魂を満たす物語   作:よヨ余

19 / 54
最終種目 決勝

『さあ、いよいよラストだ!決勝戦!ここまで圧倒的な技量と準決勝や騎馬戦で見せた圧倒的力でここまで快進撃を続けてきた!ヒーロー科、夜月静江!!バーサス!圧倒的なセンス!今までの勢いのまま夜月を下すのか!?同じくヒーロー科、爆豪勝己!!この試合で1年の頂点が決まる!レディ……スタート!!』

 

「死ねぇ!!」

 

爆豪は初手から最大限の爆破を繰り出す。麗日戦で見せた爆撃とほぼ同等。しかし、加減はしているため、この一撃で掌に負荷がかかることはない。

 

「チッ。……エスクード」

 

シズは爆破を回避するためにエスクードを展開する。どうにか爆破を回避した後、煙幕に乗じて爆豪が接近していた。

 

「便利な分……任せっきりぃ!!」

 

爆豪は、視界が遮られるというエスクードの弱点を突き、シズに爆破を叩き込む。

 

「グッ……」

 

シズはよろけるも即座に立て直し、爆豪に回し蹴りを叩き込む。爆豪は転がる前に体勢を立て直した。互いが一撃ずつ与えた形になり、周囲からは歓声が上がる。

 

「ゲホッ……」

「お腹痛……」

 

二人は打撃を受けた場所を押さえ、互いを見据えた。一人は焦燥を、一人は怒りをその心に宿して。

 

「スパイダー」

 

シズは左右の五指から糸を作り出し、爆豪に攻撃を仕掛ける。

 

「んなの意味ねぇぞ!!」

 

爆豪はその攻撃を爆破でいなし、今度は自分の番だとばかりに猛進しようとする。

 

「マリオネットダンス」

 

「あ……?」

 

シズの言葉のすぐ後、爆豪の両腕が自由を失い、頭の上で固定される。爆豪の全力の力でもビクともしないほどの強度。爆豪に打つ手はないかと思われた。

 

「しゃらくせぇ!!」

 

しかし、爆豪は両手から爆破を繰り出し、スパイダーを焼き切る。

 

「チッ……」

 

シズは思わず舌打ちをする。侮ってはいなかった。爆豪ならば、マリオネットダンスを突破することもわかっていた。しかし、取れる手がない。轟との一戦で大気のエネルギーをほとんど使い切ってしまったのだ。もう満足にアステロイドを出すことはできないし、エスクードなんてもってのほか。スパイダーぐらいしか使えないのだ。

 

しかし、スパイダーも破られた。こうなると、先ほど生成した弧月で対峙するしかない。

 

シズは弧月で一撃を加えるために爆豪に接近する。が、勿論それを許す爆豪ではない。比較的大規模な爆破を繰り出し、シズを近づけさせないようにする。

 

痺れを切らしたシズは爆豪への攻撃に変化を加える。爆破を弧月で切り裂きながら接近し、爆豪が大規模爆破をする直前で弧月を投擲した。

 

『おおぉと夜月!弧月を爆豪に投げて急接近!格闘戦を仕掛けた!!』

 

シズは徒手空拳で爆豪に連撃を仕掛ける。爆豪は何度か攻撃を受けるが、腹や顔、関節などの要所要所への攻撃は防いでいた。体力は徐々に奪われるが、決定的なものではない。

 

(……)

 

 

シズは気付いている。このままだと爆豪が勝つということを。

 

 

弧月はすでに投擲に使ってしまったため使えない。

スパイダーも効果がない。

エスクードは出せない。

 

大気に存在するエネルギーも旋空一回分しかない。弧月の生成はできないし、キューブなんて言わずもがな。

 

格闘戦ではシズが押しているが、千日手に近い状況だ。何か変化を加えなければいけないが、変化を加える方法がない。その上、爆豪は動きがだんだん良くなってきているときた。騎馬戦のように打開の一手も打てない。

