魂を満たす物語   作:よヨ余

21 / 54
コードネーム

雄英体育祭が終わり、臨時休業日を挟んでの登校日。1-Aでは登校したみんなが和気あいあいと話をしていた。話題は体育祭後の周囲の反応についてだ。誰もかれも話しかけられて応援されたというものが多く、本選出場組は特に反応が多かったようだ。

 

「超話しかけられたよ!来る途中!」

 

「私もジロジロ見られてなんか恥ずかしかった!」

 

「俺も俺も!」

 

芦戸と葉隠の言葉に多くの生徒たちが声を上げる。葉隠は見られているのか怪しかったが……。

 

しかし、やはり反響は凄まじかったようで、多くの人たちは前向きな反応を受けたようだ。

 

しかし、中には悲しい思いをした者も……。

 

「オレなんか小学生にドンマイコールされたぜ……」

 

「ドンマイ」

 

瀬呂の嘆きに誰かがいい返しをした。瀬呂は轟戦にて瞬殺されてしまったため、このような反応が多かったのだろう。轟を気遣ってなのかどうかはわからなかったが、オーバーに悲しそうにはしなかった。

 

「夜月はどうだったの?」

 

遠巻きにやり取りを見ていたシズに耳郎と八百万が話しかけてきた。

 

「私は休みの日にも話しかけてきた人がいたな。人によっては家までついてきた人もいた。先生たちが対処してくれたよ」

 

シズの言葉に耳郎と八百万は顔をしかめ、少し不快そうにした。家までついてくるという非常識な行動に嫌気がさしたのだ。シズがなんでもなさそうにしているのを疑問に思ったが、そこは突っ込まなかった。

 

「家までついてきたって…!大丈夫なの?」

 

「先生方が対処してくれたのなら大丈夫だとは思いますけど……、何かあったら言ってくださいね。力になりますので」

 

「うん。ありがと」

 

シズは耳郎と八百万にお礼を言い、今朝の出来事を思い出していた。

 

(そういえば今日、大学生くらいの男に話しかけられたな……ファンって言ってたけど、なんでデビューもしてない私のファンになってくれたんだろ?……でもいっか。ファン一号……いや、二号の人がすぐにできるなんてありがたいな)

 

シズがそう思考していると、チャイムが鳴る。席に座っていなかった生徒たちは急いで自分の席に着いた。その直後にドアが開き、相澤が入ってくる。

 

「おはよう」

 

「「「おはようございます!!」」」

 

相澤の挨拶にみんなが挨拶を返し、先生は早速1限の開始に移る。

 

「早速だが、今日の1限目のヒーロー情報学は少し特別だぞ」

 

相澤の言葉に全員が身構える。相澤のことだから抜き打ちテストなどの受難を受けさせるものだと思ったのだ。しかし、そんなことはなく、いい意味で裏切られることになった。

 

「『コードネーム』。ヒーロー名の考案だ」

 

「「「胸膨らむヤツきたああぁぁ!!!」」」

 

手を突き上げて喜びを表現する生徒たち。しかし、その沸き上がりは相澤の一睨みによって鎮圧される。個性まで使っていてガチだった。シーンとして姿勢を正す生徒たちの姿を見て、相澤は話を続ける。

 

「というのも、先日話したプロからのドラフト指名に関係する。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2、3年から……。つまり今回来た指名は将来性に対する期待に近い。卒業までに興味が尽きたら一方的にキャンセル…なんてことはよくある」

 

「頂いた指名がそのままハードルになるんですね!」

 

葉隠の言葉に相澤は頷く。体育祭はプロヒーローの情報収集の時間となっていて、その時間で気に入ったヒーローの卵を指名する、という流れになっているのだ。

 

「そうだ。で、その結果がこれだ」

 

相澤が手元のタブレットを操作すると、黒板の前に白いスクリーンが降りてくる。そこには雄英が集計した各生徒のプロヒーローたちに指名された指名数が映し出されていた。

 

夜月 4,354

轟 3,242

爆豪 3,002

常闇 306

飯田 295

上鳴 179

八百万 77

切島 47

尾白 46

麗日 27

瀬呂 17

 

「例年はもっとバラけるんだが、今年は3人に偏った」

 

一覧を見た生徒たちは思い思いの声を上げる。想像よりも多く指名を受け取ったことに歓喜する者。指名が一切来ていないことを嘆く者。上位3名の指名数の多さに驚愕する者。素直に称賛する者などだ。

