魂を満たす物語   作:よヨ余

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さあ、仮免を取りに行こう

寮生活が始まって数日が経った。まだ夏休みだが、ヒーローを志す私たちにとって休息は存在しない。夏休み期間は本来林間合宿で取る予定だった仮免の取得を目指して行動する。そのための必殺技を個人個人で習得するためにTDL(トレーニングの台所ランド)で特訓をしていた。

 

今はその時間も終了し、寮に帰っていた。疲れをいやすためにソファーで談笑に興じているところだ。

 

「つっかれた……!」

 

「明後日はもう仮免だね」

 

ソファーに寝そべる芦戸を横目に私はそう言う。みんなはその事実に少しだけ緊張しているようだった。例年の合格率はおよそ5割。単純に考えるとクラスの半分が落ちる計算だ。そう考えると恐怖を覚えるのも無理はない。

 

「相澤先生は明日は軽めにして体調管理をしっかりしろって言ってたね」

 

変に気負うことのないヤオモモがそう言う。とはいえ彼女も緊張していないわけではないようだ。少しだけそわそわしている。

 

「シズはあまり緊張しとらんね。やっぱ自信ある?」

 

「自信はあるけど、選考基準次第かな。実力だけなら大丈夫」

 

「それ言えるようになりた~い!」

 

私の発言に芦戸が反応した。腕を伸ばし、足も伸ばしている。体はプルプルと震えていて、弛緩するとぐったりとする。リラックスしているようだ。

 

「私はそれを裏付けるものがあるから。でも、みんなもこの3年間をしっかり過ごせばこうなれるよ」

 

「いや、そこまでは無理だと思う……」

 

私が過去のことをあまり気にしないでほしいことを伝えたので、みんなそうしてくれている。それがとても嬉しい。流石にまったく気にしないことはできないようで、たどたどしいがすぐに慣れるだろう。

 

「サポートアイテムなんかも使えるらしいし、みんな色々試してたね。緑谷とか、切島とか、上鳴とか」

 

「みんなは使ってるの?」

 

「私ゼロ」

 

「私もですわね」

 

葉隠の質問に答える私とヤオモモ。私もヤオモモも個性柄サポートアイテムが必要ないので当然と言えば当然だ。

 

「私も……まだ方向性も定まってなくて決まってない」

 

全体的に使用はしないようだ。己の個性とコスチュームのみで戦うのが主となるだろう。

 

「シズの道具はサポートアイテムって感じもするけどね」

 

「サポートアイテムとして作れるかっていう疑問は是だが、どんな技術があろうと私が生成したほうが絶対性能イイよ。譲渡も可能だし、やろうと思えば百年間消えないようにできるから後世にも残せるし」

 

「すっご……」

 

私が譲渡及び付与できるのは弧月や南部式自動大型拳銃だけでなく、呪壊弾や解呪弾の効果もその対象である。

このような時に例えとしてよく出てくるのがダークシャドウだが、仮に彼にそれを付与したら絶大な効果を及ぼすことになるだろう。もしかしたらその力に耐えられないかもしれないが。

また、上鳴の電撃や爆豪のA-Pショット。轟の炎熱などの放出系にも効果があるだろう。私の虚無の力は正しく適応させればその人の補助にもなるのだ。それが過ぎれば毒になるが。

 

「私もサポートアイテム考えた方がいいかな……」

 

「必須ではないけど、あったほうが弱点補えるよね。機動力とか」

 

「あー、確かに。ちょっと考えてみようかな」

 

雑談もとい相談は盛り上がり、あっという間に23時。高校生としては少しだけ早いが、試験も近いことからお開きとなった。寝る前にヤオモモが入れてくれたお紅茶をもらうことも忘れない。

 

そして、仮免当日へと時間は進む。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

ヒーロー活動許可仮免許試験当日。私たちA組は試験会場である多古場競技場へと赴いていた。すでに会場の駐車場には多くのバスが駐車されており、中には今着いたのかバスから降りてくる人もいた。

辺りを見渡せば多くの受験者が見える。だが受験者だけでなくそれを引率する先生や、警備の警察、プロヒーローの姿も見える。この試験を運営している公安委員会が尽くせる限りの手を尽くしている証拠だろう。

 

「まずは競技場に入って受付な。その後はコスに着替えて会場で試験の説明となる。行くぞ、ついてこい」

 

「「「ハイ!」」」

 

