自宅に戻り、エネドラ達に明日の作戦決行が決まったことを伝えた。
「ルーク様から伝言があり、商人ギルドに来てほしいとのことです。
頑強のダマスカス鋼大楯の件で相談があるそうです」
「そうか、ありがとう。
午後からはターヘラに行かなければならないので、明日以降だな。
明日の盗賊討伐作戦の結果次第で、いつ行くか相談させてくれ」
一つずつ片づけていこうか。
昼食までは少し時間があるので、二階に上がって一休み。
昨晩はあまり睡眠時間が取れなかったので、マッタリと休憩。
とは言え、午前中の振り返りは必要だ。
多少想定外があったものの、概ねこちらの計画通りに進んでいると言えるだろう。
武力面では、こちらの手札を見せ過ぎた気もするが、今日見た士爵家の様子ではあまり影響は無さそうに思える。
どちらかと言えば気になるのは、士爵家の実力をどう評価するかという点だ。
その辺りはレドリックの意見を聞いてみるか。
評価の結果次第ではエネドラと検討している内容にも軌道修正が必要かもしれない。
あとは明日の作戦に備えた情報収集か。
エネドラとレドリックには相談する形を取るが、基本的には俺の判断でやらせてもらおう。
あまりに無策で明日を迎えるのはちょっとね。
・・・・・・
昼食時の雑談は午前中の模擬戦の話が中心だ。
ヴィルマの話は相変わらずサッパリ分からない。
俺の異世界言語スキルが上手く働いていないのだろうか?
言葉は通じても話は通じない?ヴィルマが楽しそうだから別に良いか。
モニカとレイモンドもレドリックの話に耳を傾けている。
この二人も貴族との模擬戦に興味があるのだろうか。
アミルの表情は少し暗い気がする。明日の盗賊討伐のことを考えているのだろうか。
作戦が終わった後のフォローが重要な事案だな。
複数の目的を詰め込んだせいで、明日の作戦は考えることが多くなってしまった。
我が家の参加者が怪我人なく作戦を終えることがまず第一に考えることだな。
後は優先順位に従って一つずつクリアしていけば良い。
エネドラとレドリックには話をしておこうか。
盗賊を駆逐するという目的が失敗したところで、我が家の受けるダメージは少ない。
今後に向けた投資がちょっと失敗しただけと割り切れば良いのだから。
・・・・・・
昼食を終えて、エネドラとレドリックと三人で打合せ。
「明日の作戦に向けて目標の共有と二人の意見が欲しいので打合せを設定した。
感想でも疑問でも構わないので遠慮なく言ってほしい」
二人が頷くのを待って、話を進める。
「まず、明日の作戦の目標だ。
我が家の参加者に大怪我を負う者を出さないこと。
これが我が家にとって、成功のための絶対条件だ。死者はもちろん論外だ。
大怪我の者が出てしまったら、後で話をする目標の全てを達成出来たとしても失敗扱いだ」
「ベイルから盗賊を全て駆逐したり、懸賞金をたくさん得ても失敗ってことですね」
レドリックの質問に頷いた。
「もう一つは、我が家が原因で士爵家側に死者が出ても失敗だ。
盗賊と相対するので、無傷とはいかないかもしれないが、
例えばゴッゼル士爵を守り切れずに死なせてしまうのは非常にマズい。
従士の二人はやむを得ないが、士爵の命は守り通さなければならない。
極力怪我もさせたくはないが、
我が家の参加者が大怪我を負うくらいなら士爵に怪我を負ってもらうのは止む無しだ」
「貴族の方よりも我々の身の安全が優先なのですね」
エネドラの確認に頷いた。
「そうだ。
士爵が最悪でも生きてさえいれば、我々側に余程の落ち度がない限りは
あの士爵は俺達の責任を追及しないと俺は読んでいる。
可能な限り、我が家も士爵家側の参加者も守りたいが、
どちらか一方しか選択出来ないのなら、今言った優先順位だ」
「なるほど」
レドリックは理解してくれたようだな。
「カミーユ様側の組は恐らく死者が出るようなことはないだろう。
むしろ捕縛することなく皆殺しにしないか心配なくらいだ。
ドーガにある程度は制御してもらいたいが、大きな期待は出来ないと思っている」
「まとめると、我が家の参加者に大怪我の者を出さないこと。
士爵家側に死者が出ないこと。この二つが成功のための必達目標だ」
「今の話は私だけではなく、他の参加者にも伝えた方が良いのでは?」
「普通ならそうだな。
だが、カミーユ様の方に参加する二人は俺達から制御できないし、
