魂を満たす物語   作:よヨ余

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文化祭

 壊理と別れてすぐ、私は寮へと最短で帰り、ミッドナイト先生が言っていた避難のことについて皆に伝えた。恐らく相澤先生から伝わるだろうが、念のためだ。

 

 あと、私の本題の繋ぎとして使うためだ。

 

「――というわけで、私に歌わせてください踊らせてください!」

 

 この結論に至るまでの経緯を述べた後、私は頭を下げ、両掌を頭の前で合わせてそう言った。

 みんなは私の考えなしの見栄っ張りに呆れている。少しだけ肩身が狭い。

 

 休憩時間もあとちょっとで終わる程度の時間だったが、皆揃っていたようだ。私のアップルパイを片手に演出隊の話を聞いていたらしい。

 曰く、青山をミラーボールにするんだとか。ここだけ聞いたら何が何だかわからないものだが、青山のネビルレーザーを拡散させ、疑似的なミラーボールにするんだと。

 運ぶ役は緑谷のようだ。

 

「シズならできそうだけど……」

 

「ミスコンもやるのでしょう?オーバーワークになってしまうのでは…?」

 

 響香とヤオモモがそう危惧していた。

 私の要求を呑むとすると、ミスコン、ライブのダンス、歌、そして演出。

 そのすべてに私が出演あるいは関与することになる。とても欲張りで、残り一か月で一定以上の腕にすることは難しいと考えたのだろう。

 

「シズは身体能力高いし、ダンスは大丈夫だと思うよ!ブレイキンも出来てたし、こっちの構成としてはかなり簡単寄りだし、シズなら多分一週間から二週間あればほぼ完ぺきだと思う!」

 

 三奈が手助けをしてきた。

 ちなみに三奈の言葉は正しい。以前に三奈がブレイキングダンスをしていた時に見様見真似でやってみたのだが、これがなかなか楽しく、なかなか上手にできたのだ。三奈のお墨付きももらっている。ダンスについては問題ないと思えた。

 

「よし響香、部屋にあげてくれ。私の歌を聞いて判断してほしい」

 

 私は半強制的に響香の部屋に赴いた。その時に響香の手を引くのも忘れない。

 ちなみに響香も比較的ノリノリだった。

 皆からも否定的意見は見られず、少し後ろ向きに見えたのは私のオーバーワークを気にしてのことだった。私の腕を疑っていないのはなぜなのだろう。別にみんなに腕前を見せたわけじゃないのに。

 

「ちょっと曲聞いてくるから、ちょっとだけ待ってて」

 

「へ?聞いてくる?」

 

「うん、歌詞もメロディもわかんないから今覚える」

 

「よくそれで歌うってなったな…まあいいや、とりあえず部屋行ってるから、後で来てよ」

 

 私は響香の言葉に了承の意を示してから、私のスマホにイヤホンジャックを刺して音楽に集中した。待たせているので一回で耳コピとやらをしよう。

 

「よし」

 

 耳コピを済ませた私は響香の部屋に行き、響香の審査を受けた。

 

 そして5分後。

 

「シズは採用です」

 

「えー!どんな感じだった?」

 

 響香のお墨付きをもらったことで私の歌の腕前が気になる人が続出してしまった。

 響香は聞いた方が早いと思ったのか、私にマイクを渡してくる。皆もその動作を目で追い、私に視線を固定させた。

 まさかの爆豪もこっちを見ていて、私を品定めしようとしている。音で殺る、を目標としている爆豪からしたら私の歌の腕前が害をもたらすものだったら即座に爆破するつもりなのだろう。

 爆破されそうだったら逃げよ。

 

「~~♪」

 

 せっかくなので歌った。歌はやっぱり難しい。音程を合わせるのだけは簡単だが、心に響く歌声はとても難しい。私の感覚では判断がつかない上、大勢に良し悪しを判断してもらう必要があるからだ。

 今回の20人全員がいいものだと判断したら、歌が得意だと言えるようになるだろうか。

 

