喫茶店の窓辺に差し込む夕暮れの光は、まるで世界を柔らかく包む薄いヴェールだ。トリニティ総合学園の喧騒から逃れたこの小さな空間で、浦和ハナコと藍染惣右介は、言葉を交わす。
カップから立ち上るコーヒーの香りが、二人を包む静かな空気を彩る。ハナコの瞳には、知性と純粋さが交錯し、藍染の微笑みには、深遠な思惑が隠れていた。
二人の会話は、まるで知恵と信念が軽やかに剣を交える舞踏のようだ。
主人公とは何か――その問いを巡り、互いの心が探り合う。
「ふふ、藍染さん。あなたにとって『主人公』とは、どんな存在だと思いますか? 私、ちょっと気になっちゃって。私の考えでは、主人公って『困難に対して解決策を有する者』だと思うんです。どんな問題でも、冷静に、賢く、解決の糸口を見つける人。それが物語を動かす鍵だと思うんですけど、どう思います?」
「ふむ、興味深い定義だ、ハナコ君。確かに、解決策を見出す知性は重要かもしれない。だが、僕が思う主人公とは少し異なる。主人公とは『勇気を持ち、未知に挑み、前へ進む者たち』のことだ。困難を前にしても立ち向かい、己の信念を貫き、運命を切り開く者。それが物語の中心に立つ者の本質だと、私は考える」
ハナコはいう。
「へえ、勇気と信念、ですか。カッコいいですが、ちょっと熱血すぎる気がしちゃいますね。だって、未知に挑むだけじゃ、解決できなかったらただの無謀じゃないですか? 主人公は、ちゃんと計画を立てて、頭を使ってピンチを切り抜ける者。たとえば、キヴォトスの難しい状況でも、貴方はいつも冷静に道を見つけるでしょう? それって、主人公の条件にぴったりだと思いますよ」
「計画と知恵か。悪くない。だが、ハナコ君、君の言う僕にも、時に計画を超えた行動を取っていないか? 未知の領域に踏み込む勇気がなければ、どんな知恵も机上の空論に終わる。僕の経験では、ある少年がいた。彼は無謀とも言える行動を繰り返したが、その度に新たな未来を切り開いた。知恵だけでは到達できない高みがある。それが主人公の力だ」
藍染は落ち着いている。
「確かに主人公といえば無茶なこと、しちゃうときありますよね。藍染さんの言う『勇気』って、そういう部分なのかな。でも、勇気だけじゃ危なっかしくて見てられないですよ。やっぱり、ちゃんと解決策を持ってる人が、私には主人公っぽく見えます。複雑な人間関係とか、キヴォトスのトラブルとか、頭使ってスッキリ解決してくれる人とか」
「ハナコ君、君の言う『解決策』は、確かに物語を安定させる。だが、安定だけでは世界は変わらない。私の理想とする主人公は、常識を壊し、未知の領域を切り開く者だ。勇気と信念がなければ、新たな秩序は生まれない。君の求める人も、時にはその一歩を踏み出しているのではないか? 無謀と知恵、その両方が揃って初めて、物語は輝く」
「ふふっ、藍染さんってほんと面白いですね。確かに、主人公にはそんな一面もあるかもしれません。じゃあ、こう考えたらどうですか? 主人公は『知恵で解決策を見つけ、勇気でそれを実行する人』! これなら、私の『解決策』と藍染さんの『勇気』、どっちも入ってますよね?」
「……ふっ、なかなか面白い提案だ。知恵と勇気の融合か。確かに、それこそが真の主人公の条件かもしれない。ハナコ君、君との会話は予想以上に刺激的だ」
だが、この穏やかな会話は、まるで嵐の前の静けさだ。藍染の次の言葉が、喫茶店の空気を一変させる。
「浦和ハナコくん、君に話がある。大切な話だ」
「藍染さん? なんですか」
「これからを左右する大きな計画の話だ」
「……それは一体」
「僕は、世界の敵になろうと考えている」
ハナコの心臓が一瞬止まる。藍染の声は穏やかだが、その言葉は雷鳴のように重い。彼女の瞳に、驚愕と不安が広がる。
「え?」
「多くの考えや立場が入り混じる世界で、ただ一つ人々が手を取り合うことができるのは、共通の敵だ。誰にとっても憎く、誰にとっても邪魔である共通の敵。それに僕はなろう、と考えている」
「待ってください、それが貴方の言っていた平凡な世界ですか?」
「その通りだ」
「論外です。考え直してください。そんなことは不可能ですし、そもそもそこまでする義理は藍染さんにはないでしょう?」
「君達の笑顔が見たい、それでは不足かな」
「そんな、理由で?」
「その通りだ。ほかにも理由がある。キヴォトスが壊滅する未来だ。我々はこれを原作と呼んでいる」
「原作……キヴォトスの壊滅する未来」
藍染の口から紡がれる言葉は、まるで暗い預言の書だ。
アビドス砂漠での白狼シロコのテラー化、
機械人形と魔王、
懐玉・玉折、
正義の在り処、
託す希望と砕く絶望、
二つの仮面と選ぶ本音――それらは、キヴォトスを滅ぼす運命の断片だ。ハナコの心は、混乱と恐怖で揺れる。
「すみません、ちょっと意味が……」