 

そうこうしている間にも、爆豪の動きがシズを超えて攻撃が当たり始めた。シズは離れてしまうと戦いにならなくなってしまう。爆豪に遠距離攻撃されるだけで何もできなくなるからだ。

 

だからシズは離されまいと抗う。しかし、爆破による爆風で吹き飛んでしまう。何とか場外落ちは避けるも、爆豪と距離が離れてしまった。

 

爆豪は追撃を仕掛けることはしなかった。

 

その代わりというわけではないが、彼はシズを見ていた。睨み付けていたといっていいかもしれない。

 

「テメェ……虚仮にすんのも大概にしろよ!ぶっ殺すぞ!!」

 

爆豪は掌を爆破させながら言う。その爆破は思わず漏れ出たもので、爆豪の心情を如実に表している。

 

「俺がとるのは完膚なきまでの1位なんだよ……!本気出してねぇ奴に勝っても意味ねぇんだよ!!テメェが本気でやれっつったよな……?なんでテメェが本気出さねえんだよ!?……なんでここに立ってんだクソがぁ!!」

 

爆豪はそう叫び、突進する。

 

「なんでここに立ってるか……?決まってる。ヒーローになるためだ!」

 

シズは爆豪にそう返し、突っ込んできた爆豪を受けとめる。力は拮抗していて、鍔迫り合いのような形になった。その中でも、爆豪は問答を続ける。

 

「だったらテメェは本気出してないとおかしいんだよ!エネルギー問題を解決するべきなんだよ!できんだろ!?なんでやらない!?ふざけんな!その状態のテメェに勝っても意味ねぇんだよ!!」

 

爆豪はシズの言葉に再度キレ、そしてまた言葉を続ける。

 

「半分野郎の時のテメェの言葉をそっくりそのまま送ってやる……テメェはどうしたいんだよ!それ叶えるためには奥の手使うしかないんじゃねぇのか!?」

 

爆豪の言葉を聞いて、シズの脳裏にはナガンの姿が映る。シズがしたいこと。それは、もう一度ナガンに会うこと。ナガンに会ってなんでいなくなってしまったのか理由を聞くこと。もう一度話すこと。声を聞くこと。再会の抱擁をすること。

 

でも、でも。

 

「お師匠に会いたい……でも!この技はお師匠に禁止を……」

 

シズの言葉に爆豪の怒りは頂点に達した。自分より上だと認めた人間の腑抜けた姿。頑なに本気を出さない姿。挙句の果てに本気を出せない理由を他者のせいにする姿。

 

落胆。怒り。失望。不快感。シズに向けられた多くの負の感情が爆発する。

 

「お師匠お師匠うるっせぇんだよ!テメェは!お師匠とやらの操り人形なのか!?そいつがいなけりゃ何もできないのか!?……うっぜぇ。もういい!テメェの()()見つけてから出直してこい!!」

 

シズを蹴飛ばし、距離を離した。その直後に爆豪はシズに向かって特大の爆破をぶつけようとする。麗日戦での火力に、回転することで遠心力を加え、威力を最大限高めながらシズに迫る。

 

シズは、動かない。

 

 

 

その目が見据える先は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の、原点……。

 

私は爆豪の言葉を反芻していた。

 

爆豪は何やら攻撃を仕掛けてくるようだが、気にしない。というより、気にすることができない。

 

爆豪の動きはひどくゆっくりに見える。かといって私が速く動けるわけではなく、思考が早くなっているだけだが。

 

しかし、頭にモヤがかかったような感覚に陥っていて、思考に集中することができない。まるでこの先の思考を妨害しているように、この先を知りたくないかのように。

 

でも、知らなきゃいけない。……どうして?そんなことは知らない。ただ、そんな気がするだけ。

 

そもそも、私はなんでヒーローになりたい?――簡単だ。お師匠にあこがれたから。私を救ってくれたお師匠のようになりたいから。

 

なんでここに立ってる?――これも簡単。ヒーローになるため。お師匠のようなヒーローになるため。

 

 

そう。お師匠のように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『違うだろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………え?