「……これ、本当に初めて聞いたんだよね?」

 

「え?うん。今までこういうの興味なかったし……下手だった?」

 

 私が皆の反応を見て不安がると、皆の反応は私が想像していたよりもいいものだった。

 

「違うよぉ!上手すぎて信じらんないんだよ!」

 

 皆が口々に私を褒める。爆豪も口には出さないが認めてくれてはいるようだ。不満を口にしないのがその証拠だろう。

 

「ライブにシズが出ないのはもったいないって思ってたんだ!でもこれで出れるね!」

 

「うん…壊理、笑顔になれるかな?」

 

「絶対なるよ!だって上手だし、かっこいいもん!」

 

「へへ……」

 

 私は頭を掻いて笑う。壊理の笑顔を想像すると自然と笑顔になってしまうのだ。

 

「歌とダンスは大丈夫なのだな。なら、次の問題はミスコンか?」

 

 聡い障子が私に問いかけてきた。言外に大丈夫なのかと聞いている。

 

「そっちは大丈夫だよ。演出も部屋で練習できるし、構想も思いついてるし、後は女子陣とか男子陣の一部に見てもらって意見をもらうくらいだから。一か月もあるし、歌とダンスを重点的に練習しようかなって」

 

「そうか、それなら安心だな」

 

 障子が安心するも、今度は瀬呂から疑問の声が上がる。

 

「演出はどうするんだ?シズがダンスと歌をやるってことは演出はできないってことだろ?」

 

 瀬呂の懸念も一理ある。私が表に立ちながら演出を行うのは見栄えが悪い。だからと言って裏に行っても、私が途中でフェードアウトすることになる。緑谷と青山がフェードアウトするのに私も追加されるとちょっと気になってしまうだろう。

 

「それについては私の並列存在を使えばいいよ。これも私の本体だから同じことができるし。一体しか出せないし、流石に本当の本体よりは性能は劣るから使いずらいんだよね。性能は9割くらいになるかな?」

 

「へいれ……なんて?」

 

「並列存在。分身体とは違って私の本体だから、もし私が死んでも並列存在があれば死なないの。思考も経験も共有できるから、ダンスの練習をしながら歌の練習もできるね!」

 

「……なんか、もうツッコまなくていいや」

 

 瀬呂から諦観の念を感じながら、私は実際に並列存在を出してみる。そして作ったほうの存在を消し、その有用性をアピールした。

 ちなみに、先ほど本当の本体に劣ると言ったが、その本体が死んで並列存在が生きているとき、その並列存在が本当の本体となる。もちろん本当の本体になった時には本体の力が継承される。ちょっとややこしいが、まあ感覚的に理解できるだろう。

 

 大勢が理解を放棄したが、私の役割の重複は認めてくれたらしい。

 

 そして私の大変な一か月が幕を開ける。

 

 

 

 

 文化祭準備と言っても学生の本分は勉強。練習の大半は平日の放課後になっていた。

 だからこそ休日の練習はとても貴重だ。平日の訓練や勉学で心身共に疲弊しているので休みたいところだが、体に鞭を打って練習に励むものがほとんどだった。

 しかし誰の口からも不満の声は出ない。その理由は他科のストレス解消のために自分たちができることを精一杯やろうとしているからだろう。

 ちなみに私の場合は壊理だけだ。頑張る理由はそれだけでいい。

 

 私は今、歌の練習のためにバンド組に混ざっていた。並列存在は演出組の方に派遣中だ。ダンスの練習は今日の午後。

 そのあと夜にミスコンの衣装決めや構成のブラッシュアップ。コンセプトは決まっているため、細かい内容を決めなければならないのだ。

 これが一番難しい。他だったらある程度正解があるのだが、こっちにはない。どれが正解でどれが間違っているのか。はたまたその概念すらないのか。

 

 この思考に陥ってから体の調子が悪い。階段で転びかけるし、飲んでたお茶は零しかけるし、計算ミスは多くなるし。

 

