとイレーネはウォーミングアップを始めた。

 柔軟をやったりしながら、体を動かしている。俺も少しだけストレッチだ。

 

「普段の訓練って何を使っているのだ?我が家は木製の装備品を使っているのだけど」

「こっちも同じだよ。装備品じゃないと場所を取るしな。

 自分が普段使っている武器と同じ種類の木製武器じゃないとやりにくいってのもある」

 

「今日はどんな感じで模擬戦やるのかな?

 士爵家と我が家で一人ずつ戦う感じか?」

「さあ、どうだろう。爺さんが決めるんじゃないか。

 士爵様は模擬戦には参加しないとは思うけど」

 そりゃそうだよな。

 

 あの爺さんのことだから、『姫様には指一本触れさせん!』とか言って立ちはだかりそうだ。

 

 おっ、来たか。

 

 爺さんを先頭にゴッゼル士爵がやってきた。

 

「ぬっ、防具だけは立派なようだな」

「作戦の際と同じ装備品にしております故」

 防具だけ見ると、我が家に比べると士爵家側はかなり貧相な感じだな。

 

 我が家が立派過ぎるってのもあるのだろうが。

 

「誰からいきます?」

 ドーガが気楽な感じで爺さんに話しかけた。

 

「ワシが全員相手をして見定めてやるわ!」

 やっぱり、そうなるのね。

 

 困ったなぁ。

 ヴィルマは手加減しないから、1ラウンドノックダウンで終了って展開が目に浮かぶ。

 

 爺さんは木製の両手剣を手に練習場の対戦区画の中央に歩を進めた。

「誰でも良いから、かかってこい!」

 

 あっ、ヴィルマが行っちゃった。もういいか。

 

 ヴィルマの方も、木の剣を持って対峙した。

 

 爺さんに向かってヴィルマが距離を詰める。

 ヴィルマが一閃した剣を爺さんが剣で受け止めようとして、大きく弾かれる。

 

「ぬぅ、なかなかの剛剣」

 レベルはまだ低いけど、百獣王だからなぁ。

 爺さん、結構、剣を弾かれていたけど、これはちょっと実力差がありそうだな。

 

「仕えし司 大君に、まつろう・・・・・・」

 おっ、防御のスキルを使うのか。それでどれほど実力差が埋まるものか。

 

 ヴィルマは詠唱を邪魔することなく眺めている。

 アレは自分を不利な状況にして楽しもうとしているな。

 

 爺さんの詠唱が終わると、ヴィルマの苛烈な攻撃が開始された。

 

(ゴッ、ガンッ、ゴウンッ・・・・・・)

 剣を弾きながら、鎧の数か所にヴィルマの剣が大きな音を立ててヒットする。

 

 爺さんは防戦一方で後退していく。

 けど、爺さんはよく耐えているな。

 さすがは騎士Lv32といったところか。こっちは百獣王Lv24だけど。

 

 ひょっとしたら、戦場の経験や対人戦の経験はかなりあるのかも。

 簡単には折れない精神とか我慢強さは戦では必要な要素だ。

 

 だけど、ヴィルマはもう一段ギアを上げたようだ。

 剣の鋭さが増して、腕や足の関節の継ぎ目を狙っている。

 えげつない攻撃だけど効果的だ。

 

 

「ヴィルマ、もう止めろ!終わりだ」

 

 こっちの実力が伝われば良いのであって、相手を打ち負かすことが目的じゃない。

 

 ヴィルマはニコニコ顔で戻ってきた。

 

「あのさ、あの娘ってあんたの家で一番強い奴?」

「ん?我が家で一番強いのは俺のつもりだ。

 ヴィルマは2番目か3番目か・・・・・・うちの2番と3番はちょっと順位付けが難しいんだ」

 一応、率直に答えてみた。

 

「マジか・・・・・・でも、これなら今度の作戦は楽が出来そうだな」

 

「主、アレは硬くて遊ぶには良い感じだな」

「そ、そうか」

 17才の乙女が言う発言としてはどうかと思うが・・・・・・もう、乙女じゃないか。

 

 

「おいっ、ちょっとこれ・・・・・・」

「おっ、助かるわ。さすが商家は訓練でも薬が出せるのか」

 俺はドーガに滋養丸を5錠ほど渡した。ここで爺さんにケガされても困るし。

 

 ドーガは爺さんの所に行って生薬を渡したようだ。

 素直に飲んでくれると良いのだけど。

 

「じゃあ、次は俺が出ようかな。出来れば一番弱い奴にしてくれ」

「そうか・・・・・・」

 誰に出てもらうか。

 

「ご主人様、次は私が相手します」

 レドリックが名乗り出た。

 

 ドーガは戦士Lv17、レドリックは剣士Lv30。

 レベルではレドリックに軍配が上がるけど、レベリング前のレドリックの戦士のレベルは似たようなものだったから結構、良い戦いになるか?

