休日。それは学生や大抵の社会人の人だったら己の時間を自由に使うことのできる日だ。
過ごし方は人それぞれだろう。友達と遊ぶもよし。異性と関係を育むもよし。一人の時間を過ごして自由を謳歌するもよし。
休日の時間の過ごし方で、その人の人間性がある程度出るといってもいいだろう。
私の場合はお師匠と一緒に過ごすことが多かったな。中学校や小学校では友達なんていなかったし、施設時代はそもそも日付の概念すらなかったし。
私はよくお師匠にスイーツを作っていた。もちろん私も食べるし、最後の一つと言うやつでは戦争を巻き起こしたのだが。大体テレビゲームとかをやって、私の勝率は8割。
物欲しそうにねだるお師匠に免じて半分こするときもあるんだけどね。勝率は0割。
楽しかったなぁ。またできるといいなぁ。
「文化祭の準備ってこんなに楽しいんだね」
私は演出組の皆にそう言う。今はライブの演出を考え中なのだ。
「そりゃあそうだろ!みんなでやるもんだし、こんなことヒーロー科でやれると思わなかったしなぁ。特に今年はよ」
「校長先生に感謝だね」
瀬呂と口田が反応してくれる。切島と轟は今演出の練習中。
「てかシズにも感謝だな。シズがいなかったらこんな本格的に練習できなかったぞ」
「そ、そうだね……もはや夜月さんにできないことないんじゃないんかな」
二人は今私たちがいる部屋を見渡しながら言う。
ちなみに、今私たちがいる部屋はただの部屋ではない。寮内でもないし、雄英の敷地内でもない。だからといって外に出ているわけでもない。
今私たちがいるところは、私が創った部屋だ。
私が虚無で作り出した仮想空間を雄英寮内に創った。もちろん許可は頂いている。相澤先生には本当に、ほんっとーに渋い顔をされたけど、私の個性でヒーロー科のヒーロー基礎学とかの訓練に利用させてくれと言う要望を伝えられたので文句は言わせなかった。渋い顔をしたのは相澤先生くらいで、校長先生は快諾、他の先生方は私の所業に引いていた。
そんなこんなで私は寮内に新しい部屋を創り出したのだ。
ちなみに私の思考次第で部屋の割り振りは変えることができる。試したことはないが階層は最大で5階層までのはず。今は3階層分作っていた。
階層とはいっても横に並べることもできる。そして階層間の移動も簡単にできるようにできるので、私は今回そうしていた。右の扉を開くとバンド組に、左の扉を開くとダンス組につながる。後ろの扉を開くと寮のリビングに出るのだ。
階層は演出組用、バンド組用、ダンス組用の三つを創って、全部ライブ会場を模していた。
現在はダンス隊以外の全員が部屋に入って練習している。もし誰も居なかったら訪問者の対応ができなかっただろう。
しかし問題ない。それを失念する私ではないからだ。もし誰かが訪問しても、その玄関口のインターホンを押せば私たちにつながる。プライベートのことも考えて、訪問先の人物のことを思い浮かべればその人だけにチャイムの存在を知らせることができる。例えば、壊理が押したら私だけに伝わるはずだ。
一応通形先輩にはその存在を教えたので、壊理と一緒に来たときに滞りなく対応できるだろう。
「私も試したらできちゃったやつなんだよね……できないことはあるとは思うけどそんな直ぐ思いつかないな」
私は轟の氷を硬化で削る切島の姿を見ながらそう言う。切島が削った氷はダイヤモンドダストのようにきれいに舞っていた。一応本番を模して練習しているので、本番でもこうなるんだろうなという予測が簡単につく。私の個性が役に立ってて結構嬉しい。
「私演出で出来ることあるかな?」
「むしろありすぎて何するか決められねぇよ。何要求してもサラッと応えてくれそうだもん」
「弧月で氷を切る…、ホワイトフレアとかの火柱…、グラスホッパーとかエスクードとかでダンス隊の手助け……うん、演出だけじゃなくても何でもできそうだね」