 流石に看過できないと判断し、困っていることを伝えると、ヤオモモが私に助言をくれた。

 

「満点を目指すのでなく、ハイスコアを目指すのでしょう?」

 

 いつの日か…そうだ、仮免二次試験の時に伝えたことだ。ヤオモモが変に気負うことなく試験に臨んでほしいがために伝えたことだった。

 

 私はその言葉を聞いて私の思考が凝り固まっていたことに気付いた。どうやら壊理の笑顔を思うばかりに私が苦慮していたと気づく。

 そして、私が笑顔でないのに壊理が笑顔になれるのだろうかという考えに至る。

 否だと判断する。

 

「ありがとヤオモモ、そうだったね」

 

 私はこの言葉を聞いてから調子を取り戻す。

 

 歌やダンスはもちろんのこと。ミスコンの構成もすらすらと考えが纏まる。

 

 壊理は私のことを知りたいと言っていた。日常を過ごす中で少しずつ教えていこうと思っていたが、考えを改める。もちろん日常でも細かいことを教えるつもりだが、ミスコンで多くを伝えたい。

 それをコンセプトにしていたが、構成が纏まらなかった。だが、それは過去の話で、ヤオモモの助言を得た今、私に敵はいない。

 並列存在の経験と記憶を私に統合して、演出組の考えを共有する。

 

 そして練習を続け、準備期間はあっという間に過ぎ去っていく。11月の中旬になったのだ。

 

 文化祭はもう間近に迫っている。

 

 私は、練習やリハの合間で、個人的にやりたいことがあったためそれに時間を使うことにした。

 

 この練習は文化祭の当日の二日前から練習をしたため、不格好になってしまうかと不安だったが、意外と上手にできた。きっと壊理も喜んでくれるだろう。

 

 ただ、出来の良いものになる頃には文化祭当日直前となっていた。

 

 明日は最高のコンディションで迎えなければならない。今日は早めに寝るとしよう。

 

「おやすみなさい」

 

「おやすみなさーい、明日頑張ろうね!」

 

 まだ起きていた響香におやすみの挨拶をしてから部屋のベッドに入る。そして瞳を閉じ、溶けるように眠った。

 

 そして、文化祭当日がやってくる。

 

 

 

 

 文化祭当日。時刻は8:30だ。

 私たちのライブの時間は10:00。まだまだ時間はあるが、緊張している私たちにとってこの時間はあっという間に感じてしまう。心を整えるには少ないのだ。

 

 私たちは今、ライブの最終確認を行っていた。

 その時に、私は異変に気付いた。

 

「緑谷はどこだ?」

 

「青山を巡らせる用のロープ買いに行ってるよ」

 

 当日に買いに行くのかと思ったが、どうやら前日の真夜中に劣化が判明したようだ。買いに行くといっても時間はある上、お店もやっているところもあるらしいので時間には間に合うだろう。

 

 9:30、つまり文化祭が始まって少しした時間になっても戻ってこない。気になるオールマイトグッズでもあったのだろうか?真面目な彼が遅れるとしたらそれくらい……いや、

 

(トラブルか?)

 

「屋上から見てくる」

 

「え、屋上?」

 

 私はクラスTシャツのまま屋上まで飛翔する。目立たないように羽を保護色で誤魔化してから行ったので周りにはバレていない。

 本当なら壊理に会ってからライブの方に臨みたかったんだが、ライブが開催できないほうが問題だ。トラブルの内容によっては文化祭すら怪しくなってしまう。トラブルでなく、オールマイトグッズに気を取られているだけなら無理やりにでも連れ出すだけでいいのでそっちを望みたいのだが。

 

 私は雄英の屋上、四つの柱の内の一つに乗ってあたりを見渡した。

 

 そして、見つける。緑谷の魂と残り二人の魂。緑谷以外は知らない魂だった。

 トラブルが起きたのだとすぐに推測する。イーグレットを生成してスコープを覗く。そして森の中にいる彼らの様子を見た。ついでに、会話の内容を盗聴する。

 

