藍染エミュレーション!!   作:あばなたらたやた

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エデン条約③

 

 トリニティ総合学園の奥に隠された秘密基地は、まるで別の時代から切り取られたような空間だ。革張りのソファ、薄暗い照明、古びた本棚に並ぶ本――ジャズの音色が静かに響き、キヴォトスの喧騒を遠ざける。

 

 この聖域で、藍染は椅子に腰掛け、目を閉じる。彼の姿は、まるで瞑想する賢者のように静かだが、その存在感は部屋全体を支配する。月島は気怠げにソファに身を預け、軽妙な口調で藍染に話しかける。

 彼女の言葉には、どこか試すような響きがある。

 

「不安かい?」

「何故、そう思った?」

「ベアトリーチェの動きがないからさ。僕がロイヤル・ブラッド……秤アツコを保有してしまっているから、次の手を打ち損ねている。そう考えることはできないかい?」

「確かに。そう考えるのは適応的な思考と言えるだろう。しかし考えることをやめるのは緩やかな死だ。考え続けなければならない」

「それで疲れちゃったら、本末転倒だと思うけど」

「……そうか、君の言う通りだ。適度な休息があってこそ、思考は明快となる」

「話し相手なら、ハナコちゃんやアヤメちゃんが良いと思うよ。僕はアリウススクワッドと一緒に残党狩りを楽しんでいるから、ちゃんとコミュニケーションとりなよ?」

「君が弱いもの虐めが好きだとは意外だな」

「違うさ、友達と一緒にゲームするのが楽しいんだよ」

「昔からの友人は大切にすると良い」月島は軽く手を振り、

 

 扉をくぐって部屋を後にする。彼女の足音が遠ざかると、秘密基地に静寂が戻る。藍染は目を閉じたまま、微かに微笑む。

 

 月島の軽妙な言葉の裏に潜む鋭さ、彼女の試すような態度は、彼にとって心地よい刺激だ。だが、今、彼の頭の中は、キヴォトスの未来を巡る複雑な盤面で埋め尽くされている。

 

 エデン条約、ベアトリーチェ、ブルーアーカイブ宣言――全てが、緻密に計算された彼の計画の一部だ。エデン条約の破壊から数日が経過した。

 

 トリニティ総合学園の周辺は、まるで戦場のような混乱に包まれている。巡航ミサイルの着弾とテロリストの攻撃によって生じた瓦礫の山、その下にはまだ救出を待つ者たちがいる。トリニティとゲヘナの合同部隊が、復旧作業と救助活動に追われる中、空気は緊張と苛立ちで張り詰めている。

 

 瓦礫の間で、トリニティの生徒とゲヘナの生徒が火花を散らす。

 

「おーい、こっちの瓦礫を砕くぞー、退避してくれ」

「瓦礫を砕く!? ゲヘナは雑過ぎるでしょう!?」

「トリニティのお嬢様方は繊細過ぎるんだよ! デカいものわざわざ運ぶなら壊したほうが良いだろうが!!」

「下に人がいたらどうするんですの!?」

 

 いがみ合う声が響く中、浦和ハナコが静かに割って入る。彼女の声は穏やかだが、確かな威厳を帯びている。トリニティの政治に疲れ、自身の追放という重圧を背負いながらも、彼女は現場監督官としての役割を果たす。

 

「皆さんの不満も分かりますが、お互いに抑えていきましょう。まだ瓦礫の下敷きになって動けない方がいるかもしれませんから」

「チッ」

「はぁ」

 

 トリニティとゲヘナの生徒たちは、不満を押し殺しながら作業に戻る。ハナコの背後で、藍染が静かに現れる。彼の姿は、まるで影のように滑らかだ。

 

「ハナコくん。頑張っているようだね」

「藍染さん……何かご用事が?」

「頑張っている様子を見に来たんだ。無理はしていないかい?」

「はい、大丈夫です。私は」

「私は……ということは、気になる人でも?」

「補習授業部の方々が少し……私のボイコットで、ナギサ様の設定した条件をクリアできなかったそうで」

「それは……確かに気になるだろうね。ならば君もトリニティから追放かい?」

「はい、追放でしょうね。でもアヤメさんが百鬼夜行に誘ってくださっているので、それほど問題はありません」

「分かった、ナギサくんに交渉してみよう」

「すみません、お願いします」

 

 藍染はハナコに軽く頷き、トリニティの白亜の校舎へと向かう。その背中には、まるで全てを見透かすような静かな自信が漂う。ハナコは彼の背を見送りながら、胸に複雑な感情が渦巻く。

 

 彼女の追放、補習授業部の失敗、そして藍染の計画――全てが、彼女の心に重くのしかかる。だが、彼女は立ち止まらない。トリニティの政治という戦場で、彼女は再び仮面をかぶる。

 

 トリニティの校舎は、豪華絢爛な白亜の城だ。だが、その美しさの裏には、策略と駆け引きが渦巻く。桐藤ナギサの部屋に足を踏み入れた藍染は、まるで古い友と対峙するように落ち着いている。ナギサの瞳には、疑心と疲れが宿っている。

 

 彼女はトリニティの領主として、盤石の支配を誇るが、その心はどこか脆い。

 

「ようこそ、藍染さん。アポイントも取らず訪ねてくるとは、少し礼儀を知らないのではありませんか?」

「それはすまない。自己嫌悪に浸る時間を邪魔してしまったかな、ナギサくん」

「さて、何の話でしょうか。私の歩む道に間違いないどありませんよ」

「自らの心を偽るのはやめたまえ。それはいつか、本当になる」

「ご自慢の知識ですか?」

「経験則だよ」

 

 二人の会話は、まるで剣戟のように火花を散らす。ナギサの虚勢は、藍染の冷徹な言葉の前に崩れる。彼女はため息をつき、仮面を脱ぐ。

 

「何やってるんでしょう。やめましょうか。不毛です。バカみたい」

「そうだね、君と剣を交えても何も改善しないだろう」

「それで、何の御用ですか?」

「補習授業部だ」

「ああ、全部白紙にしておいたので、気にしなくて良いですよ」

「それは……随分と強権を使ったね。道理ではないだろう」

「良いんですよ、別に。私の演説を聞いて、そういう細かいことを気にする人はいません。私の支配は盤石ですよ」

「そういう事なら、何も言うまい。しかし強権は使えば使うほど、その身に返ってくる。使い方には気をつけることだ」

「ご忠告、感謝します」

 

 ナギサの瞳に、僅かな動揺が走る。藍染の言葉は、まるで彼女の心の奥底を突く。彼女は最後に、静かに問う。

 

「貴方の目的は?」

「私かい? 世界平和さ」藍染の答えは、軽やかだが、底知れぬ深さを孕む。ナギサは小さく頷き、視線を落とす。部屋に静寂が訪れる。藍染は静かに部屋を後にし、白亜の校舎を抜ける。彼の背中には、キヴォトスの未来を握る者の自信が漂う。

 

 

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