目を覚ます。最初に視界に映ったのは馴染みのない天井だった。
真横に人の気配を感じ、上体を起こす。
「……緑谷」
「よよよよよ夜月さん!?」
「なんだその反応」
右を見ると、負傷した緑谷とオールマイトがベッドで横になっていた。両方とも口を大きく開けて驚いている。
「オールマイトも……私のせいで負傷させてしまい申し訳ありません」
「ななな何のことだい!?私は近くで負傷してしまった一般人だが!?」
オールマイトはあまりにも苦しい言い訳を並べる。緑谷もそれにコクコクと頷くが、それでだませると思っているのだろうか。
「魂的に同じ人なので意味ないですよ。誰かに言うこともないので安心してください」
「あ、そ、そうなの……」
オールマイトは私の言葉に安心したように息をつく。緑谷はなにかブツブツとつぶやいている。どこか近づきがたい雰囲気を醸し出していて怖い。
「おや、目ぇ覚めたのかい」
「リカバリーガール」
どうやらここは保健室らしい。リカバリーガールが処置をしてくれたようだ。
「動けるかい?治癒をしたから体力を奪っているけれど……」
「動けます。ケガも打撲程度で骨折はしてないので軽傷でしたし」
「そうかいそうかい。若いっていいねぇ」
リカバリーガールは必要な確認をして、私に帰宅許可をくれた。緑谷とオールマイトはもう少し療養するようだ。
「ありがとうございました」
「気を付けてお帰り。……と言いたいけれど、あんたの担任にあんたが起きたら会議室に呼ぶように言われてね。疲れてるだろうけど、行ってくれるかい?」
「……?はい、わかりました」
私が家路につこうとするとリカバリーガールがそう言った。相澤先生の要件は多分襲撃についてのことだろう。
「夜月さん!」
私が保健室を出ようとすると緑谷に呼び止められた。
「どうした、緑谷」
「……ごめん!」
緑谷は急に私に頭を下げた。
「…………は??」
何が?という目で緑谷を見ると、緑谷も言葉足らずだったと思ったのか言葉を紡ぎ始める。
「襲撃の時、助けられなくてごめん。僕が遅かったから夜月さんにけがを負わせて……」
「ああ、あれは私がヘマしたからだよ。私の怪我は私のせいだから緑谷が謝る必要はない」
「でも………」
緑谷は私の答えに納得せず、何か言いたそうにしていた。
「緑谷が納得してないのならそれでもいい。ただ、私としては相澤先生を助けてくれただけでも感謝してるし、お前のその怪我を見ても誰かのために個性を使ったのがわかる。お前はよくやったと思うよ。……ただ、どうしても納得しないなら、強くなってくれ。私に限らず、多くの人を守れるように。……一緒に頑張ろう」
「……!……うん!」
緑谷は私の言葉にハッとしたようなしぐさを見せ、私に頷いてくれた。納得とまではいかずとも、変に自罰的になることはないだろう。
「じゃあ、会議室行ってくるから。じゃあね」
「あ、うん!またね!」
私は緑谷にさよならをして、オールマイトとリカバリーガールにもお辞儀をしてから保健室を後にした。
「失礼します」
「来たか」
会議室の扉を開けると、そこには相澤先生以外にも、多くの先生がいた。
相澤先生に座るように促されたので、1つだけ空いていた椅子に座る。
「来てもらったのは襲撃の時のお前の状態に関してだ。避難の時に正気を失ったらしいな。さっき尾白にも聞いたが、火災エリアに入ってから正気を取り戻したそうだな。……何があった?」
先生は鋭い眼光で私のことを見る。ほかの先生も、事実を確認しようとしているせいか、真剣な目をしていた。
「私が正気を失ったのは脳無を見たからです」
「脳無……オールマイトが倒したやつか」
「脳無を見て思ったことは、死んでいる……その一言だけでした」
「死んでいる?」
相澤先生は私の言葉に疑問を抱く。
「はい。私には、生物の魂が見えます。その魂は人によって違いがあって、その違いで個人の判別をすることも可能です。普通、その魂は1つのみです。例外は存在しません」
「ツマリ……脳無ニハ魂ガナカッタトイウコトカ」
私はエクトプラズム先生の言葉に首を横に振る。
「あいつには個性に2つの魂がありました。個性も2つあったので間違いありません。その魂のうち、1つはベースの肉体のもので、もう一つは後から
「人為的に?」
「はい。魂は心臓と個性に宿ります。なので、
先生たちは私の説明を理解するために少しの時間を使った。根津校長先生はすぐに理解していたようだが。
「それが、人間じゃないという感想にどう繋がるんだい?」
「……あいつには心臓に魂がありませんでした。個性の方に、2つの魂があったのです」
「ッ!」
全員が息をのむ。
「おそらく、死体を改造して個性の付与と身体能力の向上を強要したのでしょう。その負荷に耐えきれずに脳が壊れてしまい、知性を失ったのだと思われます。……人間じゃないといいましたが、改造人間といったほうが正しいかもしれません」
「……」
校長を含め、全員が沈黙した。しかし、相澤先生はすぐに口を開き、私に問いかける。
「……なんでそんなに詳しいんだ?」
相澤先生の突っ込んだ質問にほかの先生方がギョッとする。先生方も疑問に思っていたことではあったはずだが、まさか誰かが聞くとは思わなかったのだろう。
「……見たことある気がするんです。はっきりとは覚えていませんが、幼少期に脳無に似た何かを」
「見たことがある?」
先生は私をじっと見る。私も先生の目をじっと見る。
やがて先生は私の目にウソはないと判断してくれたのか、信じてくれた。
校長からもお墨付きをもらい、ひとまずは私のことを信じてくれたようだ。