「夢のためなら、ここにかけるみんなの思いも、笑い方を知らない女の子の笑顔も、その笑顔に懸けるお姉ちゃんの思いも踏みにじれるのか!」

 

「それが……夢をかなえるということだ!」

 

 私は緑谷のその言葉に歓喜に震えた。緑谷は、人知れず私たちを守ってくれていたのだ。

 そして、緑谷が相対している敵。彼の思いも、人が測れるような下等なものではなく、その人だけが正しく測れることのできる純粋で魅惑的なものだった。

 

 私が介入するのは無粋だ。

 

 そう思えるほど、二人の間には特別な何かがあった。

 

 そして、私が介入するまでもなく決着はつく。緑谷が敵を組み伏せ、一度は弾かれるも、どうやら何かに触発されたのか、現れたハウンドドック先生に自首を申し込んだ。これなら最悪の事態は起こらないだろう。緑谷も帰ってきている。

 

 私はイーグレットを消し、屋上を下りる。皆のもとへと戻り、緑谷のことを伝えた。

 

 もちろん敵のことを伏せて話したため、皆は緑谷がなんで遅れたのかを知らない。知って不安にさせる必要もないだろう。

 

 緑谷に関する報告でみんなが安堵し、各々最終準備を始める。準備をすぐに終わらせた青山が緑谷を入り口で待つようだ。着替えも持ってくれているので来たその瞬間から準備を進められる。もちろん、体をきれいにするところから始めなければならないが。

 

 そして残り15分。緑谷がようやく来た。バタバタと足音を鳴らしながら焦ってこちらに来ている。

 

「緑谷来たぞ!」

 

「おせーよ!どこいたんだ今までよー!」

 

「ご、ごめん!ちょっといろいろあって……!」

 

「とりあえず最終確認しよ!早く着替えて!」

 

 血と泥を落とした緑谷がすぐに着替えるために控室に行く前に、私は一言だけ言葉を告げようとした。

 

「緑谷」

 

「な、何!?夜月さん!」

 

「守ってくれてありがとう」

 

 私の言葉に、彼は破顔して答えた。

 

 

 

 

 

 そして時刻は10:00前。私たちは本番の会場で始まるまで待機していた。

 

「ふー…緊張する…」

 

「大丈夫だよ響香、上手くいくって」

 

「シズはやっぱこういうの強いね」

 

「そんなことはない。むしろ響香よりも緊張しているさ」

 

 私の言葉を疑った響香が私の胸にイヤホンジャックを当てる。そしてすぐに放した。

 

「うわっ!?音ヤバ!」

 

 思わず後ろに自重を傾けてしまうくらいには驚いたらしい。

 ちなみに私の心拍数は210は超えているだろう。もはや命の危機だ。死因が緊張というのは許容しがたいため死んでも死なないが。

 

「じゃあ、私は最初は演出だから、後から参加するね」

 

 私の影響力から最初から出るのではなく後から出た方がいいという響香と三奈の意見で、私は演出で裏方作業を行うことになっていたのだ。マイクだけもって上の方に行く。

 

「私の出番は最初とサビ前なんだよね?」

 

「ああ、頼むぞ」

 

 轟に話しかけ、私の認識が正しいことを確認する。

 

 そして、開始時刻がやってきた。

 10:00ぴったしに照明が落ちる。そしてブザーが鳴り、暗幕が横に広がってバンド組とダンス組の姿が見える。逆光のためほぼシルエットになっているが。

 

 そして余韻を持たせ、ステージの照明も落ちた。

 その後、私の白閃炎覇の小さな焔が会場にボッと小さく音を鳴らして灯る。

 そして、仕上げに爆豪がド派手に爆破を起こす。その爆風と衝撃によって観客を虜にした。

 

 爆豪の爆破のすぐ、曲が始まる。 

 

