異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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064.剣術指南所との取引(その2)

「主!・・・・・・難しい話終わった?この人と戦ってきて良い?」

「えっ」

 今まで気配を絶っていたヴィルマが再起動した。

 

 ちょっと散歩に行ってきますみたいな軽いノリで、道場破りしないで!

 

「良かろう」

 オッサン、こんな時だけキリっとした顔にならなくても・・・・・・・。

 もっと双子の身の振り方の話に加わってほしいのだけど。

 

 こちらの返事も聞かずに、オッサンとヴィルマとイレーネは食堂を去っていった。

 ケリーとマリーも後に続く。この五人は似た者同士か。

 食堂の柱の陰から、こちらをチラチラと見ていた数人の子供達も付いていってしまった。

 

「ケリーとマリーは奴隷契約を本日中に完了させて、

 我が家に連れて帰ろうと思っているのだけど大丈夫なのだろうか?」

「はい。そのつもりで二人とも既に自分の部屋の荷物はまとめ終わっています。

 もっとも大したものは持ってなかったので、最低限の服と身の回りのモノぐらいですけど」

 そうか、そうなるとエネドラとチクルスの大買物大会の決行は不可避だな。

 

 別に止めろという気もないのだが。

 そんな恐ろしいことを言いだす勇気は俺にない。

 君子は危うい所には近づかないものなのだ。

 

 しばらく、今日の振り返りを頭の中でやっているとエネドラに声をかけられた。

 

「旦那様も広場に行ってきたらいかがでしょうか。

 あの者達を実力で止められるのは、旦那様だけでしょうから。

 私がアルマーさんと書類を作っておきますので」

「そうか、申し訳ないがよろしく頼む」

 確かに、あのオッサンの実力を見ておきたいというのはある。

 

 ナナイに目を向けると、

 

「私はアルマー君と一緒に書類を確認しています」

 言っている事は正しいはずなのに『リア充爆発しろ』という言葉が浮かぶのは何故だろう。

 

 この場に居て俺が出来ることはなさそうなので、模擬戦の場に行くか。

 まさか実剣で模擬戦をやったりはしないと思うが不安を拭えず、パーティ効果の跡を追って足早に外に向かった。

 

・・・・・・

 

 あれっ、広場のような場所に着くと、ヴィルマの前に膝を屈したオッサンが。

 もう勝負がついてしまったのか?

 オッサン、別に強くもなんともなかったということ?

 

 レベル結構、高かったはずだが。

 

 

(鑑定)

 

ニムラル(狼人族 ♂ 41才)

獣戦士Lv46

装備 木の剣 革の鎧 革の靴

 

 やっぱりLv46の獣戦士だよな。ヴィルマは百獣王Lv24、イレーネは刺客Lv27だ。

 レベル補正もあって結構苦戦すると思っていたのだが。

 

 ヴィルマもしきりに首を傾げているが、期待外れだったということだろうか。

 ケリーとマリーは涙目で、『師匠・・・・・・』とか言っている。

 ナナイと違って、『お父さん』呼びじゃないのね。

 

 孤児院のギャラリーの子達も、ざわついている。

 

 ヴィルマとオッサンの間に今度はイレーネが割って入った。

 オッサンと次に戦いたいということ?容赦ないなぁ。

 

 立ち上がったオッサンは今度はイレーネと戦い始めた。

 

 戦いぶりを見た限りはオッサンは全然、弱くない。

 むしろイレーネを押している感じだし、イレーネも戦いにくそうだ。

 

 イレーネの手数にモノを言わせた剣戟を危なげなく捌いてる。

 素早い彼女の剣の出だしを見事に先んじて剣を突き出して、攻撃の方向をずらしている。

 

 ヴィルマが勝ったのは単に相性の問題だったのだろうか?

