「ようやく終了ね。それじゃあ結果をご覧なさい!!」
ミッドナイトがそう言った後にスクリーンに予選通過者が表示された。
A組は全員予選通過を達成したようだ。
「予選通過者は上位43名!残念ながら落ちちゃった人も安心なさい!まだ見せ場は用意されているわ!そして……次からいよいよ本選よ!ここからは取材陣も白熱するわ!気張りなさい!!」
本選に出場した人はヒーロー科が41人、サポート科と普通科がそれぞれ1人だ。落ちてしまった人たちも、借り物競争などのレクリエーションに任意で参加できる。ヒーローたちにアピールする場は一応設けられているのだ。観客は余興程度にしか思っていないが。
「さーて、第二種目よ!私はもう何か知っているけど……何かしらぁ?何かしらぁ?って言ってるそばからコレよ!」
ミッドナイトが異様に艶やかな声を出しながら司会を進める。背後のスクリーンに映し出されたのは『騎馬戦』の3文字。予想外の種目に一同からざわめきが起こる。個人種目ではなく団体種目。先ほどまで争いを繰り広げた相手と今度は協力をしなければならないのだ。
43名を見渡し、ミッドナイトはルールの説明を始めた。
「参加者にはそれぞれ2~4人で自由に騎馬を組んでもらうわ!基本的なルールは普通の騎馬戦と同じだけれど違う点もあるわ。まずはポイント制であること」
与えられるポイントは、下位から順に5ポイントが累加される形式だ。よって、3位は205ポイント、2位は210ポイント。つまり一位は215ポイントだ。
「でもでも!?1位が215ポイントってのは面白くないわよねぇ?上の人間にはさらなる受難を。予選通過1位の夜月静江さん!持ちポイント1000万!!」
瞬間、シズに多くの視線が向けられる。そのどれもがよい視線ではない。たとえるならそう、獲物を定めた目。これから上質な獲物を狩るために各々が思考を巡らせている。
「制限時間は15分。割り当てられたポイントの合計がその騎馬の持ちポイントとなり、騎手はそのポイント数が書かれたハチマキを装着!終了までにハチマキを奪い合い、最終保持ポイントを競うわ!重要なのはハチマキを取られても、また騎馬が崩れてもアウトにはならないってところ!」
「43名からなる騎馬およそ10~13組ぐらいがずっとフィールドにいるってことか?」
「いったんポイント取られて身軽になるのもありかもね」
「それは全体のポイントの分かれ方を見ないと判断しかねるわ、三奈ちゃん」
説明を聞いた生徒はルールの把握に躍起になり、取ることのできる作戦を考え、その作戦がどれほど良いものなのかを吟味する者もいた。
ただ、シズには関係がない。シズからすれば1000万を守り切るだけで勝ちなのだから。シズはメテオラを用いて大量の騎馬を一網打尽する作戦を思いつく。しかし、それを雄英が認めるだろうか。
「個性アリの残虐ファイト!でも……あくまでも騎馬戦!!悪質な崩し目的の攻撃はレッドカード!即退場とします!!」
はい、残念ながら認められることはありませんでした。
シズは考えた作戦を早々に諦め、正攻法で戦うことを決める。そうなると問題は選手をどうするかだ。
「最終持ちポイント順位が高い上位4チームが最終種目に出場よ!それじゃこれより15分!チーム決めの交渉タイムスタート!!」
ミッドナイトの合図で交渉タイムが始まった。シズはいまだに動かない。思考をまとめ、必要な人材をリストアップする。
(……決まった。あの二人が欲しい)
シズは行動を開始した。1000万を持つシズに対して話しかける人はいなかった。1000万を守るよりも後になって奪うほうが楽だと考えているのかもしれ……
「1位の人!私と組みましょう!」
いました。1000万と一緒に組みたい人。
「あなたは確か……サポート科の」
「発目明です!あなたのことはよく知りませんが、その立場、利用させてください!」
「正直だね」
しかし、シズにとってこういう人間は高評価だ。下手に繕うよりも馬鹿正直に本音を伝えてくれたほうが後腐れなく組むことができる。
「あなたと組むと必然的に目立つじゃないですか!そうすると私のドッ可愛いベイビーたちが大企業の目に留まるのですよ!!それってつまり、私のベイビーが大企業に見られるのですよ!」
発目はシズを勧誘した理由を話す。その理由はベイビー――発明品をサポート会社に見てもらうことのようだ。
「なるほど、それならあそこにいる緑谷ってやつのほうがいいと思うよ。私と違ってサポートアイテムをうまく扱うし、あいつも私がターゲットだろうから必然的に目立つし。1000万を守るよりも1000万をとるほうが評価されると思わない?」
