魂を満たす物語   作:よヨ余

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八斎會編を書くときに困ったこと

・緑谷の成長を奪ってしまうこと
・ナイトアイの生死
・通形先輩の個性の件



事後

 死穢八斎會への突撃は終了した。

 

 黒幕と言える治崎を打倒し、我が妹である壊理を救出した。

 私たちにできることはもう少ない。強いて言うのなら近い、あるいは遠い未来に起こるであろう事件に向けて英気を養うくらいだ。

 あとは、調書を書くなどの手続きくらいだろうか。

 

 私が壊理を救出した後、警察が応援を呼んだようだ。

 多くの警察が邸宅に入り、捕縛された構成員や幹部たちを逮捕する。そして、負傷したヒーローや警察を病院へと送迎していった。邸宅に突入した人間が大半で、その中には切島や通形先輩、ナイトアイなどがいた。

 もちろん、病院へと向かっていないからといって負傷している人がいないわけではない。

 天喰先輩は私と離れた後に、3人組との戦闘でかなりの負傷をしている。その傷は今は鳴りを潜めているが、かなり血液を流していた。この後病院に行くらしい。

 

 通形先輩は治崎による負傷。切島は乱波という地下格闘技出身の人間の殴打でかなりの負傷をしている。歩くのもままならないらしい。

 ロックロック、そしてナイトアイは治崎のもとへと行くときにトガの急襲を受けたようだ。ロックロックは腰を刺された程度で命に別状はなさそうだが、ナイトアイは警察に向けられたナイフをかばったことで深くまでナイフが刺さってしまったらしい。命の危機であるため一番最初に搬送された。

 

 壊理が目覚めてなくてよかったと心から思う。もし目が覚めていたら傷ついてしまった人たちを見てまた自己嫌悪に陥ってしまっただろう。誰かのことを思いやれるのは壊理の美点だ。だが、そのせいで自分を陥れることを許容できるほど私は寛容ではないのだ。

 

 私は壊理の可愛い顔を見てもう一度癒される。今の今まで壊理のことを想っていたのだ。こうやって癒されるぐらいは許されるだろう。

 

 そこで私は壊理の体が熱を帯びていることに気付いた。頬も紅潮している。明らかに熱を出している。非常にマズイ。

 

 個性を使い過ぎたことで体が悲鳴を上げたのだろうか。かなり苦しそうにしている。

 

 私の個性なら熱を奪って風邪を治すことなど造作もないが、それはあまりよろしくないだろう。もともと応急処置程度のことだし、病院で精密な検査を受けた方が安心だからだ。

 

「すみません、壊理が熱を出してしまって……。恐らく個性を全力で出したことによるものだと思われます。早く病院に……!」

 

 私はかなり焦っているようだ。今の声はとても震えていた。

 警察の人は私の声から焦りをくみ取ってくれたようで、すぐに行動してくれる。

 

 正直、私の手から壊理を放すのはとっても後ろ向きだったのだが、壊理の健康のためにもそうせざるを得ない。私は泣く泣く壊理を警察に渡した。

 私の顔はとても不満げだったのだろう。警察の方は少しだけ引いていた。

 だが、その後に笑顔を浮かべて。

 

「責任をもって病院へと運ばせていただきます。ご安心くださいね」

 

 と、私を安心させてくれた。とてもありがたい。

 

 その言葉で私は安心して壊理を預けることができた。少しの間預けるのは多少気が滅入るものの背に腹は代えられない。それに、警察の方が気を使って安心させてくれたのだ。信用して任せるのが筋だろう。

 

 

 

 

 その後、比較的自由になった私はもう一度邸宅に入ることにした。侵入したときから気になっていた反応を確かめるためだ。

 

 その反応の魂は私と壊理に酷似している。つまり、私たち姉妹の肉親。

 そしてお母様の言葉から、それが御爺様であることは自明だ。

 

 私は一室へと入った。

 

 そこでは無駄な音が一切欠如している。必要な音だけがそこに残っており、その音は心電図の音だけだった。

 

「御爺様……」

 