 

 

『前から思ってたんだけどよ……私のようになるって無理だろ』

 

 

そこには二人の人がいた。一人は私。もう一人は……お師匠。

 

忘れもしない。聞きなれた声は私を最も落ち着かせる。

 

私たちは食卓を囲んでいて、その中でのお師匠の発言だった。

 

 

『そりゃ無理でしょ。お師匠は最高だし。私なんかがなれるわけがない』

 

『そういうことじゃなくてさ……うれしいけど』

 

 

お師匠は困ったような顔をして私に言った。

 

 

『お前はすごいやつだからさ。私なんかに収まってほしくないんだよ。お前の可能性を、私で消したくない』

 

 

落ち着く声。私が最も大好きな人。私の大事な人。この人の言葉なら、何でも聞くことができるくらいには。

 

 

『じゃあ、お師匠を超えるよ。私らしさを見つけて……お師匠に胸を張れるように』

 

『……ああ、それがいい』

 

 

お師匠は少しはにかんで、味噌汁をすすった。味噌汁をすすった後に浮かんだ笑顔は最高で、世界一の笑顔だと言っていいだろう。

 

 

 

 

 

……………どうして忘れていた?お師匠との大事なやり取りだろう。忘れてはいけないことだろう。どうして。

 

どうして都合よく改ざんしていた?お師匠に胸を張れるように?違うだろう。それじゃない。一番大事なのは、()()()()()()()()。それだけのはずだ。お師匠を超えようが、お師匠のようになろうが、関係ない。大事なのは、その中に私を見つけること。

 

でも、これは原点じゃない。原点は別にある。そこに、きっと()はいる。

 

 

 

 

 

場面が変わる。

 

そこの部屋は電気がついていなくて暗かった。その中に私が俯いて座っていた。

 

よく覚えている。お師匠がいなくなってから数日が経った時のことだ。しばらく私は鬱状態になっていて、電気を消したリビングにじっとしていることが習慣になっていた。

 

その時の感覚は今でもなお鮮明に思い出せる。お師匠が消えてしまったあの日に私が味わった絶望。

 

もっとああしておけばよかった。もっとああしてやりたかった。もっとああしてほしかった。

 

そんな後悔、懺悔、願望。

 

それらが私の感情を支配していて、私を呪った。

 

やがて記憶の中の私は、ダイニングにある写真に目を向けた。私もつられて目を向ける。

 

それは、『世界一の笑みを浮かべながら私が作ったご飯を食べているお師匠の写真』。

 

 

 

私の魂が震える。心が。思考が。顔が。体が。……私が。震える。

 

 

 

 

「……これだ」

 

そうだ。これだ。

 

私が一番幸せを感じる瞬間。お師匠と、食卓を囲んでいるとき。私がつくったご飯をお師匠が笑顔を浮かべて食べているのを見ているとき。食卓でお師匠と話しているとき。雑談でも、ヒーロー談議でも、なんでもいい。

 

そう。私はただ、お師匠と日常を過ごしたかった。ずっと。死ぬまで。彼氏なんていらない。友達も、最悪いらない。お師匠がいればそれでよかった。

 

「そうか…」

 

お師匠と離れていたから気付けた。随分遠回りをしてしまった。でも、もう大丈夫だ。私は、ようやく私を見つけた。いや、もう見つけていたんだ。私が気付いていなかっただけ。気づかないふりをしていただけ。

 

「……お師匠」

 

会いたい。それは変わらない。

 

「もう、大丈夫」

 

そう。大丈夫だ。私は、やるべきことが分かった。モヤが晴れた。

 

 

お師匠がいつ帰ってきてもいいようにする。いつでも食卓を囲めるようにする。だから私は……

 