「行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい」
シズは発目の目的に沿うようにより良い案を出す。発目はその案を気に入ったようで即座に緑谷のところに歩んでいった。
シズはそれを見届けた後、目的の人間のほうに歩んでいく。目的の二人は幸運にも一緒の騎馬のようだ。入れてもらおうと近づく。
「ねぇ尾白、青山、私と組まない?」
シズは目的―――尾白と青山に話しかける。
シズは尾白に騎馬の後衛の片方を担ってもらい、青山には騎馬の前衛を担ってもらう、という陣形を考えていた。なので尾白達に声をかけたのだが……不思議と二人からは何の反応も返ってこなかった。
「……?おーい、尾白?青山?」
シズは尾白達の肩を叩こうとすると、後ろから声が聞こえる。
「あんた、何しようとしてんだ?」
シズはその問いかけに答えようとして黙り込む。その声に聞き覚えがあったからだ。男の声だ。そして、障害物競走での行動も見ている。その個性にもあたりをつけていた。
シズは振り返り、スパイダーを用いて文字をえがく。
『この二人と組みたいなって思って』
「………!!」
その男。先日A組前で宣戦布告をした男。口の悪さの割に、善い魂を持った男。誰よりもヒーローになりたいと願い、唯一普通科で本選に出場した男。
その男――心操人使はシズの対応に心底驚いたようだった。
『二人の洗脳を解いてくれるかな?』
「……できない。解いたら二人は俺と組まなくなる。騙し打ちしたからな。もう後には戻れねぇよ」
『文句は私が言わせないし、そもそも二人ともあまり恨まないと思うよ。どっちかっていうと迂闊だった自分を恥じるんじゃないのかな?』
「……本当か?」
シズは心操の目を見る。本当だと目で訴えかける。心操は簡単に納得しないと思われたが、意外にも信じてくれた。心操はもしかしたらこの戦い方にどこか嫌悪感を抱いていたのかもしれない。
「……少し衝撃を与えれば解ける。好きにしろ」
「分かった。じゃあ私たち4人で組もうか」
「……は!?」
シズの発言に心操は驚く。外道紛いことをした己と組んでくれるとは思わなかったのだろう。
「当たり前じゃん。お前は勝つためにやっただけだし。あ、でもなんでやったのかはちゃんと話しときなよ?二人とも納得して許してくれるからさ」
「……ははっ。…ああ、わかってるよ」
心操は少しモヤが晴れたようで、顔をほころばせた。
私は尾白と青山を起こし、事の顛末を話した。心操の謝罪も受け入れられ、この4人でチームを組むことが決まった。
「でも、だれがどの位置に行くの?」
尾白が議論を進める。少し時間を食ってしまったため、早めに煮詰めないといけない。
「私が考えてたのは、前方向の攻撃が強い青山を前衛に、尾白はどっちかの後衛を務めてもらう。心操には騎手を務めてもらおうかなって」
「……俺が?」
心操は私の考えに驚愕した。騎手は私がやると思ってたのだろうか。いや、尾白と青山も意外そうにしている。
「うん、心操は私たちの中で一番身長が高いし、私の能力的に地面についてたほうが出しやすいんだよね。ほら、第一種目の地雷の時のバリケード」
「ああ……すっごい邪魔だったやつね」
ほかの選手からしたらあのエスクード妨害はエンタメでなくただの嫌がらせとしか認識していないらしい。
「今の発言は聞かなかったことにするね」
この後も私たちは戦略を考え、共有した。もう十分アイデアが出ると、ミッドナイトからそろそろ開始する旨が伝えられる。
第二種目が、始まる。
『オイオイ、待ちくたびれちまったぜ!だが、15分のチーム決めと作戦タイムを経て、フィールドに計11組の騎馬が並び立った!さあ上げてけ関の声!血で血を洗う雄英の合戦が今狼煙を上げる!準備はいいかなんて聞かねぇぞ!?残虐バトルロワイヤル、カウントダウン!3! 2! 1! スタート!!!』
マイクの合図で騎馬戦が開始した。開始と同時に多くの騎馬はシズたちの騎馬に敵意を向ける。
「実質1000万の争奪戦だ!」
鉄哲チームがシズのチームに迫る。正面から来るのは鉄哲チームのみだが、ほかのチームも後方から迫っていた。
「早速来た!」
「後ろからも来てるよ。2騎!」
挟み撃ちの形になっているため、位置取りを変えるために移動する……ところで足元に異変が起こる。
「沈む…!?足が動かない!」
「前騎馬の個性だね。みんな、いったん私に触れて。使うよ」
シズは3人に指示を出す。作戦であらかじめ伝えていた動きだったので、3人はなんの疑問も持たずに動く。
「2時方向。テレポーター」
シズが唱えた瞬間、チーム全員がテレポートする。シズに触れているという条件の元、他人をテレポートさせることができるのだ。
