入試当日
朝、私は余裕をもって起きることができた。
顔を洗い、髪を結い、前日に作って置いたサンドウィッチを胃に流し込む。
乗るべき電車の時間や、電車の運休、遅延がないことを確認する。
すべて問題なかったため、時間までソファに座って時間をつぶすことにした。
「……お師匠」
お師匠の行方はまだわからない。生きているのかも、死んでいるのかもわからない。
「…会いたいな」
お師匠、あなたは、何処にいますか?
お師匠について考えていると、すぐに時間が経ってしまう。
「行ってきます」
私は、『世界一の笑みを浮かべながら私が作ったご飯を食べているお師匠の写真』に言葉を投げかけて、家を後にした。
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雄英高校には特に問題もなく到着した。
「大きいな…」
天を衝くような校舎に驚き、あたりを見渡す。緊張しているか、私のように校舎の大きさに驚いている人がほとんどだった。
この中の誰かがクラスメートになる可能性があるため、一応顔を記憶しておく。
その中に、もう仲良くなったのか、会話に花を咲かせている人を見つけて驚いた。
こういう人がヒーローの素質を持っているのだろうと思いながら、私も頑張ろうと決意を新たにした。
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試験会場は真っ暗だった。
広い講堂のような会場に満員に等しい数の受験生が座っていた。
私の席に座って入試要項を見ていると、ふいに明かりがついた。
前方に金髪のトサカ頭の男性……プレゼント・マイクが立っていた。
「受験生のリスナー、今日は、俺のライブにようこそ!エビバディセイヘイ!!」
男性は言葉の後にこちらに耳を傾けた。
……誰も何も言わなかった。
「…こいつはシヴィー」
シヴィー?渋いってことかな。もしかしたら呼びかけには乗ることが礼儀なのかも?
「なら受験生のリスナーに実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ。アーユーレディ!!?」
「い、いえーい!」
「イエエエェェーー!!!」
みんながマイクの声に乗るかと思っていたが、響いた声はマイクと私の声だけだった。
……みんなが私のほうを見てくる。
いや、見てるってより睨んでる……?変な奴って思われてる……?
居心地が悪くなり、私は身を縮めた。
「ナイスな反応サンキューな!白髪リスナー!」
マイクがそう言ってフォローしてくれた。……ありがとうございます。
サングラスで分かりづらいけど、少し嬉しそうに見えた。
恥ずかしかったけど、まあ、よかった……かな?
「さて、改めて概要を説明するぜ!入試要項通り、これからリスナーには10分間の模擬市街演習を行ってもらうぜ!」
モニターに現在私たちがいる講堂と、AからGの演習会場が映し出される。
「持ち込みは自由。プレゼン後は、各自指定の試験会場に向かってくれよな!」
私は自分の受験票を確認した。試験会場はEだった。
マイクはみんなが一通り各自の受験票を見たのを確認してから、説明を続けた。
「演習会場には仮想ヴィランが3種、各地に多数配置してあり、それぞれの攻略難易度についてポイントを設けてある。各々の個性で、仮想ヴィランを行動不能にしてポイントを獲得する。これがリスナーの目的だ!」
なるほど。つまり仮想ヴィランの強さと自分の強さを鑑みて自分が対処可能なヴィランを倒す。戦闘型のシュミレーションってわけだ。
ヒーロー科の試験なのにヒーローの本分である人助けは考慮しないのだろうか。1番大事なヒーローの素質だろうに。
「もちろんだが、他人への攻撃など、アンチヒーロー的な行動はご法度だぜ?」
マイクはそう釘を刺したが、それは当然だろう。
だから、それをしないからヒーローの素質があると判断することはできない。
戦闘面でしか判断しないという浅はかなことは考えてないと思いたいけど……。
「質問よろしいでしょうか!」
マイクのプレゼンが一通り終わると、1人の少年がはっきりした声で発言した。挙げられた手はピンと伸びていた。
「オーケー」
マイクがその少年に許可を出すと、少年の真上にライトがついた。
「プリントには、4種のヴィランが記載されております!」
その言葉を聞いて、入試概要用紙に目を通す。確かに4種のヴィランが記載されている。
「もし誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求め、この場に座しておるのです!」
メガネの少年の言ってることは正しいけど、よくみんなの前で言えるな…。素直に尊敬した。
メガネの少年の話は終わっていなかったようで、後ろを向いてある少年を指さした。
「ついでにそこの縮れ毛の君!先程からぼそぼそと……気が散る!物見遊山のつもりなら即刻……去りたまえ!!」
ぼそぼそ何か言ってたんだ。さっきの恥ずかしさで聞いてなかった。
少年は口をおさえて「す、すみません……」と素直に謝罪した。つぶやきは無意識だったのだろうか。
見かねたマイクはメガネの少年の質問に早く答えることにしたようだ。
「オーケー、オーケー。受験番号7111。ナイスなお便りサンキューな。」
モニターに4種類目の仮想ヴィランが映し出された。
「4種目のヴィランは0ポイント!そいつは言わば、お邪魔虫。各会場に1体、所せましを大暴れしているギミックよ。倒せないことはないが、倒しても意味ない。リスナーにはうまく避けてほかのヴィランを倒すことをオススメするぜ!」
「有難う御座います!失礼しました!」
メガネの少年はマイクの補足説明に感謝した。
まっすぐでまじめな子。そして、誰が相手だろうと、自分の意見を言えるいい子だと思った。
「私も質問があるのですが、よろしいですか?」
「おお!さっきの白髪リスナーか!いいぜ!」
マイクから許可をもらったので、私はさっきから気になっていたことを質問する。
「演習会場には市民を模した人形などが置かれているのでしょうか?」
そう。もし人形などの仮想市民がいるのなら、ヒーローの素質を容易に確かめることができる。
もしいなくても問題はない。
さっきの0ポイントの説明から恐らくヴィランのポイント以外にも何かしらの審査対象があることが予想できる。それが仮想市民を助けることなのか、それともライバルであるほかの受験者たちを助けることなのか。その違いだ。
「ナイスなお便りサンキューな!結論から言うと、そんなものはない!リスナーはヴィランを倒すことに集中していればいいぜ!」
「分かりました。ありがとうございます」
決まりだ。ライバルが危機的状況にある時――具体的には『その行動をすることで、自分の首を絞めることになるとき』――にヒーローとして正しい行動をとれるかどうかを見られている。
他がために、自分を犠牲にする自己犠牲の心。
それを、多少なりとも持っているのかを見ているのかもしれない。
……間違ってたら恥ずかしいな。
マイクはほかに質問がないことを確認して、締めの言葉に入った。
「俺からは以上だ。最後に、リスナーへわが校の校訓をプレゼントしよう。……かの英雄、ナポレオン・ボナパルトは言った。『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者のことである』と。―――さらに向こうへ。Plus Ultra!!!」
Plus Ultra。雄英を代表する言葉。自分の限界を超えて、ヒーローとして己を高める。多くの人がこの言葉を胸にヒーロー活動を行っている。
「それではみんな、よい受難を」
マイクの激励を受けて、私たちはそれぞれの受験会場へ向かった。