 警察の方々はまだこの部屋に入ってはいないようだ。この近くにいるわけでもないので私と御爺様の二人だけ。

 

 御爺様は意識を失い、床に伏している。少し詳しく見てみると治崎によって体がいじられていることがわかる。

 私なら治すことができる。治すべきだろうか。

 

 願望としては、治したい。私の肉親であるというのもそうだし、このままだと今後の生活に支障を及ぼしてしまうのだ。サポートアイテムがあればなんとか生活できるだろうが、逆に言えばその程度。

 御爺様にそのような思いはしてほしくないというのが本音だ。

 

 だが、壊理の惨状を御爺様は止められなかった。

 その事実が、私の行動のとてもとても弱いブレーキになっている。

 

(……)

 

 いや、自分に正直になろう。きっとそれが正解だ。

 

「……お話ししましょう?」

 

 私はそう言って御爺様の心臓に手を当てる。

 虚無を流し込み、御爺様の体に正常な流れを取り戻させる。

 

 そして虚無を流し込んですぐに、御爺様は目を覚ました。

 

「治崎…?」

 

 その言葉を聞いて、私は治崎が愛を以て育てられたことを知った。

 御爺様は私たちの肉親であると同時に、治崎の育て親であることも。

 

 思えば、気絶した治崎は誰かを思っているような陰りを見せていた。その対象はどうでもよかったのでスルーしていたが、御爺様だったようだ。

 

「御爺様……」

 

 私は御爺様に声をかける。

 

 「静江か……!?」

 

 どうやら御爺様は私を認識することができたようだ。

 御爺様とは、私が生まれた時に一度、そして1歳の誕生日に一度会っている。だから私を認識することができたのだろう。

 私も一応胎児からの記憶があるため、御爺様のことはよく覚えている。お母様と話したときに御爺様なら大丈夫では?と問うたのはそのためだ。

 

 「大きくなったなぁ……!」

 

 御爺様は感激したような声を出し、私の頭を撫でる。お師匠よりも優しい撫で方で、なんだかそれがむず痒い。

 

 しばらく浸っていようと思ったが、そうもいかない。私が御爺様のところに来たのは現状を説明するためだ。治崎が逮捕され、壊理の面倒を私が見ることを伝えるためだ。

 壊理の所在を聞いた御爺様に私はそれを伝える。

 

「……そうか。治崎が……」

 

 御爺様は悲しそうに、それでいて予測していたかのようにそう呟く。

 

「迷惑かけたな。すまん」

 

 御爺様はそう言って私に頭を下げる。

 私はそれを求めてないので、頭を上げさせた。

 

「私は迷惑を被っていません。強いて言うのならば壊理ですが、私が面倒を見るので問題ないですよ。私がお姉ちゃんをやりますから!」

 

 私はそう言ってない胸を張った。

 御爺様は微笑み、もう一度私の頭を撫でてくれる。

 

 御爺様に壊理にも会ってほしいと伝えたが、どうやらその気はあまりないようだ。

 御爺様が直接危害を加えたわけではないとはいえ、治崎の暴挙を止められなかったことに責任を感じているらしい。

 私はそれほど気にすることはないと思っていたが、御爺様は違うようだ。壊理も気にしないだろうと言っても意志は変わらなかった。

 

 

 きっと御爺様は、私たちを求めていない。

 

 

 それなら、と私は御爺様の意志を尊重する。

 

 御爺様はこれからどうするのか聞こうと思ったが、やめた。

 御爺様はそれを求めていない。かなり自責の念に駆られているので何を言っても響かないだろう。

 ……自責の念に駆られるのは血筋かもしれないな。お母様もそうだったし、壊理なんかはその筆頭だ。

 

「……さようなら、御爺様」

 

「……ああ」

 

 きっと御爺様は私たちでなく治崎のほうを大事にしている。

 捨て子だろうが何だろうが、治崎は御爺様の息子だったのだ。ずっと治崎の帰りを待つだろう。

 

 恐らく治崎はタルタロスへと収監される。日の目を浴びることはないだろう。治崎が御爺様のもとへと帰る日はきっと来ないだろう。

 御爺様もそれは薄々察している。だが、それでいいのだろう。

 

