11月も下旬に差し掛かった。
「雄英で預かることになった」
「やったーー!」
相澤先生とビッグ3の皆が壊理を連れて私たち死穢八斎會突入組に会いに来たのだ。壊理は波動先輩によってツインテールになっている。可愛い。
「いつまでも病院と言うわけにもいかないしな。個性関連も、雄英の方がいいとの判断だ」
「それに私もいますしね!」
私は壊理を抱っこして笑顔で言う。最近は笑顔になりすぎて口角が痛くなってきた。今まで使うことのなかった弊害だろう。
「……まあ、そういうことだ。壊理ちゃんの個性訓練が進めば、通形の個性も戻るかもしれない。まあ、これは理想論だがな」
聞けば、壊理もそのつもりのようだ。私たちのせいで通形先輩の個性が失われてしまったのだから当然と言えば当然。私も全力でサポートしよう。
「壊理ちゃんは教師寮の空き部屋で過ごすことになる。基本は俺や通形、そして夜月で面倒を見ることになるな」
「はーい!壊理、何して遊ぶ?」
「悪いが夜月、今は無理だ」
私は相澤先生の言葉を聞いて絶望した。お師匠がいなくなったことに次ぐくらいには絶望してしまう。
理由を問う前に、先生は至極まっとうな理由を述べた。
「この後、来客がある。A組は寮に戻ってろ」
「ぶー…、じゃあ通形先輩、よろしくお願いしますね」
「もちろんだよね!じゃあ、壊理ちゃん、オセロでもやろっか!」
私は渋々通形先輩に壊理を預けて校内をでた。
「へっくちょい!!」
常闇が珍しくくしゃみをした。いや、本当に珍しい。
「大丈夫?」
「いや息災。我が粘膜が仕事をしたまで」
「噂されてるんじゃねぇの?文化祭のヤッオヨッロズ!みたいな感じで」
「茶化さないでくださいまし!ありがたい言葉です!」
常闇のくしゃみから会話が広がった。
「常闇君はもうおるんやない?あのホークスのところでインターンしてたんやし」
「いや、ないだろうな。あそこは速すぎるから」
ホークスの異名だ。『速すぎる男』。彼の個性や経歴からこの異名がつけられている。18歳で事務所を立ち上げ、その年の下半期にはチャートランキングトップ10に名を連ねている。そして前回ではランキング3位になり、恐らく今回でランキング2位になるだろう。ちなみに今は22歳。
会話をしていると、不意にインターホンが鳴った。
そして、先生の言っていた来客が入ってくる。
「煌めく眼でロックオン!」
「猫の手 手助けやってくる!」
「どこからともなくやってくる……!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」
来客の正体はプッシーキャッツの皆さんのようだ。林間合宿でお世話になった。
お決まりの口上を私服姿で披露する。私服バージョンというやつだろう。ちなみに虎さんはお土産なのかお菓子を両手で持っている。おいしそう。
「お久しぶりです!」
「みんな元気そうね!」
みんなはプッシーキャッツとの再会を喜んでいた。林間合宿での襲撃の一件のあと、話す機会がなかったからな。当然と言える。
みんなから一歩引いたところにいる爆豪と私に、三奈と透にお菓子を渡した虎さんが話しかけてきた。
「あの時は守りきってやれず、すまなんだ」
「ほじくり返すんじゃねぇ…」
「大丈夫ですよ。私もあの件で成長できました」
プッシーキャッツの皆さんはあまり長く滞在するつもりはないようだ。B組にもいくようで、私たちA組だけに時間を割くわけにはいかない。
プッシーキャッツは活動を再開するらしい。オールフォーワンに個性を取られたラグドールは事務作業などでほか三人をサポートする形になるんだと。
その経緯は、ヒーロービルボードチャートJPでの結果が32位から411位まで転落。だが、それをネガティブに捉えることはなく、活動していないのにそれだけ評価を得た、私たちを待っている人がいると奮起し、復帰に至ったようだ。
ちなみに、チャート順位のトップ10は、
10位 リューキュウ
9位 ヨロイムシャ
8位 ウォッシュ
7位 シンリンカムイ
6位 クラスト
5位 ミルコ
4位 エッジショット
3位 ベストジーニスト
2位 ホークス
1位 エンデヴァー
となったようだ。特にエンデヴァーに関しては万年ナンバー2という評価を脱却したと言える。オールマイトが引退したことによる繰り上がりの側面はあるが、それでもホークスに上をいかれていない。民衆は十分彼を評価しているということだろう。
