魂を満たす物語   作:よヨ余

22 / 54
転スラを読み返していて気づいたんですが、シズの名前は転スラのシズさん由来ではないです。たまたま。偶然。ほんとに。

ナガンの理由が全てです。




職場体験ー1

シズはとある道場の前に来ていた。その道場には看板の類がなく、ただの民家のようにも見えた。そもそもその道場は山の中にあるため、人が通ることはないのだが。

 

「ここ……だよね」

 

シズは一礼をしてから道場の扉を開き、入る。

 

「……ん?誰もいない……」

 

シズは人の気配を感じたが、人がいないことに戸惑う。だが、その程度のことで長時間止まるシズではない。

 

(気配は感じる……うん、動いてる。……右)

 

シズは弧月を生成し、向かってくる刃を受ける。刃といっても木刀だったので、害意はないようだった。

 

弧月が震える。ビリビリと振動が腕から肩まで伝わり、この男が只者じゃないことがよく伝わる。

 

(これ、木刀だよね?なんで弧月と肩を並べているんだ?)

 

シズはこの状況の異質さを認識した。しかし、それを理解する暇もないまま男に話しかけられる。

 

「ほう、これを止めるか」

 

「ゲンセイさんですよね?随分と物騒ですね。木刀でこの威力ですか」

 

ゲンセイはシズの察知能力に舌を巻く。シズはその誉め言葉を受け流し、ゲンセイを押し返そうとした。

 

しかし、ゲンセイはもう力を入れていなかったため、その必要はなかった。

 

ゲンセイはシズに向き直り、弧月に目を向けた。

 

「その刀。なかなかだな。オレがあの頃に持っていた刀よりも質がいい。だが――――」

 

ゲンセイは腰に掛けていた刀を弧月に当て、斬った。

 

そう、弧月を斬ったのだ。

 

異常事態。

 

弧月は無生物に対して圧倒的な切れ味を誇る。刀が迫り、鍔迫り合いになるような状況に陥れば、普通はその刀が切れる。刀の質がどんなに良くても、同等がいいところなのだ。

 

「な……」

 

「―――足りんな。オレの刀で簡単に斬れるようなナマクラでは話にならん」

 

弧月はゴトリと音を立てて落ち、効果を失った。

 

シズは驚愕する。彼の動きが異様だったからだ。

 

普通、何かを斬るときは振りかぶり、十分な力を加えて斬る。しかし、彼は一切力を加えていなかったのだ。刀の通り道にあったものが切れただけ。二つの刀には、圧倒的な力の差があった。

 

もちろん、彼の技量も素晴らしい。無駄な動きは一切存在していなかった。太刀筋は鋭く、ブレもなかった。

 

「お前がすべきことはその刀のレベルを上げること――刀の鍛錬だ」

 

「……お言葉ですが、私は剣を教わりにここに来たのです。貴方が修める流派を教わりに来たんです」

 

ゲンセイの言葉にシズが反論する。しかし、ゲンセイは鼻で笑った。

 

「お前にわが流派を伝授する?――バカバカしい。今のお前の身の丈に合っていない」

 

ゲンセイはそう言って客室に案内する。シズの思考はゲンセイの今の言葉で満たされていた。

 

(……今の弧月では彼の流派に耐えられないのか?……いや、木刀でも耐えられていたのだから違う。単純に私の技量が足りていない?……いや、考えても仕方ないか。今は認められないと教わることすらできないんだから。……でも幸い、あてはある)

 

「ゲンセイさん。これで認めてくれますか」

 

シズはもう一度弧月を生成した。しかし、いつもの弧月とは一味も二味も違う。

 

普段は大気のエネルギーを媒体として弧月を生成しているが、今回は虚無を媒体として弧月を生成する。刀身は鋭く光り、素人目でも優れた刀であるとわかるだろう。

 

「ほう……」

 

ゲンセイは嘆息し、もう一度刀を当てる。今回は切れず、何とか耐えていた。

 

「ふむ……先ほどとは大きく違う。ブレはあるが……まあ、及第点は越しているな。道場に来なさい」

 

