魂を満たす物語   作:よヨ余

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新年最初で30話の大台ですね。

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林間合宿二日目

林間合宿二日目。早朝からA組は相澤の指示のもと施設外にあるちょっとした広場に集まっていた。

 

相澤は集まったA組を一瞥し、爆豪にあるものを投げ渡す。入学初日に行った個性把握テストで使用したソフトボールだ。みんなが1学期での成長を楽しみにする中投げた爆豪のボールの記録は705.2mから709.6m。せいぜいが数メートルだけの変化だった。みんなが困惑する中相澤は話を進める。

 

「入学から約三か月。様々な苦難、経験を経て確かに君らは成長した。ただ、それはあくまでも技術面や精神面、それから多少の体力的な成長がメインで、個性そのものは今見た通りあまり成長しちゃいない。……使い方を変えたことで成長したように見える奴はいるがな。ともかく、今日から君らには個性を伸ばしてもらう」

 

「個性を伸ばす…?」

 

「そうだ。筋肉と同じで個性も負荷をかけて使い続けることで成長する。死ぬほどキツイがくれぐれも……死なないように」

 

そして、シズたちのもう何度目かわからないくらいの受難が始まる。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

相澤から指示を受けた数分後。シズ以外の全員が各々の訓練に取り掛かっていた。残るはシズだけだ。

 

「先生、私はどうするんですか?」

 

「お前はまずラグドールのほうに行け。彼女から詳しい説明があるはずだ」

 

シズは相澤の言葉の通りにラグドールのほうに向かった。

 

「ラグドールさん。私は何をすればいいでしょうか?」

 

ラグドール。ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのメンバーの一人。ワイプシは四人一チームで活動しており、ラグドールはその中で情報に長けた個性を持っている。

その個性は、『サーチ』。一度視認した人間の詳細がまるわかり。個性の弱点、強みまでもわかるらしい。また、大まかな位置もわかるようだ。上限は百人まで。しかし、十分に強力な個性だろう。少なくとも情報理解の点では最高峰だ。

 

「君は虚無の操作性の向上!体育祭視たよ!たしか……カタストロフだっけ?小さめからでいいから、あっちの森で長時間の制御!多少森はぶっ壊してもいいけど、燃えたら消してね!慣れてきたらバイパーを周囲に展開させるとかしてキャパを埋めていこう!」

 

シズはラグドールの言葉を聞き、指定された広場に行く。そこは生い茂る極相林にある小さなギャップとなっていた。もしカタストロフが暴走したらこの3倍は大きくなるだろう。

その上、シズの周りには崖の上を上る訓練中の蛙吹。その崖の反対面に向かって酸を噴出する芦戸。その隣でイヤホンジャックを突き刺し続ける耳郎などがいる。

 

もしカタストロフが暴走すれば、クラスメイトの大半が被害にあってしまうだろう。

 

「プレッシャーやっば……」

 

そうして、シズの個性伸ばし訓練が始まる。

 

訓練が始まってから30分後に一回。2時間後に一回暴発し、そのあとは慣れたため剣の訓練を並行しつつ虚無の制御訓練を続けたのだった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「材料は用意したよ!己で食う飯くらい己で作れ!カレー!」

 

「うぬら、手を抜くなよ……?全員で作るのだ!!」

 

時刻は変わって午後4時。太陽はまだ出ているため明るいが、もう夕方の時刻に位置する。シズは精神的疲労程度なのでまだいいが、B組を含めたほかの生徒たちは身体的にヘロヘロなので調理に少し時間がかかるかもしれない。人数も多いのでそもそもの調理時間が多くなることを鑑みるとおよそ18から19時になるのだろうか。時間的にもおなかの空き具合的にもちょうどいいだろう。

 

「確かに……。災害時などでの避難場所で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環…!ほかのヒーローと協力して料理することもあるかもしれない!流石雄英、無駄がない!世界一旨いカレーを作ろう!」

 

「おー……」

 

(飯田、便利ー)

 

シズは飯田の言葉を聞いた相澤の顔を絶対に忘れないだろう。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「爆豪くん包丁上手っ!?意外やわぁ……」

