ターヘラの冒険者ギルドを出て、おばちゃんの店に三人で向かった。
・・・・・・
案内された部屋で俺とエネドラ、カラダン、そしておばちゃんの四人でテーブルを囲んでいる。
「・・・・・・という訳で、この街の剣術指南所に食料を定期的に届けて頂きたいのです。
10日に一回程度で、ここに記載されているものをお願いします。
費用はこちらが前払いで支払いますので、剣術指南所には請求する必要はございません」
「あんたの指金だろう?物好きだねぇ。そんな事をして得することがあるのかい?」
エネドラが説明しているのに、胡散臭い者を見る目でおばちゃんが俺に話しかけてくる。
今回の取引はエネドラが中心になって行なうので、説明もエネドラに任せている。
カラダンも横で真剣に話を聞いている。将来的にはカラダンに任せたい。
「もちろん、こちらに利益があるからやっている。どんな利益かは言えないがな」
「そうかい、あたしは商売になって金をちゃんと支払ってくれるならどうでも良いけどね」
このおばちゃんって、ツンデレなのかね。
カラダンの時の態度もそうだったよな。
今回、剣術指南所に食料を輸送すると言った時にホッとしたような表情も見て取れた。
それからの話も真剣に耳を傾けてくれている。
ただ、言葉遣いがアレなのと、一言多い気がする。
「では、具体的な金額と品物の内訳を相談させて下さい」
「ああ、いいよ」
エネドラとおばちゃんが、細かい詰めの交渉を始めた。
けりが付くまでは俺は黙っていることにした。
金額が決まってから、俺が別の交渉を仕掛けることでエネドラと事前に打合せ済だ。
「なかなか商売上手だね。あんた」
「いえいえ、とても熟練した商人には敵いません」
なんとなく目の前で火花が散っている気がするのだけど、金額の折り合いは付いたようだ。
一か月分の食料が16000ナール程になったか。
まとめて依頼するから割り引いてくれているのと、意外におばちゃんが利益優先でないからか。
我が家で半分の子供を受け入れることになったら、少し余裕を見て10000ナールほどの食料を供給しておけば大丈夫か。
オッサンとナナイもいるが、迷宮食材も加わるのだから十分かもしれない。
「金額が決まったのなら別の話をしたい。
と言っても、食料の輸送の話とは無関係ではない。
相談なのだが、こちらが金を支払う代わりに
迷宮のドロップ品をこの店に提供するというのはどうだろうか?」
「はあ?どういう意味だい?」
おばちゃんの目が鋭くなった気がする。
「カラダンに聞いたら、昔はここで装飾品用の迷宮ドロップ品を仕入れていたそうじゃないか。
迷宮が討伐されてしまってからは入手しにくくなったらしいが、
我が家では、いくつかの迷宮を攻略中だから、ドロップ品を提供することが出来るぞ。
例えば、蝙蝠の羽、蝶の羽等だ。数は少ないが蝙蝠の爪、蝶の触角もある。
ギルドで購入する金額よりも安く提供することが出来るので、
それと交換に食料を提供してほしいってことだ」
「どの程度の金額かによるね。それと蜜蝋は手に入るかい?」
蜜蝋も倉庫に山ほどあるから提供できるな。
「蜜蝋も大丈夫だ。ギルドでの購入金額の半分でどうだ?