 

「だーー、白黒ついちまった!!」

 

「2位と3位逆転してね?」

 

「チッ!」

 

「轟さん、流石ですね……。夜月さんも」

 

「ありがと」

 

「ほとんど親父の話題ありきだろ」

 

またもや騒々しくなる教室に相澤は一睨みをいれる。途端に教室は静かになり、それを確認した相澤は話を続ける。

 

「これを踏まえて、指名の有無に関係なく、いわゆる職場体験にいってもらう。お前らは襲撃の時にヴィランとの戦闘を経験したが、本来はこっちが初めてのヴィランとの邂逅だ。プロの活動を実際に見学、また体験して、より実りのある訓練にしようってこった。職場体験とはいえヒーロー社会に出ることは違いない。つまり、お前らにも対外的に使用するヒーローネームが必要になる。まあ、仮とはいえ適当なもんを付けると――」

 

「地獄を見るよ!この時の名前がそのまま世に認知されてプロ名になってる人は多いからね!」

 

「ミッドナイト先生!」

 

相澤の言葉を引き継いで言葉を続けたのはミッドナイト。どうやら彼女が授業を担当するようで、相澤はミッドナイトが教壇に立った瞬間に寝袋を取り出した。

 

「その辺の査定はミッドナイトさんにしてもらう。俺にはそういうのは向かん。将来自分どうなるのか。名をつけることでイメージが固まり、近づく。名は体を表す。例えば、オールマイトとかな」

 

相澤はそう言った後、寝袋にこもった。あとはミッドナイトに任せる構えだ。

 

(私のヒーロー名……)

 

シズは配られたフリップボードをもらいながら、ナガンとの思い出を掘り起こす。

 

 

 

『そういやシズってヒーローネーム決めたのか?』

 

ナガンがシズに問いかけた。ヒーローを目指すのはいいものの、ヒーロー像に近づくために必要なものが決まっていないことを案じたためだ。

 

『まだだよ。私にそんなセンスはないし、まだビビッと来たものもないし』

 

『そっか……、お前の個性から考えると魂に関係する名前か?ソウルとか』

 

『それどっちかっていうと二つ名に使われるでしょ。ソウルヒーロー何々って感じで』

 

『確かにな……。ま、そんなに急がなくてもいいか』

 

シズには時間がある。そのうち雄英でのカリキュラムでヒーローネームを考えることがあるだろうから、その時に考えればいいと判断したのだ。

 

 

 

(懐かしいな……。ま、ヒーロー名はもう決まってたんだけど)

 

シズがナガンにまだ決まってないと伝えたのは、ヒーローネームの由来を恥ずかしがったためだ。あの時のシズはナガンにからかわれる可能性を考慮して言わなかったのだ。

 

(今思えば絶対からかわないよね……)

 

言わなかったことを少しだけ後悔したが、また会ったときにたくさん話せばいいため、気にしない。そのためにヒーローになるといってもいいのだ。

 

「じゃあ、そろそろ出来た人から発表してね」

 

ミッドナイトの発言で生徒たちはざわつく。まさか発表形式だとは思わなかったからだ。

すると、青山が前に出てフリップボードを出した。

 

「いくよ……。かがやきヒーロー、I can not stop tuinkling!訳して…キラキラが止められないよ!」

 

(短文。でも青山らしいな。いい名前だ)

 

シズは青山のヒーローネームをそう評した。ほかのみんなは短文であることが採用できるのか不思議に思っていたようだが。

 

「ここはIを取ってcan'tに省略したほうが読みやすい」

 

「それね。マドモアゼル」

 

しかし、それは杞憂のようだ。それどころか、英文の訂正をし、読みやすさを向上させてきた。青山の英語とフランス語が混ざっているのは突っ込まないらしい。

 

続いて、芦戸の番だ。芦戸は元気にフリップボードを教卓に置き、自身のヒーロー名を声高に言う。

 

「じゃあ、次アタシね!ヒーロー名、エイリアンクイーン!」

 

「血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!」

 

「ちぇー」

 

芦戸はミッドナイトのダメ出しに残念がり、また次のヒーロー名を考えることになった。

 

そして、生徒たちは芦戸を恨む。芦戸のせいで大喜利のような雰囲気が漂ったからだ。しかし、それはとあるヒーローによって霧散する。蛙吹だ。彼女は先生に許可を取り、教壇に上がる。

