「みんな……!土産話…ぐずっ。楽しみに、しでるから……!」
期末試験から一日後。教室のドアを開けたシズの目に飛び込んできたのは涙を流しながら悲しいことを言っている芦戸の姿だった。
それに加えて上鳴、切島、砂籐がげんなりというかどんよりとした表情で俯いている。
「どうした」
「シズ~!演習試験赤点だよ~!」
「もう発表されたの?」
シズは芦戸の言葉に驚く。しかし、芦戸は首を横に振るだけで、シズには何もわからなかった。
「まっ、まだわからないよ!どんでん返しがあるかもしれないし……!」
「緑谷…それ口にしたらなくなるやつだ……」
緑谷のフォローに瀬呂は息を吐きながら首を横に振る。
そのやり取りを見て、シズは得心した。
「ああ、演習試験がふるわなかったのか」
「みなまで言わないでくれ!!」
「人の心がないのか!」
「言葉に気を付けて!」
「ぐああ!耳が!耳がああ!」
過剰に反応する4人の姿は、シズの同情を誘うには十分のものだった。
「まあ、危ないのはオレも一緒よ。クリアしたとはいえ全部峰田のおかげだし。俺は寝てただけだしよ」
瀬呂の発言に一番に反応したのは赤点(暫定)組ではなく峰田だった。足を組み、頬杖をついてどや顔をしている。瀬呂はそれを見て多少むかついたようだが、峰田の活躍を考えて何も言わなかった。確かに活躍したのだろう。
「それを言うのなら私もだな。試験として勝利したとはいえ、勝負としては敗北だ。あれだけ実力差を見せつけられたら赤点でも文句は言えないな」
シズの発言に話を聞いていた全員が首を横に振り、芦戸が代表してまくしたてて言う。
「シズが赤点だったら明らかに理不尽が働いてるよ!私たちが抗議しに行くぐらいだよ!」
芦戸の剣幕にシズは押される。
「あーーん!林間合宿行きたかったーーー!!!」
芦戸の叫びが、朝の教室に木霊した。
「おはよう。今回の期末試験だが―――残念ながら赤点が出た。したがって林間合宿には……全員行きます」
「どんでん返しだぁぁ!!」
HRの本鈴とともに教室に入ってきた相澤は生徒に向かってそう言い放つ。赤点(元暫定)組は思わず立ち上がり、全身で喜びを表現した。……すぐに個性を併用した相澤に睨まれて着席していたが。
気になる赤点者は芦戸、上鳴、切島、砂藤、そして瀬呂の5人で、何とかシズは免れたようだ。
瀬呂は赤点に落胆していたが、演習試験での動きから納得していたようだ。落胆もそこそこに思考を切り替えていた。
「赤点取ったら学校で補修地獄っていうのは……」
「追い込むためさ。そもそも、林間合宿の目的は各々の強化。つまり林間合宿は強化合宿なんだよ。だからこそ、赤点取った奴にゃここで力をつけてもらわなきゃならん。合理的虚偽ってやつさ」
尾白の発言を相澤が拾う。今回もお得意の合理的虚偽だったようだ。しかし、赤点については本当なため、なにかしらの補講があるんだろう。何はともあれ全員で林間合宿に行けてホッとするシズであった。
「もちろん赤点については本当だ。赤点者には別途で補習時間がある。ぶっちゃけ、学校に残っての補習より全然きついから覚悟しとけよ。んじゃ、合宿のしおりを配るから後ろに回してけ。赤点組はこっち来い。スケジュールがほかの奴らと違うからちゃんと見とけ」
相澤の発言に喜びを表に出していた赤点組の顔が曇った。
シズは話の後にスケジュールを見せてもらったが、睡眠時間の大半が補習に割り当てられている。睡眠時間はシズの半分もなく、十分な睡眠がとれるとは言えない。
上鳴たちが絶叫するまであと――――。
「まあ何はともあれ、全員で行けてよかったね」
一日の授業が終わり、放課後。帰り支度を整えた尾白の言葉に大勢が同意した。
「一週間の強化合宿か」
「結構な大荷物だよね」
「暗視ゴーグルとピッキング用品、小型ドリルも必要だな……。」
「相澤先生に持ち物チェックをしてもらうか。峰田だけ」
シズの言葉に峰田は絶望するも、ほかは楽しみにする声でいっぱいだった。
「海近いらしいけど、俺水着もってねーや。いろいろ買わなきゃなぁ」
B組の拳藤の話によると、例年使用している合宿場は海に近く、場合によっては泳ぐ機会もあるようだ。演習試験の時もそうだったが、拳藤はA組に何かと情報をくれる。先輩と知り合いだからだそうなので信憑性は高いだろう。
「じゃあさじゃあさ!明日休みだし、A組みんなで買い物行こうよ!」
「おおいいな!何気にそう言うの初じゃね?」
「行く行く!」
「爆豪!お前も来いよ!」
「行ってたまるか。かったりぃ」
「轟。お前はどうする?」
「お母さんの見舞いがあるから行けねぇ」
「そか」
爆豪のいつもどおりは置いといて、轟もいかないらしい。理由は納得できるのでとやかくは言わないが。
(クラスメイトと買い物か……)
シズは初めてのことに少し心を躍らせる。中学の頃は受験対策とナガンのことでやらなかったし、小学校高学年の時もそうだった。小学校低学年から中学年の時は――――――――、
(あれ?)
