魂を満たす物語   作:よヨ余

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仮免二次試験Ⅱ

サイドキックたちの集団が避難所にセメントで固められた弾丸を放ったのでエスクードで妨害した。

 

「これは!」

 

「エスクード……てことは!」

 

私は遠隔射撃で相対するつもりだったが、思っていたよりもサイドキックたちが優秀だった。遠隔射撃のみでは対応できないため、直々に対応するとしよう。

 

私が降りる前に、傑物学園の真堂揺が殿を務めてくれていた。ギャングオルカの超音波攻撃を前にして撃沈していたが、この時間稼ぎは大きい。

 

「遅くなりました」

 

言葉を紡ぎながらギャングオルカの顔面を蹴りつける。流石に腕でガードされたが、ダメージは大きいだろう。多少虚無を流したので、持続ダメージは入る。

 

「緑谷、彼を」

 

「夜月さん!わかった。任せて!」

 

後ろには尾白達が応援として駆け付けているので問題はないだろう。滞りなく避難を進められるはずだ。

 

「シズ……か。これは強敵だな」

 

「それはこちらのセリフですよ。ギャングオルカ。一応聞きますが、退散してくれませんか?こちらとしては争いなく事を進めたいのですが」

 

一応形式上、そう聞いてみることにした。これを聞き入れるような敵は害意がすでになくなった者だけだろうが、念のためだ。

 

「聞くとでも?」

 

「いいや?」

 

私は後ろにエスクードを出しながら言う。そして、サイドキックの連中は先ほど生成した水玉で狙撃をする。

 

「あっちぃ!!」

 

密度を極限まで高めているため、かなりの火力を誇っている。上級脳無のような生物的強者には効果が薄いだろうが、下級脳無以下の生物的弱者にはかなりの効果が見込める。人間も、その例外ではない。

 

「試験が終わったら治癒するとはいえ、私は容赦しませんよ?」

 

「フン、擦り傷程度で済ませている癖によく言うものだ」

 

(流石に気付くか)

 

そう。直撃させるのでなく、着弾したところから着色した水を噴出させることで怪我を大げさに見せていた。ただ見抜かれる。職業柄、血液との違いは一目瞭然なのだろう。

 

私は弧月を生成し、見据えた。

 

「ナンバー10とやらの力を見極めさせていただきます。せいぜい、私を楽しませるように」

 

「生意気だな。大いに結構」

 

ギャングオルカが私に超音波攻撃を放った。

 

それは私に直撃するが、私は意に介さない。

 

「この程度ですか?ナンバー10に選ばれるには弱過ぎる」

 

「いいや?」

 

ギャングオルカはその言葉とともに私を殴りつけた。私は吹き飛ばされる。シャチの膂力はとても大きいらしい。腕がジンジンする。

 

「へぇ、見くびってました」

 

ギャングオルカは私の言葉に有頂天になるわけではなかった。むしろ、私の心のこもらない声に多少不快感を示しているように見えた。

 

(流石はプロと言うべきか。煽るような発言を聞いても心を乱さない。私の言葉がウソだと見抜いてるからだというのもあるだろうが)

 

私は舌を巻く。

 

直後、ギャングオルカを氷結が襲った。

彼は超音波でその氷結を破壊しながら防ぐ。

 

轟だ。

 

「悪ぃ遅れた」

 

「いやいや、問題ないさ。それより、任せていいかな?私は指揮に戻りたい」

 

「分かった」

 

私は轟の言葉を聞き飛翔する。夜嵐も来たので問題ないだろう。

 

さて、HUCの皆さんはあらたか救助できたようだ。あとは爆豪たちの方面に二人と、工業地帯の隠れたところに一人。全員を助けた瞬間に試験は終わるので、それ次第だろう。

 

それに残りも直に終了する。すぐに終わるため私は避難所の手伝いに回ろう。

 

そう思い、私は分身体を追加派遣した。

 

そして救助が終わった後のことも考えなければならない。建物の崩壊が激しく、乱雑に散らかっているため片付けよう。このようなプラスαの行動が加点されるかもしれない。減点方式だったら意味はないが、今後を考えていい行動をしておくのは正しいだろう。

 

あらかた片付いたところで異変に気付く。

 