 私は御爺様に最後の声をかけ、そっと扉を閉めた。

 

 その後、私は辺りをパトロールしてトガと分倍河原を探したが、反応は見られなかった。しばらく探していようと思ったが、イレイザーヘッドに止められてしまった。壊理が目覚めた時にすぐに駆けつけることができるように危険なことはするなとのことだ。それに、私たち学生は連合とは関わらないようにお達しがあったので教師としてそれも当然か。

 私は渋々パトロールを終了させた。

 

 そうして、本当に死穢八斎會との出来事は終わった。

 

 

 

 

 

 突撃が終了して数日、私は怪我をしてしまった人たちのお見舞いに行った。もちろん、真っ先に壊理のお見舞いだ。

 壊理は今隔離状態にあるようだったが、無理を言って入らせてもらった。壊理の巻き戻しに対応できるのは私と相澤先生くらいなので許可されたのだろう。一応、相澤先生もこの場にいる。

 

「壊理……」

 

 壊理は先ほどよりも苦しそうにしていた。熱もそうだが、急な環境の変化に戸惑っているのだろう。それがいい変化だとしても、やはり普段と違うと体調を崩しやすい。私も、お師匠の家に転がり込んだときはその節があった。やはり血か。

 

 私は壊理の手を握る。体温が高く、39度後半くらいはあるだろうか。

 だが、体温が高いことで壊理が生きていることをひしひしと感じることができる。今は体調を著しく崩しているが、命に別条があるほどではないと分かった。もしかしたら悪化するかもしれないが、私は壊理が目覚めるまで毎日いる上、お医者様もいるから問題ないだろう。

 

 壊理の角が最初にあったときよりも相当大きくなっていた。きっと、この角が大きくなれば巻き戻しを扱うことができるのだろう。それがエネルギー源だと予測することができた。

 

 エネルギーを使用して力を扱うという点において、私とお母様の個性に似ている。

 

「…また来るね」

 

 私はそう言って壊理の部屋から退室した。

 

 相澤先生は私に何か言いたそうだったが、飲み込んだようだ。私がそれに言及するも、何でもない、の一点張り。

 どんなに追求しようとも口を割ることはないと判断し、これ以上聞かないことにした。

 相澤先生の心情も視ない。推測はするが。

 私の自惚れでなければ、私を守るような意志を感じることができた。おそらくそれは、責任からだろう。

 

 では何の責任だろうか、と考えるのは必然だろう。

 そして私はその予想がついてしまった。

 

「ナイトアイは治しませんよ。そもそも命の灯が消えかかって死が確定している段階でしょう?私がそれを治すことは許されない。……その線引きはある程度してます。世界の危機とかなら別ですけど」

 

「……そうか」

 

 先生の考えてることくらいわかるぞ、という意志を含めてそう言った。

 相澤先生は頭を掻きながら少しだけ気まずそうにした。

 

「先生が一人で責任を負う必要はないのです。私たちが壊理を助けるという判断をした以上、何があろうと文句は言えない。責任の独占は許しませんよ」

 

 少しだけ圧を込めながらそういうと、先生は言葉を詰まらせる。

 そして、私の顔を見て驚きを露わにした。

 

「お前…変わったな」

 

 先生の言葉で私は少しだけ思考の海に陥ることになった。

 ただ、それほど深くはない。すぐに先生の言葉の意味を理解したからだ。

 

「だって私はお姉ちゃんですから!」

 

 私は破顔し、そう言った。

 先生も笑ってくれた。安心してくれたのだろう。

 

 私は本来の目的を果たすためにお見舞いを続けるが、先生は緑谷に用があるため、ここで別れた。

 

 

 

 

 

「切島、調子はどう?」

 

「おう、シズ!傷はやべぇけど命に別状はねぇってよ!」

 

 最初に訪れたのはファットガム事務所の面々が療養している病室だ。

 