シズは少しだけ違和感を覚えた。
(お師匠に会う前の私って、何してたんだっけ?)
「シズはどうする?……って、どうしたの?」
思考に耽るシズに話しかける耳郎。シズはすぐに思考を投げ打ち、耳郎に向きあう。
「なんもない。行くよ」
シズは耳郎の質問に返答し、また思考に入り、結論を出す。
(まあ、いいか)
先送りである。
「さあ、やってきました!県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端!木椰区ショッピングモール!!」
翌日。集合場所であった広場にある目立つ時計のそばにA組の面々が集まっていた。休日だからか大勢の人々でにぎわっていてショッピングを楽しんでいた。県内最大の謳い文句は伊達ではないようだ。
その中には「お!雄英の1年生じゃん!!体育祭ウエーイ!」といった風に絡んでくれる人もいた。体育祭から2か月経って尚この反応なので、雄英の影響力がよくわかる。
「んじゃあ、目的ばらけてるだろうし、時間決めて自由行動すっか!」
「賛成~!」
切島の言葉に芦戸が賛成し、葉隠も続いた。
「とりあえず、私大きめのキャリーバック買わなきゃ」
「あら、では一緒に回りましょうか」
「私も行く」
「ピッキング用品と小型ドリル何処かな……」
「俺アウトドア系の靴欲しいんだけど」
各々がグループになって行動する。シズは耳郎と八百万についていくようだ。
「キャリーバック何処かな」
「あそこじゃない?ボストンバックもある」
「ほんとだ」
シズたちはキャリーバックのためにモールを散策していた。バックショップは結構目立っていたため見つけやすかった。
「かなり種類があるのですね」
八百万はこのようなお店に来たことがなかったのか、物珍しそうに店内を見ていた。
その後、お目当てのキャリーバックを購入し、シズたちは服屋に来ていた。
「……ずっとここにいなきゃいけないの?」
「ここにいて!」
シズがいる場所は試着室。耳郎と八百万が見繕った服を着る着せ替え人形のような状況になっていた。
というのも、
「寝間着買わなきゃ」
というシズの言葉から始まった。
二人が事情を聞くと、シズは寝間着が一着しかないとのこと。
年頃の女の子がその状態だとよくないので、耳郎と八百万に見繕ってもらうことにしたのだ。いや、寧ろ二人から進んで見繕おうとしていた。
そんなこんなで、試着室に30分くらい滞在して3着ほど購入した。
耳郎はまだ不服そうだったが、シズが着せ替え人形を嫌がったので渋々承認した。
そして、服屋から出て少しした頃、スマホから着信音が鳴る。クラスラインで、麗日が発信したようだ。
「え……!?」
その内容は『緑谷出久が死柄木弔と接触した』というもの。
すぐに通報したようで、ショッピングモールは閉鎖。シズたちはすぐに帰宅指示が出され、帰宅。
その次の学校でのホームルームでは林間合宿の行き先を完全に伏せることで死柄木を筆頭としたヴィランたちの襲撃を防止するようだ。シズたちは海で泳げなくなる可能性を悲しんだが、事態が事態なのでとやかくは言わなかった。
そして、林間合宿が目前となる。
そして、シズはまだ知らない。
この林間合宿が、シズにとっての分岐点となることを。
―――シズの運命を、大きく変えることを。