内政管理室のオペレーターから報告が上がってくる。
「トリニティ学園内部での混乱の沈静化、完了しました」
「トリニティ、ゲヘナともに声明を発表。テロリストによる脅威を、組織の内外に伝えています」
「現地のトリニティ戦力は30%まで消失、ゲヘナの戦力は50%を維持です。支援要請が入っています。神秘覚醒者と非覚醒者のチームが既に待機しています。命令があればすぐにでも」
「ゲヘナに関しては空崎ヒナが現地で、敵性存在に対して抵抗を続けています。他の隊員の存在は確認できません」
「敵性存在の情報を取得しました。ユスティナ聖徒会の守護者です。無限の出現、多様な武器種、一定の水準の性能を保有します。これに指示を出しているのはテロリストです」
その情報を受けて、藍染は紅茶を優雅に飲む。そして落ち着いた声色で言う。
「……ミレニアムの自律兵器を全て投入、その後空いた空白地帯から順に救助活動を行っていく。学園の所属は問わず救助すること。守護者やテロリストは覚醒者を当てて、護衛させる。守護者やテロリストの戦力がどの程度か分からないが、トリニティがこの程度で落ちることなど無いと見せてあげると良い」
「はい! 了解です!」
藍染は席を立ち、内政管理室から出ていく。
「浦和ハナコ、ついてくると良い。君に優しい世界を作ると語った者の力を見せよう」
「……指揮系統は良いんですか?」
「遠距離からでも可能だ。何も問題はないよ。ところでハナコくん、君は戦えるかい?」
「これでも戦力評価はA評価です」
「流石だ。といっても、君が出る幕は無いだろうが」
藍染はハナコの手を握る。
「離してはいけないよ」
その場から消える。そして現れたのはエデン条約の調印式会場の古聖堂だった。そこは既に火災、崩落による瓦礫の山、テロリストからの攻撃と被害者の悲鳴でひどい有様だった。
「少し、どいてもらおうか」
その一言とともに、藍染の神秘が解放され、炎が消え、テロリスト達は意識を失い、大地に伏せる。
残った瓦礫の山を押し退けて、中にいる人物を取り出す。
ハナコは驚く。
「桐藤、ナギサ……!」
「現状を打破するには、現政権のリーダーである彼女の言葉が必要だ。神秘圧によって、その位置は理解できてた。あとはこうやって物理的に救えれば、準備は整う」
藍染は桐藤ナギサの頬を叩く。
「起きたまえ、ナギサくん」
「う……、貴方は」
「君にはするべき仕事がある。それを終えるまで退場をしてもらっては困るんだ」
「藍染……ッ!!」
意識が回復した桐藤ナギサは反射的に藍染に掴みかかろうとする。しかしそれを浦和ハナコが反射的に止めていた。
「浦和ハナコです。ナギサ様と藍染さんの間にどんな確執があるからは分かりません。ですが、今は多くの人命がかかっています」
浦和ハナコの話を聞いた桐藤ナギサは、目の前で軽く手を叩き、言う。
「切り替え。ありがとうございます、浦和ハナコさん。冷静になれました。現状の報告と、必要なもの。改善の方法は?」
「壊滅状態。故に大義と命令権が必要となる。それを天挺空羅で伝え、反撃を開始する」
「わかりしました。演説はアドリブでやりましょう」
その言葉に、藍染は笑う。
「優秀だ」
「私を棄てたことを、後悔させてあげますよ」
藍染は満足そうに頷き、大きく息を吸って、言う。
「天挺空羅」
◆
『私は桐藤ナギサです。トリニティ総合学園のティーパーティーのホストをしています。長い困難を乗り越えて締結される予定だったゲヘナとの平和条約は、愚かで暴力的、生きている価値は何もないテロリストによって破壊されてしまいました』
『しかし、私達は諦めません。今回は駄目だった。ならば次のエデンを目指して再臨しましょう。その為には、テロリストの排除と、被害を受けた者達の救済が必要です』
『皆さんの力を貸してください。お互いに気に入らない部分や、苛立つ部分はあるでしょう。しかし、今この時だけは誰かの明日を守るため。何の制約や規定は存在しなくとも、共に戦うことはできる筈です』
『トリニティの皆さん、ゲヘナを救いましょう』
『ゲヘナの皆さん、トリニティを守ってください』
『共に、この危機に瀕したこそエデン条約の実現を謳うのです!』
◆
天挺空羅が解除される。
藍染は拍手する。
「素晴らしい演説だ。天挺空羅は脳内へ直接語りかける神秘だ。これを聞いて、奮い立たないものはそうはいまい」
「お世辞でも有り難く受け取ります。では、あとは私はトリニティ総合学園に戻って指揮系統を管理します」
「頼もしいね。体の傷は痛まないのかい?」
「痛みます。ですが、それに甘えて戦えないほど弱くはありませんよ」
エデン条約への巡航ミサイル着弾。
それに伴う大きな混乱は、二つの勢力による反撃で収束しようとしていた。
藍染は自らの秘密基地に戻ると思考を巡らせる。
(エデン条約の破壊、それに伴う大規模な陽動の対処と、ベアトリーチェによるエデン条約の簒奪は完了した。あとはブルーアーカイブ宣言だが、それは起こらない)
藍染は、机を指で軽く叩く。
(浦和ハナコの不在と、先生の未登場により補習授業部は機能不全に陥り、大きな行動をできるための関係値を構築できていない)
机を指で叩く。
(ブルーアーカイブ宣言……ユスティナ聖徒会に関しては既に対処を終えている。月島が『挟む』んでいるので、私にも利用可能だ。ならば後の問題はベアトリーチェとロイヤル・ブラッドによる儀式の阻止)
机を指で叩く。
(そのためには、カタコンベ内部にある無限回廊を素通りするパスワードと、出入り口の確保が必要だ。パスワードは随時変更され、出入り口は多すぎる……必要なのは)
そこで、藍染の前に紅茶が差し出される。
「珍しいですね、藍染さんがそこまで取り乱すのは」
「考え事をしていてね、ハナコくん。有り難く頂こう」
紅茶を飲み、言う。
「素晴らしい腕だ」
「ありがとうございます。何について考えていたんですか?」
「テロリスト達はこれから大規模な儀式を行う。それを阻止する必要があるが、その道中にある困難についての対処に苦慮している」
「具体的には?」
「テロリストはカタコンベ内部にある無限回廊を利用して、自らの拠点や高い機動力を発揮している。これを占拠するにはキヴォトス中にある出入り口の確保と、それを利用するパスワードの確保が必須要項となる」
「カタコンベと、パスワード」
藍染と浦和ハナコは共に考え込んだ。
◆
血塗れのアリウススクワッドがそこにはいた。
覚醒した神秘保有者を連れた月島が、アリウスを追い詰めている。
「もう良いよ、みんな。あとは僕が仕上げよう」
地面に倒れながらサオリが言う。
「貴様は、何者だ……! マダムの話にこんな戦力は……!」
「辛い幼少期、仲間との絆、苦しい現実。大丈夫。すぐにそれは最初から無かったことになるから」
月島の神秘は『ブック・オブ・ジ・エンド』
相手に過去を挟み、改変する。