瀬呂と口田はいろんな考えを持っているようだ。
「ふーん、じゃあ演出案については任せてもいい?やってほしいことがあったら言ってよ」
「おう、そうさせてもらうわ。やっぱこーいうの考えんのは苦手か?」
「そだねー。あんまし興味持ってなかったからなー……」
施設時代があったのもそうだが、お師匠といた時もたいしてそういうのに興味はなかった。いま苦慮していることを考えるとそれを少しだけ後悔する。まあ、任せてもいいとは言ってくれたのでいいとは思うが、それはそれとして思うところはあるのだ。
少しみんなの方を見て回ろう。
「一応私も意見出してみたいから意見探しとしてみんなの様子見てこようかな。ついでに昨日つくったお菓子持ってくるから食べていいよ」
「ありがとう!」
「サンキュー!いただくわ」
お菓子をリビングからとってきて、瀬呂達に渡しておく。ちなみにお菓子はアップルパイ。砂藤に道具だけ貸してもらった。お師匠にスイーツを作っていた経験から手順くらいは記憶にあるのだ。特に不都合なく料理できた。
最初に視察に行くのはバンド組の方だ。
「おはよー。朝から元気だねぇ」
「シズ」
私を出迎えてくれたのは響香だった。上鳴が指を少しだけ痛めたことで小休憩になっているようだ。爆豪と常闇はまだ練習を続けていたが。
「上鳴頑張ってんね。傷治そっか?」
「マジ!?頼む!ちょっとコツ掴みかけてんだ!」
私の提案に上鳴は飛びついた。
治癒をしてしまうと指の皮膚を厚くできないのではないかという響香の危惧もあったが、問題はなかった。私の治癒は設定次第で指が本来強化されるだろう状態にまで強制的に成長させることができる。まあ簡単に言えば時間をかけずにギターに適した指になるのだ。
それを説明すると響香は不満げに頬を膨らませた。
なぜだろうかと思っていたが、考えてみれば当然だった。
言ってしまえば、私がしていることはギタリストが苦労したことを省略させようとしているものだった。文化祭のためとはいえ、複雑な心境だろう。
私は響香の膨らんだ頬を指でツンと押す。プシュッという可愛らしい音が聞こえて響香の口から空気が漏れた。
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている響香をみて、私は謝罪する。
「ごめん、複雑だよね。でも、時間がないから……」
「えっ?なにが?」
「え?」
響香と話がかみ合わない。
私の考えを言うと、響香は私の心配をケラケラと笑い飛ばした。そんなことは微塵も考えていなかったようだ。私の杞憂。少しだけ恥ずかしい。
口を膨らませた理由を聞いてみると、何となくとのことだった。不満げに見えたのも私の気のせいのようだ。
「まあ、言われてみたら確かにだけど、絶対に苦労しなきゃいけないわけじゃないし、私もいいものにしたいしね!上鳴には頑張ってもらわないと」
「あれ?俺って結構重要だったりする?」
「当たり前だろう?期待してるよ」
私の言葉に上鳴は胸を膨らませた。文化祭の出し物という小さなものでも期待してくれているのが嬉しいのだろうか。
「っしゃー!爆豪、常闇!練習しようぜ!」
「ああ」
「ったりめーだ!ぶっ殺すんだろ!?」
「それお前の目標だろ!?」
にぎやかに男性陣が練習を始める。響香も練習を見ることにするようだ。先程まではヤオモモと一緒に音響などを確認していたが、それも一段落ついたらしい。最低でも一度は本当の本番会場で確認する必要があるが、とりあえず問題ないようだ。
「じゃあ、私たちも行ってくる」
「うん、頑張ってね。あっ、お菓子置いとくからみんなで好きに食べて。アップルパイ」
「ありがと!」
私はそう言って部屋を出る。次はダンス隊だ。
ダンス隊は外で練習している。天気がいいからと言うのと、最初から本番を模した会場で動くのはまだ早いという三奈の判断だった。かなりこだわりがあるらしい。
