『素晴らしいね!力を取り戻したばかりだというのにもう使いこなすとは!その上、今まで会得していた技術と組み合わせるとは!』
家族団欒に興じようとしていた時に邪魔をするのがこのオールフォーワンという男だ。
お兄様に向けていた意識が、強制的にアイツに向いてしまう。何かしらの個性の影響だろうか。……いや、たぶん違うな。私が清算しきれていないからだろう。私の弱さによるものだ。
家族団欒に興じる前に、アイツを何とかしたいな。
「…そういや、テメェに言いたいことがあったんだよ。ちょっとくらい待ってろ」
『ほう!それは楽しみにしておこうか!』
随分と素直だなと思いつつ、再度お兄様のほうに意識を向けた。
お兄様は空手のような構えを取り、私に相対する。
それに対し、私も応える。本当なら拳で応えるのが筋だと思うが、私はあの頃の感覚を思い出すためにいろいろ試すことにした。
まずは――三節棍だ。
生成したのは鎖でつながれた棍棒。鎖が伸縮可能である以外は何の変哲もない武器だ。
大きく振りかぶって、遠心力を利用して威力を上げる。
全身を使ってお兄様に攻撃する。しかしお兄様も先ほどの蹴りから学んだのか、足に力を入れることで吹き飛ばされるのを防ぐ。力を入れたことで床がひび割れていた。
見ると、私たちがいる施設はボロボロになっていた。いつ崩れてもおかしくない。
ただ、私がいるところには人はいないようだ。少なくとも10㎞以内に人は存在していないので、少しくらい大暴れしても問題はない。
それは二人も同じだ。
そう考えたところでお母様が動く。先ほどから自身の力を練り、爆発的な破壊力を起こそうとしていた。その準備が整い、発動に動いたようだ。
「……!マズッ…!」
それは、カタストロフすら優に凌駕する破壊力だった。
カタストロフが生み出す雷鳴、暴風といった自然現象の類を軽々凌駕する災害。
――
暴力が、施設を満たした。その暴力によって、私が7年程過ごした施設が消し飛ぶ。私は虚無で、お兄様は気合と再生能力で死を免れた。
施設は壊れてしまったが、映像機器は壊れていないらしい。もしかしたら機械じゃなくて、個性によるものなのかもしれない。オールフォーワンか、お母様か。彼の本体はいないから、お母様にやらせてるんだろう。
ともかく、決戦の舞台は荒廃地になったようだ。
私は口内が切れたことで発生した血液をプッと吐きだし、お兄様のほうを見る。
「
私は身体を強化する。それは三節棍にも適用され、赤く光沢していた。
虚無で体を纏ったり循環させたりするのはまだだ。まだ、体が急激な成長に追い付いていない。虚無を使っての全開戦闘は何の問題もなく可能であるが、念のためであった。あと、家族団欒の時間を少しでも長くするためであった。
そして、お兄様へと疾駆する。
疾駆する途中で三節棍を振るう。私とお兄様との距離はおよそ15。到底届かない距離だが、この武器だけは違う。
鎖が伸び、リーチが伸びる。だから、お兄様に直撃する。
虚を突かれたお兄様はまたもや壁に打ちつけられた。今回は最初の時よりも威力があるため、壁にめり込んでいる時間は少し多そうだ。
その隙にお母様へと接近する。三節棍を消し、弧月と一丁の拳銃を持つ。南部式大型自動拳銃だった。
「このスタイルは久しぶりだな……」
私は試しにお母様の右耳を穿ち、銃の腕が鈍っていないことを確認する。
お母様は先ほどと同じように魔力を練ろうとしたが、上手く練れないようだった。
それもそのはず。私が放った銃弾は特別なもので、
対象の魔法効果を破壊する弾丸だ。個性にもある程度の効果を及ぼすが、その本質は私のエネルギーを筆頭とした何かを乱し、破壊するものだ。
南部式大型自動拳銃を装備したとき限定で使える銃弾だ。アステロイドを筆頭とした普段使いの銃弾にその効果を上乗せすることができる。解呪弾を含め4つの特殊弾とすべての特殊弾の効果を持った特別な弾丸を組み合わせると、およそ20の組み合わせがある。
