魂を満たす物語   作:よヨ余

41 / 54
励みになりますので感想評価等よろしくお願いいたします!


二学期

新学期が始まった。仮免試験も終了し訓練漬けの日々にも一段落だ。しかし一段落とはいえ訓練が終了したわけではない。その上に普段の授業が加わる。予習や復習を怠ると支障をきたすだろう。

 

最も、記憶を取り戻した私は戦闘や個性の記憶だけでなく勉学の記憶も蘇ったため関係ないと言えば関係ないが。

 

制服に袖を通し、リビングへと赴く。すでに数人の生徒がそこに居り朝食を食べていた。このような日常の過ごし方が人によって違うのだから不思議だ。お師匠のようにガサツな人もいれば、その反対もいる。意外に思ったのは爆豪だろうか。彼は粗暴でガサツな印象を持っていたがそんなことはないらしい。むしろ逆だった。完璧主義的な考え方がそれを裏付けているのだろう。

 

まあ、そんな彼にもやらかしはあるのだが。

 

「「喧嘩して謹慎~!?」」

 

爆豪(あと緑谷)による喧嘩だった。昨日、つまり仮免試験のその晩に寮を抜け出し喧嘩したのだと。己の肉体だけを使用した喧嘩ならまだよかったもののそれは個性を使用した喧嘩だった。最初は消極的だった緑谷だったが徐々にヒートアップしたのだと。相澤先生は緑谷に3日、爆豪に4日の謹慎処分をそれぞれ言い渡した。先に手を出した爆豪のほうが罪は重いらしい。

 

「なんでそうなったのさ、やっぱ神野?」

 

掃除機をかける爆豪を横目に見つつ私はこそっと緑谷に聞いてみた。彼は微妙そうな、それでいて気まずそうな顔をしてぼそりとつぶやく。

 

「……バレちゃって」

 

言外に個性のことだと気づく。私はそれに驚いた。なぜならば、私が気付いたのは彼の魂を見てのことだった。しかし、それは爆豪には見えないものだからだ。幼馴染とはいえほぼヒント無しの状態から答えにたどり着いた彼の洞察力に私は舌を巻いた。

 

そして彼の魂を観察する。彼の魂はとてもきれいになっていた。神野以降の負の感情が巻き付いた魂はその影もなく、そこには神野以前の私が羨望した魂が見えた。オールマイトのことで揺らいでいた心が完全に戻ったわけではないだろうが、問題ないだろう。

 

「ま、大丈夫でしょ」

 

私は緑谷にそう声をかけて彼を安心させる。彼は納得していないがまあいい。彼にも劣らないオールマイト好きの爆豪がバラす心配はないからだ。

 

私は朝食を食べ、掃除する二人をのこして学校へと向かった。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「みんないいか!列は乱さずそれでいて迅速に!グラウンドへ向かうんだ!」

 

「いや、オメーが乱れてるよ」

 

新学期早々、クラスメイトが揃うことはなかったが、私たちは始業式に参列する。

正直、私は相澤先生の判断によって個性把握訓練のような始業式以外のことをやらされることだと思っていたがそんなことはないようだ。いや、それも当然か。林間合宿、神野。二つの大きな事件の中心となったのが私を筆頭としたA組。参加しなければ方々からの非難は避けられないだろう。先生はその面倒を嫌いそうだ。

 

「聞いたよA組ィィ!2名!そちら仮免落ちが2名も出たんだってぇぇ!?」

 

「物間!相変わらず気が触れてやがる!」

 

グラウンドへと向かう道中、私たちはB組の面々と出会った。どうやら行くタイミングがほぼ同時だったようだ。

 

B組と言ってもほとんどは物間だ。彼はニヤケ面を浮かべてこちらに言い寄ってきた。どっかの敵にいそうな表情をしている。

 

「さては、またテメェだけ落ちたな?」

 

切島が問う。物間は期末試験の時に赤点判定を喰らっていたようだ。それもB組では彼一人が合格だったらしい。その中でも切島たちA組の赤点者を煽っていたがその心情はどうだったのだろうか。私が視認していない以上それをしっているのは物間ただ一人だけだ。

 

彼はその質問に思わせぶりにあちらを振り向き、こちらに背を向ける。

 

「いや、どっちだよ」

 

「ハッハッハッハ!!こちとら全員合格、水が開いたねA組!」

 

おお、凄い。こっちの落ちた人の理由が馬鹿らしいとは言えこちらよりも合格者数が多いとは。正直、数人は落ちると思ってた。B組が着実に力をつけている証拠だろう。

 