あの二人に難しい要求は出来ないから、ドーガに任せるしかないだろう。
アミルには明日は重たい宿題があるから、この件はレドリックだけに話をしたのだ。
実際にはこの話をしても、レドリックに出来ることはほとんど無いかもしれない。
レドリックは最初はともかく、盗賊を捕縛したら後方で待機するだろうからな」
「アミルさんの重たい宿題というのを教えてもらっても良いですか?」
「アミルは盗賊を殺した経験がない。
明日はそれをやってもらうとアミルには俺が命じている。
今頃はそのことで頭が一杯だろう。
この後の訓練や明日の作戦の時もレドリックはそのことを頭に入れておいてくれ。
アミルが盗賊を殺す時や殺した後に、隙が出来て大怪我しないように注意する必要がある」
「なるほど、人を殺したことがなければ、確かに作戦の優先順位どころではないですね。
ましてや、絶対に殺さなければならないと分かっている以上は」
「そうだ。エネドラには既に伝えてあるが、
我が家に怪我無くアミルが戻ってきたとしても、
その後の行動には注意を払ってくれ。俺も気にかけるようにする」
二人が頷いてくれたので、次の目標の話に移る。
「アミルが盗賊を最低一人以上殺して無事に我が家に帰る。これが次に優先順位が高い目標だ。
レドリックは恐らくその場に居ない可能性が高いから、どの盗賊を目標とするかは俺が決める。
俺はアミルが安全に盗賊を殺せるように最大限の配慮をする。
つまり、これは俺が達成しなければならない目標でもある」
「分かりました。私が居るときには私も支援しますが、よろしくお願いいたします」
レドリックの言葉に大きく頷いた。
「次の目標は、盗賊を最大限、ベイルの街から駆逐することだ。
生死は問わない。
別に懸賞金欲しさに、皆殺しにするつもりもないが、抵抗するなら全て切り伏せるつもりだ。
全員降伏してくるなら、全員捕縛しても良い。恐らくそんな事はないだろうがな」
「そうですね。
作戦の参加者が従士とその護衛が6名、実働部隊が1組3名で計6名ですよね。
実働部隊が少ないので、盗賊は恐らく抵抗してくるでしょうね」
レドリックの言う通りだろう。
「そうだな。
特に士爵組側は実際の戦力は俺とアミル、アミルが使い物にならなくなったら俺一人だ。
最悪は俺一人で盗賊全員を皆殺しにするつもりだ」
「結局、どっちの組も皆殺しにするのかもしれませんね」
レドリックが苦笑いしている。
「最悪の場合は・・・・・・だな。
だが、必達目標とアミルの宿題のためには、そうなっても構わないと思っている」
「正直なところ、この作戦で士爵側の戦力や作戦立案能力、遂行能力を把握したいと
考えていたのだが、今日の模擬戦と作戦の組み分けで、あまり意味をなさなくなったからな」
「まあ、確かにそうですね」
レドリックがまた苦笑いしている。
「これで、目標の優先度の話は終わりだ。
スラム街の盗賊を全て皆殺しにするなり、捕縛するなりしても、
迷宮や他の場所に出張っている場合もあるから、所詮は完全な根絶など無理な話だ。
懸賞金の大小など、大した問題ではないと思っているから気にする必要もない。
必達目標とアミルの宿題を優先させたい。他はおまけだ」
「了解しました」
レドリックだけでなく、エネドラも了承して頷いてくれた。
「あとは、今晩、俺はベイルのスラム街を偵察しようと思っている。
盗賊にどれだけ遭遇出来るかは分からないが、
俺のスキルで可能な限り確認してみようと思っている」
俺の夜目と索敵と鑑定を駆使すれば、それなりに確認出来ると思っている。
建物の外だけでも、索敵でクリアしておくと明日はかなり情報戦で有利になるはずだ。
「一人で行かれるのですか?」
「そうだな。俺一人の方が何かと行動しやすい。
いざとなったら逃げるのだって一人の方が簡単だ」
オーバーホエルミングでダッシュしたら、誰も追いつけないでしょ。
「分かりましたが、危険なことは無しでお願いいたします」
「ああ、分かっているつもりだ」
つもりだけど、実際はどうなるかね。
「じゃあ、次の話を・・・・・・」
「あの素朴な疑問があるのですが、良いでしょうか?」
「なんだ?なんでも良いぞ」
レドリックからの疑問は大歓迎だ。
「アミルさんの宿題ですが、この作戦ではなく別の機会を作っても良いのでは?