解呪弾は、お母様に特化した弾丸だ。お母様用に作ったわけではないが、対お母様のためにだけあるといっても過言ではなかった。
お母様の個性は『魔法』。お母様が操る原子によってあらゆる事象を引き起こす力だ。
そして、私の個性の大元でもある。
この話をするには、
私の個性は『魂』。大気に存在する生体エネルギーを操る力。だが、その本質は違うのだ。
本質は、『魂を知覚する力』。
魂を知覚するだけの弱個性だった。決してヒーローになることができない個性。
だが、私はヒーローになりたかった。お兄様と違い、警察では満足することができなかった。
だから、お母様は私に力を与えた。ヒーローになれるように。強くなれるように。
そういう魔法を私に施した。正確に言えば、個性の潜在能力を多少引き出す程度の魔法だが。
だから私は、施設で生き抜くことができたのだ。
そして、今私の目の前にいるのは、私の能力のオリジナル。
進化の方向は違えど、私と同じ力。その上、私よりも熟練であることは間違いない。
(私の相手、そういうの多くない?ゲンセイさんといいお母様といいさぁ…)
私は思わず心の中でそうぼやく。施設時代の経験で私の技術もかなりのものであるはずだが、こうも格の違いを目にすると自信を無くしてしまいそうだ。
だが、油断はしていない。背後から接近したお兄様が回し蹴りをしたので弧月で受け―――
―――その蹴りは私の胴を捉えた。
「ッ!?」
私は驚愕しながら吹き飛ばされる。見ると、私が持っていた弧月は消え失せていた。
そう。砕かれたのでなく、消え失せたのだ。
「……」
私は試しに銃を撃った。撃った弾丸は
しかし、お兄様は意に介していない。弾丸が心臓部分に直撃したのにも関わらずだ。
「……お母様か」
私はすぐに状況を把握した。これもお母様の魔法の一つなのだ。
魔法といっても種類がある。火の魔法なのか、風の魔法なのか、水の魔法なのかといった具合にだ。
お母様の魔法は、そのすべて。具体的に言えば、お母様が想像した事象を引き起こす魔法だ。
だから、お兄様に武器関係の一切が通用しないのだろう。防御においても、攻撃においても。
その上、お母様が扱うエネルギーをお兄様が操作している。お母様が力を貸し与えたのだろう。
なら、どうすればいいのか。
答えは一つしかない。
「拳で語り合いましょうか。お兄様」
私はそう言って微笑み構えた。
お兄様もそれに応えるように改めて構える。
そして同時に疾駆し、拳と拳がぶつかり合う。
それだけでは両者ともに飽き足らず、何度も拳を重ね合わせた。私が力任せに放った攻撃をお兄様は力と技術ですべて相殺する。そこには卓越した強者の技術が存在し、私の目を魅了した。
「素晴らしい…!お手本のようですね!」
私はそう言い、心の底から笑みを浮かべた。純粋な喜びから出たものではなく、ある種狂気から来た笑みであるため、見る人によっては恐怖を感じるかもしれない。
その後も、拳を重ね続ける。私が放った衝撃波をお兄様は私の方向に受け流すことで私の体勢を崩す。そのまま膝蹴りを受けてしまう私だったが、ただではやられない。
吹き飛ばされた瞬間にテレポーターで瞬間移動。吹き飛ばされたときの勢いを殺した。
そのままお兄様の虚を突いて蹴撃を叩き込む。膝、脇腹、側頭部に連続で蹴りを入れ、そのまま回転。その勢いのまま回し蹴りを叩き込んだ。
強で強化した私の蹴りはお兄様をよろけさせる。だが、お兄様もエネルギーで強化した足で渾身の蹴りを私に叩き込んだ。
「グッ……!」
私は吹き飛び、岩場にぶつかる。凄まじい勢いでぶつかったため後頭部から血がダラダラと流れ落ちていたが、治癒することで黙らせる。
「アハッ…!」
頭を打ってハイになったのだろうか?なんだか楽しくなってきた。
「家族団欒とはこんなにも楽しいものなのですね!」
私は心の底からそう思う。今日は私の本音がよく出る日のようだ。
それからは地味な攻防がある程度続いた。千日手にもなりそうな途方もない時間が過ぎていった。
けれど、私はそれを続けるつもりは毛頭ない。
