アルマーと次の場所に向かったが、少し遠い場所だったようだ。
ターヘラの中心街からかなり離れた場所に広い敷地が見える。
結構、金持ち・・・・・・ではなさそうだな。
取り囲む柵や入り口の門はかなりくたびれているようだ。
「ここに次の奴隷候補の獣戦士二人が居るのか?」
「はい。そうです。ここは剣術指南所と呼ばれているようです」
呼ばれているようです・・・・・・って気になる言い方だな。
「あっ、アルマー君、こんにちは」
「ナナイさん、こんにちは。ニムラルさん居ますか?」
(鑑定)
ナナイ(人間族 女 23才)
僧侶Lv11
装備 皮のジャケット 皮の靴
この子は見る限り獣人族系ではないから、お目当ての奴隷候補ではないな。
「はいはい。お父さんね。今、呼んでくるよ」
ナナイという女性は奥の建物に引っ込んでいった。
それにしても、何故かレイモンドとモニカの二人に初めて会った時の事を思い出すな。
無性に気分が悪くなってきたぞ。
暫くすると、ナナイが一人の男を連れてきた。
(鑑定)
ニムラル(狼人族 ♂ 41才)
獣戦士Lv46
装備 革の鎧 革の靴
レベル高いな。今まで見た獣戦士の中で、ヴィルマを除けば一番だな。
お父さんって呼んでたけど、この男とナナイって娘は血縁関係ではないよな。
『パパ』って呼んでいたら、ちょっとイロイロ邪推してしまうけど、お父さんならセーフか?
昨晩のマットプレイが強烈過ぎて、後遺症が残っているのかもしれない。
「その人が、ケリーとマリーを買おうとしてる人か?」
さっきのおばちゃんと同じような会話で、とっても嫌な予感がする。
そして、獣戦士の二人は名前からすると女の子なのだろう。
今のニムラルって奴の言い方だと、俺の方が胡散臭い男のように聞こえるのは被害妄想か。
「お父さん、中に入ってもらってから話をしたら?」
「そうだな。アルマー、その人を一緒に連れてきてくれ」
俺達は言われるがままに、建物の中に入っていく。
さっきも敷地の外から感じたけど、建物も結構、ボロいな。
年季が入ってるとか趣きがあるとかではなく、アチコチ壊れていてオンボロって感じだ。
このニムラルって男が剣術指南所のトップなのだろうか。
複数のテーブルのある広い食堂のような所に連れていかれた。
門下生が結構、たくさんいるのだろうか?
それにしては剣を振るってるような男どもが騒いでる雰囲気が無いんだよな。
「ここに対人戦闘に長けた獣戦士の奴隷候補が居るって聞いてきたのだけど、
合っているだろうか?」
「ああ、まあそうだな。合っているな」
うーん、なんか引っかかる言い方だな。
さっきのおばちゃんのような人は居ないのかな?
「先ほど名前があがったケリーとマリーの二人というのは、
本人が奴隷になることを承諾しているのか?」
「その通りだ」
ここはキッパリ言い切ったか。
「奴隷になろうとしている理由を訊いても良いか?」
「そうだな。二人の言い分としては、この剣術指南所を助けるためだな」
ん?ココは借金塗れで、その補填のために売られるってことか?
それにしては、『言い分』という説明が気になる。
「申し訳ないが、もう少し具体的に説明してもらえないだろうか?
俺以外の人間は、事情を知っているのだろうが、
若くして獣戦士になれる逸材が奴隷になろうとしている理由が俺にはしっくりこないんだ。
我が家に来る以上は粗略な扱いにはしないし、大事に育てたいとは思っているが、
本人達のやりたい事ややる気に繋がること、
ここを離れるに至った経緯なんかをちゃんと聞いておきたいんだよ」
「そうか・・・・・・」
ニムラルって男はいったん下を向き、天井を仰いだ後、こちらに視線を向けた。
「もう、この男の所に二人を送り出すので良いのじゃないか。
お金は特にいらないから。奴隷じゃなくても引き受けてくれるだろう」
「な、お父さん何言ってるの?そんなこと、あの二人が納得する訳ないでしょう?」
具体的な事を訊いてるのに、訳の分からないことを言われて、余計、混乱してきたのだけど。
アルマー、難しい顔をしているけど、どういう状況か本当に分かっているのか?
今、お前は奴隷の販売手数料をもらい損ねようとしてるんだぞ。
(ガチャ)
獣人族系の女の子二人が食堂に入ってきた。この二人がそうなのか。
(鑑定)
ケリー(狼人族 ♀ 15才)
獣戦士Lv1
装備 皮の靴
マリー(狼人族 ♀ 15才)
獣戦士Lv1
装備 皮の靴
双子か?・・・・・・と思うくらい似ているな。
もっとも俺には狼人族を細かく見分ける能力はないから直感で思っただけだが。
二人とも、確かに獣戦士だ。レベル1だけど。
それでも大したものだ。この剣術指南所は優秀な育成カリキュラムでもあるのか?