 オッサンは多彩な剣戟や防御の確実さ等、対人戦闘の経験を積んできた剣士という感じで流石と思わせる熟練度だ。

 

 だが、時間の経過と共にスピードとパワーでイレーネが圧倒し始めた。

 最後は木刀の良い一撃が入って、オッサンはヴィルマの時と同じく膝を屈した状態で勝負がついてしまった。

 

 だが、イレーネの顔はいつもの口角の上がった勝ち誇った表情ではない。

 寧ろ、苦々しい感じだ。

 

 

 ヴィルマが近づいてきて、俺に木刀を二本投げてきた。俺もオッサンと戦えってこと?

 今、そんな雰囲気じゃないでしょ?

 

「主、相手して」

 ヴィルマと戦うのか。

 そして、ヴィルマもいつになく真剣な表情。

 

 二本の木刀を持って、ヴィルマと対峙した。

 この場所でヴィルマと模擬戦をすることになろうとはね。妙な気分だな。

 

 どちらともなく、お互いの距離を詰めて、剣を振りながら互いの間合いを確認する。

 剣は二本なので、俺の方は余裕がある。

 いつも通り、剣の軌道にトリッキーな変化と速度差をつけてヴィルマを追い込んでいく。

 2、3分後にはヴィルマに2本ほど良い一撃を入れて、彼女は降参した。

 さすがに剣2本なら、まだヴィルマには勝てるようだ。

 

 そして、今度はイレーネが近づいてきた。お前の相手もすれば良いのね。

 

 イレーネにも俺がアッサリ勝利した。剣2本ならイレーネにも勝てると。

 ただ、イレーネの表情は負けて悔しいという表情ではない。

 まあ、そういうことだよな。俺にも納得がいったよ。

 

 オッサンに勝った二人を俺がアッサリ負かしたことで、子供達がざわついている。

 俺はこの二人の主人だから別に良いのだよ。

 

 オッサンも少し俺を見る目が変わったように見える。

 でも、問題はそんな事じゃない。

 

 ヴィルマとイレーネをパーティから外した。

 

 ヴィルマは再び、オッサンに挑んで・・・・・・アッサリ負けた。

 イレーネも同様の結果。

 

 俺のセブンスジョブの影響が大きいのか。

 パーティ効果がなければ、百獣王Lv24や刺客Lv27というだけでは経験を積んだ獣戦士Lv46には勝てないと。

 

 これはこれで由々しき問題というか、考えさせられる問題だな。

 対人戦・・・・・・特に近接戦闘では経験や訓練の重要性が浮き彫りになった訳だ。

 

 迷宮で鍛えることをこれからも止める気はない。

 だが、対人戦の実力向上のためにはそれ以外の工夫をしなければならないな。

 そして、それは迷宮組だけではなく、タケダ家全体で考えた方が良いかもしれない。

 

 複数の拠点を持つと、護衛する対象が増えるから複数の護衛パーティが必要だ。

 俺がパーティ組んでなかったから、守れませんでしたなんて事では困る。

 場合によっては大がかりな計画が必要となるな。

 

 アクティブ系のスキルが使える時にはジョブによるアドバンテージがあるだろう。

 だけど、MP切れになったりしてスキルが使えない場合や、アクティブ系スキルを持たないジョブの者は慢心していると足を掬われることになりかねない。

 アミルがベイルで塩爺に勝ったけど、パーティー効果なしだと勝てるか怪しいな。

 ベイルでの模擬戦の時に気づくべきだったか。

 

 

 オッサンが二人をアッサリと打ち負かした事で、子供たちが湧いている。

 ケリーとマリーも嬉しそうだ。

 オッサンも面目が保てたようで、満足げな表情だ。

 

 これで『俺は自分を見つめ直すための剣の旅に出る!』なんて言い出したら、頑張り屋のナナイであっても発狂する事案だ。

 

 子供たちの中には思い思いにチャンバラ遊びをやり始めた集団が出てきた。

 木製とはいえ、真剣勝負の勝った負けたを見ると血が騒ぐ子もいるのかね。

 