それなら、かなりの利益になるのじゃないか?」
「そうだね。だけどそんなに便宜を図るってことは何か交換条件があるのだろう?」
さすがにバレているか。
「そうだな。食料の提供は先程渡したリストが基本だが、
剣術指南所のナナイって者から希望があったら、可能な範囲で良いので融通を利かせてほしい」
「そんなことなら、お安い御用だよ。あんた、ホントにお節介な奴だね」
一言多くなってきたな、おばちゃん。
おばば様を思い出すぞ。会ったことはないのだけど。
その後は、一か月の食料提供分の金額相当を装飾品用の迷宮素材と交換した。
初月は惜しまずに一カ月分の食料を供給して、ナナイに確認しながら微調整していこう。
おばちゃんの店お抱えの探索者が急遽呼び出されて、引き渡すことになった。
俺のアイテムボックスに入れてきたので、素材を淡々と渡すという単純作業の繰り返し。
この前はルークとの取引で淡々と受け取って収納するのをやったな。
その前は公爵領の災害救助支援だったか。
なんか、輸送業者みたいなことばかりやってるな。
早く、専任の冒険者を確保したいぞ。
俺が探索者の兄ちゃんと受け渡しで奮闘する横で、おばちゃんは食料の調達と輸送について、部下に指示を出している。
おばちゃんが早速動いてくれるのは、とっても助かる。
早く届けて剣術指南所の面々を安心させてやりたい。
というか店構えからは全然分からなかったのだが、結構、人を多く抱えているのだな。
クーラタルやベイルもそうだけど、おばちゃんはどこでもやり手なのだろうか。
瑪瑙の工房が隣接していると言っていたし、そうなのだろうな。
「次回の支払いは1か月後ぐらいに、また訪問いたします」
「儲けさせてくれるなら、いつでも歓迎するよ」
おばちゃんとエネドラの間にやっぱり火花が散っている気がする。
「剣術指南所の食料の取引とは別の商売の相談で、また来るかもな」
「そうかい。期待しないで待っておくよ」
言葉とは裏腹に目が鋭くなったぞ、おばちゃん。
次来る時には瑪瑙の取引の話をしたいな。
一カ月も先の話ではなく、もっと早く実現したい。
カラダン達と男風呂で話をした販売会の企画の件もあるし。
おばちゃんはとっとと店の奥に引っ込んでしまったので、俺達は店を後にした。
昼食の時間を少し過ぎてしまったので、急いで自宅にワープした。
昼食の時間を過ぎているので、慌てて二階に上がって着替えることに。
イレーネが焦れているだろうし、ケリーとマリーも待ちくたびれているかもしれない。
双子が来てから初めての食事なのに遅刻してしまうとは何とも締まらない感じだ。
階下に降りると、俺が一番最後だったようだ。エネドラもカラダンも早いな。
俺が席につくと昼食が始まる。
食事の冒頭、ラファとヘルミーネ、ケリーとマリーの紹介をした。
朝はラファとヘルミーネの紹介をしなかったのでまとめてだ。
ラファは優雅に挨拶をして、ヘルミーネもそれに続く。
ケリーとマリーは元気よく『早く迷宮に行きたいです!』と抱負らしきものを語った。
ラファとヘルミーネは朝と変わらず、優雅に食事を取っている。
ケリーとマリーは前に出された料理に驚きながら、美味しそうに食べている。
剣術指南所は昼食はなかったのかもしれない。
二人は特別上品ではないが、下品でもない普通の食べ方。
ナナイに指導されていたのだろうか。
我が家はテーブルマナーに特別煩い訳ではないから、大抵の場合は問題ない。
美味しそうに食べてくれるのなら、それで良いのだ。
ヴィルマとイレーネの席がケリーとマリーの近くになり、四人でバーナ語で盛り上がっている。
ターヘラの師匠との戦いの件でも語り合ってるのだろうか。
賑やかな食事でラファ達とは対照的だ。
イレーネが双子に自分の肉を皿から取り分けて渡している!
よく聞こえないが、『おねぇちゃん・・・・・・です』と言っているのだろうか。そんな訳ないか。
次の食事から、あの四人娘の皿に肉を多く配膳する必要があるかもしれない。
「旦那様、夜の会議終了後、カラダンのジョブの件を相談させて下さい」
「分かった。会議が終わったらカラダンも呼んでくれ」
午後からラファ達とジョブの話をすることになっている。夜はカラダンか。
この前まで、なんちゃって経営コンサルタントだったのに、今度はなんちゃって転職エージェントだな。
働く先は、全て我が家なのだが。
我が家に奴隷を迎え入れる度にやってるから今更か。
・・・・・・
食事を終えて、二階の談話室でラファ達と話をすることにした。
この二人の今のジョブは巫女Lv4、戦士Lv32だ。
相談事というのはジョブの変更だろうか。
「私は巫女のジョブで引き続き、迷宮で活躍していきたいと思っています」
「私は戦士ではなく、探索者で経験を積んで将来は冒険者のジョブに就きたいと思っています」