(なんか二人が喧嘩してるんですけど……)

 

轟と夜嵐が喧嘩していた。エンデヴァーという単語が聞こえたので恐らく轟家のアレコレに関係することだろう。

 

恐らくどちらも悪くない。ただ、タイミングが悪い。

 

「期待外れだったか」

 

切ろう。戦闘能力が高い他の者が必要だ。多少立ちなおした二人は熱風の壁でギャングオルカを閉じ込めているが、直に破られるからな。

 

「爆豪」

 

『アァ!?』

 

私は爆豪の断りなくスイッチボックスで私の前に呼び込んだ。

 

そして、足を構え、カタパルトができるように用意した。

 

「行ってらっしゃい」

 

意図を理解した爆豪は私の足に乗り、体勢が整ったタイミングで私は足を振りぬいた。

 

爆豪を蹴った形となり、爆豪がギャングオルカに肉薄する。そして爆発が直撃したのを見届けて再度救助に意識を割いた。

 

「切島、上鳴。3時方向に直進しろ。お前たちで最後だから、救助したら試験が終わるはずだ。早めにね」

 

『『分かった!』』

 

二人の返答に私は安心し、再度事態を俯瞰してみることにした。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「炎と風の熱風牢獄…いいアイデアだ。並の敵では一たまりもない。だが、それは相手が並である時。打った時にはすでに次の手を講じておくものだ」

 

ギャングオルカを包む熱風牢獄が破られた。

 

「――で?次は?」

 

「俺だぁ!」

 

爆撃が直撃する。

 

ギャングオルカを襲ったのは爆豪勝己。シズによって蹴飛ばされた爆豪が突貫し、爆破を直撃させたのだ。

 

「爆豪か…」

 

ギャングオルカは腕で爆破をガードしたようで、大したダメージにはなっていなかった。

 

「せいぜい俺を楽しませろよ、ナンバー10!!」

 

爆豪は大げさに笑い、そう言い放つ。

 

「お前も生意気だな。だがいい」

 

ギャングオルカはニヤリと笑い爆豪に相対する。

 

上鳴と切島が救助に向かう少しの間、爆豪勝己に受難が迫る。

 

先制はギャングオルカ。自慢の超音波攻撃を爆豪に向ける。

 

爆豪は真横に跳び、避けた。

 

ただギャングオルカはそれを予測していたようだ。爆豪を殴りつけ、吹き飛ばす。爆豪は背中から一度バウンドし、空を見上げる形になった。そしてギャングオルカはそれに追撃をかけるべく近づき、殴りかかった。

 

しかし爆豪はそれを避ける。()()()()()()()()()()()()()

 

爆豪はシズとの模擬戦を思い出す。

 

――攻撃するときに大事なのは一撃目じゃない。それも大事だが、二撃目、三撃目以降が最も大事だ。その質で一対一は十分決まる。だから追撃を警戒しろ。お前それで私に四度負けただろう。

 

とてもムカつく言い方だった。爆豪は不意打ちで爆破を叩き込もうとしたが、それも読まれて防がれたのでよりムカつきは深まった。未だ勝てた試しはないので、ずっとそのイラつきはたまっていくことだろう。

 

だが、それが爆豪を救った。それもとてもムカつくことなのだが。

 

(……ぜってぇ超えてやる。そんで俺がナンバー1だ……!)

 

爆豪の瞳はギラついていた。手始めにギャングオルカ(ナンバー10)を倒してやると意気込んだ。

 

爆豪は急加速し、ギャングオルカの背後に回る。

 

(速い。短距離限定とはいえ俺の目を超えるか)

 

爆豪は翻弄に意識を割いているようだ。

乱反射(ピンボール)

シズがグラスホッパーを相手の周り四方八方に展開し、それに跳ね返り続けることで瞬間速度を底上げする技術だ。爆豪は模擬戦でそれを直に受けたのでそれを良く知っている。ただグラスホッパーを使うことができないため、爆破でそれを代用した。咄嗟の真似事とはいえ、十分な効果を誇る。

現に、ギャングオルカは飛び回る爆豪に翻弄されていた。

 

「死ねぇ!!」

 

大きな爆破を叩き込み、煙幕が舞う。

 