(もうそろそろ十分だろう。お兄様の技の吸収も終わったし、お兄様との団欒も十分に行った。なにより――虚無を受け入れる準備が整った)
少しずつ。少しずつ。虚無を体に纏い、体内に循環させる。纏いと循環を同時に行ったのは初めてだったが、何とかなったようだ。やればなんとかなるものだなと実感する。
強。虚無纏い。虚無循環。
この三つにより、私のコンディションは最高潮に達する。
私の動きは徐々にお兄様を超え始め、攻撃が当たる兆しが見えてきた。
お兄様は焦り、動きに精彩が見られなくなってきた。私はその隙を見逃さず、鋭い拳を突き出す。
だがしかし、至高の技術を持ったお兄様が直撃を受けることはない。私の拳はお兄様の顔に直撃することはなく、お兄様の右頬を
それを見た私は笑みを浮かべ、攻撃の手を止めた。
訝しんだお兄様も、手を止めてしまった。
私はゆっくりと口を開き、ある言葉を口にする。私が考案した必殺技の名前だった。
「虚空拳」
私がそれを口にした直後、お兄様の体に異変が訪れる。
私が注入した虚無が、お兄様の体を蝕み始めたのだ。
お兄様が吼える。その叫びは大気を震わせ、体も震わせてしまうような恐ろしさを孕んでいたが、どうやら体を動かすことはできていないらしい。体は硬直し、視線だけが私に向いていた。すぐに虚無が脳に廻り、活動を停止するだろう。
(やれ)
「……え?」
(……シズ)
「お兄…様?」
(……大きくなったな)
嗚呼。
「14年ですよ?大きくなっていないほうがおかしいです」
私はそう微笑む。心なしかお兄様も微笑んだ気がした。脳無には表情がないのに、おかしな話だ。
「聖覇崩拳」
私は腰を落とし、お兄様の魂を砕くために拳を放った。一刻も早く虚無の苦しみから解放するためだ。
魂を砕いたその瞬間。お兄様からの最後の言葉が私の頭の中に流れ込んできた。
(ごめんな。つらい思いをさせた)
「……謝らないでください」
(…そうだな。――ありがとう)
お兄様はそう言って消える。脳無の体は残っているが、これはもうお兄様じゃない。
お兄様は、死んだ。
私はその事実を悼む暇もなく、お母様に向き直る。
お兄様は魂が残っていたことで死の苦しみを多少なりとも味わわせてしまったので、反省を生かし、まずはお母様の魂から消すことにしよう。魂を失った脳無は暴走するだろうが、そんなことは私に言わせればどうでもいい。どうせ私の方が辺りに被害をまき散らす。
「……お母様」
私は覚悟を決める。弧月と南部式大型自動拳銃を生成し、準備も整える。
構える。
「……参ります」
お母様も解呪弾の効果を打ち消したようで、魔法を使えるようになったようだ。
それは進路を変え、私に向かう。先ほどの火球と同じように虚無消失獄で飲み込む。それからお母様に肉薄し、近接戦を仕掛ける。
(……うーん、流石はお母様。隙らしい隙が見当たらない)
お母様と相対して気付いたが、お母様の姿勢はとてもきれいだ。無駄がなく、洗練されている。
この牙城を崩すのは骨が折れるだろう。
もっとも、それは馬鹿正直に真正面から攻略した場合だ。
「
南部式大型自動拳銃から放たれる黒い弾丸。私が普段使いしている弾丸に追加できるオプショントリガーだ。
その効果は、着弾した場所におよそ100㎏の重りを付ける効果。私はそれを3発ほど撃ち、2発を着弾させた。
お母様の右腕と左わき腹に重りが出現する。右腕に撃ったのは失敗だった。お母様にも再生と回復の能力が備わっているため、切り落として効果を消失させるという荒業を行うことができる。現に、重さを認識した瞬間にお母様は自身の右腕を切り落とし、再生させていた。
だが、左わき腹には残っている。これで十分に動きを阻害できるはずだ。
―――と、思っていた私が浅はかだった。
お母様は着弾部分に手を当てることで重りを切り落とした。体ごと切り落とした場合にはその隙をつくつもりだったが、そう上手くはいかないようだ。