「……ああ、そうだね。少し詩的になってしまった内容ではあるが、複数のキヴォトス崩壊爆弾があると考えてほしい。それらを解体する上で、やはり悪役は必要となるものなのさ」
「それが、藍染さんが担う、と? 確かに共通の敵がいれば纏まるのは分かります。だけどそれだけでは」
「リーダーには月島にやってもらう。彼女ならば信頼も信用もできるからね。君にはその補佐をしてもらいたい」
「貴方を傷つける手伝いをしろ、と?」
「すまない、ハナコくん。僕もこういう形にはしたくなかった。君の弱みにつけこみ、その才覚を利用することになるからだ。最初は純粋に君が平凡な世界に触れる手助けをしたかった。しかし世界は予想外の方向へ転がっていく」
「……」
「だからこそ、私はこうして全てを話した。こうして中途半端な結果になってしまったことを申し訳なく思う。君を平凡な世界へ連れて行くこともできず、しかし見捨てることもできなかった僕の無能を許してほしい」
「…………貴方は、悪役となり、世界の敵となることで幸せになりますか?」
「君の笑顔が在ることが、僕の幸せだ」
ハナコの瞳が赤く染まり、涙がこぼれそうになる。彼女の心は、藍染の言葉に揺さぶられ、葛藤と決意の間で揺れ動く。
「選択する未来は決めたかい?」
「はい。私は藍染さんと共に歩みます」
「そうか。ならば悪役の反対である主人公役となる月島とも会っておくと良い。彼女ならば、君とも仲良くなれると思うよ」
ハナコは強い瞳で藍染を見つめ、宣言する。
「私は、藍染さんも幸せにしてみせます」
「その台詞は、自分が幸せになってから言うことだ」
その言葉に、喫茶店の空気が一瞬だけ温かくなる。だが、それは嵐の前の静けさに過ぎない。二人の道は、これから険しくなるだろう。
屋上の風は冷たく、トリニティ総合学園の喧騒を遠くに運ぶ。藍染と月島は、まるで巨大なゲームの支配者のように会話を交わす。
キヴォトスの未来を賭けた策略が、静かに進行している。
「たかが数週間の関係値で、よくもあそこまで言わせるほど心酔させるものだね。神秘とか関係なく。正直怖いよ。洗脳だよ」
「……顔のお陰かな?」
「良く言うね」
「ちゃんと返答を返すのであれば、あれはテクニックに過ぎない。閉鎖された環境で自身の有能さ故に周囲の低能さに苛立ち、しかしそれを表に出して拒絶する性格や、割り切ってコミュニケーションができるほどでもない未成熟な状態。そこに自分の考えや視点を理解し、道を示してくれる存在が顕現すれば、人は容易く依存する……無論、アドリブは必要だが理論上は誰でも可能なことだ」
月島は肩を竦める。
「それができる藍染の前世が気になるね。僕がハナコにはどういうスタイルで接するか考えないと」
「そのままで良いと私は思うよ。キャラクターを作りすぎてしまっては、それを察して適応してしまう子だからね。ハナコくんは。少し気怠げな力の抜けるお姉さんのような今の君が丁度良い」
「キヴォトスの人間は良くも悪くも真面目で融通が利かない。だからこそ子供らしく青春なんだけど、大人からみるとカモだというのがよくわかるよ」
「能力を持った子供ほど操りやすいものはない」
「なんかそれ、憧れは理解から最も遠い感情だ、とか、そういう系統でBLEACH本編でも言いそうだね」
「そうかい? ならば嬉しいが」
月島は、言う。
「浦和ハナコね。僕は結構、頭の良い子苦手なんだよね。サクサク過去を挟んじゃってるから、色々な矛盾を指摘できる人間が苦手なんだ」
「弱点は克服しなくてはね。どういう方向性に枝を伸ばすのかは考える余地があるが」
月島は言う。
「コピー&ペーストして、なんか良い感じに出会って、良い感じに過ごして、良い感じに仲良くなった親友! みたいなストーリー挟んでるから、矛盾指摘されて全部バレたら怖いよ」
「その時は君が悪役だ。人々の記憶を改竄し、私を陥れ、悪役に仕立て上げようとした黒幕だ。むしろ君はもともとそういう役どころだろう? 黒崎一護に殺意を抱かせた唯一の人間だ。その点において称賛に値する」
「死ぬのは嫌だね。助けてよ、友達だろう?」
月島の信頼に、藍染は気安く応える。
「鏡花水月で雛森くんのようにすれば良いさ」
「そういえばあの雛森くんを替え玉にした時の一護くんに、早く止めろよ、という意見があるけど、無理だよね」
「藍染惣右介への一斉攻撃、しかも隊長格の連携での全力攻撃だ。それを瞬時に判断し、みんなが鏡花水月の支配によって錯覚していると理解して行動を止める言葉を吐く決断をするのは難しい」
「だよね。ちなみに僕、あれ好きなんだよね。ひよ里が神槍によって真っ二つになるの」
「あれは衝撃的だった。市丸ギンの怖さが引き立つ名シーンだろうね」
BLEACH談義は続く。
まりなちゃん最高だっぴ
高校生まりなちゃんは可哀想だし、小学生ブチギレまりなちゃんも好き