 

「意外って何だコラ包丁に上手いも下手もないだろうが…!」

 

異次元の包丁さばきで野菜を切り刻む爆豪に麗日が震える。爆豪はそんな麗日に到底納得できない持論をぶつけた。上鳴なんかは「でた、久しぶりの才能マン」と辟易している。

 

「とりあえず火やろっか」

 

「そうだね。おーい!とどろ……」

 

「いや、いいよ。私がやる」

 

シズは芦戸の言葉を遮り火を起こす場所に行く。そこで人差し指を薪に向けた。

 

炎覇(フレア)

 

シズは指先から少量の炎を出す。赤い炎はすぐに薪に燃え移り、燃えた。

 

「本当に火出せるんだな」

 

「轟」

 

火を起こしたシズのもとにやってきたのは轟。どうやら芦戸の言葉でこっち側に来たようだ。

 

「まあね、日常で使う分には十分でしょ?」

 

「そうだな」

 

芦戸は途端に反応したラブコメセンサーに体を跳ねさせたが、そのあとに続く言葉に肩を落とす。

 

「まあ、戦闘中とかに全力でやれば轟くらいは出せるのかもね」

 

「マジか。負けてられないな」

 

「二人とも、料理中に戦いの話はやめよう……?」

 

「そうだな。そろそろ作り始めようか。野菜も切り終わったようだしな」

 

そんなこんなで、何とか調理を終わらせた。

 

 

 

―――

 

 

 

そして時刻は変わって18時と30分。

 

「「「いただきまーす!!」」」

 

調理が終わり、カレーにありつく生徒たち。

 

「店とかで出したら微妙かもだけどこの状況も相まって旨ぇ!!」

 

「言うな言うな野暮だな!」

 

特に顕著なのは切島を筆頭とする男子陣。それに加えて意外なことに八百万もよく食べていた。

 

「ヤオモモがっつくね!」

 

「はい。私の個性は脂質を消費して様々な原子に変換して創成するのでたくさん蓄える必要があるのです」

 

「…うんこみてぇ」

 

至極真面目な返答をする八百万を襲う瀬呂の心無い言葉。八百万はひどく落ち込み、耳郎が「謝れぇ!!」と瀬呂に一撃をいれた。

 

「えっ、このカレー旨っ!?誰がつくったんやろ……」

 

「私だな。轟にも手伝ってもらったが」

 

いつの間にかカレーをおかわりしていた麗日に言葉を投げるシズ。カレーの鍋は複数あり、どれを誰が作ったのかわからなかったのだ。

 

「シズが?料理めっちゃ上手やね……」

 

「一人暮らしで自炊もしてるからな」

 

「そういや上手かったな」

 

「轟はちゃんと皮を剥けるようになろうか」

 

……轟の料理の腕はひどいものだった。皮は剥けきれておらず、野菜は切っても繋がっている。

 

シズは轟に手伝ってもらったと言ったが、轟が役に立ったのは味見だけ。まあ、それも立派な仕事なのだが。

 

(お師匠みたいだったな……)

 

ナガンも、シズが料理してたら率先して味見しに来ていた。轟はシズに頼まれて味見していたのでそこだけは違うのだが。

 

「どしたんシズ?」

 

「いや?ちょっと懐かしくなっただけ」

 

シズは昔を懐かしみながらも、食事を楽しんだ。

 

 

 

―――

 

 

 

またも時刻は変わって20時。自由時間だ。シズたちは大部屋で布団をくっつけて雑談に興じていた。

 

話題は、宿泊合宿では定番の恋愛に関する話だ。

 

「みんなってクラスで気になる男子いるの?別にクラスじゃなくてもいいけどさ」

 

この話題でテンションを上げるのは芦戸や葉隠だ。彼女たちは典型的な陽キャ女子で、この手の話題を好む。反対に、シズや八百万のような人間としては、あまり身近ではない話題だ。

 

「特に」

 

「私も特には……」

 

シズはバッサリと、八百万は少し考えてからそう告げる。

芦戸はその二人の反応に多少がっかりし、しかし納得がいかなかったのか詰め寄る。

 