「おーい、後ろ詰まってんだけど」

 

「すみません!さあさあ皆、私語は慎むんだ!迷惑が掛かっているぞ!」

 

「かっこ悪ィとこ見せてくれるなよ、ヒーロー科」

 

そう声を上げるのは心操だった。謝罪の意を示そうと後ろを向くと、そこには体育祭よりもガタイのよくなった心操の姿が。

 

(……頑張ってんじゃん)

 

私は前を向き直した。少しだけ口角を上がったような感覚を覚えた。

 

 

 

 

……始業式では校長先生の長ーいお話が。そして生徒指導担当のハウンドドック先生が人語を忘れるレベルの激怒を見せ、それをブラドキング先生が通訳するというちょっとしたツッコミどころがあった。

 

しかし、その中でも気になったのはインターンという言葉だ。一般的なインターンと考えればそれは職場体験のようなものなのだろうが、わざわざ言葉を変える以上違う意味合いを持つのだろう。

 

それは、始業式後の相澤先生の話で分かった。……梅雨ちゃんの質問がなければ話はなかったようだが。後日説明するつもりだったようだ。

 

先生曰く、インターンとは以前行った職場体験の延長線上にあるものらしい。つまり、校外でのヒーロー活動だ。それも、実際にサイドキックのような行動をするらしい。仮免試験を合格した者がそれを行うことができるらしい。轟が少しだけ残念そうにしていた。

 

「体育祭での頑張りはなんだったんですかぁぁ!?」

 

お茶子は鬼気迫る表情でそう叫ぶ。しかし彼女の言い分ももっともだ。このカリキュラムがあるのならば体育祭で優れた成績を残さなくても職場体験は行える。意味がない、とまでは言わないが少ないと思われた。というより、個性の詳細が世に出るというデメリットもあった。

 

ただ、違った。先生曰く、インターンは体育祭で得たコネクションを活用することが前提のようだ。そして、義務であり学校側が保証してくれた職場体験とは違い、生徒に自主性に重んじられるのだとか。勉学に集中したいのなら辞退するのも一つの判断だろう。

 

「一年での仮免取得はあまり例がないこと、敵の活性化も相まってお前らの参加は慎重に考えてるのが現状だ。ま、体験談などの話を含め後日ちゃんとした説明と今後の方針を話す。こっちにも都合があるんでな。――んじゃ、…待たせて悪かったマイク」

 

「英語だーー!すなわち、オレの時間!久々登場オレの独壇場!今日は詰めてくぜーー!!アガってけイエェア!」

 

説明を終えた先生と入れ替わり、マイク先生が教室に入ってきた。静と動の激しい変化に風邪をひいてしまいそうだ。

 

始まる授業。その中で当然のように習っていない文法も出てきた。それに大勢が戸惑っていたが私は問題なかった。

 

…みんなに後で教えてやるしよう。

 

 

 

そして、3日が経過。緑谷の謹慎期間が終了した。

 

「御迷惑おかけしました!!」

 

彼は教室内で深々と頭を下げており、謝罪していた。彼の雰囲気には気合が混じっており、後れを取り戻すのだと息巻いていた。

 

本鈴が鳴り先生が入ってきた。

 

この時間はLHR。クラス委員長を決めたりした時間もこれだ。

 

「緑谷も戻ったところで本格的にインターンの話をするぞ。入っておいで」

 

相澤先生の言葉のすぐ後、教室の扉が開く。

そこに入ってきたのは3人の生徒だった。男女比は2:1。

 

「職場体験とどういう違いがあるのか。直に経験している人間から話してもらう。多忙な中、都合を合わせてくれたんだ。心して聞け。現雄英生の中でもトップに君臨する3年生3人。通称ビッグ3のみんなだ」

 

入ってきた順に、筋肉質で金髪の大柄な男子。ねじれた水色ロングヘアの少女。細身細目で猫背の黒髪の男子だ。ビッグ3。全国の高校生の中でもトップ層の雄英、その中でのトップと目される3人だ。

 

正直、彼らがまとう雰囲気が楽観的であるものであることからそんなふうには見えない。しかし、魂を見ればそれは一目瞭然だった。

 

(強い。特に金髪の人。個性は強くないがその肉体に刻まれた経験はウソをつかない。彼がトップかな?)