必達目標は目標というよりは失敗扱いにしない制約という感じなので、
事実上、アミルさんの宿題達成がこの作戦の目標に感じます。
その割にはこの作戦は大がかり過ぎると思いまして」
おお、鋭い指摘だな。こういう意見が欲しかった。
「その通りだな。
この作戦を計画した時には、実はアミルの宿題は目標に入ってなかった。
後から俺が加えた感じだ。
こういう状況下ならアミルも自然に盗賊を殺せるかと思ってな。
元々の目的は貴族とのコネを作って、貴族からの情報収集をしたかったからだ。
この作戦を士爵家と共同で実施して貴族の歓心を買いたかったというのがあったのだ」
「そうだったのですか」
エネドラとは、そのように計画していたのだよな。
「それで、この前の魔物部屋での救出劇があって、士爵家の窮地の話を聞いて、
手を差し伸べることで、コネを作ろうと考えた訳だ。
だが、今回の作戦を打診したり、
模擬戦を実施していく中で想像以上に士爵家が厳しい状況だというのが分かった。
例えば、今回の作戦で必達目標とアミルの宿題が達成出来て、
かつ、ある程度の盗賊の数が減らせれば、士爵家からのタケダ家への信頼は増すだろう。
だが、肝心の士爵家が没落してしまえば意味がなくなる」
「確かにそうですね。だから、せめてアミルさんの宿題だけでも達成したいと」
まあ、そんなところだな。次の話もあるけど。
「正直に言ってしまうと、今回の作戦から手を引くために模擬戦で手を抜いて、
作成の中断をさせてしまうことも考えたのだが、まだ諦め切れなくてな」
「はは。そんなことを考えていたのですか」
まあ、実際にはヴィルマやイレーネに手抜きなんて高度な腹芸は出来なかっただろうけど。
「そして次の話は、士爵家の実力評価の話だ。
これはさっきのレドリックの疑問に通じる話でもある。
そして、レドリックの意見や感想に期待している」
「私の意見ですか?」
そうそう、午前中の感想を訊きたいのだよ。
「先ほど言ったように、士爵家はかなり厳しい状況だ。
端的に言ってしまうと、
士爵家に支援するだけの価値があるかどうかの評価をしたいということだ」
「私にはそんな大それた評価なんて出来ませんよ」
まあまあ、そう言わずに。
「最終的には俺が決めるから、感想でも良いから教えてくれよ」
「まずは軍事的な面からだな。
今日、三人・・・・・・実際には二人だけだが模擬戦をした結果を見て、
士爵家の軍事力をどう評価する?」
「正直、傾くのもやむを得ないかなと感じました。
私の元居た国でも、あんな感じの貴族は没落していきましたね」
そうそう、率直な感想で良いから。
「そうだな。
先日、魔物部屋の件で三人亡くなったからだろうが、今の状態はかなり厳しいな。
士爵様の妹君がテコ入れで入るかもしれないと聞いたが実力が分からないし、
戦力として見たら貧弱だな。
もっとも、騎士団のもう一つの騎士家の実力も分からないのだが」
「あとは、貴族としての政治力、情報収集能力だが、
あの三人を見た限りでは政治力は皆無な気がする。
情報収集能力は分からないが、あまり期待できないかもしれないな。
その妹君が実は才女で・・・・・・という可能性もなくはないが、
期待し過ぎるのは禁物だろう」
「私には判断がつかないことばかりですが、
あのドーガという男くらいが見どころがあるかもしれませんね。
士爵様は作戦以外のことではほとんど語られませんでしたから評価が難しいですが」
レドリックも爺さんに対しては辛口評価と。俺もだけどね。
「一つだけ評価できる点があるとすると、この前の魔物部屋の事件が起きるまでは、
士爵家は、この街の商人からは一定の評価を得ていたというところだ。