 

「小学生のころから決めてたの。梅雨入りヒーロー、フロッピー!」

 

「かわいい!親しみやすくていいわ!みんなから愛されるお手本のようなネーミングね!」

 

フロッピーの登場で大喜利の雰囲気が完全に霧散した。生徒たちは感謝し、みんなからフロッピーコールが始まる。蛙吹…いや、フロッピーは照れくさそうに頭を掻いた。

 

フロッピーの流れに乗って、ほかの生徒たちも自身のヒーロー名を発表していく。

 

切島は『剛健ヒーロー、烈怒頼雄斗』と名乗った。漢気ヒーロー、紅頼雄斗のリスペクトのようだ。先人の名前の一部を使用することには相応の覚悟が伴う。だが、切島はそれも承知のようで、逆に意気込んだ。

 

その後も、みんながヒーロー名を発表していく。

耳郎は『ヒアヒーロー、イヤホン=ジャック』、障子は『触手ヒーロー、テンタコル』、瀬呂は『テーピンヒーロー、セロファン』、尾白は『武闘ヒーロー、テイルマン』、砂籐は『甘味ヒーロー、シュガーマン』だ。尾白と砂藤はヒーロー名が少々被り気味になってしまった。

 

そして芦戸のリベンジ。『リドリーヒーロー、ピンキー』として認められた。

 

上鳴は『スタンガンヒーロー、チャージズマ』、葉隠は『ステルスヒーロー、インビジブルガール』、八百万は『万物ヒーロー、クリエティ』だ。

 

轟は『ショート』。本名でいいのかというミッドナイトの質問に「ああ」と返していた。

 

常闇は『漆黒ヒーロー、ツクヨミ』、峰田は『モギタテヒーロー、グレープジュース』、口田は『ふれあいヒーロー、アニマ』だ。みんな個性的でセンスのあるネーミングをしている。ミッドナイト先生の合いの手はみんなをほめてくれるものばかりで、みんなの自己肯定感を上げるものだった。

 

しかし、そんな彼女にも否定するヒーロー名はある。

 

「『爆殺王』」

 

「そういうのはやめたほうがいいわね」

 

爆豪の回答にミッドナイトは冷静に淡々と告げた。人気商売の枠組みでもあるヒーローにおいて、直接的な暴言はよくないと判断されるのだろう。

 

「なんでだよ!」

 

「爆発三太郎にしろよー!」

 

「黙っとれクソ髪!」

 

茶々を入れる切島を黙らせる爆豪。そんなやり取りの中、麗日が発表する。爆豪は再考だ。

 

『ウラビティ』、それが麗日のヒーロー名だ。

 

「うんうん!みんな結構いい感じじゃない!あとは再考の爆豪くんと……飯田くん、緑谷くん、夜月さんね」

 

その言葉に飯田と緑谷は険しい顔をした。飯田の脳裏に浮かぶのは病院で床に伏した兄の姿。彼は兄のヒーローネームを継ぐように言われたのだが、飯田にはその覚悟がまだなかった。飯田は教壇に立ち、フリップを見せる。

 

「あなたも名前ね」

 

ミッドナイトの反応に飯田は何も言わなかった。

 

「緑谷くん、夜月さん?できた?」

 

「あ、はい!」

 

「はい」

 

シズと緑谷が同時に返事をする。どちらが先に発表するかどうかで気まずくなった緑谷に、シズが「お先にどうぞ」という意のジェスチャーをし、緑谷が先に発表する。

 

緑谷のフリップに書かれた名前をみて、生徒たちが驚く。その名前は、蔑称として使われていた名前だったからだ。

 

「緑谷……!?」

 

「いいのか?お前それ……」

 

「一生呼ばれ続けるかもしれないんだぜ?」

 

みんなが心配の声を上げるも、緑谷の意志は固かった。今まで好きではない言葉だったが、人に意味を変えられた。その意味が、気に入ったようだ。

 

「これが、僕のヒーロー名です!」

 

声高にいうその姿はまぶしかった。

 

そして、シズだ。

 

「私のヒーロー名は『シズ』です」

 

「本名由来で個性由来の名前じゃないのね。貴方のキャラ的にクール系の名前が似合う気はするけど……」

 