 

「じゃ、手短に自己紹介をしてくれ。天喰から」

 

天喰と呼ばれた黒髪が反応する。ギロリと私たちをにらみ、一瞥するだけですさまじいプレッシャーを放っている。ただ、魂を見ると……。

 

「ダメだ、ミリオ、波動さん…。ジャガイモだと思って臨んでも…頭部以外が人間のままで以前人間しか見えない…!どうしたらいい…言葉が出てこない…。辛いっ…!帰りたい…!」

 

そう言って彼は黒板に頭をこすりつけた。ついでに俯きどんよりとした暗いオーラを纏っている。

 

衆目による緊張。これが現ヒーロー生徒のトップの一人なのだろうか。大勢は失礼にもそう思ってしまった。

 

「あの…雄英のトップなんすよね…?」

 

「あ、聞いて聞いて。そういうのノミの心臓っていうんだって!人間なのにね!不思議!彼は天喰環。それで私が波動ねじれ。こっちは通形ミリオ。今日はインターンについて皆にお話ししてほしいと頼まれてきました!」

 

喋らなくなった天喰先輩に変わり、波動先輩が説明を始めた。

 

この人はちゃんとしている。

 

――この判断は間違っていた。

 

「ねぇねぇ、君は何でマスクを?風邪?おしゃれ?あと、あなた轟君だよね!?なんでそんなとこ火傷したの?あと――」

 

 

すぐさま話が脱線した。障子、轟。ほかにも、三奈や梅雨ちゃんなど、多くの人に矢継ぎ早に質問を投げかける。そしてそれはその人によって地雷になることもあった。轟がそのいい例だ。

だが、彼女の興味は移ろいやすく、皆が質問に答える前に他の質問に移っていた。人によっては答えなくてよくなったので安堵したことだろう。

 

「……合理性に欠くね?」

 

「イ、イレイザーヘッド!安心してください、大トリは俺なんだよね!前途―!?」

 

静寂。

 

「た、多難ー。……洋々?」

 

私の呟く声が静寂を打ち破った。

 

私の言葉に通形先輩が反応してくれた。

 

「うん!多難でオッケーだよね!よぉしツカミは失敗だ!」

 

多難で合っていたようだ。

彼は朗らかに笑っていたが言葉が一致していない。不思議だ。

 

そんな中皆はビッグ3に猜疑の目を向けていた。威厳も何もないのだから説得力もない。無理もなかった。

 

「まァ、何が何だかわからないって顔してるよね。必修でもないインターンの説明に突如現れた3年生たち。無理もないよね。今年の1年ってすごく元気があるしそうだねぇ……。何やらスベり倒してしまったようだし、君たちまとめて俺と戦ってみようよ!」

 

「「「え、えええ!?」」」

 

まさかの模擬戦の提案。突然の提案に私たちは面食らった。座学で終わると思っていたからだ。まさか体で教えてもらうことになることになるとは思わなかった。

 

「俺たちの経験をその身で経験したほうが合理的でしょう?どうでしょうね、イレイザーヘッド!」

 

「…好きにしな」

 

自信たっぷりの通形先輩の発言を相澤先生は許可した。彼の承認もあって私たちは困惑しながらも着替え、体育館γへと向かう。彼らはすでに体育館に来ていた。ただ、戦うのは通形先輩のみのようだ。波動先輩と天喰先輩は静観の構えをとっている。

 

「あの…マジすか?」

 

「マジだよね!」

 

本当に私たちをまとめて相手取るつもりのようだ。やる気は十分伝わってきており、ふざけてもいないことが見て取れた。

ただ、それが分かったからと言ってはいそうですかと言えるほどA組のプライドは低くない。いくらインターンで経験を積んだからと言って19人(轟は仮免を取得していないので参戦しないらしい)を相手取るのは不可能だと考えているからだろう。その上、私たちは数度敵との戦闘も経験している者もいる。

そう考えてしまうもの無理はない。

 

「ミリオ、やめた方がいい…、インターンについては形式的にこういう具合でとても有意義ですと語るだけで十分だ。皆が皆、上昇志向に満ち満ちているわけじゃない立ち直れなくなる子が出てはいけない」

 

「あ~、聞いて知ってる!昔挫折しちゃってヒーロー諦めちゃった子が問題起こしたんだよ。知ってた?大変だよねぇ、ちゃんと考えないとつらいよ、通形。これはつらいよぉ~」

 

極めつけは先輩二人の言葉だ。これは本気でA組を心配することで出てくる言葉だった。

 

そして、それには私も同意だ。

 

皆が私の方に顔を向けた。言葉の真意を知りたいのだろう。本気で言っているのかどうか。

私はそれに頷くことで答える。言葉にはしなかったが十分伝わったようだ。

 

