「ヒーロー志望の夜月静江さんに爆豪勝己くん。単刀直入に言うと……オレたちの仲間にならないか?」
「寝言は寝て死ね」
「……」
そこは、とあるバー。そのバーは廃ビルのような場所の一角で、今はもう使われていない場所だった。使い道は、ヴィランたちの拠点利用や密会などに使うくらいだろう。
そこにはヴィラン――死柄木弔とその仲間たちであるヴィラン連合――がいた。また、連合だけでなくシズと爆豪もいる。二人は拘束具で両手が固定されており、簡単に身動きができない状態だった。
シズならばアステロイドなどで攻撃、脱出の糸口を作り出すことが可能だが、首筋にナイフがあてられているため弾丸生成の瞬間に頸動脈を斬られてしまう。トガヒミコと名乗るヴィランの仕業だった。
なぜこのような事態になっているのか。それを説明するには少しだけ時間を巻き戻す必要がある。
―――
林間合宿三日目。シズたちは早朝から個性伸ばしに取り掛かっていた。補修組の動きは睡眠不足により鈍かったが、おおむね順調に訓練を続けていた。
シズも例外ではない。しいて言うのならばこの日もあの夢を見ていたせいで起床時に心配された程度だ。
他の生徒たちも、二日目と同じように訓練を行っていた。
二日目と違うのは一つだけ。
日没後、夕食を食べた後に肝試しを行うことだった。
「腹も膨れた!皿も洗った!となればお次は~?」
「肝を試す時間だー!」
「「「試すー!」」」
ラグドールとピクシーボブの音頭に乗ったのは芦戸を筆頭とした赤点組。しかしほかの人は楽しみにしてないわけではなく、心なしかソワソワしている者もいた。
「闇の狂宴……」
常闇である。訓練の時もそうやってソワソワしていた。
「その前に、大変心苦しいが……」
すると相澤が全く心苦しい顔をせずにこちらに近づき、とある宣告をする。
「赤点組はこれからオレと授業だ」
「「「ウソだろぉ!?」」」
突然の死刑宣告に思わず作画崩壊する赤点組。そのあとは悪魔の手から逃れるためにその場から退散するも、その悪魔の常套手段、捕縛布による捕縛によってその身を拘束されてしまう。
理由としては日中の訓練が思ったよりもおろそかになっていたから。この理由に赤点組は渋々納得し、抵抗をやめた。相澤はそれでも引きずって連行していたが。
「…南無」
シズは耳郎と葉隠と合掌し、彼ら彼女らの冥福を祈った。
「……うん!というわけで!」
あっさりと切り替えたピクシーボブたちが肝試しのルール説明を始める。
始めはB組が脅かす側に回り、A組は二人一組となって指定されたルートを巡るようだ。脅かす側は個性などを用いて自由に脅かし、A組も同じことをB組の後にするようだ。おおよそ10分で回りきることができるようで、走れば5分程度のこと。全員が回りきるのに大体30分くらいだろうか。
「なるほど、競争させることでアイデアを推敲させ、その結果個性にさらなる幅が生まれるということか…!流石は雄英!」
「……んー、まあそれでいっか!そんじゃあ、くじ引き始めるよ!」
本来ならばA組は21人で奇数。つまり一人余りが出るが、赤点組の5人が連行されたことで16人。きっかり偶数になっていた。
くじ引きの結果。ペアは1巡目から順に常闇と障子、爆豪と轟、耳郎と葉隠、八百万と青山、夜月と緑谷、麗日と蛙吹、尾白と峰田、飯田と口田となった。
「よろしく。緑谷」
「う、うん…よろしく…!」
シズと緑谷が通過儀礼のように挨拶をしている中、組み分けに不満がある者――主に峰田――が青山に詰め寄っていた。青山は尋常じゃないくらいに首をぶるぶると横に振っていた。