ゲンセイはシズを道場に招いた。シズに木刀を渡し、自身も木刀を手に取る。

 

ゲンセイは正座し、自身の流派について説明した。

 

「わが流派の名は『朧心命流』。流水のように流れるような太刀筋と大地のような力強さを併せ持つ流派だ」

 

「『朧心命流』……」

 

シズは先ほどの鍔迫り合いを思い出し、得心する。威力は高く、芯もあった。刀の持ち方、構え方からも流れるような滑らかさが感じ取れた。

 

「実際に体感したほうが早いか。構えなさい」

 

ゲンセイは立ち上がり、木刀を構える。シズも木刀を構えた。

 

ゲンセイが動く。予備動作もなく距離を詰め、木刀を胴に向けて振るう。

 

シズはその攻撃を防ぎ、その威力に驚いた。

 

(さっきよりも威力が上がっている?さっきは全力じゃなかったのか)

 

シズはゲンセイの剣技、そして威力に舌を巻いた。木刀に響くような威力。受け続けると木刀が折れてしまうような予感を感じる。そのため、シズは折られないように攻撃に転じる。

 

ゲンセイはシズの猛攻に為す術もなく、攻撃を受け続け地に膝をつける……なんてことはなく、全ての攻撃を捌いた。むしろ木刀を受け流し、シズの攻撃を滑らせる。

 

(当たらない……緑谷が言うにはゲンセイさんの技量は世界一らしいけど、ここまで差があるとは思わなかった。私も剣には少し自信があったんだけどな……旋空に頼ってきた弊害だね)

 

シズは縦に木刀を振るい、剣道で言うところの面を取ろうとする。しかし、ゲンセイは読んでいた。

 

「疾風雷覇」

 

ゲンセイは体裁きで木刀を避け、横なぎに木刀を振るう。

 

「わ……」

 

シズは何とか左腕を割り込ませて直撃を防ぐが、響く衝撃によろけた。そして、その隙を見逃すゲンセイではない。

 

「紫電突」

 

朧心命流において最速の突き技。その突きはシズの腹部に直撃し、シズを蹲らせた。

 

「いった……」

 

「ふむ。こんなものか」

 

ゲンセイは蹲ったシズを見下ろしそう呟く。シズは多少悔しい思いをしたが、完膚なきまでに叩きのめされたので一切を受け止める必要がある。悔しさを燃料にし、ゲンセイから吸収するのだ。

 

「少しはわかったか?」

 

「はい……」

 

ゲンセイはシズに問いかけ、シズが答える。ゲンセイは目で続きを促したのでシズは続けた。

 

「さっき腕で受けた時に響くような衝撃を受けました。今もビリビリしてて痛いです。そして、型は少ししか見ていないので確信はないですが、一つの型が次の動きに続くようにできていました。ゲンセイさんの技量あってのことかもしれませんが」

 

「ほう。いい目だな。オレの技を受けながら観察も並行するとは」

 

ゲンセイはシズの言葉に嘆息し、称賛する。そして確信する。シズにならば秘奥義を伝授してもよいと。

 

(技術は拙く、ほめられたものではない。しかし、それでも疾風雷覇を防いだ。つまり目がいい。いや、それだけでは説明がつかんな。目、体運び……経験か。常人よりも膨大な経験があるのだろう。しかし、それにしては所々不安定だ。無意識に活用している?歪だ。…………いや、そんなことはどうでもいいか。はっきりとしているのは磨けば光るということ。それが何よりも重要だな)

 

「では、まずは基礎的な型を教えよう。お前の筋の良さによってはわが流派の秘奥義も伝授してやる」

 

「……簡単に伝授してもよろしいのですか?門外不出だと聞いていたのですが」

 

ゲンセイの寛大な対応にシズは当惑する。緑谷の話によると流派は門外不出。その技を知る人間はいないらしい。

 

しかし、ゲンセイはシズの懸念を笑い飛ばした。

 