 いや、パーティ効果があるから流石に無理か。

 ドーガ達にはパーティを組むための探索者や冒険者がいないはずだ。

 

 練習場の中央に進んだ二人は、ゆっくりと近づいた。

 レドリックが剣を振るい、ドーガが軽くバックステップで避ける。

 今度は逆にドーガが剣を振り、右に躱してレドリックが避けた。

 まだ、二人とも自分の間合いに入ってないのか、それほど鋭い振りでもない。

 少しずつ近づいたり、遠ざかったりしながらお互いの間合いを確認しているようだ。

 

 爺さんが俺の近くにきて呟いた。

 

「ふんっ、何をちょこまかと動き回っておるか。

 相変わらず、軽い剣だ」

 戦い方なんて、人それぞれだろうに。

 

 おっ、レドリックが攻勢に出たな。

 

 間合いを掴んだのか、レドリックの剣速が上がり始めた。

 ドーガは防戦一方というか回避ばかりしているな。

 それにしても、思っていたよりもドーガは回避が上手いな。

 

 レドリックの剣が1回、2回・・・・・・とドーガの腕装備や胴装備に当たり始めた。

 だけど、これって・・・・・・。

 

 やがて、ドーガは剣を下に降ろして左手を上げた。

 

「参った、参った。降参だ」

 さして残念そうでもなく、ドーガは白旗をあげた。

 

 ドーガはこちらに近づいてきて、そのまま通り過ぎていった。

 

「ちょっくら水を飲んでくる」

 通り過ぎる間際、爺さんが何かドーガに毒づいていたようだが、よく聞こえなかった。

 

 爺さんは、再び練習場の中央に向かった。

 すれ違うように、レドリックが俺の側にやってくる。

 

「レドリック、今のってさぁ・・・・・・」

「はい。相手は本気を出していませんでしたね。

 負けるとは思いませんが、簡単に勝たせてもらえなさそうな奴でした」

 確かに俺にもそう見えた。

 

 相手を負かすことが目的じゃなくて、ドーガもこちらの実力を見るためだけに戦った感じか。

 実は陰の実力者で士爵家の中で一番の剣の使い手だとかあるだろうか。

 流石にそれはないか。

 この前の魔物部屋の件では相棒を失って心底悔しそうに見えたから、とてつもない実力者ということはないだろう。

 

 

 爺さんがいる練習場中央に今度はイレーネが近づいていく。

 こっちはいつもの獲物を狙う目だ。どんな戦いを見せてくれるのか。

 

「仕えし司 大君に、まつろう・・・・・・」

 爺さんが初めから防御のスキルを詠唱を始めた。

 こちらの実力を認めたということだろうか。

 

 イレーネもヴィルマ同様、詠唱が終わるのを待っている。

 こっちも硬いのがお好みか。

 

 詠唱が終わると、イレーネが無造作に距離を詰めていく。

 剣を振るうことなくドンドン歩いていく。

 

 爺さんが剣を振るい、イレーネが避ける。

 イレーネからは剣を振らないな。

 爺さんが数回剣を振るい、イレーネが避けるという繰り返し。

 

 次に爺さんが剣を振るった時、ヴィルマばりのカウンターでイレーネが爺さんの胴装備に一撃を入れた。

 その後も、爺さんが振るった剣に全てカウンターでイレーネが当てるのが続く。

 

「グッ・・・・・・」

 

 今のは厳しいカウンターが入ったな。

 

「イレーネ、もう良い。止めろ!」

 

 イレーネは少し口角を上げながら、引き揚げてきた。

 獲物を弄ぶ猫のような感じだったのだろうか。案外とドSだな。

 

 爺さんはいったん回復のために、下がっていった。

 

「なあ、あれが、お前の家の二番手か三番手って奴か?」

「ああ。そうだな。爺さんとやった二人がそうだ」

 ドーガはヒュ~ッと息を吐きながら笑っていた。

 

「ちなみに、俺とやった男は何番目だ?」

「さあ・・・・・・四番手か五番手かな。一概には言えないが」

 アミルとレドリックは武器が異なるから一概にどちらが強いとか言い難い。

 

 前衛と中衛で役割も違うし、単純比較するものでもないだろう。

 腕力とリーチではアミルだけど、懐に入られたらレドリックが有利かもしれない。

 

「まだ、うちは戦ってない者がいるけど、ドーガ、お前が相手してくれるか?」

「えっ、嫌だよ。俺はもう一回戦ったし」

 爺さんは二回戦っているけど、お前はそれで良いのか?