 ケガしないようにね。

 子供達の持ってるモノが鑑定で見る限りは『木の棒』のようだから大丈夫なのだろうけど。

 

 そうかと思えば、広場の端っこでチャンバラなんか興味ないって遊ぶ子達もいるようだ。

 まあ、全員が脳筋に育つとそれはそれで問題だよな。

 

 それにしても、ようやくここが剣術指南所だって感じられたな。

 オッサンがこの世界でどれほどのランクなのかは分からないが、我が家が必要とする技術と経験を持っているってことは間違いないだろう。

 ケリーとマリーを里帰りさせる時にヴィルマとイレーネも派遣して鍛えてもらうか。

 

 

 エネドラとナナイ達が建物から出てきた。

 書類の方が片付いたのだろうか。

 

「ユキムラさんの所に子供達を預けてみようと思います」

「えっ?」

 決断早過ぎない?さっきはかなり悩んでいたようだけど、大丈夫なのだろうか。

 

「エネドラさんと話をして、このままではいけないと思いました。

 不安なことはありますが、これを機会に孤児院を変えていきたいと思います」

「そうか。ナナイがそう決めたのなら、こちらとしても文句はない」

 エネドラがナナイを納得させたのか。

 

 というか、そのために俺を模擬戦の場に追いやったのかもしれないな。

 俺がその場に居ると話しづらいこともあるだろうし。

 エネドラのような苦労した人間の言葉の方がナナイの心に響いたのかもしれない。

 

「では、食堂に俺は戻った方がよいか?」

「はい。お願いします」

 戻る前に釘を刺しておかないとな。無駄かもしれないが。

 

「ヴィルマ、イレーネ、相手に怪我させるなよ!

 自分は攻撃しないで、相手の攻撃を全部避けきるぐらいにしておけよ」

「分かった、主、任せろ」

 不安だが、「手加減しろ」より「攻撃するな」の方が分かり易いから大丈夫だと思いたい。

 

 まあ、オッサンが相手なら、今ならケガの心配するのは二人の方だが。

 オッサンにも『手加減無し』の属性がそこはかとなく感じられるので。

 そんなはずないか、仮にも剣術を指南する所なのだから。

 

・・・・・・

 

「では、これで書類の説明は終わりとなります。

 ケリーとマリーは何か質問があるか?」

 

「アルマー兄ちゃん、『せいどうい』って何?」

「えっ・・・・・・」

 口ごもるな、アルマー、ちゃんと説明してやれ。

 

「ケリーちゃんはまだ知らなくて良い事よ。ね?アルマー君・・・・・・」

「ソウデスネ・・・・・・」

 ちょ、ちょっと待て、ナナイ。成人になったのだから、教えておいてやれよ!

 

 今回、ケリーもマリーも性奴隷の同意は無しで契約しようとしている。

 別にこっちも求めていないし、提示された書面もそうだったし。

 

 そもそもハーレム要員と決めた時しか、俺は性奴隷の同意は特に求めない。

 相手が高く売りつけようとして、性奴隷の同意有と言ってきた場合でも割高になるので、余程の事がない限りはその奴隷は選択しないのだ。

 

 それにしても本人に確認した訳ではなく、ナナイとアルマーで話し合って決めたのだな。

 

 エネドラがカラダンの面談時にセクハラまがいの質問をした理由はこれなのか。

 確かに性教育とか、こっちの世界は後れていそうな気がするから必要な確認なのだな。

 

 だけど、俺がエネドラと同じように質問出来るかというと、やっぱり別問題だよな。困った。

 

 レドリックとポーラは赤ちゃん騒動があったし、レイモンドとモニカも性奴隷の了承なんてあるはずない。

 俺は異世界NTRはやりたくないのだから。

 ラファもヘルミーネも二人の前で性同意なんて合意させられない。

 でも四人については性教育のレベル確認が必要なのか・・・・・・エネドラにこっそり確認するか。

 