「よろしくおねがいしまぁす!」

 

 イントロ部分で響香がそう宣言した。その顔は溢れんばかりの笑顔で、私は響香のその顔を初めて見たほどだ。

 

 ダンス隊も演奏に負けないほど魅力的に踊る。イントロ時点でこうも魅力的なのだ。サビともなるとどうなってしまうのやら。私も楽しみだ。ダンスでも個々人に見せ場はある。

 

 その最たる例が青山だ。彼は途中で緑谷によって飛び上がり、ネビルレーザーを拡散させて観客の目を奪った。

 

 緑谷は途中から青山ミラーボールを運ぶ役になったため、その準備のためにフェードアウトする。青山はまだ健在だ。

 

 ちなみに一部の観客から大きな声を受け取ったのは峰田だ。彼は途中で女子陣に囲まれて疑似的なハーレムになっていたのだ。それだけなら声は少なかっただろうが、彼のドヤ顔によって相乗効果を受けたがごとくブーイングが。でもみんな楽しんでいるのでよかった。

 

 さて、そろそろサビだ。

 

「轟!」

 

「ああ」

 

 私は轟にそう声をかけて、並列存在を瀬呂に預けてからスイッチボックスでステージ中央に転移した。

 

 そして、腰に掛けた弧月を構え、観客席の真上まで跳躍する。

 もちろん観客たちは私を目で追うだろう。そして、自分たちの真上に大きな氷の結晶があることに気付いたはずだ。

 

 そして、私がやろうとしていることも。

 

 サビに入ったと同時に、ヤオモモが腕からクラッカーを出し、口田がライトを持った鳩で演出を加えた。

 それも、それぞれをつぶさないように調和されたものだ。そして、私の演出を際立たせるものだ。

 

 私は小さくつぶやいた。

 

「朧・百華繚乱」

 

 朧心命流の秘奥義が文化祭で火を噴いた。煌めく百の剣閃が轟の氷の結晶を切り刻み、氷の粉末となってあたりに舞う。それはとても幻想的で、皆が感嘆の声を出した。

 

 私はステージの中央に戻り、軍服姿からクラスTシャツの姿に早着替えした。このパフォーマンスもみんなにとっては目新しいものだったようで感嘆の声が上がる。

 

 演出役は終わり、今度の私の役は歌とダンスだ。ダンスは歌いながらやるので、他に比べて難易度は高い。声もブレ、歌の質は下がってしまうのが一般なのだが、私は気合でこの問題を解決した。その時は響香に引かれたものだ。

 

 サビは大いに盛り上がった。観客参加型のダンスを麗日が実現し、無重力体験をさせる。もちろん安全対策は完璧だ。瀬呂のテープによってどこか遠くに行かないようにしている。

 

 そして、響香のアドリブ。練習中は爆豪のアドリブを諫めたあの響香がアドリブをするまで熱中していたのだ。

 ちなみに爆豪はアドリブしていない。

 

 ギリッギリで合わせたが、後で文句を言ってやろう。

 

「お前がするんかい」

 

 ……爆豪が言ったのでやめておこう。

 

 壊理を探そうと、観客席に視線を集中させた。

 壊理の姿はすぐに視認した。通形先輩に抱えられ、壊理でもよく見える高さに位置していた。私の姿もよく見えたようで、壊理と一瞬目が合う。

 

 私は響香と目を合わせ、ラストまで突っ走ろうという意志交換をした。その直後に、壊理に視線を戻す。

 

 

 ――壊理は、笑っていた。

 

 

 両手を大きく広げて、口をいっぱい広げて、その深紅の瞳はきらきらと可愛らしく輝いていて。

 純粋で可愛らしい笑みだ。満面の笑みとはまさしくこれだろう。

 

 私が笑顔になる前に、壊理が笑顔になってしまった。壊理の笑顔につられて私が笑顔になってしまった。

 

 ああ、本当に。本当に。

 

 幸せだ。

 