「やほー、おはようさん」
「シズ!おはよー、さっき起きたの?」
「流石に25時以降に寝るのはほぼ経験なくて……寝すぎちゃった。あ、配慮ありがとね。おかげでぐっすりと寝れたよ」
「全然いいよ~!ミスコンもあるし、ライブでも活躍してもらうし、今のうちに体力をね!」
いつもは休日でも8時には起きるのだが、私は今日、10時くらいに起床した。三奈の配慮で起こさなかったようだ。起きた時に瀬呂が教えてくれた。私が起きた時にはみんなだいたい練習を始めていたため、今が今日の初顔合わせになる人も多い。
「ダンス隊は順調?」
「うん!皆体力はプロダンサー以上にあるし、訓練で身体能力も高くなってるから教えがいあるよ!シズもやってみる?」
「やる……って言いたいけど、それはまたの機会かな」
「またの機会?」
疑問を零す三奈をおいて、私は横を通り過ぎた。三奈が不思議そうに振り返ると、きっと三人の人影が見えたはずだ。
その内二人は、通形先輩と相澤先生。
つまり、残りの一人は――
「壊理!おはよう!」
――私の大天使、壊理だ。大天使エリエルと言ってもいいだろう。
壊理はとっても可愛らしい服を着ていた。誰のセンスだろうか。壊理かな?それとも入院先の看護師さんかな?看護師さんと壊理はかなり親密にしゃべれるようになったらしいし、事情を話せば服を見繕う程度の配慮はできそうな人だった。多分この推察は当たっているだろう。
「モモガナッテルヨ!」
通形先輩が茂みからお尻だけを出してそう声を上げた。私が壊理に挨拶したときに少しだけ不満げな顔をしたのでもしかしたら驚かそうとしていたのかもしれない。悪いことをした。
「壊理ちゃん!」
「素敵なおべべね!」
「かっかわいい~!」
「え、なになに通形先輩の子供!?」
私の声に気付いた皆が声を上げながらこちらに近づいてくる。
「夜月、校長から許可が出た。ただ、急に文化祭に連れてくのも乱暴だとのことでな。今日雄英を見て回ってある程度慣れておこうってわけだ」
「なるほど、それにしても許可が出てよかった。校長に猛禽類のごとき眼差しを向ける必要もなくなりましたね!」
「…お前、だんだん過激になってないか?」
手を合わせて喜ぶ私に先生は苦言を呈した。だって壊理を喜ばせたいのだから仕方ないだろうと思いつつも、それを表に出すと確実に反省文コースになるので絶対に表に出さない。
「壊理ちゃん…そうかインターンの子か!俺は飯田、よろしく」
「オイラは峰田、十年後が楽しみだ」
通形先輩が峰田の言葉にギョッとした。
どうやら猛禽類のごとき眼差しを向ける必要がある存在は別にいたようだ。昨日までの練習の成果が光る。笑顔に比べて簡単に習得できたことには複雑な思いを抱いたが、今回のように役に立つと考えれば悪い気はしないな。
「そういえば林間合宿で、次やらかしたらトマホークで爆撃って言ったっけ……?」
私は虚無とトマホークを生成しながらそう呟く。峰田の方を振り向いた時には前髪が流れ落ち、私の顔は髪で隠されて見えにくくなっていただろう。そして、私の顔はニイッと口角が上がっている。猛禽類が獲物を見定めた時に見せる狩りの笑みだ。それらが怖さを加速させる。
「なんで夜月がそんな反応するんだよ!」
「確かに……いくら峰田とはいえ過剰じゃない?別に嫌っているわけでもないよね?」
「いくらオイラってなんだ!」
私の反応に怪訝そうにする尾白や峰田。ちなみにインターン組は私の気持ちをわかってくれていた。
「壊理は私の妹。昨日言ってた私のかっこいいところを見せたい人だよ」
私の言葉にきょとんとするインターン組以外のみんな。そして、大きな声を出すことが簡単に予測できたので壊理の耳を優しく包んで聞こえる音を小さくしておく。
「「「妹おおおぉぉっ!!!?」」」
