エネドラとの話も終えて、ターヘラに向かうことにした。
ターヘラの冒険者ギルドを出て、昨日の奴隷商館まで歩く。
昨日よりは少し早い時間だが、やはりターヘラの賑わいは変わらないか。
特別寂れている感じでもないが、活況ということでもない。
穏やかな田舎の都市という感じか。
商館に着き、ドアをノックすると店主のアルマーが出てきた。
「直ぐに外出の準備をしますので、ここでお待ちください」
奴隷商館に来て外で待たされたのは初めてだが、中に入って時間をかけても仕方ない。
大人しく待つことにした。
・・・・・・
「お待たせしました。早速参りましょう」
さほど歩かずに目的地に着いた。
ここって、昨日俺が冷やかしで見ていた商店だよな。
「ここにお薦めの奴隷がいるのだろうか?」
「はい。その通りです。店主と既に話はつけてありますので、このまま入りましょう」
穀物や果物だけでなく、奴隷も売っているの?どうも怪しいな。
アルマーと二人で入店すると、おばちゃんが出てきてアルマーと話し始めた。
「その人が、カラダンを買おうとしているのかい?」
「はい。そうです。カラダンさんは居ますよね?」
奴隷を「さん」付けで呼んでいるの?
やがて、お目当ての青年がやってきた。
(鑑定)
えっ?
カラダン(エマーロ族 ♂ 23才)
商人Lv9
装備 皮の靴
ちょっと、ちょっと。
この青年は普通の平民じゃないか。奴隷じゃないぞ。
あと、何でエマーロ族?旅亭じゃないのか。職業選択の自由?
商人のレベルは年齢を考えると相応なのかな。
それにしても、この状態はどういうことか。
「店先じゃなんだから、奥で話そうか」
おばちゃんを先頭に店の奥に進んで、小部屋に連れていかれた。
別に俺はこの店の客扱いではないからなのか、お茶も出てこないようだ。
「・・・・・・」
おい、話を始めてくれよ、アルマー。
「この奴隷商人から商人の仕事をやってくれそうな奴隷の紹介を受けて、ここに来た。
この目の前の青年がその奴隷候補で合っているのだろうか?」
「はい。カラダンと申します。よろしくお願いいたします」
奴隷ではないけど、一応は奴隷になる気があるということか。
アルマー、うんうん頷いてるだけじゃなくて仕事してくれ!
「種族や年齢、特技などを教えてほしい」
なんで俺が司会進行をやっているんだ?
「エマーロ族ですが、旅亭ではなく商人を志していました。
年齢は23才で、今もこのお店で働かせてもらっています」
「それは、今はこの店の奴隷であるということなのだろうか?」
奴隷じゃないのは分かっているけど、話の流れからそう聞かざるを得ない。
「カラダンはうちの奴隷じゃなくて、店員だよ。
うちから独立して商売に手を出したのだけど失敗して、
借金が出来ちゃったから奴隷になろうって話になったんだよ。
奴隷として行先が決まるまでは、うちで働いてもらってるだけだよ」
「そうだったのか」
おばちゃん、ありがとう。聞きたいことが概ね分かったよ。
頷いてるだけじゃなくて、本来お前の仕事だろう、アルマー。
「特技があれば教えてほしい。
何の商品に精通しているとか、得意な商売のやり方等はあるだろうか?」
「この子は、この店で帳簿をつけてたから、書類仕事は大概問題ないよ。
ここで食料品や装飾品を売ったり、仕入れたりしてたから、そっち方面は強いと思うよ」
もう、俺とおばちゃんで話をして決めてよい?
「アルマーの所に奴隷として置かれていないのは何故なのだ?」
「あたしが、こいつを信用出来ないからだね。
こいつの親父さんがいたら、親父さんに奴隷登録してもらってたけど、
昨年、死んじまったからね。立派な商人だったよ。
まだまだ、こいつに任せるのは不安だからね、あたしは。
買い手が現れたらあたしの所に連れてくるように言っといたんだよ」
こいつが信用出来ないって点には、激しく同意するよ。
「カラダンは奴隷になってからでも商人をしたいのか?