切島や常闇が反論しているわずかな時間で私はみんなの認識の甘さを実感していた。

 

(経験は力だ。濃密かつ膨大な経験を積んだ者であればあるほどそいつは優れた実力を持つ。失敗、失敗、失敗。その果ての成功。そして成功したという実力。それを続けた者はとても強い。たった2年の違いとは言えその濃さは想像する意味がない。自明だからだ。……ま、皆がそれで成長できればいいか。私も気になるし、せいぜい楽しもう)

 

そう結論付けていると通形先輩が言葉を投げかけてきた。

 

「うん、いつでもどこからでも来て良いよね。一番手は誰かなぁ!?」

 

その言葉に一番に反応したのは切島。ただ、反応の大きさは意外にも緑谷だった。謹慎明けで気合が入っているとは思っていたが思ったよりもそれは大きかったらしい。

 

「問題児!!いいねぇ君。やっぱ元気あるなぁ!」

 

緑谷が個性を発動し臨戦態勢を整えたのを皮切りに皆が即座に準備を整える。先輩から近い順に、近接、中距離、遠距離またはサポートといった風に位置している。ちなみに私は最後列だ。響香の隣。

 

「近接隊は一斉に囲んだろうぜ!後衛組は援護頼むな!そんじゃ先輩!せっかくのご厚意ですんでご指導のほどよろしくお願いしまーっす!」

 

切島の挨拶と同時に緑谷は突っ込んだ。仮免特訓で新たに身に着けたシュートスタイルを用い先輩に襲い掛かる。

 

が、先輩の服が通りぬけたのか、地面に落ちたことで攻撃の手が少しだけ鈍ってしまった。

 

「あー!?今服が!服が落ちた!?」

 

響香が手で真っ赤になった顔を覆い叫ぶ。下着まで落ちていたので純情な彼女の反応は至極当然だ。

 

「ああ、失礼。調整が難しくてね」

 

「服着てるように見えるように暗示かけときますね」

 

「ありがとね!」

 

服を着直そうとした彼に私はそう声をかける。同時にここにいる人間全員に暗示をかけておいたのでみんな動揺することはないだろう。誰からも抵抗(レジスト)されなかったので簡単にことは進んだ。

 

そして服に気を取られていた先輩に気を取り直した緑谷は容赦の欠片もない顔面蹴りを放つ。しかし、その蹴りも服と同じように通り抜けてしまった。

彼は驚いたように先輩に向けて振り返る。

 

「顔面かよ」

 

先輩のその言葉の後に三奈、瀬呂、青山の攻撃がこれまた顔面を通るのだが、これすらも通り抜けてしまった。

 

(面白い個性だな)

 

私がそう思考すると、彼はいつの間にか私の後ろにいた。攻撃がコンクリートに当たった時に生じた煙幕で彼の姿が見えなくなったとはいえ、こうも簡単に裏を取られるとは思っていなかった。

 

「まずは遠距離持ちからだよね!」

 

そう言いながら放たれる腹パンを私は後方に飛び移ることで避けた。隣にいた響香の手も引き、彼女も攻撃の手を免れた。

 

ついでに、アステロイドを放っておく。

 

「やるね!」

 

顔面に到達したアステロイドをやり過ごした後、彼はそう私を褒めた。

 

「ワープした!?すり抜けるだけじゃねぇのか!?」

 

切島が声を上げて動揺する。ただ、判断が鈍ったわけではないようで、遠距離持ちをかばおうと動こうとした。

 

しかし時すでに遅し。遠距離持ちは先輩の腹パン一発で沈む。一度助けた響香も沈んでしまっていた。彼女のイヤホンジャックで上鳴とともにぐるぐる巻きにされている。とても痛そうだ。

 

そして、その中にはヤオモモや深淵暗躯(ブラックアンク)で強化した常闇もいた。クラス上位の実力を持つ二人でもこの様。特にヤオモモは盾を生成して備えていたのに、その盾だけをすり抜けて彼女の腹に拳が刺さった。

個性の使い方がとても上手だ。

常闇は、強化していないお腹部分を殴られたのが痛い。そこも強化に回していれば…というたらればが思い浮かぶが、その場合、他の場所を殴られるかダークシャドウだけをすり抜けることで結局撃沈していただろう。

 

その光景をみた相澤先生の言葉が少しだけ聞こえた。

 