文化祭、プッシーキャッツとの再会も終え、私たちは普段通りに授業を受けることになる……はずだった。
「ヒーローインターンの再開要請?私にだけ?」
私は、校長室に来ていた。突然相澤先生に呼ばれたときは除籍を覚悟したものだ。別に悪いことはしていないのだが、身構えてしまうのは仕方がないだろう。
校長室には、校長と相澤先生、そして私の三人がいる。
「そう、要請したのは公安委員会。そしてそれに乗じてナンバー2であるホークスが君を指名したんだ。指名、という言い方は少し違うかもしれないね。少し大げさに言えば、チームアップの要請さ」
「……ホークスが?」
「そう、ちなみに、エンデヴァーにも要請をしているようでね。そっちのチームアップは済んだようだ。……僕としては、とても怖い。君ほどの能力を持つ者を要請するだけに飽き足らず、ナンバー1までも協力要請している」
「それほどの案件だと?正直、神野以上のものはとても想像できませんが……」
校長は私の言葉に思案し、校長の考えを伝えてくれた。
「僕としては、敵連合のことだと考えている。もしかしたらホークスは情報を掴んでいて、君とナンバー1の力を借りて一網打尽にしたいのではないかと。……まあ、これは僕の希望的観測が大いに含まれているから、あまり当てにはできないけどね」
「ホークスならありえない話じゃないと思いますが……流石にもう少し人員を集めるでしょう。脳無もいるでしょうし」
校長と考えを共有するが、ここで続けても先に進まないことに気付いた。まずはホークスの要請を受けるところから始めるべきだろう。
「壊理と離れてしまうのは残念ですが…私は受けようと思います。ホークスと話して分かることもあるでしょうし、ホークスの羽使いは私にとっても勉強になる。後学のためにも行ってきますよ」
「分かった。そのように返答するのさ」
校長は手続きを進めてくれるようだ。
その後、相澤先生が私に何かあるようで、私の方に体を向けた。
「必ず生きて帰ってこい。死んだら除籍だ」
「いや~。私は死んでもほぼ死ねないので除籍の方が難しいですね。ケガすらしませんよ」
「神野では腹に大穴が開いたけどな」
「脳無化したとは言え流石はお母様!警察でもトップヒーローを上回るくらいの強さを誇っていたという噂は伊達じゃない!」
私は身内にはとことん甘いので手放しでお母様を褒める。ちなみにウソは言っていない。ヒーロー免許を持った警察と有名だったのだ。お兄様を鍛えたのもお母様で、マジで完全無欠という言葉が似合う。
「はぁ…とにかく、無事に帰ってこい」
「もちろんです、先生」
私は大きく頷いて、先生を安心させた。
そして私は、福岡へと旅立つ。
「異能解放バンザイ!」
大きなビル前で一人の男が叫び、コートを広げた。コートの下には何もなく、露出狂だと思えた。個性の影響だろうか。衣類を身にまとっていないときに力が出るとか…。
だとしても、公然の場でこのようなことをするのは見過ごせない。止めようかと思ったが、その前に赤い羽根が彼を制圧する。
「はっや」
私がそういうのも無理はない。目で追うことはできるのだが、その速度に思わず動きを止めてしまうほどだったのだ。羽根一つでこれなのだから翼となると想像するのも難しいかもしれない。
「エンデヴァーさん好きな食べ物あります?そこの水炊きすげー美味いんすよ。鳥の味がしっかり出てて。…重いですかね?腹減ってます?シズとかはどう?なんか食いたいのある?」
「え~…福岡のオススメ知りたいです」
「お、いいねいいね!じゃんじゃん教えるよ。福岡はいいよ~。なにより飯が美味い!あと敬語はいらないよ。昔馴染みでしょ」
「別に会話したわけじゃないけどな…まあ、お言葉に甘えるさ」
私との会話の中でも、彼は二つの人助けをしていた。一つは道路に飛び出した飼い犬を救助、そして階段で重い荷物を運んでいた老婆の荷物を羽根で上まで運ぶ。
どれも片手間で終わらせていた。羽根って結構便利だな。訓練次第でどうにもできる。弱点は炎と一定以上の力には無力なところくらいかな。
「お、話し方お師匠さんとやらに似ているね。俺も会ったことあるんだ~。それはそうと、焼き鳥とかどう?ヨリトミってところがこれまた美味いんだ!」
「鳥好きなんだな」
お師匠に会ったことがあるというのが気になったが、お師匠からホークスの話を聞いたことはない。後釜がいるらしいとだけ聞いていたが、お師匠がホークスと会ったわけじゃないだろう。