商人で失敗したから、もう商売は懲り懲りとかあるか?」
「いえ、これからも商売に関わりたいです。
一度、失敗しただけで諦めたくはないです。
機会を頂けるのなら、是非、商人として働かせて下さい」
まあ、失敗して立ち直った奴の方が大成するって考え方もあるかな。
失敗の理由も重要だとは思うけど。
「その商売に失敗した理由を訊いても良いか?」
「仕入れた商品、迷宮素材なのですが、持ち逃げされました」
また微妙なところだな。
普通であれば成功していた商売だったのかな。
人の管理やリスクに備えるのも商人に必要な能力だから、経験も能力も足りてなかったと。
でも、やる気があるのだから見込みはあるか。
その失敗の経験も何かに生きることはあるだろうし。
どっちみちエネドラに死後相続だから、彼女と相談するか。
今回はカップルじゃないし、自分の部下になるかもしれないのだから面談で判断するだろう。
「じゃあ、そろそろ値段の話を・・・・・・」
「あっ、申し訳ありません。書類を店に置いてきてしまいました。
今から取りに行ってくるので、お待ち頂けますか?」
アルマーはこっちの返事も確認せずに、駆け出して店を出ていってしまった。
なんか、あわてんぼうのお使いみたいだな。
まだ契約すると決めた訳じゃないのだけど、分かっているのだろうか。
でも、丁度良いか。おばちゃんにイロイロ確認してみよう。
「なあ、あいつって奴隷商人じゃないか?
あんたも商人だから知っていると思うけど、奴隷商人ってそれなりに経験積まないと
就けないジョブじゃないか。
なのに、なんでアルマーはあんなに頼りないんだ?」
「あそこの父親は奴隷商人としては立派だし、奴隷の教育も上手かったって聞いているけど、
子育ての才能は無かったみたいだね。
奴隷のパーティにあの子を加えて、奴隷だけ迷宮に入れていたみたいだね」
パワーレベリングだけしていて、肝心の商人の実務経験を積ませるのを疎かにしたり、その教育内容がイマイチだったのか。
俺も気を付けないとな。
レドリック達も、我が家に来てから一度も迷宮に入れてないし。
でも、ヴィルマとイレーネの地獄の訓練に加えているから、甘やかしてはいないつもりだ。
「ぶっちゃけ、カラダンの奴隷としての売値ってって幾らぐらいが妥当だと思う?」
「はっ、あんた、あたしに確認することじゃないだろう?」
まあ、普通は訊かないよな。
「だけどさ、あのアルマーが妥当な値段をつけられると思うか?
俺は昨日、値段を確認したら『相談して決める』って言われたんだぞ。
アイツは誰と相談するんだよ?
俺とあんたで、誰も損しなさそうな値段を決めた方が良いのじゃないか?」
「えっ、うーん。そうだね。そうかもしれないね。
カラダンの商売の時の違約金が10万で、
カラダン自身の手持ちの5万とあたしから借金した5万で支払ったんだよ」
そうか、じゃあ、おばちゃんは5万ナールもらえばチャラか。
「あの、ここで大変お世話になったので、
そのお礼に借金とは別に、5万ナールくらいはお渡ししたいのですけど」
「あんたは、そんなことを考えなくても良いから、これからの自分のことを考えなっての!」
おばちゃん、男前だねぇ。
まあ、おばちゃんの気持ちは別として、10万ナールはカラダンに渡るようにしないとな。
奴隷の購入原価は10万ナールと。原価半分ルールだと20万ナールが売値か。
気が引けるけど、手続き手数料とセットで3割引だと14万ナールちょっとか。
エネドラと相談だけど、14~20万ナールの間くらいかな。
「15万から20万ナールの間だと妥当かな。
カラダンの手に渡るのが10万ナールというのが前提だけど」
「まあ、そんなものだろうね」
おばちゃんの合意を得たから、それでもう良いか。
「それにしても、アルマー戻ってこないな」
「何してんだろうね、あの子はチンタラと」
もう出来の悪い息子に対する感想だな。おばちゃんに息子がいるのか知らんけど。
「この店で扱ってる装飾品ってどんなのがあるのだ?」
「えーと、そうだね。カラダン、ちょっといくつか持ってきな」
アルマーが戻ってくるまでカラダンが扱えそうな商品について、おばちゃんに助言をもらおう。
カラダンが持ってきたのは、様々な種類の装飾の嗜好品。
(鑑定)
蝶の羽のブレスレット
蝙蝠の羽帽子
「このブレスレットと帽子って迷宮のドロップ品を加工したものか?」
「そうだよ。あんた、よく分かったね。
前はこの近くに迷宮があったから、そこで取れたものを加工していたのだけど、
迷宮が討伐されてしまってからは、この近辺ではほとんど入手できなくなったんだよ」
