魂を満たす物語   作:よヨ余

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学校があると急に執筆が進まない……!?

学校の魔力に驚いた今日この頃。遅くなって申し訳ありませんが、ぜひお楽しみください……。


職場体験ー2

職場体験二日目。シズはゲンセイに個性について詳細を仰いだ。しかし、ゲンセイは個性についてはまだ教えるつもりはないらしく、「一度でも俺に剣を当てることができたのなら、教えてやろう」と言っていた。シズはゲンセイの言葉に了承し、また稽古をつけてもらっていた。

 

「ふむ、なかなかよくなってきたな。昨日とは大違いだ」

 

ゲンセイはシズの成長速度に驚嘆する。

 

現在の時刻は午後二時を少し過ぎたころ。シズの動きが昨日や午前とは別物のように変わっていた。朧心命流を理解したのかゲンセイの動きに多少似ていたのだ。

 

もちろんゲンセイには遠く及ばない。ゲンセイにはシズを圧倒するほどの技術がある。その事実が意味するのは、圧倒的な時間圧の差。ゲンセイはその生涯のほとんどを朧心命流に費やしてきたのだ。学んでから1日も経っていない少女に負けるほどではない。

 

しかし、それでも注目すべき変化だった。

 

先日まで剣の技量ははっきり言って目も向けられなかった。速度と力という己に備わった天性の才能だけで剣を扱い、剣を振るうだけの馬鹿そのものだった。

 

今ではどうだろう。

 

朧心命流の基礎のさわりだけでも理解した。そしてそれを自分なりに応用する力。……センスだ。

爆豪のような天性のセンスがシズにも存在していた。そのセンスによって、ゲンセイになんとか食らいついていたのだ。

 

「地天轟雷」

 

シズが斬撃を繰り出す。上から下に剣を振るい、間髪入れずに下から上へと剣を振るう。

しかし、ゲンセイはその斬撃を流水斬で受け流し、シズの耐性を崩す。

 

「紫電突」

 

そのまま朧心命流最速の突きである紫電突を繰り出しシズの腹に木刀を向けた。昨日のシズの行動を一時的に停止した攻撃。

 

シズは心の中で嗤った。シュミレーション通りの展開だからだ。

 

「流水斬ッ!」

 

しかし、その攻撃はシズの流水斬によって流される。剣の世界において、今のシズは昨日のシズと天地ほどの差がある。ゲンセイの昨日と同じ速度、鋭さの突きなど簡単に避けられる。

 

「紫電突!」

 

そして、そのままの勢いで紫電突を放つ。シズの突きはゲンセイの肩に向かって伸び、ゲンセイの肩に当たる寸前まで伸びる。

 

しかし悲しきかな。その攻撃は通らない。

 

楊柳(やなぎ)――七華凪(なななぎ)

 

ゲンセイの剣技『楊柳――七華凪』によって、シズの攻撃は柔らかく流される。その流れは流水斬とは比べ物にならないほどに流麗だ。その一切の無駄のない剣技にシズは目を奪われる。

 

(……これが、極限までに技を極めた人間の剣……!)

 

シズはゲンセイの技に魅了され、足を止めた。稽古とはいえ敵の前で動きを止めるという愚行。しかし、ゲンセイから追撃が来ることはなかった。ゲンセイは木刀を収めてシズと向き合う。

 

「まさか秘奥義を使わされるとは思っていなかった。お前を多少侮っていたようだ。……その詫びも込めて、お前にはオレの個性について、そして残りの秘奥義について話すとしようか」

 

ゲンセイはそう言って最初の時のように木刀を自分の横に置いて正座する。

そして、シズに自身の個性の詳細を語った。

 

「オレの個性は『闘気』。特有の生体エネルギーを操作し、治癒力の強化、身体能力の向上ができる。闘気を剣に纏わせることで剣の強化も可能だ。初日にお前の弧月とオレの木刀が競り合ったのはその影響だな」

 

闘気は不可視だ。シズが扱うエネルギーのように使用者のみが視認できる。その点を見ても、シズの個性とゲンセイの個性は酷似している。

ただ、ゲンセイの個性はシズに比べで汎用性に劣るようだ。しかし、個性の成熟度はゲンセイのほうが上。そのおかげか、闘気と虚無は大体同じだけのエネルギー密度がある。

しかし、シズの虚無はまだまだ伸びしろがあるといえる。もしシズが虚無を成長させたらゲンセイを超えることができるだろう。

 