 そして、長いようで短かったライブは終わる。

 

 壊理の笑顔が見れた。皆と最高の思い出を創れた。

 

 これだけで十分に満足している。

 

 本当に素晴らしい。

 

 私の目的も一段落がついた。

 

 だからこそ、そう。だからこそ。

 

(会いたいな)

 

 ――私の成長を一番に喜んでくれる人に。

 

 私は満面の笑みを浮かべて、そう願った。

 

 

 

 そして、ライブの後はミスコンだ。

 本当は壊理に顔を合わせてからミスコンの準備を済ませたかったが、完璧なものにするために暴れる感情を無理やりに制御した。

 

 私の順番は最後。オオトリと言うやつだ。

 

 今は波動先輩がパフォーマンスを行っている。サポート科の絢爛崎先輩と鎬を削っているはずだ。

 拳藤も高評価だったが、ほか二人にはわずかに及ばなかっただろう。分身体を通してパフォーマンスを見ていたがそんな印象だった。

 それでも十分に魅力的だったが。

 

 私は今、ヤオモモと響香とともに準備を行っている。と言っても準備自体は少なく、間の暇つぶしのために呼んだだけだが。

 

「本当にメイクしないの…?その服もその服だけど」

 

「いらなーい」

 

 私は響香の危惧を流した。メイクをしないことは最初に見てもらったときから伝えていた。その時からずっと本当にメイクをしないのかと言われていたのだ。

 その理由は、メイクが面倒くさいからと言うわけではない(それもある)。大きな理由は、コンセプトに大きく外れてしまうからだ。

 

「コンセプトは聞いたからやらないのもわかるけどさー…もったいない」

 

「別にミスコンでやらないだけで普段やらないわけじゃないけどね。皆がやりたいなら勝手にやってくれていいし」

 

「今三奈と透がいなくてよかったね。人形にされてたよ」

 

「林間合宿前の買い物で洋服の着せ替え人形にされたから慣れた」

 

「そんなこともありましたね…」

 

 そんなくだらなくも楽しい話を続けていると、ついに私の時間がやってくる。

 

「じゃ、行ってくるわ」

 

 そう言って、私は幼少期の姿に変身した。最初に二人に見せた時からこれはやっていたので、驚きは見られない。

 

「頑張って!」

 

「私たちも観客席で見てますわ!」

 

 私は二人に手を振って別れる。そして、ステージ裏へと移動した。横にはすでにパフォーマンスを終えた参加者が並んでいる。

 

 私の縮んだ姿に言及する者もいたが、軽く流した。問題ないと判断したのか、そのあとは何も言っていない。

 

 純粋に興味の眼差しを向ける者。

 純粋に私を見定めようとする者。

 純粋に応援のメッセージをくれる者。

 

 様々だ。

 

 これを機に、夜月静江を知ってもらうしよう。

 

 カーテンが開く。開き切り、私の姿がすべて見えるようになった。私の姿にどよめいているのがよく見える。

 壊理は一番前にいた。ライブの時と同じように通形先輩に抱えられている。

 表情を見ると、随分とわくわくさんになっているようだ。可愛らしい。

 

 ちなみに、私の今の衣装は施設時代に着せられていた白い無地の服だ。ワンピースのようなもので、一着しか着ていない。具体的に言うと、ズボンをはいていないのだ。流石に下着は履いているが。

 見た目は、壊理と同じ身長になったくらいか。目線があって嬉しいな。

 

 みんなの期待の視線を受けながら、私のパフォーマンスが始まる。

 

 

 コンセプトは『夜月静江』。

 

 

 ステージはファッションショーでよくあるような突起したものだ。歩き、戻るだけで十分にパフォーマンスすることができる。ランウェイと言うものだ。

 

 私がやることは至極単純。ただ歩くだけ。

 

 その歩みの中で、夜月静江を伝えるだけ。その演出を私が加えることで情報を与えるのだ。

 