思ったよりうるさかった。飯田でさえも大きな声を出している。青山もキャラ崩壊するくらいには叫んでた。
「おーいダンス隊どうした?ちょっと話が……って、壊理ちゃん!オッスオッス!って、俺のことは知らねえか」
「切島」
「おうシズ!お菓子ありがとな!美味かったぜ!」
「そりゃよかった」
轟と練習をしていた切島が口田を連れて外に出てきた。壊理に気付くとこっちに走り寄って挨拶をしてくれた。壊理は照れ屋さんなので完全に面と面を向かわせることはできなかったが、私で半身を隠しながらも切島に手を振って挨拶する。
私は挨拶できた壊理を褒めるために頭を撫でた。壊理は笑顔にはならなかったが嬉しそうに体を震わせる。ほんっとに可愛い。
「じゃーとりあえず休憩!壊理ちゃんも雄英見に行くんでしょ?シズも行ってきなよ!」
「いいの!?」
私はフクロウもびっくりな速度で振り向き、三奈の言葉に飛びついた。壊理と一緒にデートできるからそれも当然だろう。
「お、おう……いいけど……まさかそんなに飛びつくとは……」
「やったね壊理!ちょっと準備してくるから待ってて!あっそうだ。アップルパイ作ったんだよ、食べる?」
「聞いてないし」
「てかキャラ違うな。いつもは結構冷静なのに」
「でも入学したときから片鱗は見せてたよね。結構ズレてたりしたし」
後ろから何か聞こえてきたけど気にしません。
「あっぷるぱい?」
壊理が可愛く首をかしげながらそう訊ねる。首をかしげる姿はお母様を想起させ、私に懐かしさを与えてくれる。
ていうか、今思えば壊理と私は10歳差なのか。お兄様と私は8歳差だから壊理とお兄様は18歳差……。
うん、考えないことにしよ。今はそんなことよりも壊理とデートすることに注力しよう。
「壊理が好きなリンゴを使ったお菓子だよ。甘くておいしいの!お昼に食べようね!」
「リンゴ……!」
嗚呼またよだれ垂らしてる。本当に可愛い。前に見た時は私は真正面にいなかったから少し見えないところがあったけど今は全部見える。嗚呼本当に可愛い、愛い、顔面国宝、天使様。成長したら女神さまになるかもしれないな。
どんな大人になるんだろう。キレイ系かな?変わらずに可愛い系かな?それとも両方のハイブリッド?これから成長を見れるから楽しみにしながら一緒にいよ。
「通形先輩も来ますよね?ちょっと待っててください!」
「分かったよね!時間はたくさんあるからゆっくりでもいいよ?」
「そりゃ無理ですよ、だって壊理とデートですから!」
私はそう言って寮の自分の部屋へと帰る。リビングからアップルパイを取ってきて袋に入れる。お昼は多分食堂で食べることになるだろう。どうせならちゃんと可愛い袋に詰めよ。
「お待たせ壊理!行こっか!」
準備をした私は溢れんばかりの笑顔を浮かべて壊理にそう言った。私は憧れていた手をつないで歩くということを試してみる。つなぐと壊理は嬉しそうに少しだけ身じろぎした。可愛い。
「あっぷるぱい……」
「まだ駄目だよ、せめてお昼になってから!」
「でも切島さんたちは食べたんでしょ……?」
痛いところを突かれた。切島め、私のお菓子を美味しいと言ってくれたのは嬉しいが今はそれが裏目に出てる。
私は鋼の精神で壊理のおねだりをいなそうとするが、壊理の上目遣いと涙目に負けて袋を開けてしまう。ああ、お師匠に対するソレじゃん私の馬鹿。壊理を甘やかしすぎたらダメな子に育っちゃうかもしれないのに!
流石に食べながらだとこぼしてしまうかもしれないので、寮から校舎に行くまでの道にあるベンチに座って食べさせた。
「おいしい……!」
めっちゃ嬉しい。めっちゃ可愛い。何この子、可愛いだけじゃなくて私のことを喜ばせてくれるんですけど。あ、口にアップルパイついてる。よだれ垂らすのも可愛いけど口にアップルパイつけてるのも可愛い。何この子、無敵か?