 

 

「主、暇なら相手してよ!」

「えっ」

 お前なぁ・・・・・・っとイレーネも進み出てきた。はぁ、仕方ないな。

 

 

「とりあえず実力見せるだけなら、俺達同士で戦っても良いだろう?」

「ああ、別に問題ないだろうさ」

 なんか、こいつに乗せられている気がするんだよなぁ。

 

 俺が練習場の中央に進むと、後ろから二人がついて来た。

 今日の俺は実際の作戦での武器を模して、木の片手剣1本と両手剣2本だ。

 

 この二人と模擬戦するのは、いつ以来だ?

 

 剣3本だと苦戦は免れない気もするな。

 

 例によって二人は俺の前後に位置することもないし、必要以上に左右にも散開しない。

 戦いを楽しむ気でいるな。

 

 今回は手数で押せそうにないから、ボーナスポイントの余りに振った速度で勝負してみるか。

 

 まずは、ゆっくりとヴィルマ側のやや右寄りに近づいていく。

 ヴィルマは警戒しているようだが後退はしないで剣を構えたまま。

 

「シュッ」

 一度、左側のイレーネに鋭い剣速で胴薙ぎの一閃を振るった後に、速度を上げてヴィルマに襲い掛かる。

 二本の剣を左右から時間差で繰り出しながら、右下方から斜め上にカチ上げる。

 

 ヴィルマが剣で受けながらバックステップで躱す。

 チッ、仕留めるつもりだったのに。

 

 イレーネが接近して牽制を仕掛けてくるのを、左手で刺突を繰り返して封じる。

 左側は長くは持たなそうだな。早めに決着をつけないと。

 

 更に速度をあげながらヴィルマを追って、二本の剣で変則的な突きを繰り返す。

 うーん、捉えきれないか。

 

 間合いを取り直して、少し下がる。

 下がると同時に二人が間を詰めてきて、俺に連続攻撃を仕掛けてきた。

 イレーネの鋭い突きの連打とヴィルマの横薙ぎ、斜めの斬撃の対応に追われる。

 これは忙しいな。

 

 二人の容赦ない連打を三本の剣を使って何とか凌ぐ。

 とはいえ、これは反転攻勢が難しいな。

 

 二、三本、良い攻撃が入ったところで、俺は手を上げた。

 

「俺の負けだ」

 二人相手でも、そこそこ戦えるのを見せられたからヨシとしよう。

 この二人、前回模擬戦やった時よりも連携の習熟度が明らかに良くなっているな。

 こちらの嫌がりそうなことを上手く二人で突いてくる。

 

「アミルぅ~」

 ヴィルマがアミルに向かって何か叫んでいる。

 アミルが剣を放り投げたのをヴィルマが掴んだ。

 

「はい、主。これでもう一回♪」

 三本じゃなくて四本の剣でもう一回か?はいはい。

 

 結果は俺の勝ち。

 二人に使う剣の本数のバランスを二本・二本から三本・一本に柔軟に切替えながら辛勝した。

 槍を使えばもう少し楽に勝てそうだが、スラム街で剣3本と槍1本は取り回しが難しそうだ。

 

・・・・・・

 

「お主、ワシと勝負だ」

 今のを見てなかったのか、爺さん?

 

 爺さんに楽勝した二人を相手に俺は二対一で勝っているのだけど。

 

 俺と爺さんの間に、スッと槍が差し出されてきた。

 

「ご主人様の替わりに、私がお相手します」

「ぬっ、良かろう」

 アミルの文字通りの横槍で対戦カードが変更となった。

 

・・・・・・

 

(ドオーーーンッ)

 

 爺さんが、アミルの鋭い突きで3メートルほど、ブッ飛ばされた。

 

 残念、爺さん、三戦三敗だな。タケダ家の迷宮組はなかなか手厳しい。

 

 

「なあ、あれってそっちの四番手、五番手あたり?」

「そうだな。戦うのがメインという訳ではないけど、そのぐらいの順位かな」

 アミルの槍の攻撃力が前よりも増した気がするな。

 

 しばらく冒険者だったけど、槍は使い続けていたし、どこかでコソ練でもしてたのかな。

 

 

「あれで戦うのがメインじゃないって、お前の家はとんでもないな」

「そっかなぁ・・・・・・それより、もうこれ以上模擬戦する意味ってあるのかね?」

 ドーガも俺も苦笑いしている。

 

・・・・・・

 

 模擬戦終了・・・・・・とはならずに、何故かヴィルマ、イレーネ、アミルとの三対一の変則マッチをする羽目に。

 まあ、俺が負けたのだけどね。俺も一勝二敗の負け越しか。

 何か、趣旨が違ってきたような。

 

 

「其方達の実力は十分分かった。

 明日の作戦は大いに期待させてもらう。

 この後は作戦会議を行う」

 居たのですね、士爵様。

 

 口を全然差しはさまないから忘れていました。

 