「別に門外不出なわけではない。そう言われているのは単に筋のいい者がいないからだな。秘奥義だけは門外不出でオレが認めた人間にしか教えていない。それだけお前を認めているということだ」

 

「……ありがとうございます」

 

シズはゲンセイの純粋な期待を感じ、感謝する。何とかお眼鏡にかなったようで、職場体験の目的を達成できそうなことに安堵する。

 

「では、構えろ」

 

ゲンセイがシズに木刀を向け、立つように促す。シズは頷き、立って木刀を構える。

 

「……よろしくお願いします」

 

訓練は夕方まで続き、シズは複数の型を体に叩き込まれた。

 

 

 

訓練を終えたシズは道場の客室で体を休めていた。職場体験期間中はここで寝泊まりをするのだ。

 

「体が痛い」

 

シズは訓練で受けた打撃の数々を思い出し、ボヤく。

 

ゲンセイの訓練は実戦形式で、延々と切り結ぶのだ。休憩は一回の昼休憩のみ。その上、休憩時間は30分。そのあとは約5時間に及ぶ剣劇を繰り広げる。

 

しかも、ゲンセイはシズの動きがよくなってきた瞬間にギアを上げていた。動きのキレが上昇し、剣の速度も上がる。そして型の数も増えていき、予測が難しくなっていたのだ。中には他の型とは毛色の違う技もあったため、秘奥義の一つであったのだろう。

 

(流水斬、地天轟雷、疾風雷覇、紫電突。……それらを極め、応用、開拓をすると頭文字に朧が付く。……そして、梅花――五華突。あれだけ別格だった。初撃はなんとか逸らせたけど残りの4連撃はもろに食らった。……一回見ただけで習得するのは無理だな。明日また観察しよう)

 

ゲンセイが見せた技は5つ。正確には朧・流水斬のように派生技は見せていたのだが、基本的な動きは一緒だった。基本さえできればすぐに習得できるだろう。

 

「まずは基本の型の習得。そしたら秘奥義の習得だね」

 

シズは方針を明確にし、ゲンセイの動きを思い出しながら剣を振るう。動きのキレや正確さはゲンセイには遠く及ばないものの、職場体験前のシズの動きと比べると別人のようで、洗練された動きだった。

 

(……そういえば、なんでゲンセイさんの木刀は弧月に匹敵する質だったんだろう。単純に木刀の質が良かった?いや、違う。木刀自体はその辺にある普通の木刀だった。……となると、ゲンセイさんの使い方、あるいは個性によるものか。……明日聞いてみよう。私にも使えることかもしれない)

 

シズはゲンセイの個性を知らない。だが、無個性ではないことは知っている。

 

個性には魂が宿る。

そして、その魂は個性によってある程度の分類に分けられる。例えば、炎系統、異形系統といった風にだ。

 

シズとゲンセイの個性の魂は似ていた。同じ個性だといわれても一定の信憑性があるくらいには似ている。よって、ゲンセイにできることはシズにもできる可能性があるのだ。

 

(ゲンセイさんは5日目にパトロールの体験をさせてくれるようだからその時までには秘奥義の一つや二つは習得しよう。明日はゲンセイさんの個性の詳細や戦い方を教えてもらって…………)

 

「……フフッ」

 

思わず笑みがこぼれる。楽しい。シズは体育祭以来の高揚感に襲われていた。

 

己の肉体と技術のみで自身を圧倒する人間の存在に期待を感じているのだ。自身をもっと高みへ連れていく人間の存在に。

 

シズはにやけた顔を抑え、自身の変化を悟る。

 

今までは、強くなるとかはどうでもよかった。ただ、自信をもってヒーロー活動を行うことができればそれでよかった。

 

今は違う。

 

今は、力に飢えている。誰にも負けない実力が欲しい。もっと強くなりたい。限界を知りたい。シズがシズを見つけられるように。

 

「私はまだまだ学ぶことができる」

 

シズは確信する。この1週間で生まれ変わったように強くなることができると。

 

(お師匠の驚く顔が楽しみだ)

 

シズはいつかの未来を夢想し、就寝した。




夏休みが終わってしまった……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。