魂を満たす物語   作:よヨ余

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最終種目 準決勝

『さあ、始まるぜ準決勝!第1試合!注目のカードだ!!これまでのすべての試合で圧倒的な力を見せた2人の対決!もはや説明不要!この対決が見れる幸運を噛み締めろ!夜月バーサス轟!レディ……スタート!!』

 

轟はマイクの宣言とともに氷結を繰り出す。氷結はシズを覆いつくす勢いで迫り、飲み込んだ。

 

『おおっと轟!開始早々大氷結で夜月を攻撃!これは勝負が決まったかーッ!?』

 

マイクの発言を聞いても、轟は警戒を緩めない。轟の知るシズはこんな攻撃で倒れるような人間ではないからだ。

 

それを証明するかのように、轟の氷結が細切れにされる。旋空を放ったシズの仕業だ。

 

『あーっと夜月!まさかの無事だったーーッ!すげぇな!』

 

「やっぱこんなんじゃ無理だよな……」

 

「当たり前だろう?右だけじゃ私には勝てない」

 

「やってみねぇと分かんねぇぞ」

 

轟は馬鹿正直に氷結を繰り出す。直線的な攻撃。避けるのはたやすいもの。

 

「個性が強い分……挙動が大雑把だな」

 

シズは氷結をよけ、轟に接近する。そして弧月で轟に打撃を与えようとしていた。旋空は使わない。旋空が当たるだけで勝負が決まってしまうからだ。左を使わせたいシズからすると、それは愚策に等しい。

 

しかし、シズの刃が轟を捉えることはなかった。

 

シズは驚愕する。轟の弱点は大雑把な立ち回り。そして近接戦闘に秀でていないところ。例えば飯田や切島が轟と勝負をしていたら轟が負けていた可能性がある。まあ、轟は判断力が高いためなんだかんだ勝利していたと思われるが。

 

轟は自身の氷で即席の剣を作っていた。弧月程の強度はないためすぐに砕け散ってしまうが、咄嗟の防御手段としては優れたものだろう。

 

シズは轟のカウンターを警戒して後ろに飛びのく。案の定轟は氷結を繰り出してきた。シズは弧月で氷を両断し、エスクードで上空に跳ぶ。

 

「メテオラ」

 

シズはメテオラで空襲を行う。轟は咄嗟に氷で推進力を得て高速移動し、爆撃を回避する。

 

両者ともに決定打にならない。轟の氷結も、シズの爆撃も弧月も、互いに対処されてしまう。

 

「このままだとジリ貧だよ」

「……」

 

左を使うように遠回しに言うも、轟は何も言わない。シズは舌打ちをし、無理やりにでも左を使わせようと動く。

 

「ハウンド」

 

シズはハウンドで轟を牽制する。しかし、ハウンドは見切りやすい。それに加えて、飯田がハウンドの対処法を見つけてしまったため、避けるのはたやすくなっていた。

 

しかし、シズの狙いはあくまでも牽制。轟がハウンドの対処をしている間に近づくのが目的。ついでに弧月を投げて変化を加えるのも忘れない。

 

「クッ……」

 

轟が弧月を氷の剣で弾いた直後、シズは轟の眼前に迫っていた。

 

「ほら、使えよ」

「……!」

 

シズは轟の左腕を掴んで挑発する。しかし、轟は左を使うそぶりを見せずに、シズを投げた。

 

「……は?」

 

シズは轟の行動に疑問を漏らす。そして、その心の中を満たすのは、激しい怒り。

 

「おい、お前……。話聞いてなかったのかよ」

 

シズの急変に轟は瞠目する。

 

「私言ったよな。本気で試合に挑むことを希望するって!半分のお前に勝ってもうれしくないって!!……お前は、私を虚仮にしているのか?」

「……ッ」

 

轟は霜が降りた顔を歪ませる。そして、シズは見た。轟の魂を。その中にあるのは、迷い。その迷いの理由まで知ることはできないが、ある程度は推測できる。大方、自分がどうすればいいのか、また自分が正しいのかがわからない。そんなところだろう。

 

シズはそれを認識し、怒りを鎮める。轟に向ける感情、言葉。どちらも間違えてしまったからだ。シズは声を静めて、轟と対話を試みる。

 

「轟」

「あ……?」

 

シズには轟の感情がわかる。それはもう痛いほどに。だって、知っているから。過去にその思いを、抱えていたから。シズは、その感情の解決方法を知らない。思いついた解決方法は、全部失敗してしまった。

