藍染エミュレーション!!   作:あばなたらたやた

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過去のわだかまり

 

 連邦生徒会の防衛室長室は、冷たく無機質な空間だ。

 白い壁、金属製のデスク、そして窓から見えるキヴォトスの空は、まるでこの部屋の主の孤独を映し出すよう。不知火カヤは、その中心に座り、深いため息をつく。

 

 エデン条約が締結された今、彼女の肩には連邦生徒会の防衛室長としての重圧がのしかかる。ユスティナ聖徒会の運用権限が行方不明という事態は、彼女の計算を狂わせ、苛立ちを募らせる原因となった。

 

「……エデン条約は締結。しかし肝心の強制執行を行うユスティナ聖徒会の運用権限は行方不明。困ったことになりましたね、どうも」

 

 カヤの声は、静かな部屋に虚しく響く。彼女の手にはコーヒーカップが握られ、渇いた喉を潤すその仕草には、疲れと焦りが滲む。トリニティもゲヘナも、彼女の目には頼りなく映る。だが、カヤの心は揺らがない。彼女は自らを「超人」と呼び、キヴォトスの混沌を掌握する自信に満ちている。

 

「トリニティもゲヘナも、大したことありませんね。その程度のことも出来ないなんて」

 

 カップを置き、カヤは目を閉じる。彼女の頭脳は、すでに次の手を組み立てている。カイザー、SRT、懐柔した連邦生徒会――駒は揃いつつある。彼女の野心は、キヴォトスを自らの掌中に収めることだ。

 

「大丈夫。私なら……超人なら、できる」

 

 と呟くその瞬間、意識にノイズが走る。目眩とふらつきが彼女を襲い、目を開けた先には、あり得ない人物が立っていた。ベアトリーチェ――ゲマトリアの黒幕。その存在感は、まるで部屋の空気を毒に変えるようだ。

 

「貴方は? どうやってここに? ここは防衛室長室ですよ」

「この程度は造作もないわ。ねぇ、防衛室長。貴方を超人と見込んでお話があります。どうでしょう? 超人の叛逆に役に立つと約束しましょう」

「トキめくね」

 

 カヤの唇に、危険な笑みが浮かぶ。ベアトリーチェの誘いは、彼女の野心に火をつけた。

 

 

 古びたアンティークの家具が並び、ジャズの音色が静かに流れるこの空間は、まるでキヴォトスの喧騒から隔絶された異世界だ。

 

 藍染惣右介と浦和ハナコは、紅茶とお菓子を前に、穏やかに言葉を交わす。だが、その会話の裏には、キヴォトスの未来を巡る重い現実が潜む。

 

「補習授業部の件は白紙になったらしい。だから心配しなくても大丈夫だよ」

「そうですか。ナギサさんも無茶しますね」

 

 ハナコの声には、安堵と微かな疲れが混じる。藍染の微笑みは、どこか計り知れない深さを孕む。

 彼女たちの会話は、まるで水面下で進行する策略の断片だ。

 

「桐藤ナギサさんとの因縁って、何なんだったんですか?」

「簡単に言えば人体実験計画の協力者さ。最後で僕が彼女を切り捨てたから、怒っているのだろう」

「具体的には?」

「神秘覚醒や、レベル上げ、それにスキル上げのことだ。神秘覚醒とは存在として一段階上の状態へ移行すること。レベルとスキルは言葉通りだ」

「それで、何故切り捨てたんですか? 共に計画を進めていたんでしょう?」

 

 藍染の顔に、苦笑いが浮かぶ。その瞳には、過去の選択とその重みが映る。

 

「計画を進めていくうえで我々にはテラー化と呼ばれる形状変化があることがわかった。反転、恐怖化とも訳される。これは不可逆的な現象なのだが、それを越えて制御しようという派閥と、防御対策に力を注ぐべきという派閥に分かれてね」

「藍染さんはどちらに?」

「当然、防御対策だ。無論、いつまでもそういった状況に甘んじるわけではなく、時期尚早という判断だったがね。そしてナギサくんは制御を試みようとした」

「ナギサさんが? 意外ですね、彼女は保守的ですから、てっきり防御対策派閥かと」

「当時は2年生だからね。野心があった。超越存在へ至るためのプロジェクトに邁進するナギサ君に対し、僕は彼女の未来での立ち位置を考え、予算の凍結、プロジェクトの停止、派閥の解体を行った」

 

 ハナコの瞳に、理解と共感が宿る。ナギサの怒り、その裏にある裏切りと失望。藍染とナギサが共有した過去は、まるでキヴォトスの闇そのものだ。共に人類の進化という壮大な夢を追い、罪を背負った二人の絆は、藍染の決断によって断ち切られた。

 

「桐藤ナギサのプロジェクトを止めた。それで彼女に恨まれるのは予想内ではあったのだが、予想外の出来事もあった」

「何がです?」

「彼女は、プロジェクト停止そのものではなく、僕から事前の説明がなかったことを今も恨んでいるようなんだ」

「へぇ」

 

 ハナコは、ナギサの気持ちを理解する。藍染の完璧な仮面――頭が良く、優しく、頼りになる先輩という姿。その下で共に計画を進め、プライベートでも交流があったならば、突然の裏切りは、憎しみに変わるのも当然だ。ハナコ自身の心も、藍染への信頼と、どこか掴みどころのない彼への複雑な感情で揺れる。

 

「それでどうしたんですか?」

「話は終わりだよ。人類進化のプロジェクトは停止し、桐藤ナギサは3年生となりティーパーティーの一員へ、私は留年して同学年へ。そして、こうしてトリニティを脅かす存在に対して頭を悩ませているわけだ」

「なるほど。ベアトリーチェ、でしたか? 悪い大人は」

 

 ベアトリーチェ――ゲマトリアの黒幕。エデン条約の破壊を企て、キヴォトスを混沌に導く存在。彼女の影は、まるでキヴォトス全体を覆う暗雲だ。

 藍染の瞳に、冷徹な光が宿る。

 

「どこで、何をしていたとしても、我らの勝利は揺るぎない」

 

 藍染の言葉は、まるで勝利を確信する宣言だ。秘密基地の静かな空気の中、ハナコの心に、決意が灯る。ベアトリーチェを倒し、キヴォトスの未来を守る――その戦いは、すでに始まっている。

 

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