二人は希望を俺に伝えてきたが、それで良いのだろうか。
「ラファは何故、巫女なのだ?」
「レドリックさんという方にタケダ家で今一番求められているジョブが何かをお聞きしました。
迷宮で回復出来るジョブが必要ではないかとおっしゃられたので、
今就いている巫女でタケダ家に貢献したいと思いました」
それは、タケダ家の希望であってラファの希望とは違うのではないのだろうか。
「ヘルミーネは何故、探索者、冒険者なのだ?」
「エネドラさんにラファ様と同じように質問しました。
タケダ家は商売を拡大しようとしているので、
冒険者のジョブが今後は必要になるとおっしゃられました。
レドリックさんからも、タケダ家がパーティを複数所有するのなら
探索者や冒険者のジョブを持つ者がもっと必要になるだろうと話されてましたので」
ラファと同じか。これは俺の説明や指示が悪かったか。
「まずは、二人は俺のパーティに入ってもらえないだろうか?」
パーティ編成の詠唱をして、二人を俺のパーティに加入してもらった。
「ラファは魔法使いではなく、巫女のジョブを鍛えるということで本当に良いのか?」
「ヘルミーネ!あなた、私に相談なくユキムラ様にお話ししたのですね?」
ラファは険しい顔でヘルミーネを見据える。
ヘルミーネはギョッとした顔で狼狽している。
「いえ、私がラファ様に断りもなく、そのようは事をお話しする訳がないじゃないですか」
「では、何故、ユキムラ様は知っているのですか!私とあなた以外が知らないことを」
俺がカマをかけていたら、駄々洩れで分かってしまうじゃないか。
大丈夫か、こいつら。
やっぱり小芝居を見ているように思えてしまうな。
ラファのジョブを魔法使いに変更。
俺はラファの左腕を持ち、『インテリジェンスカード、オープン』と無詠唱で唱えた。
「ラファは今、魔法使いだな」
なんか、アミルを鍛冶師にした時の事を思い出してしまった。
ジョブが魔法使いになったインテリジェンスカードをラファに見せた。
「な、何故、ジョブが魔法使いに。
いえ、そもそも何故インテリジェンスカードが・・・・・・」
まだ、エネドラは説明していなかったのだろうな。急だったし。
「俺はパーティに入っている者のジョブを自由に変更できる特殊なスキルを持っている。
だから、ラファが取得したジョブに魔法使いがあることを知っていたし、
実際に魔法使いに変更することもできるのだ」
「そうだったのですか。ギルド神殿のような事が出来るのですね。
フフっ、エレーヌの神官のお話みたいですね。
あっ、でもインテリジェンスカードを表示させることは何故?」
ラファも冷静だな。あと今なんか気になることをしゃべっていたな。
「俺が騎士のジョブを持っているからだ。
騎士のジョブの取得方法はラファ達も知っているだろう?
俺はその条件を既に満たしている。
もちろん貴族でもないし、貴族の配下でもないから正式に騎士に任命された訳ではない。
騎士のジョブを取得する条件を満たしていたから、
スキルを使って騎士のジョブに変更したということだ」
「なるほど、そういうことだったのですね」
そういうことなのだけど、簡単に納得できることなのだろうか?
「ヘルミーネ、あなたを疑ってごめんなさい。この通りです」
ラファがヘルミーネに頭を下げると、今度はヘルミーネがあたふたし始めた。
「ラファ様、頭を上げてください。私はなんとも思っておりません」
いやいや、さっきはかなり困惑していた気もするけど。まあ、今もか。
俺のやった事でこんなことになったから、少しだけ申し訳ない気持ちはある。
でも、少しだけチクルスの気分が味わえたような。
「さっき、ラファはエレーヌの神官って言っていたか?エレーヌの神殿ではなく?」
「エレーヌの神殿は本人に最も適性のあるジョブに就けるとされています。
そのギルド神殿がある地にエレーヌの神官というジョブを持つ者が居るというお伽噺ですよ。
エレーヌの神官というジョブを持つ者は人間でありながら、
自由にジョブを変更できるという子供向けのお話なのです」
お伽噺なのか。鬼人族もお伽噺だったよな。
俺からすると、この世界はファンタジーなのだけど。
自分の左腕を突き出して、『インテリジェンスカード、オープン』を無詠唱で唱えた。
ジョブが百鬼夜行になったインテリジェンスカードをラファ達に見せた。
「俺のジョブはエレーヌの神官ではなく、百鬼夜行というものだ。
鬼人族の種族固有ジョブの鬼武者というジョブを鍛えると、
百鬼夜行のジョブに就けることがあるようだ」
「ユキムラ様のジョブは冒険者ではなかったのですね。
百鬼夜行というジョブは初めて知りました」
知ってたら、俺もビックリだけどな。
でも、お伽噺で貴族の中で伝わってることもあるかもしれないから、バカにせずに情報収集をした方が良いのかな?