 

でも、轟がそうとは限らない。轟は、シズじゃない。シズにとって意味のなかった解決方法でも、轟には効果があるかもしれない。轟焦凍は、轟焦凍なのだから。

 

「正しさなんてない。悩みを解決する方法なんてない。じゃあどうするんだ?」

「何言って……」

 

轟はシズの突然の問いに答えることができなかった。

 

「自分で正しくするしかないだろう?お前はお前だ。ほかの誰でもない。自分のことは自分で決めろ。試合の前に言ってくれたよな?じゃあ道は決まってるだろ」

 

自分の道を自分で正しくする。シズ自身ができていないというのに。正しさがわからず、自分を確立できていない人間がいう言葉。何という妄言。シズをよく知っている人間が聞いたら、鼻で笑うだろう。実際、ほかでもないシズ自身が心の中で自嘲していた。しかし、それとは裏腹にシズの心は徐々にヒートアップしていく。

 

「…お前はどうしたい!?お前は何をしたい!?本当に右だけで戦いたいのか!?それは何よりも優先すべきことなのか!?お前の本当にしたいことは何だ!!」

 

「俺は……俺は…………!」

 

そして、灼熱の炎が噴き出す。

 

「かっこいいヒーローに…なりたい……。……お母さんを、助けたい……!」

 

轟は多くの感情を含んで言う。左に対する少しの嫌悪。決意。……覚悟。

 

「晴れた?」

 

シズは轟にそう問いかけた。轟はシズを見据えて言う。

 

「んなわけねぇだろ……。親父は嫌いだ。左も……使いたくねぇ。でも、緑谷が、お前が、俺を認めてくれた。俺のオリジンを思い出させてくれた」

 

轟が構えるのと同時に、シズもエネルギーを全消費する勢いで回収する。エネルギーの余波で、雷鳴が、暴風が、熱波が、寒波が、大量に押し寄せる。余波だけで、空気が揺らぎ、軋む。

 

「……ありがとう」

 

轟の感謝の言葉。シズはそれを聞いて、エネルギーを一極集中させる。その中に内蔵されるエネルギー密度は、ディザスターを優に超える。今のシズが出すことのできる無理のない攻撃。

 

「カタストロフ」

 

轟の膨大な熱波が、シズのエネルギーの暴威が、瞬時にあたりを包んだ。

 

 

 

熱気、蒸気、煙幕が晴れていく。観客たちは勝敗を見届けるべく、息を飲んで戦闘場を見守った。

 

そこに立っていたのは、シズ。すべてを出し尽くし、今にも座り込んでしまいそうだったが、何とかこらえて立っていた。

 

そして、場外にたたきつけられた轟。立つことが容易ではない体になってしまったが、なんとか立ち上がろうとする。それをシズが支えに向かった。

 

「炎、ぶれてたよ」

「……ああ、反抗期のツケだな」

 

轟はシズに軽口を返した。続けて言葉を紡ぐ。

 

「俺なりに、前に進むよ。さらに向こうへ……乗り越える」

 

轟はシズにそう宣言し、崩れ落ちるように気絶した。

 

「……お前なら、できるよ」

 

シズは気絶した轟に言葉を返す。

 

「…………私と違って」

 

その顔は、不気味なくらいに表情が抜け落ちていた。

 

 

 

 

 

「うっぜぇなぁ!それ!!」

 

準決勝第2試合。爆豪対常闇。これまで圧倒的なタイマン性能を見せつけてきた常闇は、爆豪相手に攻めあぐねていた。むしろ、防戦一方だといえた。

 

何故なのか。その原因をシズが考察していると、後ろから轟が声をかけてきた。

 

「轟。ケガはもういいの?」

 

「ああ、個性を連続で全力使用したからだと。大事はない」

 

轟の言葉にシズは安堵する。何か用かと聞く前に、轟が声をかけた理由を話した。

 

「さっき気絶したとき、なんか言ってたか?」

 

「応援してるとだけ。相談があったらのるからってだけ言ったよ」

 

「そうか。ありがとな」

 

轟はまたシズにお礼を言う。最近の轟は感謝しすぎだと思う。

 

「礼は緑谷に言っておけ。あいつが一番気にかけてくれただろ」

「緑谷には2回戦の時に言った」

 

シズは轟と少し話した。話題は常闇対爆豪について。

 