 奴隷契約時の同意有無とは関係なく、寝所にやって来たら再検討するのは吝かではないが。

 

 

「・・・・・・問題なければ、二人ともここに署名をお願いします」

 はっ、意識が別の所に行っていた・・・・・・特に問題は無さそうだったので署名した。

 

 通常は書類を渡されて終わりだが、今回は特別な条項があるので署名を行なった。

 この書類にどれほどの効力があるのかは疑問な点もあるが、あった方が良いだろう。

 

 ケリーとマリーも左腕を出して、インテリジェンスカードの変更処理も無事に終わった。

 奴隷の代金1000ナールに手続き料二人分の1000ナールで2000ナール。

 更に特別な契約を実施したので手数料5000ナールを加えて、支払った金額は全部合わせて7000ナール。

 3割引無しで支払った。

 

 1万ナール足らずで、将来有望な獣戦士の二人が手に入った訳だ。

 この後の手間がいろいろあるけれど。

 高額な商品を購入するのに、初めに頭金だけ少額を支払ってローンを組んだ感じだな。

 

「子供たちを引き受ける件は、こちらの準備もあるので、また後日契約を交わそう。

 食料の定期的な輸送は、近所の商店とこれから話をつけてくるので、少し待ってほしい」

「旦那様、3日後にまたここに来ましょう。

 恐らくそれまでには準備は整います」

 そんなに早く準備が出来るものなのか?

 

 大丈夫だろうか・・・・・・エネドラがハッキリ言うぐらいだから自信があるのだろうけど。

 エネドラの子供愛が爆発しているのでなければ良いのだが。

 

「ナナイ、多分無理だと思って訊くのだが、

 ここの子供達の中に探索者のジョブを持つ者はさすがにいないよな?」

「えっ、いることにはいますけど、それが何か?」

 えっ、あんな子供達を迷宮に連れていったってこと?

 

「探索者のジョブを持つ子供が居るのか・・・・・・ちょっと驚いたが都合が良いな。

 その子の探索者のレベルは分かるか?」

「亡くなった親御さんが迷宮探索者で、

 その子を迷宮に連れていった事があるみたいですね。

 お留守番の時もパーティに入れていたみたいでLv3の子が二人います」

 パワーレベリングとは違うけど、そんなことがあるのか。

 お互いの居場所を知るために、パーティに入れていたとか?

 

 しかし、Lv3ってアミルが加入時のレベルと同じだ。

 いろいろと切ないな、アミル。

 

 その親は何を考えてパーティに入れていたのだろう。

 自分の共有で得られる経験が少なくなるのに。

 ボス戦しないで、迷宮をうろつくだけならアリなのだろうけど。

 それでも、その親御さんは迷宮で死んでしまったのかな。

 あまり深入り出来ない事情だろうし、他人が口を差し挟むことではないか。

 

 その二人の探索者Lv3の子も俺がパワーレベリングすれば、あっという間にアイテムボックスの数を増やせるけど、秘密を守るためにもタケダ家以外の者に無茶は出来ないからな。

 

「とりあえず迷宮食材・・・・・・豚バラ肉を30個ほど今日置いていく。

 その子達のアイテムボックスに何も入ってなければ、18個は入るはず。

 入らない12個は今日の食事に使ってしまえば良い。

 それとは別にコボルトソルト20個とショウガ20個も置いていくので使ってくれ。

 この2つならアイテムボックスに入れなくても保存ぐらいできるだろう?