「バイパー」
シズはバイパーを展開し、お返しだとばかりに鉄哲チームと後ろから攻撃しようとしていた小大チーム、角取チームにむけて発射する。
「うおっ!?やべぇ!!」
「……ん!」
「Oh,no!!」
3チームは何とか避けるものの、多少バランスを崩してしまった。
そして当然、シズたちがそれを見逃す道理もない。
「……とった!!」
「ナイス。…エスクード」
心操が鉄哲チームのハチマキを取り、シズがエスクードで鉄哲チームの四方にエスクードを生やし、身動きを封じる。
『心操チーム!いきなり3チームから狙われるが機転を利かせて回避ー!さらに鉄哲チームのハチマキを奪って動きを封じた!!』
『夜月の個性をフルに活用したな』
実況解説とともに観客から歓声が上がる。鉄哲チームのポイントは2番目に高いものであったため、それを即奪ったのが魅力的に映ったのだろう。
「ハウンド、そしてアステロイド」
シズはキューブを2つ生成し、周りに位置する騎馬に放ってけん制する。
『あん?さっきの弾とは違うな。おい、イレイザー!夜月は何種類の弾を使えるんだ?』
『4種類だな。今の追尾したやつはハウンド。相手の動きに対応して追尾する。まっすぐなのはアステロイド。特殊な機能がない分威力に優れている。さっきのはバイパーだな。自分で弾道を設定できるらしい。あとはメテオラで爆撃も可能だそうだ。騎馬戦で使うことはないと思うけどな』
『オイオイ、それを瞬時に使いこなしてんのかよ!個性も強力だが一番すげぇのは夜月ってこったな!』
けん制により少しの余裕ができたため、ほかのチームのポイントを確認する。
「わりとみんな取られてないね」
「ああ、でもここから動き始めると思う。様子見ばっかしてらんないと思うし」
「そうだな、がんばろう」
「ウィ☆」
チームにも疲れはなさそうだ。まだまだ動ける。
「ん?あれ……障子だよな?」
尾白の発言にみんなが右方向を見る。そこには確かに障子がいたのだが……。
「足軽?」
「いや、たぶん騎手を隠してる。蛙吹と峰田と組んでたはず。気を付けて」
すると、障子からもぎもぎが飛んでくる。どうやら障子の巨体で峰田、蛙吹の二人をすっぽりと覆い、鉄壁の守りを実現しているようだ。
「エスクード」
シズはエスクードを生成、そして消去し、もぎもぎの対処と視覚の確保を両立する。
「くっ……、即座にエスクードを消去するとは。流石だな」
「隙ありと言いたかったけれど、流石夜月ちゃんね」
「くそぅ夜月!なんで俺と組まなかったんだよぉ!」
「私誘われてなかったよ」
峰田はシズに魂の叫びをするが、シズには届かない。
「誘ったよ!でもなんか無視されたんだよぉ!!」
「え……そうなの?ごめん……」
そう。チーム決めの最初、詳しく言うならシズが思考をまとめていた時、峰田はシズに熱烈なアプローチをかけていた。しかし、何を言っても反応しなかったので心が折れてしまったのだ。
「謝るなら1000万置いてけー!」
「それはできないな」
「障子ちゃん、ここはひとまず撤退しましょう。奇襲が失敗した今、私たちだけで戦うのは厳しいわ」
「承知した」
障子たちは蛙吹の英断により撤退を選択した。あのまま戦っていてもポイントを取られただけだったので正解だった。
「おいまて!オイラは尾白と青山に言いたいことが……っておい!ほんとに待ってくれよぉ!!」
「どうせしょうもないことよ。気にしないで、障子ちゃん」
峰田だけが撤退の意志を見せなかったが、多数決の法則で撤退を強行されてしまった。
「なんだったんだ……?」
「どうせ俺たちが夜月と組んだことに対する恨み言だよ」
じゃあ大丈夫だなとシズは判断する。
余談だが、峰田の言いたいことは
「尾白、青山!お前らふざけんじゃねぇ!テレポートんとき夜月に触ってたよな!?そんときに、あっ肌すべすべだなとか、いいにおいするなとか思ってたんだろ!?役得か!?ふざけんなよ!ヒーロー科として羨ま……けしからん!!」
だそうだ。けしからんのはどっちだ。
閑話休題。
「にしても緑谷とか轟が来ないな……爆豪も」
そこで、時間の半分が経過し、それぞれの持ちポイントと順位が出される。
「俺たちは1位だな」
「うん、この調子で……って、爆豪が……」
「……あ!?0!?」
「彼らしくないね」
シズたちが現状を確認している間にも、周囲から多くの騎馬が集まっている。
「……あいつの心配してる暇はないね。残り半分、がんばろう!」
「おう!」
「ああ」
「うぃ☆」
残り時間は半分、多くの騎馬が1000万をとるべく行動を開始する。
残りおよそ8分。時間にしては短いが、とても濃い時間になる。
後半戦が始まる。
青山が「ウィ☆」しか言ってない……。