「どっちが勝つと思う?」

 

「爆豪。あいつは反射神経が優れてるから常闇の攻撃は見切ってくるだろ。ほら、今みたいに。それに……」

 

轟は爆豪が常闇の裏を取ったところを見ながら言う。爆豪の攻撃はダークシャドウによって防がれたから決定打にはならなかったが。

 

「常闇は騎馬戦の時、上鳴の電流をダークシャドウで受けてたけどその後にこっちに仕掛けてこなかった。上鳴の時みたいに、爆豪もダークシャドウの弱点を突いてるのかも」

 

轟の言葉にシズは得心する。たしかに騎馬戦の時、緑谷チームは一時的に戦線離脱していた。様子見をしているのではなく――その意味合いもあっただろうが――ダークシャドウの回復時間を稼いでいたのかもしれない。

 

「爆豪と上鳴の共通点でダークシャドウの弱点になり得そうなもの……光、あるいは熱?」

 

「そのどっちかだろうな」

 

2人が議論していると、試合が大きく動いた。爆豪が再度常闇の裏を取り、その手のひらから多大な光が溢れさせ、爆発させる。あたりには煙幕が漂い、ステージを満たす。煙幕が晴れると、常闇に馬乗りになってくちばしを掴み、片方の手から小規模の爆破を繰り返し出してダークシャドウを威嚇する爆豪の姿が。ダークシャドウは泣きべそをかいているため、常闇に打てる手はないだろう。

 

常闇が降参の意を示したので、ミッドナイトが宣言し、爆豪の勝利が決まった。

 

「弱点は光だったのかな?」

「たぶんそうだな。……次、お前の番だろ。がんばれよ」

 

轟の応援に応え、シズはもう1度控室に向かった。

 

 

 

 

 

控室。シズは対爆豪の作戦を考えていた。しかし、残念ながら取れる行動は少ない。轟との試合で後先考えずに行動してしまったため、自分の首を絞めてしまったのだ。

 

すると、ノックもせずに扉が開いた。開けた人間はもちろん爆豪。轟のように何か話しに来たんだろうか。

 

「あ……?んでお前が…?あ、ここ反対かよクソッ!!」

 

緊張からなのか、あるいは素でやってるのかは定かではないが、爆豪の珍しい失敗にシズは少しだけほほえましいものを見るかのような温かいまなざしを向けた。それが癪にさわったのか、爆豪はシズに詰め寄った。

 

「おい……どんな目してんだテメェ?」

「顔が怖いよ。爆豪」

 

「抜かせッ!」

 

シズの冗談は爆豪のお気に召さなかったようだ。爆豪はより一層目を吊り上げた後、真剣な表情でシズを見た。

 

「さっきの舐めプ野郎の時のあれ、オレにも使えよ。そいつを上からねじ伏せてやる」

 

「カタストロフのこと?あれは燃費が悪いから使えないよ」

 

「いいから使え!それを使ったお前を完膚なきまでに叩きのめしてオレが1番になるんだよ!!」

 

爆豪はシズの言い分を無視して無茶を言う。なんとも自分勝手だ。

 

「だから、燃費が悪いんだって!使えるものも使えないの!私の弱点知ってるでしょ!」

 

「その上で言ってんだよ!お前ほどの奴が弱点を野放しにしてるわけがねぇ。絶対に解決策があるはずだ。それも使え。オレが勝つからよ」

 

爆豪はそれだけ言って部屋を出た。

 

「参ったな……」

 

シズは椅子にもたれかかる。右手で顔を覆い、天を仰ぐ。

 

爆豪の言う通り、シズはみすみす弱点を野放しにするような迂闊な人間ではない。むしろ徹底的に排除するタイプだ。得意を伸ばすことも忘れないが、それ以上に苦手を一つでも多く消す。

 

もちろん、緑谷対轟戦のときに明かした弱点の対処方法はわかっている。しかし……、

 

「……お師匠」

 

シズはこの後すぐに始まる決勝戦を憂いた。

 

 

 

時間は待ってくれない。

 

シズの思いを無視して、決勝戦が始まる。

 

 

 

 

 

 




なんかシズが情緒不安定になってる気がする……。

轟にはどうしてもシズに左を使わせたかったのですが、自分の語彙力がないために説得する言葉が思いつきませんでした。

まあ、轟もシズから何かを感じ取ったってことで……。
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