気付くと、シズはベットの中にいた。襲撃の時のような状況だ。
シズは起き上がり、前に起こったことを思い出す。
爆豪に勝利し、観客に手を振り、気絶した。気絶した後に保健室に運ばれたのだろう。
「目ぇ覚めたかい」
横には、襲撃の時と同じようにリカバリーガールがいた。そして保健室を出ようとする爆豪も。
爆豪はシズのほうに振り返り、無表情でシズに言葉を投げかけた。
「……次は負けねぇ」
シズは爆豪の素直な宣言に驚くが、しっかりと言葉は返す。
「次も私が勝つよ。新技の構想も何個かあるし。もっと強くなるよ」
「……じゃあオレはそれ以上に強くなってやる」
そう言って爆豪は保健室を出た。
「……はあ、なんであの怪我ですぐに動けるんだか」
「あんたも人のこと言えないよ」
立ち上がりながらそういうシズにリカバリーガールが突っ込んだ。実際、シズは体力を消費しすぎていたため、リカバリーガールの治癒が不可能だったのだ。まあ、シズが無意識に治癒を施していたため大事には至らなかったのだが。
リカバリーガールに体調を聞かれ、問題ないことを確認する。リカバリーガールが言うには、この後はすぐに表彰式のようだ。
シズはリカバリーガールにドクターストップをかけられることもなく、表彰式に向かうことができた。
『それではこれより!表彰式に移ります!!』
スタジアムの上空にカラフルな花火が次々を打ち上げられる中、ミッドナイトの宣言によってシズたちが表彰台に上がる。
3位、轟焦凍、並びに常闇踏影。
準優勝、爆豪勝己。
優勝、夜月静江。
シズたちが表彰台に上がってカメラの方向を向いた瞬間に、カメラのフラッシュが焚かれる。4人の表情は無表情なのでカメラ映りはあまりよくない。
観客たちも、決勝戦が終わった時と同じような歓声を上げていた。中にはシズと爆豪がボロボロの状態だったのに何でもないかのような顔をして表彰台に立っていることに引いている人もいた。
『メダルの授与よ!今年1年生にメダルを贈呈する人はこの人!!』
「私が!メダルをもって『我らがヒーロー!オールマイトぉ!』やってきた……の…に……」
メダル授与のためにわざわざ上空からかっこよく着地して高らかに宣言したというのに、段取り不足で締まらない登場になってしまったオールマイト。ミッドナイトは悲しさ体をプルプルと震わせるオールマイトに手を合わせて謝罪する。少しほほえましいやり取りで、結果的に受賞者の緊張を和らげることには成功した。……まあ、最初からあまり緊張などしない面子であったため意味のないものではあるが。
しかし、流石はオールマイト。この程度ではへこたれず、すぐに気を取り直してメダル授与に取り掛かる。
「常闇少年おめでとう!強いな、君は!」
「もったいないお言葉」
謙虚な姿勢を見せて称賛を受け止める常闇をオールマイトは励ますように抱きしめ、優しくその背をたたいた。
「ただ、相性差を覆すには個性に頼りっぱなしじゃダメだぞ!自分を鍛えることやサポートアイテムで様々な個性の持ち主に対応することができる。個性の相性差を覆すこともできるしね!逆にいえば、有利な個性でも負けることがあるから気をつけてねってことでもあるんだけどね!地力を鍛えれば選択肢は増える!頑張って」
「……御意」
常闇は受け取ったメダルを見ながら、そう返答した。
「轟少年、おめでとう。今までと顔つきが変わったように見えるけど、何かあったのかな」
メダルを轟の首にかけた後、オールマイトは轟にそう問いかける。轟は自分の思いを吐露した。
「緑谷戦できっかけをもらって、夜月戦でやりたいことがわかって……少しだけ吹っ切れました。……まず、やるべきことがあります」
轟はオールマイトをしっかりと見ながら言った。オールマイトは轟の顔を見て危うさの欠片もないと判断する。
「深くは聞くまい。今の君ならきっと大丈夫だ」
「はい」
オールマイトは常闇の時と同じように轟のことを抱きしめて言った。
続いて、爆豪の番だ。
「爆豪少年!準優勝おめでとう!見事な成績だ!」
「……2番なんて意味ねぇんだよ、オールマイト。1番以外に何の価値もねぇ……!」
爆豪の発言にオールマイトはムッとして、諭すように反論した。
「そんなことはないぞ。爆豪少年。2番だって立派な―――」
「周りが認めてもオレが認めなきゃゴミ同然なんだよ……!だから!……次は絶対にオレが勝つ。見てろよ、オールマイト。来年は夜月をぶっ倒してオレが一番になってやる!!」
爆豪はオールマイトの話を遮り、宣言した。表情から見える気迫は一高校生が放てるものとは思えず、深い執念が見て取れた。
「うん、その信念はよくわかった。相対評価に晒され続けるこの社会において絶対的な自分の評価を持っていられる人間はそう多くない。期待しているよ」
「……!…ああ」
オールマイトの言葉に爆豪は少し喜びを見せ、素直にメダルを受け取った。
そして最後にシズの番だ。
「夜月少女!優勝おめでとう!見事な伏線回収だったね!」
「ありがとうございます」
シズはオールマイトに抑揚の欠けたいつも通りの声で答えた。
「君も顔つきが前よりも変わって見える。何かいい心境の変化があったのかな」
オールマイトはシズの微妙な表情の変化に気が付き、質問をする。シズは決勝でのことを思い出し、何があったのかを伝える。