曰く、彼は先生の知る限り最もNo1に近い男なんだとか。それも、プロを含めて。単純な強さだけでなく人間性やヒーロー性を含めての判断なのだろうが、先生がその判断を下すほどの人物だと知り、皆は戦慄する。

それと同時に、半壊する前に教えてくれよとも思う。

 

「さて、遠距離持ちはこれで全部。あとは近接主体ばかりだよね!」

 

「クッソ、何したのかさっぱりわかんねぇ!」

 

「すり抜けるだけでも強ぇのに、ワープとか……!それってもう無敵じゃねぇですか!」

 

「よせやい!」

 

大勢はただその強さに驚き、思考を止めていた。

 

しかし、気合の入ったこの男は違うようだ。

 

「何かしらのからくりがあると思うよ!ワープにせよすり抜けにせよ何かしらの制限があるはず。わかんなくてもわかってる範囲から仮説立てて勝ち筋を探っていこう!」

 

緑谷のその言葉で皆が奮起した。私は少しだけ戦闘が止まったこの一瞬で戦闘不能状態に陥った遠距離主体組を壁際に避難させておく。ついでに腹パンの痛みもやわらげておいた。

 

そして直後、先輩が緑谷の背後にワープ。そのまま緑谷も腹パンされるかと思っていたが、違った。彼は出現先を予期していたかのように鋭い蹴りを放つ。カウンターだ。

 

成程確かに。先輩に攻撃が当たらないのに先輩の攻撃は当たる。それはつまり攻撃時は個性を使っていないということになるのでカウンターを選択したのは正しい。緑谷の機転が利いたと判断できるだろう。

 

惜しむべくは、それが見切られたときのことも考えるべきだったことだろうか。

 

先輩の経験の中に緑谷のようにカウンターを画策する人間がいたのだろう。ブラインドタッチ目潰しという技によって緑谷の体勢が崩れる。

ブラインドタッチ目潰しという技は個性を用いてすり抜ける状態で眼球に指を突っ込むという言葉にしても実際に見てもとても恐ろしい技だ。

 

そして体勢が崩れた直後、鋭いボディブローが緑谷を襲う。緑谷もダウンしてしまった。

 

そしてそれを皮切りに近接隊に腹パンの脅威が迫る。私はまた避けたがみんなは一発で沈んでしまった。

 

「さて、と。最後はやっぱり君か夜月さん!」

 

「シズ…頑張って」

 

「仇とってくれ~」

 

響香のまだ少し痛みが残っているのか苦しそうに呻くような声、そして瀬呂のような男性陣の間伸びた声を背に私は先輩との戦闘に臨むことにした。

 

「個性の使い方が上手ですね。肉体の使い方も、質もいい。何より二回目の私の回避は少しだけ私の動きに対応していた。これも経験の賜物ですね。改めて、手合わせをお願いしましょうか」

 

「俺よりも経験を積んでいる君に言われるのはうれしいね!経験の差を見せるつもりだけど君相手だと意味ないね。こっちとしても、手合わせお願いしたいところさ!」

 

お互いに構えた。私は何にでも対応できるように弧月を生成しておく。

 

先輩は今回は背後に回らなかったらしい。前とは行動を変える方針のようだ。

そして私も同じだ。前までは回避をしていたが今回は弧月で受け止めることにした。ヤオモモが盾を使って防いだ時は透けていたので意味はないと思われている。実際、皆も怪訝そうな反応をしていた。

 

私が行うのは実験だ。先輩の個性に対応できるのか。

 

先輩の個性のあたりはついている。『透過』だろう。

 

ワープについては確証を持てないが、ワープの前に地面に沈むという工程を挟んでいた。

私の仮説はこうだ。

まず、透過して地面に沈む。そして透過を解除。質量を持ったものは同じ空間上に重なって存在できないのではじき出される。ここでは最初に存在していた地面などが優先されるのだろう。

そして、質量を持ったものは同じ空間上に存在できないという現象。それは保証されている。なぜならば、それは虚無以外に為しえない現象だからだ。虚無は正負のエネルギーを同じだけ重ねるという工程で作られる。それを初めて行った際に重ねるという現象への理解を深めたのだ。

 

そして、実験内容だが。

 

先輩の個性は魂までも透過させるのかという検証だ。弧月に限らずだが、武器の類は虚無を纏うことで相手の魂を捉えることができる。その場合、魂を持った者なら実体を持っていなかろうが攻撃できるのだ。

 

魂を透けさせないのならば攻撃は当たるはず。そう思っての行動だった。

 