流石にそんな話はまかり通るわけがなく、3分ごとに一組一組が暗い暗い森の中に姿を消した。
そして、シズたちの番がやってくる。
「じゃあ、お次はシズキティと緑谷キティGo!」
ピクシーボブの号令に従い、シズたちも森の中に足を踏み入れる。
「……まだいないな」
足を踏み入れてからおよそ2分。シズはそう呟く。
「そうみたいだね。……ていうか。怖いの平気なんだね」
緑谷はシズの言葉に同意し、そう言う。
シズはそれに気まずそうな顔をして答えた。
「個性柄みんなの位置は大体わかるから……」
「ああ……」
緑谷も、苦笑いして答えた。
「そんなことより、前から思ってたが個性の使い方うまくなったな」
「え!?そ、そうかな……」
緑谷はシズの誉め言葉に顔をほころばせ、喜びをあらわにする。ただ、喜ぶだけでなく、自身の課題も理解しているようで、今後は個性をもっと上手に扱えるようになることを目的としているようだ、
「そうか。オールマイトから継承した個性なんだから、がんばってね」
「うん……って!?」
緑谷はシズの言葉に今度は驚きをあらわにする。目を丸くしてシズを見る。その顔は青ざめていて、汗がダラダラと流れ落ちていた。
「なななんで……!」
「ああ、悪い。言いふらすつもりはないよ」
緑谷は安堵し、改めて理由を聞いた。
「…確信したのはUSJでオールマイトが個性使ったときだな。オールマイトが個性を使って私を助けてくれた時の魂の残滓がお前のソレそのものだった。あとはまあ、お前の魂を見てわかったかな」
「ボクの魂?」
「ああ、魂には二種類あって、『生命維持のための魂』と、『個性の魂』があるんだ。普通、個性の魂は片方の魂に収まるんだけど、お前のははみ出てたから。もともと譲渡自体は怪しんでたよ。オールマイトのものだったのはUSJでわかったかな」
説明を聞き終えると、緑谷はメモを取り出し、ブツブツと何かを唱えながらメモに書き留めていた。その速度は目を見張るものがあり、達人の動きであると一目でわかった。
シズはそれを微笑ましく見守り――そして、違和感に気付く。
「緑谷。ちょっと静かに」
「?」
緑谷はきょとんとした顔をし、シズを見た。シズはそんなことはお構いなしに耳を澄まし、嗅覚を虚無で多少強化することで違和感の正体を掴む。
「―――黒煙?」
「えっ!?」
二人は事態の緊急性を即座に知覚し、最善の行動をすべく動く。
「グラスホッパー」
シズは上に跳躍し、周囲を見渡した。
「向こうに蒼炎が見えた。十中八九ヴィランだと考えていい。馬鹿ではないらしい。いまピクシーボブ襲撃された。虎とマンダレイがいるから中央広場はいいとして……」
「問題はB組のみんなとA組……!」
「――と、あそこの丘上にいる人だな。一人で孤立している」
「……!?洸太君!!」
緑谷が叫ぶ。今事態を把握しているのはシズと緑谷。そして中央広場を筆頭とした一部の人間だろう。
今現在すべきことは――
1,洸太君の救出
2,孤立したA,B組の救出
3,生還
優先度順でこんなところだろうか。
しかし、事態は一刻を争う。よって、すべきことは――
「緑谷。お前は洸太君のほうに行け。私はみんなのほうに行く」
「夜月さん……」
「危険なのは百も承知。私も、お前も死ぬ可能性がある。ただ、今はやらなきゃならない時だ」
「……うん!」
二人はその言葉ですぐに別れ、緑谷は洸太のほうに、シズはすぐ近く――八百万と青山のほうに行く。麗日と蛙吹のほうは広場に近いため、比較的すぐに避難できるだろうからだ。
問題は、森の奥深くにいる生徒たち。
(……煙?)