「轟と一緒です。爆豪との戦いできっかけをもらいました。私を見つけるきっかけを。……私はもっと強くなります。……あなたよりも強くなりたい」
シズの言葉にオールマイトは嬉しそうに頷いた。
「君は戦いの中で何かを掴んでいるようだった。それを掴めばきっとできるさ。応援してる。がんばって」
「……はい」
シズはオールマイトにメダルをかけてもらい、お辞儀をした。
オールマイトは全員にメダルを渡し終えると観客のほうを見て、締めの言葉に入る。
「今回ここに立ったのは彼女たちだったが、ここにいる誰もがここに立つ可能性があった!御覧いただいた通り、競い!高めあい!成長する姿!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!てなわけで最後に一言!皆さんご唱和ください!せーの!」
オールマイトは手を空高く掲げ、観客全員に求める。体育祭が終わったからもちろんあれあろう。
「プルス『お疲れさまでした!!!』ウル……えっ!?」
「お疲れさまでした!……え」
オールマイトとシズはみんなの疲労を労う言葉をかけたが、観客のみんなは雄英のキャッチコピーであるプルスウルトラを叫んだ。オールマイトとシズはどこか気まずくなってしまい、互いを見合わせた。
「そこはプルスウルトラでしょ!オールマイト!!」
「え、あ、いや……疲れたろうなって思って……ね?」
「私に振らないでください。やり過ごそうと思ったのに」
観客の軽いブーイングにオールマイトはたじろぎ、シズに援護を求めた。しかし、シズにとっては忘れてほしいことのため触れないようにさせる。しかし、左右3人から突っ込まれてしまう。主に轟と爆豪から。
「夜月……お疲れ様」
「私煽られてる?」
「お疲れ!」
「爆豪それは煽ってるよね?怒るよ?もっかい回し蹴りくらう?」
「はっ、上等だよ!来年と言わず今からぶっ倒してやる!」
轟は純粋に労っているようだったが、爆豪は違う。確実に煽りに来ていた。嘲るような言い方はシズを怒らせ、今にも一戦が始まりそうな雰囲気を出していたが、オールマイトが止めることで何事もなく終わることができた。
そして表彰式が終わり、教室に戻った。相澤から明日明後日は休校であること、休み明けになったら職場体験の指名事務所の発表を行うことを伝えられ、各自下校となった。
とあるバー
そこには2人の男がいた。その男達の特徴は、片方が体に多くの手を引っ付けている。もう片方は体が黒いモヤのようなもので構成されていて、実体があるのかどうか怪しい。
二人の男――死柄木と黒霧は雄英体育祭を視聴した後、ある男から連絡が届き、その応対をしているところだった。
「んで、先生。何の用だよ」
死柄木は電話越しの男を先生と呼ぶ。電話越しの人間は2人いるのだが、死柄木が呼んだのは重厚な声をした人間のほうだ。慇懃な言葉遣いだが、その声には不思議な圧がある。もう片方の人間はドクターと呼んでいる。
『やあ、弔。雄英体育祭はもう見たかい?』
「ああ、リアタイしてたよ。あん時の白髪のガキが優勝してたな。あん時より強くなってるように見えた」
『そう、その子の話をしたいんだ』
「は?」
死柄木は男の真意がつかめず、呆けた声を出した。襲撃の時や体育祭で見せた大きな力。確かに特筆すべき点ではあるが、男が話題の中心に置くほどとは思っていなかったからだ。
『あの子の力が欲しくてね。弔にはあの子を仲間に引き入れるように動いてほしいんだ。弔の仲間にするのは絶対ではないけど覚えていてほしくてね』
「……わかった。けどその要求に素直に従うとは思えないぞ。従わなかったらどうすんだ?」
男の要求に死柄木は賛同するも、疑問は解消するべく質問する。
『その時はその時さ。僕のほうにも策はあるからね。弔に勧誘してもらうのは経験を積ませたいからだよ』
「……なんでそこまでこだわるんだ?それほどなのかよ」
男の真剣さに死柄木は違和感を覚えた。
『十年以上育てた果実は確実に収穫したいだろう?そういうことさ』
「……ふーん」
死柄木が納得したことを確認すると男は通信を切った。
「夜月静江…ね」
死柄木は、能面のような顔をしていた。
???にて。
「久々じゃのう。そろそろじゃな?」
通信を切った後、男はドクターに話しかけられる
「ああ、ドクター。もちろんさ。そうするべく育てた人間だからね」
ドクターに返答した男は、昔を思い出して悦に至る。
「フフフ、あの子の本質はヴィランだよ。僕がそうなるべく育てたからね。だから、捕まえればこっちのものだよ。果実を調理する方法はすでにあるからね」
男は不気味に笑い、すぐそばに控えていた男に命令を告げた。
「頼んだよ」
「……はい」
従者は男に心底おびえているようだった。もし失敗してしまったら男に粛清されてしまうと考えているからだ。粛清の恐怖で多大のストレスを抱える。もともとプライドの高いこの男は
(対象をぶっ殺して自由になってやる……そのあとに、いつかこいつを殺す!)
従者の思考は男にはもろバレなのだが、男は知らないふりをした。仮に謀反を取られても余裕で対処が可能だからだ。
従者は男の元から離れ、任務の遂行を開始した。
「フフフ……」
男はまたもや悦に入る。
「今は
男はすぐにくる楽しみの時を思い、笑う。
悪意を満たして……