ミッドナイトはシズとフリップを見ながらそう疑問をぶつける。ほかの生徒たちも同じように考えていたようで、「確かに」と漏らす生徒もいた。

 

しかし、シズは首を横に振る。

 

「私もそう思いますけど、私はこの名前に思い入れがあるんです。この名前を付けてくれた人にまた会ったときに、ヒーローとして、そして夜月静江として、またこの名前を呼んでもらいたいんです」

 

そう話すシズの表情は柔らかく、見る人によっては魅了されてしまう表情をしていた。

 

「そういうことならとやかく言わないわ。頑張りなさい!」

 

ミッドナイトは「普段からこういう表情をしていたら厄介ファンがつきそうね……」と思いながらシズの覚悟を認める。シズの表情は一層柔らかくなった。

 

「……はい」

 

こうして、未来のヒーローである『シズ』が誕生した。

 

 

ちなみに、

 

「爆殺卿!」

 

「違う。そうじゃない」

 

その後も、ミッドナイトにダメ出しをされる爆豪であった。

 

閑話休題。

 

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリスト渡すからそこから自分で選択しろ。指名のなかった者はこちらからオファーした全国の受け入れ可のヒーロー事務所40件。その中から選べ。それぞれ得意なジャンルや活動地域も違うからよく考えろよ」

 

相澤はそう言ってリストをそれぞれに渡した。そこでチャイムが鳴り、一限目が終わる。

 

「期限は今週末までな」

 

相澤の言葉でシズは態度に出さないがギョッとする。ちなみに今日は水曜日。つまり、この量の資料から二日で選べというのだ。

 

「夜月さんと轟さんのリストの分厚さはすごいですね……」

 

近くにいた八百万がシズと轟に驚きの声を上げた。リストは1枚に10人ほどのヒーローの詳細が書かれているので、シズの総数は400枚を超えていた。

 

「どのようなヒーローが書かれているのですか?」

 

八百万が質問すると、周囲から人が集まってきた。

 

「上位のヒーローだと……エンデヴァー、エッジショット、ギャングオルカ、クラスト、ベストジーニスト、ミルコ、ヨロイムシャ、リューキュウ……ぐらいかな」

 

「すごっ!オールマイトとホークス以外のトップ10達に選ばれてるってことじゃん!」

 

シズの言葉に耳郎が驚きの声を上げる。

 

「そうだけど……私が行きたいところはないな……」

 

「贅沢だな。うらやましいぜ」

 

シズは瀬呂のボヤキを聞き流し、緑谷のもとに行く。彼が一番ヒーローに詳しいからだ。

 

「緑谷。この中で一番剣の扱いに長けているのは誰?」

 

「夜月さん、剣か……ちょっと見せてもらってもいい?」

 

「もちろん」

 

シズは緑谷にリストを渡す。もらった緑谷は目にもとまらぬ速度で目を通し、ブツブツとつぶやく。

 

「剣か……。まず思いつくのはナンバー8のヨロイムシャ。あーでもホークスもたまに剣使ってたな……。でもリストにないし……。……そうだ。あの人はいるかな……?…………いた!」

 

緑谷のブツブツは想像よりも早く終わり、一人の老人を見せた。

 

「ゲンセイ・アラキ?」

 

「うん。彼は普段は剣道の道場主なんだけど、たまにヒーローとして活動しているんだ。剣の流派とかは基本門外不出らしいからだれも知らないんだけど、指名してるってことは教える気があるってことだと思うし……。それに、剣の技術って意味では彼の技量は日本一……いや世界一って言っても過言じゃないよ!」

 

緑谷の力説にシズは押されながらも、説明はしっかりと聞く。流派。シズが求めていたのはまさしくそれだ。弧月での攻撃の型を増やし、出来ることを増やしたかった。旋空だけでは心もとなかったのだ。

 

「ありがと、緑谷。じゃあその人にする」

 

「えっ!?もっと考えてからでもいいんじゃ……」

 

緑谷はシズの決定が早計だととどめようとしたが、シズの意志は固かった。

 

「大丈夫。一応ほかの人たちも全員見るけど、たぶんその人にする」

 

 

 

 

シズは家に帰ってからリストを全員拝見した。めぼしい指名者はいなかったので、『ゲンセイ・アラキ』の事務所――もとい道場がシズの職場体験先になったのだった。

 

 

 




ようやくネームド人物の転スラ要素出現。

みんな誰かわかるのかな?知ってるかな?


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。