しかし、完全には落としきれなかったようで、半分くらいは重りとしての効果は残っているようだ。重心が左に偏り、私でも隙を突ける程度には動きに変化が見られた。
「
私が技を放とうとするも、お母様は事前に察知して空間転移で避けた。その後、不意を突いて私の背中に掌底を叩き込んだ。
「って……!」
内部に響くような衝撃だ。しかも、それは残る。体の内部にジンジンと残り、その分だけ私の体力を奪う。体の中で針を持った生き物が動き回り、臓物を蹂躙されているような感覚だ。
よろけた私に、お母様は追撃を加える。USJの黒霧のワープホールと脳無の拳のコンボを一人で行ったのだ。
しかし、それは私も知っている。
私の額にめがけて放たれる拳を、私は額で
お母様の追撃は続く。
お母様の両手は黒く光沢していた。
「冗談でしょう……?」
ついつい顔が引きつってしまう。それもそうだ。だってそれは、明らかに重力崩壊の構えだったのだから。
距離は、手を伸ばさずとも相手に届く距離。俗にいう
――ゼロ距離だ。
「ガッハ……!」
私の腹に大きく穴が開く。人一人が通れる程度には大きい。明らかな致命傷だ。
常人ならこれで勝敗が決まっていたが、私の治癒能力なら何とかなる範囲のため、継戦は可能だ。ただ、全力とは程遠い力しか出せない。虚無で無理やり動かすしかないか。
「ハァ……ハッ…ゴホッ」
呼吸がうまくできない。外的な状態異常はすべて完治したが、中で暴れまわる魔法原子が猛威を振るっているのだ。殺意を持ったお母様と相対するということは、そういうことだ。
『おや?負けてしまいそうだね』
重傷を負った私を煽るようにオールフォーワンは語り掛ける。
「…るっせぇ」
私はそれを不快に思うが、事実なのであまり強く言い返すことができない。それが不快感を底上げする。
『負ける前に教えておくれよ。言いたいことがあるんだろ?このままだと言えないまま死ぬぜ?』
負けるつもりは毛頭ないがな。
そう言葉を返したかったが、口から血が出てきてしまい言うことができない。
すると、お母様に向かう一筋の光が見えた。それは紫色に輝いていてお母様の心臓の中心部に当たる。
あまりにまっすぐ伸びていているため、銃弾が通った後だろうかと誰もが推測するだろう。
しかし、私にとってそれは違う。確かに銃弾の跡だが、
きっと、幻なのだろう。オールフォーワンの言葉が正しいのなら、彼女はタルタロスにいるはずだからだ。
でも、それは私を導いてくれる。
私はふわりと笑い、言葉を放った。心が落ち着いたのか、すんなり発言できた。
「
『は?』
私の言葉に彼は素っ頓狂な声を上げた。まさか言いたいことが質問だとは思っていなかったのだろう。
私はそんな彼を無視し、お母様に向き直った。
私のみが視認できる弾道に沿って接近するためにある程度作戦を頭の中で練る。接近したらどうとでもなるからだ。それが纏まった後に、弧月と銃を消した。
私は前傾姿勢になり、両踵を上げる。手を付けないクラウチングスタートのような姿勢をとった。
「
私は後ろにある左足に当たるようにジャンプ台を生成する。グラスホッパーよりも弾性が強く、より速く動くのに適しているのだ。
動きの軌道は、お母様に伸びる弾道そのまま。お母様は珍しく拳で迎え撃とうとしていた。
「
だから私は動きを制限する。鎖はお母様の周りから4つ出現し、お母様の四肢を固定した。それはたやすく破られたが、その隙に十分近づくことができた。だが、あともう一声欲しい。
今度は魔法によって迎え撃ってきた。火球、暴風、落雷。様々な自然現象を引き起こして私に牙をむく。
だが、虚無はそれら一切を喰らう。私の周りに滞留している虚無のおかげですべてを無効化して至近距離に近づくことができた。先ほどと同じゼロ距離だ。
そして、私は攻撃を放つ。殺すための攻撃ではなく、救うための攻撃。魂だけを燃やす攻撃。
私は白く発光した掌をお母様の心臓部分に当て、その名を呟く。
「
慈愛の白焔が、お母様を貫いた。
誤字、矛盾等ありましたら教えてくれると嬉しいです!