魂を満たす物語   作:よヨ余

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首魁との戦闘

私が中央広場についたときには、中央広場は地獄絵図と化していた。

 

体から多量の血を流し、横たわる相澤先生。相澤先生を地面に押さえつける脳がむき出しになった怪物。さっきの黒いモヤに、最初に瞳をのぞかせた多くの掌を付けたヴィラン。

 

「けどその前に……」

 

掌ヴィランがぼそぼそとつぶやくのが聞こえた。

 

 

「平和の象徴の矜持を、へし折って帰ろう!」

 

 

ヴィランが水面にいた蛙吹に掌を近づける。隣の緑谷と峰田も反応できていない。……いや、緑谷は反応はしていたが、体が間に合わない。

 

「スイッチボックス」

 

私はノートパソコンを生成し、操作を行う。緑谷、峰田、蛙吹、そして相澤先生の直下に円状のマーカーが現れ、私の周りにもそれらに対応するマーカーが出現する。

 

そして、ヴィランの掌が蛙吹の顔に触れる寸前、4人が私の周りに瞬間移動する。

 

「えっ!?」

「ケロッ!?」

「な、なんだよ!?なんなんだよ!!」

 

3人は突然の出来事に驚く。先生は驚く余力もないようだった。

 

私は先生の容態を確認する。

 

「よ、夜月さん!?なんで……」

「後にして」

 

骨か……。それもほぼ全身……。

 

「先生を治す。応急処置程度だからすぐに先生を入り口に避難させて。スイッチボックスも射程不足だし。黒モヤがここにいるのなら入り口は大丈夫なはず」

 

「な、治すって……」

 

私は緑谷に構わず、先生に正のエネルギーを注ぎ込み、骨折の治癒、皮膚の再生、止血まで処置を行う。

 

「……!傷が……!?」

「治った……?」

「呆けないで。早く避難。ヴィランも素直に待ってくれな……」

 

「脳無」

 

ヴィランの言葉に脳がむき出しの怪物がこちらに突進する。

しかし、怪物は私たちを害することもできずに私が設置したマーカーを踏み、元居た場所に移動する。

 

「……!……無駄だ。ここら一帯は私の罠を張り巡らせてある」

 

ブラフだ。罠を張り巡らせる余裕なんてなかった。間一髪スイッチボックス自体は間に合ったが、何個も仕掛けることはできない。

 

「なんだ……?あいつの個性、黒霧みたいなもんか……?」

 

ヴィランは私の個性について考察を始めた。この隙に私はみんなに呼びかける。

 

「早くいけ」

「夜月さんはどうするの!?」

「足止めに決まってるだろ」

「な…!?危険だよ!顔色も悪いし!」

 

緑谷も尾白と同じ反応をした。

……顔色が悪い…か。そんなつもりはなかったけど、どこかで恐怖しているのだろうか。

 

「どちらにしても危険だ。誰かが足止めをしなきゃいけない。私よりも弱いお前たちはできないだろう?私が適任だ」

 

「っでも!!」

 

緑谷はなかなか折れない。いや、緑谷だけじゃない。蛙吹も、峰田も、全員が納得していないようだった。

 

「……みんな。」

「……?」

 

私の急激な豹変にみんなが少し驚く。

 

「先生を任せるね。……後で絶対助けに来て」

「……!!!」

 

みんなは私の言葉に瞠目した。私の覚悟を感じ取ったのだろう。

 

「わかった!すぐに戻るよ!」

「気を付けてね」

「すぐにみんなもつれてくるぜ!!」

 

3人は私のお願いに素直に従い、先生を担いでいった。

……そうか。こうやってお願いすればいいのか。一つ賢くなった。

 

「さて、ヴィラン。私が殿(しんがり)だよ」

 

「へぇ、きみも格好いいなぁ。…………でも、君一人で3人を相手取るのかな?」

 

「しばらくはね」

 

ヴィランは私の余裕な態度にイラついたようだった。

 

「もしかして、さっきの奴らがすぐに戻ってくるとでも思ってんのかな?」

 

「もちろん」

「……へぇ」

 

私は弧月を生成する。

 

「脳」

「旋空弧月」

 

私は脳無と呼ばれた怪物を弧月で切り捨てる。脳無が右肩から両断されて、体と泣き別れになる。

 

「……!」

 

ヴィランと黒モヤは動揺しているようだった。それはそうだ。私は今、怪物とはいえ人の形をしたものを一刀両断したのだから。

 

「君、本当にヒーローの卵なの?」

「もちろん」

「嘘つけよ。ヒーローの卵が躊躇いなくぶった切るかよ……!!!」

 

ヴィランは自身の首を掻きながら愚痴る。

 

 

「……死体人形をぶった切っても問題ないだろう?」

 