 私が足を踏みしめ、一歩踏み出す。

 同時に、ミスコンの会場の付近が真っ暗に染まった。上下の感覚すら怪しい。見えるのは、人間の姿とステージだけだ。

 ミスコンを見ないがこの辺を歩いている人には害がない様に配慮はしているので安全性は問題ない。

 

 どよめく観客をよそに、私は白閃炎覇をランウェイの左右に灯す。真っ黒と白閃の対比に観客は嘆息した。

 

 踏みしめる。

 

 同時に、左右の白閃炎覇が一つずつ消灯する。そして、私の歩みの軌跡にはおどろおどろしい虚無が広がった。

 

 私の人生だ。私が経験した施設の出来事だ。

 ハイライトの失った私の瞳に、光は宿らない。

 

 踏みしめる。踏みしめる。踏みしめる。踏みしめる。踏みしめる。

 

 最初のを入れて実に7歩。私は同じことを繰り返した。噛み締めるように、そして味わうように。

 

 噛み締めさせるように、そして味わわせるように。

 

 そして7歩目で止まり、見えない壁に手を当てる。

 

 この先の未来を期待するような演技をし、一歩を踏み出した。

 

 一歩を踏み出すと、そこからは真っ白な光景が広がってくる。光り輝く思い出だ。私の淡い思い出。

 

 同時に、私の姿も変容する。身長は小学5年生くらいまでに伸び、服はあの時によく着ていたお師匠に選んでもらった可愛らしい洋服だ。これを着るのは本当に久しぶりで、懐かしい。

 

 私は笑みを浮かべ、懐かしむように歩を進める。

 前を向き、胸を張る。私はこんな人生を歩んできたんだぞとみんなに知ってもらうために。

 

 踏みしめる。踏みしめる。踏みしめる。

 

 実に3歩。歩を進めた。そして、もう一度見えない壁に手を当てる。

 

 もうみんな察しただろう。きっと、同じことを繰り返すのだろうと。

 きっと、この先はA組などの高校生活での明るい記憶なのだろうと。

 

 ――だから、この展開はみんなの度肝を抜く。

 

 踏みしめた先に見える光景は、真っ黒な闇。私が定義する夜だった。

 

 皆が瞠目する。再びハイライトを失った私に痛々しいものを見るような目を向けた。

 

 私の身長は中学2年生くらいにまで成長し、服は中学時代の制服となる。

 

 そしてランウェイの到達点まで歩を進める。その歩みの中では、後悔、苦しみ、悔しさ、そして無力感が前面に押し出されている。止まった後、目の前にいる壊理と視線を合わせた。最初の姿だと立つだけで壊理と視線を合わせることができていたのだが、今の姿ではしゃがまなければ視線を合わせることができない。

 

 しゃがんだ私の瞳を見て、壊理は何を思うのだろうか。

 

 ハイライトを失い、絶望しきった私に、壊理は何を感じるのだろうか。

 

 ここでの壊理の反応次第で、私のパフォーマンスの意味が大きく変わる。壊理には何も仕込みをしていないため、賭けになる。

 

 そう、絶対に勝つ賭けだ。

 

 ――だって壊理は優しいから。

 

「シズお姉ちゃん!」

 

 壊理はそう言いながら私に飛びついた。私の首を抱きしめ、宙ぶらりんになる。私が壊理を抱えていないせいだ。

 

「…あ」

 

 私は掠れるような漏れ出る声を出した。あの頃の私なら、きっとこの感情を理解できていないからだ。

 

 だが、時間は進んだ。

 

 壊理が抱き着いたその直後、私たちを中心として白が侵蝕を始める。それは温度を持ち、温かい。私の今の心の中を如実に表していた。

 そして私の姿も最後の変容を遂げる。現在の時間の姿にまで戻り、ヒーローコスチュームを着ていた。白い周りの色に、私のコスチュームの黒色はとても目立つ。

 

「ありがとう、壊理」

 