相澤先生の号令に私たちは返事をし、行動を開始する。普通の学校ならそれだけで注目を集めることはないのだが、私たちの学校は雄英。他校の生徒たちの注目が集まるのは必然と言える。

 

「おい、あれ見ろよ!」

 

「雄英じゃん……」

 

「雄英と被ったかー。あ…?しかもあの顔ぶれ……」

 

「1年A組じゃん!」

 

視線だけでなく、そう言った奇異の声や反応、驚愕が現れる。しかし、中には有名人に出会ったときのような純粋な高揚感だけでなく、A組――特に私や爆豪――に対する嫌悪の視線も現れた。それは視線だけでなく声にも表れる。

 

「やっぱ夜月もいんのかよ……」

 

「爆豪もだぜ」

 

「ンであいつがいんだよ。爆豪もそうだけど、夜月はヒーローの資格ないだろ」

 

「……人殺し、だもんな」

 

「そもそもあんな強いのに拉致られるから……」

 

「神野区も…、オールマイトも……」

 

それは一般的な学校でよくみられる陰口のソレによく似ていた。それはやがて伝播し急速に広がる。嫌悪や警戒、恐怖から構成される重たい雰囲気が辺りを支配した。

 

「目立つな」

 

「ね」

 

轟が言い、私が頷いた。

 

私も予想していたことなので何も文句はない。ただ言いたいことは、ニュースでは、私が殺しを強制させられていたこと、あの施設内では人権が一切考慮されていなかったこと、被害者は死刑判決を受けた死刑囚だったことなどが報道されていたはずだが、彼ら彼女らはそれを知っていないことだ。

別に正しい情報を持って自分の考えを持っているならともかく、間違っていて偏った情報を持っているというのにそれを認識せずに好き勝手言うのは少し思うところがある。

 

まあ、別に気にしない。あのように文句を言っている者を少し観察してみたが、大した能力もなく、ヒーローになったとしてもすぐに挫折してしまうような志の持ち主なのだろう。その上、対して親しくもない人間に慈悲を与えてやる必要はない。

 

爆豪は素で気にしていないようだ。特に彼については心配していなかった。責任を全く感じていないわけではないだろうし、誰よりもそれを気にしているだろうが、この程度のことで試験に影響は及ぼさないだろう。問題ない。

 

「別に気にする必要はないさ。それに、有象無象の発言を気にしているほど私に余裕はない」

 

私のこの発言で周りの野次は止んだ。私の言葉が衝撃的だったことと、それが自分たちを下に見る発言だったことなどが理由だろう。

 

その話もそこそこに、相澤先生から激励が飛んだ。この試験で合格判定を得れば卵から晴れてヒヨッコ――セミプロ――へとなれるのだ。

 

その言葉を聞き、私たちは奮起する。

 

「っしゃあ!なってやろうぜヒヨッコによぉ!」

 

「そんじゃいつもの決めていこーぜ!せーの、プルス……」

 

「「「「ウルトラ!」」」」

 

いつもの音頭にわが校の校訓を唱えて試験へと赴く――つもりだった。

 

丸刈りで四白眼のガタイのいい男が円陣に混ざってきたのだ。声も大きく、響く声なのでより目立つ。先程から目立っていたのでより多くの視線を再度集めることになってしまった。

 

しかし誰だろうか。当たり前と言えば当たり前だが知らない人間だ。このような存在感を放つ人間はあまりいないのでそうそう忘れることはないだろう。

 

「勝手に他所様の円陣に加わるのはよくないよ、イナサ」

 

すると今度は彼と同じ制服を着た人が現れた。髪は紫で細目な人だった。特徴的な髪形で左目が隠れている。

 

「あッ!しまった!どうも、大変、失礼しましたぁぁぁぁぁ!!」

 

イナサと呼ばれた男が地面に頭をこすりつけた。もはやめり込んでいるのではないかと疑うほどだ。その顔にはにこやかな笑みが浮かんでおり、見る人によっては恐怖を感じる。A組の何人かも後ずさっていた。

 

「…ん?その制服って」

 

耳郎が何かに気付く。制服を見て気付いていたので彼らの所属校に心当たりがあるのかもしれない。

 

その正体は、雄英と比肩するほどの名門校、士傑高校だった。私も知っているほどの名門で、東の雄英、西の士傑と並び称されるほどだ。私は雄英を受けるか士傑を受けるかで悩んでしまったほどだ。結局雄英にしたのだが。

 