二人とも同じくらいの身長だけど、それほど背が高い訳でもない。
まだ成長期かもしれないが。
同じ銀髪で髪は短めに切り揃えてある。裕福じゃなければ髪なんて伸ばさないしな。
肌の色は日焼けしているのか、少しだけ小麦色っぽい感じだ。
着ている服はアチコチに継ぎ当てが施されてる。
「あなたが、私達を買ってくれるの?どうか、私達を高く買ってください」
「高いって、いくらぐらいのことを言ってるのだ?」
俺の質問に二人は顔を見合わせて、困った表情になった。
この二人は生きていくためにどの程度のお金があれば良いのかなど、分かってないのだろうな。
ましてや、この剣術指南所がどの程度のお金があればやってけるかも理解していないのかも。
それは仕方ないのだろうけど、それでも売られてお金を残したいってことなのか。
この二人は拙い部分もあるけどブラヒム語でちゃんと喋っている。
ナナイって娘も人間族だし、この剣術指南所も多種多様な種族が来るならブラヒム語を共通語にせざるを得ないのだろうか?
アルマー、こんな時のための奴隷商人、コーディネーターじゃないのか?
さっきから何の仕事もしていないじゃないか。全く。
「ナナイさんって言ったかな。
この二人はどうして奴隷になるって決めたのだ?
高く買ってほしいと言ってる理由を俺に説明してもらえないか?」
もう、とりあえず話が出来そうな奴に訊いていくしかないな。
おばちゃん、プリーズ!・・・・・・と言いたい。
「ここに居る子達の食事や生活の状況が苦しいからですね。
この二人は15才になって成人になったから、
ここを離れる際に自分達が奴隷になって少しでもここにお金を残そうとしているのです」
「ここは剣術指南所ではなく、孤児院ということか?」
ナナイは首を縦にも横にも振らない。
「剣術指南所でもあるのですが、孤児院でもあるようなのです」
ようやく、ここでアルマーが口を開いた。
お前なぁ、もっとハッキリ言えよな。
それに惚れた女の前なら、もっと頑張っていろいろ汗かいて調整して回れよ。
本当に惚れてるのかは知らんけど。
「ナナイさん、ちょっと俺と二人でそっちの離れたテーブルに行こう」
「えっ、あたしだけ?」
俺は返事を待たずに、離れたテーブルに向かった。
仕方なく、ナナイは俺に付いてきてくれた。
「あまり立ち入った話はしたくはないのだけど、このままだとラチがあかないと思ってな。
あんたが、そこに居る人間の中で一番、ここのことを真っ当に考えてそうだったから、
来てもらったのだけど、教えてもらえないだろうか?
まず、この剣術指南所・・・・・・もう、孤児院と呼ばせてもらうけど、
何人くらいの子供達がいるんだ?」
「あの2人を入れて16人です」
そうか、かなり多いな。
さすがに我が家は託児所じゃないから全員の面倒は見切れない。
「この孤児院の台所事情を一番詳しいのは誰だ?あのニムラルって男とあんたの他に大人は?」
「多分、あたしだと思います。さっきの二人は除きますけど、他に成人してる者は居ません」
そりゃ、ナナイって娘の負担は半端じゃないな。
「ケリーとマリーって滅茶苦茶似てるけど、双子か?」
「そうですね。とても仲の良い双子です。
ケリーが元気でハキハキしていて、マリーが大人しい感じですけど、
剣を持つと二人とも強いです。
特に二人の連携は息が合っているので、同時に相手すると他の子のペアは勝てません」
仲が良いに越したことはないな。
「滅茶苦茶立ち入った話を訊くけど気を悪くしないでくれ。
あんたはあのアルマーに惚れているのか?」
「えっ?」
ナナイは耳まで真っ赤になった。分かり易いな。
「変な事を訊いて悪かったな。答えは分かったから、答えなくて良いよ」
アルマー、もっと頑張れ。きっと良いことがあるぞ。
面倒だけど、イロイロと焚き付けてみるか。
「この、孤児院で子供達と大人も含めてだが30日ぐらい
ちゃんと食事を取らせようと思ったら、幾らぐらいかかるか分かるか」
「20000ナールくらいあればなんとか」
20000ナールか、大人含めてケリー&マリーを除いて16人分の食事と思うと安いな。
1日あたりにすると700ナール弱、一人一日43ナールちょっとか。
「その20000ナールで肉とかも食えるのか?」
「いえ、お肉は高いので、たまにしか・・・・・・」
これはダメだな。粗末な食事ならなんとかって感じか。
食事だけって訳にもいかないだろうし。着るものだって必要だしな。
しかし、月に20000ナールくらい稼げないものなのかな。
うちのチクルスだって、月に27000ナールくらいは稼げるのだが。
いや、生薬素材はドロップ品をそのまま提供してるから単純比較は無理か。
子供の面倒を大人二人で見ているから稼ぐ余裕がないということか。