 切島は体の打撲と裂傷がひどいらしい。どうやら乱波の攻撃は切島の硬化すら貫いたようで、皮膚が剥がれ落ちてしまったのだと。裂傷はそのせいのようだ。

 切島は安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)という必殺技で自身の肉体をかなり強化できるのだが、それですら受けきれないようだった。一度は戦意が折れかけたが、ファットガムの言葉で奮起。敵の打倒に大きく貢献したようだ。

 ただその代償は大きく、体中に包帯を巻かれ、目と口以外見えない。かなりひどい怪我だった。

 

「ただ、俺はもっと強くなるぜ!守れるヒーローになるんだ」

 

 切島は自身の個性を上回るほどの力を持つ相手に出会ったことで一層奮起したらしい。通形先輩がインターン前に言っていたことを思い出す。恐らく切島はそれに特に当てはまるだろう。この経験は切島をより高みまで連れていくはずだ。

 

「そういや、壊理ちゃん助けられたんだよな?よかったな!」

 

「うん。今は熱出しちゃって目覚めてないけどね。私は壊理が起きるまでここにいるよ。皆のお見舞いも済ませてね」

 

 切島にそう言って私は天喰先輩とファットガムに視線を向けた。

 

「壊理ちゃん…助かったんだね……。よかった……」

 

「そやな。俺らも頑張ったかいがあるっちゅうもんやで!」

 

 ファットガムは骨折が複数、天喰先輩は顔面の傷がひどいようだ。ただ、二人とも命に別状はないらしい。

 

「本来なら私が壊理を助けに行くべきなのですが……皆さんを巻き込んでしまってすみません。ケガまで負わせてしまって……」

 

 私は謝罪するが、全員が首を横に振った。ファットガムが大人として言葉をくれる。

 

「俺らは謝られるためにこんなことしたんちゃうで。助けたいからそうしたんや。むしろ、シズの妹ちゃんを助ける手伝いができてよかったわ。ありがとな」

 

 ファットは笑顔でそう言った。天喰先輩と切島も笑顔でそれに同意する。

 

「……ありがとうございます」

 

 私も笑顔でそう言った。微笑むくらいなら前から上手にできるのだ。上っ面でなく、心からの笑みを浮かべることができるようになったのだ。

 

 その後も、すこしだけ雑談をした。ファットがやせてるのが気になったためその理由を聞いたり、切島の特訓に付き合ってほしいという言葉に了承したりだ。

 ファットがやせたのは戦いの中で脂肪をエネルギーに変えて敵を打倒したときの弊害のようだ。たくさん食べれば脂肪はすぐに復活し、その時に復帰するようだ。

 

 切島たちの病室を出た後は、ロックロックのもとへと行こうかと思ったが、奥さんとの時間を過ごしていたのでやめた。また後日にするとしよう。

 

 

 

 最後に通形先輩だ。

 

「……通形先輩」

 

 私は気まずさを滲ませながらそう言った。

 

「お!夜月さん!おはようだよね!」

 

 通形先輩はとても元気にそう言った。寝ころんだまま足を上げてサイクリングをするように回転させている。

 なんだか面白い。少しだけ笑ってしまった。

 通形先輩は私の顔を見て嬉しそうにする。そして、私に一つの質問を投げかけてきた。

 

「笑えたかい?」

 

 私はその言葉で突入前に笑顔のアドバイスをもらったことを思い出す。

 

「…おかげさまで。壊理には指を使った笑顔しか見せられませんでしたが」

 

「きっとそれでも十分さ。それに、もう笑えるんだろう?なら、これから見せてあげればいい!」

 

 通形先輩は気を使って私を励ましてくれたのだ。私が改めて謝罪することを見越して言葉を紡いだのだ。

 そのせいか、謝罪をしようと思ったこの口は閉じてしまった。

 

「…そうですね。ありがとうございます」

 

 私は会話をそこそこに病室を出た。通形先輩も一人で考える時間は必要だろう。個性を失ったことを受け止めるために時間が必要かもしれない。まあ、その必要は多分ないけど、一応だ。

 

 

 

 

 

 

 その後、リカバリーガールの治癒によって私たちは完治し、寮へと帰った。

 通形先輩はまだ療養するらしい。個性を失ったので休学という形をとるそうだ。

 