私はそんな思考で頭の中がいっぱいいっぱいになっていることを誰にも悟らせない。誤魔化すように壊理の顔についたアップルパイを取る。床に捨てるのももったいないので食べた。
「シズお姉ちゃんありがと!」
ぐう可愛い。まだ笑顔を浮かべることはできていないがもしできるようになったら私はどうなってしまうんだろう?
いかん、怖い想像をしてしまった。もしこれが現実になったら私は正気を保てるだろうか。逆に冷静になることを望みたい。
「ハイハイ、また作ってあげるからね!さ、行こ!」
私は壊理の手を引いて雄英の門をくぐった。
最初に来たのは通形先輩の3年生のフロアだ。
「今日は休日なんだけど、全寮制になったのもあってたくさんの人が準備を進めてるんだよね!」
壊理と手をつないで3年生フロアを見て回る。天井には飾りも付いていて、文化祭が近づいているんだと実感する。わくわくしてくるな。
「あえ?通形じゃん!」
「えっ!?子供に女の子…!?休学って…まさかそういう……!?」
経営科の先輩が通形先輩に話しかけてきた。知り合いだろうか。
それになにやらよからぬ推測をしているな。心外。
「……」
微笑むな、思わせぶりに。
「なんか言えよガチっぽいな!」
「冗談は置いといて、今年のI組はスゲーから絶対来いよ!君も!」
「行く行く!」
「時間があれば……」
どうやら本気にはしていなかったようだ。安心。
今度は外だ。みんなオブジェクトを創って組み立てている。屋台なんかもあるようだ。でもプログラムを見るとリンゴ飴はなさそうかな……。
皆かなりあわただしく準備をしている。先輩曰く、前年よりもいいものをプルスウルトラで作ろうとしているようだ。
――刹那、大きな龍の顔が壊理の前にやってきた。
私はすぐに壊理を後ろに下がらせ、それを破壊しようとした。が、寸前で動きを止めた。
それはハリボテで、文化祭に使われる道具だと推測したからだ。
「すんません!って、A組の夜月じゃねぇか!」
「あれあれあれ?こんなところで油売ってるなんて余裕ですかぁ~?」
「壊理、大丈夫?」
「降ってきた人かと思った」
「降って……ああ、リューキュウか」
「おやおや、無視かい!?A組はライブ的なことをするらしいけどいいのかな?はっきり言って今回君たちより僕たちB組の方がすごいんだが!」
「へえ、なにすんの?」
私の純粋な疑問に対し、「よくぞ聞いてくれた!」と言わんばかりのいい笑顔で出し物を教えてくれた。
「『ロミオとジュリエットとアズカバンの囚人~王の帰還~』!僕らの完全オリジナル脚本!超スペクタクルファンタジー演劇!」
「詰め詰めじゃん」
「準備したほうがいいよ?僕らに食われて涙する、そのためのハンカチをねえぇぇ!アーハハッハ!オッ、アハハッハ……オゴッ!?」
様子がおかしくなった物間を木の棒で叩いて黙らせる泡瀬。しかも脳天一撃で即気絶だった。血でアワセとダイイングメッセージが残っている。
「これもう病気だろ」
私は壊理を後ろに向かせて目を塞ぐ。この惨状を見せないためだった。
「悪いな、拳藤がいなくて歯止めが効かねぇ」
「大変なんだな……その拳藤はどこにいるんだ?物間の御守り役の印象だったんだけど」
「御守りて。…拳藤はミスコンやるからそっちの準備だよ。物間に無理やりエントリーさせられてな。柳もその手伝いでいねぇ」
「へえ、拳藤も出るんだ」
「?