「二人ともそんなわけなくない!?さすがに告白の一つや二つくらいは……」

 

「ありませんわね」

 

「……」

 

芦戸の質問に今度は即答する八百万。反対にシズは言葉を詰まらせた。

 

好機と見た芦戸はすぐさま言葉を紡ぐ。それには葉隠はもちろんのこと、あまり乗り気ではなかった耳郎ものってきた。

 

「シズ!?あるの!?」

 

芦戸がシズに顔を近づけ――服が近づいてきたのでおそらく葉隠も――耳郎は少しだけ体を近寄せた。周りを見れば麗日と蛙吹も興味津々なように見える。

 

「…多分?」

 

「なんで疑問形……?」

 

シズの的を得ない発言につっこむ耳郎。ただ、シズは至って真面目なのだ。

 

「私は中学校であまり他人と関わる感じじゃなかったしね。多分告白自体はされたんだけど……」

 

シズは中学3年生――具体的には雄英合格後――の記憶を掘り起こす。

 

 

 

シズはある男子生徒に校舎裏に呼び出されていた。シズの中学校の校舎裏はいわゆる『伝説の木の下』というやつで、定番の告白スポットだったらしいのだ。

 

『どうしたのさ。なにかお困りごと?』

 

『い、いやそういうわけじゃなくてさ……』

 

シズを呼んだ男子生徒は自信なさげに頭を掻き、俯きながらそう言う。

 

やがて意を決心したように顔を上げ、言葉を口にする。

 

『ぼ、僕、あなたのことが――』

 

しかし悲しいかな。それは伝わらない。

 

『『『――オイ』』』

 

茂みの中から複数の男子生徒が顔を出したのだ。それもかなり険しい顔で。

 

『お前今何言おうとしてたんだよ?』

 

『掟を忘れたのか!』

 

『万死!万死ぃ!』

 

茂みにいた男子たちは口々にそう言い、シズを呼び出した男子を連れていく。――いや、連行といったほうが正しいか。

 

『すんません夜月さん!こいつにはよく言い聞かせておくので……』

 

『いや、何もされてないんだけど……』

 

シズは困惑したように返答する。男子たちの剣幕に思わずたじろいでしまったのだ。

 

『ではこれで!失礼します!』

 

男子たちはシズに最敬礼してから立ち去る。連行された男子生徒は悔しそうな――企てていた計画があとちょっとでばれてしまったような――顔をしていた。

 

『なんなんだろ……』

 

一連の流れに困惑する。何もわからないまま事態が過ぎ去ってしまったのだから無理もない。

 

これは後からわかったことだが、1年生の頃から小さい規模のファンクラブができていたらしい。それはどうやら2年生の頃から活発化したようだ。その発端は3年での担任のようで、シズは頭を抱えた。

 

ファンクラブの掟では、①ファンクラブ会員の人間は対象に話しかけていいのは1日1回。②彼女の人助けの最中は話しかけない。彼女は大抵我々の助けを必要しないので彼女の要請がない限り見守りに徹すること。

 

大雑把に言えばこんなところだが、加えて、③彼女は2年生の頃に何かあったらしい。余計な詮索はせず、彼女に負担をかけないこと。告白何てもってのほか。

 

が追加されたらしい。これがシズがあまり話しかけられなかった原因の一つだ。

 

こういった掟は、会員ナンバー一桁の選ばれた人が決めてほかの会員の多数決で決まるらしい。彼は掟③に抵触してしまったため、連行されたのだろう。次の日の彼は心なしかげっそりとしていた。

 

 

 

「―――ていうことがあった」

 

「いろいろツッコミどころがあるんだけど!?」

 

シズの回想が終わって最初に出てきた言葉は困惑。みんなの高校ではファンクラブの類はなかったのだろう。この反応も当然といえる。

 

ただ、話の内容はかなり興味をそそられるものだったようで、評価は高かった。

 

その後も、夜遅くまで――芦戸の補講時間になるまで――おしゃべりに興じ、林間合宿二日目が終了した。

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