「一度言ってみたかったッス!プルスウルトラ!自分、雄英高校大好きッス!雄英の皆さんと戦えるなんて光栄の極みっス、よろしくお願いします!!」

 

「血……大丈夫?」

 

「大丈夫ッス!血は大好きなんで!」

 

「大丈夫かそれ」

 

私の心配にも彼は持ち前の破天荒さで乗り切った。私は何が何だかわからない彼の思考回路に理解を放棄した。

 

彼らはこちらを後にし、受付へと赴いた。すると、これまで言葉を発さなかった相澤先生がぽつりとつぶやく。

 

「……夜嵐イナサ」

 

「知っているんですか?」

 

「ありゃあ、強いぞ」

 

相澤先生の純粋な称賛に私たちは驚愕する。どんなに私たちが上等な成績をとっても課題を言い伝えるような人なのだ。それは私たちを思ってのことなのは理解しているが、彼の純粋な称賛は聞こうと思っても聞けるものではないのだ。

 

「あいつは昨年度――つまりお前らの年の推薦入試、トップの成績で合格したにも関わらず何故か入学を辞退した男だ」

 

「えっ!?じゃあ一年!?」

 

そこも驚愕だが、何にしても驚くべきは推薦入学を辞退したこと、そしてその成績だけ見れば入学時では轟以上の実力を有していることになることだ。彼は雄英が好きと言っていたし、その言葉に嘘がないことは実際に見てわかっているのでより疑問が深まる。そして、轟以上の実力。どのようなものなのか非常に興味深い。推薦入試の要項は知らないので何とも言えないが、少なくとも優秀なのだろう。雄英はそれほど甘くないからだ。推薦ともなれば余計そうだろう。

 

全員がそれぞれの思考に耽っていると、とある人が近づいてきた。とても陽気な人だ。

 

「イレイザー?イレイザーじゃないか!テレビや体育祭で姿は見てたけどこうしてじかに会うのは久しぶりだな!結婚しようぜ!」

 

「わぁ!」

 

「おぉ」

 

「しない。相変わらず絡みづらいな、ジョーク」

 

ジョークと呼ばれた女性はケラケラと笑っていた。相澤先生はそれと対照に露骨に嫌そうな顔をしていた。古い友人のようだが、彼にとってはあまり会いたくない人のようだ。

そして彼女の言った結婚という単語。突然降って出てきた担任の浮ついた話題に恋に飢えるモンスターどもが反応する。私でさえもあまりの珍しさに反応してしまった。

 

ちなみに反応は色恋だけでなく、ジョークさんについてもだった。主に緑谷で、もはやお決まりとなっている彼の過剰なまでの説明を私たちは聞き流す。多少聞くと、彼女の個性は『爆笑』で近くにいる人を強制的に笑わせるのだとか。相澤先生が個性で抹消していたのはそれを防ぐためだろう。確かに絡みづらい。

 

「お前のとこもここか」

 

「そうそう、おいで皆!雄英だよ!」

 

すると彼女の後ろから8人ほどの生徒たちが顔を出す。傑物学園2年2組。それが彼女のクラスのようだ。人数は少ないものの、彼女の自信溢れる表情から彼らの実力は相応の物だとわかる。確かに他の有象無象とは違った雰囲気を感じた。

 

傑物の生徒たちの反応は純粋なもので、嫌悪がなく、一般の方に近しい反応だ。士傑の方もそうだったが、私に対する嫌悪感は見えない。――夜嵐を諫めた紫髪の青年は半々くらいだったが。

 

ただ、リーダーと思しき青年は違った。嫌悪というよりも猫かぶりというべきだろうか。爆豪に握手を求めたところ、「顏と台詞が合ってねぇんだよ」と手を跳ねのけられてしまっていた。

確かに魂を見ると純粋さに隠れて打算が見られた。腹黒、というものだろうか。ただ、本質は善のようだ。

 

そんなこんなで他校の生徒たちと交流し、受付と着替えも済ませる。そのあとは大部屋にて試験の開始を待つ。大部屋には1500人ほどの受験生がいた。かなり多く、密度も高い。少し暑苦しかった。

 

予定時間となり、一人の男性が説明を始める。

 

「あ、目良さんだ」

 

目良さんだった。相も変わらず、いや、いつにも増して眠たそうだ。

 

『えー…ではアレです。仮免のヤツをやります。あー…ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠。仕事が忙しくて碌に寝れない…!人手が足りない…!眠たい…!そんな信条の下、ご説明させていただきます』

 

締まりがない。というかこの場を仕事に対する愚痴に利用していた。まあ、彼らしい…のか?