 これは施しではなく、双子の迷宮での働きの前払い分だと思ってくれて良い。

 レベルが確認出来ているってことは、

 その二人の子はアイテムボックス操作の詠唱が出来るってことだよな?」

「そんな・・・・・・でも、ありがとうございます。とっても助かります。

 詠唱は親御さんに習ったみたいで大丈夫です」

 まあ、これで双子にやる気が出るのなら安いものだ。

 

 双子をいきなり迷宮に入れることはしない。

 ある程度、パワーレベリングしてからだ。

 迷宮に入るまではヴィルマ達に訓練で鍛えてもらった方が良いだろう。

 

 その後は、ここにどんな食料を届けた方が良いのかの確認をした。

 普段、我が家で大人数の食事を用意しているエネドラの経験と知識に頼りっぱなしだったが。

 ここの食料の在庫を確認したら、直ぐにでも届けてもらって問題ない状況だった。

 いろいろとギリギリの状態だったのだな。

 

「ケリー、マリー、この後はお前達は我が家に来てもらうことになる。

 その後、何度もここに戻ってくることにはなるが、二人は我が家の一員となるんだ。

 お前の師匠や仲間たちと今のうちに、ちゃんとお別れしてきたらどうだ?」

「ケリーちゃん、マリーちゃん、行ってきなさい」

 目が赤くなったナナイに促されて、双子は飛び出していった。

 

 ナナイを慰めるアルマー達から離れて、エネドラと今後の話を相談。

 

「奴隷契約は終わったし、食材アイテムを渡したら、一度戻って双子を我が家に預けてくるか」

「そうですね。チクルスに言って、まずはお風呂に入れてしまいましょう。

 昼食は二人分増やして準備しているので大丈夫です」

 うちには人員がたくさんいるから分担すれば対応できるな。

 

「ここの子供達ではないが、双子にも食事の準備とかやらせてみて、

 一人でイロイロ出来るようになってもらった方が良いよな?」

「もちろんです。

 食事や掃除など一通りのことができるか確認しながら教えていきたいと思います」

 ただの迷宮探索者や護衛として受け入れるのではなく、一人の成人として考えないとね。

 

 とっくにエネドラの方は考えていた訳だ。性教育の方も考えてもらうか。

 俺のように、ジョブの種類やレベルだけで人を判断してはいないってことだろうな。

 

 ヴィルマとイレーネがオッサンに負けたことも含めて、剣術指南所で今日得た経験や知識は得難いものだったかもしれない。

 さっきの話ではないが、一方的に施しをした訳でなく我が家にも利があったということか。

 

「あー、ナナイに我が家の連絡先を・・・・・・」

「既にお渡ししております、旦那様」

 さすがに、そつがないな。

 

「俺はそろそろ、ヴィルマとイレーネを迎えに行ってくる。

 オッサンに挑んでコテンパンにやられて、ムキになっているかもしれないから」

「はい。お願いします。

 私はナナイさんともう少し詰めておきたい事がありますので」

 

 エネドラにナナイ達のことを任せて、広場に向かった。

 

・・・・・・

 

 広場では、やはりヴィルマとイレーネがオッサンに延々挑みかかっていたようだ。

 かなりの回数、打ち負かされているようだが、二人の顔には笑顔が見られる。

 

 ケリー達の方に目を向けると、子供達に取り囲まれている。

 なかにはギャン泣きしている子が見える。別れを惜しんでいるのだろう。

 

「ヴィルマ、イレーネ、そろそろ帰るから、その辺りにしておけ!」

 地面に転がされたのか、土塗れになった姿のヴィルマ達に声をかけた。

 

「もう帰るの?・・・・・・残念。でも、たくさん訓練して今度来た時には打ち負かす!」

 別にまた連れてくるとは伝えてないけど、来る気満々だな。

 

「うちの娘達が世話になったな。

 ケリーとマリーは今日、我が家に連れて帰るので、今のうちに話でもしてきたらどうだ?」

「その二人もケリーとマリーも連れてきたら、いつでも鍛えてやる。

 あの娘達とは昨晩のうちに別れは済ませてある。

 二人の事をよろしく頼んだぞ」

 なんか恰好良いことを言ってるけど、その1/10でも良いからナナイに配慮して負担を減らしてやれよ。

 