つまり、遠目に見ただけか。
「そうなんだよね。鳥系の人ってなんで鳥が好きな傾向にあるんだろうね。知ってる?」
「さあ、ただ常闇…ツクヨミはリンゴが好きなようだぞ」
「へー!いいこと知った。次来たときは用意しとこ」
私たちが会話しているときはエンデヴァーは空気になっている。
ちらりと見ると、その魂は轟の話とは大きく食い違って見えた。轟がウソをついたわけではないだろう。改心でもしたのだろうか。比較対象がないからわからない。
今言えるのは、特段邪悪な気配は見られないことだ。むしろ、過去に向きあおうとしている感覚。
悪いことはないだろう。
私が思考している間に、いつの間にか人の群れに囲まれてしまった。ただ、そのほとんどの関心はホークスに向いている。彼は求めたファンにファンサービスをしていた。どれも手慣れたものだ。こういうことはよくあるのだろう。
町の人たちの反応も、有名人を見るよりかは近所の兄ちゃんを見ているような反応だ。とてもフランクで温かい。地方ではこのようなものが標準なのだろうか。
私とエンデヴァーはそのホークスの姿を遠目に見ていた。ただ待つのも暇なので、エンデヴァーと少し会話をしてみようと試みる。
「手慣れていますね」
「ああ、そうだな」
……会話が止まった。もしやこの人も会話が苦手なのだろうか。入学当初轟によく感じていたものに似ている。遺伝か。
「……焦凍は学校ではどうだ?」
と思ったらまた会話を始める。本当に血筋だな。
「轟ですか?クラスで中心と言うわけではありませんが浮いてませんし馴染んでますよ。文化祭なんかは轟の意見で出し物が決まったようなものだそうですし……って、本人から聞いてないんですか?」
「ラインと言うものでメッセージは送っているのだがな。既読スルーとやらをされている」
「ああ……まあ轟の心情を思えば無理もないかもですね……」
「……知っているのか」
「轟から話を聞いて少しだけ」
「…そうか」
またもや沈黙。少し話を展開させようとしたがその前に私に話しかけてくる人がいた。
女子高生で、私と同じくらいの年齢だろうか。私は女子の中では身長が高いほうなので身長差がある。そのせいかその子たちは少しだけ幼く見えた。
「あ、あの…シズさん!このリストバンドにサインを……!」
「さ、サイン?」
「お、いいじゃん書いてあげなよ!ペン貸そっか?」
耳ざとく私のやり取りを聞いていたホークスがそう言ってペンを取り出す。
「ペンはいいや。…サインってホークスはどうやってる?」
「俺は大体その子の名前と一緒に書いてるよ。その子の特別になるようにね」
「ふーん…そのリストバンド、刻み込んでも大丈夫?そしたら絶対に消えないけど」
「だ、大丈夫です!むしろそっちの方がいいかも……!」
「そっか、じゃあそうするね」
その子の名前を聞き、名前と一緒にサインを刻む。もちろん焼き付けたわけじゃないので生地はダメになっていない。流石にそこの配慮はしている。
ちなみに私のサインはお師匠とともに考えたものだ。サインを書いているときにその思い出が想起される。
「シズ!お前のサインについての相談なんだが!」
「なんでお師匠が一番ノリノリなの?」
「私の弟子の将来のサインだぞ!そんなの一緒に考えたいに決まってるじゃないか!そうだな、お前の場合、夜月からとって月を書くのはどうだ?」
「ああ、それいいね。あとはお師匠を象徴するように銃弾でも書こうかな」
「……お前、本当にそれでいいのか?お前のサインだぞ?」
「私の要素にはお師匠が入ってるからいいの」
懐かしい。思わず笑顔になってしまった。
その顔を見たファンの子はなぜか赤面している。熱でもあるのかと思いおでこに手を当ててみると、ボッと音を立てるように湯気立った後にお礼を言ってから走り去っていった。過度なスキンシップだったろうか。同性だから大丈夫だと思ったんだけど。
ちなみに一人になったエンデヴァーは一人のファンの子にファンサをしようとしていたが、「違う」と言われていた。その子は血涙すら出していた。媚びない姿がかっこよかったらしい。まあ、気持ちはわからんでもない。
そしてファンサのことも学び、場所を移した。先程ホークスが話していたヨリトミというお店だ。正式名称はヨリトミミドリと言うらしい。選り取り見取りからとっているのかな?