 

試験内容は『勝ち抜け』。先着100名の合格者が出るように試験を行うようだ。スピード重視。これは昨今増加した犯罪件数に対応するための能力を養うためなのだとか。速さは力。そしてそれはヒーローとしての能力に著しく直結する。

 

合格者は100名。つまり倍率は15倍。例年は半分が合格するので、異例の事態だと言えるだろう。私たちの代ではやはりイレギュラーが多い。運営側も大変だ。

 

第一試験の内容は『的当て』。私たちは3つのターゲットを視認可能な範囲で体に身に着け、支給されるボールを6つもつようだ。自身に身につけられたターゲットがすべて当てられたら脱落。2人脱落させた人が合格の判定をくらうようだ。それが、先着100名ということだ。

 

つまり、お相手が戦っている間に潜伏し、最後の3つ目のターゲットを当てた人が規定を満たすため、漁夫の利に気を付ける必要がある。それぞれに合った戦法を採る必要があるだろう。

 

さて、試験が始まる。私たちは同じ学校どうしで固まって行動していた。

 

「先着で合格なら同校での潰しあいはない…!むしろ、手の内を知った仲間同士でのチームアップが勝ち筋!皆、あまり離れずに一塊で行こう!」

 

試験開始直前。緑谷が作戦を伝える。とても合理的で正しい選択だと言えるだろう。しかし――

 

「フザけろ、遠足じゃねんだよ」

 

「バッカ待て待て!」

 

「爆豪!?オイ待てよ!」

 

「悪ぃ俺も。大所帯じゃ却って力を発揮できねぇ」

 

そう言って離脱するのは爆豪と轟。爆豪に至っては付随して切島と上鳴も付いていったようだ。

この時点で戦力は激減。正面衝突に優れた人材が軒並み外れたので当然と言える。残る主力は私と緑谷、常闇に飯田などがいるが、ここでもう一つ追い打ちをかける出来事が。まあ、私が起こすのだが。

 

「皆、頑張ってね」

 

私も集団の輪から外れる。と言っても、理由は轟のソレと一緒だ。加えて、私のみんなに対する期待と要望も混ざっている。

 

皆も私の目と言葉から察したようだ。頷き、覚悟したような表情が向けられる。

 

さて、試験開始に向けて移動するとしよう。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「……ここだとみんなと被らないね。轟も爆豪たちもいないし」

 

私は市街地エリアに来ていた。市街地と言っても高低差は激しい。住宅が並んでいるというよりも高層ビルの類が並んでいるという感じだ。轟と爆豪たちの気配も感じないので私一人で孤軍奮闘することになるだろう。

 

まだ試験は始まってないが、試験は始まっている。矛盾のように聞こえてしまうが、そうという他ないのだ。実際、私を取り囲むように他校の生徒たちが集まっていた。

 

「おい、夜月だぞ!」

 

「一人…!?余裕かよクソ!」

 

「施設とやらで経験を積んだ奴は余裕ってわけ?」

 

「面白れぇ…。そのプライドへし折ってやる……!!」

 

ぞろぞろと集まってくる。人数は……150程だろうか。かなり多く、とても一つの高校で収まる人数だとは思えなかった。談合しているのだろう。それも、自然となっているようだ。利害の一致というやつだろう。

 

「オレがあいつをぶっ倒して、ヒーローにふさわしくないってことを教えてやる……!」

 

「雄英だからって調子乗ってんじゃねぇ…。俺達でもやれるってとこ見せてやるぜ!」

 

(あーあ、好き勝手言ってくれちゃって。オールマイトの引退に関しては私に対して小言を言ってもいいけど、私のヒーロー人生に対して口出しされるのは不愉快だな。その上、その豪胆さは大人数で囲っていることから出てくる愚かなものだし。こんなやつが仮免を受けるのか?それも2年生や3年生だろう……ああ、違うな、こんなやつらが多いから基準が高まったのだろうな。ふぅん……)

 

私は自分の中で結論付け、試験での動き方を決める。

 

(どうせなら間引くか。別に二人倒せばいいだけでそれ以上がダメとは言われてないし)

 

今私を囲んでいる150人。その中から目ぼしい者以外は脱落させるとしよう。そして、私への偏見を取り除いてもらうとしようか。

 

そうして試験がスタートした。

 