そして、先生たちに帰る許可をもらい、今度こそ家路についた。
襲撃が起きてからの初めての学校。教室の扉を開けると、みんなが私の周りに集まってきた。
「よ、夜月!?夜月が来たぞ!」
「復帰はえぇなおい!」
「大丈夫なの!?気絶したって聞いたけど!?」
みんなが私を心配してくれてるようで、わざわざ席を立ってまで私の周りに集まってきた。
「少し打撲した程度だから大丈夫だよ。リカバリーガールにもお墨付きをもらってるし」
みんなは私の言葉に安堵する。そのあとは飯田が「心配なのはわかるがそろそろ席に座るように!!」と言ってくれたので私も席に座ることができた。感謝。
教室のドアが開き、相澤先生が姿を見せる。
「おはよう」
「先生!体は大丈夫なんすか?」
「ああ、夜月とリカバリーガールのおかげでな。夜月、そういや礼を言ってなかったな。ありがとう」
「……いえ、私は応急処置しかしてないので」
私の発言に先生は不服そうにしていたが、言わなくてもいいことだと判断したのか流した。……骨折治しておいて応急処置なわけないか。
「お前ら、気ぃ抜きすぎだぞ。……戦いはまだ終わってない」
相澤先生の不穏な言葉に私たちは身構える。
「雄英体育祭が迫ってる」
「クソ学校っぽいの来たああああ!!!」
想像とは違った戦いに安堵し、一部の人たちは叫んだ。
「待ってください!襲撃されたばっかりなのに大丈夫なんですか!?」
「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石であることを示すって考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何より………雄英体育祭は最大のチャンス。ヴィランごときで中止していい催しじゃねぇ」
「いやそこは中止しよう?体育の祭りだよ?」
峰田がまともな意見を言う。しかし、開催をするということに関しては正解だと思う。
そもそも雄英体育祭とは、旧世代で言うところのオリンピックに匹敵するほどの盛り上がりを見せる。もし中止をすると世論の反感を買う恐れがある。また、多くのプロヒーローもスカウト目的で観戦しているため、私たちにとっても重要なのだ。
「資格獲得後はプロの事務所にサイドキック入りがセオリーだもんな」
「ああ、そして当然、名のあるヒーロー事務所に入ったほうが経験値も話題性も高くなる。プロに見込まれればその場で将来が拓けるんだ」
先生は私たちに目線を向けた。
「年に1回……通算3回だけのチャンス。ヒーローなるのなら絶対に外せないイベントだ。準備は怠るな」
「はい!!!」
先生の言葉を受けて私たちは意気込んだ。
そして放課後。私は早く家に帰って鍛錬を積むつもりだったのだが………
「出れねーじゃん!何しに来たんだよ!」
峰田がぼやく。何事かと思い峰田のほうを見ると、A組の扉の前に多くの人が密集していて進路をふさいでいた。これでは確かに外に出ることはできない。なんとも迷惑な話だ。
「敵情視察だろザコ」
爆豪が峰田に暴言を吐く。峰田は爆豪に指をさして緑谷に訴えかけていたが、緑谷の反応は「あれが素だから」と、諦めの境地にいることが分かった。
「ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてぇんだろ。…………ンなことしても意味ねぇから退けモブども」
「知らない人のこととりあえずモブって言うのやめなよ!!」
誰彼構わず喧嘩を売る爆豪に飯田が苦言を呈す。爆豪は気にも留めていなかったが。
「噂のA組……どんなもんなのか見に来たけど随分と偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴はみんなこんななのかい?」
人混みの中から紫髪の少年が現れた。
「こういうの見ちゃうと幻滅しちゃうなぁ。普通科とかほかの科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴いるんだよ、知ってた?体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科への編入も検討してくれるんだって。その逆もまたしかりらしいよ。…………敵情視察?少なくとも俺は、調子乗ってっと足元ごっそり掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり」
大胆不敵。まさか多くの目がある中で宣戦布告するとは……。
それに、あの子は口の悪さの割には善良な魂をしている。……多分、ヒーローになりたくて仕方がないんだろう。編入制度にあやかろうとしてるっぽいし。
「隣のB組のモンだけどよぉ!!」
なんか新しいのが来た。
「ヴィランと戦ったっつぅから話聞こうと思ってたんだけどよぉ!えらく調子づいちゃってんなオイ!!そんなんだと本番で恥ずかしいことになっぞ!!!」
「………」
爆豪はB組の煽りにも反応せず、人ごみを蹴散らして帰ろうとする。流石にこの事態を放置したまま帰ってほしくなかったのか、切島が爆豪を呼び止めた。
「待てコラ、どうしてくれてんだ!おめーのせいでヘイト集まりまくってんじゃねえか!」
「関係ねぇよ」
「は?」
「……上に上がりゃ、関係ねぇ」
爆豪のこの言葉に多くは感心したが、一部は冷静に何の解決にもなってないことを突っ込んだ。
大勢がドアの前に集まっていたため、帰るのが遅れてしまった。正直キレそうだった。先生が対処してくれなかったらどうなっていたことやら。
紆余曲折あったが、体育祭までの2週間はすぐに過ぎ、当日を迎えた。