 

「定まったから」

 

 

 

()()()()()、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シズは、自分を確立した。自分のオリジンを確定させた。迷いが晴れた。迷いを失ったシズは強い。

 

奥の手の枷がなくなったのだ。

 

シズは自身の魂の一部を分解し、ごく少量のエネルギーを作りだす。割合は、正負が五分。二つの同じだけのエネルギーを重ねて、莫大な万能エネルギーへと進化させる。

 

 

虚無。

 

 

シズの奥の手。正負のエネルギーを同じ割合で重ねることでできる万能エネルギー。正負の両方の性質を持っており、またその上位互換でもある。すこぶるエネルギー効率がよく、旋空1発分程度のエネルギーから作り出した虚無でも、このスタジアムを満たすだけのエネルギーに変換することができる。

 

つまり、エネルギーの無限増殖ができる。

 

しかし、代償もある。代償は、圧倒的な体への負荷。そして扱いの難しさ。暴れる虚無を扱うにはシズの技量が足りていない。せいぜいが暴走を防ぐこと。十分に扱うことはできない。

 

初めて使ったときは暴れる虚無を抑えるのに苦労した。だから、ナガンに禁止を言い渡されたのだ。

 

でも、もういいのだ。確かにナガンの意見はもっともだ。危険なのだから禁止するのは当然のこと。でも、あのころよりもシズは何段も成長している。もう使ってもいいだろう。

 

(ていうか、使わないとだめだよね。プルスウルトラってやつ)

 

そして、暴威が荒れ狂う。熱波が。寒波が。暴風が。雷鳴が。ひとかけらの虚無からあふれる。

 

シズがしていることは虚無の制御のみだ。虚無は放置していると勝手にカタストロフを形成してくれる。そのため、過剰に攻撃しないように制御するだけでいいのだ。……制御が甘いせいで轟のように威力がぶれてしまうが。

 

あらゆる暴威が一つに集中し、高密度のエネルギー物質を形成、そして向かい来る爆豪に向けて放った。

 

爆豪は、カタストロフの暴威を前に笑っていた。

 

「……カタストロフ」

 

「ハウザーインパクト!!」

 

爆豪の爆破の暴力が。シズのエネルギーの暴威が。

 

ともにぶつかり、あたりを包んだ。

 

 

(ありがとう、爆豪)

 

 

 

 

 

そして、煙幕が晴れる。

 

そこに立っていたのは……両者。

 

二人の大技は決め手にならず、試合はまだ続行される。

 

 

 

ちなみに、爆豪のハウザーインパクトは轟の大技に比べ威力は劣る。

 

しかし、爆豪は両手を続けて使うことで特大爆破を連続して繰り出したのだ。片方の爆破がカタストロフの本流を軽減し、もう片方の爆破が余波を吹き飛ばした。土壇場でのセンスが光り、まだこの場内に立つことができているというわけだ。

 

閑話休題。

 

 

 

マイクの怒号のような実況も、二人の耳には届かない。今はただ、目の前の敵にだけ意識を向ける。

 

「見つかったかよ」

 

「うん。鮮明に思い描けるよ」

 

「ならいい」

 

爆豪は構えた。

 

 

もう、余興はおしまい。

 

ここからは、どちらも本気。

 

第二ラウンドが始まる。

 

 

シズは虚無をもう一度作り、それをエネルギーに還元した。結果、会場は騎馬戦が始まる前と同じ量のエネルギーで満たされる。

 

現在のシズでは虚無を完璧に扱えるわけではない。数日も訓練すれば多少の感覚を取り戻すことができるだろうが、現在は虚無を扱ったほうが爆豪に負けてしまう可能性が高いだろう。だから、普段から使っていて慣れているエネルギーを使う。

 

シズはエネルギーで自身のヒーローコスチュームを模した衣服を作り、着用する。エネルギー問題の解決をアピールするためだ。

 