煙幕が晴れた後、ギャングオルカは疲弊していた。

 

シズの虚無、轟と夜嵐の熱風牢獄による乾燥、そして爆豪の爆破の影響に、それに付随した乾燥。

 

それらによって、彼は弱体化もいいところだったのだ。

 

爆豪が畳みかけようと構え、近づき始めた瞬間に事態は一変する。

 

ブザーが鳴る。

 

『えー、ただいまをもって、配置されたすべてのHUCが危険区域より救助されました。誠に勝手ではございますが、これより仮免試験すべての行程を終了させていただきます。集計の後、この場で合否の発表に移りたいと思います。けが人は医務室へ。それ以外の人は着替えて、しばし待機でお願いします』

 

「終わりだぁ!?」

 

爆豪は心底残念そうに叫ぶ。だが油断はしない。ブラフの可能性も捨てきれないからだ。

 

「油断をしないのは結構。しかし試験は終わっている。楽にしてくれていい」

 

ギャングオルカの声で警戒を解いた。そして、いいところで終わってしまったという不完全燃焼特有の気持ちが悪い感覚のみが残る。

 

「煮え切らねぇぜ……」

 

爆豪は一言、そう呟いた。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

試験が終わって十数分後、私たちは試験会場に集まり待機をしていた。合格発表が始まるまで楽にしていいとのことだったので私はA組のみんなと雑談をしていた。主に試験の振り返りだ。

 

「疲れたね」

 

「結構動き悪かったかも~」

 

多くは疲弊が目立っていた。自身の行動を振り返り顔を青ざめさせて居るものも居た。ただ、私から見れば動きは全然良いものだったので問題はないと思われた。

 

轟と爆豪は、その例に当てはまらないが。

 

「最初ビビったよ。シズが急に私たちを置いていくんだもん。動き阻害してたし」

 

「ごめん。毛原さんとヤオモモには説明してたんだけどね、時間なかったしさ。でも、ヤオモモの説明で十分理解できたでしょう?」

 

「うん。びっくりしちゃっただけ」

 

私は少しだけ反省をした。多少びっくりさせてしまうとしてもマンダレイを模倣して直接魂に語り掛けるべきだったかもしれない。

 

「でもすごかったね。ヤオモモの説明のときでHUCの位置を全部把握しちゃうなんてさ。全部は示さなかったのは私の仕事を奪わないようにするため?」

 

「そう。だからノルマとかを課したんだよ」

 

響香の質問に私は返した。

 

その後も私たちは雑談を続けようとしたが、その前に公安の集計が終わってしまったようだ。前に目良さんの姿が見えた。

 

『皆さん、長いことお疲れさまでした。これより合否の発表を行いますが、その前に今回の採点方式について説明させていただきます。今回、我々ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんの二重の減点方式で見させていただきました。つまり、危機的状況でどれだけ間違いのない行動をとれたかを審査しています。以上の言葉を踏まえたうえで、モニターをご覧ください。合格の方の名前が五十音順で載っています』

 

やはり減点方式だったようだ。そして、やはり轟と爆豪の二人は落ちてしまったようだ。

 

一方私は合格。私の姓は夜月であり、一番最後にあった。そのおかげですぐに見つけることができた。私の名前の前は『ゆ』から始まる者。つまり、夜嵐も落ちてしまったようだ。

 

爆豪の落ちた原因はやはり暴言。ただ、そのあとの敵退治において優れた行動をしたと判断されたようだ。減点加点両立の採点方式だったら合格していたかもしれない。ifの話をしても意味はないが。

 

そして轟と夜嵐が落ちた原因は敵退治の際に喧嘩をして利敵行為をしてしまったことによるもの。その理由としてはどちらも悪く、どちらも悪くない。そう形容するのにふさわしい理由だっただろう。

 

(轟と夜嵐はともかく、爆豪は別に合格でいいと思うけどな。口の悪さと人相の悪さだけで不合格にするにはもったいないだろう。暴言以外に減点項目はないのだから)

 

すこしだけ爆豪の救助活動を覗いたが、彼の判断は何ら間違ったものではなかった。むしろ正しいもの。それはHUCの皆さんも承知の上だろう。

 

(まあ、言葉を交わしてすらいない私が言える道理はないか)