 私がこの言葉を零すと、白は加速する。私の心や周囲の色だけでなく、観客の魂にも温かさが残る。私の白の影響だった。

 

 

 もし壊理がいなかったら。私が壊理の存在を知らなかったら。

 

 私はきっと、神野の夜からタルタロスへと直行していただろう。私の魂が創られたことを認識せず、考えなしにタルタロスを襲撃、そしてお師匠と再会し、二人で静かに過ごすことを決めていたはずだ。

 

 壊理がいたから、そんなバッドエンドにならなかった。

 

 だから――

 

 

「私の妹でいてくれて、ありがとう」

 

 私は至極落ち着いた声でそう呟いた。涙は出ないが、その心は泣いているように見えたことだろう。壊理の頭を撫で、笑みを浮かべながらそう思う。

 

 壊理を少しだけ離し、私と顔を合わせる。壊理も笑顔を浮かべることができるようになってからやりたいことがあったのだ。

 

 私は満面の笑みを浮かべる。ライブで浮かべたそれとは比べ物にもならないほどの笑みだ。

 

 私の笑顔をみて壊理も気付いたのだろう。壊理も満面の笑みを浮かべてくれた。

 

 私は間近で笑顔を見れたことを本当にうれしく思う。これが、私のこれからも守るべきものなのだと、瞳の裏に焼き付けた。

 

 十分に堪能した後は、壊理を抱えて立つ。そして観客に手を振り、私のパフォーマンスはほぼ終わる。

 壊理を通形先輩に預け直し、私は振り向く。そして、今までの軌跡を振り返るようにして歩を進めた。二回目の真っ黒だったものは戻らなくも、堂々とした立ち振る舞いは誰の目から見ても明らかだ。

 

 一度目の真っ黒を真っ白へと戻し、私はステージを下りる。

 歓声の雄たけびを背に、私は控室へと戻った。

 

 

 

 

 

 その後にしたことは、大したことはない。

 壊理と一緒に多くの出し物を廻ったが、ここでは話しきれないほど濃密で、幸せな時間だった。

 

 ミスコンでは私が優勝したようだ。波動先輩や絢爛崎先輩は悔しがりつつも、私を称えてくれた。拳藤もだ。

 

 優勝して嬉しかったのは、壊理が喜んでくれたこと。その事実が、他の何よりもうれしい。

 

 ミスコンの発表も終わり、文化祭も終了する。名残惜しいが、一時的に壊理とお別れする必要があるのだ。

 

 俯く壊理。もしかしなくても私と別れることを寂しく思っているのだろう。私なら病院にでもどこにでも行くのだが、壊理が寂しく思うのも無理はないか。私も寂しいし。

 

 だから、せめていい別れ方をしよう。

 

「壊理」

 

 私は壊理の名前を呼んで壊理の関心を集めた。

 

「サプライズ」

 

 私はそう言ってリンゴ飴を差し出す。

 

 私が文化祭が始まる2日前から練習をしていたものだ。砂藤から食紅を借りたが、それ以外は自分で材料をそろえて自分で作ったものだ。文化祭のプログラムにはなかったのでこうせざるをえなかった。

 

 壊理は驚いた後、私からリンゴ飴を受け取る。そしておもむろに口にほおばり、カリッといい音を鳴らした。

 

「フフ…さらに甘い……!」

 

 あ~ほんっとに可愛い。

 

 私が頭を撫でていると、壊理はリンゴ飴を持っていないほうの手で私の手を握った。

 

「シズお姉ちゃん!また楽しいこといっぱいしようね!」

 

 私は壊理の手を一時的に離し、小指を差し出した。そして壊理の小指を絡めた。

 

「わくわくさんだね」

 

「うん!」

 

 壊理はまたもや満面の笑みを浮かべる。どうやらこの一日で笑顔が得意になってしまったようだ。

 

 私はこの日を一生忘れないだろう。

 

 私は壊理が車で帰っていくのを見送りながら、魂が満ちていく感覚を覚えた。

 




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