「あははは!ファンと握手したら『違う』って言われた?そりゃそうですよ、だってエンデヴァーさんのキャラじゃないですもん」
ヨリトミからは福岡の景色が一望できる。とてもいい立地だ。鶏肉の味もよく、ここが高級店であることが事前知識がなくとも推測できる。雰囲気は特有のものであるが過ごしやすい。
私は二人が話している間に焼き鳥をパクパクと食べていた。タレも塩もおいしい。鳥との間にあるネギもいい具合の休憩スポットのようになっている。何個でも食べることができそうだ。
ちなみに、二人が話しているのは脳無の話だ。
今までの事件で現れた脳無。神野事件以降目撃情報は一つもないようだ。
だが、脳無は連合にとって捨て駒であり切り札。それも下位脳無でさえプロヒーローレベルはあるのだから警戒するのも当然だろう。上位脳無の力は言うまでもない。
「①、あれで脳無はすべてだった。②、まだあるがオールフォさんしか知らない。そのどちらかっていうのが警察の見方です。そこでシズを呼んだんですよ。個人的な話もそうですが、呼んだ理由のほとんどはそれ。オールフォさんが先導した非人道的かつ倫理観の欠片もない施設、USJ襲撃、林間合宿での襲撃、そして神野事件。今最も脳無に関係しているシズが一番の情報源なので話を聞こうかなって。聞かせてくれる?」
ああ、なるほど。多分公安でのことも話したいんだろうな。常闇曰く、私のことを多少心配していたみたいだし。でも本筋は脳無か。
なら、私の持てる全てを享受するとしよう。
口に含んでいた焼き鳥をゴクリと飲み込み、口拭きで拭ってから話す。
「脳無はまだいるでしょうね。個性複数持ちに関して言えば、オールフォーワンの個性で与えたものが大半になるので生産はかなり非効率的になるでしょう。それが下位なのか、上位なのか。下位なら全く問題ありませんが、上位となるとやはりきついかと。少なくともトップ10くらいの実力は欲しいですね」
「オールフォーワンがいなくても個性複数にする方法は確立されてるってことね。それにしても上位でそれかー…」
ホークスが両手を頭の後ろで組んで体重を後ろに預けた。エンデヴァーも顔をしかめている。
「ただ、少しだけ怖いことが」
「何々?」
「なんだ」
「少なくとも神野事件での脳無。私が殺した3体の内2番目に殺したものと3番目に殺したもの。……私のお兄様とお母様の脳無は上位存在とは一線を画しています。最上位とでも呼称しましょうか。あれはダメですね。ヒーローとして優れているとか、そんなものは意味がない。エンデヴァーでも、強化されたお母様には勝てなかったでしょう。お兄様の方なら、苦戦の後に倒せたでしょうが」
「強化されたって……脳無2体を取り込んだ後の?」
ホークスの言葉に私は頷くことで答えた。
顔を険しくする二人。恐らく思っていたよりも深刻であると気づいたのだろう。だが、それはほぼ杞憂なのだ。
「ただ、問題ないです。流石にお母様並の脳無は作れませんよ。あれは素体が強すぎたのもありますし。あれくらいの強さになるなら、寿命を削った生物兵器にするか、私や全盛期のオールマイト、エンデヴァーに、アメリカのスターアンドストライプを脳無にするくらいしなきゃ無理です。寿命を削ったとしても、活動時間は数秒。大したことはできません」
「ただ、君のお母さんの時のように取り込めば……」
「そしたら問答無用で自壊しますよ。あれはお母様だからできた芸当です」
ホークスの危惧もなくなったようで、私の言葉の後に安心したようだ。安堵の息を吐く。
ただ、安堵するのは早い。
「プロヒーローと警察、公安は確か施設の映像はフルで見れるんでしょう?見てたらわかると思いますが、私は上位脳無と戦うことで戦闘訓練を行っていました。すべて黒色、つまり上位で、戦った相手の数は20を優に超えていた。ではここで疑問が一つ。その素体はどこから来たんでしょうね?」