 

むしろ、私も減点されている可能性がある。いや、私の場合過去から見える恐怖から民衆と関わらないほうがいいので減点されていないかもしれないか。

 

『皆さん結果は確認しましたね。続きましてプリントを配ります。採点内容などが詳しく記載されているので、見て自分の学びにしてください』

 

公安職員が一人一人に採点用紙を差し出した。私たち個人個人についていた試験官だろう。ついでに、試験中に私の頭の中を見せて驚かしたことを謝った。快く許してくれたのでよかった。むしろ、採点がやりやすくて助かったようだ。

 

私が用紙を確認していると、ヤオモモや響香が私に近づいてきた。どうやら私の結果が気になるようだ。

 

「二人は何点だった?」

 

私は二人にそう質問してみた。

 

「私80点。ヤオモモとかすごいんだよ。96点だって」

 

「……逆に何で減点されたんだ?」

 

響香の答えに疑問を覚えた私は素直に聞いてみた。

 

「通信機関連や医療機器関連の創造のしすぎでキャパを少しだけ超えてしまいまして…。その不調がHUCの方に見られてしまって不安にさせてしまったことですね」

 

「……ごめん。ヤオモモに負担を押し付けすぎた」

 

私はそう反省する。私の結果はすこぶるよいものだったが、反省点はとても多いようだ。他人のキャパも考えなければならない。

 

「そんなことはございません!これは私の実力の問題ですわ。シズさんが気にすることではございません」

 

ヤオモモはそう言って私を安心させてくれた。彼女がそう言うのならば、私はもう何も言うまい。私が彼女の立場だったらそういうだろうと簡単に予測できるからだ。

 

「シズはどうだったの?」

 

響香の言葉に私は採点用紙を突き出すことで応えた。彼女たちの目が見る見るうちに見開かれていく。

 

「ひゃっ……100!?」

 

「HUCのみんなと会話しなかったことが気になったけど、私の過去からそれは無理にする必要はないって判断らしいね。あと、試験官に私の思考内容を見せていたから私の行動の意味が簡単に間違いなく理解できていたし。まあ、あの行動の多さと難易度を認識してれば簡単に減点はできないよね」

 

「一体どんな行動をしてたんだ……」

 

話してやってもよかったが、公安の話はまだ終わっていないようだ。バスで話す約束をして前を向いた。

 

合格者には仮免を取得し、緊急時に限りプロヒーローと同等の権利を行使することができる。それはつまり、私たちの行動一つ一つに社会的責任がのしかかるということでもある。

加えて、平和の象徴を失った現在、均衡が崩れ世の中は大きく変遷していくだろう。そのためにも半人前から一人前になるために精進してほしいとのことだった。

 

そして、不合格となってしまった人たちに対しても説明があった。私の予想通りチャンスはあるらしい。二か月にわたる補講を受講し、テストに合格すれば同じく仮免が発行されるらしい。日々の授業との兼ね合いでかなり密度の高い時間を過ごすことになり負担も大きいだろうが、彼らからしたら願ってもない。全員が受講を願い出た。

 

こうして仮免試験のすべての行程が終了。私たちには仮免許証が発行され、会場を後にした。

 

その間で夜嵐と轟の間に合った溝が多少なりとも解消されたりと少しの進展があった。彼らならば補講の時にでも仲良くなっているかもしれない。昔の轟ならともかく今の轟なら問題ない。夜嵐はもともと心配ない。

 

 

 

帰りのバスでは爆豪が隣だった。落ちてしまった彼にかける言葉は慰めではない。私が思ったことを伝えるとしよう。彼には寮生活初日でのお話の時の借りがある。

 

「爆豪」

 

「…あ?」

 

「期待している」

 

「……言ってろ」

 

彼がこの言葉をどう捉えたのか。魂を見ればすぐにわかるが、私はあえて見ないことにした。

 

代わりといってはなんだが、バスの窓から見える景色に心を委ねる。

仮免を取得し、将来的には仮が除かれ、私たちはこのような日常を守るためにヒーロー活動を行うのだ。

 

そう思うと、何だか感慨深い。

 

そして、その未来があることを私は願った。




おいおい40の大台じゃねぇか!

頑張るぜ
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