「剣術指南所って、習いに来る人間からお金をもらえないのか?」
「今は子供達の世話をするのに手一杯で、門弟が誰も居ないのでお金は得られていません」
こりゃ、相当厳しいな。
この近くには迷宮もないって言ってたから、ちょっと行って稼いでって訳にもいかないし。
仮に、うちから20万ナールとか代金を払えば、10か月分の食い扶持が確保出来て、その分働きに・・・・・・はいけないのか、子供達の面倒をみなければならないから。
「今までは、どうやって食事代を捻出していたのだ?」
「門弟からの月謝を蓄えていた分を取り崩していました。
去年の夏頃に急に大勢の子たちを抱えることになったので、
お金がドンドン減っていって・・・・・・今、二人がそのために奴隷になろうとしているのです」
ナナイの目が赤くなってきた。もう限界か。
孤児院の借金話なんてラノベあるあるだし、よくある話と言えばそうなのだが。
この『戦争が少し多め』の世界設定でも、よくある話なのかもしれない。
しかし、そもそもなんでこんなことになるまで孤児達を引き受けようとしたのかね。
「その子達は、戦争孤児かなんかなのか?」
「元々居た子達の中には国境の小競り合いで戦火に遭って孤児になった子もいますが、
夏に来た子達は盗賊の襲撃に遭った村で孤児になった子達です。
お父さんが救援に行った村で孤児になった子達がここに来ました」
戦乱か盗賊か、そればっかりだな。この世界はそんなものなのか。
「辛いことを訊いて悪かったな。
ケリーとマリーを我が家に引き受けるのであれば、適正な金は払うつもりだ。
だけど、それで、ここの問題が解決する気がしなくてな」
「そうです。一時凌ぎにしかならないことは分かっています」
この娘はこの剣術指南所・・・・・・孤児院の行く末が想像出来ているのだな。
一人ずつ奴隷として売られていくのなら何のために孤児達を引き受けたのかとなるよな。
盗賊襲撃直後に見捨てることが出来なかったのだろうし、何もしないよりは良かったのかもしれないが、共倒れになりつつある。
「だいたい分かった。ありがとう。皆の所に戻ろう」
俺とナナイは元のテーブルの方に戻った。
「待たせて悪かったな。それで、その二人、ケリーとマリーだったか。
我が家に来たら、迷宮でモンスターと戦ってもらうこともあるし、
護衛のために盗賊と戦ってもらう場合もある。
危険な役割についてもらうことになるのだが、それでも我が家に来る気があるのか?」
「私もマリーも覚悟を決めている。だから、私達を高く買って!」
適正価格以上に高くは買えないよ。
3割引をセットしようという気は失せたけどな。今日はそんなのばっかりだな。
「適正な価格以上の金は出せない。
二人を迎え入れるかどうかは、俺の家と者達を相談して最終的に決める。
恐らく2、3日中には決まるので、決まったら伝える。
そこから、金額や条件面のすり合わせをしよう」
誰も頷かないし、反論もしない。そちらの最終決定者は誰だ?
「決まったら、このアルマーとまた来る。
それまでに、そちらの要望をちゃんと考えておいてくれ」
アルマーと二人で、剣術指南所を後にして、アルマーの商館に二人で向かった。
別に商館に用はないのだが、アルマーと話をしたかったので。
「なあ、お前、さっきのナナイって女に惚れているな?」
ナナイと同じ質問をアルマーに浴びせる。
そして、同じ反応。こいつも耳まで真っ赤だ。
「お前さぁ、惚れてる女の前だったら、もう少し頑張ってみたらどうだ?
あの調子じゃあ、購入金額とか条件とか俺にちゃんと提示出来るのか怪しいぞ。
お前も奴隷商人なら、自分と売られる側と購入する俺の利益をちゃんと見据えて
交渉を取り持つ努力をしろよ」
「はい。分かっているのですけど、その・・・・・・経験がなくて」
経験がなくったって、目の前のことに向き合うしかないだろう。
「今まで経験が無かったのなら、これで経験を積めば良いだろう?
今、全力を尽くさない理由なんてどこにもない気がするぞ。
あのナナイって娘だって、お前に気があるみたいなのだから、
頑張ってみたらどうなんだ」
何故、上から目線でこんな事を言っているのか自分でも分からないが、こいつを焚きつける以外の方法が思いつかない。
誰も何も動かないと、このままだとジリ貧だぞ。
我が家は有望な若手を確保できるが、後ろ髪を引かれる奴らを迎え入れてもなぁ。
「2、3日中には我が家の結論を持って、お前の所に行くから、それまでに考えておいてくれ」
「分かりました」
当事者が頑張らない事にはどうにもならないからな。
そして、アルマーも当事者の一人だ。
「それと、奴隷商館について訊きたいことがあるのだけど良いか?