 

「……!?」

 

そう。私が最初に意識を鮮明に保てなかった理由。この人形にはある細工が施されていた。おそらく、改造過程に伴った副作用。あるいは遺伝子組み換えの類。

 

……個性因子にある魂が混同していた。しかし、心臓に魂がなかった。

 

そんなものを見てしまったら、動揺して意識も保てなくなるものだ。

 

「その人形。複数の個性を持ってるよね?今見えてる『再生』の個性とほかに何か」

 

「……へぇ、そこまでわかるんだ。まいっか、教えても。そいつの個性は『ショック吸収』と『超再生』。打撃の衝撃はすべて吸収するし、仮に欠損しても今みたいにすぐに再生する。言ってしまえばオールマイトにも対応したサンドバッグってとこかな」

 

ヴィランはまるで新しく買ってもらったおもちゃを自慢するように言う。こちらとしては情報を引き出すことができて感謝だけど。

 

「アステロイド」

 

私は試しにアステロイドを脳無にぶつける。

 

「無駄だよ。無駄」

 

ヴィランがそう言って私の行動を嘲笑した後、脳無が動く。アステロイドのことは気にもかけていなかった。

脳無が繰り出した拳を間一髪で避け、グラスホッパーで弾き、脳無を元居た場所にまた戻す。

 

……しかし、相手は脳無だけではない。

 

脳無の後、ヴィランが黒モヤの霧に手を突っ込んだ。

黒モヤの霧が私のすぐ右に出現し、ヴィランの手が近づく。

 

私は弧月で受け止めようとしたが、それを察知したヴィランは咄嗟に手を引っ込めた。

 

「おっと、斬られるとこだった」

「…人間のことは斬らないよ」

 

軽口をたたいている間にも脳無が私に接近し、拳を私に振るう。

間一髪弧月で受け止めるが、先ほどのようには斬れなかった。やはり旋空でないと切断することはできないようだ。

 

脳無と鍔迫り合いのような真似をしていると、脳無と私の真横に霧が出現し、先ほどと同じようにヴィランの手が近づく。

 

「……テレポーター!」

 

私は咄嗟にテレポーターを発動し、脳無から離れ、危機を脱する。

 

「……やっぱりすごい個性だなぁ……剣に…、弾丸に…、テレポートに…、バネみたいななにか…、……ほかにはなにができるのかな……?」

 

危機を脱したとはいえ、一息つくことは叶わず、また三人が猛攻を仕掛けてくる。

 

……脅威なのは脳無だ。ほか二人の連携や体術も目を見張るものがあるが、脳無には敵わない。オールマイトの対策というのは、ヴィランの言葉と脳無の動きから見てもたしかだ。

 

ヴィランが私に接近し、何かを投げる。先ほど斬ったの脳無の腕だ。

弧月で弾いたが、その時にはヴィランが私に肉薄していた。

 

「エスクード」

 

私はヴィランとの間にエスクードを生成し、難を逃れる。

 

「……終わりだ」

「は……?」

 

その言葉の真意を考える間もなく、私のおなかに衝撃が走る。

 

「グフッ!!?」

 

私の目の前に黒モヤの霧が出現しており、その中から脳無の腕が見えた。

 

(手の奴と黒モヤの連携だけをチラつかせて……本命を悟らせなかったのか……!)

 

私は脳無の拳を受け、吹き飛んだ。

 

「フ、フーン……結構、いい動きじゃん……?」

 

「言い忘れたけど、脳無のパワーはオールマイト級だよ」

 

「ゴフ……察し…ついてるよ……」

 

私は起き上がり、おなかを抑えながら悪態をつく。

 

さて…どうしよ……っかな?

 

私が思案していると、急に入り口から轟音が響いた。

ヴィランがその方向に振り返る。その視線の先には……

 

「あー……、コンティニューだ……!」

 

オールマイトがいた。

 

「もう大丈夫。私が来た!」

 

オールマイトはいつもの笑みを浮かべておらず、その顔は激情に満ちていた。

オールマイトは即座に動き、私を抱え、入り口へと避難させた。

 

「夜月さん!!」

 

みんなが私のほうに駆け寄ってくる。緑谷たちの姿もいたため、先生の避難はもう済んだのだろう。

 

「遅くなってすまなかった。夜月少女。私が遅かったせいで君にこんな怪我を……。でももう大丈夫だ。あとは私に任せなさい」

 

オールマイトは私を地面にそっと置き、謝罪した。

 

「脳みそに……気をつけてください。あなた並みの力に……ショック吸収と超再生の二つの個性……」

 

「……!情報、ありがとう。有効に使わせてもらうよ」

 

私はオールマイトの言葉を聞いて、目を閉ざす。

 

 

 

そして、溶けるように意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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