これは商売に繋がるネタかな?蝶とかコウモリのドロップ品があったよな。
「この瑪瑙は、ターヘラの近くで採れるのか?鉱石だろう?」
「あんた見かけに寄らず物知りだね。
瑪瑙はこの近くの山で採れるんだよ。
結構たくさんあるらしいから、そんなに馬鹿高くはなくて、お薦めの商品だよ」
琥珀は海で採れるって原作にはあったよな。瑪瑙は鉱石だから山で採れると。
「ちなみに、この瑪瑙の原石っていくらぐらいするんだ?」
「加工もしてない原石を買ってどうするんだい?原石なら一個1000ナールぐらいだね」
琥珀は公爵紹介価格で800ナールだったか。似たような値段か。
「この近くに加工している工房があるのか?」
「うちでやってるよ。あんた瑪瑙に興味があるのかい?なら加工したものを持ってくるけど」
今はいいや。そのうちエネドラとかを連れて・・・・・・いや、カラダンに任せればよいか。
「あ、今はいいや。そのうちカラダンから聞き出すから」
「もう、カラダンと契約する気だね」
俺の中ではね。
「最終的には、我が家にいる商人が決めるけどな。
俺が万が一死んだ時の死後相続の相続先だよ」
「そうかい。その年で死んだ後のことを考えているなんて偉いね」
まあ、迷宮探索者はいつ死んでもおかしくないからな。
ようやく、アルマーが戻ってきた。
「遅くなりました。なかなか書類が見つからなくて・・・・・・」
「一生懸命探してきたのに悪いけど、今日契約は出来ないぞ。
最終決定は俺とは別の者がするので、契約が締結出来るのは明日以降だ」
おばちゃんから、たくさんヒアリング出来たから良かったけど。
「そうなのですか。仕方ないですね」
「ああ。でも、どうせ契約するとしても、ここでするのだろう?
書類は忘れないように、ここで預かってもらったらどうだ」
どうでも良いけど、明日以降にまた忘れてきて時間を喰うのが嫌なだけだ。
「いえ、この後もう一軒回るので、そこでも必要になるので」
「そうか、なら任せるよ」
そこでも直ぐに契約はしないだろうけどね。ホント頼むからしっかりしてくれよ。
「それで、カラダンの契約価格はいくらなのだ?」
「い、いくらにしましょうか?」
誰と相談するつもりだったの?俺と相談して良いの?
「カラダンには10万ナール渡してやりな。あとは、その人とあんたで決めな」
おばちゃんが即決してくれた。
「じゃあ、この人からは、12万ナールもらうことにして・・・・・・」
「おいおい」
「あんた馬鹿かい?」
やっぱり、おばちゃんと事前に相談しておいて良かったな。
「えーと、高過ぎました?じゃあ、11万5000ナールで・・・・・・」
「最低でも15万ナールはもらいなよ!」
結局、おばちゃんが決めてるな。
「まあ、15万ナール前後と思っておくよ。
明日以降、別の者が来て、何か言われたら諦めてくれよな」
「あんた、そんな事言わずに、この馬鹿が哀れだと思ったら少しお金を恵んでやりなよ」
いや、俺は迷宮探索者兼商人だけど、慈善活動家ではないのだけど。
「まあ、努力はしてみるよ」
3割引のスキルを使うのだけは勘弁してやろうか。
「次にここに来れるのは明日か明後日かは分からないが、
アルマーとここに来れば契約は出来るのだろう?
それまではカラダンはここに置いてもらえるのだよな?」
「そうだよ。ちゃんとあんたの相続先の人にも今日のことを説明しておきなよ」
説明はちゃんとしておくよ。
おばちゃんにガミガミ言われているアルマーと共に店を後にした。
俺まで一緒に怒られてる気分になるのがなんともね。
それにしても、アルマーはこんな感じで次の税金がちゃんと支払えるのだろうか。
奴隷商人になった翌年に本人が奴隷落ちとか。
木乃伊取りが木乃伊になる?・・・・・・いや、こいつからは奴隷を本気で売ろうとする気迫が感じられないから違うか。
次の奴隷候補の居る所は大丈夫なのだろうか。
お読みいただき、ありがとうございました。
感想で頂いた、エマーロ族の奴隷を登場させてみましたが、種族特性をどう生かすのかはまだ考え中です。
コンビニの発想も需要もないだろうから、24時間営業しても意味ないし、どうしましょうかね。
瑪瑙はネットで調べると琥珀と同じくらいの値段で日本でも産地があって、それほどバカ高い訳でもなく、漢字1~3文字(短いのは重要)以内で鉱石だから丁度良いやってところで、商売ネタにしました。初回登場時だけ、ルビを入れました。
翡翠にしようかなとも思ったのですが、翡翠はバカ高いので、いせはれの世界に合わないかなと思って止めました。