「まさか……」
エンデヴァーが息を呑んで話を聞こうとする。冷や汗をかいていた。ホークスもだ。
「そう。施設時代に心身を壊して脱落してしまった者たちです。あいつらにとって失敗作とはいえ、実力はプロヒーローをも優に凌ぐ。上位脳無の素体として不足ない。その上、精神を壊しているのでなんの抵抗もなく上位脳無に改造できるでしょうね。あの施設の目的は、私たちに対しては立派な人間に育て上げるためなどという体のいい文句を言っていましたが、本当は脳無の素体の育成。壊れなかった成功作、つまり私は多分ヒーロー科のスパイとして育て上げられたんだと思いますよ」
「な、なるほど……」
流石のトップ2も引いているな。でも事実なんだよなぁ……。
「施設の子を素体にした脳無なら、準お兄様くらいの力はあると思っていいでしょう。ピンキリでお兄様くらいの力もいると思いますが、上限はそのくらいでしょうね」
「なるほど…、うん。いい話を聞けた。ありがと」
「お役に立てたならよかった」
私の出番は一度終わった。次はホークスとエンデヴァーの会話だ。
ナンバー1のプロデュースをしたいだとか、頼れるリーダーになってほしいとか。なかなかエンデヴァーの精神を逆なでするので、一度エンデヴァーは帰りかけた。
「スタンスどうなっとるんだ貴様は!」
「オレは楽をしたいんすよ。敵とにダラダラパトロールして、今日は何もなかったと管を撒いて床に就く。これ最高の生活!…ヒーローが暇を持て余す世の中にしたいんです」
彼は純粋な笑顔を浮かべてそう言った。ヘラヘラとした言動が多いホークスだが、その魂を見れば誰よりも思慮深く動いていることがよくわかる。そうでなけりゃこうして招集をかけることもできなかっただろう。
そして魂を見ればわかる。彼は私たちに隠し事をしている。それも自分をその罪悪感で押しつぶすほど強力なものを。
だから私は壊理にしたように魂に直接語り掛けた。思考加速をホークスと私に施して外界からの違和感を失くす。
『ホークス』
『ッ!!』
ホークスは急に頭の中に私の声が響いたことに驚いたようだ。魂が揺れたのでわかる。
『おおすごっ。これが魂に直接ってやつ?』
『そうだ。私たちに隠しごとをしているな?直接言葉にできないんだろうが、これなら言えるだろ』
言外に言えと圧力をかける。
『じゃあ、詳しくは言わないけど一つだけ。…俺がどんな行動をしても、ヒーロー側だと信じてほしい』
そう念じる彼の魂はとても清らかで、ウソをついているようには見えなかった。
それに、以前彼にあったときもそう感じている。きっと大丈夫だろうと安心した。
『分かった。夜月静江、またシズの名に懸けて、信じよう』
私が思考加速を解除した後、ホークスは私に向き直って言葉を放った。先ほど言っていた個人的な話だろう。エンデヴァーがいてもいいのだろうか。魂で言えばいいのに。
「シズ、君はもう大丈夫なのかい?」
何が、という問いは無粋だ。私たちの秘密の共通点がある以上それは一つだけだ。
「まだ全然だ。救われるわけがない。……でも、私は夜月だから。それに、会えないわけじゃないだろうしね!」
「そっか、それはよかった」
エンデヴァーは何が何だかわからないといった風に首をかしげていた。
――窓から異変を感じてすべての動作を警戒に移らせる。
「む…」
「…エンデヴァーさん」
私たちが警戒する中、不運にも会計をしに来たスタッフがこちらの部屋に足を踏み入れた。
「守るね」
「ありがと!」
私は虚無のベールを張ることで女性を守る。ついでに視覚的暴力を防ぐためにエスクードで壁を創ろう。
銃弾のように一直線に突っ込んできたものは、脳無だった。目撃情報が欠片もなかった脳無が今この場に現れたのだ。
強化ガラスを破りこちらに侵入する脳無。しかしエンデヴァーの迅速な対応によって外にはじき出された。