「俺は迷宮でいろいろなジョブに変更しながら自分のジョブを鍛えている。
百鬼夜行はもちろんだが、冒険者のジョブも鍛えている。
その時々に応じて、自分の鍛えたいジョブを選択している訳だ。
もう一度、質問するがラファがやりたいジョブは巫女なのか?それとも魔法使いなのか?」
「・・・・・・」
ラファは黙ってしまった。
でも、それが答えの一つなのではないのだろうか。
自分のやりたいことを我慢するのは、いつか限界がくるから止めてほしい。
これから相談しながら、ラファ達がやりたいジョブに就けるように相談に乗らねば。
やっぱり、なんちゃって転職エージェントだな。
「ちなみに、我が家で鍛冶師をやっているアミルという者は
この家に居る時は鍛冶師で装備品を生成したり、モンスターカード融合をしているが
迷宮に居る時は冒険者で戦っているぞ」
「えっ、そんなことが・・・・・・」
隻眼のジョブがなかなか取れないから、そんなことをしているのだけどね。
「だから、ラファがやりたい事とタケダ家に貢献できることを考えて、
巫女だけをやる、魔法使いだけをやる、両方のジョブを鍛える、
その3つ選択肢があると思っている。
巫女か魔法使いかではなく、2つの道を歩くことだって出来るのでないか?
ラファはまだ若いのだし、両方鍛えても活躍できるかもしれないぞ。
回復系のジョブが居ない時は巫女をやり、居る時は魔法使いをやっても良いのでは?」
「そ、そうなのですね。そんな選択肢が与えられるとは想像できませんでした」
普通にそんなことを考えていたら、誇大妄想になってしまうからね。それは仕方ない。
「もう少し考えてみたらどうだ?
別に今すぐ決めなければならないと思わないし、一度決めたからって変えてもよいのだし。
我が家に来た連中には皆、同じようなことを俺は言っているぞ」
「そうですね。もう少し考えてみます」
時間はあるから考えてみてくれ。
特にラファ達は人生が急に目まぐるしく変わって翻弄されてしまっているのだから、じっくり考える時間が必要だろう。
「ヘルミーネはどうなのだ?騎士のジョブではなくて良いのか?」
「騎士のジョブは任命されないで就くようなものではないので・・・・・・」
まあ、騎士のジョブの方はイロイロと面倒なことが多いだろう。
「そうだな。
確かに騎士のジョブは正式に就任しないと面倒ごとを引き起こす事があるかもしれないな。
先程も言ったが、俺も騎士のジョブを持っている。
だけど、俺は自分の大切なモノを守るために必要に迫られたら、
ジョブを騎士に変えて守ることを選択するぞ。騎士のジョブが本当に必要ならな」
「そうなのですか?
私は・・・・・・ラファ様を守りたい・・・・・・でも、どうしたら良いのか」
実際には騎士のジョブはあまり使いたいとは思っていないから、たとえ話だ。
「ヘルミーネも今は探索者のジョブを鍛えて、冒険者を目指すとして、
冒険者になれて暫くしたら、騎士のジョブのことを考えても良いのではないか?」
「アハハ・・・・・・その頃は私はお婆ちゃんになっていますよ」
いやいや、タケダ家のパワーレベリングを舐めてもらっては困るな。今は言わないけど。
「そうかな?
ベイルに28才の女性騎士を『姫様』と呼ぶ54才の爺さんの騎士が居るぞ」
「そんな人が居るのですか!では、私も・・・・・・いや・・・・・・」
ラファ達の年齢差は13才だから、塩爺の例は適切ではないか?
それにしても、塩爺を例にしてジョブの説明をする日が来るとは思わなかった。
この後、今日は会うのだけど吹き出して笑わないように注意しないとな。
「分かりました。私は当面、探索者を鍛えて冒険者を目指します。
騎士については、もう少し考えてみたいと思います。
それとは別に、自分の戦う技に磨きをかけていきたいと思います」
「そうか、分かった。相談したいことがあれば、いつでも言ってくれ。
ヘルミーネのジョブは今、探索者に変更した。探索者Lv14だな」
探索者のレベルを言い当てられて、ヘルミーネが驚いている。
これで、ヘルミーネの方は少しは落ち着くかな。
「私も暫くは巫女で頑張ります。魔法使いも併用するかは、もう少し考えさせて下さい」
「ああ、分かった。急いで決めることではないから、よく考えてみてくれ」
パワーレベリングで上位のジョブが取れてしまったら、考え直すかもしれないな。
まだ二人とも、我が家に来たばかりだ。ゆっくり構えよう。
それでも実力ある探索者と回復役の巫女が加わったのは、かなりの戦力アップになるだろう。
最近迷宮には魔物部屋での証拠隠滅作業でしか入っていないが、パワーレベリングのためにも迷宮に行かなければな。
まだバタバタしている感じだが、迷宮組の探索開始に向けての計画もそろそろ立てなければ。