走ってすぐにシズが目にしたのは紫色に濁った煙だった。煙は不透明で、視界を遮る。どれだけの煙が漂っているのか皆目見当もつかない状態だった。
(私がこっちでよかったな)
だが、魂の位置で人の位置を認識できるシズならば、この視界でも十分に動くことができる。
ガスの毒性を確認し、マスクと簡易的な酸素ボンベを生成して煙の中に入ろうとした瞬間だった。
「動くと殺す」
シズの首筋に、カサカサと乾燥した何かヒタリと触れる。感覚は4つだった。
シズはその声に聞き覚えがあった。
「死柄木弔……!?」
そして、シズは敵の正体に遅まきながらに気付く。
「……ヴィラン連合か。蒼炎に毒ガス。結構な個性を仲間にしたんだね」
シズは動きが制限されたことを自覚しながらも、自分にできる最大限のことを全うする。
情報収集だ。伝えることは恐らくできないが。
「ほかにもいるぜ。大体は精鋭たちさ。生徒の何人かは死んでるかもな」
「舐めんなよ。私のクラスメイト達がそう簡単に死ぬわけない」
「だったらいいな」
シズは軽口をたたきつつ、心の中で舌打ちをする。そして橘の言葉を思い出していた。
『ボクは君を献上する者だよ』
確かに橘はそう言った。そして橘を倒した後にヴィラン連合の黒霧が回収に来たことからヴィラン連合と橘はグル。もしかしたらクライアントと仕事人の関係であるかもしれないと判断していたのだ。
(私は狙われているようだしな)
シズは自身の安全が確保できそうにないことを確認し、相打ち覚悟で死柄木に一矢報いようと考える。
しかし、シズの中にある違和感がそれを阻害していた。
(こいつ、本当に死柄木か?)
シズは顔だけを死柄木に向けている状態。十分に死柄木を視界に入れているわけではないので断言することはできないが、死柄木の魂に違和感を覚えた。
造花が生花を完全に再現することはできないように、そこには作り物めいた何かがあるかのように感じられたのだ。
確かに死柄木弔の魂なのだが、どこかが違う。しいて言うのならば、『輝き』だろうか。どこか色がなく、物足りなく感じられた。
「殺さないでほしいか?」
「まあ、そうだね」
思考の海に沈んでいると、死柄木に問われる。シズは肯定することしかできなかった。
「じゃあ、まずはここ通れ。そしたら殺さないように指示してやる」
死柄木が示す先には黒霧のワープゲート。その先は闇に包まれており、何処につながっているのか不明だ。
「証明は?」
「オレはお前がここを通った後にお前の前で指示出しするし、それでも疑うってんなら後でニュースでもなんでも見たらいい。どうせ詳細が語られるだろうさ」
「……わかった」
シズは死柄木の提案を了承し、両手を上げた状態のまま歩き出す。死柄木もシズの首に五指の内の四つの指をつけたままワープゲートに直進する。
やがてゲートを抜け、薄暗いバーにたどり着く。
――そして、ありえないものを見た。
「よぉ」
「は?」
そこにいたのは、死柄木弔。
今まで確かにシズの後ろにいた死柄木弔が、シズの目の前にいた。彼はおぞましい笑みを浮かべ、USJの時とは別人のように変わっていた。
シズはすぐに後ろを確認する。
「なっ…!?」
後ろで首に触れていた死柄木は茶色の泥のようなものに溶けて消えた。もう死柄木の輪郭はなく、ただの泥の液体になった。泥の一部がシズの首筋に残り、気持ち悪い感触が残った。
「……オイ。ちゃんと約束は履行するんだよな?」
「…誰も殺すな……だったな。ああ、ちゃんと履行するさ」
シズの懸念を払しょくするように死柄木は行動した。確かにシズの前で誰も殺さないようにする旨の連絡をする。スピーカーモードにしていたため、会話の内容がちゃんとわかった。
「……」
シズはこの先の行動を思考する。
クラスメイト達の安全の保障は保たれた。事件の詳細がニュースなどに挙げられたときに真実を確かめる必要があるが、とりあえずは安心していいだろう。死柄木はウソをついていないからだ。
「とりあえず、これ付けて椅子に座ってろ。まだ役者がそろっていないからな」
示されたのは、拘束具。腕を拘束する道具が椅子の上に乗っかっていた。椅子は2脚あるようだった。
「……わかった」
そうしてシズは拘束され、薬品を吸わせたハンカチを口に当てられ、意識が闇に沈んでいった。