 壊理はまだ目覚めていない。

 私は目覚めるまでここにいると相澤先生に無理を言ったが、叶わなかった。除籍と言う先生の伝家の宝刀にも屈さなかった私だが、捕縛布で連行された。捕縛布くらいなら簡単に避けることができるのだが、リカバリーガールが近くに来たことで私の行動が制限され捕縛される。しかも抹消をされながら睨まれ、私はその剣幕に屈した。

 

 そのせいで寮に入る直前まで不機嫌になっているが、理由が理由なので誰もフォローを入れてくれなかった。梅雨ちゃんですらだ。

 

 扉を開けると、皆が出迎えてくれた。まさかの爆豪ですら一緒の空間にいたので私は目を疑ってしまった。

 

「帰ってきたぁ…!ヤツらが帰ってきたぁ!!」

 

 真っ先に峰田がこちらに近づき、皆もこっちに来る。爆豪は来ていないが。てか来てたら怖い。

 

 みんな口々に言葉を言う。やはりニュースを見ていたようで、その分だけ心配させてしまった。

 ニュースは私も見た。どうやら治崎の護送中に敵連合の襲撃があったようだ。治崎はその場に放置されていたものの、個性消失弾がなくなっていたらしい。確実に敵連合の手に渡ったとみていいだろう。

 

「まあとりあえず、ガトーショコラ食えよ。うまいぞ」

 

「ありがとー」

 

 私は砂藤のガトーショコラを受け取って口に放り込んだ。優しい甘みが口に広がっておいしい。壊理もこういうのが好きだろうか。作り方を聞いて作ってみよう。

 

「神野の時といい今回といいお前ら毎回すげぇことになって帰ってくる!怖いよいい加減!!」

 

 上鳴の悲痛な声にみんなは頷いていた。総意らしい。

 

「言われてんぞ、切島と緑谷」

 

「シズが筆頭だよ!!」

 

 私の言葉に上鳴はかぶせてきた。心外……でもないか。神野に関しては私は中心人物だし、重力崩壊で腹に大穴空いたし。私の場合致命傷ではないのだが、見ている人にとってはたまったものじゃなかったんだろう。オールフォーワンは私の戦闘も映像に残していたし、見てたんだろうな。

 

「シズさん、大丈夫なんですの?」

 

「え、何が?」

 

 私の純粋な疑問にヤオモモは少し頬を膨らませる。本来ならそのプリプリを可愛がるところなのだが、私は心当たりを探す必要があるので反応できない。

 

「時間が解決するから大丈夫ってシズが言ったことでしょ。顔色もよくなってるし、もう大丈夫なの?」

 

 響香の言葉で私は得心する。そういえばそんなやり取りをしていた。ここ最近がとても濃い一日で記憶が薄れていたのだ。

 

「大丈夫大丈夫。解決してきたから。箝口令敷かれてて何も言えなかったんだよね」

 

 ガトーショコラのお代わりをもらいながらそう言う私を、ヤオモモと響香は抱きしめる。その後に三奈も来た。

 ちなみに透はお茶子と梅雨ちゃんに抱き着いていた。二人とも少しだけ苦しそうだ。

 

 そうして皆の対応をしていると、飯田が気を使って私たちを休ませるように皆に言う。だが、それに気にするなと言ったのが緑谷だ。

 きっとナイトアイや通形先輩のことを思い出しているのだろう。

 

 元気とユーモアの無い社会に明るい未来はやってこない

 

 ナイトアイ事務所にいた緑谷もこれは知っているはず。ナイトアイのモットーで、通形先輩のモットーだからだ。

 

 前を向かなければならない。

 

 緑谷が気にしないように言ったことで、飯田のブレーキは壊れ、誰よりも激しく緑谷を心配していた。神野で動こうとした緑谷を誰よりも気にかけたのが飯田なのだ。自分が知らないうちに似たようなことになっているのを知って内心気が気ではなかったのだろう。

 

「私、ラベンダーのハーブティーを淹れてきますわ。心が落ち着きますの!」

 

 ヤオモモがプリプリしながら台所の方に歩いて行った。

 