「エネルギーの言い訳はいいのかぁ!?」

 

「負けた時の理由を用意してやったんだ!感謝したらどうかな!」

 

爆豪の煽りにシズも煽り返す。それも、互いに接近し、肉薄しながらの会話。

 

シズは弧月で爆豪に斬りかかるが、爆豪は腕を顔前でクロスして受ける。そのまま手を開いて爆破を繰り出すが、シズは読んでいる。爆豪をグラスホッパーで上空に打ち上げ、爆破を回避した。

 

「バイパー」

 

上空で体勢を崩して回避が難しい状態にある爆豪にバイパーが迫る。シズのバイパーは変幻自在で、相手の行動によって弾道を適宜変える。そのため、爆豪が回避することはほぼ不可能だ。

 

「効かねぇよ!!」

 

しかし、爆豪はそんな不可能を可能にする。その場で全方位爆破を仕掛け、バイパーを一発残らず撃ち落とした。

 

回避できないのなら打ち消せばいい。爆豪らしい対処法だろう。また、それは正解でもある。

 

だが攻撃は終わらない。

 

「爆ぜろ」

 

シズは爆豪に手を突き出し、エネルギー操作を行う。爆豪の周囲が発光し、爆豪の爆破のようなエフェクトが映る。

 

「バレバレなんだよ!馬鹿が!」

 

発光は爆豪にも見えるもので、爆豪にとってその発光は見慣れているものであった。彼はこの後に起こるであろう出来事を正しく予測し、即座に退避して攻撃を回避する。

 

「旋空弧月」

 

シズは間髪入れずに地上から攻撃を仕掛ける。可能ならば爆豪をずっと空中に留まらせ、このまま一方的に攻撃を仕掛けるのが理想だ。

 

旋空は爆豪に寸でのところで避けられた。攻撃は全く当たらないが構わない。シズにとって大事なのは、爆豪の体力を削ること。この状態を続ければシズが確実に勝つ。爆豪を空中に留まらせ、リーチの優位性を保ち続けさえすれば。

 

―――だが、それではつまらないだろう。

 

「エスクード」

 

エスクードカタパルトで跳んだシズは弧月を投擲し、丸腰になる。その直後、鎖を生成し、その両端にスコーピオンを付けたものを生成し、投擲の勢いのまま爆豪に向かって振るった。

 

爆豪は弧月を避け、鎖スコーピオンをぎりぎりで避けた。しかし、その直後に横腹に衝撃が走る。

 

「――ッ」

 

爆豪は悶絶し、瞬間的に混乱する。確実に避けたと思われたが、攻撃を食らった理由がわからなかったからだ。

 

しかし、スコーピオンの形を見て理解する。日光に反射してきらりと輝いていたスコーピオンの刀身の中心が不自然に変形していた。中心部分だけが不自然に突起していた。

 

それを見れば、爆豪ほどの聡明さがなくとも状況を理解できるだろう。

 

「形変えれんのか……ゲホッ」

 

爆豪は正しく答えを出し、シズの行動を注視する。

 

シズはもう一度鎖を繰り出すが、爆豪は繰り出したタイミングで急接近する。この1回で鎖の間合いを見切ったのだ。

 

圧倒的反射速度。圧倒的戦闘センス。土壇場での圧倒的な判断力。

 

一瞬で距離を詰めた爆豪はシズの右腕を掴み、片方の手で爆破を繰り返すことで推進力を得て、その勢いのままシズを地面に投げ飛ばす。

 

「エクスカタパルト!!」

 

シズが地面にたたきつけられる。

 

そしてそれだけで終わる男ではない。爆豪勝己という男は自身が敵と見定めた存在を過小評価するような愚かな男ではない。

 

だから、攻撃は続く。

 

「A-Pショット!」

 

爆豪の掌から極限まで圧縮された爆発の弾丸がシズに襲い掛かる。

 