まとめると、ゲンセイの個性はシズの下位互換といっていい。しかし、練度の観点から現在はゲンセイのほうが強い個性となっているようだ。

 

「『闘気』ですか……。私の個性と随分似ていますね」

 

「そうだ。お前の『魂』の個性とオレの『闘気』は似ている。オレがお前を指名したのはその理由もあるのだ」

 

シズの言葉にゲンセイは返した。

 

シズはゲンセイの言葉を聞き、活路を見出す。

虚無を纏わせることができれば、強くなれるのだ。虚無を剣に、いずれは全身に纏わせる。その域まで達することができれば大抵のヴィランに負けることはないだろう。

 

シズは虚無を作り、木刀の周りに纏わせた。虚無は形を保ち、剣の周りに漂う。

 

しかし、虚無は霧散してあたりに漂った。

 

シズはもう一度虚無を木刀の周りに纏わせるも、少ししてからまた霧散してしまう。

 

虚無を剣に纏わせる。この言葉だけを聞くと随分と簡単そうに聞こえるが、意外と難しいのだ。

 

そもそも虚無は常に制御を促さないと暴走する。暴走の果てに行きつくはカタストロフで、ここら一帯が消し飛ばされてしまうのだ。

その性質上、虚無を剣の周りに纏わせるという行為を継続するには常に制御に意識を割く必要がある。そして、シズは虚無の制御を続けられるほどの技量はない。

 

体育祭では己の体の中に虚無を巡らせるというもっと難しい技を使用していたが、それは体育祭決勝での精神状態や疑似的な覚醒状態に陥っていたためだ。火事場の馬鹿力というやつだ。

 

この問題を解決する方法は二つ。

一つは単純に技量を上げること。虚無を継続的に、そして可能なら無意識化での制御を可能にする。

 

しかし、その方法はあまり推奨されるようなものではない。その領域に達するまでには数ヶ月はかかる。だからと言ってその鍛錬をしない理由はないものの、現在の状況を無視するわけにはいかない。そこで二つ目の方法だ。

 

その方法とは、攻撃が当たる直前に虚無をまとわせることだ。

常に虚無を纏わせる必要はない。攻撃が直撃する瞬間に虚無の影響が残っていればいいのだから。

幸い、短時間なら安定して虚無を纏わせることができる。

 

「その様子だと、虚無とやらを纏わせることはできたようだな。ただ、長時間扱うには練度が足りんか」

 

ゲンセイはシズの様子をみてそういった。

 

「なんでわかったんですか?」

 

シズは問う。ゲンセイは虚無はおろかエネルギーすら見ることはできない。闘気のみのはずだったからだ。

ゲンセイはその問いに、

 

「剣の声に耳を傾ければ簡単にわかる。その域にまで己を鍛えればたやすいことだ」

 

と答えた。

 

剣の声。シズにその概念は理解できなかったが、ゲンセイの剣を見る目は一級品だ。それはシズが初日に虚無製の弧月を見せた時の反応から推測できる。そのゲンセイが言うことならば信じていいだろう。

 

「個性については以上だ。次に、わが流派の秘奥義について教えよう」

 

ゲンセイはシズの虚無纏いが一段落ついたことを確認して次に入る。

朧心命流が誇る秘奥義の伝授。ゲンセイがこの判断をしたのは初めてだ。……そもそも、朧心命流について享受したのも初めてなのだが。

 

ゲンセイが言うには、秘奥義は4種類あるようだ。

 

梅花――五華突。梅の花を象徴する刺突技。人体の急所である目、心臓、腎臓、水月、金的、そして陽動として両肩の十か所のうち、五か所を正確に刺突する。状況に応じて刺突箇所を変える必要があるため、相応の技術が必要な技だ。

 

石榴(ざくろ)――六華斬(ろっかざん)。非殺傷を目的をした高速斬撃による殴打。シズには関係ないことだが、殺すことをよしとしないヒーローにとっては重宝する技だといえるだろう。

 