 そのあとは、翌日に仮免の補講が待っている爆豪と轟が早々に睡眠に入った。

 

 私たちも睡眠に入る。

 ただその前に、ヤオモモが入れてくれたラベンダーのハーブティーに砂藤のガトーショコラを合わせて歯を磨いてから寝た。とても美味しくその余韻に浸りながらの睡眠は最高だった。

 

 

 

 

 

 そして数日後、月は十月。夏の残暑も鳴りを潜め、とても過ごしやすい気温になった。学校の窓から見える紅葉は心を落ち着かせてくれる。

 

 この数日間でもいろいろあった。

 

 まず、ナイトアイのお葬式にインターン組で行ったこと。ナイトアイが殉職したことでセンチピーターが事務所を継ぐそうだ。しばらくは二人体制で業務を行うとのことで、通形先輩の帰りを待つ予定らしい。

 

 そして緑谷たちのインターンは中止。オールフォーワンがいなくなったとはいえ勢いのある敵連合の動きがある程度活発になったことから当然だろう。個性消失弾と血清があちらの手に渡ったこともそれを後押ししている。

 

 次に、敵連合の黒霧が逮捕されたらしい。敵連合の足を奪ったので後は芋づる式に思えたが、ギガントマキアという巨大敵の急襲によって大打撃を負ったのだと。その筆頭が、塚内警部とグラントリノを手伝っていたゲンセイさんだ。どうやら大きく負傷してしまったらしく、今後の活動に影響すら出ているらしい。あまり活動していなかったとはいえ、私の第二の師匠がこのザマ。ギガントマキアには大きな警戒が必要になった。

 

 病室へと赴きお見舞いをしたが、怪我をしていても思いのほか元気そうだった。完治した後に連合関係が終わっていたら老後を過ごすそうだ。

 そして、職場体験の時に存在だけを聞かされていた朧心命流の極技を伝授してもらった。その詳細を聞き、私は実現できるビジョンが正直見えなかった。そもそも使う必要がないほどの威力を誇るというのもそうだが、それを技にする前提が、なかなかに狂っているのだ。まず普通の精神では到底なしえないものだし、私のようにある程度の実力と余裕を持っている者だったら余計そうだ。

 

 ただ、極技には大きく興味を持ったので、もし実現出来たら報告すると約束して病室を去った。ゲンセイさんの長年の悲願であるようなので、ゲンセイさんの寿命までには実現したいものだ。

 

 最後に、壊理がようやく目覚めたようだ。

 熱も引いたらしい。そして、大きくなっていた額の角はコブくらいの大きさになったらしい。個性の暴走も今のところは見られないが、様子見の段階。面会はまだ許されなかった。是が非でも面会に行きたかったが、壊理にも一人の時間を与え、じっくり考えてもらうのが吉だろう。そう考えることで魂の中で暴れる気持ちを無理やり抑え込んだ。

 

 そうしながらも、授業を受ける。私や緑谷たちのようなインターン組は補講もあったのだが、私はみんなに比べて少なかったのですぐに終わった。まあ、そもそもする必要がないというのもあるのだが。

 

「文化祭があります」

 

「「「「「ガッポォォォイッ!!」」」」」

 

 相澤先生の言葉に皆が反応する。最近は連合関係などの暗いニュースが大半を占めているため、このような明るいニュースは嬉しいものだ。私も、文化祭は楽しみだ。中学では文化祭などなかったので高校で初めてというのもあるが、よく漫画で見るような文化祭ができるかもという淡い期待が私をくすぐる。

 

「いや、いいんですか!?こんな世の中でお気楽じゃ……」

 

「切島…変わっちまったなぁ……」

 

「でもそうだろ!敵隆盛のこの時期に!」

 

 今までの体育祭などの反応でも、一番によい反応を見せていた切島の変容に上鳴が突っ込んだ。切島の言い分もわかるが、それ以上に意外だったのだ。インターンが大きく影響しているだろう。

 

 ただ、その切島の意見は先生も承知だったようだ。だが、それでもやる理由がある。それが他科だ。

 体育祭での主役は我らがヒーロー科だったが、文化祭では普通科、サポート科、経営科が主役。ヒーロー科の都合でおいそれと潰すわけにはいかないとのこと。

 