しかし、それをまともに食らうシズではない。寸前で転がることで弾丸を避ける。直撃した場所は軽いクレーターのようになっており、まともに食らっていたら後遺症が残ったかもしれない。シズなら大丈夫だが。

 

そして、こんな攻撃をした爆豪は無事とは言い難い。その掌はボロボロで、見るも無残な表面になっていた。

 

「……アハッ」

 

シズから漏れ出る笑い声。シズは笑っていた。初めて自分を表現し、自分の自由に戦う。自由に、あるがままに。なんでもできるような全能感。はじめての感覚。ただ目の前の相手だけを考えて行動する。ただ目の前の相手に勝つためだけに。

 

「ねじ伏せてやる……!」

 

「……そりゃこっちのセリフだ!」

 

両者ともに獲物を狩る狩人のような目をしている。絶対に勝つ。負けなんて考えない。死ぬ気で。全力で相手をねじ伏せる。頭の中はその思考でいっぱいだった。

 

「旋空弧月」

 

シズはもう一度旋空を放つ。爆豪は簡単に避けた。

 

もちろんシズだって馬鹿ではない。旋空が見切られているのはわかっている。そして、爆豪には波状攻撃で脳のリソースを奪い、攻撃の隙を与えないことが重要だということがわかっている。

 

では、どうするか。

 

「ホーネット、ハウンド、コブラ、アステロイド」

 

その答えは、弾丸の応酬。全方位からの波状攻撃。爆豪はまたもや全方位爆破で凌ぐも、凌いだそばから新しい弾丸が出てくる。爆豪からしたらたまったものではない。

 

しかも、シズは弾丸だけに脳のリソースをつぎ込んでいない。弾丸に加えて旋空を繰り出し、決定打を与えようとした。

 

「旋空弧月」

 

万事休す。今度こそ、爆豪に打つ手はない。

 

 

 

しかし、忘れてはいけない。爆豪の執念を。勝利に対する異常なまでの執念を。

 

 

 

「舐めんな……!」

 

「……は!?」

 

爆豪は旋空を口で止めた。歯で噛むことで旋空を止めたのだ。何という顎の力。歯が欠けてなお止める力。その上で弾幕の対処をしているのだ。はっきり言って意味が分からない。

 

シズはあまりの異常事態に目を見開く。つい動きが止まってしまい、極限まで高まっていた集中力が一時的とはいえ途切れてしまうほどの衝撃。

 

そしてもちろんその隙を見逃す爆豪ではない。弾幕が止まったその瞬間に接近を許してしまい、がら空きの胴に爆破を叩き込まれた。

 

「ゴフッ……」

 

「どう…した!?……終いか…!?」

 

「んな、わけ……ない…」

 

吹き飛ぶシズに爆豪は煽る。その声は絞り出したような苦しい声で、爆豪の体が限界であることがよくわかる。爆豪は口にたまった血を吐きだした。その時にかけてしまった歯も一緒に吐きだす。

 

そして爆豪と同じようにシズも限界だ。口では威勢のいいことを言っているが、限界は近い。

 

なら、打開策を通すまで。

 

「……ハハッ。巡って……来たぁ…」

 

「……あ?」

 

シズの言葉を爆豪は疑問に思うが、その疑問を解消する暇は与えられない。シズが縮地で急接近してきたからだ。

 

「なっ……」

 

爆豪は突然のことに驚く。これほど動くことができる体ではないと断定していたからだ。いや、爆豪の驚きはそこだけではない。というよりも、ここが一番大事だ。

 

(今までより数段速えぇ!!なにしたこいつ!?)