・・・・・・

 

 士爵様の執務室に全員で移動。さすがに八人という大人数だと圧迫感がある。

 

「スラム街の南北から二組に分かれて

 インテリジェンスカードのチェックをしながら盗賊を捕縛する。

 抵抗したら切り捨てるのも止む無しだ。

 当日は、ここに居る者以外に四名の従士が騎士団から派遣されるが、

 その者たちは戦闘には参加せず、捕縛された盗賊の拘束が主たる役目だ。

 一組に二名ずつ配置して捕縛した盗賊を見張ることになる。

 その従士の護衛と捕縛した盗賊への武力による威圧のために、

 ここにいる者から一名ずつは配置したいと思っている」

 

 士爵様の方針に従って、作戦が決まっていく。

 

 ちなみに、捕縛した盗賊を奴隷として売り払った場合の金は騎士団の収入となる。

 ドーガの話では士爵様の手柄になるらしいので、ここは譲ることにした。

 どれほど捕縛できるのかは予想出来ないが。

 

「インテリジェンスカードのチェックが出来るのは士爵様とカミーユ様だけでしょうか?」

「そうだ。なので私とカミーユは別行動となる。それ以外の者の割り振りを決めていきたい。

 其方の家の者に何か割り振りの希望はあるか?」

 まあ、ここに来る前に考えてきた案はある。

 

「タケダ家としては、

 盗賊を武力で鎮圧する部隊として私とこのアミル、ヴィルマとイレーネの二組で

 対応したいと考えます。

 このレドリックは、二名の従士の方の護衛に付かせたいと考えています」

「そうか。では私とカミーユのどちらにそれぞれを付けるかを決めればよいか」

 まあ、どちらでも良いけど、俺とアミルは士爵組の方に入りたいな。

 

「姫、この者とそのドワーフの娘は姫の組に入れるべきです。

 この者のパーティに姫に入って頂ければ安心できます。

 それが最も姫の安全を確保することになりましょう」

「むっ、私の身の安全ではなく作戦が成功する最善の道を考えよ」

 爺さんの提案通りで良いのでは?それが最も作戦の成功確率を上げる気がする。

 

 ヴィルマとイレーネがこの爺さんと上手くやれるかは不安が残るけど。

 

「じゃあ、俺はカミーユ様の組に入りますね」

 そうだな。こいつが入ってもらった方がイロイロと押さえが利きそうだ。

 

「では、我が家のレドリックは士爵様の組に入らせていただきます」

 ドーガの流れに乗らせてもらおう。

 爺さんの要望にも沿う形だし。

 

 その後は集合時間の確認、捕縛した盗賊の移送方法など、細々とした取り決めを確認した。

 

 実際の盗賊摘発時の戦闘については、結局はその場での判断ということか。

 俺は鑑定で即確認出来るけど、見た瞬間斬りかかる訳にはいかないので面倒だな。

 

 

 作戦会議は終わり、俺達五人はドーガに連れられて出口に向かった。

 

「なあ、今更だけど、あの爺さんはなんで士爵様のことを『姫』って呼ぶんだ?

 ぶっちゃけ、もう『姫』って年でもないだろうに」

「ああ、それなぁ。なんか幼いころの呼び名がそのままって感じらしい。

 俺も詳しくは知らないけど」

 昔から側に居て、仕えていたってことなのかね。

 

「この作戦が最後かもしれないから、まあ大目に見てやってよ」

「最後とか言うなよ。まだ次があるかもしれないだろう?」

 ドーガは笑いながらも首を横に振っている。

 

 爺さんはともかく、こいつは何で落ち目の士爵家に仕えているのだろうな。

 まあ、そのうち聞き出そう。何かおもしろそうだから。

 

「じゃあ、明日はよろしくな」

「ああ、お前らの戦う力が頼りだからホント頼むぜ」

 お前もいざって時は戦えよ。今日見た限りでは大丈夫そうだろう。

 

 ドーガと別れて、騎士団の詰所を後にした。

 

 昼飯を食ってから、ターヘラに行っても大丈夫そうだな。

 適当な木陰から五人でワープで自宅に戻った。




お読みいただき、ありがとうございました。

会話の中で、爵位(「士爵」など)に『様』を付けるかどうか、少し迷いました。
西洋では正式にはつけない、ナーロッパなら付けるのはアリ、親しみを込めて呼ぶときには付けるのはアリ等、調べてみるとイロイロと記載がありました。
爵位で呼ぶのではなく、『卿』など特別な呼び方をする・・・・・・などもありましたが、煩雑になると誤記の温床になる予感がしたので、『様』付けにしてしまおうと考えました。
今のところ、誤記指摘で『様』付けを指摘された方はいらっしゃらないようですし、このままいかせてもらおうと考えております。
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