 ……先生はそう言っているが、本当は多方面から色々言われていたんだろう。特に警察は反対しそうだ。公安もあまり推奨しないだろう。

 そうだという確証はないが、私は校長に感謝しておいた。多分直接言っても誤魔化すから心の中で。

 

「主役じゃないとは言ったが、決まりとして一クラス一つは出し物をする必要がある。そこで、今日のLHRではそれを決めてもらう。委員長、副委員長、あと頼んだ」

 

 それを言って先生は寝袋へと入って寝る。私たちも半年もすればその光景に慣れ、早々に会議に移った。

 

 飯田が皆に意見を募る。最初の方は数人の手しか挙がらないと思っていたが、ほぼ全員が手を挙げていた。びっくり。

 

 私が前向きに考えられたのは、メイド喫茶、タコ焼き屋、クレープ屋くらいか。全部食べ物関係だな。

 

「シズさんは何かありますか?」

 

「わかんね……」

 

 私は腕を組みながらヤオモモに答える。ヤオモモはもし出来たら教えてほしいと伝えて飯田の補助に戻った。

 

 飯田は好き勝手に議論する皆を何とかまとめようとしていたが、チャイムが鳴ることで達成できなかった。

 

「実に非合理な時間だったな。明日の朝までに決めとけよ。決められなかった場合――公開座学にする」

 

「ああ、それいいんじゃないですか?他の科のフラストレーションも少しは緩和されそう」

 

「本気で言ってんのかお前」

 

「発案者が言いますかソレ」

 

 私の発言に疑問を漏らした先生だが、私からすれば本当にいいと思っているのだ。

 ただ、疑問を漏らすのならなんで言ったんだという感じだが。

 

 LHR中には決められなかったが、寮生活ということで放課後にいくらでも話すことができるため問題ない。

 実際、放課後で寮に帰った今、私たちは会議をしていた。もちろん飯田が進行だ。

 

 「落ち着いて考え直したんだが、先生がおっしゃっていた他科へのストレス。俺たちは発散の一助となるような案を出すべきだと思う。そうなると、ランチラッシュの味を知る雄英生には満足できるほどのモノを提供できないと思うんだ」

 

 飯田の意見を聞いて私は確かにと得心した。

 

 その後も色々話していく。

 私が話を聞いていると、途中で相澤先生が来た。

 

「夜月、ちょっと」

 

「はーい?」

 

 私は手招く先生のもとに行き、話を聞く。

 

「面会許可が出た」

 

「本当ですか!?」

 

 私は先生が言葉を言い切った瞬間に意味を理解して重ねるように反応した。先生は少しだけびっくりしてた。普段からあまり大きく感情を出さないのでそれも込みで驚いたのだろう。

 

「今から行っても!?」

 

「あ、ああ……。通形も一緒だがな」

 

「関係ないです!行ってきます!」

 

 即座に荷物をまとめて出ていこうとする私を先生は一度止めた。

 何事かと思った私は先生が会議中のみんなを指さすのを見て察した。置いてけぼりにしてしまっていたのだ。

 

「決まったことに文句は言わないから私抜きで決めて!行ってくる!先生早く!」

 

 私はそう言って、皆の反応も聞かないままに寮を飛び出した。

 時刻は夕方で空には赤みがかかっている。帰ってくるのは夜になってしまうだろうが、先生が送ってくれるので大丈夫だろう。

 

 私は笑顔を浮かべて先生の車に乗った。通形先輩はすでに病院に向かっているようだ。

 

(壊理元気かなぁ?)

 

 私は壊理の可愛い顔を思い浮かべながら、車から見える景色を楽しむ。

 

 何を話そうか。

 何をしようか。

 遊んでやれるだろうか。

 

 嗚呼、楽しみだ。

 

 




感想評価などよろしくお願いします!

誤字報告もしてくれると嬉しいです!いつまでたっても誤字が減らない……。

あと話を切るところがいつまでたってもわからん。今回も無理やり文字数増やした感じになったし。
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