しかし、結果は失敗。私の弧月はみんなと同じように透過してしまう。咄嗟に後ろに飛びのくことで腹パンは回避したが、勝ち筋が一つなくなってしまった。

やはり、魂までも透過させることができるのだろう。存外いい個性のようだ。

 

この後も同じように攻防が続く。私が攻に回ることはなかったが。

 

シールドも、エスクードも、最初に放ったアステロイドも。何もかもが透過してしまい決定打にならない。

 

私が負けてしまうのではないか。皆がそう思い、顔色を悪くする。

 

ただ、私はそう思っていなかった。先輩の打撃では私に疲弊させることすらできないからという理由もあるが、何よりも必ず勝てる方法を知っていたからだ。最初の攻撃によって生じた煙幕で疑問に思い、攻防の中で生じたもので確信を持った。

 

「透過中は、呼吸ができない」

 

「ッ!!」

 

私の言葉に反応する先輩たち。その反応で正しかったと答えを得た。

 

私は先輩が行動に移す前に分身体を生成する。十体ほどの分身。そしてスイッチボックスにて動体視力では解決できないシャッフルを施す。今回作った分身体は実体を持たない設定にした上、本体に攻撃が回っても決定打にはならない。詰みと言っていい。

 

さて、どうやって詰めにいくかだが。今回使う方法はとても頭が悪い。

 

「アステロイド、ハウンド、バイパー、ギムレット、ホーネット、コブラ」

 

弾丸の応酬だ。合成弾も駆使している。メテオラ関係の弾丸は使っていないが、必要がないので問題ない。

 

そして、狙うはすべて頭部。もっと詳しく言うのなら鼻は口と言った呼吸器のみだ。

 

「っ…!」

 

先輩が苦しそうに顔をゆがめる。地面に逃亡し、ワープを用いて弾丸を回避、呼吸する刹那の隙を作り出そうとしたが、私はそんなに甘くない。

 

私は呼吸できないように先輩の出現先に弾丸を展開した。刹那の隙すらも許さなかったので呼吸はできていない。できたとしても一呼吸もできていない。危機には変わらなかった。

 

先輩の個性において不都合なことは透明化ではないことだ。これがもし透明化も併用できるのならば魂も透明化し、地面の中にもぐっている際に位置を見失うことになっていた。そしてワープし、その隙に生じる刹那の好きで一呼吸くらいはできただろう。

しかし、透明化でないのならば地面潜りは意味をなさない。魂は壁などの障害物に関係なく透視が可能なので位置もわかるのだ。そのため、タイムラグなしの追い打ちを実現できた。

 

「呼吸ができていないでしょう?今みたいに、逃げても私は逃げ先が分かります。降参の意を示すのなら両手を上げてください」

 

私の言葉に先輩は悩んだ。打開の手を探っているのだろう。

 

しかし刻一刻とタイムリミットは迫っている。酸素不足による思考のよどみは打開の一手も思いつかなくなるほど苦しいものとなる。

 

そして、決断を下した。

 

両手を上げた先輩の姿を視認し、私は弾丸の応酬を中止する。

 

「参った!降参だ!」

 

彼は地面に倒れ込み、すがすがしいほどの笑顔でそう宣言した。その後、すぐにA組の面々から歓声が上がる。

 

「すげぇ!」

 

「なるほど、当たらないなら当たらないなりにやれることもあるのか……!そして呼吸……!そうか、透過だとしたら酸素も透過すると考えるべき…!なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ…、でもそうだとして僕にできることは……」

 

…緑谷は少し怖かった。学びとして吸収するとすれば正しいとは理解できるのだが、それはそれでやり方というものがあると思うのだ。

 

勝利はしたが、強かった。戦う前に言ったように肉体や個性の使い方が上手――つまり、戦い方が上手だった。その上ユーモアのある言動。スベッたとは言っていたが面白くないと同義ではないのだ。

 

私もそのような姿を目指すべきか。

 

一瞬そんな考えが頭をよぎったものの、すぐに自分の中で否定した。私らしくあればいい。別に民衆と関わらなければならないわけでもないのだ。

 

……少しくらいは、コミュニケーション能力に自信を持てるようになった方がいいだろうが。

 

戦闘面でも、自身の魂にならば干渉できる個性があることも確認できた。この収穫は大きい。それ以外にも精神面としても、この後あるであろうありがたいお話があるだろう。そこでも、吸収できるものはすべて吸収しようか。

 

そう思い、私は彼の話に集中することにした。




10000ぴったしだった。いぇい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。