「私も出るよ」
私がそう言うと二人は驚いた。
「なるほどなぁ……こりゃ拳藤には悪いが強敵が出てきたもんだぜ……」
「そう…かな?波動先輩とかは確かにそうかもしれないけど」
泡瀬と鉄哲と会話していると、壊理が首をかしげて私に問いかけた。
「みすこん?」
「女の人が出てその人のかっこいいところや可愛いところ、キレイなところをみんなに見せるんだよ。私も出るから、壊理にも見てほしいな」
「シズお姉ちゃんもでるの?じゃあ見る!」
かっわい。
「そういや、その子は誰なんだ?」
「私の妹。訳あって雄英で保護中。ついでに文化祭にも来ないかって提案したんだよね」
「へ~なるほどなぁ。じゃあ、こっちの劇にも……って思ったけど、A組と時間被ってるんだもんな」
「残念だけどこっち優先だから」
「流石にとれねーよ!」
私が壊理を抱きかかえて泡瀬に宣言すると、泡瀬は笑いながらそう言った。
流石に準備を停止させるのは気が重いため、そろそろ別れる。
「じゃ、ライブもミスコンも頑張れよ!」
「ありがと、そっちもね」
二人(あと引きずられる物間)と別れ、私たちはもう一度歩き始めた。
「ごめんよ壊理ちゃん。初っ端から雄英の負の面を見せてしまって」
「次どこかオススメあります?」
「じゃあさっきも話題に出たあの人のところに行ってみようか!」
通形先輩のその言葉で、私たちは備品室にきた。
「わぁ……!」
「ねぇねぇ!なんで壊理ちゃんがいるの!?ふっしぎー!なんでなんで!?楽しいねぇ!」
去年は準グランプリで惜しくも2位となってしまった波動先輩がミスコンの準備をしていた。先輩の後ろでは二人の先輩が着せる衣装についての議論をしている。可愛い系か、セクシー系か。どちらも似合うと思うが、去年は可愛い系で負けたようだ。
誰に負けてしまったのだろうかと思ったが、どうやらサポート科にすごい人がいるようだ。
カメラをしていた天喰先輩は波動先輩が人前に出る想像をしただけで他人事なのにお腹を痛めていた。壊理が心配そうにオロオロしている。
「最初は有弓に言われて出ただけなんだけど、なんだかんだ楽しいし、悔しいよ。だから、今年は絶対優勝するの!最後だもん」
「私も負けるつもりはありませんよ」
「あ!そうだよねシズちゃんも出るんだもんね!でも負けないよ!」
宣言しあう私たちを壊理は不思議そうに見ていた。
次は、サポート科の工房だ。
ジジジ、ジジッと金属が溶接される音が響き渡る。どの人も自分の作品を調整していた。大きいものを作っている人もいれば、小さいポケットサイズの物を作っている人もいる。中には合作を手掛けている人たちもいたので、個々人が思い思いに作業を進めているのだろう。
「サポート科は全学年一律で、技術展示会を開くんだ!」
「へえ、凄い」
「そう!文化祭こそサポート科の晴れ舞台なのですよ!」
いつの間にか後ろにいた発目がそう語り掛けてくる。
振り向くと、そこには発目が作ったであろう巨大ロボットがあった。
「発目、お前のもすごいな」
「ドッ可愛ベイビー第202子です!」
そう誇る発目はすごいと思ったが、体が汚れているのが気になった。新しく付いたものでもなく、こびりついたものだったからだ。
聞けば、風呂に入る時間も惜しんで発明に取り組んでいるらしい。これはいただけない。
「
「おお!体がきれいに!」
「あくまでも応急処置だから、文化祭が終わったら風呂入りなさい……ておい、ベイビーが」
「ああ!まずいです!」
発目の第202子がガタガタ震えて黒がかった煙を出している。明らかに異常だった。
案の定爆発しかけていたのですぐに退避する。煙を見ている壊理の手を引いて部屋を出た。
そんなこんなで過ごしているとあっという間にお日様はてっぺんまで昇っていた。お腹の虫もなる頃のはずだが、壊理はこの前にアップルパイを食べていたので飲み物だけだった。ちなみに私も通形先輩も何も頼んでいない。通形先輩もアップルパイ食べたし、私は起きたばっかでお腹減ってない。