楊柳――七華凪。先程ゲンセイが使用していた技だ。攻撃を目的としたものではなく、敵の攻撃を受け流すために存在している技だ。その剣技の柔らかさはほかの型とは一線を画し、最高峰の技術を要求される。

 

八重桜(やえざくら)――八華閃(はっかせん)。朧心命流の最高奥義。瞬時に8回敵を切り裂く。剣の軌道は千差万別で、その軌道を読むことは不可能に近い。最高奥義を関するにふさわしい技だといえるだろう。

 

ゲンセイが実演するが、シズは剣の道筋を目で追うだけで精いっぱいだった。人間の視認限界に近い速度で繰り出される斬撃や刺突。見取り稽古の形ではあるが、その速度では十分な情報を得ることは難しかった。

シズが十分な情報を得ることができたのは奇跡に等しいだろう。

 

シズはゲンセイに実演してもらった後、秘奥義の習得に取り掛かる。

 

「遅い。その速度の刺突では目を閉じていても避けられる」

 

シズは梅花――五華突モドキを繰り出すが、ゲンセイに簡単に避けられる。その上、速度に問題があると苦言を言い渡された。

しかし、正確さは及第点には達しているようだ。その点は石榴――六華斬についても同様だ。

 

七華凪と八華閃については、五華突と六華斬を習得するまで鍛錬することを許されなかった。数字が増えるほど難易度は上昇するため、最初は比較的簡単な部類に入る五華突と六華斬を習得するほうがいいらしい。

 

秘奥義の習得は困難を極めた。

素早く、そして正確に対象に剣を当てる。この時の速度は敵に思考の暇を与えない程度だ。

 

しかし、それが難しい。ここでいう敵とはゲンセイのことであり、そのゲンセイは世界でも有数の強者なのだ。

思考速度は常人とは一線を画しているため、思考の暇を与えないほどの速度は想像も難しい。

シズの剣速は十分通用するほどの速度なのだが、ゲンセイのお眼鏡には敵わないのだ。

 

正確さは問題ない。強いて言うのならば、速度を上げた時にもその正確さが保てるかどうかが不安要素だ。

 

 

 

 

 

 

シズの職場体験二日目は秘奥義の習得稽古で幕を閉じた。

基礎の型はもう習得したので、これからは秘奥義の習得に集中することができる。

 

並行して虚無を扱う技術の向上訓練だ。虚無を長時間安定して扱うことができれば、出来ることは格段に多くなる。

 

「まずは五華突と六華斬の習得か……糸口は見えたし、取り合えずは問題ないかな。やっぱり問題は虚無の扱い方だね。……直撃の瞬間に虚無を纏わせることはできるから、あとは長時間使えるようにしないと」

 

シズは自分の課題を声に出すことで洗い出す。現在の問題は、

 

剣速の向上。

虚無の長時間制御下に置くこと。

 

この二つが問題だ。

 

幸い、剣速については解決の手立てがある。全身に虚無を巡らせることはできないが、腕などの体の一部に限れば巡らせることは問題ない。

流石に何時間も巡らせることは不可能だが、二時間弱程度なら巡らせた状態で戦闘が可能になる。

 

これで剣速の向上の問題は解決。次は虚無の制御問題だ。

 

その問題に関しては時間に任せるしかない。

虚無の暴走に法則性を見出すなど、何かしらの裏ワザがあるのなら話は別だが、現実はそんなに甘くないだろう。時間をかけて虚無に慣れていくしかない。

 

シズは夕食のあと、ゲンセイに教わった剣技を反芻する。流水斬や紫電突などの基礎の型。朧・流水斬などの応用。そして秘奥義の鍛錬。

秘奥義に関しては、虚無を両腕に巡らせて強化してから行う。多少の反動はあるものの、問題にはならない範囲だ。

 

そして、速度にも目を見張るものがある。虚無を巡らせた腕から放たれる刺突、そして斬撃は十分な速度を誇っていた。それはゲンセイにも認められるような素質を持っていた。この調子ならば、明日には残りの秘奥義も習得することが可能だろう。

 

ゲンセイはパトロールの日を一日早めることにしたようだ。シズの剣の上達が思っていた以上に早かったらしい。

 

シズはこの二日で強くなっていることを強く実感し、床に就いた。

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