 俺の考え方は十分オッサン臭いけど、このオッサンは年齢の割に子供っぽい感じなんだよな。

 

・・・・・・

 

 ナナイと子供達に見送られて、俺達は剣術指南所を後にした。

 剣術指南所が見えなくなった所まで歩いたら、アルマーに俺達は自宅に戻ることを伝えた。

 おばちゃんの店で話すことは奴隷契約とは関係ないから、アルマーとの仕事は一区切りだ。

 そして先程索敵で確認してみたところ、見送ってくれたナナイやオッサン、子供達の色は青になっていた。

 

 今回、結んだ契約の結果なのだろう。

 はじまりの村で起きたことと同じなのかもしれない。

 何かのイベントや契約行為などによって勢力のフラグが変わると味方になるのかもしれない。

 やっぱり、この世界はゲームの中なのだと実感させられてしまう。

 

 アルマーとは別れ際に少しだけ話をした。

 

「今日の奴隷契約のことはアルマーにはあまり利益にならない話で悪かったな」

「いえ、良い経験だったと思いますので、今後に役立てたいと思います」

 本当に役立つかは分からないが、今後もこいつとは付き合いが長くなりそうな気がするから、成長してほしいという気持ちはある。

 

「今日の特別な契約みたいなのは、工夫すればイロイロ出来そうですね。

 また使える機会を考えてみたいと思います」

「アルマー、今回の契約はあくまで例外であって、

 お前は通常形態の契約の回数をもっと増やした方が良いと俺は思うぞ。

 基本的な契約だって数をこなせば、いろいろと効率的な考え方があるはずで、

 まずは基本に忠実に基礎的なことを確実にこなせるようになるべきだと俺は思う。

 それに、今回の特別な契約だって、やり方次第では簡単に崩して、

 食料を渡さずにケリー達を奴隷のままにすることだって出来なくは無いのだぞ」

 アルマーがキョトンとした顔になった。

 

「例えば、契約の書類をお前が俺に突きつけて、食料を渡してない不履行を追及したとしても

 俺がそんな契約は交わした覚えがない、文句があるなら決闘でケリをつけようって

 言い出したら、お前はどうするのだ?」

「えっ、あっ、それは・・・・・・」

 まあ、そんなことはしないけどな。

 

「力のある商会や人間って、力にモノを言わせてくるかもしれないから気を付けろってことだ。

 アルマーにとって有利な契約をその力ある者が持ち掛けてきた場合には、

 必要以上に注意しなければならない。

 そうしないと守りたい者が守れなくなるぞ」

「なるほど。分かりました。本当に今回の件は勉強になりました」

 俺はお前の保護者じゃないから、教えられる事にも限界があるけどな。

 

「俺達はクーラタルの自宅に戻るから。

 もし連絡がとりたくなったら、そのメモに書かれている住所に商人ギルド経由で連絡をくれ。

 次に会うのは奴隷オークションの日だな」

「はい。今日はいろいろとありがとうございました」

 双子と一緒にアルマーに手を振って、自宅に戻ることにした。

 

 双子をパーティに入れて、自宅の玄関に戻った。

 そして、我が家の恒例、上履き履き替えルールをエネドラが指導する。

 

 俺はワープゲートを風呂場に繋いで、イレーネとヴィルマを直行させた。

 砂だらけの恰好で廊下を歩かせる訳にはいかない。

 

 チクルスが早速やってきて、獲物を狙う目で双子を見ている。

 エネドラが双子をチクルスに引き渡したので、俺とエネドラはターヘラにトンボ返りだ。

 

 カラダンだけ連れて行くことにして、護衛は俺一人で良いことにした。

 あまり大勢を引き連れておばちゃんを警戒させたくないしな。

 

 三人で、ターヘラの冒険者ギルドにワープした。

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