「壊理、どうだった?」
「……よく…分かんない」
壊理の的を射ない発言に私は苦笑いする。
「でも、たくさんいろんな人が頑張ってるから、どんな風になるのかなって」
私はこの発言を聞いて微笑んだ。壊理にとって何かしらのポジティブな影響があったのならよかったと心の底から思えたのだ。
今の壊理の感情を何て言うんだっけ。ええと、
「人はそれを、わくわくさんと言うのさ!」
「校長、それにミッドナイト先生」
声がした方を見ると、そこには昼食を取っている二人の姿が。校長はチーズを丸かじりしていた。歯で噛む速度が速すぎてすぐにチーズがなくなってしまう。口についたチーズを上品に拭ってからもう一度話しかけてきた。
「有意義だったようだね。文化祭、私もワクワクしているのさ。多くの生徒が最高の文化祭になるために励み、楽しみ、楽しませようとしてる」
「警察からも色々ありましたからねぇ」
「ちょっと香山君」
警察からも色々。そして校長が口止めする。
ああ、やはり本来やる予定のない催しだったんだな。でもやることになっている。校長の働きが多いのだろう。猛禽類を思わせる眼差しとか考えていた自分が恥ずかしくなった。
「じゃ、君たち存分に楽しんでくれたまえ」
校長はそう言って席を立ち、この場を去った。
その後すぐにミッドナイト先生も食べ終わり、席を立つ。その時に私たちに少しだけ教えてくれた。
「詳しくは言わないけど、校長頑張ったみたいよ。その結果、セキュリティのさらなる強化、そして万が一警報が鳴ったらそれが誤報だとしても即座の避難と中止を条件に文化祭が実行されるのよ……もちろん、私たちもそうならないためにしっかり警備するわ!」
ミッドナイト先生はそう言いながら壊理に近づいてきた。
「あなたのお姉ちゃんの晴れ舞台、しっかり見てあげなきゃね」
「あの時お姉ちゃんといた人……」
……どうやらあの時に変装を解除していたらしい。そうでなければ壊理はわからないだろう。バレて騒ぎにならなくてよかった。いや、この人のことだから周囲の目は確認していただろうが……。
壊理と仲良く話しているのでまあいいだろう。私と相澤先生がいないときに遊び相手になってくれるといいな。
その後、先生はA組に激励を飛ばしてから帰っていった。
「シズお姉ちゃんはミスコンと何をするんだっけ?」
「私たちA組はライブだよ。踊ったり歌ったりするの」
「シズお姉ちゃんも歌うの?」
「え?いや、私は演出だからそれはやらないよ」
「そっか……」
やっば壊理がしょんぼりしてる。そういえば壊理が見てくれるのに私が出ないってどうなんだ?私をお師匠に、壊理を私に置き換えると……お師匠の仕事先を見に来たのにお師匠がいなかった。
……うん。そりゃしょんぼりするね。
「い、いや!?そういえば踊るし歌うわ、うん!絶対壊理を楽しませるから楽しみにしてて!わくわくさんになっといて!」
「――うん!楽しみ!」
うわあ笑顔ではないけどすっごい喜んでるかっわい。
そして私見栄張っちゃってやばいこと言ってない?みんなで決めたこと無視してるし、私って歌上手かったっけ?ダンスはまだいいんだけど、歌は覚えてない。施設でやったけど興味なかったしな。あれ音程合わせるだけだったし。
「……うん!そろそろ私も練習しなきゃだから行くね。…先輩、あと任せてもいいですか?」
「もちろんだよね!あと、俺も楽しみにしているんだよね!」
「…ハイ!」
私は寮に戻る前に壊理にさよならしてから戻ることに決め、壊理の小さな手を握る。
「これからも、こんな楽しいこといっぱいしようね」
「……うん」
壊理は俯きながらそういったが、魂を見ればどう思っているのか簡単にわかる。
「私ね、わくわくさんだよ……!」
その言葉を聞き、私はウキウキしながら寮へと戻っていった。
シズの部屋について
つまるところラミリスの
階層を1階層分に絞る代わりに、その階層の大きさを大きくできる。だいたいB組との対抗戦で使った運動場γが三つ収まるくらい。
バケモンか。