奴隷の仕入れって、
今日の午後の二件みたいに奴隷商館の商圏にいる者が
話を持ってくる場合もあるのだろうけど、他にはないのか?」
「ほとんどは、売りたい客が話を持ち込んできますが、
それ以外だと、奴隷商人達の中の集まりで、オークションが開かれたりしますね」
ふーん、そうなんだ。
「そのオークションってのは、季節の変わり目あたりに一回行われるものとは別のものか?」
「それは、購入する客に対するオークションですね。
私が言ったのは、それとは別で奴隷商人だけが参加できるオークションです。
季節の真ん中、今回だと6日後に開催されます」
なるほど、なるほど。
「それって、俺も参加できるのか?」
「えっ?あなたは奴隷商人ではないですよね?普通の商人は参加できませんよ」
そういえば、俺が何やってるかこいつに説明したっけ?
「俺は商人ではなく、冒険者だけどな。だが、俺は商会の当主になっているので、
商人の真似事をしているだけなんだ」
「冒険者だったのですか?
参加条件は奴隷商人のジョブを持っていることなので、参加は無理ですね」
まあ、普通の参加をしようと思ってないのだけど。
「俺がお前の護衛の位置付けで、そのオークションに入り込むのも無理なのか?
俺が見て気に入った者がいたら、お前に応札をしてもらう事を考えていたのだけど」
「護衛の付き添いは1名まで許可されているので、護衛として入館することは可能です。
でも、入札に参加したいのですか?
条件だけ聞いておいて、オークションで条件に合いそうな者を私が応札しますけど」
それはダメだな。
参加して、俺が鑑定スキルで見てみないと良し悪しが分からないだろう。
アルマーの見る目は怪しいし。
良い奴隷が居たら、応札だけをこいつにやらせようと考えていた。
「まあ、考えておいてくれないか。対価はちゃんと用意するから」
「対価は何を考えているのですか?それを聞いておかないことには判断が・・・・・・」
おっ、ちゃんと交渉する気だな。さっきのナナイ効果か?
「奴隷商人になってから全然、迷宮に行ってないだろう?
俺のパーティにお前を入れて、うちのパーティの経験をお前に共有するとかかな。
まあ、5日とか10日とか期間限定だけど」
「その日数だと微妙な対価ですね」
妥当な判断だな。
普通はそうだけど、こっちは倍速スキルがあるからね。
ただ、探索者と違って実感できないから、妥当性が判断出来ないだろうな。
「護衛として参加する程度の権利だから、微妙な対価なのだよ」
「まあ、そうですね。考えておきます」
こっちもダメ元の参加だから、過剰な期待は抱いてないけどね。
ちょっと見てみたいってのもある。
「じゃあ、俺はここから帰るわ」
「あ、はい。今日はありがとうございました」
アルマーに手を振って、その辺りの木陰にゲートを開いて自宅に戻った。
厨房に行き、エネドラ達に帰宅の報告。
夕食の時間まで、二階の自室で午後の振り返り。
何か奴隷商館に行くたびにエネドラの仕事を増やしてる気がするな。
イロイロと俺の考えることも増えているけど。
俺の人徳のせいではなく、アルマーのせいだと思うことにしよう。
でも、カラダンの方が優先順位が高いな。
あいつがエネドラの片腕になれば、少しは楽が出来るだろう。
カラダンの役回りはザっと考えてあるので、エネドラに提案して、すり合わせをするか。
最終的な決断はエネドラに面談で決めてもらうと。
剣術指南所の方もいくつか考えたアイディアがあるから、カラダンの方が片付いたら実行に移せるか相談だな。
それでも、まずは明日の作戦の下準備・・・・・・スラム街の偵察だ。
今日は会議を前倒しにしてもらって、会議が終わったら偵察に行ってくるか。
夕飯を食べ終わって、さすがにのんびり風呂に入るって訳にはいかない。
明日は朝一でベイルに集合だから、早朝まで偵察するような無理は出来ない。
夜にザっと行ってエリアをクリアにして、気になる奴らがいれば重点的に追跡するくらいか。
チクルスが呼びに来たので、階下に降りて夕食に向かった。
お読みいただき、ありがとうございます
孤児院ネタは当初執筆予定はなかったのですが、戦乱や盗賊が跋扈する世界で記載しないのも不自然かなと思って書いてしまいました。
ケリーとマリーは当初は普通に奴隷商館で見つける予定だったのですが、エマーロ族のカラダンを追加した煽りでアルマーを増やして、芋づる式(?)に関連づけてしまいました。