 

シズは爆豪にもう一度格闘戦を仕掛ける。その拳の速さは旋空を上回り、その蹴りの鋭さは飯田のレシプロに匹敵する。

 

 

 

―――――確かに、爆豪の勝利への異常なまでの執念はもはや狂気的な何かがある。しかし、それはあくまでも純粋。負けたら死ぬほど悔しがり、次は絶対に勝てるようにする。それが爆豪勝己という少年の習性といえる。

 

しかし、シズはその比ではない。この言葉を聞けば爆豪は猛反発するだろうが、比べることすらもおこがましいほどだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その体に刻まれている洗脳に近い固定観念は簡単に抜け落ちるものではない。むしろ、より強固になっているともいえた。

 

シズの中で勝利とは。それすなわち至上命題。それが競い合い及び人生における絶対であり、極端な話、『敗北=死』であった。

 

では、そのような哲学を持つ人間がとる手段はどんなものになるだろうか?

 

その答えが――――

 

 

 

(虚無を体に巡らせるんだ。血液に、神経に、脳に、…………魂に、虚無を巡らせる。私の体の一部であると錯覚しろ。ああ、そうだ。この感覚だ。全能感。この勢いのまま……!!)

 

関節を。頭部を。腹部を。みぞおちを。殴りかかり、蹴りかかる。その打撃は爆豪に寸でのところで防がれるが、動揺した爆豪に流れるように背負い投げを決める。爆豪は受け身がうまく取れなかったようで、息を短く吐きだした。そして地面に叩きつけられた爆豪にあらかじめ生成しておいたアステロイドの雨を降らせる。

 

「……ッ!」

 

しかし、アステロイドは爆破ですべて散らされた。爆豪はその爆破にもう一度それを上回る大規模爆破を繰り出してシズから距離を取る。そして爆豪は体勢を立て直した。

 

そしてシズは活路を見出す。

 

今の爆豪の行動に対する隙。たいていの人間では突くことのできないほんの僅かな隙。だが、今のシズなら十分に突ける隙。

 

接近。温存しておいたテレポーターを使い、爆豪のすぐ近くに移動。最後の攻撃の構えを取った。

 

(……!やべぇ!モロに受ける!)

 

爆豪にはもう打つ手がない。いや、その中で手を作り出すのが爆豪。今回も諦めずに抵抗しようとした。その優秀な頭をぶん回し、思考を巡らせる。そして行動に移そうとした。しかし、もう体力がない。思考に体が追い付かない。

 

「……終わりだ!」

 

シズは渾身の回し蹴りを放ち、爆豪に直撃させる。爆豪は吹き飛び、そのまま場外の壁にめり込み、気絶した。

 

 

 

 

 

 

周囲の音が消える。いや、ずっと前から消えていた。みんな見入っていたのだ。二人の攻防に。技術と執念が高水準に入り交り、圧倒させる戦いに。マイクでさえ、実況を放棄していた。

 

しかし、爆豪の姿を確認してミッドナイトが審判の責務を果たす。

 

 

「ば、爆豪くん場外!夜月さんの勝利!!」

 

 

瞬間、怒号のような歓声が上がる。シズは爆豪の欠けた歯を治すため、爆豪のほうに駆け寄る。歯を治した後にマイクの宣言が上がる。

 

『しゅ、終了!思わず見入ってしまう試合だった!!これまでの体育祭にもなかったほどの素晴らしい激闘!詳しい言葉は不要だろう!持てる力のすべてを使い、相手を下した!夜月静江!優勝ーーッ!激戦を終えた未来の英雄たちにクラップユアハーンズ!!』

 

マイクの言葉に周囲から歓声と拍手が巻き起こる。中には立ち上がって口笛を吹いている者もいた。スタンディングオベーションというやつだ。

 

シズは初めての大衆の称賛に多少の恥ずかしさを感じつつも、疲れた体に鞭を振るって手を振ることで答える。より一層歓声は大きくなった。

 

 

 

こうして、長かったようで短かった体育祭は幕を閉じた。

 

 

 

 

シズの魂の輪郭をぼんやりと形成して。

 

 

 

 

 




頑張った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。