その後、エンデヴァーが相対するために外に出る。炎を足から噴射させることで空中に漂っていた。跳べるわけではなく、落ちないだけらしい。
「どど、ドレがい一番、ツヨい?」
脳無の驚くべき点は二つ。一つは今のようにしゃべったこと。
そして二つ目は、お兄様を超えるだけの力を有していたということ。
「エンデヴァー、これさっき言ったピンキリのピンです。お兄様よりも強そう」
「情報感謝する!二人は避難誘導を開始しろ!」
彼はその言葉を残して脳無に突貫した。
「ホークス、避難誘導だが、人に危害が加われなければ何でもいいな?」
「今は取り合えずOK!付近のヒーローも駆けつけるだろうし、少ししたら引き継いでもらおう!」
その会話をした直後、エンデヴァーが脳無にビルへとたたきつけられた。その後に引きずられ、ビルが切断される。人も多くいるビルだ。その下にも人が多い。あまりにも被害が大きいと言えた。
「ホークス!」
「任せて。悲鳴、呼吸、衣擦れ、人から感じる振動。俺の剛翼はすべてを感知する…!」
ホークスは羽根を一枚一枚操り、ビル上の人たちを一瞬で助け出した。速すぎる男の本領発揮だ。私にこれはできない。少なくとも、速度で負けるな。
「じゃあ、シズ。あのビル消せる?」
「全部消滅させますよ」
「頼んだ!」
問題ないのか、という意で言った言葉だが、多分彼は私の力を間近で見てみたいんだろうな。
まあいいさ。神野を経て、仮免、インターン、文化祭を経ることで成長した私を見せてやる。
「――
「ちょっ、えっ!?」
私はリクエストに応えて全力で答えたつもりだったのだが、彼は違う意図だったようだ。カタストロフを出すと思っていたらしい。
「大丈夫だって、威力は十億分の一くらいに抑えてるから」
「これで十億……?」
まあ、無理もないか。十億ともなるとビルは残ってしまうかと思われたが、跡形もなく消滅してしまったのだ。
「ちなみに、全力出すとどうなるの……?」
「全力でやると完全に威力が解放されて、少なくとも太陽系が消滅するね。神野では一億分の一だったけど、南米の気候をぶっ壊しちゃったっぽいし。二次災害がひどいね」
「ええ~……」
ホークスが本当に引いている。やめてほしい。
「君が敵じゃなくて本当によかったよ」
「ま、早くエンデヴァーのところ行って加勢しよ。苦戦気味だし、避難誘導は他でもできるでしょ」
「そうね。行こうか」
なんだか投げやりになっている気がするが、仕事はまじめにやるだろう。彼はそういう性格だ。
そうしてエンデヴァーの援護に向かおうとしたが、脳無が体内から卵を産みだした。それは空中で形を変える。
「脳無を格納していた…!?」
「マジか、こりゃ厄介かな?」
「いや、エンデヴァーとホークスは最上位に集中してほしい。幸い上位が一体と下位が複数。地上に落ちる前に落とせるから私がやる」
「分かった。任せる!」
私はホークスと別れ、弧月を生成した。
「旋空弧月」
久方ぶりに使用した旋空だったが、なんの不都合もなく扱うことができた。下位の卵を切り落とし、完全に生まれる前に殺す。
下位はすべて落とせたが、上位には弾かれた。上位の中でもピンの方らしい。キリがよかったが仕方がない。
落ちて行った上位脳無を追い、私も地上に降り立った。そして上位脳無と相対する。
「き、君はシズ!?ホークスたちは……」
「上で一番強いやつと戦ってます。私はこの脳無を相手取るので避難誘導をお願いできますか?私はそちらの経験に乏しいです。その反面、戦闘においては私の右に出る者はいないので問題ありません」
「分かった!気ぃつけいよ!」
この場からヒーローたちが離れたことを確認し、私は改めて脳無と相対した。脳無もこちらに顔を向ける。
「――ッ!?」
私はその脳無の顔を見て表情を驚愕の色に染めた。
なぜなら――
――その脳無は、私の顔と同じだったのだから。
誤字報告や矛盾などありましたら報告よろしくです!