不正を見逃す訳でもなく、盗賊にはそこそこ厳しく臨み、
迷宮にも一定の頻度で入っていたようだからな。
残念ながら、今はその評価も落ちてるのかもしれないが」
「旦那様は作戦が完了したら、士爵家は切り捨てるべきだとお考えでしょうか?」
「それも選択肢の一つだと思っている。
あとは、最低限の支援をして飼い殺しにしながら様子見をするという手もあるかな」
我ながら腹黒いな。
「飼い殺しですか?具体的にはどのようになさるつもりですか?」
「金、装備品、住まいを最低限与えて、その対価を頂くということだ。
対価は、我が家に対しての戦闘訓練実施、
迷宮で得た素材を我が家に納めること、
貴族として得た情報の一部を我々に流すことの3つかな。
他に二人から対価として考えられることがあれば教えてほしい」
結構、考えたけど、他に何かあるのだろうか?
「その3つで支援の対価になるでしょうか?
ゴッゼル士爵様を旦那様が娶るというのは?」
「そ、それは考えていない!」
恐ろしいことを言うな、エネドラ。
そんなことをしたら、塩爺と決闘騒動になりそうだ。
「例えば一年契約で支援して、今後も使い道があると思えば支援を継続したり、
強化したりすることを考える。価値がないと思えば契約を継続しないという感じだ」
「なるほど。では、掛けたコストに見合う対価がどの程度得られるかが重要ですね」
その通りだ。それを考えなければならない。その前の交渉も必要だろうな。
「装備品は我が家の余り物を流用するし、
士爵家が意外に使えるようならスキル融合武器を渡しても良いかもしれない。
金はどの程度必要か分からないが、
騎士団の棒給以外でどの程度必要なのかは確認して調整が必要だろうな。
金の替わりに食料を現物支給という手もある。
住まいはベイルで所有している拠点を使う手もあるし、
別に安い家を借りて、用意しても良いかもしれない。
そんなところかな」
「なるほど、私の方でも考えてみます。
この件はレドリックには、これ以上は無理でしょうから、私と旦那様で検討しましょう」
確かにその通りかな。レドリックからは士爵家の評価が聞けたから解放するか。
「そうだな。レドリックはもう良いぞ。
三人の訓練に参加してみてくれ。
アミルの宿題の件で、あいつの振る舞いに注意してくれ。
訓練で怪我などはしないと思うが、怪我したらポーラに治療させるようにしてくれ」
「分かりました」
「じゃあ、この件はあまり時間がないが、今後も俺達で考えていこうか」
「はい、旦那様。それと今晩の偵察の件は十分お気を付けください」
エネドラの言葉に頷いた。
通常なら貴族の飼い殺しなんて無理な話だろうが、ゴッゼル士爵の所は、ここまで傾いても他から手が差し伸べられていないようだから、我が家がちょっかいをかけても横槍も入ってこないだろう。
ゴッゼル士爵の貴族としての矜持への拘りや領民を思う気持ちは利用できる。
塩爺も士爵家の没落は望んでいないだろうから、やりようがある気がする。
唯一読めないのはドーガくらいか。あいつはどういう理由で仕えているのか。
まあ、それでも没落路線には反対だと思うから賛同は得られるかもしれない。
「まあ、無理はしないよ」
「旦那様、くれぐれも自重をお願いいたします」
うっ、最近よく聞くセリフだ。
分かっていますとも。多分。
お読みいただき、ありがとうございました。
ちょっと次の話とのキリが悪くなりまして、ここで話を切りました。次の話は少し短めです。
飼い殺し・・・・・・良い言葉が思いつきませんでした。「生かさぬように殺さぬように」にしたかったのですが、時代劇みたいになるので使うのを断念しました。