開始と同時に四方八方からボールが飛んでくる。それはただただ投げられただけのもので個性や不意打ちなどの創意工夫が凝らされたものではなかった。

実に退屈。工夫を凝らしたものも居たには居たが、足りない。こうした状況での経験や思考が圧倒的に足りない。いわば、実力を積み重ねていないというべきだろうか。

 

残念ながら彼らではヒーローとして活躍するのは不可能に近いだろう。平和の象徴であるオールマイトがいなくなった今、求められるのは個の力で事件や犯罪に対処すること。今までのようなヒーロー飽和社会は不必要なのだ。

 

だから、私は公安にヒーローを目指すことを許されたのだろう。

 

ボールが私の方まで接近し、顔面までに行きつく。コントロールが悪すぎるが、私が避けることを前提していたのだろうか。それとも、当たればいいなの精神で投げたのだろうか。理解に苦しむ。

 

ただ、どんなに工夫を凝らしても変わらない。私の体までボールは届かないからだ。

 

「ッ!?ボールが、止まった?」

 

「おいおい、どういうことだ!?」

 

別に答えてやる義理はないが、せっかくなので私の威を見せるために答えてやることにした。

 

「虚無だよ」

 

「きょ、虚無?なんだよそれ!」

 

「私の力の源だよ。ニュースで言及されていたでしょう」

 

そう、実に簡単なことだ。あたりにまとわせた虚無が壁となり、ボールの動きを阻害した。ただそれだけだ。

 

そして、呆ける敵に私は範囲攻撃にて大量脱落を狙う――つもりだった。

 

私はその動きを止める。突然風が吹き、敵のボールを奪ってしまったからだ。私の物も奪われてしまった。

ボールは一人の男の手のもとに巻き上げられている。その男は先ほどの士傑高校の夜嵐イナサだった。

 

「俺、ヒーローって熱血だと思うんです!皆さんの戦い、アツいっス!俺、アツいの好きっス!!」

 

彼はそのように言い、顔を上げる。上げすぎて天を見上げる形になっていた。

 

「士傑……!そっちも一人かよ!」

 

「ま、待て!ボール取られたら俺たち何も…!」

 

敵たちはそのように宣う。動揺していて何の対策もとっていなかった。

 

フム、風か……。

 

「このアツい戦い、俺も混ぜてください!よろしく…お願いしまーす!!」

 

そう言って彼は個性で風を操り、巻き上げたボールを一斉に私たちの下へ下ろす。無差別攻撃に見えるが、その方向は私たちのターゲットを正確に狙っていた。制御は甘く、一部は外れているが。

 

なかなかやるな。

 

「展開」

 

私は可視の虚無でベールを張る。ボールはすべてベールに阻まれて動きを止めた。

 

「オッ!」

 

夜嵐は驚いたように、喜んだようにそう反応する。

 

私はそれに構わずに後ろを――敵たちの方――を振り向いた。

 

「選手~交代~代打……私」

 

にっこりと、それでいて恐ろしく私は言った。冗談を言うかのように、相手を煽るかのように言った言葉なので人によってはかなりムカついたかもしれない。

 

魔風(テンペスト)

 

夜嵐に対抗するかのように私は風のみを繰り出した。夜嵐と違ってすべてをターゲットに集中させる。およそ150の中からめぼしい20のみを残して脱落させるとしよう。

 

『ウオッ!?びっくりしすぎて起きてしまいました…!開始30秒で130が脱落!一人の手によって130が脱落してしまいました!これからどんどん合格が来てほしいですねぇ。みなさん頑張ってください!』

 

どうやら私が一番だったようだ。

 

「シズさん、凄いっス!アツいっス!流石夜月っスよ!」

 

終わった後、まだ試験中の夜嵐が話しかけてきた。『流石夜月』っていうのはあの夜に私が言った夜月で間違いないだろう。

 

「ありがと。夜嵐もすごいね。風の個性だけでこんなにコントロールできるなんて」

 

「ホントっスか!?あの夜月にそう言われるなんて光栄っス!」

 

その後も少し話していたかったが、彼の試験もあるのでここらでお開きにすることにした。きっと彼もすぐに合格するので話す時間はあるだろう。楽しみに待つとしよう。

 

そう考えながら、私は合格者控室へと急いだ。

 

 




ミスターカナダの実力論俺めっちゃ好きなんですよね。受け売りとはいえ同じ高校生が考えることかよってのと、フロムカナダの日本でのちょっとした出来事が例えになっていて読者目線だとすっげぇわかりやすいし。作者さん頭いいなってつくづく思う。
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